美少女ハーレムに憧れて   作:いぬペッティ

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話の途中からアレクシア視点への変更があります。


6 掴んだ者と失った者

 準決勝第二試合。俺とクレア・カゲノーの試合だ。

 

 当然俺は彼女のことをそれなりに知っている。シャドウことクロエ・カゲノーの実の姉であり、優秀な魔剣士の卵だ。

 

 彼女は以前悪魔憑きの兆候があり、それをクロエが治したという話も聞いた。つまり、身体が耐えられず魔力暴走を引き起こしてしまうほどの魔力量の持ち主であり、クロエによる治療を経て、それを安全に扱えるようになったということ。ポテンシャルだけで言えば七陰にも迫るものを持っていると言える。

 

 だから、俺もそれなりに実力を出す必要がある。

 

 しかし、俺は表で出せる実力に制限がある。万が一にも、舞台に残った魔力痕跡によって、シャインとユージン・セイナールを結び付けられる可能性があるからだ。魔力痕跡は指紋のように個人によって特徴がそれぞれ異なり、その性質を利用して犯罪の捜査に使われることもある。

 

 だから、使う魔力は最小限。(いたずら)に魔力を漏らすことなく、全て剣に込めることで、魔力痕跡という証拠を残さないようにする。

 

 また、魔力の密度を高くすると可視化され、魔力光の色という情報を与えてしまうので、それもなし。

 

 加えて、初戦から俺は全力のものとは違う剣術を使っている。

 

 俺とローズ王女が誘拐された事件を覚えているだろうか。

 

 あの日クロエが助けに来てくれた際に盗賊相手に使用した剣。後に聞いた話なのだが、驚くべきことにそれは本気の剣ではなかったのだという。

 

 彼女曰く「スタイリッシュな剣」らしい。あくまでも魅せプ(魅せるプレイング)───要は、見栄えの良さを突き詰めた剣術とのことだ。

 

 無論そうだとしても弛まぬ努力で積み上げた基礎あってのものなので、その剣を参考にした俺やローズ王女が無駄な努力をしたわけではないことも補足しておく。

 

 そして今日、初戦から使っている俺の剣もまた、セイナール家の剣術をベースに見栄えがよくなるようにしたものだ。勇者らしい剣であると同時に、シャインという存在と結び付けないための剣。

 

 魔力と剣術の制限。二つのハンデを背負いながら、今日俺は勝つつもりでいた。

 

 

 

「これまでの試合見てて、アンタのことは気になってたの」

 

 クレアは舞台で顔を突き合わせてすぐ、そう言った。

 

 近くで見てみると、非常に整った顔立ちをしている。クロエの姉というだけあって、特徴的な艶のある黒髪は共通している。しかし、顔の印象はかなり違う。そう思わせられるのは、彼女がこちらに向ける強い意思を秘めた赤い眼光によるものだろう。

 

 というか、今の言葉、逆ナンみたいになってるけど。俺は勿論歓迎ですが。

 

「それは光栄だな」

 

「まあ実際アンタの剣が高いレベルにあるのは認めるわ。でも、私が気になったのはそこじゃない」

 

 ……逆ナンではなかったらしい。

 

 彼女はこちらを見る目つきを更に厳しくする。

 

「どうしてかわからないけど、アンタの剣を見てたら、何でか知らないけど妹の顔が浮かぶの。ムカつくわ」

 

 そう言って、彼女は観客席の一角に視線を向ける。そこには、ぽやっとした様子のクロエが両親に挟まれて座っており「おねえちゃ~ん、がんばって~」となんとも気の抜ける応援をしていた。は? かわいいんですけど。

 

「……ちょっと何言ってるかわからないな」

 

 とぼけた返しをしながらも、俺は内心で驚いていた。

 

 どれだけ鋭い感性をしているのだろうか。クロエが彼女の前で本気を出したことなどないはず。それなのに俺の剣とクロエの剣を結び付けてくるとか、鋭いにもほどがある。流石あのクロエでさえ困惑するレベルのシスコンである。

 

 でも、そうか。俺の剣がクロエと似ている、か。

 

 それは、なんというか「そこのカップルお似合いだね! どうだい、自慢の串焼き一つ買っていかないかい?」と知らない屋台のおっちゃんに声をかけられたときのような嬉しさがある。

 

 ……いい姉じゃないか、クロエ。

 

 そのような、クロエが聞くと微妙な顔を浮かべるだろうことを考えていた。

 

「ちょっと、何がおかしいのよ。……まあいいわ。剣で決着をつけましょう。これまでの相手と同じように楽々勝てるとは思わないことね」

 

 そう言って、剣を構える。

 

「それでは、準決勝第二試合。ユージン・セイナールVSクレア・カゲノーの試合を始めます」

 

「───用意!」

 

 パッと旗が振り下ろされた。

 

 と、同時、踏み込んだのはクレアだった。彼女もまた猪突猛進タイプだ。

 

 しかし、先ほどのココデマ・ケールとは違う。大胆でありながらクロエから無意識に学び取った繊細さも併せ持つバランス型の魔剣士だ。

 

 俺が初撃を流すと、怯むことなく二手、三手と攻め立ててくる。その威力はこれまで年少の部で見たものを遥かに超えており、避けた斬撃を受けた地面には、鋭い亀裂が走っていた。

 

「ちょこまかと……!」

 

「二歳も年下なんだ。同じ土俵で戦うより、小柄なことを活かした方がいいだろう?」

 

「よく言うわね、アンタ立ち居振る舞いも大人と遜色ないじゃない!」

 

 十歳程度の年齢だと女子の方が背が高いことも多い。加えて二年年上のクレアは現時点では俺よりも背が高い。……決して俺が小さいわけではない。本当だ。

 

 攻めが止んだ瞬間、俺は反撃に転じる。クレアはそれをギリギリで受け止め、後ろに下がった。

 

「まだ! やあああっ!」

 

 最初の攻防だけで彼我の実力差は伝わったはずだ。しかし、それでも臆することなく魔力を滾らせたクレアは、高速で駆け抜け接近する。

 

「これで全力?」

 

「まさか!」

 

 鋭い突きを最小限の動きで躱した俺の問いかけに、クレアは獰猛な笑みを浮かべて答える。

 

 それからも激しい攻防が続く。

 

 その中で、俺たちは対話をしていた。口に出すそれとは違う。剣で語っているのだ。

 

 いつだったか、クロエは語っていた。「戦闘とは対話である」と。それには俺も共感する。何せ、前世でクロエと俺は殆ど会話する機会がなく、それでも三年間武道を通して心を通わせ合った仲なのだ。

 

 俺は今日の大会で初めて試合を通して、辛うじてではあるが、対話に成功していた。正直なところ、学生レベル以下の大会で俺が楽しめる戦いができるとは思っていなかった。

 

 俺がシャインに結びつく可能性のある戦い方を封印しているのもあるし、年齢差もある。

 

 そんなハンデありきとは言え、クレアはその剣で俺に食らいつき、剣に込めた意志で対話をする領域に踏み込み始めていた。まあ、クレアとしては無意識かもしれないが。

 

 対話の内容は単純。

 

「クロエから剣を学んだ者同士として、絶対に負けてたまるか!」という意地のぶつかり合いだ。

 

 そんな激しい応酬も、この辺りで終わらせることにする。

 

 クロエの真の実力を知る者として、誰よりもその努力を見てきた者として決して負けるわけにはいかないのだ。

 

「決めるッ!」

 

「来なさい!!」

 

 勝負所と認識したのはほぼ同時だった。

 

「やあああああっ!」

 

 本日最大のキレのある剣で斬りかかってくるクレア。

 

 

 

正統セイナール流───瞬光剣

 

 

 

 俺はその気迫に対し、初披露の剣技で迎え撃った。

 

 あまり力を見せると逆につまらない戦いになってしまう。それでは勇者らしい試合ができない。

 

 そのため本来ならば、決勝以外では使う予定はなかったセイナール家秘伝の剣であるが、意地を見せクレア・カゲノーに対し、使わずに終わるのは失礼だ。

 

 俺は一瞬で彼女との距離を詰め、そのまま加速して彼女の遥か背後まで駆け抜けた。

 

 立ち止まった俺は、ゆっくり剣を鞘にしまう。

 

 直後、彼女は崩れ落ちた。

 

「しょ、勝者、ユージン・セイナール! セイナール家の代名詞、瞬光剣が決まったァッ!! 

 

 これにより、決勝の組み合わせが決まりました。

 

 ───決勝は、アレクシア・ミドガル王女VSユージン・セイナールです!」

 

 実況役の宣言により、会場は大いに沸いた。

 

 

 

 

 

 

 休息の時間を挟んで、決勝の試合の時間となった。

 

「やっぱり、あなたが相手なのね」

 

「そういうアレクシア王女も、予想通り勝ち上がってきましたね。ですが、俺は例え相手があなたであろうとも」

 

「「───負けない」」

 

 交わす言葉はシンプルだった。これから剣で語り合うというのだから、余計なやり取りは不要。それをお互い分かっていた。

 

「さあ、漸くこの瞬間が訪れました。冷静にして華麗な立ち回りで、数々の猛者を翻弄し勝ち上がってきたアレクシア王女!! 弛まぬ修練によって裏打ちされた実直な剣裁きで、王国最強と名高いアイリス王女に続いて、王家の威を示せるか! 対するは、準決勝で思わぬ伏兵クレア・カゲノーと素晴らしい激戦を繰り広げた、『勇者の再来』との呼び声高いユージン・セイナール!! 彼の実家セイナール伯爵家は、代々本大会でも優勝を含む成績優秀者を数多く輩出してきました。今大会でも先達に倣い優勝を手にするのか!」

 

 うおおおおおっ、という脳を揺さぶるような歓声に包まれる。

 

 しかし、俺の心は既に集中状態にあり、目の前のアレクシア王女だけにしか意識は割かれていなかった。

 

「それでは、ミドガル王都剣術交流会、年少の部決勝戦。アレクシア・ミドガル王女VSユージン・セイナールの試合を始めます」

 

 実況の言葉に周囲は途端に静かになる。

 

「───用意!」

 

 互いに剣を構える。

 

 そして、ついに開戦の旗が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 私───アレクシア・ミドガルは「ミドガル王都剣術交流会」という王国主催の剣術大会の決勝に望もうとしていた。

 

 相手は、ユージン・セイナール。

 

 会ったのは今日が初めて。しかし一目見た瞬間から、私は彼のことが嫌いだった。

 

 整った甘いルックスはさぞかし異性にモテるだろう。実際、彼が勝ち上がるたびに、その場にいた令嬢たちは黄色い声を上げていた。中には婚約者のいる令嬢や既婚者のマダムもいたほどだ。

 

 加えて格式ある家の生まれで、本人も伝説上の人物である勇者の名を引き合いに出されるほどの才を持つ神童だ。そして年幼くして大人のような礼節を持ち合わせている。

 

 はっきり言って、欠点という欠点が見つからない。

 

 ───だから、嫌いだ。

 

 欠点のない人間など、逆に人間味がなくて気持ち悪い。裏で何を考えているのかさっぱり分からない。

 

 

 

 一回戦から準決勝の間に、彼の剣術を見た。

 

 正直に言うと、思っていたものとは違った。

 

 天才と呼ばれる彼もまた、アイリス姉様のように豊富な魔力量を有し、荒れ狂う嵐や火山のような剣術を使うのだと思っていた。

 

 しかし、違った。

 

 使う魔力は最小限。魔力量は多くないのだろう。しかし、一切の無駄がなく、逆に効果的に使われている魔力の量は同世代の誰よりも多い。

 

 彼は魔力量というデメリットを考慮してもお釣りがくるくらい、魔力制御に長けていた。

 

 そして何より、その剣筋には心を惹きつける魔性の魅力があった。セイナール家の当主の剣は見たことがある。しかし、記憶にあるそれとは似ているようで違う芸術的にすら感じる剣だった。

 

 やっぱり彼は特別だ。

 

 特別と言えば、準決勝で彼と戦ったクレア・カゲノーもそう。豊富な魔力量と獰猛でありながらふとした瞬間に理性が垣間見える剣。私ともアイリス姉様ともタイプの違う魔剣士だ。流石に姉様には及ばないが、かなりの才能を持っているのであろうことが見て取れた。

 

 もし彼女と準決勝で当たっていたら……どうなっていただろうか。

 

 私にも、何か特別なものがあれば、姉様のように───そんな益体(やくたい)のないことを考えてしまう。

 

 

 

 そんなモヤモヤを抱えながら、ついに試合が始まった。

 

 父上、国王陛下もご覧になる試合だ。当然、姉様も見ているし、高位の貴族も多数来賓として訪れている。決して負けるわけにはいかない。王女としての威信をかけた戦いなのだ。

 

 両者が最初に選んだのは、動かず相手を観察することだった。

 

 ゆったりと足を動かし、隙を探り合う。

 

 観客の中でそんな二人のやり取りを理解できたものは少数だろう。

 

 均衡を破ったのは、ユージン・セイナールだ。

 

 それはまるで、心を開かない私に対するアプローチのようだった。

 

 彼の放った鋭い一撃を、私は反射的に剣で受け止める。満足げな彼の顔を見て、いっそ躱してしまえば良かったと思い返し顔をしかめる。

 

 その勢いを流すように一歩下がった私は、間髪入れずに今度はこちらからに突撃する。それを今度は受け止め返される。

 

 相手は涼しい表情だ。

 

 これだから天才は……。

 

 思わず苛立ちを抱いてしまうが、それが許される相手ではないと、気を引き締めて意識を戦いに集中する。

 

 それからも、剣撃の応酬は続く。

 

 彼の剣が何度も私の心をこじ開けようとし、それに私は抵抗する。語らずともそんな幻想を抱くような不思議な体験だった。

 

 正直なところ、彼には隙が無い。

 

 魔力の消耗が多いのは私。長期戦は私に不利だ。

 

 時間が経つ事に、勝利が遠のいていくのを感じていた。

 

 しかし、一撃必殺を狙って大振りをしようにも、彼の技量なら躱して反撃されるのがオチだ。逆に、当てるだけの弱い攻撃では彼のピンポイントの魔力防御を突破できない。

 

 ならば、どうすればいい。

 

 そんな思考の果てに私が選んだ手段、それは。

 

「おおっと、アレクシア王女、大きく後退し、足を止めた? どう思いますか、解説のワカリヤ・スクイエル氏」

 

「これは、恐らくカウンター狙いでしょうね。このままではジリ貧だと判断したのでしょう。試合中に冷静な思考が出来ている証拠です」

 

 私は、彼の攻撃を待った。

 

 今までの様子を見るに彼は攻撃中は無防備になる。使う魔力を最小限に絞っているからか、防御と攻撃、同時に魔力を使うことはできないのだろうと推測できる。

 

 つまり、私が彼の剣を躱す、または受けて耐えきれば私の剣が彼に通る可能性があるということ。

 

 彼は私のそんな思惑を察したのか、笑みを浮かべて剣を構える。

 

「正統セイナール流───」

 

 そう聞こえた瞬間、彼から感じる気迫が増大する。魔力ではなく気迫だ。彼は剣技のみで、これほどの領域に至っているというのか。

 

 

 

破邪一閃!

 

 

 

 勇者には、三人の英雄と共に魔人ディアボロスを倒したという伝説がある。おとぎ話に語られているような眉唾な話だ。

 

 しかし今日、この日この場にいた者の中に、それを嘘と思う者は一人もいないだろう。

 

 きっと誰もが幻視したに違いない。

 

 彼が高く飛び上がり、真っすぐ縦に振り下ろした剣の先で、巨大な魔人が真っ二つになる瞬間を。

 

 しかし、彼の慈悲か甘さか、それは私に直撃することはなかった。直撃すれば間違いなく私は死んでいただろうから、そこは感謝している。

 

 そして、結果として私は、技の付属効果でしかない衝撃波のみで戦闘不能一歩手前まで追い込まれていた。

 

 

 

 気絶する直前、私はせめてもの抵抗として剣を伸ばす。

 

 無様に負けてたまるかッ!! せめてその無駄に整った顔に傷一つでもッ! 

 

 そんな執念だけが身体を動かしていた。

 

 ───しかしそれは、たった一本の髪の毛を切断するだけの結果に終わった。

 

 彼の少しだけ驚いた顔を見た気がしたのを最後に、私の意識は遠のいていった。

 

 

 

 私は負けた。完膚なきまでに実力差を見せつけられて。

 

 気絶から回復したのは、思ったよりもすぐだった。

 

 医務室に備えられたベッドで目覚めた私の隣には、アイリス姉様がいた。

 

「大丈夫、痛いところはない?」

 

「ええ、まあ。応急処置もして頂いていますし、すぐにでも動けますよ」

 

「もう少し休んでなさい」

 

 立ち上がろうとした私は、姉様に押し留められる。

 

 相変わらず過保護な人だ。

 

「……私、勝てませんでした。王族の名を背負っているのに。陛下もご覧になっているのに」

 

「あなたは十分頑張ったわ」

 

「それでも、求められている結果を出せなかった」

 

「次頑張ればいいのよ。彼のようなライバルが身近にいるのなら、もっともっと強くなれるわ」

 

 姉様は私を元気づけようとしているのだろう。しかし、王族の名を背負って出場した大会で敗れてしまった私には、それを素直に受け取るほどの余裕はなかった。

 

「私は、天才じゃありません。彼のように卓越した魔力コントロールも特別な剣技もないし、アイリス姉様のように、圧倒的な魔力とパワーもありません」

 

 

 

「アレクシア……。だけど私、あなたの剣が好きよ。あなたの剣は努力の剣。それを笑う人なんて全部無視しちゃえばいいのよ」

 

 

 

 その言葉は、弱っていた私の逆鱗に触れた。

 

 

 

「努力の剣? 凡人の剣の間違いでしょう! 天才のアイリス姉様には、私の気持ちはわかりません!!」

 

 

 

 こみ上げる感情を抑えることができず、ついつい姉様に当たってしまう。彼女は悪くないのに。悪いのは私が弱いから。才能がないから。

 

 ユージン・セイナールを一目見て嫌いになった。そんな嫌いな相手は、私と同世代の天才だった。王家の名を背負いながら、私はそんな彼に負けた。父と姉の前で、多くの貴族の観衆の前で負けた。彼以外にも天才がいた。もし相手をしたとして私が勝てるとは自信を持って言えなかった。

 

 天才が羨ましかった。力のない自分が憎かった。

 

 だから、姉から言われた慰めの言葉を、素直に受け取ることが出来なかった。

 

 加えて、姉は私の知る中で、最も天才である人物で、私はいつも周囲から比較されてきた。そんな長年の不満も(つの)り続けていた。

 

 ……まあ、色々な要因があって、私の感情はついに爆発してしまったというわけだ。

 

 結果、私は一時の感情に振り回されるがまま、親切にしてくれた姉に酷いことを言ってしまった。

 

 ───それに、私は薄々気が付いていたのだ。彼、ユージン・セイナールの剣は「天才の剣」であると同時に私の遥か先を行く「努力の剣」でもあるのだと。

 

 そんな事実から私は目を逸らそうとしていた。だって、天才って一括りにしてしまえば、負けたことも才能のせいであって、努力では負けていないのだと言い訳ができるから。そんな浅ましい考えだ。

 

 しかし、姉の言葉がそんな逃げを許さなかった。

 

 姉は私の剣を「努力の剣」と称し、美点として語ってくれた。しかし、それは上っ面だけのハリボテなのだ。実際は努力でも私は劣っていて、それを気づかないふりして現実逃避している。

 

 そんな私に姉が掛けてくれた優しくて純粋な言葉は、私の罪悪感をもろに刺激した。自分にだけついた嘘だったはずが、姉にも嘘をついているように感じた。そして、姉に嘘をつかせているように思えた。

 

 そんな葛藤もまた、姉の言葉で感情が爆発してしまった要因なのだろう。

 

 

 

 いつの間にか、私は姉に抱きしめられていることに気づいた。顔の周りは汗と涙でべたべただった。

 

 一度言った言葉を取り消すことはできない。私は姉の優しさを酷い言葉で否定したのだ。そんな私が、もう一度それを受け取りたいなどと世迷言を口にする権利はない。

 

 だから、こんなふうに姉の温もりを感じていられるのは最後になるかもしれない。

 

 そんなことを考えながら、私の意識は微睡みの中に落ちていった。

 

 

 

 この日以来姉様との関係はギクシャクするようになり、それは魔剣士学園でとある事件が解決するまで続くことになる。

 

 更に、王族待遇の剣術教育によるスタートダッシュと精神年齢の高さによる落ち着きでゲタを履いていた私の実力は、年を重ねるごとに同世代でも平凡なものへと変わっていく。私の実力は伸び悩み、才能ある周囲の人間に置き去りにされていく。この大会で準優勝だった事実など、劣等感を刺激するだけの過去の栄光になっていく。

 

 時が経つにつれ姉妹間の評価の差は目に見えて広がっていく。

 

 それが猶更姉との距離を遠いもののように錯覚させた。

 

 それでも、私はただ剣を振り続けた。この国は、魔剣士の国だ。皆に認められる王女となるためにできることを、それ以外に知らなかった。

 

 

 

 散々な一日だった。

 

 王家の名を背負いながら敗北し、父でもある陛下の前で情けない姿を見せ、姉との関係にひびが入った。ついでに、いけ好かない男とも出会ってしまった。

 

 ───しかし、この日のことを私は生涯忘れないだろう。この日の出会いこそが将来抱くことになる特別な感情の原点なのだから。

 







アレクシアが自分の剣を認められるようになるきっかけは、シャドウにしか与えられないと思います。ですので、今回はこのような形になりました。アレクシアは今後ヒロインとして幸せになっていく予定ですのでご安心ください。



シャインくん豆知識1:必殺技の解説

・正統セイナール流 瞬光剣
だいたい石川五右衛門みたいに、高速で対象の後方まで走り抜けながらすれ違いざまに切り裂く技。アニメのバトルシーンの決着シーンでは常連のアレ。正統セイナール流の基本技で、流派の特徴が速さだと言われるのはこれが所以。

・正統セイナール流 破邪一閃
高く飛び上がってダイナミックに振り下ろす。技に込められた気迫により見た人の脳内に魔人を断つイメージを浮かばせる。当然モーションが大振りなので基本的にパフォーマンスか巨大な敵相手にしか使えない。あんまり当たらないところはまさに「まじん斬り」である。



シャインくん豆知識2:前世でも割と嫌われた状態から恋愛がスタートするケースがあった。まあ最初は嫌われていてある時を境に一転してベタ惚れなんてラブコメ見てたらよくあることだよね。前世でも一人一人の女性との壮大なドラマがあったとかなかったとか。



クレア:オリ主との戦闘の際、超集中により一時的に高みに足を踏み入れる。何が起こっていたのか分かっておらず、オリ主にいつか問いただそうと思っている。

アレクシア:オリ主に対しては複雑な思いを抱えている模様。ある意味特別な異性になったね。喜べユージン(白目)

原作ゼノン戦のシャドウは「傍で見ているアレクシアに努力の剣の素晴らしさを知ってほしい」という意図を持って敢えてわかりやすい剣術を披露しており、それ故アレクシアは感銘を受け自分の剣を認めることができた(という風に筆者は解釈している)

仮にオリ主がこの場で原作シャドウがやったように「努力の剣」の高みを見せて考え方を変えさせようととしても、オリ主への初期好感度が低いせいで素直になれないこと、相手が同世代かつ天才型のライバルというフィルター、自身の無力さからくる焦り、王や姉、多くの貴族から期待されているプレッシャーなどの要因によって失敗する。
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