美少女ハーレムに憧れて   作:いぬペッティ

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4 束の間の安寧(アルファ視点)

 私の人生は、一度終わった。

 

 瞬く間に進行していく、肉体の腐敗。それに逆らう術はなく、治療法を知るものも誰一人おらず。いつの間にか、周囲からは煙たがられるようになった。

 

 やがて動くことすらままならなくなった私を、村の住人たちは売るという選択をした。

 

 聖教は、悪魔憑きを積極的に回収しており、渡した人間には報酬が与えられるという。いざ売られる側になって、初めてその(おぞ)ましさを真の意味で理解した。それが当たり前のように行われていたにもかかわらず何食わぬ顔でのうのうとこれまで生きてきた自分に嫌気がさした。

 

 馬車に詰められ、教会に向かう道中、馬車が襲撃にあった。

 

 お金を受け取るために同乗していた村長の、汚い悲鳴が聞こえた。

 

 そして、それを最期に、私は一度死んだ。

 

 

 

 どんな奇跡が起こったのか、私は再び生を受けた。

 

 シャドウ、そしてシャイン。二人によって救われた私は、かつての名を捨てアルファとしての人生を歩み始めた。

 

 これから過酷な生き方をすることになるのだと、覚悟していた。

 

 しかし、そんな私を待っていたのは、思いもしない日々だった。

 

 シャインの好意で、彼の表の顔であるセイナール伯爵家に居候させてもらった。アルファという真の名前を晒すことはできないので、彼が考えてくれたリヴィアという偽名を使った。私の先祖である英雄オリヴィエからとったのだとか。

 

 アルファとリヴィア。二人の恩人からそれぞれ名前をいただけるなんて、私は幸せ者だ。

 

 しかし、私の幸せな日々が本当に始まるのはそこからだった。

 

 彼と同じ食事に、あったかい風呂。肌触りのいい服を着させてもらって、まるで私が貴族になったかのようだった。

 

 それでは貰うばかりになってまずいと思いお手伝いを申し出たら、彼の専属侍女のマリーさんに、侍女として必要な様々な教養を教えて貰った。どうしても役に立ちたいという気持ちが功を奏したのか、すぐに技能は身に付き、朝を起こすのや、紅茶を淹れるのを任せて貰えるようになった。

 

「おはよう、アル……リヴィア」

 

「へえ、リヴィアが淹れてくれたのか! どれどれ……うん、美味しいよ、ありがとうリヴィア」

 

 そんな私の努力の成果を彼が笑顔で喜んでくれることに、言葉にしがたいほどの幸せを感じていた。

 

 そこでの日々は、きっと一生忘れられない思い出だ。きっと羨ましがられるだろうから、他の七陰には秘密。

 

 だが、私には使命がある。いつまでもセイナール家に保護された可哀想な孤児のリヴィアではいられない。

 

 私はアルファ。世界中の権力者層に巣食うディアボロス教団を破壊し、悪魔憑きを救う。シャドウとシャインの二人が掲げた壮大にして崇高な目標を達成するための尖兵だ。

 

 そのため、シャインの屋敷で過ごしている間も鍛錬は欠かさなかった。夜になったら会えるシャドウは理想の極致とも言える剣で、シャインはそれに遠く及ばないが、だからこそ理想に至るための道筋がはっきりしたような気がして、参考になった。彼には失礼かもしれないが、実力が近しい相手が近くに居る方が、成長が早まるというのは事実かもしれない。……「近しい」と言っても、私とシャインの間にも到底埋められない差があるが、そこは言葉の綾として受け取ってほしい。

 

 また、シャインの住むセイナール家の屋敷には、千年の歴史を記した蔵書が保管されており、私は書庫の整理をすることを条件に、閲覧する許可を彼の父君に頂いた。それにより知識も増やすことができた。

 

 ……それにしても、いくら剣の家系だからって、本をもっと大事にした方がいいと思う。魔力による保存がなければ貴重な資料が朽ち果ててしまうところだったわ。

 

 

 ある日、マリーさんに気になっていたとあることを質問した。

 

 シャインや彼のご家族に私の世話や指導を頼まれているとしても、元々彼女がすべき仕事も大量にあるはず。それなのに、彼女はプライベートの時間を割いてまで私に付き合ってくれた。

 

 マリーさんはどうして私をこうもよくしてくれるのだろうか。日頃から思っていた疑問だ。

 

 それに対し、彼女は語った。

 

「私はね、実は、借金のかたに、親に売られそうになっていたの。売られる先は娼館……って言っても十歳じゃ難しいか。とにかく、自分の身体を傷つけられちゃうような場所。それを、直前で防いでくれたのがユージン様なの」

 

 同じだ、と思った。私も、悪魔憑きとして売られようとしていた。それをシャドウとシャインに救われた。

 

「ユージン様ってば、大胆なんだよ。せめてもの思い出作りと、ちょっとした家族への仕返しとして、家のおカネ全部持って町で散財してやろうって。偶然ここ、セイナールの城下町に来てたんだ。もう町の風景も、自由な日々も最後かって、川のほとりで黄昏てたの。そしたら、彼が来た」

 

 大切な記憶なのだろう。彼女は噛みしめるように語る。

 

「『どうしたの? そんな顔して。この町は楽しくない?』だってさ。相手が十歳いかないくらいのじゃなければナンパかよって思ったね。まあ子どもだし、って思ってそのまま何となく悩みを打ち明けちゃって、それからはあれよあれよと私はこの職場を紹介してもらったの。両親には前借りした給料を手切れ金として渡してやったわ」

 

 話を終えた彼女は、改めて私の顔に視線を向ける。

 

「何ていうか、私とあなたの境遇が似てるなって思ったの。私は親は生きていて、リヴィアはもういない。だから、一緒なのはユージン様に助けられたってことだけなんだけど。……なんでだろう。それ以上に、シンパシーを感じていて、ほっとけなかったんだ」

 

 売られそうになった者同士、何か感じるところがあるのだろう。しかし、彼女にそれを明かすことは許されない。教団の闇に触れ、彼女を危険な世界に踏み込ませることになるから。

 

 それからマリーさんは、彼に恩を返すために、セイナール家の侍女頭や交流のある貴族に仕える熟練の使用人から様々なスキルを習得しているのだ、と話してくれた。

 

 彼女はもう生きる道を見つけ、歩み始めているのだ。

 

 私にも、強く心に誓った使命がある。そのために知と武を磨く努力もしている。しかし、未だ何一つ果たせていない自身の未熟さに、焦りを抱き始めていた。

 

 

 

 

 とうとうセイナール家を離れる日が来た。

 

 いつまでも幸せに浸っていてはいけない。今この瞬間も教団により悲劇が起こっているかもしれないのだから。

 

 だから、私自らが申し出た。優しいシャインは、もう少しゆっくりしていけばいいのにと言ってくれたが、いつまでも甘えてばかりはいられない。

 

 表向きには「私の親戚と思しき人物の情報を行商人から聞いたため、探しに旅に出る。道中は、その行商人の手伝いをして食い扶持を得る」ということになっている。

 

 彼の母君は「このままウチで働いていいのよ」とおっしゃっていただいたし、彼の父君には「これからも息子をよろしく頼む」と軽く頭を下げられた。公私ともに何かとよくしてくれたマリーさんは泣きながら私を抱きしめてきた。

 

 それだけ、私はここの人たちに愛してもらっていたのだ。そのことを最後の最後に実感した。

 

 この家とは当分おさらばだ。少なくとも、正面から堂々と入ることはできないだろう。

 

 それでも。私は歩み続ける。

 

 ───全ては、二人の意志のために。

 

 

 

 もし、ディアボロス教団を壊滅させ、私がおらずとも悪魔憑きを即座に治療できる体制が回るようになったら。

 

 この家に帰って親切にしてくれたみんなに「ただいま」と言いたい。そして、彼とまた、あの心安らぐ日々を送りたい。

 

 

 

 

 

 拠点を私が二人に救われたあの廃村に移してから、二人が途轍もないほど高等な知識で案を出し合いながら作り上げた、「ツーバイフォー」なる技法で作られた家に住むことになった。

 

 二人がスライムを繊細にコントロールして作り上げる様を見て私はその技術とスライムの万能性に衝撃を受けた。スライムボディスーツの開発をしたシャドウは、こうして陰の道に潜む選択をしなければ、確実に伝説として歴史に名を遺すことになっていただろう。

 

 素晴らしいのはシャインまた同様だ。彼はシャドウの高度な知識を唯一会得している理解者であり、知能の次元が違いすぎて私では理解できないシャドウの真意を直ちに理解し、的確な補足を加えることによって私にも分かるようにかみ砕いてくれるのだ。

 

 彼らが一心同体とも言える深いつながりで結ばれているのを尊く思うのと同様に、自力でシャドウの真意に気づくことができない自分の無力さを恥じ入るばかりだ。

 

 兎に角、流石はシャドウ、流石はシャインと改めて深く思わせられながら、私のシャドウガーデンとしての本格的な活動は始まった。

 

 

 

 暫くして、シャドウガーデンは六人の悪魔憑きの救助に成功し、私を含む七人は「七陰(しちかげ)」と名乗ることを許された。

 

 セイナール家を離れたことでシャインと会える時間は減ってしまったが、その代わり、賑やかな仲間との日々を送ることになった。

 

 真面目で堅実なオールラウンダーで、強い好奇心と文学の優れた才を持つベータ。

 

 運動神経を犠牲に高い知能を持ち、商業・経済分野の知識は他の追随を許さないガンマ。

 

 知能を犠牲に高い運動能力を持ち、直接戦闘なら七陰最強、犬のように素直でわんぱくなデルタ。

 

 七陰随一の繊細な魔力制御能力を持ち、高い芸術センスと揺るぎない美意識を持つイプシロン。

 

 超がつくほどの天才で高度な研究・開発能力を持つが、マッドサイエンティストであるイータ。

 

 知性と戦闘力を併せ持ち、諜報能力に優れる、猫のように気まぐれなゼータ。

 

 デルタが犬系獣人、ゼータが猫系獣人で、他は全員エルフだ。

 

 種族も全員同じではないし、血のつながりもない私たちだが彼女たちのことは妹のように思っている。

 

 ……とすれば、シャインは私にとって兄かしら……何となくしっくりこない気がしたが、このときの私にはまだわからなかった。

 

 シャドウが姉……というのもちょっと違うわね。一般人───彼女曰くモブを演じているときは、妹のようにかわいがりたくなって、ついつい甲斐甲斐しく世話を焼いてしまう。しかし、シャドウとしての真の姿を見せているときは、頼りがいに溢れ尊敬と憧憬の気持ちが無限に湧き出してくる。本当に不思議な人。

 

 

 

 廃村での生活もまた、私にとってかけがえのない日々だった。

 

 シャドウとシャインが語りあうのを横で聞きながら「陰の叡智」を授かり、これからの活動の計画を練った。

 

「陰の叡智」というのは、以前のツーバイフォーのように彼ら二人だけが知っている、世界の常識を変えかねないほどの極めて高度な知識だ。何気なくぽろっと零す二人の言葉がどれほどの莫大な富を生み出すか、考えるだけでも恐ろしくなるほど。

 

 二人はこの年齢にしてそのような知識を生み出すほどの知の極致に至っているということ……流石としか言いようがないわ。

 

「陰の叡智」の一つであるカメラをイータが呆気なく再現して二人を驚かせ、しかし直後実験室が謎の爆発。

 

 それを見て資金繰りを担当するガンマは、青い顔で帳簿に向き合う。

 

 外野では些細なことでイプシロンがベータに突っかかり、バチバチと視線から火花を生み出し、デルタとゼータもそんな雰囲気に中てられて取っ組み合いのケンカを始める。

 

 そこで私は言ってやるのだ。

 

 

 

いい加減にしなさい」と。

 

 

 

 ところで、私が叱るとみんなすぐに静かになるんだけれど、私ってそんなに怖いかしら。別に怒ってるっていうわけではないのだけれど。

 

 空気を察してか、何故か無関係なのに黙ってしまったシャドウとシャインの二人にも、今度聞いてみようかしら。

 




現状判明している原作との相違点
・オリ主の支援により、アルファの能力が上がっている。

・原作で無法都市の娼婦だったマリーがオリ主の専属侍女になっている。原作では年齢不明なので、本作では現在高校生程度の年齢ということに。
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