ブルア廻戦   作:天翼project

116 / 155
今回はオリジナルの番外編でお送りします


短編:そんな未来も

 

秋の陽気の暖かな日のこと。

とある生徒がS.C.H.A.L.Eの教室に入ると、先に教室に着いて座学の支度をしていたヒナが小さく微笑んで近寄ってきた。

 

「おはよう」

「え、えっと…おはよう」

「どうかしら?ここの空気にはもう慣れた?騒がしい癖して陰気臭い場所だけど」

「ま、まあね!前と比べたらむしろ過ごしやすいくらいだわ!」

「そう、それは良かった。緊張感は大切だけど、気を張り詰め過ぎるのも良くないわよ」

「…ありがとう」

 

癖の強い先輩方や喧しい同級生に囲まれるヒナにとって、少し個性的ではあるが素直で良い子なその生徒にはアリスやカズサには見せないような世話を焼き、ほんの少しの先輩としての気分を感じつつもやはり相手の素直さに心が洗われるような気持ちだった。

 

が、そこに勢いよく教室の扉を開けていつもの面々が入室してくると、ヒナは露骨に表情からスーッと色を抜けさせて教室の入口の方に目を向ける。

 

「おはようございまーす!」

「おはよー」

「元気に挨拶するのは良いけど扉はもっと静かに閉めなさいって言ってるじゃない、アリス」

「うん?何かお邪魔してしまいましたか?」

「逆にヒナは朝からそんな仏頂面で気分下がるんだけど。もっと笑わないと顔固くなっちゃうよ〜?」

「余計なお世話よ」

「そうよ、ヒナ…はさっきだってちょっとだけど笑顔だったのよ」

「え、マジ?私達には見せてくれないの?」

「アリス、ヒナの笑顔が見てみたいです!」

「ああもう、フォローは嬉しいけどこいつらすぐ便乗してくるんだから…!」

 

自分達にはいつも素っ気ないヒナが少しとはいえ笑顔だったと聞いたアリスとカズサは悪ノリし、なんとかしてヒナを笑わせようと画策した結果2人がかりでくすぐりを仕掛けようとする。

それにヒナも本気で抵抗、玉犬を呼び出すと唸らせて2人を威嚇した。

 

「ちょっ、あんまり騒ぐとまた先輩達に怒られるわよ…?」

「こいつらに言いなさいよ、私だって毎回こんなので一緒に怒られるの納得してないんだから!」

「何を言うのかと思えば、私達はとっくのとうに一心同体でしょ?」

「今の時代は共産主義ですよ!即ち連帯責任です!」

「ミノリせんぱーい!こいつら共産主義を悪用してるわよー!」

 

ここにはいない語彙が物騒な先輩に助けを求めるヒナだったがまだS.C.H.A.L.Eに来ていないのか声が届かない距離にいるのか、或いは聞こえないふりをしているのか助けがやってくることはなく、両手をワキワキとさせてにじり寄るアリスとカズサとのいつものじゃれ合い(リアルファイト)が開幕、そうそうに暴れたヒナが玉犬と共に教室の机と椅子を蹴散らし、もう既にこの後の展開が見えると喧騒からあぶれた1人は遠い目をした。

 

「ほら、何もしないからおいでよ〜?」

「じゃあその手の動きを止めなさいよ!」

「ふっふっふっ、堪忍してくださいヒナ!ってそんなに本気で抵抗して来なくても…仕方ありません、手伝ってください───

 

 

 

 

 

 

───()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、申し開きは?」

「「「ごめんなさい…」」」

 

「はは…」

 

あの後騒ぎを聞きつけて駆けてきたホシノによって無事馬鹿3人は鎮圧。

現在荒れた教室に正座させられ説教を受けているところだった。

騒ぎの渦中ずっと教室の隅で巻き込まれることから逃れていたコハルは説教を免れ、注意を受けるアリス達に苦笑いを浮かべる。

 

「まったく…喧嘩するのは良いけど建物とか備品まで荒らすのは本当に勘弁して欲しいんだけど…これでいつもヒマリ部長に怒られてるのおじさんなんだからね?」

「監督不行届ってやつですね!」

「アリスちゃん?」

「ごめんなさい…」

「はぁ…ほんのちょっぴりとはいえ君達のが先輩なんだから、後輩(コハル)ちゃんに立派な姿を見せてあげないとダメだよ?」

「でもホシノ先輩いつも言ってるけどこれ私悪く…」

「最初に暴れたのは委員長ちゃんなんでしょ?誰のせいとかじゃないよ」

「あははっ、言われてるね〜」

「カズサちゃんは1週間スイーツ禁止ね」

「なんで私だけストレートに罰乗るの!?」

「こういうの毎回最初に悪ノリするのカズサちゃんだし。はいじゃあ教室片付けたら授業始めるよ〜。あ、片付けはアリスちゃん達3人に任せて、コハルちゃんはおじさんと面談ね。着いてきて〜」

「え?で、でも…」

「良いのよコハル…」

「今回に関してはアンタ本当に何も関係ないし行ってらっしゃい」

「アリス達の骨は拾ってくださいね」

「なんで今際の別れみたいになってるのよ」

 

「はいはい皆行動開始!1時間くらいで戻ってくるから、それまでに片付いてなかったら課題増やすからね」

「うわーん!ホシノ先輩の鬼!クソバカピンク!」

「凄いやおじさんなんにも悪くないのに罵倒されたよ。多分その言葉教えたレンゲちゃんにも後でお説教しないとね」

 

 

 

そんな訳で問題児3人は喧嘩で荒れた教室の片付けをさせられ、その間コハルはホシノに連れられて面談室へ。

机を挟んだ対面に座らせられ、コハルは緊張を隠せず頭と背中の小さな翼を震わせている。

それに気付いたホシノは緩い笑顔を浮かべ安心感を与えるように努めた。

 

「そんなに緊張しなくていいよ。ちょっとした世間話のつもりで良いからさ。それじゃあまずは何から話そっかな…特異現象捜査部は慣れた?」

「え、えぇ…皆には良くしてもらってるわ」

「あの子達も根は優しくて世話焼きな良い子達だからね。気安い相手にはちょっと配慮が欠けるけど」

「割と致命的なんじゃ…?」

「ともかく、楽しくやれてるなら良かったよ。トリニティの方で色々あってからゴタゴタしてけど、そろそろ落ち着いてきた頃合だと思ってね。どうする?本当にこのまま特異現象捜査部でやって行けそうかな?」

「…アリスの事や、アリスが信じてる人達の事は私も信じてるから。今更投げ出したりなんてしないわよ」

「そっか…うん、ならおじさんも君の先輩として手厚くサポートしてあげるよ!」

 

そんなコハルの思いにまた1人可愛い後輩が出来たとホシノは内心喜びに溢れ、その未来を支えてあげたいと思った。

この地獄のような場所でも、出来る限り青春を謳歌出来るようにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、言われた通りちゃんと綺麗に出来たね。じゃあさっさと席に着いて」

 

その後コハルにアリス達の事や心配な事などの相談に乗ったホシノはおよそ1時間後に教室に戻り、片付け終わり駄弁っていたアリス達に着席するよう促すと教壇の上に日誌を置いてモニターを起動した。

 

「今日はコハルちゃんに正式に4級の資格が与えられて特異現象捜査部としての活動が出来るようになった記念として、ちょっとしたレクリエーションをしようと思ってるよ」

「レクリエーションですか?ゲーム大会でもするんですか?」

「アリスちゃん、その流れになった時毎回どんな結末を迎えているのか思い出そうね」

「スイーツ巡り?」

「カズサちゃんがしたいだけだね」

「またカズサが来た時みたいに特異現象の調査にでも行くつもり?」

「う〜ん…才能はそれなり、本人の飲み込みも悪くない…とはいえ昔から特異現象に向き合ってた委員長ちゃんやスカウト受けてからトリニティの方の支部で訓練期間があったカズサちゃん、ちょっと色々特殊なアリスちゃんはともかく、コハルちゃんにいきなり実戦は厳しいだろうからね。今回のレクリエーションは至って普通に───お泊まり旅行をするよ!」

「お泊まり旅行…?」

 

ホシノが背後のモニターを叩くのに合わせて、無駄に凝ったSEを鳴らしながらババン!とモニターにお泊まり会の文字が出現した。

その後画面は切り替わり、お泊まり先の旅館や地域のことについての説明がされる。

 

「勿論ただの旅行じゃなくて、あそこは霊源あらたかな場所でもあるからね。神秘の取り扱いについてもちょっとした練習が出来ればってヒマリ部長に提案されたんだ」

「良かったじゃんコハル。私達でもこんな良い待遇されなかったのに」

「アリスは入学して次の日ぐらいでもういきなり任務でしたのに…」

「それは本当に貴女が特例だからでしょ」

「えっと…ホシノ先輩。本当に私の為だけにこんな良い扱いしてもらって良いの…?」

「ただでさえ人不足なんだから、転入生だろうと途中入部だろうと手厚くサポートさせてもらうよ。それに何より…今回はアリスちゃん達とおじさんも休める良い機会だしね〜」

「いや絶対それが本音でしょ」

 

カズサの鋭いツッコミにホシノは「たはー」と笑い、ヒナがため息を吐いて呆れている。

そんな中話題の中心であるコハルはぼーっとした様子で、それに気付いたアリスはコハルに席を近付けた。

 

「コハル、どうかしましたか?」

「え?いや…なんだか思ってたより明るい場所だなって思って…」

「…そうですね。皆さん良い人ですし、勿論明るいことばかりでは無いですが…コハルには笑っていて欲しいですからね。もっと励んで、これからも皆で頑張って行きましょう!」

「…うん、そうよね!」

 

「じゃあお昼頃からバス出すから、一旦解散ね」

「こういう時毎回トントン拍子ね。普通こういうこと前日辺りに言わないかしら?」

「善は急げだよ委員長ちゃん。じゃないとコハルちゃんが干からびちゃうからね」

「ホシノ先輩!?私のこと海藻か何かだとでも思ってるの!?」

「私は暑くて干からびそうになった経験があるからね」

「なんでそのウジャトの目(秘儀)持っててそんな事になるのの」

 

ホシノの小ボケに付き合いながらも決まってしまったことは仕方ないと渋々…しかし最近忙しかったのもあって久しぶりにじっくり休める良い機会だと、アリスは勿論カズサとヒナもそれなりに乗り気で準備を進める。

コハルも準備に寮の自分の部屋に戻り…アリスの部屋の隣で一日分の着替えやその他日用品を鞄に詰めて部屋を出ると、少し気になりアリスの部屋を覗いた。

 

「…何やってるの?」

「旅行と言えば泊まり先での夜更かしゲームは欠かせませんので!」

「流石に多いわよねそれ?それ全部やれるだけの時間とか無いと思うわよ。せめて数を絞りなさい」

「そうですか…仕方ありません、ここは『TSC』を…」

「せっかくの旅行を台無しにしようとするんじゃないわよ!」

 

キャリーケースにゲーム機器本体や幾つものソフトを詰め込もうとするアリスだったが、流石にどうかと思ったコハルがそれを止める。

ならばとアリスが持ち出した屈指のクソゲーを必死に阻んでいるとカズサとヒナも準備を終え、急かされた為に折れたアリスは1つのパーティゲームだけ詰め込んで外に待つバスに向かった。

するとそこにはホシノだけではなく、特異現象捜査部本部の部長であるヒマリの姿もあった。

 

「思えば今年度から色々あって1年の皆さんの歓迎会もしてませんでしたしね。今回は気楽に羽を伸ばしてください」

「ヒナとコハルしか出来ないじゃん」

「種族的な羽の話はしてませんよ」

「カズサ、貴女最近ちょっとふざけ過ぎじゃない?」

「いや苦労人ポジはもう全部ヒナに押し付けても良いかなって…」

「ぶっ飛ばすわよ」

「はい!ヒナがいるとはっちゃけても収まりが良いので助かっています!」

「なんで私の身近の人間ろくな奴いないのよ…本当に」

「今おじさんのことチラッと見たよね委員長ちゃん。おじさんの何が不満なのかな〜?」

「コハル、貴女はあんなのになっちゃ行けないわよ」

「「「あんなの?」」」

「あはは…」

 

何としてもこの子だけは穢させまいとヒナはコハルに抱き着いて大きな翼で守るように包み込む。

苦笑いを浮かべるも、こうして感じるぬくもりにかつて自分を可愛がり大切にしてくれた先輩の姿を思い出したコハルは微かに表情にしんみりとした含みを持たせると、それを目敏く察知したアリスがコハルに抱き着くヒナをぺしっと引き剥がし、代わりに抱き着いた。

 

「アリス…?」

「ちょっとアリス。駄目じゃない重機がいたいけな女の子に抱きついたりなんかしちゃ」

「それアリスのミレニアムでのあだ名なんですけど…多分教えたのオカ研の先輩のどっちかですかね…ああ、たまには連絡入れないと心配させてしまうでしょうか…おっと、すみませんコハル。痛かったでしょうか?」

「ん…いや、そんなことはないけど…なんかこれ以上続けると無性に死刑にしたくなってくるんだけど」

「何故!?」

 

「ほら、キミ達遊んでないで早くバス乗りなよ〜」

 

 

出発前から賑やかな様子に暖かい目で見守るホシノだったが、それはそれとして時間が押しているのと、これ以上好きにさせていたらまた問題を起こされかねないと全員にバスに乗ることを促し、出発する。

 

それから小一時間程で到着したのは、D.U.の都心部から離れた静かな街。

植物の多い街中には確かに他と比べて土地に神秘が色濃く根付いているのがアリス達の目でも分かるほどで、物珍しい雰囲気に特にアリスとコハルが目を輝かせて街を眺めていた。

 

そして辿り着いたのはその街の端の方にある小さな旅館。

旅館の従業員に先にヒマリが挨拶を済ませて来ると、ホシノの案内の元アリス達は最初に旅館の宿泊部屋に案内された。

 

「夜になったら布団敷いてくれるから、皆で仲良く使ってね。あ、念の為忠告しておくけど…他所様の施設なんだから壊したりなんかしたらいつもの100倍の課題出すからね、カズサちゃん」

「なんで私を名指しなの!?」

「えっと…ホシノ先輩」

「うん?コハルちゃんどうかしたかな?」

「どうしてこの辺ってこんなに神秘が多く漂ってるの?」

「お、いい質問だね。神秘っていうのは長い時間をかけて土地にも堆積されるものなんだけど、ここは昔火山で、かつてあったその火山の噴火で地盤が隆起して太古の昔の地面が盛り上がって、その上で山の部分は噴火と一緒に消し飛んだからこの辺りの土地も平らになったんだって。だからここはそんな長い時と一緒に神秘が堆積した太古の地面と地表の距離が近いからこんなに神秘が潤沢な場所になってるってわけ」

「へぇ…そうなんだ…」

「火山…なるほど、ですから天然の温泉も湧いてるんですね!」

「ちなみに同じような理由でゲヘナの方にも神秘が潤沢な土地が多かったりするのよ」

「なんであんたも張り合ってんの?」

 

コハルの質問に待っていましたとばかりにホシノが自慢げに答える。

コハルがそれに感嘆していると、横から割り込んできたヒナが先輩風を吹かせようと補足を入れてくる。

明らかに自分達を相手にしている時とは態度が違うヒナにカズサが文句を言うが普通に無視され、話は進んで持ってきた荷物を部屋に置くことに。

 

「それでここに来たは良いけど結局何するのよ?」

「っていうかヒマリ部長いなくない?どこ行ったの?」

「ヒマリ部長なら一足先に温泉に入ってるよ」

「何しに来たんですかあの人」

「湯治じゃない?」

「おばあちゃんかな?」

「で、本題だけど…まあ色々行ったけど本当に旅行に来たみたいなものだからね。ちょっと座禅組んだり瞑想してもらったりで神秘を練る練習はしてもらうけど、空き時間は好きにしてていいよ」

「そうなんですか?では朝までゲームでカーニバルです!」

「うへ〜、アリスちゃん。夜更かしは駄目だよ?」

「そんな!?」

「当たり前でしょ…なんならもう早く休みたいからさっさと始めましょ」

「これってそんな適当で良いものなの…?」

「コハルはまだ日が浅いから分からないか。良い?ここはね、もう大体なんか適当で良いのよ」

「適当なこと教えないでもらえないかなカズサちゃん。良くないからね?」

 

 

カズサの頭にたんこぶが1つ出来たところで旅館の畳部屋を借りて皆で瞑想したり、神秘が多く宿る霊場の水を飲むなどのそれっぽい体験を3〜4時間程したところで普通に研修は終わり、残りの夕方からは自由時間となった。

 

 

「う〜ん…夕飯が精進料理って…」

「私はああいう質素なの料理は好きよ?」

「ですが、特異現象捜査部で活動するからには沢山食べて体力を付けなければやっていけませんのに…コハルはどうでしたか?」

「私は…正直食べ足りなかったけど、この後自由時間でしょ?適当に外でなんか買って食べればいいんじゃない?」

「いや、それも良いけどここは…ね?」

「「「?」」」

 

思わせぶりな態度を取るカズサに首を傾げる他3人。

何事かとその後のカズサの案内に着いていくと、あれよあれよと話は進んで一向は旅館の温泉に辿り着き、身体を流した後天然だというそれに浸かっていた。

 

「あ〜…身体に神秘が染み渡る〜…」

「神秘ってそんな効能みたいなものじゃないと思うんだけど…大体湯船に浸かりながらじゃあ気が抜けるでしょう」

「コハル!どちらが早く泳げるか勝負しませんか!?」

「いや温泉で泳がないでよ!?マナー違反は禁止!」

 

仲間達とこうして過ごすのが余程嬉しいのか、それともこの環境のせいかは分からないが終始アリスがはしゃぎ周ったりしながらも暫くして温泉を出た4人。

着替えを済まし、そしてここぞとばかりにカズサは両手を広げると無駄に溜めを付けて舞うような動きをした後…ビッ!と片手で親指を立て、もう片手で腰の後ろに隠していたそれを掲げた。

 

 

「温泉の後と言えばコーヒー牛乳でしょ!」

 

「今の踊りの時間必要だった?」

「いや、演出無いと味気ないと思って…」

「演出も薄過ぎて水が9回ぐらい使い回したパックで入れた麦茶になったくらい地味な変化よ」

「何その絶妙な例えウケる」

「やめなさい恥ずかしい!」

 

「コハルはコーヒー牛乳とミックスフルーツ牛乳どっちにしますか?」

「じゃあ、ミックスフルーツの方で…」

「分かりました!」

「…私はコーヒー牛乳方貰うわ」

「結局飲むんじゃーん」

 

なんだかんだでヒナもコーヒー牛乳を貰い、皆で一斉に飲み干して息を吐いた。

定番とも言える流れはヒナやコハルとしてもそれなりに青春を感じれたのか、嬉しそうに翼をピコピコと揺らしてその感情を顕にしているのを見たアリスとカズサはクスリと笑う。

 

「…何よ?」

「いや別に…ふふっ…」

「尻尾や翼がある感覚はよく分かりませんが、少し不便そうだなとは思いましたね」

「…?まあ確かに寝返り打つ時とかにちょっと邪魔だけど…」

 

 

 

 

 

 

 

そうして温泉とその後の牛乳、次いでに温泉饅頭なんかも楽しんだ4人は宿泊部屋に戻るとアリスが持ってきていたゲーム機とコントローラーを取り出し、高らかに宣言した。

 

「では始めましょう!『キヴォブラ』を!」

「なんかもう嫌な予感がしてきたわ」

「同感だけどもう逃げられないからね。運命共同体だよ」

「おのれ社会主義…」

「ヒナもちょっとおかしくなってきてるわよね?え?普通なの私だけ?」

「温泉入ってツヤツヤになってるからじゃない?見なよこのヒナの毛量。もうモップじゃん」

「モップって言うならアリスなんか髪長すぎて歩いてるだけで地面掃除してるじゃん。切らないの?」

「はい!アリスのアイデンティティなので!」

「そんなに拘るようなものなのアイデンティティって…?」

「兎にも角にも、もうゲームは起動しています!この時の為に4人分のコントローラーを持ってきたんですから!」

「あーもう!オチは見えるけどこうなったからにはやるよ!」

「覚悟すると良いわ。リアルファイトに発展する間もなくボコボコにしてあげるから」

「わ、私は関係ないわよね…?」

「勿論寂しい思いはさせませんよ!」

「朝みたいにひとりぼっちにしてあげたりなんかしないからね。今度はコハルも仲間だよ」

「そこに加えられるの凄い嫌なんだけど!?」

 

逃げようとするコハルをカズサが肩を掴んで止め、ヒナが目にも止まらぬ動きで進路を塞ぎ、アリスがそっとコントローラーを握らせるという普段絶対にしないような連携を決め、半ば強引にコハルは巻き込まれることに。

そして案の定その後部屋からは騒がしい声が夜遅くに渡って響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒がしさを感知して深夜も丑三つ時。

ぐっすりと眠る相部屋のヒマリを起こさないよう慎重に起き上がったホシノは、念の為後輩達が使っている宿泊部屋を覗きに向かった。

 

そこには───散らかったゲーム機と、枕投げでもしたのかあちこちに散らばる枕と、遊び疲れたのか電灯も消さず布団にも入らずに倒れるように寝息を立てるアリス達4人の姿があった。

部屋の中を観察したホシノは得に何も壊れているものがないことを確認すると、ホッと息を吐いて部屋に転がる4人を敷布団の上に運び、その上から毛布をかけると部屋の電灯を消し、ゆっくりと部屋を後にした。

 

「ま、旅の夜更かしも青春かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

微睡みから目が覚める。

時計がジリリリリと騒がしく鳴り響き、手を伸ばしてそれを止めたアリスはむくりと起き上がると自分がベッドの上にいることを確かめ、仄暗い瞳で日の登った窓の外を見上げた。

 

「…そんな未来も、あったのでしょうか…」

 

夢に見た、或いは夢にまで見たそんな景色を惜しみながらも、アリスはS.C.H.A.L.Eに向かう支度をするのだった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。