ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作263〜265話までの範囲でお送りします


忘れられた神々のためのキリエ

 

死んだホシノの肉体を復元して乗り移るという方法で戦線に復帰したクロコと、Keyの領域が押し合い作り上げられた黒い球体のような結界。

それが内側から紫色の光とともに爆ぜ、浴びただけでビリビリと痺れるような衝撃波が領域の外で待機せざるを得なかったアリス達を襲う。

 

思わず吹き飛びそうになったアリスを後ろからアオイが支えてその場になんとか留まり、同じく爆風に煽られてぶっ飛ばされそうになっている上空の級友(フウカ)をアオイが気にしていると、爆煙から1つの人影が飛び出してきた。

 

 

「ぐっ…砂狼、クロコォ…!」

 

 

至近距離からまともに防御することも出来ずにクロコの『暁』を受けたKeyは最早息も絶え絶えで、全身もズタボロ。

ヘイローはとっくに致命傷になっていてもおかしくない程にひび割れてるが、それでも尚健在であった。

だが流石に疲労とダメージが積み重なり過ぎたのか長い髪が汗でベタついているようで、自分の前髪を邪魔そうに払っているところに顔を合わせて頷き合ったアリスとアオイがすかさず攻撃を仕掛けに行った。

 

同時に、晴れた爆煙の中に見えたクロコを見つけたアオイはそちらにも声を掛ける。

 

「秘儀が回復したら何度でも『暁』を撃ち込みなさい!私達は避けてみせるから、気にせずに…っ!」

「クロコ先輩!?」

 

しかし、立ち尽くしていたクロコは力尽きたかのようにその場に倒れ込んだ。

その事に気を取られたアリスは意識をKeyから離してしまい…逆にその隙を突いて一瞬で肉薄したKeyの腕がアリスへと迫る。

 

掠めるだけ肉体を抉り取ってくるあの豪腕がアリスを首ごと持っていこうとするが、咄嗟にアオイがアリスを蹴り飛ばして攻撃範囲から引き離す事で難を逃れる。

とはいえ直ぐに追撃が来てしまうだろうことにどうやって対処しようかと頭を悩ませるが…そんな中アオイは先程内側から爆裂したクロコの領域、その結界の破片が周囲を未だ漂っている事に気が付いた。

 

(…結界術は神秘解放で焼き切れる秘儀とはまた別のもの。意識的に崩れた結界の破片を維持してるの?神秘の扱いは大味な奴だとは思ってたけど、知らないうちに成長したものね。ともあれ…これでもう少し戦える!)

 

内心クロコに賛辞を述べたアオイは、一旦元に戻していた義手を再びビブラスラップに変形させると、それを叩いて周囲を漂う無数の結界の破片とKeyを瞬間的に次々と入れ替えた。

アリスに追撃しようとしていたKeyはそれに驚きつつもアオイの方を狙おうとするが、最早アオイ本人ですら何処と入れ替えてるのかすら分からない無茶苦茶なそれ。

毎秒数十回行われる入れ替えにさしものKeyですら狙った目標をまともに攻撃することが出来ず、中々攻勢をかけることが出来ずにいた。

 

(あの娘の目的は…私の体力を削ぐこと?しかしあまり時間をかければこちらの秘儀が回復しますが…神秘の残量は不安ですが、まだ…まだこいつらを殺し尽くすだけならばまだ…足りる。ならばのらりくらりと躱すとしましょうか)

 

その狙いが分からないながらも、どうせ今はろくに対処出来ないなら深追いする必要もないと秘儀が回復するまで奇襲を警戒しながらもそれに付き合う事を決めた。

 

一方、アオイのフォローを受けて蹴り飛ばされたアリスはぶつけた頭を抑えながらアオイの元に戻ろうとするが、丁度吹き飛ばされた方向に倒れてたクロコの姿を見つけ、アオイの様子を見て…暫くは大丈夫そうだと信じると、クロコの元に駆け寄った。

 

「クロコ先輩!クロコ先輩!大丈夫ですか!?」

「…ゴホッ…しくじった…今ので、倒し切りたかったけど…」

「クロコ先輩…まだ、動けますか?」

「…何かしら、準備して備えればマルクトみたいに、こうは…ならないんだろうけど…この身体を動かしてる秘儀そのものが焼き切れてるから、身体が動かせない…神秘は、ちょっと使えるけど…もう、長くは持たない…」

「…安心してください、クロコ先輩。Keyは、必ずアリス達が倒しますから!だから…今は休んでてください」

「…待って」

「?」

 

クロコにそう伝えると、アリスはKeyの相手をするアオイに加勢しようとする。

が、それをクロコが呼び止めた。

 

「少し、話すから…よく聞いて…」

「は、はい」

「…さっき戦った手応えで、なんとなく分かった…今のKeyを、普通の物理的な手段で倒すのは…無理…アリスの、ヘイローを捉える攻撃でも、ただ殴ってるだけじゃ、きっと倒しきれない…」

「それは、どうしてですか?」

「Keyのヘイローが、ヒナのヘイローに強く侵食してるんだと思う…このままじゃ、ヒナは助けられない…助け、たいんでしょ…?」

「…はい」

「なら、上手くやって…侵食されたヘイローの境界を叩くだけじゃ、ダメ…その境界を、削って切り離すイメージで…アリスなら、きっと出来るから…」

「…ありがとうございます、クロコ先輩。後は任せてください」

 

クロコからのアドバイスを受けたアリスは大急ぎで戦線へと復帰する。

そこではアオイがKeyを翻弄していたが、結界の破片の維持が弱まって来ているのか段々とその数を減らし、入れ替えの対象が減ってきた事でKeyも着々と対応が進み始めていた。

 

「そちらも限界では無いですか?秘儀の燃費は随分と良さそうですが、こう絶え間なく何度も使い続けて入れば一気に神秘を消耗するでしょうに!」

「うるっさいわね!あっちこっち現れたり消えたりして絵面が面白い事になってる奴に言われたくはないわよ!名も無き神々の王女の威厳が台無しね!」

「威厳なんてもの馬鹿な友人のせいでとうに失ってますがね…勝手に畏怖しているのは貴女方でしょう…そして、小娘も本当にしつこい事この上ないですね」

 

「待たせてしまってすみません!アオイ!」

「良いわよ、クロコと話していたのでしょう。いよいよ大詰めと行きましょうか!」

「はい!」

 

アオイの横に並び立ったアリスはレールガンを構えるとそれをKeyに向けて発射する。

Keyはそれを回避しようとするが、アオイはビブラスラップから元の魏義手の形に変形して戻し、手を叩いて射線にあった結界の破片とKeyを入れ替えて無理矢理攻撃範囲に戻し、エネルギー砲を直撃させる。

それによって生じた爆煙を突っ切って飛び出てきたKeyを再び入れ替えて翻弄しようとするアオイだが、そこでクロコの結界の破片の維持が途切れてしまい、入れ替え対象となる結界の破片がもう残っていない事に気がつく。

そこで横目で一瞬アリスに目配せすると、手を叩いて自分とKeyの位置を入れ替えた。

 

それによりKeyの攻撃は空振り、その直後にアオイの意図を汲んでいたアリスはKeyが出現した瞬間に腹部目掛けて拳を叩き込んだ。

 

 

「ぐっ…がっ…!?」

 

 

その打撃に苦い表情をするKeyだったが、そこで今までアリスから受けてきた打撃とは何かが違う感触に思わず飛び退いてアリスから距離を取った。

 

(今の激しい痛み…ヘイローを直接揺すぶられてた今までとは違う…まるでヘイローそのものを鑢にかけて削られたような…小娘は一体何をして…!?)

 

「いい加減に、その身体を返してください!」

 

休む間もなく攻め立てようと猛攻を仕掛けようとするアリスに、Keyは今は秘儀が回復するまで回避に専念しようとする。

時折放ってくるレールガンのエネルギー砲を左右に躱し、迫っては振るってくる腕は上手く捌いて直撃を避ける。

本来ならば攻撃の合間に反撃に出るところだが、今のKeyにそれが十分に出来るだけの余裕は無かった。

 

 

(ですが秘儀さえ戻れば…!もう一度神秘を解放して今度こそ…いや、待ってください。あの娘はどこに…?)

 

 

この後の構想を練っていたKeyだが、アオイの姿が見当たらない事に気が付き一度アリスから大袈裟に距離を取る。

何度も翻弄された相手だからこそ何を仕掛けて来るのかを警戒するKey…その目の前に、小石が一つ落ちてきた。

…神秘の籠った、小石が。

 

 

「っ!」

 

 

次の瞬間に、目の前の小石がアオイと入れ替わる。

既に回し蹴りの体勢に入っているアオイにKeyは姿勢を低くすることで回避しようとするが…その時、アオイはさらにもう一度手を叩き鳴らした。

この状況で入れ替えるならばアリスが来るのかと身構えるKey。

しかし───

 

 

 

 

 

 

 

「救…護!」

 

「なっ…!?」

 

 

アオイと入れ替わったのはアリスではなく、いつの間に来ていたミネ…Keyにとっては長い付き合いの相手であるミネルバだった。

出現と同時に秘儀を解放しKeyを焼き、同時にミネルバから吹き上がった神秘…病を取り除く特性を持ったそれがヒナの肉体に巣食う”病”であるKeyを引き剥がそうとする。

 

この距離では不味いと飛び退こうとするKeyだが、ミネルバも逃がすまいとKeyの腰へと抱きついた。

 

「何故、ここにぃっ…!」

「翼が落ち片脚を失い…まともに戦える力を失おうと!今の貴方を前にして、皆さんが命を懸けているというのに!黙って見ていられる筈が無いでしょう!」

「っ…やはり、邪魔ですね…!」

 

Keyは上空を旋回して戦況を観測しているフウカを見上げ、あれをさっさと落としてしまわねば幾らでもタイミングを測って馬鹿を投入されかねないと狙いをつけようとする。

だが当然ゼロ距離で縋り付くミネルバがその他に狙いを向けさせる筈もなく、自身から吹き出す神秘の勢いを強め、解き放つ秘儀の出力を上げ、より強くKeyを焼き尽くさんとする。

 

とはいえ、以前Keyがヒナを乗っ取った時の交戦で翼をもがれ片脚を分解されて失っている今のミネルバにはKeyとまともに取っ組み合い出来るだけのパワーは無く、組み付いている状態で何度も腹を膝で蹴り上げられ、引き離されてしまう。

 

そしてまた組み付かれる前にフウカを狙って飛び上がる。

突如自分を狙ってきた事に驚いて逃げようとするフウカだが、本人がこの戦闘に着いてこれるほどの能力を持っていない為に反応が間に合わず───Keyがフウカへと届く直前、何処からか手を叩いた音が鳴り響き、フウカがアオイと入れ替わる。

 

 

(仲間の身代わりになりに来ましたか…甘いですね。それはそれで好都合です)

 

 

ならばアオイから沈めようとKeyは腕を振りかぶり───黒閃

 

 

「がはっ…」

 

 

アオイの腹部を捉えた腕からは黒い火花が迸り、威力の跳ね上がった打撃がアオイの骨を砕く音を鳴らす。

下手をすれば内臓まで損傷しているだろう一撃にアオイは激しく血を吐き、Keyも邪魔だった相手をようやく片付けられたとほくそ笑む。

 

「く…ふふっ…」

「?」

 

間違いなく戦闘不能…だが、不敵に笑ったアオイはそれでも最後に仕事があると言わんばかりに力を振り絞って手を叩いて見せた。

何をするつもりなのか、何にしても面倒なことをするつもりだと判断したKeyはアオイと何かが入れ替えられることを見越してもう1発腕を叩き込む準備をして───アオイと入れ替わったミネルバが、再びKeyへと組み付いた。

 

「チッ!また…!」

「感謝します、アオイさん───救護ッ!

 

元々アオイを殴った直後の状態、そこで位置が入れ替えられたことで至近距離に出現したミネルバから放たれる神秘と秘儀を避け切れる筈もなく、Keyは自分の力が弱まっていくのを感じた。

いつまでもこいつに炙られ続けていては本当に取り返しのつかないことになると、肉体の限界なのかミネが組み付く力はそう強く無いことに安堵しつつさっさと引き剥がして地上へと投げつける。

 

本人の弱りようからしてもこれで致命傷になる…かと思いきや、ミネルバが地上に叩きつけられる直前。

その方向へ先回りしたアリスがミネルバを受け止め、ゆっくりと地面に下ろした。

 

「アリス、さん…私の『秘儀を消滅させる秘儀』で空崎ヒナさんの肉体の中あるKeyの機器部品(モジュール)そのものを、そして私の神秘の特性で空崎ヒナさんの肉体とヘイローへのKeyの癒着そのものを弱めました…今なら、貴女の攻撃に対するKeyの耐性は無いに等しい筈です…」

「はい、ありがとうございます。後は任せてください。今度こそ、終わりにします」

 

アリスと問答をしたミネルバ。

それをアオイと入れ替えられてから戻ってきたフウカが回収し、安全な場所へと運んで行ってしまう。

 

 

「最後に残るのはやはり貴女ですか…忌々しい」

 

 

ミネルバが運ばれるのを見届けたアリスはレールガンを構えて地上に着地したKeyを見据え、鋭い視線を投げかける。

対してKeyもまたここまで長く自分と向き合ってきたアリスを見据え、戦いの終わりを感じ取っていた。

先程アオイに直撃した黒閃…それはKeyの神秘の出力、そして恐怖の出力を回復させ、レンゲに切り落とされた右腕が遂に再生されてしまう。

 

 

「…全力で行きます」

「来なさい」

 

 

一言ずつの会話。

それをきっかけに駆け出したアリスはKeyに迫る直前、スライディングをするように地面を滑ると手のひらを地面に触れさせ、『解』を発動。

足場が崩れ踏ん張りの効かなくなったKeyに跳ねるように起き上がりながら拳を叩き込む。

それを腕でガードしたKeyだが、受け止めた直後に再び先程同様の…それ以上の激痛が走り、追撃を受けないよう敢えて衝撃に身を任せて自分から後方へと吹っ飛ぶ。

 

(今の攻撃…秘儀の対象の拡張ですか。小娘の『解』が、私のヘイローと空崎ヒナのヘイローの境界そのものを侵食して分解している。なるほど、これをあと数発でも叩き込まれてしまえば無理矢理空崎ヒナの肉体から引き剥がされてしまいますね…()()()()、の話ですが)

 

吹き飛ばしたKeyに追い縋って再度攻撃を叩き込もうとするアリスだが、Keyは再生させたばかりで右腕の扱いに苦労していたのか、少し慣らすようにグッとストレッチをすると、目の前に迫ったアリスの顔にカウンターの拳を叩き込んだ。

殴り飛ばされそうになったアリスはレールガンを地面に突き立てることによってそれを防ぐと、殴られ仰け反った頭を戻す勢いでKeyの額に頭突きを喰らわせる。

 

さらに軽くよろめいたKeyにレールガンの砲口を押し付けゼロ距離で発射しようとするも、レールガンを持つ手を蹴り上げられ失敗に終わり、さらに追撃の回し蹴りとアッパーカットをモロに食らってしまう。

 

「うぐっ…」

「片腕のハンデがあって先程までの結果でしたのに、それが無くなればどうなるかは必然でしょう?」

「…痩せ我慢も程々にしてはどうですか?そっちだってパワーも動きのキレもガタ落ちしてるじゃないですか」

「それに着いてこれていないのが今の貴女でしょう。負けを認める時ですよ、小娘。貴女の攻撃は、もう私には当たりません」

「…」

 

実際、このままでは間違いなくアリスが負ける。

アリスの攻撃は今のKeyにとって致命傷になるが、幾ら頑張っても先程の頭突きのような威力の乗り切らない小技をぶつけるので精一杯だろう。

そしてそれではKeyは倒せない。

アリスの全力の攻撃を当てられない限り、Keyには勝てない。

()()()()()()限りは。

 

 

 

(…思い出してください、これまで積み上げてきたことを。S.C.H.A.L.Eで…特異現象捜査部で学んできたことを。そして…ホシノ先輩から教わったことを)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず、この領域を広げるのには滅茶苦茶神秘を消耗するけど、その分利点も多いんだ。一つは、領域の環境によるステータス上昇って言えばいいかな?』

『つまりバフということですね』

『そんな感じ。そしてもう一つが、領域内での攻撃が絶対に当たるんだ』

『ぜ、絶対ですか?』

『そ、ぜーったい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今のアリスがKeyに勝つ為に必要なもの…たくさんの人が傷付いて、大切な人達も死んで…今のアリスは、誰よりも怒っているから。誰よりも悲しんでいるから。この激情という名前のインスピレーションを、力に変えて…!)

 

 

 

「神秘解放───」

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何ですか、これは」

 

Keyが気が付いた時、目の前に広がっているのはどこかの駅のホームのような場所だった。

先程まで激戦を繰り広げていた筈の荒れ果てた街並みは無く、遠くには人気こそないが普通の都会の街並みが見える。

このような状況になる直前、Keyが見たものは掌印を結び()()()()を行っていたアリスの姿だった。

あれは、紛うことなく…

 

 

「Key、行きましょう」

「…」

 

 

駅のホームのベンチに座っていたKeyに、後ろを通り過ぎながらアリスがその肩を叩いてきた。

Keyはどうするべきか考えたが…何故か早々にそれに付き合うという結論を出し、アリスの跡を追った。

 

ホームにやってきた電車に乗り、揺られながら暫く進んで到着したのはどうしてかKeyにとっても不思議と懐かしさすら覚えるような場所だった。

 

「…神秘を持つ者同士の戦いの最中、稀に相手と精神的に繋がる時があります。これは神秘が感情に由来するものだからと仮説を立てていますが…今の()()は違います。何ですかこれは。貴女の領域ですか?」

「アリスだって必死でしたんですからよく分かりませんよ。今はただ…どうしてもKeyと話す時間が欲しかったんです」

「…フンッ」

「あ、あれ見てください。この辺の名物の関数電卓型記念碑ですよ」

「いや知りませんよ」

「安心してください、地元の人じゃなかったら大体知りませんから」

 

先程まであれだけ殺し合ったというのに、それを忘れたかのように他愛ない話を投げかけてくるアリスにKeyは奇妙さを抱き何かの罠にでも嵌められてるのかと勘繰ってしまう。

そんなKeyの警戒とは裏腹にアリスはKeyを連れ回し、次にやってきたのは大きな病院だ。

 

「ここ、アリスの友達が入院してた場所なんですよ。元々アリスは小さい頃はやんちゃしてて、昔から身体は頑丈でしたので怪我とかはあまりしなかったんですが、変なものでも拾い食いしたんでしたっけ?それで体調を崩して…その時にその友達にあったんです」

「ここまでロマンスも風情も無い出会いをするのは小娘だけでしょうね」

「同じくらいやんちゃしてる人なんて幾らでもいますよ。キヴォトスですからね。それで、その友達は元はトリニティの偉い人だったらしいんですけど、身体が弱くて直ぐに入院生活をする事になったそうです。その人は当時の小さかったアリスによく色んな話を聞かせてくれたんです。小難しかったり長かったりであんまりその話の内容は覚えて無いんですけどね」

「これだから小娘の頭は駄目です。関数電卓でももっとマシな記憶力がありますよ」

「気に入ったんですか関数電卓」

「気に入ってません。電卓にされたくなければその煩わしい口を閉じなさい」

「むぅ…なんにせよ、こう言っちゃうとモモイに怒られるかもしれませんが、アリスにとっては友達であり、そしてお姉ちゃんみたいな人でした」

 

容赦のないKeyからの言葉にムスッとしつつも次の場所へと進むアリスに、それを追いかけながらKeyはそういえば昔もマルクトだったかデカグラマトンだったかの馬鹿共に同じようなツッコミをしたことを思い出す。

そしてそう思い返してみれば、今はそんな馬鹿共ももういないことに一抹の寂しさを感じたような気がした。

 

そう思いに耽っているといつの間にか目的地に着いていたのかアリスが足を止めていた。

そこにあったのは、街の一角に聳えるなんの変哲もないゲームセンターだった。

 

「ここはよく遊んでいたゲームセンターです。レトロな格ゲーやシューティングゲームは勿論、クレーンゲームにエアホッケー、最新のゲーム台まで色々揃ってるんですよ」

「ふむ、ゲームは幾つか嗜んでみましたが、こういった場所には来たことがありませんでしたね」

「勝手にヒナの身体でゲームしないでください。というかソシャゲとかにまで手出してましたよね?」

「…空崎ヒナの記憶にあったものが口から出てしまっただけでしょう、私はやってません」

「ヒナはそんなにゲームしませんよ」

 

ヒナに擦り付けようとするもののあっさり見破られ、「ぬぐぐ…」と恨めしくアリスを睨むKey。

そのままゲームセンターの中を散策していると、アリスは適当に目をつけたゲーム台無しの一つに腰掛け、その席の隣に座るようKeyに促した。

 

「…なんのつもりですか?」

「そういえば随分前…アリスが死んだことになってホシノ先輩からクソゲーやらされてた時でしたっけ?あの時Keyにゲームで勝てませんでしたし、この際リベンジしようかと。1人のゲーマーとして負けっぱなしではいられませんからね」

「またどうでもいい記憶を…何度やっても貴女如きでは私に勝てませんよ」

「言いましたね!その余裕を引っぺがして───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───何でですかぁ…」

「だから言ったでしょう」

 

画面にでかでかと表示される「You Lose」の文字。

台に突っ伏すアリスをKeyは鼻で笑い、さっさと席を立ってしまう。

アリスも慌てて追いかけてKeyを追い越し、再びペースを握ろうと次に案内したのはゲームセンターの端に設置された古いゲーム…ピンボールの1種、スマートボールだった。

 

「今度はこれをやりましょう!昔何度もやったので自信があるんです!」

「ゲームはゲームでもボードゲームじゃないですか…小娘の癖に狡い真似を…」

「おや、名も無き神々の王女ともあらせられるお方はこんな古典的なゲームでも勝つ自信が無いんですか?」

「…そこまで言うならば良いでしょう。あまり貴女に調子に乗られるのも癪です」

「ふふふ、かかりましたね!このゲームは昔からやって感覚を掴んでいるアリスの方が圧倒的に有利!今度こそ勝たせて───」

 

 

 

 

 

 

 

「───何でですかぁ…」

「いい加減学びなさい、小娘。この程度打ち出す力と打ち出されたボールの軌道を事前に予測し演算すれば狙った穴に入れることなど容易いのです」

「うわーん、狡いです!」

 

結果はアリスのボロ負け。

先に一列揃えたKeyは台に突っ伏すアリスを憎たらしい表情で見下し、良い機会だとげしげしとアリスを軽く蹴ってちょっかいをかける。

鬱陶しくなり起き上がってそれを辞めさせたアリスは拗ねたようにゲームセンターを後にし、次の場所へと案内する。

 

不意にちゃんと着いてきているのか少し気になってアリスは後ろを振り返ると…

 

「…何ですかそのキモイの」

「先程の店内にありました。中々愉快な造形をしていると思いませんか?」

 

ゲームセンターに飾られていたらしい巨大かつ長大な胴体を持つ曲がりくねった猫のぬいぐるみ…モモフレンズのキャラクターの一体、ウェーブキャットのそれをKeyが担いでいる様は随分とシュールで、アリスも思わず吹き出しそうになる。

 

「持ち帰れませんから捨ててきてください」

「む…まあ確か他に探せば似たようなものは手に入りそうだった気がしますね」

「何がKeyの琴線に触れるのかアリス全然分からなくなってきたんですが…」

「ハナから貴女に理解される気などありませんよ、小娘」

「またそんなことを…まあ良いです、次は…」

「…小娘、いつまでこんなことを…」

「もう少し付き合ってください。まだ行きたいところがあるんです」

 

 

Keyの話を遮り、次に案内したのはミレニアム郊外の緑豊かな公園だった。

先程までとは一変変わって、人工物の少ない自然な風景にアリスはその空気を楽しむかのように息を大きく吸い込んだ。

 

 

「すぅ〜…はぁ〜、街の方の都会らしい活気のある場所も好きですけど、アリスはこんな自然に囲まれた場所も好きなんです。特に都会の方でずっと過ごしていると、初めてこうして木とか草花が茂った場所に来るとテンションが上がるんです。昔は今よりもっと自然が豊かだったりします?」

「さあ、どうでしょう。私は当時は天空に浮かぶ要塞で普段過ごしていたので地上の事なんて気にしてませんでしたね。ただ、たまに地上に降りた時は荒野やあっても草原が広がっている程度でした。どちらにせよ当時は今以上の技術力を持つ古代文明が栄えていたので自然の量は少なかったでしょうね」

「そうですか…この公園、アリスが初等部の頃はよく遊んでたんですけど、中等部になってから久しぶり見に来たら開発が進んで取り壊されてたんですよね。自然もコンクリートで上書きされて、ビルが建てられてました。びっくりしましたよ、数年来なかっただけであんなにも景色が変わるのかって…その時は、何だかとても寂しかったですね…」

 

今はもうない当時の公園…いや、思えばこのミレニアムの街並み自体今のキヴォトスでは見られないもので、思い出に浸るアリスはただひたすらに古い記憶に思いを馳せた。

それに付き合わされていたKeyは、もううんざりだと言わんばかりに近くにアリスに近付き…その道中にあった花を踏み潰す。

 

「いい加減にしてください」

「…まあ良いです、見せたいものは見せれた気がしますし」

「ゴチャゴチャと気色が悪いですね…結局貴女は何が言いたいんですか?」

 

「…アリスは───人を助けて、救うことが勇者であると信じてきました。それは一重に友人からの助言があったからですけど…でも、その前からもきっと勇者というものに憧れてたんだと思います。知っての通りアリスはゲームが大好きで、最初に触れたゲームは王道のRPGものでした。困る人々を助けて、魔王を倒して世界を平和にして、皆の幸せを守る、そんな勇者になりたいという子供らしい願いです。でも、それは叶いませんでした」

 

アリスは思い浮かべる。

自分に道を作ってくれた友達(セイア)を。

救えると信じて手を差し伸べて、どうしようも無い悪意に晒されて失ってしまった友達(コハル)を。

自分を導き、特異現象捜査部の生徒として大切なものを教えてくれた先輩(ユウカ)を。

 

「皆を救うことなんてアリスには出来ませんし、大切な人を守り抜く強さもアリスにはありません。それが出来るような勇者に…物語の主人公にアリスはなれません。だからこそ、アリスは自分が剣であると思うようにしました。悪意を断ち切る剣に、人々を守る為に戦い続ける剣に。そう言い聞かせる事でアリスは守れなかった自分を正当化しようとしました。ですが、それは結局逃げでしか無かったんです」

 

アリスは思い浮かべる。

共に馬鹿な日々を過ごして、共に難敵に立ち向かい、そして最後には散ってしまった友達(カズサ)を。

最初は敵対しても、こんな自分を気にかけ、最後の最後まで自分と苦楽を分かち合ってくれたお姉ちゃん(モモイ)を。

自分に色々なことを教えてくれて、責任と強さというものをその背中で見せてくれた先輩(ホシノ)を。

 

「結局、今でもアリスは夢を諦められませんでした。今でも…アリスは本物の勇者になりたいと縋っています。だからこそ、皆の幸せを守りたいからこそ、それを容易く踏み躙ろうとする人達の事が許せませんでした。そんな人達が居なくなったら、全員倒すことが出来たなら、アリスは勇者になれるのか、だなんて歪んだことを思い浮かべたことすらありました」

 

アリスは思い浮かべる。

悪戯に人の命を弄び、大切な友達や先輩すら奪って行った憎き宿敵(ムツキ)を。

自分の快・不快の為だけに大勢を巻き込み、人を殺すことになんの躊躇いすらなく踏み潰していく魔王(Key)を。

そして、怒りのままにそれらを断ち切ろうと躍起になり、前が見えていなかった(自分)を。

 

「つまるところ、アリスは独りよがりだったんです。あれは悪だ、倒すべき敵だ、だなんて勝手に自分で定義して、自分の正義感を押し付けていたんです。今は、認めるつもりこそありませんが相手にも事情や理由があって、或いは自分とはまた別の価値観を持っているからこそなんでもないかのように人に不幸を齎しているってことを理解しているつもりです。本人にとって、悪意を持っている自覚がない時点でそれは悪意じゃないんだって。アリスが、勝手にそう定義してるだけなんだって」

 

「…それで、結局小娘は何を伝えたいのですか?」

 

「ここまでの話は、アリスがこれまで生きてきた中での道です。たくさん話した昔話、アリスがこの道の中で学んだもの、気付いたこと、そのごく一部です。いいですか、Key。ここまで話してきたものはアリスにとってのごく一部でしかないんです。そして…それ以上の道を、思いを、Keyが殺してきた全ての人達が持って、歩んできています。誰もが複雑で濃密な経験をして、何度も挫折して思い悩んで、自分の道を歩んでいる。そしてそれ以上の苦難の道という未来がその先にはあります。Keyがゴミのように何千、何万と殺してきた命の全てにそれだけのものが詰まっていて、それ以上の未来があるんです。アリスは…それを、Keyに知って欲しかったんです」

 

「…くだらないですね。今の話を聞いて私は何も感じません。小娘、貴女の言っていることが理解出来ない訳ではありません。理解して、その上で何も湧き上がらない。貴女の苦悩、哀愁、定義と価値観、それらを踏まえて私が言えることはただ1つ───()()()()()()()()

 

「Keyは、なんの感情もない機械ではないというのはよく知っています。ここまでの戦いでKeyが怒ったり楽しそうにしてたのは何度も見てきましたし、それにKeyにも友達や親しい人が居たんじゃないですか?」

 

「…否定はしません。確かに思い出があり馴染み深い面々もいました。ですがそれを失った今とて大して私に響くものはありません。物寂しさは確かにありますが…まあ仕方ないでしょう。小娘、私と貴女達は根本的に違う。これは、決して覆されることの無い事実です」

 

「…やっぱり、ダメですか」

 

「敢えて言うなら貴女の腰抜け具合に唖然としますね。あれだけ貴女から奪って、罪を背負わせて、だというのにこれだけ呑気に話をする始末。貴女の私に対する怒りや憎しみはその程度のものだったのですか?それとも────まさか、私を憐れんでいるのですか?」

 

「…」

 

 

石の上に蹲るようにして腰掛けるアリスは、不可解な感情の宿った視線だけをKeyに向けると、底冷えするような声色でKeyへと語りかけた。

 

「アリスは、Keyが嫌いです。殺したい程憎いです。ですがアリスは、勇者になります。アリスの目指す勇者としての答え…”不平等に人々を救う勇者”に。勇者の物語の結末は、いつも魔王を倒して終わりという訳ではありません。それこそ、封印で終わらせるような最後だってありますから。最後に打ち倒されることだけが魔王の償いではありません。ですから───死にたくなければ再びアリスに封じられてください、Key。そうしたら殺さないであげます。アリスとあなたから始まった物語なんですから…2人で責任を取って、全てを終わりにしましょう」

 

「…勘違いも甚だしいですね、小娘。粉微塵にするだけでは済みません。貴女に、定義する必要すらないという絶対的な”悪意”を…決して分かり合えることの出来ない”魔王”というものを見せてあげましょう」

 

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