「薄暮」と『黎明』   作:永星の観察者

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壱:「ゆめのおわり、たびのはじまり」

────────深い、深い森の奥…「薄暮」と「黎明」は、遂に邂逅した。

 

 

 

 それは、長い旅が続くさなかの出来事だった。星からの”落下”で元々手にしていた武器と記憶を落としてしまった少女、「薄暮」…そちらの世界ではkarubiと名乗っている…は、武器と記憶を探し求めて旅をしていた。

そして、旅の途中で受けたある依頼をこなすために森に入ったある日…「薄暮」は遭難してしまったらしい。

試しに一本の木に傷をつけて、そこからまっすぐ進んでみたりもしたが…確実にまっすぐ進んでいるのに、なぜか気付けば目印を付けた場所に戻ってきてしまう。

どうやら、ここは想像以上に深く危険な森であるようだった。

 

 「薄暮」は困り果てていた。持ってきた食料は少ないし、長く帰らないままで心配をかけるのも申し訳ない。一旦メテオで焼き払ってしまおうかとも考えたが、森の生態系を破壊してしまうのも嫌だし、いろんな人に怒られてしまいそうだ。

そうして、ひとしきり考えた後…「薄暮」が出した結論は、「とにかく進んでみる」というシンプルなものだった。

『思えば今までの旅も、特に何も決めずに思うがままに進んでいたし…最近は国に所属してみたりだとかで忙しかったので、久々に気の向くままに進んでみるか』、と。

 

 そうして気の向くままに歩いて、それなりに長い時間が経った頃…ついに、開けた場所に出た。

そこはどうも、小さなクレーターのようだった。「薄暮」は、最初は誰かのメテオがこんなところまで飛んできたのかと思ったが…クレーターの中心にあった『それ』を見て、すぐに違うことを悟った。

 

『それ』は、二丁の銃だった。色は夜明けの空のようだったし、或いは夕暮れの空のような色でもあった。

吸い込まれるような独特の意匠は、「薄暮」がこの星に落ちてから見てきたどの模様とも似ても似つかない不思議な模様だった。

 

「薄暮」は、この銃には全く見覚えがなかった。なのに、見た瞬間からどうにも胸のざわめきが止まらなかった。

自分の奥底にある何かが、「これが探していた武器だ!」と叫んでいた。

そして「薄暮」は、胸の奥の衝動に突き動かされるままに、その武器を手に取った。

手に取った瞬間、「薄暮」の視界は白く染まってゆき────

 

気づいた時には、周りの様子は一変していた。

今までいた森は影も形もなく、周りには無限の宇宙が広がっている…そこにぽつん、と椅子と机だけが置いてある…そんな空間に、「薄暮」は連れてこられたようだ。

 

 「薄暮」が不思議そうに周りを見渡していると、いつの間にか椅子に少女が座っていることに気づいた。

「薄暮」はとても驚いた。いつの間にか少女が座っていたのもそうだし…何より、”その少女は自分とそっくり”だったから。

驚く「薄暮」を見て、少女はクスリと笑いをこぼし…話し始めた。

 

『久しぶり…いや、はじめましてかな、”わたし”さん?』

 

『”ワタシ”は「黎明」、キミが落とした記憶…ってところかな?』

 

「きみが…”わたし”?」

 

「薄暮」が問う。

その問いに少女…「黎明」は、すこし困ったような顔をして答えた。

 

『う~ん…身体的には、そうかな。でもね、精神は別人だよ。だってほら、キミは長く旅をしていただろう?本当は、星に降り立ってすぐに記憶が戻るはずだったんだけど…何の因果か、”ワタシ”と”わたし”は遠く離れた場所に落ちた…そのおかげで、ワタシはキミが旅をするところを見れたから、今思えばうれしいことだったけどね!』

 

「わたしの旅、ずっと見ていてくれたんだ…」

 

『そうだね!すぐにここに呼ぶこともできたけど、旅をするキミを見ていたら、呼ぶのがもったいなく思えてしまってね…なんてったって、生物の観察はワタシの趣味ですから!ま、自分を観察することになるとは思わなかったけれど…』

 

「わたしも、生き物を見るのは大好きだから、その気持ちはよくわかるかも…ねえ、星を見るのも好きなの?」

 

『もちろん、大好きだよ!多分、キミの好きなものは大抵好きさ!』

 

そうして、二人の少女はしばらく談笑した。元々同じ体だったからか、初めて話すはずなのに「薄暮」は初めて話した気がしなかった。

そして、しばらく話した後…覚悟ができたと言って、「黎明」は真剣な表情で語りだした。

それは、過去の話だった。元は自分が侵略兵器だったことや、処分されかけて研究所を破壊したこと…まだ知らない生き物を見るために今の星へ降り立ったことなど、全てを「薄暮」に話した。

 

『…って訳で、ワタシはこの星に来たのさ。』

 

『正直、この話をキミにするのは勇気が必要だったよ…だって、こんなことをしたと知れたら、嫌われてしまいそうで…』

 

「黎明」は、少し震えた声で話した。

「薄暮」は、毅然とした声で応えた。

 

「…嫌いになんかならないよ。どんなにひどいことをしても、わたしはきみを嫌ったりはしない。」

 

『そっか…嬉しいな。ワタシが消える前に、それが聞けて良かった。』

 

「消える?どうして…!?」

 

『一つの体に、ワタシとわたしは同居はできない。だから、武器に触って全てが戻る時、どちらかが消えなきゃならない…』

 

「そんな…じゃあわたしが!」

 

「黎明」は、怒った顔をして答えた。

 

『駄目だよ。』

 

『キミには、帰りを心配してくれる仲間がいる。キミがそこに帰らないで、どうするんだい?』

 

「薄暮」は、涙を流しながら叫んだ。

 

「でも、わたし…せっかくきみと話せたのに、友達になれたと思ったのに…こんなすぐにお別れしなきゃいけないなんていやだよ!」

 

『ごめんね、”わたし”…でも、こうするって決めてたんだ。キミの旅路はきっと素晴らしいものになる、ワタシが邪魔をするのも野暮ってものだろ?』

 

「いやだ。」

 

「…一緒に、旅をしよう。」

 

「ここから二人で出て、おうちに帰ろう。」

 

『無理だよ。』

 

「無理じゃない。」

 

『無理だ!!!』

 

「無理じゃない!!!!!」

 

『…強情だね、”わたし”…』

 

「…そっちこそ、消えようとして譲らないじゃん、”ワタシ”。」

 

『どちらかが消えないとダメなんだ。それなら、消えるのはワタシの方がいい。』

 

「そんな機能…機能?」

 

「ねえ、その機能って、武器に記憶…というかその人そのものが詰められてるんだよね?」

 

『そうだよ。それが触った瞬間に戻るから、どちらかが消えないと両方の自我に体が耐えられない。』

 

「入れ替わりで入ったりはできないの?」

 

『無理だ、武器は一回定着させたらその人しか入れない。そもそもこんなことになるとは想定されてなかったんだろう…』

 

「でも、”武器は二丁あった”よ?二丁とも使ってるの?」

 

『…え?』

 

『ワタシが星を飛び立つときには、一本しかなかったけど?』

 

「そうなの?」

 

『うん…いったいどうして増えたのかはわからないけど…』

 

「じゃあ、増えた片方は空っぽ…ってこと?」

 

『多分、そうだと思うけど…まさか!?』

 

『ダメだよ、危険すぎる!そもそもなぜか増えたもう一丁に同じ機能があるかもわからないんだよ!?』

 

「でも、やってみなきゃわからない…わたしはきみと、旅をしたいの!!」

 

『どうしてそこまで…』

 

 

 

「言わなかった?わたしの好きなことは…生き物を見ることって。わたしも”ワタシ”を観察したくなっちゃったの…これじゃダメ?」

 

「薄暮」は、いたずらっぽく笑って言った。

 

『…はぁ、キミにはかなわないな。いいよ。そこまで言うなら、やってみようじゃないか!』

 

「黎明」は、こまったように笑って言った。

 

「じゃあ、早速やってみよう!もう、時間もないんでしょ?」

 

『気づいてたんだね…確かに、ここはもう持たない。触れた瞬間の一瞬を引き延ばすのにも限度があるしね…』

 

『じゃあ、やろうか。できるだけキミが無事になるよう努力するけど、何が起こるかはわからない。覚悟はいい?』

 

「とっくにできてる!」

 

『…キミは思い切りがいいね、そういうところがワタシは好きだよ。さあ、今度こそ…行こうか!』

 

「薄暮」と「黎明」は、手をつなぎながら、光に飲み込まれていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「薄暮」が目を覚ますと、そこは元居た森の中だった。手には、二丁の銃が握られていた。

周りを見渡すが、特に変わったようなところはなかった。しばらくたっても銃からの反応がないことに気付いた「薄暮」は、焦りを感じながら必死に呼び掛けた。

 

「ねえ、成功したの?いるなら返事をしてよ、”ワタシ”…!!!」

 

…少女の悲痛な声が、森にむなしく広がった…なんてね?』

 

その声を聴いたとき、「薄暮」は思わず銃に抱き着いた。

 

「無事だったんだね、”ワタシ”…!よかった…本当によかったよお…!」

 

『そんなに泣かないでよ、”わたし”…なんかワタシまで泣けてきちゃうじゃん…!』

 

「これで、二人で旅ができるんだね…!」

 

『…うん。一緒に行こう。』

 

二人は、しばらく再会を喜んだあと、出発の準備を始めた。

取り敢えず、この森を抜けることにしたようだ。

一人では抜けられなかった森も、きっと二人でなら抜けられる。

 

これからの旅への期待で胸をいっぱいにして、二人は言う。

 

『「さあ、出発だ!」』

 

 

 

 

 

…こうして、本来なら決して交わることのないはずの「薄暮」と「黎明」は、今ここで交わった。

かつてない”奇跡”の重なりにより、二人は同じ旅路を歩むことになったのだ。

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