【1年、2年交流会】
「というわけでゲーム大会しましょう!」
「何がという訳だ三馬鹿共」
アリス、ヒナ、カズサの3人は2年の先輩達が使っている教室に押しかけると脈絡もなくそんなことを言い出した。
机の上に腰をかけ足をぷらぷらと揺らしながらミノリ、ペロロと話していたレンゲはやかましい後輩達に手をしっしっと払って帰るように促すが、アリスは負けじと詰め寄ってレンゲの手を握った。
「ちょっ…」
「お願いします!やはり皆さんと仲良くなるにはこれが一番だと思うんです!」
「だから別に馴れ合う気は…」
「大人しく受けて上げてくださいレンゲ先輩。アリスはこうなったら聞かないんで」
「先輩方も今日任務もなくて暇って言ってたでしょ?私達も暇だし付き合ってよ」
「はぁ〜?…お前らはどうする?」
「私は構わないが…」
「デモ」
ペロロとミノリが乗り気らしく、断るようなら便乗しようとしていたレンゲは咎めるように睨みつけるが、2人は顔を背けてそれを受け流す。
改めてレンゲは自分の手を握るアリスの方へと視線を向けると、アリスは瞳をキラキラと輝かせて後輩としての”甘える”という特権を存分に行使してきていた。
「…っ〜〜〜!分かったよ!やりゃあ良いんだろやりゃあ!」
「はい!我儘を聞いてくれてありがとうございます!」
「それは良いが…ゲームをすると言っても何をするんだ?すごろく?おはじき?」
「人間社会に生きていて出てくるのがそれなのはもうギャグでしょペロロ先輩」
冗談なのか本気で言ってるのか、レンゲとミノリからすれば微妙に判断に困るペロロの天然は置いといて、ヒナは教室の外に用意していた箱を持ち込みそれを開くと、中からはゲーム機本体と複数のソフトが用意されていた。
「取り敢えずアリスの部屋にあった中で多人数用の奴持ち出してきたけど、レンゲ先輩とかゲームするのかしら?」
「あぁ?私は普段は運動とかトレーニングばっかであんまり…ミノリは?」
「ストライキ」
「あんまりしないってさ。まあこいつは本とか読む方が好きだしな」
「えー?まあ私もゲームはアリスが誘ってきた時ぐらいしかしないけど…あ、キヴォブラあるじゃん」
「良いですね!多人数アクションパーティゲームと言えばの鉄板です!」
「すまない、こういうのは私もやったことがないから色々と教えて欲しいんだが…」
「じゃあアリスが先に教えてあげてなさい。その間私とカズサは別のやってるから」
「了解しました!」
そんな訳で始まるアリスのゲーム講座。
操作方法やゲームのルール等の基礎的なものは勿論、アリスによる直接の指導の元NPCを相手にした練習もじっくりと行って1時間。
ミノリは飲み込みが早く、ペロロは外装の中にコントローラーを引きずり込んで操作していた為アリスも指導に苦戦したが、本人の反射神経や動体視力のお陰でアクションゲームをこなせるセンスは相応にあった。
レンゲは本人の意地の張った性格と頑固さもあって最もアリスが教えるのに苦労していたが、なんとか対人相手でも戦える程度には上達しいざ本番へ。
「まあ私達はハンデ付けよっか。ランダムでキャラ選んで、%上げて…80くらい?」
「ミノリ先輩とペロロ先輩はともかくレンゲ先輩のことを考える120はあってもいいかもしれません」
「おうぶっ飛ばされてーのかアリス」
「前から思ってたがアリスはナチュラルに煽ってくるな」
「プロレタリア…」
「私はあんた達程上手くは無いし60ぐらいで勘弁して欲しいわね」
そんなこんなで始まった第1回S.C.H.A.L.E1年、2年交流『キヴォブラ』大会。
2年生組は練習の時に使ったキャラの中から自分に合ったキャラを、1年生組はランダムで選ばれたキャラを使い、アリスは120%、カズサは100%、ヒナは60%のハンデを付けた状態から始まるように設定される。
「アリス、勝ちます!」
「私が勝ったら後でアイス奢りって約束忘れてないよねヒナ」
「あれ言い出したのアリスでしょなんで私が奢ることになってんのよ」
「お前ら舐め腐りやがって…見てろよ…!」
「デモ」
「まあやるからには全力でやるが…」
各々が意気込んで、遂にゲームが始まる!
職員から苦情を受けてS.C.H.A.L.Eにある2年生の教室の様子を見に来たホシノ。
そこで見たのは、荒れ果てた内装と壁に派手に開けられ見晴らしのいい外の景色が見える大穴、隣の部屋までぶち抜かれ劇的なビフォーアフターを遂げた様と、薬莢とボロボロの後輩達が転がる特殊部隊でも攻め込んできたのかと疑ってしまうような凄惨な現場だった。
「…何やってんの君達」
「あ、ホシノ先輩…その、皆さんとゲームをしていたら…思っていたより白熱してしまって…」
「レンゲ先輩が最初にリアルファイト始めたんじゃん!私悪くないよ!?」
「銃使い始めたのはお前だろうが!」
「すまない、私がミサキを呼び出してしまった為に無駄に被害が広がってしまった」
「ストライキ…」
「もういいのよ…」
「…すーーーっ…皆」
「「「「「「?」」」」」」
ホシノが呼びかけると、騒ぎ始めていた一同の視線が一斉に集まる。
そんな皆の集中を受けたホシノはニコリと笑うと、背中に背負っていたショットガンに手をかけた。
「虚式『暁』」
「うわーん!ブチ切れてます!」
「やっべ逃げろぉ!」
その日キヴォトスの空に流星の如く空を駆ける紫色の光が観測されたとかなんとか。
【いつもの】
「じゃじゃーん!見て見てー!」
「…?何よそれは」
今日は資金稼ぎの為に裏の仕事をこなしていたアル達4人。
そんな4人の元を訪れたのは、協力者である”梔子ユメ”だった。
ユメは浮かれた様子で取り出したそれ…何やら新品らしい端末を見せつけるように掲げた。
「それは…『モモフォンX』…?」
「カヨコちゃん知ってるのー?」
「モモフレンズブランドの系列にある携帯会社が売り出してる端末の最新バージョンだね。私も今度買おうかと思ってたんだけど…まだ正規品は売ってなかった筈じゃ?」
「ふっふっふっ…連邦生徒会の方のコネで先行販売してもらったんだ。こう言うコツコツと積み上がっていく技術の進歩を見るのは楽しいからね」
「はぁ…で、まさかそれを自慢しに来た訳じゃないわよね?」
「そのまさかだけど」
「ハルカ」
「はい!ぶっ殺します!」
割と物資難で困っているというのにユメに余裕を見せつけられたアルはユメにハルカをけしかけようとするが、カヨコがハルカを抱き上げて宥め、ユメも詫びを入れるように手を振って諌める。
「ったく…本当にその為だけに会いに来たの?」
「まあ見せびらかしたかったのもあるけど、私ちょっとこれから行くとこあってさ。場所が場所だからこんな最新機器持ってくのも危なそうで不安だから、アルちゃん達に預かってて欲しいんだ。用事が済んだら取りに来るから君達の拠点にでも持ち帰っても良いし、大事に扱ってくれるならそれで動画みたり音楽聴いたりしても良いよ」
「…それは依頼?」
「そうだね、私からの君達への頼み事。大それた報酬なんてないけど、お小遣いぐらいの金額なら出してあげても良いよ?」
「仕方ないわね…協力してもらってるよしみだし、別に私達が体張るようなものでも無いし、それくらいなら」
「ありがとう、助かるよ〜!特異体に扱わせるのも怖いしね〜」
ユメはアルにモモフォンXを渡すと、地面から現れた大きな特異体の口の中に入ると、特異体と共に地中に姿を消してしまった。
残されたアル達はユメがいなくなったことを確認すると興味津々といった様子でモモフォンXを眺め始める。
「おぉ…社長ちょっと貸して」
「さっきの聞いてたなら分かると思うけど皆大切に触ってよね?」
「うん…薄い、軽い、デザインもスマートで良いね」
「
「ムツキは分かってないね。端末そのもののスペックの向上は勿論、軽量化や耐久性の向上、旧品と比べて機能が追加されたり画質や音質もより良くなってて、新作を持ってるだけで普段使いの利便性とか快適さが結構変わってくるんだよ」
「そ、そう…?カヨコちゃん珍しく結構な文字数喋るから驚いちゃったんだけど…」
「ほらほら、そこまで気にしなくても大丈夫でしょうけど念の為拠点に持って帰って安全を確保するわよ…でも、そんなに凄いものなのかしら…?」
ここはキヴォトス、いつどこで銃撃戦やテロが起こるか分からないような場所。
万が一にも騒動にでも巻き込まれて傷付いたり破損しないようにカヨコからモモフォンXを取り上げたアルは、しかし先程のカヨコの解説が気になったのかユメが許可を出してくれていたのを思い出し恐る恐る端末を起動して軽く操作する。
「…あー、確かに私達が使ってるものより画面綺麗ね」
「スピーカーとか気になるな…ちょっと曲流してみて」
「あ、私動画見てみたーい!この画質でアクション映画とか絶対迫力あるよ!」
「わ、私のことはお気になさらず皆さんで楽しんで下さい…」
「何言ってるの、ハルカも来なさいよ」
モモフォンXに集る3人に遠慮がちに距離を取ろうとするハルカだったが、それを見逃さなかったアルはハルカの手を引くと近くにあったベンチに腰掛け、膝の上にハルカを乗せて身体の前に腕を回してりょうてで端末を持つ。
気が付けばアルの膝の上に座らせられ背中と脇の下を通る温もりに何が起こったのかを理解出来ずハルカは宇宙を感じ始めた。
「あっはは!ハルカちゃん動画で見た猫ちゃんみたいになってるー!」
「あれ、良いよね…可愛かった…っと、社長私も見せて」
「あ、ずるーい!ムツキちゃんも見せて見せて〜」
「貴女達はしょうがないわねぇ」
カヨコとムツキもアルを挟むようにその両隣りに腰掛け、ぴとりと寄り添ってアルが持つ端末を覗き込む。
アルは動画アプリを起動していたようで、アウトローが主役となっている映画を再生していた。
「…おー、本当だ!最新機器って凄いね!」
「音も良い感じ…後でロックとかも流してみて」
「あわ、あわわわわ…」
「思ってたより良いわね…そうね、今度お金貯まったら買ってみようかしら。最新機器を使いこなすお洒落なアウトローってのも悪くないわ!」
そうして小一時間動画を見たり曲を聴いたりしてモモフォンXを楽しんだ4人…1人それどころでは無い様子の子がいたが…十分に堪能すると、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。
そして帰る前に綺麗な夕焼けが出ている事に気付いたアルは頭上に電球を浮かべピコーン!と何かを思いついたように表情を明るくすると、カヨコとムツキ、ハルカを引っ張り寄せるとモモフォンXの画面側を自分達の方に向けた。
「…?アルちゃん?」
「あぁ、自撮り?確かに夕日が綺麗だけど…」
「わ、私なんかが皆さんと同じ画面に映るなんて…」
「ほーら、笑って笑って。後でユメに頼んで現像してもらいましょう。はい、チー────」
その瞬間、アルが撮影の為に掲げていたモモフォンX。
それを突如急降下してきたコンドルが掻っ攫い、そのまま飛び立って行ってしまった。
「「「「…」」」」
あまりにも一瞬の出来事に理解が追いつかず呆然とする4人。
その中でもいち早く事態を飲み込んだアルはゆっくりと両目を閉じてふっ、と笑い…
「な、なんですってーーー!?」
「ちょっ、やばいって…!早く取り返さないと…!」
「そうだよアルちゃん早くしないとハルカちゃんが…」
「アル様のものを奪うな害鳥風情がぁぁぁぁ!」
「ほら言わんこっちゃない!」
「ハルカ!?撃っちゃダメ撃っちゃダメ!モモフォンXごと撃墜するつもり!?」
案の定怒り狂ったハルカがショットガンをコンドルの背中に向かって乱射する。
モモフォンXも巻き込まれるのを避ける為になんとかそれを止めさせたアル達だったが、ユメに任されたものをあのまま奪われる訳にはいかないと慌てて追跡した。
カヨコは飛行能力を持った小型の式神を数体生み出してコンドルの後を追わせるが、どちらにせよモモフォンXを安全に保護するためにはコンドルを刺激することが出来ず、見失わないための目印にしかならない。
「すみませんすみませんすみません私が時間を取らせてしまったばかりに…!」
「ハルカは悪くないけど…なんでこうなるのよー!?」
「画面とかキラキラしてたし、つい持ってっちゃったのかな?」
「あの鳥そんなカラスみたいな生態してたの!?」
「そんなことより…あっ!モモフォンX落とした!」
「えぇ!?」
運ぶのに疲れたのかそもそも巣まで持ち帰る気はなかったのか、コンドルは脚で掴んでいたモモフォンXをポイッと捨て、そのままモモフォンXは自由落下を始める。
カヨコは式神を操ってそれを回収させようとするが…
「っ!?たまたま飛んできたジャベリンに撃ち落とされた…!?」
「そんなことある!?」
「あ!アルちゃんあれ!」
何処の馬鹿が撃ったのか、何処かから飛んできたミサイルがモモフォンXを回収しようとした式神に直撃し、それが妨害される。
そしてモモフォンXを受け止めることが出来ず、アル達も落下地点には間に合わず…無慈悲にも道路の硬いコンクリートの地面に叩き付けられた。
「あ…あ…」
「社長、諦めないで!このキヴォトスで売り出す端末だよ!?爆撃とか銃撃にはある程度耐えられるくらいには頑丈に作られてるはず!」
「そ、そうね…傷とかは付いちゃってるかもしれないけど、あの高さぐらいなら壊れちゃってるなんてことは…あ」
最悪傷付いたりしていた場合は大人しくユメに許しを乞うつもりで回収に向かったアル達だったが…モモフォンXが落ちた場所は道路の真上。
つまり交通がある訳で…たまたまそこを通りかかった、何か急いでいるのか全速力で進む十数台の戦車が次々とそのキャタピラでモモフォンXを踏み潰し、無惨な姿になっていくそれにアル達は顔を段々と青褪めさせていく。
最早回収することすら頭から飛んてしまったアル達に対して、さらに追い打ちをかけるように…
「よーし!水脈はここだな!じゃあ、開発だぁ!」
そこに通りがかった悪名高いアウトロー集団、『温泉開発部』の生徒の1人が何故かペシャンコになったモモフォンXの上に掘削機を置くと、そのまま激しく回転するドリルはモモフォンXを巻き込んで地面にめり込んでいく。
「おい、ポイントはそこじゃないぞ?地図を読み違えたんじゃないか?」
「あれー?あ、ほんとだ200m東じゃん。いやぁうっかり」
「もうしっかりしてよねー?」
場所を間違えていたらしい生徒は他の仲間に連れられてその場を後にする。
もう全員顔色を真っ青にしている状況だが、震える足取りで掘削機によって開けられた穴に近づいたアルはその穴の底に沈む粉々になったモモフォンXの残骸を拾い集め、原型を残さぬ程に破損したそれに絶望した。
「えっと…どうしよう…」
「あ、アル様…のりなら持ってます…」
アルから残骸を受け取ったハルカはたまたま持ち歩いていた接着のりで接合を試みるが、そんなもので修復出来るはずも無く完成したのは何とも言い難い前衛的なオブジェのような何か。
「…あ、アルちゃん!それならこうやって誤魔化そうよ!」
「…何これ。私には完膚無きまでに叩き潰された何かの残骸を組み合わせた前衛的なオブジェに見えるんだけど」
「これは、あれよ…薄くなったつむじに乗せて髪を綺麗に見せるレディースモモフォンXよ」
「極の番『うずまき』」
「いやあぁぁぁぁぁ!?」