マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
『諸君!』
:(`・ω・´)ゞ
:٩( ''ω'' )و
:( ゚Д゚)!?
:(;゚Д゚)?
『……んふっ』
ミーコタイム。真面目なことを言う予定だったミーコは、統率の取れた生徒達のコメントを見て思わず笑った。そして数秒後、ハッとした様子で憤慨する。
『んも~!』
その様子を見て、視聴者達は驚愕した。
言葉ではない。映像を見て、驚愕している。
:手!?
:手!
:なにその手!?
:手ぇぇぇ!?
ミーコのアバターは、まあまあ動く。
例えばフードを着脱する時など、ぬるぬる動く。
でも基本的にはアニメーションを再生しているだけであり、ミーコの動きがリアルタイムに反映されるのは、首から上だけだった。
しかし、たった今ぷんすかしたミーコは、小さな手をぶんぶん振り回していた。
:お兄ちゃんか
:またお兄ちゃんかよ
:流石ですお兄さま
:相変わらず良い仕事しやがる
生徒達は全て察した。
それを見てミーコは唇を結ぶ。
ミーコは新機能発表に向けたプランを用意していた。
十五分くらい引っ張った後、じゃじゃーん、と発表する予定だった。
『……』
コメント欄をじっと見る。
:( ゚Д゚)
:( ゚Д゚)
:( ゚Д゚)
:( ゚Д゚)
配信者がコメント欄を見る時、視聴者達もまた配信者を見ている。
『むにゅぅぅぅぅ』
:負けボイスたすかる
:またミーコに勝ってしまった
『本番に合わせて用意しました! 兄が!』
やけくそボイス。
:めっちゃ動く
:おててちっさ
:かわいい
:あぁ~^^
『りっすん!』
:はい
:おk
『…………』
:?
:どうした?
『…………』
:手がwww
:ミュート芸かわいい
『……明日だよぉぉぉぉ』
:あぁね
:もう明日なのか
:ためたねぇw
:今レートいくつなん?
『3000達成してから真希さんと秘密特訓してる~!』
:3000達成したの!?
:つよ
:おめでと~!
:真希に勝てた?
『2回勝った!』
:!?
:ま?????
:えっ!?
『……98回負けた』
:草
:ミーコと100本勝負したいだけの人生だった
:いやいやそれでもすごいって
:真希、過去の大会だと無敗じゃなかった?
:ミーコ優勝だろこれ
:ミーコしか勝たん
:師弟対決たのしみ
『…………』
ミーコは口を閉じ、無言で両手をぶんぶん動かした。
何を表現しているのか不明だが、そわそわしていることだけは伝わる。
:今日ミュート芸多いなw
:いつも手を動かしてた説
:お兄さまほんと良い仕事するわ
『……明日だよぉぉぉぉ』
:またw
:遠足前かな
『明日ぁぁぁ!』
:どんだけ緊張してるのw
:草
:かわいい
『……明日ぁ』
:哀愁漂ってる
:ミーコ大丈夫だよ!
:応援なら任せろ
:ぜったい見る
:勝敗とか気にすんな。俺たち生徒は楽しそうなミーコが見られたら満足
ミーコ、コメントを凝視する。
真希の指導によって鍛え上げられた動体視力は、程々に速いコメントを全て完璧に読み取った。
『……優しぃ』
ミーコは感動した様子で言った。
『……みんなが優しいよぉ』
この配信は、もはやミーコのファンミーティングだった。
一生懸命に活動する姿を見て、ミーコを好きになった人だけが集まっている。
現在の視聴者数、308人。
1クラス40人弱として、8クラス分。
ざっくり学年ひとつ分くらいの人数が集まっている。
『……どうしよう』
彼女は熱くなった目元に手を当てた。
配信画面におけるミーコは、頬に手を当てている。
『……ミーコ、なんて言ったら良い?』
彼女の青春は、理不尽な悪意によって失われた。
もしも彼女の定めたゴールが「青春のやり直し」であるならば、これ以上の結果は無い。これ以上、何も望むことが無い。それくらい温かい空間だった。
こんな善意、彼女は知らない。
だけど、なんとなく、分かることがある。
みんなが期待している。
ミーコを応援してくれている。
どうして?
彼女には、それが分からない。
感謝の気持ちはある。
応えたい。返したい。
ただ、やり方が分からない。
だから彼女は何も言えなくなった。
:わたくしの自分語りを聴いてください。
やがて、ひとつのコメントが投稿された。
それは数多くあるコメントのひとつだった。他の生徒達もまた、急に沈黙したミーコを心配するような言葉を次々と投稿しているからだ。
:わたくしは、とある芸能活動をしておりました。
だけど、そのコメントはミーコの目に留まった。
:昔からの夢だったのです。
:本当に嬉しくて……でも、何も知らなかった。
:噓ばかりの記事を書かれ、私の芸能生活は終わりました。
:毎日、誹謗中傷の言葉が届きます。
:住む場所を三度も変えました。
:その後、ずっと、ネットの世界で生きています。
ぽつり、ぽつり、投稿されるコメント。
顔も知らない相手による突然の自分語りなど、普通は全く興味が無い。
だけど、少しずつコメントの勢いが弱まった。
ミーコと雑談をする時みたいに、訓練された生徒達が、何かを察し始めた。
:ある日、ミーコと出会いました。
:夢に向かってひたむきに走る姿に惹かれました。
:その姿を見ていたら、わたくしも、もう一度、前を向ける気がしました
:目標の百万人は、まだ先でしょう
:みせてください
:あなたは、前だけを見てください
『……それが、わたくしの望みです』
彼女は、無意識にそのコメントを読み上げていた。
:俺もミーコに元気を貰ってる
:RTAチャレンジ、諦めない姿に感動した!
一人、便乗した。
:そういえば目標は百万人だったな
:お兄ちゃんを安心させたいんだっけ?
:こんな大会は通過点や。気楽に行け
一人、二人、また一人。
:次のミーコをみせてくれ
彼女は咄嗟に鼻と口をふさいだ。
息を止め、未知の感情を必死に堪えた。
その間にもコメントは止まらない。
ほんの数ヵ月、されど数ヵ月。十年以上の間、同じ場所に固定されていた心と体を引きずって、ひたむきに走り続けた結果が、そこにあった。
鋭く息を吸う音がした。
彼女は顔を上げ、生徒達に告げる。
『本番! 明日!』
彼女は感情を呑み込むことに成功した。
だから、お腹に力を込めて、前を向いた。
:日付変わる? 変わらない?
お約束となったネタ。
迅速に、あるいは脊髄反射で投稿されたコメント。
『変わらない!』
:おっ、今回は宣言した
:寝る準備しちゃったわ
『寝ろ!』
:結局www
:寝ます
:はい
:流石に寝坊できんからな
『……すぅぅぅ』
ミーコ、再び息を吸い込む。
『見てて!』
そして、たった一言に、全部の想いを込めた。
――予選、開幕。