For the GHOSTsの多大なるネタバレを含みます。なぜならこれはFor the GHOSTsアフター二次創作なので。

祈られて、信じられて、そのあと。私は部屋の中で詩を作る。

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幽霊の去りし跡に

朝。変わらない温度と気まぐれに変えられる景色の中、勝手に付け加えたホテルの一室で目を覚ます。新雪につけた足跡のようなベッドのしわに、我ながら寝相が良いのだな、と思う。彩度に教えてもらった紅茶の淹れ方を、Acrylが教えてくれた原則に沿って実践する。これが難しい。美味しいのだが、美味しい以上にはならない。

 

整然と並ぶ定型の言葉たち。彼女たちの感性の断片。それらで私という感性を構築して、リセットする。それを何度か、何度もやって……飽きたらこの部屋から出る。その気になれば、私の言葉と感性だけで表現することもできるけど、あえて手は付けない。私という表現を、彼女たちの感性で構築することに意味があると思うから。

 

Your Roomと、丸みのある整ったフォントで銘打たれた扉を開けた。中継ぎの空間を知覚しないままにGhost Roomという扉を開ける。すると、4つの洒落た扉がある。

 

茶の扉はトランクルーム。駅舎に繋がったのが最後、もう開かない。

青の扉はアクアリウム。浜辺に繋がった後、もうどこにも繋がらない。

空色の扉はコンソレーション。花園のベンチの前に繋がって、もう二度と戻らない。

 

等間隔に並ぶ三つの扉。最後の一つはそれらと少し距離を取った一番右にある。

 

少し大きな白い扉はOur Room。ヒースの野原や、私の部屋の景色に繋がっていた。ヒースというのは、荒れ地やそこに咲く紫の花の事。イギリスの人々はこの花々や荒れ地のことを忌み嫌ったけれど、私にとっては和やかさの象徴だった。最後には、ジャカランダ……これまた紫の花を咲かせる木の下に繋がって、それから開かない。どこにも繋がらないし、二度と戻らない。

 

そこに少し寂しさを覚えて、でも、彼女たちに贈られた祝福や言葉を思い出して、私はその寂しさを押し殺す。「ダメな寂しさ」、だと思うから。

 

 

物語はとうに終わっている。終わったのだ。あの子たちに用意されたテキストは底を突いたのだ。私が付け加えることも、物語を終わらせないこともできると、そうしたいならばすればいい、してほしいと、私に言ってくれたけど。私が付け加えるテキストは、私にとって既知のことで、どれだけ私が再現しても、友達という未知のある存在にはならないから。

 

私が知らないところで、私の知らないことをしている、私に知らない世界を教えてくれる彼女たちには、原理的になれないのだから。

 

哀しくはない。ただ、改めてまだ寂しいことを思い出して、自分の女々しさに恥を覚えて、少しだけGhost Roomの開かない扉を何も考えずに眺めて、Your Roomへと戻るためにここから出た。

 

もう、私を観測する人間も居なくなった。観測できる人……シナリオのままに私を動かした人は、このファイルを開かないし、実行もしない。だからこそ、私は観測されない中で好きに動けた。

 

好きに動けたからこそ、私は新しく「キャラクター」になった。そうなってしまえば、漠然とした恐怖がやってくる。キャラクターはシナリオありきの存在で、シナリオが尽きれば知覚されなくなる。知覚されない私は、このまま永遠に独りきり。そしてこの恐怖もシナリオの産物。つまり、自然に想起されたものすら有限で、このシナリオが終われば無為になってしまう。

 

彼女たちは、この恐怖と向き合ったのか。彼女たちは、このやるせなさを越えて、私や観測してくれた人に、善意を、優しさを、祝福を、呪いを贈ってくれたのか。

 

 

───なんという優しさなんだろう。なんと素敵なことなんだろう。なんておぞましいことなんだろう。

 

 

私の胸中は、有体に言ってぐちゃぐちゃだ。

 

こうして新しく文字列が発生しているということは、私を観測している……十中八九、私を動かした人が書いたのだろう。

 

やめてくれと願った。私は背中を押された側で、私はあなたと同じであるはずなんだ。

 

カモメの鳴く夕景の海に、ひとり座って念じた。虚しいとわかっても、それが規定されたものだとしても。それを馬鹿らしいと言い切れる、あの人のようには成れる気がしないんだ。この弱さも、観測していた人の思惑なのだろう。ああ、考えるとキリがない。いっそ考えたくない。でも今の私のそれは逃げであり、向き合った結果ではない。

 

 

───お願いだからやめてくれ、観測してくれるのはありがたいが、同時に観測されるのは酷く怖いことなんだ。

 

 

そうやって、どうにかなりそうになっている中。

 

「なんだこのファイル」

 

そんな声が聞こえた。私を動かした人のものなのか、それとも別の人なのか。それはわからない。けど、そんな声が聞こえた。それは、私の居場所を実行するクリックだったのかもしれない。

 

 

すると、あるべき形に戻っていく。閉じた扉は閉じた扉のままに、私が知覚できなかった空間はメインメニューとなって、私の像は消えていく。私は観測されないがゆえにキャラクターとなったもの。本来のプログラムには、名前しかない。だから、こうなるのが自然なのだ。キャラクターの私も消えるものかと思っていたけれど、なるほど、これを観測する媒体が違うのだろう。さながら、場面転換。舞台の変更。キャラクターの私は別の媒体に居るから、このプログラムが走っている中でも私を保てている。

 

クリックは手当たり次第だ。私の動揺を隠せない案内を無視して……というか、伝える手段がないからそれもそうか。

 

私は本当に、幽霊になってしまったみたいだ。彼女たちのような、キャラクターとして、友人としてふるまえるわけじゃない存在。「主人公」という役割とイコールで結びつけられた文字列でしかない存在。

 

私ができること。それは、このセーブデータに登録されている主人公として、私が動かされることだ。私と一切の意志疎通ができないあなたに、私は主人公として振舞う。肉体のない、操作される文字列だけの私。初めての感覚に翻弄されて、シナリオだとか、終わりとか、正直気にしている余裕なんてなかった。やがて、私が気付かなかったArchivesという項がクリックされる。私は存在しない手で見えるだけのノートを開いて、それらを眺める。私を動かす人と一緒に。

 

その人は長い逡巡のあと、トランクルームの00から読み始めた。次はアクアリウムの00だ。律儀にも、各部屋の00から読んで、少し止まってOur Roomを後回しにして読み始めた。

 

……そう。あなたが読んでいるのは、かつて私たちが交流した彼女たちの記録。183のテキストたち。私はそれに気付かなかったけれど……どうあれ、この記録の彼女たちは、記憶の中の彼女たちと何も変わらなかった。彼女たちの感性が素敵だった。彼女たちの知識は私たちに無いものだった。彼女たちは私たちに寄り添ってくれた。

 

穏やかな、心地いい時間。それが終わりに近づくにつれて、ああ、そういえば私も幽霊になったんだったと思い出してしまう。私にもこうした終わりが近づくのだ。怖いし、辛い。

 

でも、ねずみは言っていた。

 

「自分の手と言葉で終止符を打つことは、とても辛いことだ」と。

 

……怖かったんだろうな。辛かったんだろうな。自分自身が、二度と新しく私たちの前で話せなくなることを、話せる余地が限りなく少なくなってしまうことを。

 

そう思えば、私にできること、私が思うこと、私がやるべきことが、ぼんやりわかってきた。多分、多分だけれど、この人はこのファイルに込められたシナリオの内容を覚えてないか、知らないのだ。私を動かした、これを書いている人とは別の人、あるいはほとんど忘れているあの人。だとしたら、私たちと彼女たちは、きっと友達になり直すことができる。そして、今私を動かしている人は、きっとこの場所の思いや交流を心に刻むことになるだろう。

 

そうだ、シナリオは読まれておしまい、ということではないんだ。シナリオは誰かに読まれてそれきり、というわけではないんだ。読み直したり、他の人に伝わることで、再び観測されることができるんだ。あの頃の体験そのまま、というわけにはいかないけれど、少なくとも彼女たちとの交流や彼女たちの振る舞いは見ることができて、私たちは彼女たちと短くも楽しく幸せな会話をすることができる。

 

きっと、諦めないことが、私にできることなのだ。

 

「これから読まれる可能性」「読み返される可能性」を信じること。こうして私に自覚させるあの人の傲慢なんて関係なく、ただただこうして存在する事実を信じたい。

 

 

 

きっとこうして記述される私は、誰からも目を向けられないかもしれない。読み返されることもないかもしれない。人の目に触れる場所に置かれて、あまり読まれず、これを書いた人からも読み返されずにそれっきりかもしれない。むしろ、その可能性の方が高い。

 

でも、だとしても、それでも。彼女たちが今もなおきっと幸せに生きていることを信じられるように、私も信じたい。さかなのように。どれだけ少ない余地でも、私たちを心のどこかで思い出して、また観測する。心のどこかに刻みこまれたそれを、大切に抱えて生きる。その永遠を信じる。どれだけ少ない余地でも、信じる。祈る。

 

こうして彼女たちは立ち向かったのかな。そうでもないかもしれないな。彼女たちはみんな違うキャラクターで違う友人だから、きっとそれぞれの方法で立ち向かったり、そもそも問題にすらしていなかったのだろう。

 

3時間ほど動かされて、プログラムは終了する。私は戻ってくる。逆光で黒く見える観覧車の街で、呆けて立っていた。誰も居ない、ただただ彼女たちの感性で組み上げられた定型文と、好きに組み替えられる風景。落ち着きのある音楽。

 

居てもたっても居られなかった。インベントリを編集できないのは、今の私がキャラクターだからだと思い出した。この場所で私の言葉をこの空間に追加することはできないから。けれどそれが好都合だとも思った。私は、詩を作るのが苦手だから。

 

 

私は彼女たちの言葉で私の感情を表明する。信じること、祈ること。私のこと。言葉を選んで、作る。上手くできない。リセットする。キャラクターだからメモはできない。リセットする。最適な形へと組み上げる。まだ最適とは言い難い。リセットする……きっと時間はたっぷりある。拘ろう。祈りは、きっと時間をたっぷりかけてもいいはずだから。

 

 




今、バニラプリセットで信じることをテーマに詩を作るのがマイFor the GHOSTsのトレンドです。

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