短編 プレイガールトリニティズ
「この拘束されてる如何にもな感じの人は?」
「ほぼ一般人ですので気にしなくて構いませんよ」
「この見た目で…?あ、なんか嘴みたいなマスクの人来た」
「お、詰みですね!ご愁傷さまです!」
「ちょっと!?まだ3日目なのに!?」
10月初め頃の昼下がり。
休日に寮の部屋でアリスに見守られながら勧められたゲームで遊んでいたカズサ。
そんなわいわいと2人で遊んでいるのを横目に部屋の端で本を読んでいたヒナは、ふーっとため息を吐くと一区切り付けて本に栞を挟み、それを本棚に戻すとずっと言いたかったことをアリスとカズサに告げた。
「…人の部屋で何してんのよ」
「今更?小一時間スルーしてたあんたも大概だと思うけど…」
「ヒナもやりますか?」
「やらないわよ」
人の部屋に上がり込んでくるなりわざわざ持ってきたゲームで勝手に盛り上がっていたアリスとカズサにジト目で見るヒナだったが、当の2人はヒナのツッコミを気にせず飄々とゲームを続ける。
別に迷惑なわけでも無いと肩を竦めたヒナは特にすることもなくベッドに横たわってその様子を眺めていたが…
「…で、なんで私の部屋に?」
「「…」」
「何よその顔」
「いや〜、あんたゲームとか普段しないじゃん?」
「ですから、ヒナにも興味を持ってもらおうとこうして見せつけているのです!」
「ぶっちゃけるわね。そんな回りくどいことしなくても口で言えばいいものを…」
「でも絶対すげなく断られるのは想像出来るし。ちょっと強硬策にでないと見てもらうことすら出来ないでしょ」
「ヒナはたまには娯楽に現を抜かすべきです!」
「…はぁ、そこまで言うなら…」
アリスとカズサの押し付けがましい爛々とした瞳の圧に押され、断らせる気もないなと折れたヒナがそう言うと、2人は…特にアリスはぱあっと表情を明るくさせた。
そこからはスムーズに準備が進められ、ヒナはベッドから下ろされテレビの前に座らされてコントローラーを握らされる。
「なんのゲームをしてもらいましょうか…やはりTSC?」
「ヒナを殺す気か。あんな兵器よりもっと王道な横スクロールアクション系とかあるでしょ…」
「ではやはりあれにしましょう!」
「さっさとできるなら何でも良いわ…」
そう言ってアリスが起動したのは某有名ソフトウェア技術者が開発したという『スーパー全知シスターズ』
魔王に攫われた囚われの病弱系天才美少女姫をお付の最強スーパーメイドが救いに行くという在り来りながらも上質なグラフィックと手応えのあるゲーム難易度で人気を博した傑作だ。
曰く初めてこのゲームを知ったというヒナの初心な手つきによるプレイをアリスとカズサは微笑ましく見守る。
「これ…この十字のボタンが操作よね…?」
「基本は左右で動かして、下を押すとしゃがんで上を押すとドアに入ったり出来ます!ちなみに今回はAとXでジャンプ、YとBでアイテムを持ったりマシンガンを撃ったり出来ますよ」
「そ、そう…なんか出てきたけど何あれ…」
「基本的なザコキャラのチビペロロです!踏めば一発で倒せるのでやってみましょう!」
「う、うん───あ」
「ぷっ…」
覚束無い操作でチビペロロを避けようとしたヒナだったが…イマイチ操作感が掴めないのか画面の中のキャラクターはジャンプをしたはいいもののチビペロロの目の前に着地して即死した。
それを見たカズサは思わず吹き出してしまいそっぽを向いて誤魔化し、ヒナは呆然と画面を見つめ…アリスはそんなヒナの肩に手を置いて親指を立てた。
「おおヒナよ、死んでしまうとは情けない!」
「どうしよう途方もなくイラッと来たわ」
「まあまあ、こういうゲームの初心者なら皆が通る道だからさ…ほら次々、まだまだ残機は残ってるよ〜」
「その通り!ヒナよ、諦めてはいけません!」
「ぐっ…やればいいんでしょやれば…」
コンティニューしたヒナは再び操作感に悪戦苦闘しながらも再びチビペロロが現れる場所まで進み、今度は慎重にタイミングを測っていく。
流れる無駄にポップなBGMがヒナの焦燥を煽るが、何とかチビペロロを飛び越えて───BGMの変調に合わせて突如振り返ったチビペロロと衝突、キャラクターは即死した。
「…」
「うわぁー!?グーはやめてください!」
「あるあるだから!皆が通る道だから!画面にダイレクトアタックはダメだって!」
「何なのよこれ…これでまだ最初でしょ…?こういうのって進む事に難しくなってくヤツよね…?」
その後もチビペロロと衝突、ジャンプして飛び越えた先にさらに待ち構えていたチビペロロと衝突、穴に落下、上から落ちてきたチビペロロに衝突等々のハプニングを超え、そろそろヒナのヘイトがペロロの方に向きかけたところでゲーム開始から20分。
遂にヒナの操作するキャラクターがステージのゴールであるポールへと辿り着いた。
ようやく1ステージ目をクリアしたことで既にヒナは肩で息をしており、アリスとカズサは事ある毎に画面に当たろうとしたりコントローラーを握り潰そうとするのを諌めるので疲弊しきっていた。
「ゲームって…こんなに難しいのね…」
「うわーん!ヒナの操作が下手くそ過ぎます!」
「私これ知ってる…配信者がおじいちゃんおばあちゃんにゲームやらせてたみたいなあれだ…」
「好き勝手言うわね…こ、こんなのじゃ終わらないわよ。次のステージに…!」
「まだやるんですか!?」
「貴女達がやらせたんじゃない!せめてこの面が終わるまで付き合いなさい!」
ヤケになったヒナに付き合わされ結局アリスとカズサはそれから2時間ほどプレイに付き合わされることになり、1面をクリアした時にはアリスはベッドの毛布に頭だけ突っ込み、ヒナはシナシナになり、カズサはベッドの下の隙間に潜り込んでいた。
ゲーム画面から最早飽きるほど聞かされ続けたBGMが誰も喋らない静かな部屋に鳴り響き、トチ狂ったヒナが辛うじて残っていた理性でゲーム機のコンセントを引き抜くことでそれを止める。
暫く続いた静寂の中、ベッドの下からカズサが顔を出した。
「…私達ゲーム見守ってただけだよね?なんでこんな死屍累々になってんの?」
「多分ゲームの特異体かなんかが現れたんでしょう、恐ろしいものを見たわ」
「その特異体はきっと白いモップみたいな見た目をしていると思います…気分転換に今度は皆で遊べるゲームをしましょう!ちゃんとヒナにも教えますので!」
「いや懲りないんかい」
「もうなんでも良いわ…」
気付いたら立ち直ったアリスによってゲーム機に再び電源が入れられ、取り替えたカセットは同じく某有名ソフトウェア技術者が開発した『ハイランダー電鉄』
架空の電車会社を運営する社長となってキヴォトス各地を巡り物件やアイテムを購入してお金を稼ぐすごろくシステムの大人気パーティゲームだ。
例によってヒナに操作を教え、アクションゲームではないからか先程よりは操作自体はつつがなく行えることを確認して3人でゲームを開始する。
「なるほど…?よくあるすごろくに色々なイベントが起きたりするのね…人〇ゲーム?」
「大体同じですが、ランダム性やイベント、ハプニングの種類は比になりませんよ!」
「まず私の番ね〜…お、カードマス。幸先良いね〜」
「む、アリスだって負けません…青ですか、スロットは…800万、序盤なら悪くありませんね」
「えっと、次私よね…赤?え、マイナス…あ、150万…」
「落ち込むことはありません、ヒナ!最初はともかく、後半の方になればこのくらいはした金になりますので!」
「序盤の動きもぶっちゃけ後半のツキによってはあんまり関係ないしね。ハマる時はハマるし落ちる時は落ちる」
「そ、そう?」
アリスとカズサに励まされながら何とかヒナもプレイを続行。
その後目的地を目指したり物件を買ったり等それぞれの思い思いにゲームは進行し…
「やりました!目的地に一番乗りです!」
「う〜んあと4マスだったのに…でもまあ私のが近いしいっか」
「?」
「ヒナは初めてですよね!ここからがこのゲームの本番と言っても過言ではありません!」
「え、何これ…」
不穏なBGMと共に、ヒナの操作する列車の後ろにこのゲームのお邪魔キャラの筆頭格…無駄にムカつく紋様と装飾が施された”貧乏デカルト”が出現する。
貧乏デカルトは何か意味のわからないことを言うと、理不尽にもヒナが所有していた物件を勝手に売り払いせっかくの独占を崩してしまった。
訳が分からぬまま目の前で行われた蛮行にしばらくしてようやく事態を飲み込んだヒナはボソッと呟く。
「…死ね」
「うわーん!もう普通にゲームに感情移入し始めました!」
「あっはっはっ!染まってきたんじゃない?パーティゲームはこうでなくっちゃね」
色々な意味で盛り上がってきたその後も様々なハプニングが起き…
「ちょっ、ちょっとちょっと!?なんか来たわよ!?」
「あっ…キング貧乏デカルト…」
「ふふふ…ここからが地獄の始まりですよ、ヒナ」
「まだ私から奪うつもりなの!?」
「あっ!擦りつけ…どこ行くのよ!?」
「ふん…私だけ地獄を見るなんて御免よ。貴女も苦しみなさい」
「2人とも大変ですね〜。あ、また目的地貰いです!」
「「ふざけんな」」
「よしっ!ざまあ!」
「むっ…ま、まあまあ、アリスは移動系カードをたくさん持っていますのでまた擦りつけ直すぐらいは…オールピン!?そんなことありますか!?」
「なんたらは縄の如しってね。ようやく貴女にも不幸が回ってきたって事よ」
「ま、まだです!次のターンで…え…?所確幸ワールド…?い、嫌です嫌です!なんでこんな…あ…」
「はい、アリスが終わってる状況の内に目的地ー!あー、援助金美味しいわ〜。貧乏人共見下すのたーのしい〜!」
「良い風が向いてきたからってキャラ変わってきたわよコイツ」
「はい!アリスはカズサを殴ります!」
「ステイステイ、暴力に訴え始めたら終わりだから。あんたも早くそこから出てきなさいよ」
「うわーん!腹立ちます!」
「はい青マス真夏だから獲得金アップあざっした」
「地獄に落ちろ」
「シンプル罵倒…これで手持ちが20億超えたしスペシャルカードであそこの物件を独占して〜…へ?」
「あ」
「あら」
「…慈愛の、怪盗…?いや、ちょっ…あ、全額…私のお金…」
「…ハッ」
「フッ」
「よしいい度胸ね表出なさい」
「良いわよ、たまには格の違いってものを思い知らせてあげるわ」
「パーティゲームといえばリアルファイトですね!望むところです!」
明け方、寮長から苦情を受けて渋々寝巻きのまま寮の様子を見に来たホシノは、派手に吹き飛んだ寮の壁とボロボロになって瓦礫の上に倒れるアリスとカズサ、ヒナの姿を発見した。
「…何やってんの君達」
「「「ゲームの特異体が通りかかりました」」」
「全員今日の放課後補習ね」