マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム 作:下城米雪
真夜中のミーコタイム。
今宵も心の安寧を求めた生徒達が、PTA会議に集まっていた。
:ここも人数が増えてきたな
:そろそろミーコとの会話も難しくなりそうで寂しい
:はよ収益化してくれ。スパチャしたい
:運営くん美少女コンテンツに当たり強いから……
:ミーコは美少女コンテンツだった……?
:かわいいけど、そういう表現されると何か違うかもなw
配信開始前の待機所。
すっかり常連になった生徒達による雑談が繰り広げられていた。
『にゃほぉ』
コメントの勢いは、ミーコの登場によって加速した。
それは昨日よりもさらに速いが、ミーコの動体視力もまた成長している。
しかし、ミーコはあえてひとつも返事をしないで言うことにした。
『最後のスキルを覚えました!』
それは……!
『力こそパワー!』
ミーコは真希の長文解説のうち、理解できた部分だけを口にした。
もちろん何も分かっていないわけではない。ほとんどの内容をフィーリングで理解しているため、言語化して説明できる部分が極端に少ないのである。
『今のミーコには弱点があるみたいです』
困惑した様子のコメントを見て、ミーコはもう少し頑張ることにした。
『それをさらなるパワーでパワー!!』
:この語彙力よ
:癖になる
:かわいい
:なるほど、完全に理解した
よっしゃ、伝わった。
ミーコは心の中で歓喜した。
しかし、確かに生徒は「完全に理解した」とコメントしたが、その主語までは名言されていない。つまり「理解できないことを理解した」という可能性もある。
『それから、AIと戦った!』
:賢そう
:もはや人間では相手にならないか……
『真希さんより強かった……』
:流石にねw
:あれは人間が勝てるように設計されてないから
『勝てたよ?』
:え
:え?
:( ゚Д゚)?
『……ミーコ、人間じゃなかった?』
:猫だから(震え声)
『真希さんもっと勝ってた』
:あいつは人間じゃない定期
:妖怪よだれ垂らし
『色んな対策覚えたよ!』
――ミーコは、ぽよテトのプロになりたいわけではない。
真希としても、決勝トーナメントに出場できた時点で目的を達したと言える。だがその練習内容を見ると、本気で優勝を狙っているように思える。
理由はシンプルだ。
やるからには勝つ。それだけ。
ただそれだけの理由で本気になれる。
そして、その姿が人々の「応援したい」という気持ちを刺激する。
:がんばれ~!
『がんばる~!』
:今日もミーコが元気で嬉しい
『あっ、そうだ!』
:お?
:なんだ?
:迷言の予感
『りっすん!』
:りす?
:り……?
『聴け!』
:はい
:ごめんてw
『ミーコ、真希さんと今日のアーカイブ見てた!』
:研究かな?
:え、オフコラボしたの?
『リモート!』
:良かった
:危なかった
(……危なかった?)
ミーコは不思議なコメントに首を傾けた。
しかし、今は気にせず話を優先させる。
『コメントが残像だった!』
:残像www
:ミーコしか見てなかった
『こう! こうだよ! こう!』
彼女は指をぶんぶんさせた。
しかし、配信画面に映るミーコは残像を作れない。
『兄ィ! FPS足りないィ!』
:お兄ちゃん怒られてて草
:珍しいwww
:これは切り抜かれる
:かわいい
:お兄ちゃんwwww
ミーコは理不尽にぷんすかした後、ふと気が付いた様子で言う。
『予選、何人くらい観てたの?』
:ミーコの時は8万人くらいだよ
:8万~9万だったはず
『はっ……はぁっちゃまぁちゃまぁ!?』
:それはまずいですよ!
:草
:八万ね。八万
『…………はっちゃまぁ』
:【全体通知】今日から八万の読み方は「はっちゃまぁ」です
:はい
:分かりました
『ど、どうしよ。てて手が震えてきたかも』
:((((;゚Д゚))))
:FPS足りてないよ!
:ワイも震えてきた
『明日……はっちゃまぁが……ミーコを見る……ってコト?」
:もっと多いと思う
:10万超えるはず
『じゅみゃぁ!?』
:かわいい
:テンションwww
:理想のリアクション
『……はっ、はっ、はっ、はっ』
:犬ミーコ
:わんこ
:かわいい
:落ち着けw
『……うぅぅ』
:ミーコ?
『わにゃぁぁぁぁあああああ!』
:情緒w
:大丈夫?
:かわいい
:あらぶってるwww
『……はっちゃまぁ』
:めっちゃ噛み締めてる
:ミーコ、わたくしには分かります。そうですよね。嬉しいですよね
:かわいい
:158人の頃が懐かしいよ
『……』
ミーコ、しばらくコメントを眺めた。
全部、温かい。ミーコのことが大好きな生徒達の言葉である。
『……今日は、ミーコの話するね』
:お?
:雑談か
:わくわく
:気になる
『今のミーコは理事長。
だけど、学校に居た頃は、いろいろ上手にできなくて……
逃げちゃった。そのまま、ずっと逃げてた。
ずっと、ずっと、ずっと……ミーコの居場所は、どこにもなかった。
……難しいよねぇ。
このままじゃダメ。良くない。
分かってるよ。分かってる。
毎日ずっと思ってた。でも……心と体が動かなくて。
このまま、ずっと一人なのかなって。
全部、辛くて苦しいまま、終わるのかなって。
……熱が出たんだよ。
ミーコお外に出ないのに、体ぽかぽかしちゃった。
その時、初めて気が付いたんだ。
一人だけ、ミーコのこと悪く言わない人が居たの。
兄が、ずっと傍に居てくれた。
そのことに気が付いたら、なんか、もう、うわーってなった。
やっと、体が動いてくれた。
相変わらず、お家からは出てないけどね。
でも、そのまま走り続けてたら、
いつの間にか魂も知らない肉体があって、理事長になってた。
……なんか、夢みたいだよ。
こんなに沢山の人が……ミーコのこと嫌いじゃない人が、こんなに。
』
彼女は、息を止めた。
唇を嚙み、今にも溢れ出しそうな感情をグッと堪えた。
:……ミーコ、お前、消えるんか?
『ヌヒヒッ、消えないよ。
だってまだ途中だもん。
ミーコの夢は、まだ終わってない』
息を吸い込む。
新しい空気を取り入れて、もう一度、口を開いた。
『ミーコは、強くなりたいんだよ』
ゆっくりと、その想いを言葉にする。
『今でもまだ、弱いままだから。
全然足りない。もっともっと強くなりたい』
声が震えないように。
お腹に力を込めて、一生懸命、言葉にする。
『もっともっと強くならないと、
お兄ちゃんに、もう大丈夫だよって、言えないから』
彼女は俯き、直ぐにハッとした様子で顔を上げる。
それから笑みを浮かべて、少しだけ照れたような声色で言った。
『正直ね、ずっと不安なんだよ。
ミーコのやってることは、正しいのかなって。意味があるのかなって。
でも、ひとつだけ決めてることがある。
ミーコは、逃げない。絶対、二度と、逃げないよ。
だから……見ててね。
明日も、明後日も、その先もずっと。
ミーコのこと、見てて。
絶対だよ。絶対、見ててね!』
約束だよ。
その言葉を口にした後、直前まで静かだったコメント欄が爆発した。
ミーコのしんみりした話を聴いた数百人の生徒達が、これまで楽しいと思えた分だけ、笑わせて貰った分だけ、愛を叫んだ。
ミーコはずっとニコニコしていた。
多くのコメントを読み上げて、楽しそうに笑った。
――決勝トーナメント、開幕。
開始予定時刻、午後八時。