ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はオリジナルの番外編でお送りします
また、本編の更新は5月半ばから再開する予定です


思い出は青く澄んで

 

20XX年、初夏。

例年に比べて蒸し暑く、子供達には過ごしにくい気温が続くこの頃。

動いてないのに暑くて干からびそうな、そんなある日の出来事。

 

 

 

「というわけで任務ですよ」

「どういう訳で?」

「ダメでしょおばあちゃん、こんな暑い日に無理しちゃ」

「保健室まで案内しましょうか?」

「小ボケは結構、ちゃんと話を聞いてくださいね」

 

教室に集められて早々にふざけ始めるホシノ、ユメ、セナをさらっと流したヒマリは、手元のパソコンを操作してモニターに資料を映し出した。

それを見た途端、ホシノは若干嫌そうに眉を顰める。

 

「…レッドウィンターの特異現象?」

「はい。あちらの支部でも既に対応に当たりましたが、派遣した1級の生徒が1名、2級の生徒3名が行方不明となり対処が困難だということで、こちらにお蜂が回ってきた訳です。ちなみに今回の任務にはセナさんも現地に行っていただきますよ。勿論前線に出るわけではありませんが」

「…!私がですか…?」

「あちらだと交通の便も悪いでしょうし、要救助者がいればセナさんが近い方が生存率を上げられるでしょうからね」

「それは確かに…少々面倒ですが、仕方ありませんか…」

「はいは〜い!ヒマリ部長!バックアップの方はどうなってますか!?」

「こちらからの監督オペレーターの直接の派遣は無しで、レッドウィンター支部の方に任せています。それと今回車だと不都合が多いので列車を借りるのですが…ハイランダーとの協力でそちらの支部の方にもバックアップを頼んでいます。仲良くするようにしてくださいね。要請は”至急”ですので直ぐに準備するように。詳細は追って連絡します」

 

任務の概略を聞かされたホシノ達は夏でも吹雪く極寒のレッドウィンターに行くことを面倒に思いつつも、渋々と了解して出立の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほら、ホシノちゃん!おそろいのマフラーだよ!」

「お揃いにする意味…いや良いですけど…」

「時間ないんですから早くしてくださいよ」

 

寮に戻って荷物をまとめたホシノ達。

それぞれ暖かいコートやマフラー、手袋等をキャリーケースに詰め、ホシノと同じデザインのマフラーを用意してキャッキャしているユメをセナが急かしてS.C.H.A.L.Eの表へと出る。

駅までは監督オペレーターの運転する車で送ってもらった3人はハイランダーに存在する特異現象捜査部の支援専用の列車に乗ってレッドウィンターへと向かった。

 

「ここから列車で3時間?先行してた人達死んでるんじゃないですか?」

「そんなこと言わないの!頑張って助けるんだから!セナちゃんが!」

「貴女達も頑張るんですよ。まったく…」

 

ガタン、ゴトン、と列車が揺れる。

駅を出たばかりで目的地までは遠く、これならレッドウィンター近郊の駅までヘリでも飛ばしてもらった方が早かったとホシノは思った。

 

事態は一刻を有するが、しかしそんな中でもホシノの隣の席に座るユメは呑気に駅弁を平らげており、向かいの席に座るセナ共々ホシノは苦笑する。

 

「あまり緊張感が無いのもどうかと思いますけどね〜…」

「でも、沢山食べないとホシノちゃんも私みたいに大きくなれないよ?」

「この体型からユメ先輩ぐらい大きくなれたらそれが一種の特異現象ですよ」

「どういうこと!?」

「体系的な貧相は決して悪いことではありませんよホシノさん」

「自分の体付き見てから言ってくれないと煽ってるように聞こえちゃうよセナちゃ〜ん?」

 

こんな時でも普段の調子で振る舞うユメにホシノの若干の張り詰めていた空気も緩み、大人しく皆で駅弁を食べることに。

ユメがせがむので弁当の具の交換等もしたりして束の間の列車での移動を楽しんでいた時。

 

駅を経ってから1時間程、ホシノ達がいる車両のドアが開き誰かが中に入ってくる。

それがふと気になって後方に目をやったホシノの目の前に立っていたのは、帽子を被り厚く着込んだ眼帯を付けた女性だった。

 

「…あんたらが話に聞いたS.C.H.A.L.Eから派遣されたレッドウィンターへの救援か?」

「ん…そうだけど?」

「そうか、挨拶が遅れてすまなかった。今回お前達のバックアップとしてハイランダーの支部から補助しに来た朝霧スオウだ。よろしく頼む」

「あなたが…ホシノちゃんとセナちゃんのこと、よろしくお願いします!」

「いや補助されるべきはユメ先輩だと思いますよ」

「ひぃん…ホシノちゃんすぐそういうこと言う…」

「どっちも補助されてください馬鹿コンビ。それで、用事はそれだけですか?」

「ふむ…それだけでも良かったが、あんたらに興味があって少し話したいとも思っていた。隣良いか?」

「構いませんが…」

 

セナの許可を取った女性…スオウはその隣に腰掛けると端末で時間を確認し、話せる余裕があると見るやホシノとユメへと交互に視線を行き来させた。

その様子にホシノは訝しみ、ユメはきょとんと首を傾げる。

 

「中等部にして既に特級の資格を与えられた生徒と有する秘儀から近々同じように特級の資格が与えられることを検討されているという生徒…次いでに恐怖のアウトプットで他人を治癒できる逸材。なんともまあ、凄まじい面子が集中して現れたものだ」

「えへへ…それほどでも…」

「真に受けて照れないでくださいユメ先輩」

「私としては貴女の噂も聞いたことはありますけどね。ハイランダー支部の最高戦力朝霧スオウ、1級の資格を持つ生徒の中でいえば今の世代でも飛び抜けていると」

「特級様方と比べたらそれこそ『それほどでも』だ。1つの支部で持ち上げられても外にはあんたらのような上がいる。とはいえ特級の生徒ならばいざ知らず、特級区分の特異体やアウトローが相手ならば───勝つのは私だがな」

「自信があるようで何よりで。なら私達の代わりに君が行ってみますか?」

「提案したが止められたところだ。だから今回はあくまで私はあんた達のおまけ、ああこれは皮肉じゃないぞ」

 

これまた一癖ある人だとホシノは面倒そうにするが、同じ任務に当たる仲間となれば無下にすることも出来ずに仕方なくその話に耳を傾ける。

暫くはお互いの紹介やスオウの身内に対する愚痴話から始まり、それに便乗してホシノが今の連邦生徒会や社会の大人に対してダメ出しすれば、それをユメが咎めるといういつもの流れになったところで場の空気の荒れを感じ取ったスオウが話題を転換し今回の任務の詳細についての伝達を始めた。

 

「レッドウィンターの監督オペレーターから受け取った情報によると、目標となる特異現象の発生は2週間程前からと推測されているらしい。最初は雪原に遠征に向かった生徒が行方不明となり、それの捜索に当たった保安部も同様に…異変を感じ取った支部の連中が先遣隊として送った2人の2級区分の生徒が、その後に送った1級と2級の2人組の生徒が…となって手に負えなくなったとか」

「雪原の方…明確な範囲の絞込みは出来てるんですか?」

「ある程度囲い込んではいるそうだが範囲が広すぎるな。私達が行くとすると虱潰しになるだろう」

「あ、じゃあ私が適任だね!人海戦術は任せて!」

「有名な梔子ユメの特異操術による軍隊か。さぞ圧巻だろうな、是非ともこの目で見たいものだ」

「いいよ〜、いくらでも見せてあげる」

「あんまりユメ先輩を調子に乗らせないでください。ただでさえ方向音痴なんですから先走られて迷子になったら困ります」

「ひぃん…ホシノちゃんが辛辣…」

「馬鹿2人は置いておいて…」

「毎回その括りに私も含められるの解せないんだけどセナちゃん」

「私は後方で怪我人の処置、ホシノさんとユメ先輩は直接雪原に乗り込むとして、スオウさんはどのようなバックアップを?」

「一応一緒に雪原に行くように指示されている。大方上も監視したいのだろう、有名とは言うが悪名もそれなりにあるからなお前達」

「確かに」

「「セナちゃん!?」」

 

特異現象捜査部に轟く名誉、悪名。

この問題児2人を指してどちらが多いのかと問われるならば、実際に精査してみなければ分からないぐらいには拮抗してるかもしれないぐらいにはそれなりにやらかしていることも多いのだ。

任務そのものの成功率だけで言えば圧倒的なものだが…といったところだ。

 

セナにも擁護されるどころか当然のように肯定されショックを受けるホシノとユメをさておいて、後方支援を任されるセナには到着後の細かい動きを予めスオウが伝えたりと打ち合わせをしながら、列車はつつがなく進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「…そろそろ到着するぞ。外は寒いから着込んでおけ」

「っと、もうそんな時間ですか。ユメせんぱーい。起きてくださいよー」

「んみゃ…もう食べられないよ〜…」

「ベタな夢見てないで起きてください」

「…えっ!?もうご飯の時間…!?」

 

スオウに準備を促されたホシノは仮眠を取っていたユメを叩き起こし、セナはちゃっかりと先にコートを羽織って降りる準備を終えていた。

飛び起きたユメも到着を伝えられるやいなや慌てて支度を始め、ホシノに手伝って貰いながら着替えを完了するとスオウの案内の元意気揚々と雪降るレッドウィンターの土地へと足を着ける。

 

D.U.ではあれほど蒸し暑い真夏だったというのに、吐く息が白く染まり視界は吹雪で見通し悪い環境にユメは犬のようにはしゃいで駆け回り、ホシノはやれやれと苦笑しながらもそれを見守る。

 

「わぁ!見てよホシノちゃん!この時期にレッドウィンターに来たのは初めてだけど、こんなに寒いよ!」

「そうですね…いやこれ動いてても寒いですね…早く温まりたい…」

「ホシノさんの場合秘儀でどうとでもならないんですか?」

常時発動(パッシブ)での秘儀の発動はいざと言う時に集中力が途切れるので戦闘中以外は使わないようにしてるって言ってるじゃないですか」

「なんだ、特級と呼ばれる割には存外弱音を吐くじゃないか。それとも私が思っていたより不器用だったか?」

「あなたもあなたでなんで一々上からなんですか…一応協力するんですから仲間のコンディションくらい気を遣ってください」

「冗談だ」

 

おどけるスオウにあまり馬が合いそうにないと思うホシノだったが、思い返してみればユメやセナとの関係も同じようなものでそうでも無いかと自問自答している間に列車内での打ち合わせ通りセナは支部の監督オペレーターと合流に向かい、ホシノ、ユメ、スオウは問題の雪原へと向かうことに。

向かった先では危険区域の境界線と思われる地点にレッドウィンターの保安部と特異現象捜査部が提携して作った関所が立っており、許可を得てその内部に乗り込むと早速ユメが秘儀を解き放った。

 

「じゃあ行くよ…皆ー!雪も掻き分けて根こそぎ探し尽くしちゃって!」

 

「ほう…これが特異操術の真骨頂…」

「タイマンならともかく、広く手が届くって意味ならユメ先輩は既に私以上ですよ」

 

ユメを起点に次々と溢れ出てくる特異体の群れ。

低級のものでも100は超え、2級以上の特異体でも20近く、準1級相当が6体に1級相当も1体と、手持ちを残しているとはいえ大盤振る舞いするユメにスオウも感心したように白い息を漏らす。

それを自慢するホシノは自分達も留まる訳には行かないと、取り敢えず雪原の奥の方まで行こうと秘儀を発動して身を固め、周囲を警戒しながら奥へ奥へと足を進める。

 

念の為準1級の特異体を1体、2級の特異体を4体で周囲を囲ませて壁にしながら進んでいた3人は雪原に乗り込んでから既に30分近く、未だに異変を感じられないことを不審に感じ始めていた。

 

「…ユメ先輩。異常は?」

「ない、ね…視覚は共有出来ないとはいえ鎮められたら分かるのに…隠れてるのか、私の放った特異体に干渉してないのか、一応何か見つけたら戻ってくるようには指示出してるんだけどね…」

「となるとやっぱり隠れてるか特異体達がユメ先輩に似て抜けてるから見落としてるかのどっちかですかね」

「ひぃん…」

「…随分気安い関係だな。言われたい放題で良いのか?」

「うん?まあ本当のことだし…それに、ホシノちゃんが本気で私のことを嫌うことなんてないって信じてるからね」

「…それは甘えですよ、ユメ先輩」

 

気分の問題か実際に気温が下がったのか、冷え込んだような気がした空気感の中そこからさらに10分程進んだ3人は予め伝えられた地形の情報からしてこの雪原のかなり奥の方まで来たと推測するが、それでも異変らしい異変はやはり見つかっていない。

いよいよ標的としている特異現象がここを離れてしまったのではないかと思い始めていた時…

 

 

「…!北東…あれ、北ってどっちだっけ…?斜め右前行かせてた子達がまとめて消えちゃった!」

「そっちは北北西です…おでましですか」

「さて、色々な意味でお手並み拝見と行こうか」

「特異現象に対して言ってるんですよね?」

 

散らばらせていた特異体の内ある方向の特異体がまとめて鎮められたことを察知したユメが注意を促すと、ホシノとスオウも臨戦態勢に入りユメも新たに1級相当の特異体2体を出現させて周囲を守らせるように配置した。

進路を変えゆっくりと特異体が鎮められた方向へと進んだ3人が目の当たりにしたのは…複数の奇妙な構造体と中心の雷が球体化したような核のようなもので形作られた神々しさすら感じる存在。

 

後に付けられたその呼称は───特級大罪特異体”セト”

 

 

「…お〜、あれ弱らせて調伏したいねー」

「勘弁してくださいよ…ただでさえ特級相当となると加減が難しいんですから、ダメージ通そうと攻撃の出力上げたら消し飛んじゃいますって」

「もう勝てる前提か…まあそれほどの余裕が無ければ特級には区分されないか。開けた場所とはいえ地形への被害は最小限で頼むと支部から頼まれたのを伝えておくぞ」

 

「犠牲者多く出してる特異現象相手に呑気なことを…私達じゃなかったらキレられる注文ですよ、本当に」

「じゃあぼちぼちやろっか!準備は良い?ホシノちゃん、スオウちゃん!」

「ちゃん付け…私先輩なのだが…いや別に良いが…」

「ユメ先輩はああいう人ですから、その辺の距離感は諦めてください。それと、危なくなったら必ずフォローして貰えると思わないでくださいね」

「フン、そもそも不要だ」

 

何か力を溜めているような行動を行っているセト。

それを前に速攻を仕掛けたり妨害する訳でもなく余裕を決め込んで話していた3人は、セトの放った巨大な雷をそれぞれで飛び退いて回避すると各自攻撃を開始した。

ホシノはキヴォトス最強と謳われる神秘を愛用のショットガンに込め…破壊力を引き上げた弾丸をセトに向けて放つ。

ユメはユスティナの特異体を数十体出現させてセトを囲い込むように配置すると、それらに一斉掃射を命じて総攻撃を行う。

スオウは腰に差していたハンドガンのようなグリップに長い銃身が着いた特徴的なショットガンを引き抜くと、小手調べのつもりか軽く神秘を込めて牽制程度にセトへ放った。

 

四方八方から浴びせられる弾幕を受けて…セトは大したダメージを負った様子もなく腕を振り払うと、生じた暴風が雪を巻き上げて視界を急激に奪い、ユスティナの特異体の多くを吹き飛ばしてしまう。

 

「うぇ!?見えにくっ…!」

「私達のものはともかく、ホシノの攻撃もほとんど聞いていたかったな。耐久力が異様に高い…?」

「いえ、それよりかは何かしらの力で減衰されたような感覚に近いです。あいつの秘儀でしょうか、カラクリを破らないとこのまま削って倒そうとすれば時間がかかりすぎます」

「ならば弱点なりなんなりを探ってみるとするか」

「別にあなたが何かしなくても…ユメ先輩!」

「うん!聞こえてたよ!皆お願い!」

 

ホシノが呼びかけると、暴風に分断されていたユメが吹雪の向こうから返事を返し、直後に複数の特異体を放ってそれらをセトの周囲を旋回させる。

旋回する7体の特異体達…どれも準1級以上の秘儀を持つ個体…はそれぞれが保有する秘儀を発動し、セトへの効き目を確かめるように絶え間なく攻撃を始めた。

 

鳥のような特異体は風の攻撃を、蛇のような特異体は炎の攻撃を、犬のような特異体は音波による攻撃など、複数のバリエーションによる攻撃で何が効き目があるのか、それとも身体の何処かに弱点となる部位でもあるのかを確認したユメは、早々に結論を叩き出した。

 

「秘儀とかはもう何も効かないね!純粋な物理攻撃の方が通りが良いと思うのと…神秘を乱すバリアみたいなの纏ってるから、普通に殴った方が早いかも!」

「なるほど…とはならないが?大分無茶を言ってないか?」

「まあ確かに銃で撃った弾に込められた神秘は制御から外れちゃうんでそのバリアとやらの影響をモロに受けるのは分かりますが…なら私が前に出ていくんで軽く牽制だけ頼みましたよ」

「はーい!」

「本当にやるのか…?はあ、仕方ない」

 

おおよその攻略法を割り出したユメの言葉を信じて、ホシノはググッと膝を曲げるとバネのような勢いで跳躍し滞空するセトへと飛びかかった。

セトは即座に雷を落としてホシノを撃墜しようとするが…ユメの操作によってそこに特異体が割り込むことでホシノへの直撃を防ぎ、セトに肉薄したホシノは腕を振りかぶってセトの身体を構成するオブジェのようなものを攻撃する。

すると、殴られたオブジェは木っ端微塵に砕け散って崩落し、セトは慌てたようにホシノに取り付かれた部位を捨てて距離を取った。

 

「効きがダンチですね、このまま殴っていきましょうか」

「よーし、私も張り切っちゃうよ〜!おいで──!」

「…ああなるほど、あんたらは本当に”特級”だよ」

 

ユメが出現させたのは、ユメが調伏し取り込んでいた特異体の中でも虎の子と言える切り札の1つ───特級神明特異体”ゲブラ”

 

全身機械の巨大な体躯にパイルバンカーや大型の砲台、ミサイルポッドやその他多数の武装を搭載したその特異体はそれらの武装を一斉に起動し、集中砲火でセトを狙い撃った。

それらの攻撃自体は神秘や秘儀に対して大きな損傷を与えることは叶わないが…恐るべきはその攻撃の圧力。

圧倒的な火力は損傷こそ与えられずともセトの巨体すら押し退け、本体の行動を尽く妨害していた。

 

圧倒的な弾幕や爆撃を受けてろくに移動も出来ないセトに飛びついたホシノはセトの纏う神秘を乱すバリアに威力を減衰されないよう身体強化に用いている神秘を強固に練った上で、再びセトの身体を構築するオブジェへと殴りかかった。

それは先程と同じように崩壊し、セトは逃げようとするも依然として続くゲブラからの攻撃によって後ろに下がり続けるのみで満足に動くことが出来ていない。

それをいいことにホシノは追撃を続け、次々とセトを構成するオブジェを破壊していく。

 

立体的に浮遊するセトのオブジェを次々と身軽に跳び回っては破壊していくホシノの姿はまるで空を駆る天空の神のようで、スオウですらその暴れっぷりには畏怖すら感じる程のものだった。

それはゲブラやその他大量の特異体を操り状況に合わせて柔軟な対応ができる『特異操術』とそれを十分に使いこなせているユメも同様で…

 

「…参ったな、私の出番がないじゃないか」

 

自分が活躍する余地がないと見切りをつけたスオウは大きく後ろに飛び退いて邪魔にならない位置から牽制として銃撃を打ち込むことに決めた。

 

その間にもホシノによる破壊は続き、残るセトを構成するオブジェは3つにまで数が減る。

このままでは鎮められてしまうと判断したのか、その知能が無くとも生存本能が働いたのか、セトは力を振り絞って放った雷撃でゲブラによる掃射を跳ね返して作り上げた一瞬の隙を突いて弾幕から逃れると、腕のようなオブジェを振り上げ…振り下ろして無差別に雷を降り注がせる。

万雷は雪原に無数のクレーターを作り、もはや地形を気遣う段階ではないと判断したホシノは雷を秘儀を発動して無傷で受け止めながらセトの真上にまで飛び上がると、その拳を振り抜いて…それによる衝撃波の圧力でセトの巨体を地面へと押し付けるという荒業をやってみせた。

 

「畳み掛けちゃってください!」

「おっけー!ゲブラ!ユスティナ!いっけー!」

 

背部のブースターで加速したゲブラはその巨体を起き上がろうとしていたセトへと叩き付け、のしかかるようにして地面へ押さえ込んだ。

その隙に吹き飛ばされてから復帰してきたユスティナの特異体達もセトへと銃弾を撃ちまくり、細かくもダメージを積み上げていく。

 

「もっとバラバラにして…おっと」

「あ、大丈夫ー!?」

「平気ですよ」

 

取り付くホシノとのしかかるゲブラを引き剥がそうと躍起になったセトは半ば自爆する形で全身から放電することでその際に生じた衝撃波でホシノとゲブラを吹っ飛ばすことに成功するも、ホシノが吹っ飛んだ先に回り込んだマンタのような特異体が受け止めることでホシノが戦場から遠ざけられるのを阻止する。

ゲブラもまた1度離されはしたもののその重量故に少し穴ぼこになった大地を転がる程度に留まり、反撃の砲撃を繰り出しながら再度セトへと突撃する。

 

そのセトはといえば、先程の放電で疲弊したのか明らかに弱点っぽかった核に当たる部分が実体化し、露出した。

それを目敏く見逃さなかったホシノはゲブラがセトを押さえ付けた瞬間に通り魔のようにセトを構成するオブジェを2つ破壊すると、核に飛びかかり…雷球のようなそれに触れるとバチバチと激しく電気が迸り、ホシノを拒むように唸りをあげる。

だが秘儀を発動し事実上の不変を実現しているホシノにとっては痛痒すら感じない抵抗、ホシノは腕を振り抜いて───核を粉微塵に粉砕し、セトは形を保てずに形状崩壊して消失した。

 

「…あの特異体をあっさりと、か。『特異操術』で操る特異体は術者の神秘でさらに強化されているのか、本来以上の力を発揮しているようにも見えた。そして小鳥遊ホシノの個人としての圧倒的戦力…これは当分キヴォトスも安泰だろうか?」

「まさか、幾ら私達が強くても特異現象は現れるし…」

「私達の目の届かないところで犠牲者は出続けますから。だから特異現象捜査部(私達)がいるんでしょ?」

「…後輩に教わることがあるとは先輩の面目丸潰れだな。私ももう少し精進するとしようか」

 

帽子を深く被ったスオウは軽く現場検証を進めていると、「取り込むのを忘れた」だの「いつもそうなんですから」だのと愉快な口論を繰り広げるホシノとユメを見てクスリと笑い、これからのキヴォトスが安泰かはともかく、かなり荒れることにはなるだろうと見越してそれはそれで末恐ろしいと思わずにはいられないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。特異現象は…やはりお2人の敵ではありませんでしたか」

「いやー、でも中々厄介な特異体だったよ〜?」

「少なくともこれまで見てきたどの特異体の区分にも当てはまらない個体でしたし。本当に取り込めなかった事が悔やまれます」

「だから倒しちゃったのはホシノちゃんでしょ〜!」

 

予想は着いていたことだが、先に派遣されていた生徒は結局行方知れず、雪原全体をくまなく探索してもなお発見出来ず特異現象捜査部は殉職したと判断し、捜索が打ち切られることとなった。

医療班として控えていたセナはそれを気に病んでいるのか少し機嫌が悪そうだが、特異現象捜査部で活動していれば珍しいことでもないとホシノとユメ同様、暫くすれば切り替えることだろう。

 

「喧嘩するのも良いが、あんたらはどうするんだ?このままS.C.H.A.L.Eに帰還するのか、レッドウィンターで宿でも取って泊まっていくのか」

「…それは勿論」

「せっかくここまで来ましたしね…」

「寒冷地ならではの民間療法等には興味がありますし…」

 

満場一致で観光したい、休みたいと言うホシノ達にスオウはやれやれとおどけたように肩を竦めるとコートを翻してその場を去ろうとする…その前に。

 

「代わりにS.C.H.A.L.Eに報告は入れといてやる。今日ぐらいは好きに宿泊していくといいさ。ちなみにおすすめは山奥の温泉宿だ」

「あ、そうなんだ。ありがとう!」

「ご親切にどーも」

「それではまた、機会でもあれば」

 

ユメは率直に、ホシノはぶっきらぼうに感謝を伝え、セナは再会を願うような内心はどうでもいいような、それぞれの別れを最後に3人で去っていってしまった。

人の命が重くない特異現象捜査部において支部間の人の繋がりが薄いのは仕方ないとはいえもう少し感傷に浸ってくれても良いのではと思うスオウだったが、あの3人の青春はS.C.H.A.L.Eの方で完結しているのだろうと野暮なことは言わず、大人しく来た列車へと戻った。

 

「…雪も止んで今日は絶好の運行日和だな。こんな日には快速でキヴォトスを1周するに限る」

 

思えば昼頃にレッドウィンターに来て数十分程の探索と10分にも満たないセトとの交戦、その後の救助者の捜索を含めても終わった時にはまだまだ日も高く、雪が止み晴れた空はまだまだ青く澄んでいた。

それは寒冷地らしい空気の綺麗さで…空はどこまでも青く澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウカちゃーん!ノアちゃーん!お土産のチェリョンカとなんかイカつい彫像買ってきたけどいるー?」

「なんですかこの気色悪いマッチョ像…なんかヒゲも着いてるし…」

「そうですか?私は可愛いと思いますよ?」

「なんとなくで買ったけどチェリョンカってそもそもなんなんですかね…あ、チョコレートなんですか」

「静かにしてください…新調した医学本を読んでいる最中なので」

「勝手に一泊してきて…私へのお土産はないのですか!?煎餅とか!」

「「「「「おばあちゃん…」」」」」

 




備考
時系列…懐玉・玉折編より少し前

スオウ…番外編のみでゲストとして登場。まだまだキャラが掴めてないのでエミュは甘いのはご愛嬌。一応本気を出せば単独でもセトに勝てるが鎮めるまでに日を跨ぐぐらいには時間がかかるぐらいの想定
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