マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
『こんばんは。本大会も司会を務めますファシリ・テイトです』
午後九時頃。
Vtuberぽよテト最強決定戦の予告を行う配信が始まった。
このイベントが初めて開催されたのは、今から三年くらい前。
主催者は「ぽよテト」を愛する個人勢のPoYoテイト。ポテトみたいな外見をしたモンスターである。彼は初開催の時から手当たり次第に営業活動を行った。そして、登録者数百万人クラスの超有名Vtuberを誘致することに成功したのである。
その結果、イベントは大盛り上がり。
翌年も開催され、今では半年に一度の名物イベントとなっている。
『主催者のポテト氏が今大会に向けたPVを作成しました。早速ですが、紹介させて頂きます。どうぞ、ヘッドホンを付けてご覧ください』
PoYoテイトは「ポテト」と呼ばれている。
せっかく凝った名前を付けたのに、呼びやすい方に収束してしまったのだ。
さておき。現在の視聴者数は2万人弱。コメントの勢いは凄まじいものがあり、優れた動体視力が無ければ目で追うことすらも難しい。視聴者の会話が成立するミーコの配信とは全くの別物だった。
――画面が暗転する。
動画の始まりは、とても静かだった。
――トゥーン。
光の粒が落ちたかのような反響音。
――あなたにとって、ぽよテトとは。
画面中央に白い文字が現れた。
パッ(フラッシュ)
目と口のあるポテトが現れた。
『サラダ』
コメント欄が混沌に包まれた。
再び暗転。
シュッ、という風を切るような音。
――伝説。
真希が圧倒的な実力で勝利した際のダイジェストが15秒程度で紹介された。
――追放。
真希が出禁になった際のダイジェストが15秒程度で紹介された。
――熱戦。
過去大会の名勝負ダイジェスト。
当時を知る人ならば、間違いなく胸が熱くなるようなシーンの欲張りセット。
――疑念。
『永遠の二位争い楽しいですかぁ?』
Σタノシイデスゥ!
真希が過去に放った発言。
再び過去大会のダイジェストが始まり、それを背景として次々と文字が現れる。
――所詮、絵畜生の大会。
――屈辱を胸に、灼熱の接戦。
――プロ絶賛。
――同接10万人突破。
――ここが天井か?
――否
参加者の紹介が始まった。
一枚絵と一言の紹介文。一人あたり五秒程度の尺で次々と紹介される。
ミーコも一瞬だった。
紹介文は、最近話題のブラコン理事長猫。それだけ。
――超える。
また、途中途中に黒い背景と文字が差し込まれた。
それは参加者の紹介のようであり、実は、とある一人だけを示している。
――最強、来れり。
パッ(フラッシュ)
画面が切り替わり、何か、イラストの一部が表示された。
徐々にカメラが上昇する。
やがて映し出されたのは、一人の男性Vtuberだった。
二ノ宮ホタル。
チャンネル登録者数、200万人以上。
ゲームに特化した配信者であり、その実力はプロをも凌ぐ。
実際、いくつかの賞金が出る大会で優勝したことがある程だ。
ジャンルは問わない。
Vtuber同士の対戦においては負けを知らない。
性格は極めて強気で挑戦的。
しかも男性声優のような甘い声を持ち、多くの女性ファンを集めている。
――参戦。
瞬間、本人がSNSに参戦を表明する投稿をした。
その投稿は瞬く間に拡散され、予告配信の視聴者数が激増する。
動画が終わった。
画面には、司会のファシリ・テイト、主催者のポテト、そして――
『やぁ、待たせたね』
白銀の髪、透き通るような蒼い瞳。
強気な表情を浮かべた「主役」の姿があった。
コメントが爆発する。
もはや文字として認識することすらも困難な勢いであった。
『驚きました。まさかホタルさんが参戦するとは』
早速、司会のテイトが言った。
動画は気合の入った3D配信。
ホタルは頬に手を当て、目だけを動かして隣に立つテイトを見た。
『ひとつ良いかな?』
『もちろんです』
息を吸う音。
『僕が優勝した後の話なんだけど』
『おぉぉ?!』
ポテトが言う。
『なに?』
ホタルが鋭く目を細めて言った。
『ひゅっ。いやぁ、始まる前から強気だなぁ、と』
『当たり前じゃん。僕、最強だから』
見事なカメラ目線。
『続き、良いかな?』
『どうぞどうぞ』
ポテトは腰を低くして言った。
『元最強、呼んでよ』
『真希さんのことですか?』
『そう。そいつ。雑魚相手に無双しても退屈だからさ』
『おぉぉぉ……言いますねぇ』
ここでファシリ・テイトが口を挟む。
『ホタルさん! 朗報がありますよ!』
『なに?』
『今回は……なんとっ、優勝者と真希さんのエキシビジョンマッチが行われます!』
『へぇ、良いこと聞いた』
ホタルは再びカメラ目線になる。
カメラさんも空気を読み、彼をアップで映した。
『教えてやるよ。真の最強が、誰なのか』
司会者のテイトと主催者のポテトは「おぉぉ」という感嘆の声を発した。
その後、テイトが言う。
『しかし、まずは優勝する必要があります』
『あのさ、誰に言ってんの、それ』
『いやいや。この大会、プロも絶賛するくらいハイレベルですから』
カメラがテイトに向けられた。
実はこれ、台本通り。テイトは次々と有力な参加者の情報を伝えた。
その中に、ミーコの名前もあがる。
『こちらは最近ちょこちょこバズってるミーコ学園の理事長、ミーコさんですね』
『バズってる? どれくらい?』
『えぇっと……魂も知らない肉体が話題になった時は、一万リポストくらいですね』
『へぇ。やるじゃん。僕が挨拶した時と同じくらいだ』
『あはは、ホタルさんはレベルが違いますね』
画面にミーコの資料が映る。
『あまり情報が無いのですが、この方、なんと真希さんの弟子みたいです』
『へぇ、良いね。面白い』
『おっ! 流石のホタルさんも気になりますか?』
『弟子の仇を取る師匠とか、配信的に面白い』
『うぉっ、おぉぉ~、相変わらずの自信ですねぇ』
『何度も言ってるじゃん。僕、最強だから』
ミーコの話題は終わり。
その後は「主役」の話で持ち切りだった。
他の参加者のファンとしては面白くない。
しかし、配信としてはこれ以上は無い成功だった。
最大瞬間同時接続数、8万人。
予告配信としては、歴代1位の記録となった。