「Key〜、近くのコンビニの廃棄弁当で良ければ食べる〜?」
「そんなものを王女に渡すな下郎」
「司祭、余所見をしないでください。アイテムを使うタイミングを間違えるなと言ったでしょう」
「はっ、申し訳ありません…!」
小鳥遊ホシノとの決戦が迫る中、マルクトが拾ってきた廃棄弁当を詰め込んだビニールを担いで拠点に戻ると、Keyと無名の司祭が仲良くゲームに興じていた。
まだ猶予があるとはいえそこまで呑気でいられるKeyにマルクトは侮蔑する訳でもなくただ流石だと思う。
2人はゲームに集中しているようなのでその間適当な弁当を食べながらその様子を眺めていたマルクトは一段落したところを見計らって、背後からKeyの首に抱きつくように両腕を回し、頭の上に自分の顎を乗せる。
「…邪魔なのですが」
「良いじゃん、私も混ぜてよ〜」
「しっしっ、貴様は去れ」
「司祭まで酷いなぁ…にしても、君本当に
「貴様に王女の何がわかると言うのだ。さっさと去ね」
「構いませんよ、司祭…しかし、そうですね。私も昔と比べればなんともまあ腑抜けてしまったかも知れません。まあ娯楽は娯楽として楽しんでいるのでやめる気はないのですが」
「お菓子いる?」
「スナック以外なら」
話の途中で急に差し出されたスティックタイプの菓子をポリポリと普通に食べ始めたKeyに無名の司祭は微妙な表情…素顔は仮面で見えないが…を浮かべ、マルクトは本当に変わったなとニヤニヤと笑う。
それが気に障ったのか、Keyはむすっとしてマルクトを睨むと無名の司祭からコントローラーをぶんどり、それをマルクトに渡した。
「なっ、王女…」
「次は貴女が付き合いなさい。司祭と対戦ゲームをすると忖度をされてつまらないのです」
「あっはっは!こういうのは無礼講って知らなかったのかい?まったく、司祭は真面目なんだからさ〜」
「ぐぬぬ…」
煽り散らかすマルクトに歯噛みする無名の司祭だったが、Keyから直々につまらない判定を貰ったせいで言い訳する事も出来ずに肩を落とすと、いじけて部屋の隅に行き1人でゲームをし始めた。
「って、司祭も君とやってる内にハマってたのかな?」
「あれでも気の利く者です。私を少しでも楽しませられるよう知らないところで練習してきてましたからね。まあ本気でやりあっても負ける気はありませんが、それでも肝心なところで手を抜いてくるので」
「まあそれは面白くないね。対戦ゲームってのは競いあってこそなんだから…ね?」
「違いありません」
「そういえば、なんでKeyってこんなにゲームに熱中するようになったの?」
その後格ゲーで数時間を潰したKeyとマルクト。
結果脅威のKeyの全勝でマルクトがコントローラーを投げ出した頃、Keyも一休みにとソファに寝っ転がっていると、床で寝そべりながら菓子に手をつけていたマルクトがそう聞いた。
「マルクト貴様…王女を前にその態度は流石に驕り過ぎだろう…いやそれ以前に人としてダメだろう…」
「ほとんど化け物みたいなもんでしょ私達。化け物に礼儀作法を求めるのが酷ってものさ」
「都合の良い解釈をしおって…」
「で、そこんところどうなのさKey」
「ふむ…少し前の話になりますが、きっかけはですね…」
「うわーん!なんで指数関数的に敵のHPが増えるのですか!このままではラスボスを倒すのにどれだけ時間がかかるのか分かりません!」
古聖堂での事件の後、連邦生徒会やその他上層部から匿う為に死を偽装してS.C.H.A.L.Eの地下室に身を隠していたアリスは、神秘を扱う技量を鍛える為の訓練としてホシノが持ち寄ったキヴォトスにあるありとあらゆるクソゲーをプレイすることによる精神修行を行っていた。
少し前にホシノと赤いアウトローによる遙か高みの戦いと神秘の極地を目にしたアリスはそれ以前よりも気合いを入れてこの訓練に望んでおり、ゲームをする手に力が篭っている。
苦行とも思える時間の連続によりアリスは以前と比べて自らの神秘の操作に対しての理解が深まり、隣に置いているアリスの腕にアームを巻き付けるロボットはアリスの神秘により抑え込まれ鎮静状態を維持されているほどだ。
「…っ!」
が、そんなある時…不意にアリスは自分の内側で機械音のようなものが響いたのを聞いた。
直後、アリスの右目にノイズが走り、赤く暗い光を灯した。
『何をしているのですか、小娘』
「…何の用ですか、Key」
『別に何もしませんよ。小娘が自分で身体を明け渡そうとでもしない限り今の私に外側へ干渉できる力はありませんので』
「…ならさっさと消えてください。今アリスは集中しているんです」
自分の内側から声が聞こえるという不可思議な感覚に嫌悪感を抱いたアリスは辛辣にそう言い放つが、対してKeyは少しの間考え込むように大人しくすると、不思議そうにアリスに質問をした。
『…本当にそれは何をしているのですか?』
「…?アリスの視界も見えているなら分かりますよね?」
『いや分からないから聞いているのですが…先程からずっとひたすらボタンを押し続けているのは何が面白いのですか?』
「失礼ですね、これはあの『TSC』を開発した方々が制作した『要塞のツルギ』です!敵の攻撃のモーションは当たり判定がガバガバな上に自キャラの操作性もイマイチ、しかもどんな攻撃でも受ければ一発でゲームオーバーな上に自キャラの強化要素すらない、敵を倒すのには遠くから弓でチクチク攻撃し続けるだけ、しかも敵を倒す度に次の敵のHPが倍に増えていくという鬼畜仕様です」
『…もう一度聞きますが、何が面白いのですか?』
「何も面白くありませんが?」
『このゲームの存在意義は…?』
至極真っ当な感想のKeyに比べ、何故か誇らしげに語るアリスはKeyを無視してゲームを続ける。
その間も内側から鳴り響く機械音は途切れる事がなかったためKeyもずっと一緒に見ていたのだろうが…
『…これ拷問では?』
「気付いてしまいましたか…」
『もう3時間は同じ敵と戦っていますよね?小娘の知識から索引してきただけの情報ですが、こういったものはここまで長引くようなことにならないのでは?』
「本当になんでこんな仕様になったのかアリスも気になりましたが、この前の敵を倒した後この敵に挑む前にゲームのパッケージの方を見てみたら『特大ボリューム』とか銘打ってましたね」
『滅んだ方がいいですよこんなもの作った連中』
「コアなファンがいるのは事実ですから…」
『そのコアなファンとやらも滅んだ方が良いですよ』
「先程から言わせておけば、クソゲーの楽しみ方も分からない古代人が分かった気になって語らないでください!」
『いや少なくとも今の私の意見は世論側かと思いますが…えっ、今のこの世界はこんなものが受け入れられる魔境なんですか?』
「だったらクソゲーなんて言われてませんよ」
『さっきまでの反論なんだったんですか』
そんな話を挟みつつ延々と代わり映えのないゲームを進め、しばらくしてようやくアリスは敵を倒す。
そこから次の敵がいる場所に到着するまで10分近く歩くという虚無の時間が続くのだが…
『…そういえば先程敵の
「はい?ああ、最初の敵は5分程で倒せましたが、次の敵は10分、その次は20分、その次が40分で次が1時間20分といった風に敵を倒すのにかかる時間が増えていっているんですよ」
『…これ何体倒せばクリアなのですか?』
「実績欄を見るに14体いるようですね」
『では最初の敵を倒すのに5分、そこから14体目まで2倍していくとなると…40960分?最後の敵を倒すのに682時間、それまでの敵を倒すのにそれぞれ時間はかかるので完全クリアまで1000時間超えですか。正気ですか?』
「1ヶ月ぶっ通しでやってようやく終わるかどうかですかね?」
『いやふざけないでください、1000時間程度私にとっては大した時間ではありませんが、それをこんなゴミみたいなものの為に消費するのは我慢なりません』
「ゴミ呼ばわり?」
『もっとこう…あるでしょう!そちらの箱にも別のゲームとやらが入っているのでしょう?それを…』
「ああこれセーブ機能とかないので全クリまでは休みなく続けないといけませんよ」
『…け、けいか…いや、流石にこんなもののために使うのは…』
「?」
せっかく今の世界の文化もアリスの視点を通して見て回りたいとも考えていたKeyは貴重な時間をこんな滅ぶべきゴミの為に消費されそうになっていることが我慢ならず切り札を切ろうか悩みかけたが、なんとか思いとどまる。
Keyが何を考えているのかイマイチ理解できないアリスはまあいいかとゲームを続けようとして…
『「あっ」』
ここまでずっと敵から距離を取り続けながら弓を撃つという攻撃を繰り返し続けていたアリスは無意識に手に疲れが溜まっていたのか、操作をミスって敵の攻撃に被弾してしまう。
そしてこのゲームはアリスが話したように育成要素もなければ敵の攻撃は全てゲームオーバーな訳で…
ゲーム画面の中の自キャラは初期位置に戻され、これまで倒してきた敵も全て復活した状態にリセットされてしまっていた。
「…」
『…よし、息抜きに他のゲームをやってみてください』
「なんでちょっと声がウキウキしてるんですか」
『小娘が必死に費やしてきた時間が無に帰したのですよ?面白いに決まっているでは無いですか』
「悪魔…!ふ、ふん!いつかこのゲームをクリアするまでの1000時間耐久に付き合わせてやりますからね!」
『それ暗に小娘も一緒に拷問受けると言っているようなものでは?』
費やしてきた数時間が水の泡となったアリスは『要塞のツルギ』のプレイに萎え、気分転換用に用意されていた至極真っ当なゲームを始めることに。
選んだのはよくある格闘ゲームだが、キヴォトスでも知名度が高く系列作品が幾つも出されている名作だ。
アリスはそれを鼻歌交じりにプレイし、Keyも当分は大人しくそれを観察していたのだが…
『…小娘』
「…まだいたんですか。早く引っ込んでください」
『ちょっと身体の半分…いえ、左腕だけで良いので貸しなさい』
「え、嫌ですけど。何するつもりなんですか?」
『小娘のプレイがあまりに見るに耐えなかったので私が代わりにやってやろうと思っただけです』
「何を言うかと思えば…そんなこと言って、ゲームが羨ましいだけなんですね!ふふっ、永遠にアリスの中に囚われて他の
『なんですか、私に勝てる自信がないならそういえば良いというのに』
「は?負けませんが?そこまで言うのなら片手ぐらい…少しやりづらいですけどお互い様ですし、望むところです。アリスが勝ったら古聖堂でのことについて謝って貰います」
『では私が勝ったらその身体を貰うとしましょうか』
「釣り合いが全然取れてませんが!?」
『仕方ありませんね…では今日1日私が指定したゲームをしてもらいましょう』
「結局ゲーム楽しみたいだけじゃないですか!良いですよ負けませんから!」
かくしてKeyの挑発に乗ったアリスは左腕だけをKeyに明け渡し、お互いに片手でコントローラーを弄って格闘ゲームでの対戦に挑むことになった。
「いや強っ…何故!?」
『小娘のプレイを見て操作感と動作を学習しましたからね。そこから私なりにシュミレーションを繰り返して最適化した操作を行えるようにしています』
「い、インチキです!インチキ!」
『小娘とは元々のスペックが違うのですよ』
『…あ!?今私勝ちかけてたじゃないですか!?急に腕の支配権を戻さないで下さい!』
「何を言ってるんですか、今Keyは普通にアリスの右腕を動かせてるじゃないですか。自分の凡ミスをアリスのせいにしないでください」
『この手のゲームで一瞬操作出来なくなることがどれだけ影響が出るのかを分かって言っていますね…そちらがそう来ると言うのならどうなっても知りませんよ?』
「…いっ!?あばばばばっ…な、何故ですかっ…!?あっ、ちょっ、ロボットに神秘送るの邪魔しないでください…!」
『私はこの程度の電流大したことはありませんがね。しかし少し私が妨害した程度でこの程度の神秘操作も乱れるとは…実に未熟、実に無様です』
「くぅ〜っ…!」
「っといったことがありましてね。その日から生得領域にゲームを再現して1人でも嗜むようになっていました」
「一応聞くけど天童アリスと実は仲良かったりしない?」
「幾ら貴女と言えど面白くない冗談ですね」
「…私、改めて君が怖いって思ったよ…」
長い旅の中で様々な創作物にも触れてきたマルクトはこういうタイプで絆されずに普通にアリスを陥れたKeyに改めて畏怖を抱き、その傲岸不遜さにらしいと思った。
それとは別に現代の娯楽にも馴染む俗っぽさに意外な一面を見い出せたこともまた面白いと思う。
「さて、次は何のゲームでもしましょうかね…マルクト、モモフォンとやらを貸してください。天童アリスの知識でソーシャルゲームというものがあることは聞き及んでいます」
「え〜?私人にモモフォン貸すのもう嫌なんだけど…」
「王女の要求が聞けないと言うのか貴様」
「うわっ、司祭復活してたの?」
「良いから寄越しなさい、マルクト。空崎ヒナが持っていたモモフォンはちょっとしたパズルゲームしか入っていない上にデータ容量も低いのでゲームのプレイには適してなかったんですよ」
「名も無き神々の女王もソシャゲをする時代か…絶対に壊さないでよ!?大切に使ってよ!?契約だからね!?」
「はいはい分かりましたよ」
そうして怪物達は怪物達なりに、今を生きることを謳歌するのだった。
作者多忙につき更新ペースが落ちる可能性があります
また、本編の更新は原作がある程度進んでからを予定しています