土壇場で乱入し、黒閃を叩き出すことで秘儀の復活を成し遂げて見せたアオイとアリスの連携は、確かにKeyを追い詰めていた。
しかしそれでも、異常な粘りをもって立ち塞がるKeyは神秘解放で焼き切れていた秘儀が回復し、アリス達をまとめて始末しようと再び神秘の開放を試みようとする…そんな時だった。
「神秘解放───っ!?」
畳み掛けようと攻めてくるアリスとアオイ、それより後方の戦闘により巻き起こった土煙の中に、Keyは自ら葬った筈の
(いや、違う!あれは…!)
一瞬何かしらの幻覚系の術を受けたのかと錯覚したKeyだが、直ぐにそれが確かにそこに存在している実体である事を悟り、神秘解放を中断して自らの足元を分解…一帯の足場を破壊してアリス達の足を止めさせる。
その隙に大きく飛び退いて土煙の中揺らめく人影に向けてKeyは『解』を放つ。
「なっ!?」
「あれは…」
しかし…その人影はそれを意にも介さず突っ切って来ると、驚くアリスとアオイの間を抜け、『解』の影響を無視してKeyに飛びかかってきた。
そしてその両腕が確かにKeyの両肩を掴み、目の前に迫ったその顔を見てKeyはその正体を察する。
「っ…成程、そこまでしますか!
秘儀の象徴である赤と青のオッドアイを爛々と瞬かせるそれは、小鳥遊ホシノ…その肉体を乗っ取った砂狼クロコのものであると見抜く。
額に入る縫い目から、マルクトから
「何故…小鳥遊ホシノの肉体はその秘儀で利用出来るほど残していなかった筈!マルクトは肉体を乗っ取る時は充分な状態で肉体が保存されていなければいけないと…!」
「ん…君が開いてくれたお陰。探すのには苦労したけど」
「…!まさか…」
Keyの質問に答える余裕を見せながらも、時間が無いことを理解していたクロコは僅かに瞬きをし、その一瞬の内に走馬灯のような物が脳裏を駆け巡り、過ぎ去った過去に思いを馳せた。
『え?本当に勝てる自信があるのかって?』
決戦の日より幾らか前。
クロコは普段は見せないストイックさで夜中1人で訓練に打ち込んでいたホシノにそう質問した。
対してホシノは少しの間キョトンとすると、小さく笑って両手にスポーツドリンクを持ち、その片方をクロコに投げ渡すと近くにあった休憩用のベンチに座るよう促した。
促されるまま座ったクロコ、その隣にホシノも腰掛け、スポーツドリンクを一飲みすると「ぷっはぁ〜」とわざとらしく声を出す。
『ふぅ…クロコちゃんは心配?』
『それは…うん…でも、ホシノ先輩の強さを疑ってる訳じゃない。ホシノ先輩ならきっと勝ってくれるって、信じてる』
『でも、不安は拭えないと』
『…』
『そりゃあ、気持ちは分かるよ。私だって負ける気はないけど、はっきり言って勝てるか分からないもん。だからこそ、私がもし負けた時の為に皆が作戦考えて、Keyとも戦えるように特訓してるわけでしょ』
『ホシノ先輩は、不安?』
『…意外かもしれないけど、怖いよ。こんな気持ちは…いつ以来かな。クロコちゃんは知らないかもしれないけど、おじさん昔1回惨敗したことあるんだ』
『ホシノ先輩が、負けた?』
それをあまりにも驚いた様子で表情に浮かべるクロコをホシノは少し面白がり、薄くニヤけるとまるで武勇伝を語り話すかのようにその時の話を語り聞かせた。
それは決してホシノにとって良い記憶ではない…それどころか苦い思い出である筈だと言うのに、クロコに聞かせるホシノの表情はやけに楽しそうだった。
ユメ先輩やセナと馬鹿をやっていた当時の日々、勘解由小路ユカリという少女との出会い、狐坂ワカモとの戦いでの敗北、ユカリの死、掴み取った神秘の核心、狐坂ワカモへのリベンジ、ユメ先輩との別離…その話は1つの映画のように濃密で、話を聞き入っていたクロコはあっという間に時間が過ぎ去っている事に気が付いた。
『…ん、もうこんな時間…』
『あ、本当だ。話すぎちゃったかな。ごめんね、こんなつまんない話に付き合わせちゃって』
『ううん、ありがとう。聞かせてくれて。ホシノ先輩にもそんな経験があったんだって思うと…なんだが、印象が変わっちゃうなって』
『う〜ん?キュートなおじさんからどう変わったの?』
『乳に縋り付くおじさん。登場人物の八割くらいホシノ先輩が好きそうだった』
『決戦前におじさんショック死しそうなんだけど』
『冗談。でも、ホシノ先もにそんな子供っぽかった時期があったって思うと親近感が湧く』
『それは…嬉しいのかどうなのか…』
月明かりに優しく照らされたクロコの笑顔に、ホシノは彼女と会った当初の事を思い出す。
暗闇ですすり泣き、人との関わりを拒絶し、暗い水の底で沈んでいたような子供。
それを引っ張り上げたのは他でもないホシノで、その後の一波乱も含めてある意味一番思い入れのある後輩と言えるだろう。
『…クロコちゃんは、まだ不安?』
『…うん。ホシノ先輩が大切だから、私は生きて欲しい』
『確約は出来ないかな。私は皆の先輩で、皆を守らなくちゃいけないから。クロコちゃんにも相当大変な役割を担ってもらうだろうけど、一番辛い所は私が頑張るから。だから、もし私の可愛い後輩達が死ぬことになるとしても…それは、私より後にならなくちゃいけないから』
『…』
『私は、最後まで皆を守るから。その為なら、この身この力の全てを捧げたって構わない。それが、先輩である私の責任だから…あ、シュンさんとかフブキちゃん達には無理させないでよ?私の強さあってこそ言える啖呵だからね』
カラカラと笑うホシノに、クロコはその姿がどこか遠いものであるかのように見えた気がした。
もう夜中の2時も周っているため眠気が来たのかとクロコは目を擦る。
そんなクロコにホシノは暖かく見つめると、クロコに向かって身を任せるようにゆっくりと倒れ込み─────ぽよん、とその胸に頭を乗っけた。
『ダウトだ!ぜってぇやると思った!』
『うわぁ!?レンゲちゃん!?いたの!?』
『こんな時までセクハラするとは懲りねぇなクソバカピンク!クロコ!そいつ押し退けろ!』
『で、でもレンゲ…いつから?』
『昔話も一緒に後ろで聞いてたわ!クールに立ち去ろうと思ってたのに雰囲気台無しじゃねぇか!』
『れ、レンゲちゃんこれには深い事情があって…』
『何が事情だ、髪色がピンクなら頭の中までピンクなのか!?クロコの感想通りじゃねぇか乳に縋り付くおじさん!また明日カンナさん呼ぶからな!』
『う、うへぇ〜…』
その後折檻されたホシノは暫くの間クロコへの接触禁止を言い渡されたとか何とか。
『…』
そんな時の事を、治療台の上でクロコは思い出す。
アリスと共に戦い、そしてKeyに胸を貫かれ心臓が激しく損壊しているクロコに残された時間は少なかった。
ココナによって回収された怪我人の処置を担当していたセナやマシロが何か慌ただしく声を出しているのをぼんやりとした意識の中クロコは聞いていたが、そんな意識のはっきりしない中でも確かに自分の片割れのような存在…プレナパテスとの繋がりは確かに感じていた。
プレナパテスが必死にクロコに力を供給し続けているからこそ、クロコは即死せずに未だ命を保つことが出来ているが、それにも限界がある。
マシロの秘儀は怪我の悪化を防ぐが今のクロコの状態では焼け石に水にしかならず、セナやクロコ自身の恐怖で治療するにはあまりにもその損傷は深刻だった。
少し離れた位置からじっと自分を見つめるプレナパテスに視線を向けたクロコは、プレナパテスの光のない穴のような目の奥から伝わってくる思いを感じ取り、自分の下に敷かれているシーツをギュッと握り締める。
(…センセイから、伝わってくる…センセイの内側、
それは、Keyの保有する秘儀。
しかしその力の原点は同一なのか、同じ秘儀を持っているというだけでクロコもその原点に接続することが出来ていた。
本来ならばクロコにそれを開くことは出来ないが…今は、Keyが『
そう…Keyが分解した全てのものが格納される、『
(この中に、ある筈…それを取り出して、秘儀を反転すれば…)
クロコはプレナパテスに
そしてそれを通して『
(分解の秘儀を反転させて…
『ど、どうしましょう!?血が止まりません…!』
『デ、デモ…』
『なんとか延命だけでも…何です…?』
異変に気付いたセナは手を止め、その方向を見る。
そこには、下半身だけの遺体…その消失していた筈の上半身部分を取り巻く光の粒子が次々と結合されていく様があった。
それに気付いたマシロや手伝いをしていたミノリもつい手を止めてしまいその光景に見入る。
集まった光の粒子はやがてひとつに纏まり────失われていたホシノの肉体を復元させた。
『何が…』
『せ、な…さん…』
『っ!?クロコさん!?大丈夫ですか!?』
『せな、さん…許可を、下さい…私と、ほしの先輩に…もう一度だけ、戦わせてください…』
『あれは…クロコさんがやったんですか?』
『時間が、ないんです…今から、センセイに取り込ませたマルクトの秘儀で、ほしの先輩のからだを、使います…せなさんにしか、許可を求められる人が、いないんです…』
『…!』
クロコはホシノの肉体を再構築したが、既に壊れたヘイローまでは復元することは叶わずホシノを蘇生することまでは出来ない。
だが死んだ肉体でもマルクトの秘儀ならば形さえ残っていれば健康な状態で乗っ取れることはユメの事例から確認済みで、そのマルクトの秘儀は撃破した後に残った死体をセンセイに格納させて取り込ませた事で
それに思い至ったセナは一瞬目を伏せ巡査するも、段々と声が掠れていくクロコの手を取ってよく聞かせるように問う。
『本当に、良いんですね?』
『…』
(最後まで皆を守るから。その為なら、この身この力の全てを捧げたって構わない…か。お願い、ホシノ先輩。最後に、私達を守って)
『お願い、します…』
『…ミノリさん!アヤネさん達にホシノ先輩用の武装を用意させるように伝えてください!』
『!?』
『早く!』
『デ、デモ!』
『マシロさんはクロコさんにもう一度秘儀を全力でかけてください!』
『は、はい!』
バタバタと駆けていくミノリを見送ったセナは、クロコを寝かせた治療台をホシノの遺体の側まで移動させると、形だけは綺麗に元通りになったホシノの遺体その頭をポンと撫でた。
『…クロコさん。どうか後悔することの無いように』
『ありがとう、ございます…レンゲ達には、私が謝ってたって、伝えてください…』
クロコはセナの手を借りてホシノの遺体の手をギュッと握ると、秘儀を発動させるためにその名前を呼んだ。
『最後に、力を貸して───センセイ』
”頑張れ、クロコ”
「…アリスとアオイは下がってて」
「ホシノ先輩…いや…クロコ、先輩…?」
「…本当に、尊敬するわ」
「冗談じゃ、ありませんよ…!」
アリスとアオイに距離を取るよう伝えたクロコはKeyの目の前まで歩み寄ると、掌印を構える。
既に疲労困憊の様子のKeyも、それに対抗する為に結局掌印を結ばざるを得ず、結果として───
「「神秘解放────
────アイ・オブ・ホルス」
────アトラ・ハシース」
同時に開放された神秘、展開された領域。
Keyとクロコを、延々と広がる広大な砂漠…その上空に巨大な目と巨大な天空要塞が浮かぶ領域が取り囲む。
Keyの領域はその必中効果範囲の広大さにより本来ならば押し合う相手の領域を外側から粉砕することが可能だが、ホシノの肉体に乗り移った今のクロコはホシノの記憶からそれに対抗するためのノウハウを得ており、領域の外殻を強固にするという手法である程度の領域の維持に成功していた。
(とはいえ、それもいつまでも持つわけじゃない。Keyの力が確実に弱まってるとはいえ、私自身ホシノ先輩の力を万全に使えないのを考慮すれば結局領域を持たせられるのは1分程度…いや、Keyが領域の効果時間を伸ばそうとさらに領域のグレードを下げてるなら3分は持つかな。なんにせよ…この肉体の乗っ取りの秘儀は私の
クロコの懸念は、
もしこれが発動した時点で秘儀の処理が終了しているのであれば、
だが乗っ取りの秘儀が常時処理を続けて肉体を操作する仕様だとすると、
(現時点で乗っ取った肉体…ホシノ先輩の身体に刻まれてる秘儀は問題なく使える…でも私の身体の方で模倣していた秘儀は使えなくなってるから、肉体を変えた時点でそっちは破棄されてるのは間違いない。
「またまたタッグマッチでごめんね」
「マルクトのも良い趣味とは言えませんが…貴女にそれを使われるのは反吐が出ます。本当に貴女達は人の神経を逆撫でするのが得意なようですね…!」
クロコは残された時間でKeyの領域を破壊することを第一目標に、今の内にアリス達を休ませ少しでもダメージを稼ぎ、あわよくば『アイ・オブ・ホルス』の効果でそのまま撃破することを目指す。
対してKeyはクロコの領域を先に破壊し、押し勝った領域をそのまま拡張してアリス達をまとめて飲み込み皆殺しにすることを目論む。
(短期決戦を狙わなければいけないのはこちらも同じ…生涯忘れないとは言いましたが、暫くは記憶の片隅で静かにしてもらいますよ!)
クロコは背中に背負っていたショットガン…愛用だったものは復元する時間が無かった為、ホシノの私物の予備として死蔵されていたそれを取り出し、Keyへと照準を合わせる。
対してKeyは上手く力の入らない身体に鞭打ち一気にクロコと間合いを詰めると、ショットガンの銃口を掴み自分から逸らした上でクロコの腹部を蹴り上げ、捉えたクロコごと脚を振り回して地面に叩きつけるように転がす。
直ぐに起き上がって体制を立て直そうとするクロコにKeyは腕を振るうも、それを見越したクロコは逆にKeyの腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばし、今度こそショットガンの照準を合わせて…赤色に瞬いた光が撃ち抜いた。
「ぐっ…」
(Keyは展延で『ウジャトの目』の不変を貫通して私にダメージを与えられるけど、スーパーノヴァの秘儀をカンナさんに奪われて、右腕ごとそのスーパーノヴァも取り落としてる今のKeyには展延以外で私の不変を破る手段は無い!アドバンテージはこっちにある!でも…)
「その、程度ですかぁ!」
『ウジャトの目』の再生を反転することにより発生する破壊の力を打ち出す『宵』
それがKeyに与えたダメージはホシノが放った時と比べれば明らかに軽微で、どれ程術者が劣化しているかKeyには良くわかっていた。
当然だ、生まれながらにその秘儀に向き合い研鑽し続けた者と、そのノウハウ自体は記憶と肉体に残る感覚から得ていてもついさっき手に入れたばかりの者。
それが引き出せる性能が同じなわけがない。
加えて───
「ふんっ…!」
「む…」
クロコの放った蹴りはKeyの脇腹を掠め、反撃に繰り出された拳を捌こうとして受け流しきれずに軽く頬に被弾してしまった。
(距離感間違えた…使わせてもらってる身で悪いけどホシノ先輩身体小さすぎ、チビホシノ先輩。こんな体格であんなに戦えるなんて…凄いなぁ、本当に)
歳の割にはあまりに未発達な体格は同年代と比べても体格の大きいクロコからすればあまりにも身体の操作感が異なり、片腕を失い極限まで疲労が蓄積しているKeyにすら肉弾戦で遅れを取る程に肉体を上手く制御出来ていなかった。
それに加えて秘儀の劣化…不変と回復の為に自分自身に秘儀を使い続けていれば、その分の操作に意識が割かれて別途で使用しようとしても上手く力の配分が出来ず、先程の『宵』のように威力が低下してしまう。
(なんとか、もっと上手く使えるようにしないと…!)
「考えてる余裕があるのですか?」
「っ!」
思考を全力で巡らせるクロコに、思っていたよりは御しやすい相手だと内心ほくそ笑んだKeyは攻め手を強め、思考の隙も与えないようにクロコをガードの上から強く殴り飛ばし、吹っ飛んで行った先に向かって飛び蹴りをかけさらにクロコを蹴り飛ばす。
「うっ…」
「その覚悟には驚嘆しますが、所詮貴女は小鳥遊ホシノにはなれません!小鳥遊ホシノは本当に強かった!私がこれまで戦ってきたどんな相手よりも!それを、貴女如きが同じ肉体と秘儀を手に入れただけで並べる筈も無いでしょう!」
「そんなこと…私が誰よりも分かってる!」
思いの丈を吐きながら連続で殴りかかってくるKeyに、防戦一方だったクロコも負けじと殴り返す。
クロコは知っている。
ホシノはあの夜昔は強くなる為に必死に努力を重ねていたと語ったが、それは今になっても同じことだと。
封印から解放された後も、訛った身体を叩き起こそうと人知れず特訓に励んでいたことを。
そして、自分がそんなホシノに追いつける筈がないということも。
それでも…
「私は…特異現象捜査部2年、砂狼クロコ!私にも、可愛い後輩がいる!だから…先輩として、その責任を果たさなくちゃいけないんだ!」
「笑わせ、ないでください!それは驕りです!貴女如きが小鳥遊ホシノと同じ責任と覚悟を背負うことが出来るなどと───」
(───小鳥遊ホシノと、同じ?)
クロコの慟哭に言い返そうとしたKeyだが、その時とある事を思い出す。
Keyはクロコの制限時間の懸念に思い至っており、どの道この領域が崩壊すればクロコが戦闘不能になるだろうことを。
だとすれば、それを想定している筈のクロコがこのまま肉弾戦と威力の劣化した『ウジャトの目』だけでKeyを削り切れる気でいるのかと。
(もし、砂狼クロコがここでの戦いの先を想定していないとすれば…この時間で、私に最大限のダメージを与えるために取る手段は───)
『クロコちゃんはさ、神秘の扱いがちょっと雑だからね。フブキちゃんに普段から注意されないの〜?』
『う…』
『おいクソバカピンク、お前は相変わらずクロコにだけ厳しくするなぁ』
『逆にクロコにだけ厳しくするのは私達も割と傷付いているのだが…』
『デモ!』
(思い出して…丁寧に、一つ一つホシノ先輩の記憶を読んで、身体に残る感覚を頼って…力を紡ぐ)
「地平、天空───」
「させるわけが、無いでしょう!」
「うぐっ…!」
クロコは掌印を構え詠唱を始めるが、急接近したKeyがその掌印を掴んで妨害し、顎下を蹴り上げて詠唱を中断させる。
そもそもホシノですらKey相手には策を練り、意表を突き、全力で押し通して成功させたそれ。
Keyが弱っているとはいえあらゆる面で劣るクロコが真正面から向かい合って成功させられる筈もなし。
(『暁』を出すにはタメがいる…そんな隙は与えない!)
(…いや、通す。急いで装備を用意してくれたけど…こんなものまで渡してくれるなんて…本当に、
「『宵』」
「そんなものっ…!」
クロコは後ろに跳ぶとショットガンをKeyに向け、銃口に瞬かせた赤い光を打ち出す。
明らかに苦し紛れで放たれ威力も劣化したそれをKeyは片手で弾くが…光が目眩しとなり同時に投げられていたそれに気付くのが遅れてしまっていた。
『宵』を弾いたKeyの目の前に投げられていたそれは…
(…ボイスレコーダー?)
『働くな』
「がっ…」
それは、ミノリがクロコの為に渡したもの。
ミノリの秘儀は電話を通しても対象に効果を与えることが可能で、それは本人の声でさえあれば電子機器を通しても秘儀の効果が適応されることを意味する。
そしてその効果は時間差さえ超えて…今この瞬間確かにKeyの動きを僅かに止めることに成功した。
「ゲホッゴホッ…」
「ミノリさん!?」
治療室では回収された他の怪我人の治療をするセナやマシロを手伝っていたミノリが突然血を吐き出した事でマシロが驚いているが、それを覚悟していたミノリは反動で即死しなかったことにだけ感謝して心の中でクロコへとエールを送った。
(かっ飛ばせ、クロコ!)
(ありがとう、ミノリ。ありがとう…皆)
「地平、天空、ホルスと明星、昼夜の狭間───」
「───虚式『暁』」