初めての誤字報告もいただき、作品の品質向上の一助となりました。
誠にありがとうございます。
※感想で頂いた意見をもとに熟考を重ねた結果、今作の設定について一点の変更することにいたしました。
『オリヴィエ・フレイヤ・リリの三英雄に加えて、共に魔人ディアボロスと戦った「勇者」という存在が別にいた』という風に変更になります。
その一番の理由は、そもそも原作に「勇者」という言葉が登場しないことです。改稿前の一話で「勇者オリヴィエ」としていたのは誤りで、wiki等で確認したところオリヴィエは「英雄」であり「勇者」とは呼ばれていませんでした。
それに従い、第一話の方でセイナール家の説明をする描写についても、修正いたします。
詳しい経緯等は活動報告の方に記載させていただいております。
急な設定変更ですが、どうかご理解いただけると幸いです。
そして、原作設定を調べなおすきっかけとなる感想をくださった読者様に、改めて感謝申し上げます。
その後クロエと共に周辺を物色していた。お金のために盗賊を狩る彼女には思うところがあるが、俺とてお金の大切さは前世で身に染みて理解している。
何せ、ハーレムにはお金がかかる。お金がある男が、あるいは自己投資にお金をつぎ込んだ男がモテるというのは当然として、交際が始まってからもデート費用、プレゼント費用と湯水のようにお金は消費されていく。後々結婚し子どもをつくるともなれば、結婚式の費用から養育費と、いくらあっても足りない。
クロエもまた夢のための資金を集めている。それを応援するのは、俺が誓ったことだ。
売り捌けない美術品は放置し、現金宝石貴金属を中心に回収していた彼女は、あるものを見て足を止めた。
「
大きくて頑丈そうな檻だ。
「奴隷? もしそうなら捌けないから困るなぁ」
「まあそうだとしても俺が保護するから大丈夫だよ。親への言い訳は大変だけどさ」
そんな話をしながら俺は、檻の覆いを剥ぎ取った。
「これは……予想外」
「何だこれ? 肉塊?」
檻の中には、腐った肉塊、としか表現できない何かが転がっていた。
しかし、俺には分かった。それが、生きているのだと。その証拠に、俺たちが檻を覗き込んだのに合わせてピクリと震えている。
ほどなくしてこれは「悪魔憑き」という現象だろうと思い至った。実物を見るのは初めてである。
それまでは普通の人間として暮らしていた人物が、ある日を境に、肉体が腐りだす。それを教会が買い取り、浄化と称して処理される。それをこの世界の人間は当然のように行っているのだ。
いつ聞いても胸くその悪い話だ。怒りが湧いてくる。
治す手段がないからどのみち死ぬという意味では同じなのかもしれない。それでも、家族を平然と売り渡すような人間がいるのだと考えると、冷静ではいられなかった。
肉塊に意識を向けると非常に多くの魔力を持っていることが分かった。もしこんな状態にならなければ、この人は偉大な魔剣士として輝かしい日々を送っていたかもしれない。何より、美少女だったかもしれない。
この世界の不条理さと、解決の手段を持たない俺自身の無力さに、嘆くことしかできなかった。
そんな時。
「じゃあ、治療しようか」
彼女はいつも通り淡々とした口調で、そう言ってのけた。
悪魔憑きの治療は成功したらしい。
話を聞くに、クロエ自身も同様の状態に陥りそうになったことがあると言う。そして彼女は自力でそれを治療し事なきを得た。
クロエ曰く、悪魔憑きは厳密には病というよりも、魔力暴走を表現するのが正しいらしい。先天的に持って生まれた多すぎる魔力に肉体の方が耐えられなかった結果、腐った肉塊に姿が変わってしまうのだという。
そして、治療が行われていた小屋に呼び出されたのだが……。
「金髪エルフ!? ナンデ!!」
「いやぁ。私もびっくりしたよ。正直あそこまで進行してる状態からここまで変わるとは思ってなかったし。私の場合と進行度も違えば、種族も違うから大変だったよ」
やれやれと言わんばかりにクロエは言うが、なんというか、満足感に満ちた顔をしていた。人助けができた満足感……なわけないか。大方、治療を通して魔力制御のコツを掴んだとかその辺りだろう。
「……しかし美人だなこのエルフさん」
「君はいつも通りだね」
お前が言うな。平然と不治の病を治しおってからに。
「あっ、でも今日の素朴な恰好の君も綺麗だね。というか普段は瞳は黒いんだね。赤いのは魔力を通すことで発光させてたのか」
「はいはい」
あっさりと聞き流される。流石は我が最大の宿敵。並大抵な口説き文句では好感度は上がらないか。
「でも治せるなんてすごいよ。ありがとう、クロエ」
「君が礼を言うことじゃないと思うけど」
「クロエはもう少し自己評価を上げていいと思うよ。その気がなくても君の行動の結果、救われる人がいるんだから」
……とその時、少女の呻き声がした。
「目、覚ましそうだね」
「うん。あっ、そうだ! いい事思いついた。少し合わせてくれる?」
よくわからない頼み事をされて面食らう俺だが、その直後クロエが木箱の上にスタイリッシュな座り方をしたことで、察した。
ようは、彼女の陰の実力者ムーブに付き合えということだろう。
俺は、壁に体重をかけ、手を組んで待機した。
「目が覚めた?」
丁度目を覚ました金髪エルフさんは、その言葉に反応し、身体を起こす。
「私の身体……。うそ……」
自分の身体を確認して元の状態に戻っていることを理解し、信じられない様子だ。
十歳そこらとは言え、いつまでも乙女の柔肌を晒し続けるわけにもいかない。俺は、彼女にそっと布をかけた。
そこで漸く彼女はこちらを認識した。
「君を蝕んでいた呪いはもう解けた。───もはや君は自由だ」
「あなたが……私を。呪いって?」
「ああ、呪いというのは……」
そこで一旦言葉を止めてこちらに救いを求めるような視線を向ける。
いや考えてなかったのかい。
しかし直後にいい考えが浮かんだのか、再び口を開き言葉を続けた。……設定語りをするオタクを彷彿とさせる早口で。
「君たち英雄の子孫にかけられた忌まわしき呪いだよ。驚くのも無理はない。でも君も知っているでしょう?」
そう言いながら奥の木箱に頭から突っ込み、一冊の本を取り出す。木箱を漁る際にクロエの髪についた蜘蛛の巣を、俺はそっと取り除いた。
「経典にある、
「えっ……」
「魔人は死の間際に呪いをかけた。それが君を腐った肉塊へと変えたものの正体」
憂いを含んだ目つきで、クロエは設定語りを続ける。
「だが何者かが歴史を捻じ曲げ、君たちを悪魔憑きなどと蔑まれる存在にした」
「……っ!」
信じられない、という表情でエルフさんは目を見開く。俺もだよ。びっくりだよ。即興で適当な設定を信じ込まされる彼女には同情する。
「その黒幕の正体は……そうだな黒幕は」
器用に目だけををきょろきょろさせながら、言い淀む。こっち見られてもね。流石に俺でもカバーできんよ。でもそんな焦る様子もかわいいね。
「……まだ口にすることはできない。知れば君にも危険が」
「構わないわ!」
適当なことを言って煙に巻こうとしたクロエだったが、エルフさんが間髪入れずに即答した。
「え」
「いったい何者なの?」
「そう……か。ならば教えよう。……おっ!」
返答に窮す彼女だったが、ふと目に入った酒のラベルを見て何か思いついたらしい。あれは……「ディアボロスころし」という銘柄か。うちの領地の魔剣士が話題に出していたのを聞いた気がする。何でも「古の魔人も酔いつぶれて前後不覚になるほど度数の高いお酒」なのだとか。
「───ディアボロス教団。魔人ディアボロスの復活を目論むものたちだよ」
「くっ……!」
その名を聞いたエルフさんは怒りをあらわにした。病気自体はともかく、金銭目的で家族に売られるのがその組織のせいだというのなら、憤るのも当然だ。
……問題はそんな組織は実在しないことだが。
とは言え、悪魔憑きの正体は膨大な魔力の暴走によるものであるのに、「悪魔に憑かれている」などという偏見で人を売買し処刑する教会は、それが無知によるものだとしても十分ギルティだとは思う。それがもしも無知ではなく意図的なものであるなら、猶更絶対に許してはいけない。
だから、仮にディアボロス教団なんてものが実在しなくとも、どうにかしたいという気持ちを俺は抱いていた。
「奴らは決して表舞台には出てこない。我が使命は、その野望を陰ながら阻止すること……かな」
早口でそう言いきった彼女は、紫色の魔力をその身から立ち上らせ不敵な笑みを浮かべる。
「そう、我が名はスタイリッ……いや、我が名はシャドウ。陰に潜み、陰を狩る者」
いつの間にか漆黒のスライムボディスーツに身を包んだ彼女は、こちらに視線を送る。
……分かってる。俺の出番だな。
「俺の名はシャイン。シャドウの盟友にして第一の部下。世界の真実を求め自ら光に背き陰に堕ちる道を選んだ勇者の後継者だ。勇者と英雄───光に属する近しいルーツを持つ我々が、陰の道で歩みを共にすることになるとは……因果なものだな」
そう言いながら、俺は魔力を滾らせ、クロエから貰っていたスライムボディスーツを身に纏う。
その形状は通常のものとは違い、多くの人間が想像する「勇者の鎧」を黒色ベースにして全体的にトゲトゲしくした、言うなれば「暗黒騎士」感あふれるデザインだ。即興でイメージしたものだが、このごつい見た目でも素材がスライムなので動きにくさがないのを気に入っている。
横目で俺の名乗り見守っていたクロエはニヤリと笑みを深める。どうやらお眼鏡に叶ったらしい。
……そうでなければ、黒歴史が増えるだけになるところだった。何だよ「自ら光に背き陰に堕ちる道を選んだ」って。言ってて恥ずかしいわ。思い出しただけでも鳥肌が立つ。暗黒騎士も、中身が未熟な俺だと痛いだけなんだよなぁ。
そんな内心を隠しながら、俺はゆっくりと移動しクロエ───否、シャドウの傍にやや斜めに体を向けて立った。
「シャドウ、それにシャイン……!!」
ぱっちりとした目を見開いて、エルフさんはその名を反芻する。
「困難な道のりになるだろう。だが成し遂げなければならない」
シャドウは木箱から立ち上がり、一歩踏み出す。
「英雄の子よ、我らと共に歩む覚悟はあるか」
「病、いえ、呪いに冒されたあの日、私は全てを失いました。醜く腐り落ちるしかなかった私を、救ってくれたのはあなたたちです。……だから、お二方がそれを望むのなら私はこの命を懸けましょう」
決意の眼差しで俺たちを見つめる。即興で初めた舞台はもはや引き返せない域まで来てしまっていた。
「───そして罪人には死の制裁を」
「……フッ」
シャドウは意味深に笑ってからエルフさんに向けて手を差し伸べ、それに合わせて俺も手を伸ばす。
エルフさんは二つの腕を掴むことで、決意を表明する。
「まあ、全部でまかせなんだけどね」
ぼそりと俺だけに聞こえる呟きが空しい。
それから、シャドウはそのスライムボディスーツの一部を切り離し、彼女に纏わせる。
「敵は恐らく、強大な権力者とかだね。真実を知らずに操られている人たちも沢山いるはず……」
「でも、立ち塞がるものに容赦はできない」
「そうそう! そんな感じ!」
陰の実力者とその配下がやるようなやり取りに興奮しているクロエ。シャドウのガワが剥がれてるぞ。
「他の英雄の子孫を探し出して、保護する必要もあるわね」
そう言いながら立ちあがるエルフさん。
「へっ? ……あーうん」
適当に語った設定に対し、具体的な方針を提案してきたエルフさんの勢いににたじたじになり、またもや素のクロエで返事をしてしまう。
「組織の拡張と並行して、拠点を整備しないと。その為の資金集めも」
俺たちの眼前直ぐまで近づいて、捲し立てるように的確な意見を述べる。
いやホント顔綺麗だな。これまで見た中でも最上位だ。是非とも仲良くしたいものだ。それに頭脳も優秀そうだ。
ごっこ遊び、いつかバレるんじゃないかな(震え)
「……うん。ほどほどにね。じゃあええっと、そうだな……私たちの組織は───シャドウガーデン」
再びシャドウモードに切り替わった彼女は、小屋の中を歩きながら考えついた組織名をスタイリッシュに振り返りながら告げる。
その後エルフさんを指さしながらこう続けた。
「そして君はアルファと名乗れ」
前世の知識を持っている俺からするとちょっと雑じゃない? と思わなくもないが、本人が喜んで受け入れているのに口出しするのは野暮だろう。
シャドウ、シャイン、アルファ。三人のシャドウガーデンとしての初舞台はこれにて幕を閉じた。
取り敢えず、アルファの生活環境を整えなきゃだし、他の悪魔憑きの保護も重要だ。俺にできることはしっかりとやらなければ。
家の力を使えば一人分の生活資金を調達するのは簡単だろうけど、その場合言い訳をどうしようか。そもそも夜ぐっすり寝ていることになっているはずの俺が、彼女を拾って来たと正直に言い出すわけにはいかないのだ。
カバーストーリーを作るか? セイナールの城下町で俺が散策していた時、親を流行り病で失い身一つで町を訪れたアルファに偶然出会って保護した……みたいな。
家族を騙すことになるのは忍びないが、酷い目にあったアルファをできるだけ安心できる環境で休ませてあげたい。そのために、両親には少しだけ我儘を許してほしい。
いっそある程度の単独行動や自由裁量を父に認めてもらえれば、諸々が楽になるんだが。いくら貴族のお坊ちゃんと言えど、基本的に親が許可しなければ何もできないのはどこも一緒。
そんな現状が転生者の俺にはもどかしい。
子どもながら大人相応の稽古を日々受けているんだ。たまには俺の望む形で大人として扱われてもいいんじゃなかろうか。
……でも俺、誘拐にあったんだよなぁ。
いくら相手が異様な手練れだったとしても、一度誘拐された子どもの自由行動を説得するとなると骨が折れる。
自分自身の家庭環境に関しても頭を悩ませる必要がありそうだった。
───誘拐と言えば、あの犯人たちは、何と名乗っていたんだったか。記憶に間違いがなければディアボロス教団、だったような。
いやでも、それはクロエが即興で考えた妄想の産物のはずで……んん??
悩みがまた一つ、増えてしまったらしい。
オリ主がいるのにも関わらずシャドウガーデン結成が原作とほぼ変わらないのは、基本オリ主がクロエにやりたいようにやらせるスタンスだからです。せめて陰の実力者ムーブの方向性が決まるまではあまり口出ししないと決めていました。
メタ的な意味でも、この場面でオリ主が発言すると、悪魔憑き・ディアボロス教団の設定やシャドウガーデンという組織の趣旨が変わってしまう可能性があるので変えづらい場面でした。
TSシャドウちゃん豆知識③
本作クロエは女性で「悪魔憑き」に発症した経験があり、初期魔力量・成長率が原作シドより高い。そのためオリ主は猶更追いつけない。悪魔憑き初見で自分自身の肉体で人体実験を行う狂気。命がかかってるからシドでもやる。
TSシャドウちゃん豆知識④
アルファの治療の際、クロエはちゃんと原作通り魔力制御に関するいろいろな実験した。自分の治療という前例があるため原作よりは安全な実験となったが、やらないという選択肢はなかった模様。
シャインくん豆知識④
鎧の見た目は、ロトの鎧(ドラゴンクエスト)をベースに、邪悪な色合いとトゲトゲしさを加えたイメージ。これを見て、シャドウちゃんは、シチュエーションによって装いを変えるのもアリだと思った。自分の容姿のよさ、魅せ方を理解しているタイプの女の子。
1/20 末尾にオリ主がディアボロス教団という名前について思い出す描写を加筆しました。