「そう言えば、死滅回遊ってどうなったの?」
Keyとの戦いを終え、目を覚ましたヒナとカズサに積もる話が色々とあったアリスだが、そんな問いを受け急に現実に引き戻されたように苦い顔を浮かべた。
「ええと…今はリオ部長達が主導になって死滅回遊の元となっている結界を解体することでの強制終了を目指しているそうです。クズノハ様の力が弱まった事で外部からの解体も一応現実的な範疇に収まったそうですよ。結界術に長けた腕利きを沢山集めても時間はかかるらしいですけど…」
「そう…」
「私が寝てる間にとんでもないデスゲーム始まってて後からじっくり話聞かせてもらった時にびっくりしたんだけど。あんた達はまた2人で無茶したらしいし」
「「ごめんなさい…」」
「いや頑張ってるのは聞いたから良いけど…むしろ何も出来なかった私のが情けない」
「そ、そんなことはありません!最後の最後でまたカズサに助けてもらいましたし…!アリスはいつも皆に助けて貰ってばかりで…」
「言わないで、アリス。それなら今回私がかけた迷惑の方が大きいわ。私なんかの為に何人も命をかけて…」
「あーもうやめよう!迷惑の大きさなんか競っても仕方ないし!もっと建設的な話を、ね?」
「…そうね」
「は、はい」
各々思うところがあったのか自分を責め始めるが、話の発端になってしまった事を気にしたカズサが責任を持って流れを断ち切る。
その気遣いを受け取ったヒナは窓の外に目を向け、遠方に未だ見える
「あ…セナさんからは安静にするようにと言われて…」
「ちょっとまだ身体が痺れてて怠いけど…まあ介護付きなら動けるわ。頼んだわよアリス」
「えぇ!?」
「…どこ行く気?」
「お礼とお詫びして回るのよ。皆は今いるかしら?」
「色々片付けることがあるから皆
「…なら、一度セナさんに様子を見せに行きましょう」
「分かったわ」
了承したヒナはベッドを降り、若干足元がふらついたのをアリスが肩を貸して支える。
もう反対側にカズサも周り、寄り添って歩く仲良し3人組の完成だ。
そうして足元に注意しつつゆっくりとセナがいるという病室を目指す3人。
場所はヒナの病室がある階の1つ上の階、そこには誰かと話すセナの姿があり…
「お邪魔します!」
「病室では静かにアリスさん」
「ご、ごめんなさい…」
「アリス…アリスか…?」
「!」
掠れたような声で、しかし確かに聞こえたそれにアリスは目を見開く。
ヒナをカズサに預けセナの横に回り込むように移動したアリスは、そこで横になっていた人物を見てぱあっと笑顔になった。
「カンナ!目が覚めたんですか!」
「アリスさん病室では静かに」
「ごめんなさい…」
「はは…良いじゃないか、元気があって」
そこにいたのは、顔の上半分から頭にかけてを包帯でぐるぐる巻きにされたカンナだった。
あの戦いで確かにKey頭から分解され殺されたものだとアリスもあの時思っていたが、Keyが攻撃しようとしたのと同時にアリスが攻撃を仕掛けた事でKeyの意識が僅かに逸れて致命傷にまで届かなかったようだ。
脳まで分解が届かなかったが幸いして即死せず、直後にココナが回収しマシロが即座に傷の悪化を止める秘儀で延命し、さらには本人とセナの恐怖による治癒で一命を取り留めたとか。
それでも数日寝込む羽目になったが…ようやく目を覚ましたというのはアリスにとってはヒナが目覚めたのと同じくらい心から嬉しい吉報だった。
「その…大丈夫なんですか?」
「運ばれた当初は半ば脳が外部に露出してたので私も流石に無理かと思ったんですが、カンナさん本人が無意識に恐怖を発動させたお陰で何とか回復に向かっていますね。まだ包帯の下は痛々しいので取れない状態ですけど、時間をかけて丁寧に処置すればほとんど元通りにはなるかと。ただ目や器官に障害が残る可能性はありますけど」
「それでも…良かったです。カンナが生きてて」
「そうか…私としては、格好がつかなくて困ったものだがな…完全にあの時死ぬつもりだったのに…結局生き延びてしまった。何とも情けない話だとは思わないか?」
「そんなことはありません!カンナのお陰で、皆のお陰でKeyに勝つことが出来たんです!例えカンナが否定しても、アリスは感謝し続けますよ!」
「…そうか。いつかこの包帯が取れたら、今度こそお前の目でも見てみるとするかな」
「…はい、待ってます!」
「…それで、私に用事があってここに来たのでは?」
「はっ!?すみません、ヒナ!待たせてしまいました!」
「別に気にしてないわよ」
「感傷に浸る時間ぐらいわけないってば」
カンナとの話に夢中になりここに来た目的を忘れかけていたアリスは、慌ててヒナの元に戻り肩を貸すと適当な椅子に座らせる。
セナも目的を察したのかヒナの前に腰を屈めると、首元や手首の辺りをペタペタと触り始める。
「体調は?」
「気怠さが少々、あと若干の痺れです」
「ふむ…食欲はありますか?」
「果物くらいならさっき…重いものは少し厳しいかもしれません」
「なるほど…脈は安定していますし、意識は大丈夫そうですし…適度に散歩なりしてリハビリを続けていればそのうち回復出来るでしょう。勿論まだ神秘的な後遺症が残っている可能性もあるので可能な限り安静にしていて欲しいですが」
「はい、ありがとうございます…先の件ではご迷惑おかけしました」
「気にしていないとは言い切りませんが、反省している方にとやかく言うつもりもありません。それに受け取る側は謝罪よりも感謝をもらった方が嬉しいと思いますよ」
「…本当に、ありがとうございました」
「どういたしまして。とはいえ私は前に出て戦った訳ではありませんが」
普段は真顔を貫くセナも、ヒナからの感謝にほのかに頬を緩めると冗談めかしてそう言った。
暫く頭を下げていたヒナは続いてカンナの方を見るとそちらへ行こうとして、咄嗟にアリスがヒナの肩を支えカンナのベッドの前まで共に歩く。
ちなみにカズサはそんな2人の後ろでセナから体調の確認をされていた。
「その、尾刃カンナさん…でしたよね?」
「私なんかを目上に見る必要は無い。今より話しやすい口調があるならそっちで良いぞ」
「…じゃあお言葉に甘えて…ありがとう、私の為に…そしてアリス達の為に命をかけてくれて。貴女が生きてくれたこと、私もとても嬉しく思っているわ」
「そうか…決戦の前に、君の話はアリスからよく聞いたよ…良い友達を持ったな…大事にするんだぞ」
「…ええ、言われなくとも」
「カンナは、これからどうするんですか?退院した後は特異現象捜査部に来ますか?」
「む…そうだな…一から始めてみたい気持ちもあるが、まずはやらかしたことの精算をしないといけないし────
────ひとまずは、出頭でもして矯正局暮らしからだな…」
「はいこれ」
「…?何これ」
「チョコレートですか?」
伝えることを伝え、話したいことを話し、カンナの病室を後にした3人。
次の場所へ向かう道中、カズサは小さな個包装のチョコレートをヒナに手渡した。
「セナさんが一応食べておきなってさ。私とアリスの分もついでに貰ってきたよ〜」
「ああ、ありがとう…えっと次にここから近いのは…」
「先輩達の病室ですね」
「あっちもあっちであの後大変そうだったけど大丈夫かな?」
「いやぁ、多分ですけど…」
「だぁぁぁぁぁ!納得出来ねぇぇ!」
「…駄目そうですね」
「本当に今行く?」
「まあ…行くしかないでしょう」
その病室から聞こえた大きな声に尻込みする3人だったが、意を決してそろそろと病室の扉を開くと…そこでは、片腕をギプスで吊ったレンゲがおろおろと同様するクロコに詰め寄り、それをミノリとサオリが諌めていた。
ちなみにサオリもKeyからスーパーノヴァの一撃を受けたりミノリはKey相手に遠隔で『言霊』を使った反動で喉をやられていたりして療養中だ。
そして続けてクロコに何か言おうとしたレンゲだったが、クロコの視線が自分の後方…アリス達に向いているのに気が付き、むすっとした表情でそちらを振り向いた。
「…何だお前ら」
「えっと、その…色々とお礼とか言いに…」
「あー…まあいいや、取り敢えずそこ座れ。アタシはちょっとこの馬鹿に話があるんだよ」
「何があったんですか?」
「何があったもあるか!こいつは無茶ばっかしやがって…!アタシなんか途中でぶっ飛ばされてそのまま決着が着くまで伸びちまってたんだぞ!せめて最後まで戦いたかったのに…!それに、結局今生きてんのもプレ先のお陰だろ!?お前アタシがどんだけ心配したと…!」
「ご、ごめん…」
「クロコ先輩…無事だったのね」
「あ、うん…ヒナも、元気そうで良かった」
「Keyの内側から見てたんだけど、あの状態からよく元の身体に戻れたわね?」
「本当はホシノ先輩の身体に乗り移った時点で私の身体も死ぬ筈だったんだけど、ホシノ先輩の身体にいる間ずっとセンセイが私の身体を恐怖で維持し続けてくれたんだ。だから、外科的な手術で脳味噌をまた身体に戻せて…セナさんとかマシロも手伝ってくれて、こうして元に…」
「良かったです、クロコ先輩!レンゲ先輩もあまりクロコ先輩をいじめちゃ駄目ですよ」
「なっ、イジメてる訳じゃ…」
「レンゲはクロコが手術した後目が覚めるまでずっと不安そうにしていたからな」
「デモデモ」
「余計なこと言うなお前ら!」
目元をニヤニヤとさせて当時のことを話すサオリとミノリに、レンゲは顔を赤くして2人を追いかけ回す。
皆本調子ではないだろうに元気だとヒナは相変わらずの先輩達に呆れると、そちらは一旦置いといて先程までレンゲが座ってたクロコのベッドの横の椅子に腰掛けた。
「改めて…そこまでして戦ってくれて、ありがとう。この恩は絶対忘れないわ」
「…ん、私も頑張った甲斐がある」
「ねえねえクロコ先輩。私先輩と直接合うの初めてだから色々と話したかったんだよね」
「ん…君は、カズサちゃん…だったよね?」
「そういえば、クロコ先輩が帰ってきたのがミレニアムでの一件の後でしたね」
「ヒナとかレンゲ先輩達から少し話は聞いてたけどやっぱり直接本人に色々聞きたいこともある訳よ。特にクロコ先輩長いこと出張してたって言うしその時のこととか」
「良いよ、私も可愛い後輩と喋りたいことが沢山あるんだ。この際だから私が初めて特異現象捜査部に来てレンゲ達と会った頃の話とか…」
「お前も何話そうとしてんだ!」
「いてっ」
片手にミノリとサオリの後ろ襟を掴んで引きずりながら戻ってきたレンゲは小恥ずかしい当時の話をされることを嫌ってクロコの頭を軽く叩いた。
いつもの調子ならもっと良い音が出るくらい強烈に叩いているだろうが、流石に最近脳だけになってから元の身体に脳を詰め戻された相手には配慮したようだ。
子猫が首元を掴まれたように引きずられているサオリとミノリはその話を聞くとまたニヤリと笑う。
「せっかくだ、あの頃のレンゲもかなり尖っていたからな。いつもは話そうとしても止められてしまうがこの際良いだろう」
「休暇」
「何が良いんださせるわけねぇだろ!」
「ほう?良いのか、力づくで止めるつもりならそれで構わないが、果たして今のクロコとヒナ達に無理をさせることができるかな」
「おまっ…汚ぇぞサオリ!あれから小賢しい知恵ばっか付けやがって!」
「デモデモ〜」
「うん、それで私がここに来た当時は皆怖い顔して襲って来て…」
「ほうほう、それで!」
「ペロロ…サオリ先輩とミノリ先輩もなんだ?」
「先輩方にもはっちゃけてた時期があるのね」
「だ〜か〜ら〜…お前らいい加減にしろぉ!」
「次は…こっちですね」
「クロコ先輩あの調子だと回復した後が怖そうだね」
「レンゲ先輩は根に持つのよね。私達も今度パシリがキツくなるくらいは覚悟した方が良いわ」
「うぇっ、アリスに押し付けよっと」
「うわーん!なんかパシリのパシリにされる予定が既に組まれてます!」
クロコの病室での一悶着を振り返りながら、またあの先輩達に振り回されたり扱かれる日々が始まることを想像して懐かしいのか嫌なのか微妙な感情になりながらもまた次の目的地へと向かう。
そうして辿り着いた病室を開けた先には…
「待ってたわよシスター!」
「うわぁ!?」
「出たわね変態!」
「痛ぁぁぁ!」
「カズサそれも一応療養中の人よ!」
「…何やってんだお前ら」
「相変わらず馬鹿しか居ないわね」
「え、えーと…」
「あはは…」
何故か病室の扉を開けたら目の前にスタンバイしていたアオイに対して咄嗟に顔面ストレートを決めたカズサが平謝りをして詫びると、改めてベッドの上に戻ったアオイ…の前にその周囲の面々に挨拶をする。
「こんにちわ、フウカ、ヒフミ、マシロ…マコトも来てたんですね」
「お前らが勝ったと言うから慌ててすっ飛んで来てやったぞ。感謝するがいい!」
「はい!ありがとうございます!」
「…嫌味の一つでも言え馬鹿者。戦いから逃げた癖に今になってノコノコ帰ってきた薄情者とな」
「いえ、アリス達はKeyやマルクトにばかり集中して今でもキヴォトスを暴れ回っている特異体やアウトローの対処に手が回っていませんでしたし、その間皆の代わりに戦い続けていたマコトを馬鹿にするなんてことはしません!」
「…チッ、いい顔をするようになったものだ。余計私が無様に見える」
「マコトも素直じゃ無いわね。はいこれ、皆で食べようと思って持ってきた弁当の残りだけどいる?」
「はい!喜んで!」
「あんた料理出来るんだね」
「前に百鬼夜行支部に遊びに来てたクロコとかにも振舞ったことあるのよ?」
帽子を目深に被り表情を隠した上でアリスから顔を背けるマコトを見かねたフウカは、部屋に積み上がっていた弁当の残りを広げるとそれをアリス達に分けるようにして渡して行く。
ヒナは少量だけもらいつつ談笑しながら暫くして平らげると、改めて本題だとアオイの方へと向き合った。
「それで…ありがとう、アオイ。それに皆も」
「私は空からカメラ回すくらいしかしてないけどね…」
「私も皆さんのように戦えはしませんでしたし…」
「私は現場にすら行けなかったがな」
「私はそもそも戦場に出るどころかまともな役割すら持てませんでしたけど…」
「結局気に入ってた義手が壊れて残念で仕方ないわ」
「あのエッジの効いたパーティグッズの何が良いんですか…」
「やめなさいアリス、その言葉はウキウキであれを作ってたリオ部長を傷付けるわ」
「っていうかアオイ以外揃いも揃って自虐的になり過ぎでしょ。事の顛末は聞いたけど、フウカがカメラ回したお陰でサポートのタイミングを測りやすかったり、マシロのお陰で怪我人が出ても治療が間に合ったり、ヒフミは裏方の手伝い頑張ってたって聞いたし、マコトもさっきアリスが言ってたみたいに戦力があそこに固まってた間特異体を食い止めるのに一役買ってたみたいだし、皆頑張ったで良いじゃん」
「カズサの言う通り、それを言うなら迷惑かけた事の張本人の私が合わせる顔が無いわ。だから、皆自分を責めるくらいなら私を責めなさい」
「全然関係ないですけど今のヒナの発言マニアックな性癖の人みたいな感じしましたよね」
「アリス!」
「本当に全然関係ないのやめなさい」
「…あんたら見てると悩んでる自分達が馬鹿みたいに思えてくるわよ」
「馬鹿を見ても馬鹿にしかならんしな」
「何だか皆さんが元気なところを見ていると私も元気が出てきますね…」
「その…すみません」
3人のくだらないやり取りを見せつけられて気が抜けたフウカ、マコト、マシロ、ヒフミはそれぞれ立ち上がるとフウカとヒフミは皆が食べた弁当箱や箸を片付け始め、マシロはセナの元へ、マコトはまた直ぐに外回りに行ってくると病室を後にしてしまう。
残されたアリス達3人とアオイの間に若干の間が生まれるも、この場での年長らしくアオイは新しく渡された簡易的な義手と右手を叩き合わせた。
「さて、私はシスターとも話したいことがあるのだけれども。良かったらあなた達も私とシスターの中等部の頃の青春サクセスストーリーについて聞いてみたいとは思わないかしら?」
「「「別に」」」
「んーシスターにまでキッパリ言われると私もちょっと傷付くのよ?まあ冗談は置いといて…」
「どこまでが冗談だったのか分からないんだけど…こいつ怖っ…」
「アオイはいつもこんな感じですし…」
「まあとにかく今は感謝してるってのを伝えたかっただけよ。邪魔したわね」
「私も皆を代わりに元気づけてくれて有難いと思ってるわ。本当は先輩の私がしなくちゃ行けなかったのだけれど、こういうのはやっぱり当事者から直接お礼をされる方が気が楽になるものね」
「…アオイ、今度大体のことが片付いたら、また皆で野球しません?」
「!…良いけれど…いや、そうね。こんなのでも私達もまだ学生なんだし、楽しめる分は楽しみましょうか。あなた達も、元気になるのを待ってるわ」
「はい、アオイ達もお元気で!」
アオイがグーで突き出した右手に、アリスも拳を付き合わせて応える。
その様を見たヒナとカズサは、こいつら本当に高等部以前から付き合いがあったのではと勘繰ってしまう程に息ぴったりに見えたとかなんとか。
「病室巡りはこれくらい?皆回復が早いのね」
「流石先輩達ですね!」
「本当に全員のところ回るんだ…やっぱ後半戦ってことでまた今度にしない?」
「駄目よ、今日ちゃんと回り切るわ」
「うげぇ…」
面倒臭がり始めたカズサを無視して次に3人がやってきたのはS.C.H.A.L.Eの病室ゾーンから離れ、あの戦いでの現場指揮を行っていたオペレーションルーム。
そこの大きな扉を開くと、その向こうでは未だ監督官や監督オペレーターの皆が慌ただしく作業や連絡に従事していた。
そこに、忙しそうに首と肩に携帯を挟みながら手帳を持ってメモを取っていたアヤネは3人に気がつくと指によるジェスチャーで静かに待つように伝えた。
それを受け適当な椅子に座り喋りながら待っていた3人に、一段落したのかアヤネ、そしてイチカが声をかけに来た。
「皆さんお揃いっすね〜。久々に懐かしい顔触れが見れて嬉しいっすよ」
「本当に、私にとっては思い出深い面々で感慨深いですね…」
「そういえばアヤネさんもイチカさんも私達3人で任務に行った時の担当をしてくれてたわね。あの時もその後もお世話になったわ。それに、今回の件も…色々と奔走してくれて、ありがとう」
「生徒の皆さんのサポートをするのが私達の務めですから!」
「特に気負ったりせず楽にして欲しいっすね。それに、あっちにも頑張ってる人がいるっすから労ってきたらどうっすか?」
「あ、フブキ先輩!あの時結構怪我してそうでしたのにもう回復したんですね!」
「うん?アリスちゃん達…」
「あらあら、皆さんお元気そうで何よりですね」
「あ、アリスさんにヒナさん、カズサさん!元気になったんですね!」
イチカが指差す方には、ドーナツを片手に適当に書類を眺めては投げ捨てるように放り、それを受け取ってはテキパキと高速で処理してココナに渡し運んでもらっているシュンの姿があった。
ここぞとばかりにサボれると書類の処理を一旦止めたフブキはアリス達を向かい入れると、ケース入りのドーナツを差し入れとして渡した。
アリスとカズサは1つずつ貰い、ヒナは先程弁当を食べた分で今は十分だとやんわりそれを断ると、改めて頭を下げた。
「シュンさんも色々手を回してくれたり、フブキさんやココナちゃんには身体を張らせてしまって、本当に感謝してもし切れないわ」
「まあ、確かに私らしくなく頑張り過ぎちゃったけど…そこまでしたのは私の判断だし、それで怪我した分の責任は私のものだからね。先輩として当然のことをしたまでだよ」
「ココナちゃんも大活躍でしたね」
「はい!Keyが目の前に来た時は怖かったですけど、シュン姉さんや皆さんのお役に立てて良かったです!」
「ココナのお陰であそこで戦った多くの人の命が助かりました!アリスからも感謝させてください!」
「ここまで回ってきただけでもあんたに助けられてる人結構いたし、本当に影のMVPかもね」
「そ、そうでしょうか…?」
シュンやアリス、カズサから褒めちぎられ照れ臭そうに身体を縮こませるココナ。
それをほのぼのと見守りつつ、ヒナはフブキの隣の椅子に腰掛けると真剣な面持ちで聞いた。
「フブキ先輩は…まだアリスの処刑に賛成してるの?」
「…サオリちゃんから聞いた?まあ連邦生徒会が機能してない今のままだと処刑云々の話も有耶無耶に出来るけど、それ抜きにしても今更アリスちゃんを怖がる程先輩として落ちぶれたつもりは無いよ」
「そう…あんまりサボってまた怒られないようにね」
「はっ、今更誰が私を怒るってのさ」
「どうかしら、アヤネさんもイチカさんもしっかりしてるし、シュンさんも怒ると怖いんだからオチオチサボることは出来ないと思うわよ?せいぜいあの時見せた根性をこれからも発揮することね」
「こういう時に限って君はズケズケ言ってくるね…ああはいはい、やればいい良いんでしょやれば…シュンさ〜ん、仕事続けるからお願いね」
「あら、もう休憩は終わりですか?ではココナちゃん、もうひと仕事頑張りましょう」
「はい!皆さん、また遊びにきてくださいね!」
「次は…部長室ですね」
「部長…今でも信じられないや。付き合いが長かった訳じゃないけど、あんなに元気そうだったヒマリ部長が…」
「あの人もあの人で、心のどこかでいつかこうなると思ってたんでしょう。誰も彼も、なんで皆死ぬ事が予想出来てるのにそれから逃げようとしないのかしらね」
そんな話をしながら3人が向かった先、S.C.H.A.L.Eの上階にある部長室ではリオが何やらカホと一緒にパソコンに向き合い格闘しているようだった。
その2人もアリス達の入室に気付くと、一度手を止めて向き合ってくる。
「こほん…調子はどうかしら、貴女達」
「はい!すっかり元気です!」
「優れてるとは言わないけどお陰様でなんとか、ね」
「挨拶回り来ました〜」
「投げやりにならないでくださいカズサ」
「にゃぁぁ!?」
「…今回の件、言いたいことは色々あるけれど…ひとまずは、ありがとうございます」
アリスが適当に挨拶をし始めたカズサの尻尾を握って咎めているのを無視しつつ、リオの前まで進んだヒナは頭を下げて本日何度目かの感謝を伝える。
それを受けてポカンとしたリオは隣のカホの方を向いて顔を見合わせるが、カホが促すように咳払いをした事ではっとし、逆にリオの方からヒナへと頭を下げた。
「私こそ、ごめんなさい。ヒマリを…それに、小鳥遊ホシノや貴女達を庇えなくて。ミレニアムの1件以来、私にもう少し勇気があれば何かが変わったかもしれないのに…連邦生徒会を御し切れなかったのも、貴女達からヒマリを奪ってしまったのも、本当に…」
「…気にしないでください、リオ部長。アリスは危険視されて当然ですし、リオ部長も悩んでたから責めないでと、ホシノ先輩からも聞かされました」
「私が言うのもなんだけど実害だけなら私の方が与えてるし、今後悔しててもどうにもならないし…今は前を見ましょう、リオ部長」
「…そうね」
「それで、なんか苦戦してたみたいだけど何やってるのそれ」
「ああ、ヒマリ部長が残した業務や情報の引き継ぎ用データを解析してたんですけど…」
「…ヒマリ、どうやら中身を抜き出されるのを恐れて無駄に厳重にロックを敷いてたみたいなのよね。それもデータを幾つものファイルに分散してそれぞれ個別に違ったロックをかけて、解除するのにもデータを抜き出すのにもやたらと時間がかかるようになってて…引き継ぎ用データを用意するのは良いけど引き継ぐ人の手間を考えてないわよあいつ。元から私に託すつもりだったのなら陰湿にも程があるでしょう、散々人の事下水道だのなんだの言われたけどどの口が言ったのよあれ」
「うわリオ部長がめっちゃ毒吐いてる」
「これはこれで珍しいわね…」
「リオ部長はデータ読み込みのロード時間が長くなるとユウカさんみたいになるので…」
「そんなスニッ〇ーズのCMみたいな感じで言われてアリスどうすれば良いんですか…」
「取り敢えず今会える中では次で最後ですね」
「最後?あの途中参戦してきた金髪の人とかは?」
「義理は果たしたってヒナが目覚める前に帰ったらしいですよ」
「ごめん私にとってはマジで知らない人なんだけど」
「カズサが『共振』してた頃にはもうあそこから離脱してましたからね…」
「それは残念ね…また今度機会があればお礼を言いましょうか」
リオとカホのクソ長いロード待ちを応援してから部長室を後にした3人が次に向かったのはS.C.H.A.L.E内にある談話室。
何やら話し声が聞こえ、その扉を開けた先ではコーヒーを飲みながら何やら得意げに話すカヤと、それを熱心に聞き入っていた蒼森ミネことミネルバの姿があった。
「カヤさん、ミネさん!こんにちは!」
「おや!アリスさんにヒナさん…それにもう1人の少女!」
「杏山カズサっす」
「うわーん!カズサが面倒臭がり過ぎてイチカさんみたいな口調になってます!」
「何馬鹿なことやってんのよ。それで…ちょっと良いかしら?」
「お元気そうで何よりです、空崎ヒナさん。Keyに乗っ取られた時はどうなる事かと思いましたが、無事に剥がせたようで安心しました」
「2人も、今回の件で身体を張ってくれたのよね…カンナさんもそうだったけど、本来部外者なのに命懸けで戦ってくれて…本当に、ありがとうございます」
「私は元よりこの時代に呼び起こされた時点でKeyを打ち倒すつもりでいました。この身体の持ち主を犠牲にしてしまったせめてもの償いとして…ですが、その件については後程アリスさんにご相談があるのですが、良いでしょうか?」
「…はい、ではまた後で」
「ふむふむ、カズサさんのその眼帯中々格好良いですね!」
「え〜?私こういうのあんまり好きじゃないんだけど…昔の尖ってた頃を何となく思い出すし…」
「人には誰しも黒歴史があるものです、お気になさらず。きっとヒナさんにもありますよ」
「いやあるけどこっちにまで飛び火させないでくれないかしら?」
「アリスさんとミネさんには黒歴史とかあります?」
「だからなんで飛び火させに行くのよ!?」
唐突にそんな質問を投げかけられたアリスとミネは揃ってクビを傾げう〜んと唸る。
突っ込んだはいいもののそれはそれとしてアリスや名も無き神々の時代や生きたミネルバにもそんな小っ恥ずかしい時期があったのかと興味があるヒナとカズサ。
しかしてそんな2人の答えは。
「何事も救護の精神1つを貫き通して来たので過去に後悔や恥ずかしい思い出は特に…」
「辛いことや悔しかったことはありますけど、それらはすべてアリスが歩んできた道です!決して恥じるものなどありません!」
「いやぁぁぁぁ芯の通った強くて真っ直ぐな心ですぅぅぅ!?汚く育った心に染みるぅぅぅ!!」
「あぁ!?カヤさんが灰になりました!?」
「えっちょっこれ漫画的な演出じゃないよね!?この人本当に灰になってない!?」
「大丈夫ですかカヤさん!今すぐ救護致しますので堪えてください!」
「あーもう滅茶苦茶よ!」
「こんなところですかね。アツコ先輩とノドカ先輩はファイトクラブやってた事がバレて逃げるように外回りの手伝いに行っちゃいましたし、まだ協力してくれた方はいますがその人達は一旦留置されてまだ面会出来ないそうなのでそちらはまた今度になるでしょう」
「何はともあれなんか当初の想定以上に疲れることになったのだけど…」
「どこかしらイカれてないとあんな戦いに身を投じるなんて出来ないだろうしね。むしろ皆元気そうで良かったんじゃない?」
「”皆”、ね」
「「…」」
自責の念が多少和らいだり、自分を責める必要は無いと何度も言葉を貰った訳だが…それでも失くしたものが戻ることは決してない。
自分達の為に、誰かの為に命を賭して散っていった命に報いる為に…3人は自然とその場所へと足を運んだ。
辿り着いたのは───S.C.H.A.L.Eから少し歩いた場所にある共同墓地。
そこにはつい最近新しく立てられた2つのお墓が目立っていた。
「…きっと、応援してくれますよね」
「そうね」
「私もアリスのお姉ちゃんとやらと話したかったなぁ…」
お墓の前で両手を合わせ暫くの間黙祷をした3人は、誰が言うでもなく目を開くと、揃って再びS.C.H.A.L.Eへと戻って行った。
今はまだ療養するように言われているが、キヴォトスは未だに混乱状態なのだ。
早く回復し、またそれを収める為に戦えるよう…犠牲になった全ての人の思いを無駄にしない為に、アリスは、ヒナは、カズサは…せめて笑って、託されたものに恥じないよう前を向くのだった。
小ネタ
ヒナ「…どうしたのアリス、そんな肩震わせて」
カズサ「そんなにお墓参りが堪えたのかな…」
アリス(…言えません…チビメイド先輩がお墓すら立てられてなかったのが面白かったなんて不謹慎で言えません…)
ネル『おいテメェ何笑ってんだこのチビ!』
ホシノ『はいはい君もおじさん達と一緒に水族館に来ていいから怒らないの〜』