マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム   作:下城米雪

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第38話 雑談ミーコ

 午前3時。

 今宵もミーコ学園のPTA会議が始まる。

 

『ぽよ~』

 

:ぽよ~

:ぽよ~

:テト~

 

『……はっ!?』

 

:どうした!?

:なんだ?

:かわいい

 

『語尾! テト! ミーコ最初からぽよだ! 勝負はそこから始まっていた!?』

 

:草

:言われてみればそう

:ところで珍しく朝の配信無かったけど、真希と練習してた感じ?

 

『朝の配信……うん、半分正解!

 えっとね、今日はお兄ちゃんがお仕事休みだから、調査してた』

 

:かわいい

:なんの調査?

 

『はっ、内緒。内緒です。

 こほん。今の発言は無かったことにするように』

 

:りょ

:なんか察したかもしれん

:分かった

:かわいい

 

 連日の深夜配信。

 とても遅い時間帯にも関わらず、今日も程々にコメントがある。その勢いは視聴者数の割にはとても速い。単純に、ミーコと会話するために来ている人が多いからだ。

 

 コメントのベクトルは真希の配信と全く違う。

 真希の配信では「きっつ」というコメントが散見されるけれど、ミーコの配信では「かわいい」というコメントが多い。

 

 視聴者の正直な感想と言えばそれまでだが、他にも理由がある。例えばコメント欄に「かわいい」と流し続ける「四天王」の存在。コメントは他の視聴者にも見えるわけで、言うなればファーストペンギン。ミーコに「かわいい」と伝えやすい環境が作られていた。

 

:真希との練習どうだった?

 

『楽しかった!』

 

 ミーコは嬉しそうな声で言う。

 

『真希さん、配信してない時はカッコいいんだよ』

 

:配信してない時は

:営業妨害定期

:全然想像できない

 

『覚えること多くて難しいけど、がんばって大会に間に合わせる!』

 

:がんばれ!

:たのしみ

:今回はガチ勢の参加が多いから気を付けてね

 

『ミーコ、ぽよの救世主になる』

 

:突然の宣言

:かわいい

 

 かくして今宵も雑談の流れになる。

 と、思われた直後。

 

『ミーコやりたいことがある!』

 

:いいよ

 

『やったー!』

 

:草

:かわいい

:なにこれw

:やさい生活

 

『実は……』

 

 ごくり。

 

『ミーコ、雑談配信やりたい!』

 

:……?

:???

:( ゚Д゚)?

:?

 

『……?』

 

 登場人物全員「?」に包まれた。

 しばらくして、一人の視聴者が控え目に問う。

 

:今やってるこれは何?

 

『PTA会議だよ?』

 

:……?

:?

:( ゚Д゚)?

:??

 

『……?』

 

 雑談の定義とは。

 ほぼ全員が哲学の沼に足を突っ込みかけた瞬間、ミーコは言った。

 

『これは、だって、違うじゃん!』

 

 突然のミーコ検定、始まる。

 

『PTA会議は、なんか、こう、報告です!』

 

 ミーコは貧弱な語彙力を駆使して説明する。

 

『雑談の方は、聞いて聞いて~! みたいな!』

 

:なる、ほど?

:完全に理解しましたわ

 

 ミーコ検定1級(自称)、現る。

 

:PTA会議は一日の出来事を「報告する場」という位置づけ

:しかし雑談は、嬉しかった時間を共有する、という位置づけ

:一見すると真希さんとのやりとりが「共有」に見えますが、

:ミーコは真剣に取り組んでいたわけであり、遊びが入る余地は無い

:要するに、みんなと一緒に遊びたい

:そういうことですわね

 

『……』

 

:どうだ?

:それっぽいが……

:審議中か?

 

『……こわ』

 

:草

:どうしてぇ!? またですのぉ!?

:確かに突然の連投は怖かったわ

:思わず空気読んで沈黙しちゃった

 

 でも正解。

 というわけで、ミーコは理由を語る。

 

『雑談配信、すごく良いよね。自分が体験した嬉しい出来事を皆に共有して、もっと楽しくなるんだよ。こんなに素敵なこと他に無いよ。だからミーコも生徒諸君と雑談したい』

 

 生徒達は、なんだか「ほんわか」した気持ちになった。

 

『でもひとつ問題があります』

 

:どうした?

:なんだろう

 

『ミーコはお外に出ない。共有できる楽しかった出来事が無い。配信終わり。ぐふ』

 

:Oh。。。

:あっ

:やめろミーコ。その術は俺に効く

 

『そこでミーコは考えました!』

 

 ぴこん!

 ミーコの頭上に電球が現れる。

 

『生徒諸君の話を! お外で経験した面白い話、教えてください!』

 

:やめろミーコ。やめてくれ

:やめろめろめろやめろめろ

:やめや、やめめやめ

 

 視聴者層がよく分かるコメントであった。

 

『ミーコなんか変なこと言った……?』

 

 純粋な疑問が一部の視聴者に刺さる。

 しかし、やがて僅かな生き残りが前に現れた。

 

:はい!

 

『聞かせて聞かせて!』

 

:なんか面白い話あるかなぁ、と思って嫁に話しました。

:俺に嫁は居ませんでした。

:途端に泣き崩れる俺。

 

 お前マジふざけんなよ、という空気が流れた。

 せっかくミーコが何か「やりたい!」と言ったのに、初手で企画が倒れそうなクソつまらないネタを披露した挙句滑りやがって……と、思っていた。

 

 この空気どうすんだよ。

 何かコメントしよう。でも、何をコメントすれば。

 

 結果、奇妙な沈黙。

 誰か助けてくれ。生徒達の気持ちはひとつだった。

 

 ミーコは、

 

『……んふっ』

 

 と、耐えきれなかった様子で笑った。

 

『……ふっ、ひひっ、んはっ、ひゃー』

 

 陰キャ特有の引き笑い。

 それからお腹を抱えた様子で言った。

 

『寂しい奴だ~! 妄想じゃんか~!』

 

 何か小粋なジョークを言ってフォローしたわけではない。

 とても当たり前のこと。小学生のような感性で、ただただ事実を口にしただけ。

 

 だけど、あまりにも楽しそうだった。

 その反応によって「面白い話」の基準が大幅に下がる。

 

『他には他には!? 何かある人、挙手!』

 

 ミーコは耳をぴょこぴょこさせた。

 その後、数秒の沈黙を経て、「ノ」という挙手を示すコメントが現れた。

 

 クソどうでもいいネットのネタ。

 少し前の仕事で経験したこと。

 マジでどうでもいいポエム。

 学生時代の忘れられない話。

 

 色々な立場の人が、色々なレベルの雑談を伝えた。

 現実世界であれば、空気が凍り付いてトラウマになるレベルの退屈な話もあった。稀にテレビでも通用する高度な話も現れた。

 

 ミーコは話のレベルによって態度を変えなかった。

 ミーコにとっては、本当に、心から、全部、おもしろかった。

 

 たくさんの友達ができたみたいで、嬉しかった。

 

 その気持ちは声に乗る。

 分かるのだ。配信者が心から発言しているか。そういう態度を演じているだけか。多くの配信を見ている視聴者達には、そういう心の機微を聞き取る能力がある。

 

 だから、楽しくなる。

 ミーコの気持ちが伝わって、広がる。

 どんな話も最高の爆笑トークに早変わりする。

 

 しかし、今宵の配信も一時間で終了した。

 ミーコが決めたルールである。自身と生徒の健康を守るため、PTA会議は特殊な事情が無い限り一時間で終わる。たまーに忘れるけれど、今日はしっかりと守った。

 

 生徒達は思った。

 まだまだ話し足りない。

 

 次の機会が楽しみだ。

 明日もまたミーコに会いに行こう。

 

 

 

 ――大会まで、残り13日。

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