ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作259話後半〜260話までの範囲でお送りします


人外魔境D.U.決戦─拾肆─

 

少し時は遡り、1人粘った末に力尽きたフブキをココナが転移して回収しようとした時のこと。

妨害せんとココナを攻撃しようとしたKeyに、常に烏を戦場から俯瞰させて監視し状況把握を務めていたシュンはそれを止めるために監視用の烏を突っ込ませてしまっていた。

それはあえなくKeyに撃墜されたが、その一瞬の隙に駆けつけたフィーナがココナとフブキを掻っ攫い、退避させたことで事なきを得た。

 

しかしここで困ったのは、先程シュンが突っ込ませた烏が現在シュンが使役していた烏の内最後の1匹だということだ。

他の烏は皆戦闘に巻き込まれるか時々Keyに突撃させたことで消費してしまっており、これでは戦場の様子が分かりづらい。

特に、烏に取り付けていた小型カメラを通して戦況を逐一観察していたオペレータールームでは混乱が起きていた。

ホシノの開幕の一撃の手伝いをしてからS.C.H.A.L.Eに戻ってきていたアヤネは、砂嵐状態となったモニターを前に頭を抱える。

 

 

「ど、どうしましょう…これでは皆さんの様子が…!」

「アヤネちゃん落ち着くっすよ。シュンさん、肉眼での監視は出来そうっすか?」

 

『地形の問題で難しいかと…申し訳ありません、私が焦ってしまったせいで…』

 

「仕方ないっすよ。あんまり気に病まないでください…どうするっすか、リオ部長」

「…」

 

 

慌てるアヤネを諌めたイチカは、同じくアヤネと共に戻ってきていたリオに助言を求める。

現場指揮の決定権を現状握っているリオは、なんとも重い役割を任せられたものだとホシノとヒマリに内心毒づきつつも、Keyを打ち倒す為に思考をフル回転させていた。

 

 

(正直、あれだけやって倒せなかったのなら今出払っているメンバーで倒すのは現実的じゃない。もっと援軍を送らなければ…いや、そもそも目が確保出来なければ不用意にココナに増援を送って貰うことも負傷者を回収することもさせられない。下手をすれば転移した瞬間に戦闘に巻き込まれる恐れがある…ならどうする?ドローンにカメラを載せて…いや、Keyに掌握される可能性がある。それが出来るだけのリソースが残ってない可能性もあるけど、リスクは最低限に…)

 

 

 

 

「あ、あの…!目が必要なら、私が!」

 

「「「!」」」

 

 

何かサポートをするにも戦場の様子を把握出来なければ始まらないと頭を悩ませるリオ達だったが、そこに名乗りを上げたのは僅かに身体を震わせながらも力強く箒を握りしめるフウカだった。

それに驚いたのはリオや監督オペレーターの面々だけではなく…あの戦闘に着いて行けるレベルにないことからアヤネ達を手伝いつつもモニター越しにアリス達の勝利を祈るしか出来なかった居残り組の面々。

 

 

「ふ、フウカ先輩!?何を言って…」

「皆命懸けで戦ってるのよ…あんなに強くて怖い奴に…だから、後で『あの時ああしておけば良かったって』って思うくらいなら、今できることをしたいの!もう、無力で役に立たないまま皆を失うのは嫌なのよ!」

「っ…!」

「あんたもそう思わないの…アオイ」

「…」

 

 

思わず止めようとしたヒフミだったが、フウカの強い意志の籠った決意に引き止める言葉を失ってしまう。

そしてフウカは腕を組んで静観するアオイに…かつてミレニアムでの戦いで失った左腕は現在リオ作の特性の義手に置き換えられている…誰よりも真っ先に駆けつけたい筈の彼女にそう問いかけた。

フウカにチラリと視線を向けたアオイは、フウカやアオイをじっと見つめているリオに視線を戻すとふぅ、と息を吐いた。

 

 

「どうするのかしら、リオ部長。私もいい加減ただ見て終わる気はないのだけれど」

「…本当に良いのね?上空から見下ろせるフウカでも、Keyの攻撃範囲なら巻き込まれる可能性は十分にある。それでも本当に…」

「お願い、行かせて!」

「…分かったわ。アヤネ、カメラと通信機器その他諸々の装備を用意して」

「…はい、分かりました!」

「後アオイは流石にやめておきなさい。その腕じゃ戦えないでしょうに」

「あら、心外ね」

 

 

 

 

「ってことで、確認出来るようになったら折を見て私も行くから後で送ってもらうわよ」

「何が『ってことで』なんですかアオイさん…」

 

 

戦場を確認出来るようフウカを送り出す準備を進めるアヤネ達を横目に、アオイはリオ達に気付かれないようにこっそりとココナにそう持ち掛けた。

当然ココナはアオイの腕の事を聞いているので、その身体で大丈夫なのかと心配を顕にするが…アオイはココナの頭にポンと手を置くと、悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

「安心しなさい。私も相当鬱憤が溜まってるから…吠え面かかせてきてあげるわ」

「…ではその時に。後で一緒に怒られましょう」

 

 

ココナ自身も、あの時自分が鈍臭かったからシュンにフォローさせてしまったと気に病んでいたのだが、その失敗を取り返すと言わんばかりのアオイの言葉に逞しい笑顔で返すと、装備を整えたフウカの元へ駆け寄った。

 

 

「フウカさん!戦場からは少し離れた座標に送るので、接近する際は極力注意を払ってくださいね!」

「分かったわ…アオイ」

「ん?何かしら?」

 

 

出立の直前、フウカに声をかけられたアオイはとぼけたように首を傾げる。

その様子にため息を吐くフウカだったが、脅すようにアオイを睨むと言葉を続けた。

 

 

「一応言っておくけど私は生きて帰るつもりだからね。あんたも何かするのは良いけど、これ以上ヒフミやマシロを…後輩を悲しませたらただじゃおかないから」

「ふっ、私が死んだことがあったかしら?」

 

 

「「「?」」」

 

 

(2人とも、戦うんだ…でも、私は…やっぱり役立たずだ…)

 

 

アオイとフウカのやり取りにピンと来ず困惑する面々。

しかし唯一その意図を汲み取ったヒフミは激戦区へと出立しようとするフウカ…そしてアオイに、『自分も戦いたい』と、ただその一言を口にすることが出来なかった。

かつてのミレニアムでの戦いで、ヒフミはマルクトに対して自身の全霊を掛けた契約を行った上での突貫を防がれ、契約の代償でまともな戦闘能力を失っている…しかしそれは戦わないことへの言い訳でしかない。

今回の決戦への参加を断ったマコトでも代わりにマルクトが解き放った特異体の処理の手伝いをしているというのに、今のヒフミにはそれをするだけの力すら無いのだ。

皆、全てを出し切った上で限界を超えようとしているのに…ただ怖くて踏み出せない事が何よりも悔しく、自分に嫌気がさす程だった。

 

そうして肩を小刻みに震わせるヒフミに気付いたアオイとフウカは顔を見合わせると、アオイがヒフミの手を取って俯く顔を見上げさせた。

 

 

「アオイ、先輩…?」

「ヒフミ、先輩に()()()()()()()()

「…ぐすっ…本当に、すみません…」

「良いわよ、今まであんまり興味無かったけど、事が済んだらモモフレ?だったかについて詳しく布教して貰おうかしら」

「はいぃ…ペロロ様の素晴らしさを教えてあげますから、どうか…ご無事で…」

 

 

「…さて、そろそろ行ってくるわ。ココナちゃん、飛ばして」

「はい、お気を付けて───」

 

 

 

 

 

 

 

ドドンッ!

 

 

 

 

 

「っ!?急いで!」

「あーもう、誰か大技でも使ったわね!」

 

 

丁度その時、戦場となるD.U.中央区からかなり離れたS.C.H.A.L.Eに伝わるほどの巨大な振動が…Keyが『(ボックス)』『(フーガ)』により降り注がせたレールガンの雨によるそれが響き渡る。

ココナにより転移させられ急行したフウカは秘儀で浮かせた箒に乗り上空まで上昇すると、砂埃が舞い上がる戦場へとカメラを向けた。

 

 

「視界が悪い…えーと、もしもし聞こえる?ちゃんと映ってるかしら?…え、そっちも何か騒がしくない?治療室?がどうしたって…あ、待って!」

 

 

無線を繋ぎオペレーションルームに確認を取っていたところ、ようやく砂埃が晴れて視界が鮮明になる。

そしてその先に見えた光景は…

 

 

「な、何よこれ…」

 

 

真っ平らになった一帯に、さらに無数の穴が穿たれ完膚無きまでに破壊し尽くされている。

先程の攻撃の凄惨さが一目で分かるその被害に戦慄するフウカだったが、しかしそんな災害が駆け抜けたような破壊跡の中心に立つ2人の人影を発見し、それらの正体を凝視する。

 

立っていたのは、Keyとアリス。

その姿を確認した途端、アオイがフウカを送ってから戻ってきたばかりのココナに呼びかけた。

 

 

「私を送りなさい!」

「は、はい!」

「っ!?アオイ!?貴方まさか…!待ちなさい!」

 

 

アオイが合図を出すと、リオの制止を無視してすかさず再び秘儀を発動し、ココナはアオイを転移させる。

そして戦場の真上へと飛ばされたアオイは直下のアリスとKeyの間に割り込むように着地し…そして着地の寸前に聞こえたアリスの決意に口元を綻ばせ、それに応えるかのように声高々に謳った。

 

 

 

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。ただし────私達”姉妹(3人)”を除いてね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アオイ!」

 

「チッ…」

(面倒なのが来ましたね…それに、上には羽虫も飛んでいる。あれが見下ろす限り戦闘不能になった者も直ぐに回収されてしまうでしょうね…いい加減、周囲でうろちょろされるのは鬱陶しいったらありゃしません)

 

 

上空を旋回するフウカを見上げたKeyはまずはそちらを排除しようと手のひらを向けるが…向けた手をぐっと握り込んで息を着いた。

間の悪いことに今のKeyは神秘解放を行なった直後で秘儀が焼き切れ使用不可の状態になっている。

そしてスーパノヴァもレンゲに右腕を切り落とされた際に取り落としてしまっている。

故にあの高度への攻撃手段は現在保持しておらず…必然的に標的はもう1人の闖入者へと定められた。

 

 

「次から次へと…蛆はどこからともなく湧いて来ますね」

「あら、名も無き神々の女王に関心を向けてもらえるなんて光栄ね。嬉し過ぎて涙が出てきそうだわ」

「減らず口を。小娘の関係者は何故こうも腹立たしい者ばかりなのでしょうか」

 

 

「…さて、アリス。私が言いたいことは分かるわよね?」

「…」

 

 

Keyを前にしても軽口を叩く余裕を見せるアオイは、視線はKeyを見据えたまま背後のアリスにそう声を掛けた。

様々な感情が胸の内で渦巻いていたアリスはその声に、ゆっくりと自分の思いを整理して、そして改めて強く決意したように目を鋭く光らせた。

思い出したのは、ミレニアムでムツキに完膚なきまでに心をへし折られそうになった時に問いかけられたアオイの言葉。

 

 

「はい。ありがとうございます、アオイ。忘れてなんかいませんよ…なんせ、託されたものが多過ぎてそろそろ絆技とか撃てそうな気がするくらいですから」

「後方の皆も応援してたわよ?ペンライトでも振ってくれれば不思議な力とか湧いてきそうなくらい鬼気迫るくらいだったんだから」

「それは、絶対に勝たないといけませんね…野暮なことを効きますが、アオイは大丈夫なのですか?」

 

 

アオイとの掛け合いの中で調子を取り戻してきたアリスは、しかしアオイの左腕…今はメカメカしい義手に置き変わったそれに視線を落として心配を顕にする。

それをフッ、と鼻で笑い飛ばしたアオイは顔だけ振り返ると義手になった左腕でピースサインを作った。

 

 

 

「多分大丈夫よ!」

「多分大丈夫なんですね!?」

 

 

 

この期に及んで今の状況を理解出来ているのかとつい横槍を入れたくなるような、なんとも気の抜けたアオイとアリスのやり取りに呆れ返るKeyは今のうちにどこかに落としたスーパーノヴァでも拾いに行くかとその場を動こうとする、が───

 

 

 

 

「させるとでも?」

「ハッ、でしょうね」

 

 

一気に真正面まで詰め寄ったアオイに、Keyはそれを予測していたのか繰り出された義手による正拳突きをひょいと躱す。

だがアオイもまた回避されることを想定していたようで、ニヤリと口角を上げるとKeyの真横に突き出された義手が駆動音を立てる。

そして次の瞬間、義手からスモークが噴き出してKeyの視界を遮った。

 

 

「貴女達は本当に目眩しが好きですね…今更こんなもの───っ!?」

 

 

今日だけで何度も使われたような搦手に辟易としながらも、視覚に頼らず神秘を辿ることでアオイとアリスの位置を特定したKeyはどちらからの強襲にも対応出来るように身構えるが…アオイのいる方、そちらから突如として発せられた爆音と噴き出るように飛んできた紙吹雪に反射的に顔を腕でガードするような体勢を取ってしまう。

 

 

「サプラーイズ、気に入ったかしら?」

「くっ…!」

 

 

その隙に肉薄したアオイは右腕から繰り出したストレートでKeyの腹部を殴り飛ばし、衝撃でKeyの身体が僅かに浮き上がる。

さらに、すかさず突っ込んできたアリスが飛び蹴りを叩き込み、蹴り飛ばされたKeyは地面を数度転がると受け身を取って体勢を立て直した。

 

 

「スモークにクラッカー…え、それパーティグッズですか?」

「リオ部長作『いつでもどこでもパーティのお供、サプライズストロングアーム君4号』よ」

「何作ってるんですかあの人」

「元々私が無茶出来ないように戦闘に使える作りにしてないんでしょうね。まあ私からすればこんなふざけた機能も使いようってものよ…あとこれ結構楽しいわよ」

「ロマンはありますね。今度ビームとか撃てるように改造出来ません?」

「打診してみるわ…っと、危ないわね」

 

 

馬鹿みたいな機能が存分に搭載された義手に夢中になるアオイとアリスだったが、そこにKeyが大きめの瓦礫を投げつけて会話を途切れさせた。

疲労からか真っ直ぐ立つことすら安定せずふらふらと身体を揺らすKeyは、パキパキと指の骨を鳴らして2人におぞましい殺意の籠った視線を送る。

 

 

「尽く腹立たしいですね貴方達は…何人出てこようと、1人残らず葬ってあげますよ…!」

「限界が近いのはそっちもでしょう?そろそろ幕引きと行きましょうか。アリス、着いて来れるわよね?」

「勿論です!」

 

「死に、なさい!」

 

 

疲労、ダメージ、神秘の消費、ヘイローの損耗…誰がどう考えても動けないだけの消耗をしているにも関わらず、苛立ちという激情を力に変えてKeyは動きを研ぎ澄ませていく。

駆け抜けるような直進は、すれ違った左腕がアオイの脇腹を掠め、それだけで肉を抉って引き裂いた。

想像以上の速度に顔を顰めたアオイだったが、怯むことなく後方に回り込んだKeyの方へと振り返り、再びKeyに肉薄しようと駆け出す。

それと同時にアリスはレールガンを放って牽制を行い、それを避けたKey目掛けてアオイが回し蹴りを放つ。

 

Keyは大きく仰け反るようにして回避し、空振ったアオイの脚を掴んでアリスの方へと投げつける。

アリスはそれを避け…ずにレールガンを盾にするように構えると、アオイは空中で身を捻りレールガンの側面に着地するように足をかけ、曲げた膝を伸ばす勢いで跳ね返るようにKeyへと突撃する。

 

 

「馬鹿の一つ覚えのように…!」

「それは、どうかしら!」

 

 

何度目かの突貫に煩わしさを感じたKeyはさっさと叩き伏せようと左手を構える…が、直前にアオイが義手の左手で指鉄砲のような形を作ったのを見て咄嗟に真横に跳んで距離を取る。

 

しかし、それを予測していたかのようにアリスが一拍置いて跳躍中のKeyへと飛びかかった。

 

 

「小娘っ…!」

「さっさと、ヒナから出ていってください!」

 

 

レールガンを振り回し、上から叩きつけるようにKeyへと振り下ろす。

砲身と地面に挟まれるように地面に落とされたKeyはレールガンを押し付けて地面に固定しようと力を込めるアリスを退けようと藻掻くが、その前にレールガンの引き金が引かれ、ゼロ距離で発射されたエネルギー砲がKeyを飲み込む。

 

激しく爆煙が巻き起こり…抉れた地面を通ってレールガンの拘束から逃れたKeyに、休む暇も与えず背後を取ったアオイが回し蹴りを叩き込んで引き離した。

 

ズザザッ、と地面に足を擦りながら後退したKeyはアリスとアオイに交互に視線を行ったり来たりさせると、アリスを捉えて一気に駆け寄る。

そして真横を駆け抜けるような高速移動と共に、すれ違いざまに振り放たれたKeyの左腕がアリスの脇腹を軽く抉る。

 

 

「っ、このっ…!」

「もういいでしょう、小娘…!」

 

 

追撃しようとするKeyに、反撃しようとするアリス。

距離が近過ぎてレールガンを持っていれば邪魔になると判断したアリスはそれを投げ捨て身一つになると、突き出されたKeyの拳を腕をクロスしてガードするも、その衝撃に吹き飛ばされてしまう。

そして今度こそ息の根を止めようと追撃しようとして…

 

 

 

「アオイ!」

「…ふっ!」

 

 

アリスの呼びかけに、特に言葉を交わすまでもなくアオイは懐から取り出した…普段一応持ってはいるが殆ど使う機会の無いサブウェポンの拳銃をアリスへと投げ渡す。

吹き飛ばされている最中のアリスの軌道を呼んで投げられたそれは精確にアリスの手の中に収まり、既に追ってきているKeyへとアリスは銃口を向けた。

 

 

(今更そんな豆鉄砲…!避ける手間すら惜しいんですよ…!)

 

 

アリスの今の神秘ではあの程度の武装に神秘を込めたところで大した威力にはなるまいと、あえて銃撃を無視してでもアリスを狙おうとするKey。

それでもアリスは真っ直ぐにKeyを見据えて引き金を引き───

 

 

 

 

 

 

 

「『生苦』」

 

 

 

「…は?」

 

 

アリスが放った拳銃の一射。

()()()()()赤い尾を引く弾丸。

その弾丸はKeyの想定を遥かに上回る速度で飛来し、そしてKeyの胸を貫いていた。

 

 

(高圧の血を噴出する勢いを利用して弾丸を加速させた…『赤血秘術』!?これはあの娘の…!)

 

「最後まで、力を貸してくれてありがとうございます。お姉ちゃん」

 

 

モモイが致命傷のアリスを救おうと自身の血を与えた際、同時にモモイの神秘と力もまたアリスへと流れ込んでいた。

それでも一撃限りの微かな灯火でしかないが…その一撃が作り出した隙はこの戦いの天秤をさらに傾ける。

 

思わず貫かれた胸を抑えてしまい、Keyの攻撃しようとする手が止まる。

そこを狙ったアリスの拳がKeyの鳩尾に突き刺さり───黒閃

 

 

激しく瞬く黒い火花により跳ね上がった打撃がKeyを殴り飛ばす。

そして、アリスが輝けばそれに呼応する存在がここにはいた。

 

 

「やっぱり、それでこそシスターよ!」

 

「くそっ…ガフッ…」

 

 

Keyが吹き飛んだ先に回り込んだアオイは、無防備に飛んでくるKeyへと右腕を叩き込み───黒閃

 

その直撃をモロに食らったKeyはさらに吹き飛んで瓦礫の山に突っ込んだ。

 

 

「ああぁぁぁ!腹立たしい、腹立たしい!貴方達は、どこまでも…!」

(後少しだったのに…!終わりかけていたのに…!もうちょっとで勝てたのに…!何故私が追い詰められているのですか…!)

 

 

まるで目の前に見えていたゴールを持ち逃げされたのかの如く、見えていた勝利がどんどんと遠ざかっていく感覚にKeyは慟哭する。

だがその湧き上がる怒りと憎しみは激情としてどこまでも力に変換され、Keyの粘り強さをより引き上げていた。

青天井に激情が増していくKeyを打ち倒すには、アリスとアオイでは手数も決定打も不足している。

それでも…

 

 

「残念ね、Key。貴女、もう私達について来れないわよ」

「っ!?」

「合わせなさい!シスター!」

「行けるんですね!アオイ!」

 

 

僅かな言葉だけでその意図を読み取る様は正に以心伝心。

Keyの理解すら振り切って通じ合っている2人は同時にKeyへと飛びかかって同時攻撃を行う。

対してKeyは真っ先にアオイを潰して再びアリスを孤立させることを選び、アオイの顔面目掛けて腕を振るった。

疲弊している今のKeyでも当たれば余裕で頭がぺしゃんこになってしまうだろう恐るべき膂力のそれが直撃する直前、アオイは両手を構えて───

 

 

 

パンッ!

 

 

 

「っ!」

 

 

手を叩き、それによってアリスと位置が入れ替わる。

ムツキとの戦いで実質的に力を失った筈の『不義遊戯』は、先程の黒閃によるゾーンへの突入で手と手を叩き合わせるという発動条件を土壇場で拡張、義手の左手とムツキに触れられた事で変質した右手でも行えるようにしたのだ。

 

そしてアオイの顔面を狙った放たれたKeyの腕は、入れ替わったアリスとアオイの体格差によりアリスの頭上を掠めて空振る。

すかさずアリスは腕を振るい───黒閃

 

 

「がっ…」

「まだまだこんなものじゃ終わらないわ!景気の良いの行くわよ!」

「アオイ、それはっ…!」

 

 

強烈なアリスの打撃を受けて怯んだKeyをさらに蹴り飛ばしたアオイは、高らかに告げると義手を駆動させガシャンガシャンと無駄に大袈裟な動作で変形させていく。

その間に体勢を立て直したKeyが再び攻撃を仕掛けようとするが、その前に義手の変形が終わり形造られたのは───ビブラスラップだった。

 

 

「「…何故?」」

「多分リオ部長も作ってる時に楽しくなってふざけだしたんでしょうね」

 

 

変形先のあまりの意味不明さに思わずKeyも足を止めアリスと息のあったツッコミを披露してしまう。

その困惑を良いことにアオイはビブラスラップを打ち鳴らし、カァァァン!となんとも間の抜けた音が響き渡る。

 

だが、驚くべきはそれが齎した結果だった。

 

 

 

「…?何が…」

 

 

 

その音が響いた瞬間、Keyは自身の視界が一瞬の内に幾度となく入れ替わったのを見た。

しかし少し気が抜けたお陰で幾分か冷静さを取り戻したのか、少しの困惑の後にその絡繰を看破する。

 

 

(秒間何十回もの位置の入れ替え…恐らくビブラスラップという楽器の振動に合わせてそれが行われた。つまり、あれを1度打ち鳴らすだけで…)

 

 

「自動で馬鹿みたいに入れ替えが行われるってわけ!さあ、年貢の納め時よ!」

「アオイ!これ結構目が回ります!」

「私もよシスター!」

「アオイの馬鹿!」

「すぐ慣れるわ、行きましょう!」

 

「いつまでふざければ、気が済むんですか貴方達は…!」

 

 

入れ替えによる反撃を常に意識しつつアオイとアリスに襲いかかるKey。

それと同時にアオイが再びビブラスラップを打ち鳴らし、秒間での凄まじい回数の入れ替えが行われる。

その上効果の対象はアリスとアオイ、そしてKeyだけではなく…

 

 

(…不自然な位置に移動させられる瞬間がある。恐らく、どこかのタイミングであの娘は神秘を込めた石なりなんなりをばらまいていますね…なるほど、これは───対応するのは、不可能ですね)

 

 

「Keyィィ!」

 

 

Keyからしてみればランダムに行われているとすら思える滅茶苦茶な入れ替え。

しかしそれを操作するアオイと完璧に通じ合っているアリスはそんな滅茶苦茶な入れ替えにすら僅かな誤差もなくタイミングを合わせ、自分の目の前にKeyが出現した瞬間に振り抜いた拳がKeyの顔面を捉え───黒閃

 

 

「くっ…ふふふ…!ここまで来ると笑えてきますね…ええ、本当に…!」

(ですが…間もなく秘儀が復活する。散々腹を立てたせいで逆に神秘が回復しているくらいですよ…出力は落ちてしまいますが、秘儀が復活した瞬間に神秘を解放してこいつらをまとめて塵に変える!)

 

 

アリスとアオイの完璧な連携は確かににKeyを追い詰めている。

だが、それでもKeyの耐久力は2人の予想を遥かに上回り、秘儀が復活するまでに削り切ることが出来なかった。

そして秘儀が復活すれば、戦闘用に作られていないアオイの義手は直ぐに破壊されて先程までのように翻弄することが出来なくなるだろう。

その上今のアリス達に出力が落ちていることを考慮してもKeyの領域にはもう耐えられない。

 

ビブラスラップを使ったトンチキな秘儀の行使による怒涛の攻めがKeyに降り注ぐも、やはり決定打が与えられず、遂に───

 

 

 

 

(秘儀が戻った!今度こそ、終わりです!)

 

「神秘解放───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その瞬間。

Keyはアリスとアオイのさらに後方…戦闘により巻き起こった土煙のその奥にぼんやりと浮かび上がるその姿を見た。

 

 

 

手ずから葬った筈の、()()の亡霊を。

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