ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はオリジナルの番外編でお送りします


それもまた

 

 

「「「調査任務…?」」」

「そ。最近連邦生徒会が要注意組織としてマークしてるっていう、組織の実態調査が今回の皆の任務だよ〜」

 

 

百鬼夜行支部との交流会、ゲヘナでのゲーム開発部や特級特異体との戦いを経てから暫く。

体力と気力を休め概ねいつも通りに活動できるまで回復したアリス、ヒナ、カズサの1年トリオはホシノに教室に呼び出されるなりそんな任務が下ったことを伝えた。

その内容はこれまでのアリス達が行ってきた任務とは一味違ったもので、対人を想定した調査任務だという。

 

「特異現象捜査部では特異現象を鎮めるのは勿論、神秘や特異現象を利用して悪事や混乱を起こそうとする人間…アウトローの捕縛や討伐も同時に行ってるんだ。今回はまだ証拠が出てる訳では無いけど近頃不審な動きをしている組織が相手で、君達の調査結果によっては指定アウトロー集団に認定されて特異現象捜査部によって速やかに解体されるだろうね」

「1年に組織を相手取るような任務、ね。相変わらず連邦生徒会は無茶振りがお好きのようね」

「また危ない連中とかいるんじゃないよね?古聖堂とかこの前の任務みたいなことはもううんざりなんだけど」

「最もな意見だね。今回に関してはアヤネちゃん達の方でも先に可能な限りの偵察は済ませて来ちゃってるんだよね。その結果少なくとも君達を危険に晒せるような神秘の持ち主はまだ確認できてないってことで…戦闘力の問題で交戦のリスクを鑑みてアヤネちゃん達が踏み込めなかった部分を調べるのがお仕事だね」

「探偵クエストということですね!”捜査部”らしくて気合いが入ってきました!」

「…まあ、いざとなったら退けばいっか」

「本来深追いが推奨されるようなものじゃないけれどね」

「ふふっ…任務は明日の早朝からだよ!今晩は早く寝るようにね!」

 

特異現象捜査部に入部してからというもの、向かった任務では尽く本来自分達が挑んでいいレベルでは無い相手と対峙させられているヒナとカズサはまた面倒事になるのでは無いかと訝しむが、ホシノの補足と前向きに挑もうとするアリスの気持ちを汲んで調査依頼を受けることを決める。

その返事にニコリと笑みを浮かべたホシノは、翌日の明け方に身支度を済ませた3人をS.C.H.A.L.Eの入口前まで連れ出すと、アヤネを呼び付けて3人の送迎を任せた。

 

「アヤネちゃん以外のバックアップは?」

「今回はシュンさんが遠巻きに補助してくれるらしいです。経験を積むためというのもあって調査はアリスさん達に一任しますが、不足の事態が起きた際のみ介入すると」

「シュンさんなら安心だね。その他にも困ったことがあったらいつでも私とかフブキちゃん辺りに相談しても良いから、とにかく皆無事に帰って来ることを祈ってるよ」

「はい!必ずやクエストを達成してみせます!」

「どうせ今回も一波乱あるんだろうなぁ…」

「せめてたまには普通の任務であって欲しいものね…」

「ほら委員長ちゃんとカズサちゃんもシャキッとする!」

「あはは…」

 

既に若干目が死んでいるヒナとカズサの背中をホシノが現気づけるようにバシバシと叩き、古聖堂での事もありその気持ちも分からないでもないとアヤネは気まずそうに頬を掻く。

そんなこんなで3人の調査任務は開始し、アヤネの運転する車に乗って早速現場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて確認しますと、今回ターゲットとなるのはトリニティ自治区で活動しているという宗教団体ですね」

「はぁ…にしてもよりによってトリニティか…」

 

 

車での移動中、任務の詳細を説明されていた3人だったが、アヤネからその行き先を聞いてカズサは思い出したように露骨に顔を顰めた。

とはいえ私情を挟む場面でもないため文句を言うことはなく、少し考えるとカズサはそろそろと手を挙げる。

 

 

「はい、なんでしょうか?」

「トリニティの怪しい宗教って『シスターフッド』のことだよね…?」

「そうですね…少なくとも彼女達は表向きはトリニティの一部活としての活動を行っていますが、どうやら生徒会の方に隠れて不審な動きをしている様です」

「シスターフッド…前身となった大昔の組織、『ユスティナ聖徒会』の後継を名乗る部活だかなんだか…中等部の頃に噂で聞いて胡散臭いとは思ってたけど、特異現象捜査部からも目をつけられてたのね」

「宗教…教会の人達でしょうか?今度棺桶から蘇生してもらう遊びに付き合って欲しいですね!」

「あんたが言うとシャレにならんわ!」

 

 

実際1度死んでから生き返っているという波乱万丈な体験をしたアリスに不謹慎だとツッコミを入れるカズサ。

何をやってるんだかと呆れるヒナは任務について書かれた資料に視線を落とし、その詳細を確かめていると横からひょっこりと顔を出したアリスが下からヒナの顔を覗き込むようにして見上げてきた。

 

 

「…何?」

「そういえば、トリニティにも支部はありましたよね?何故S.C.H.A.L.Eからアリス達が派遣されているのでしょう?」

「…あー、ホシノ先輩から聞かなかったかしら?そういえばあの授業やってた時はアリスが居なかった時だったわね…ちょっと待ってなさい…」

 

 

アリスの疑問に答えるためにヒナは端末を操作すると、画面にトリニティの全体地図を表示した。

さらに操作を加え…それに重なるようにまた別の地図が標示される。

 

 

「これは?」

「トリニティの地下に広がる『カタコンベ』と言われる迷宮よ。全貌は未だ詳細不明、トリニティ自治区の地下に根を張るように広がってて、そこから”ユスティナ”っていう複製特異体が頻繁に出現するの。トリニティ支部は毎日のように神出鬼没に現れるこれらを鎮めるのが基本業務みたいになってて、その出現範囲の広さから常に人手が足りてないのよね。だから忙しい時に任務が重なったりすると他の支部や本部に救援を求められることが度々あるのよ」

「そうなんですか」

「ちなみにカタコンベは昔トリニティ支部とS.C.H.A.L.Eの本部が共同で大規模な調査に乗り出したことがあったけど、結果は失敗。無限に湧き出るユスティナの特異体と定期的に構造が変化するその性質によって調査隊は弾き出されて多くの被害が出たらしいわ。以来カタコンベそのものが特級の”特異現象”として指定されてるの」

「特級の特異現象…?特異体ではなくですか?」

「実体を持って害を為す特異体が目立って脅威的に見られがちですが、元来はそういった超自然的な現象を指して特異”現象”と呼ばれていたんですよ。ついでに、近年は4人も特級の生徒が生まれて対処は進みつつありますが元々特級に区分されるような特異現象は連邦生徒会が実質的に対処を諦めたという証でもありました」

 

 

ヒナの説明に、さらに運転席からアヤネが補足する。

興味深そうに聞き入るアリスに混ざり、何故かカズサも初耳だとでも言うようにへぇ〜、と声を漏らしていた。

お前はその時の授業を受けていただろと横目で睨むヒナだったが、カズサは澄ました顔でそれをスルーする。

 

 

「さて、そろそろ到着しますが…今回はあくまで調査ですので、不測の事態の際は極力撤退を優先するようにして欲しいですね」

「なるほど…で、私達がやるのはその組織の構成員やリーダーの尾行と拠点でもあればそこへの潜入ね」

「スニーキングミッションですね!ダンボールは必要でしょうか?」

「一応探してみる?」

「いや要らないわよ。ふざけてないで準備しなさい」

「そうですよ、ヒナさんの言う通り慎重に安全に行動して、皆さんが無事に任務を終えられるよう応援しますから」

 

 

そんなアヤネからの激励を受けてから少し経ち、ある地点で降ろされた3人は1度アヤネと別れ付近の探索から始めることにした。

ちなみにヒナは角がトリニティでは悪目立ちしてしまうので大きな帽子を被ってそれを隠している。

 

そうして暫く3人が通りに沿って進んでいると、すぐによく目立つ建物が見えてくる。

それは、荘厳かつ煌びやかな雰囲気の漂うトリニティの第一校舎だった。

 

「ここを見るのも久しぶりな気がするな〜…」

「そういえばカズサはトリニティ出身でしたね」

「ホームシックならぬスクールシックだったりするかしら?」

「いや全く。むしろ逆、二度と来たくはなかったんだけどねぇ…」

「…それで、どうするの?校舎に入る?現場判断は私達でやっていいって話だったけれど」

「いやー、やめた方が良いんじゃない?シスターフッドの連中が相手なら…あいつら人の顔と名前覚えるのやけに上手いから部外者が入ってたらすぐ気付かれるよ。それにこそこそしてたら普通に正義実現委員会に捕まるし…」

「入場許可とか貰ってないんでしたっけ?」

「シスターフッド自体がトリニティでもそれなりに権力ある部活だしあいつらにだけ情報が行かないように止めるのはまあ無理でしょ」

「…分かったわ。なら放課後に組織の構成員を尾行でもしてみましょうか」

「ですが…まだまだお昼前ですけど…」

 

 

シスターフッドを探るのに校舎に入るのはリスクが高いと元トリニティ生としての経験から判断したカズサにヒナは代案を出すが、現在の時刻は10時を回ったところ。

放課後まで待つとなると6時間程はどこかで時間を潰さなければ行けないとアリスは少し不安を見せた。

それを見たカズサは一息着くと、端末で何かを確認するとアリスとヒナにチョイチョイと手招きをする。

 

 

「「?」」

「私は土地勘あるし、この辺のこと覚えるついでに案内しようか?」

「あら、良いの?」

「トリニティは嫌いだけどショッピングとかスイーツ店巡りでもするなら普通にいい場所だしね。」

「任務中なのに良いのでしょうか?」

「良いの良いの、その辺の裁量含めて私達に一任されてるわけだしね〜」

「一応アヤネさんに報告だけは入れておくわよ」

 

 

そうして生徒達が下校する放課後までの時間潰しに適当値自地区内を歩くことにした3人は、暫く周辺をブラブラする事をアヤネに伝えるとカズサの案内の下、校舎から少し離れた位置にある商店が建ち並ぶ区画へとやってきた。

石レンガ造りの建物が作り出す中世的な景観はD.U.やミレニアムという都会的なコンクリートジャングルで過ごしてきたアリスからすれば新鮮なものであり、以前トリニティにやってきた時…忌々しいムツキの事件の時はじっくり街を見て回る暇がなかったこともあって、子供らしくはしゃいでは目を輝かせていた。

 

 

「おぉ…!D.U.とはまた雰囲気が違いますね!」

「私は見飽きてるけど…他所の自地区から人が来るくらいには景観に拘ってるからね、この辺は。ゲヘナとかミレニアムの方はこういう観光名所とか無かったの?」

「ゲヘナなんて常日頃から爆発騒ぎが起こるんだから凝った建物なんて建てるだけ無駄よ。その代わり、火山とか谷とかの自然は中々いい景色のものが多かったけど」

「ミレニアムは…プラネタリウムや科学博物館で客寄せする人が大半でしたね。その他は雰囲気というよりはミレニアムタワーのようなシンボル的なものを一目見たくて観光客が来ていたと思います」

「へ〜、その内そっちにも遊びに行きたいけど…特異現象捜査部って長期休暇とかあるのかな」

「勿論無いわよ。まあ長期間特異現象の被害が無ければ休めるかもね」

「部活名乗るのやめろって抗議してきて良い?」

「アリス知ってます!ブラック企業というものですね!」

「間違っちゃいないわね」

 

 

この期に及んで自分達の所属に好き勝手言い始める3人。

愚痴を零し、その内3人でバカンスにでも遊びに行けたらな、と軽く将来の展望を駄弁りながら歩いていると、カズサがおすすめだという小洒落たカフェへと辿り着いた。

入店した3人に放課後でもなく遊び歩いていることから不良の類か?と店員から懐疑的な視線を向けられながらも、ヒナはコーヒーとサンドイッチを、アリスはオレンジジュースとフレンチトーストを、カズサは紅茶とチーズケーキをそれぞれ注文して席に着いた。

暫くして出された注文の品をそれぞれ堪能しつつ、任務のことについての相談が始まった。

 

 

「はぁ…それで後の動きだけど、トリニティは放課後部室とかに集まる連中が多い感じかしら?」

「結構アクティブな連中ばっかだし、生徒会以外は外彷徨いてる事が多かったと思う。あー、でもシスターフッドは校舎に隣接する聖堂に集まってる事が多いかな」

「ですが最近聖堂とはまた違った場所でこっそりと集まっていた、という話でしたよね?秘密基地でもあるのでしょうか」

「怪しいとすればさっき話したカタコンベかしら…だとしたらほぼ確実に黒だけど…ともかく、敷地内の聖堂に集まってるなら探るのは難しいけど、校舎の敷地外に出てってくれるなら尾行もしやすいわね。あなた達は隠密行動の自信ある?」

「隠密と言えばダンボールです!」

「丁度そこにモモフレショップあるしお面でも買って顔隠してく?」

「期待したのが馬鹿だったわこの馬鹿共。あといい加減アリスはダンボールから離れなさい」

 

 

頼りない馬鹿2人に今回は自分が引っ張らないと駄目かと早々に頭を痛めたヒナ。

そんな心労を他所にアリスとカズサは互いに頼んだフレンチトーストとチーズケーキの一端を分け合ったりして堪能、軽く小腹を満たした後は特異現象捜査部の制服のままではあれだと、トリニティ自治区に溶け込めるような洋服を適当なショップで取り繕い…

 

 

 

「それでは!スニーキングミッション開始です!」

「うっさい!」

「うわーん痛いです!」

 

 

その後適当値自治区を歩き回って時間潰しをした3人はトリニティの生徒達がまばらに下校し始める時間帯を見計らって再び校舎近くまで戻ってきた。

そして目標となるシスターフッドの部員を狙って尾行しようとする矢先に予定調和気味に声を上げるアリスをヒナが軽く引っぱたく。

半泣きで抗議するアリスを無視して校門からチラホラと出てくる生徒達を監視していると、シスターフッド特有の修道服を着込んだ人物を発見した。

 

 

「あれね…って、確かあの人シスターフッドの部長じゃない?」

「あ〜、知ってる知ってる。黒い噂が絶えない人で有名なんだよね…にしても特異現象に絡んでる可能性まであったのかぁ」

「何となく凄みを感じます…!それにあの人から感じる神秘の総量…アオイにも匹敵しているかもしれません。ですが、偉い人なら尾行する相手としてはうってつけな筈です…!」

「万が一交戦するようなことがあればリスクが高いけれど…」

 

 

他のシスターフッドの部員と思われる生徒が着込んでいるものとは少しアレンジされたような修道服の少女。

その顔は今回の任務に当たって事前にアヤネから渡されていた資料にあったもので、現シスターフッドの部長だった。

常に笑みを絶やさない彼女はしかしなんとも言えない威圧感や凄みを放っており、伊達に修羅場を経験していないアリス達ですらかなりの距離を置いているにも関わらず気圧される風格があった。

 

とはいえ目的の組織のトップ、その人物を調べれば得られる情報は間違いなく有益。

故に3人は彼女が他のシスターフッドとの談笑を終え1人を追跡することを決める。

 

 

「…ちょっと追うの怖いけど、気張って行くとしよっか」

「はい!頑張りましょう!」

「だから声が大きいわよ」

「毎回叩かなくても良くないですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌住サクラコは困惑していた。

 

トリニティに存在する由緒ある部活、シスターフッド。

それの今代の長を務める彼女は3つの分派を生徒会…ティーパーティーの軸として政治が繰り広げられるトリニティにおいても、独立した権限を保有している責任ある立場にいる。

その傍から見れば色々と面倒だと思えるような立ち位置に率先して立っているのは一重に皆の平穏と安寧を願い、生徒達の相談や懺悔を受け入れられる立場として寄り添いたいからという善意が強い。

のだが…

 

 

 

(つけられてる…!)

 

 

 

部員と談笑した後、この後に催される”会”が始まるまでの自由時間をのんびりと楽しもうと街へと繰り出していたサクラコは、少し距離を置いて…一定の距離を保ちながら後を追いかけてきている不審な3人組に気付かれないように視線をや向け、顔を顰める。

 

 

(たまにティーパーティーの手の方が密偵を送ってくる事はありましたが…トリニティの生徒、ではないですよね…?)

 

 

皆に寄り添うためサクラコはトリニティの生徒の顔と名前の大半を把握している。

時折すれ違う生徒にその名前を呼んで「いつも見ておりますよ」と定型での挨拶をすれば何故か怯えた様子で逃げられる事が多々あるが、誇るべきサクラコの努力の賜物である。

しかしそんな記憶を洗ってみてもその3人組のものはなく、知り得る限りのトリニティの自地区の住人にも当てはまらないことから別の自治区の生徒である可能性が高いと推察する。

 

 

(いえそれにしても…あの方々、私のこと尾行してるんですよね…?何故その格好でバレないとでも…?)

 

 

様々な考察や憶測が脳内に飛び込む中、しかしそれらをぶっちぎってサクラコはつい心の中でツッコミを入れてしまう。

なんせ物陰からチラチラとこちらに顔を出すその怪しい3人組…1人はやたらデカイ物騒な武装を背負い、1人は多分角でも隠しているのであろう不自然なまでに膨れた大きな帽子を被り、最後の猫耳の少女は何故か猫のお面…聞くところによるモモフレブランドのキャラクターの1つ、ウェーブキャットのそれで顔を隠している。

被るならせめて全員で被って統一させないのかというどうでもいい疑問はさておき、この状況はサクラコにとって好ましいものでは無いのは当然だ。

 

 

(あんな変な人達に追いかけられているのを誰かに見られたら…また誤解が広がってしまう…!)

 

 

ただでさえどうしても滲み出てしまう胡散臭さや威圧感により周囲の人々を怖がらせてしまうことを自覚しているサクラコではあるが、そこに謎の不審者による追跡の噂まで広がればどうなるか。

まず間違いなく一般の生徒との軋轢が広がりシスターフッドという皆に寄り添う為の場所が逆に皆を退けてしまうという本末転倒な結果にすらなり得る。

 

 

(それだけは避けなければ…とはいえ力でどうこうするのもそれはそれで余計な誤解を生みかねませんし…あの方々様子を見るに諜報や探偵のようにも見えませんし、もしかすると私の噂を聞きつけて面白がっているだけかもしれません。ならば私が”普通”であることを証明すれば、飽きてどこかに行ってしまうのではないでしょうか?名案ですね、ならば見せつけるとしましょう。私が面白がるようなことはないことを!)

 

 

しかし残念かな、追う3人はこの手の調査が初めてであるが故にポンコツを晒しているが、追われるサクラコもまたある種のポンコツであった。

立場故に他人に弱みを見せることを苦手とするサクラコはこういったことを1人で解決しようとするきらいがあり、正義実現委員会などへの通報が頭から抜け落ちてしまっていた。

そしてこの判断がさらに誤解を加速させていくことは言うまでもなく…

 

 

 

 

 

 

(普通の生徒ですからね…やはり年頃の少女はこういったものを嗜むものでしょう!)

 

 

普通に過ごしていれば遊びでつけてきていると思われる不審者3人も飽きるだろうと、サクラコは近くに出ていたスイーツショップへと立ち寄った。

店に入ると店員が「いらっしゃいませー」と呼びかけ、それに会釈をして返したサクラコはニコリと微笑むと、懐から学生証を取り出し店員に確認させた。

 

 

「ふふふ…頼んでいた()()()()を受け取りに来ました」

「っ!はい、ただいまお持ちします!」

 

(これぞ普通の生徒らしい立ち振る舞い…なんら面白いものがあるはずも無いでしょう…チラッ)

 

 

 

 

「例のもの…?なんか怪しいブツの取引きを…?」

「ケーキ屋でそんなことあるかしら?」

「ケーキ…砂糖…はっ!アリス知ってます!こういった現場では、そういう薬が砂糖という隠語で呼ばれていると!」

 

 

 

 

(何故ですか!?)

 

 

まさか薬物の取り引きを疑われるとは思っていなかったサクラコは、しかし直ぐに無実を証明する為に店の外に出ると、テラス席で受け取った箱…そこから一つのケーキを取り出してその場で食べ始めて見せた。

 

 

(ならばこれで…ほら、何の変哲もないただのケーキ…)

 

 

 

 

 

「あれは…『ミラクル5000』!?この時間帯なんてとっくに売り切れてるハズ…!私だって早朝から並んでも滅多に食べれなかったのに…!」

「ちょっと私怨入ってない?」

「あの威圧感とシスターフッドのトップという立場…権力で脅して用意させていたのかも知れませんね!」

「なんであんたはちょっと楽しそうなのよ」

 

 

 

(だから何故ですか!?予約していただけなのに!)

 

 

また別の角度で勘違いが加速していることに顔を顰めたサクラコは、せっかくのケーキが焦りでまったく美味しく食べられないまま完食すると、そそくさとそこを離れ次の場所を目指した。

 

 

 

 

 

(この後の”会”のこともありますし、化粧品の用意も必要でしょうか。こういうのも普通の生徒らしい嗜みの筈です!)

 

 

「化粧…?顔がバレないようなメイクをするつもり…?」

「メイクの仕方によっては別の人に罪を着せるようなやり方も出来るはずだしね…」

「ヒットマンとかアサシンの類だったんですね!」

 

 

 

(なんで毎回そんな発想が飛躍するんですか!?)

 

 

 

 

 

(こ、小物…雑貨屋で可愛い小物…これなら普通に…)

 

 

「ヘアピンとペン…アリスああいったものに暗器を仕込んでいるゲームを見たことがあります!」

「やっぱり裏で何人か消す気なんだね…!」

「冷酷無比な悪のシスターってことね」

 

 

 

(だから!発想が!飛躍しすぎじゃないですか!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…もうこんな時間…ずっとあの方々を引き連れていたせいでまた周りから変な目で見られましたし…」

 

 

行く先々でアホ3人の誤解を深め、目立つ格好をしている3人は当然周囲の人の目にも触れ、それが追跡していたサクラコも同時に後ろ指を指されることとなり頭を抱える。

しかしもう間もなく”会”に行かなければいけない時間であり、そこまで着いて来られても困るとサクラコは適当な路地に入り3人を撒いて集合場所へと向かうことにした。

 

が…

 

 

 

 

「逃げられました…!」

「気付かれちゃったかな…」

「問題ないわ…『玉犬:黒』」

「お、ワンちゃん久しぶり」

 

入り組んだ路地でサクラコが姿を消してしまった事に焦るアリスとカズサだったが、冷静に式神である玉犬を呼び出すとその嗅覚を頼り追跡させる。

そして玉犬の案内に任せて路地を進み…そして小さな廃墟のような建物へと辿り着いた。

 

一見すると何の変哲もない、人の気もないそこ。

 

 

「…こういうものは、隠し扉がマストですよね!」

「玉犬が地下に反応してる。隠し階段的なものがある筈よ」

「分かりやすく床張りがタイルだしね〜。多分どっか捲れるかな」

 

 

早々に当たりをつけて廃墟の床を探り出した3人。

それから少しして棒で床を叩きながら探索していたアリスが他よりも響く床を発見し、少し動かすと地下へと続く階段が現れる。

アリスがその如何にもな状況にワクワクとした様子で降りていくのをカズサとヒナも追いかけた。

 

 

「この辺り…やっぱり地図と見比べるとカタコンベがすぐ近くにあるわね」

「ってことはやっぱり黒かな?」

「交戦も有り得るかもしれませんね!」

「いや何かあったら撤退しろって言われてたでしょう…やっぱり私がちゃんとしないと…」

「っ、静かに!」

「「!」」

 

 

暗い足元を端末のライトで照らしながら降りていた3人だが、不意にカズサがアリスとヒナの肩を掴んで止める。

口元で人差し指を立てたカズサのジェスチャーに2人が意図を汲んでその場を動かず黙り込んだのを確認し、カズサは耳をぴんと立て、階段の下から聞こえる音に耳をすませる。

 

 

「…っ!悲鳴みたいな声が聞こえた!」

「なっ…誰かが助けを…!?」

「…直ぐに応援を呼びましょう。アヤネさんに連絡を入れて…」

「助けを求める人がいるのならそんな悠長なことをしている場合ではありません!行きましょう!」

「あっ、ちょっアリス!?」

「もう仕方ないなぁ!ヒナは連絡お願い!私はアリスを!」

「深追いするなって言われたのに…!」

 

 

悲鳴が聞こえたと聞いたアリスは飛ぶように階段を駆け下り、1人で先行させる訳には行かないとカズサも慌ててそれを追う。

ヒナとそんな2人が心配なのか、アヤネに数文字だけの救援を表す事前に決められたキーワードを送信すると直ぐに2人を追いかけた。

 

 

 

(間に合ってください…!)

 

 

 

焦りが募り、なんとしてでも犠牲者が出る前に被害を抑えなければいけないと正義感に駆られたアリスは階段を降りた先に見えた扉を乱暴に開け放ち───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さ〜ん!盛り上がってますか〜!?」

 

 

『きゃあぁ〜〜〜!』

 

 

「それではご一緒に〜〜〜!」

 

 

『わっぴ〜〜〜!』

 

 

 

 

 

「…」

「…さ、帰ろっか」

「そうね」

「えぇ!?」

 

 

扉の奥に広がっていたのは、中央のステージでふりふりとした衣装に身を包みメイクをバッチリ決めて小恥ずかしそうに踊りながらレスポンスを行うのは、先程までアリス達が尾行していた少女。

そしてそれにペンライト片手に黄色い()()を上げる、シスターフッドの部員と思われる生徒達。

 

あの威圧的かつ凄みのある雰囲気はどこへやら、年頃の乙女らしい初々しい雰囲気のサクラコに何か誤解があったことを悟ったカズサとヒナは帰投しようとするが、一応話を聞いた方が良いのではないかというアリスからの言もあり、取り敢えずライブステージと化した地下空間の隅でその様子を眺めて待つことにした。

 

 

 

 

それから暫く、ライブが終わりサクラコが観客である部員達に挨拶をして解散の流れとなった所で、アリス達はサクラコへと声をかける。

 

 

「あ、あなた達は先程ずっとつけて来ていた不審者…!」

「不審者…いやまあ確かに不審者だけども…」

 

 

改めて自分達の格好の奇天烈さに気が付きカズサはお面を仕舞いヒナは帽子を脱ぎ捨てる。

そして事の次第を聞いた訳だが…

 

 

「シスターフッドの…ミサ…?」

「どう見てもアイドルライブだったわよね?」

「今の教会というのはそんな感じなんですねー」

「いえ私だってもっとそれらしいミサをしたかったですよ!?ですか外部からの不信感に反して何故か部員の皆さんからは随分と慕われて…それが何故かあんな形での人気となり…」

「宗教の部活が偶像崇拝(アイドル)とはこれ如何に」

 

 

最もなカズサからの指摘に顔を顰めるサクラコ。

しかし邪推していたような怪しげな催しも企みも無いことを知り、先程の尾行時の誤解も改めて解かれ、サクラコは胸を撫で下ろす。

 

 

「いやぁ、神秘もすっごいし場所も場所だし、つい特異現象に関わってるものかと…」

「特異現象…?それにこの場所が何か…」

「あぁ…あまり詳しいことは言えないけど、ここはカタコンベがすぐ近くにあるでしょう?」

「!そ、そうですね…ミサを執り行う際の丁度良い、ティーパーティーにもバレないような空間を探していた時に見つけましたが…」

「カタコンベの近くでは…そうね。心霊現象が起こるというか、お化けが出るらしいから危ないわよ」

「キヴォトスでは何が起こるか分かりませんからね!お化けの集団にいきなり襲われるかもしれません!」

「は、はぁ…」

 

 

半信半疑でそれに返事をするサクラコだが、その疑いを受けてアリス達が不快な思いをすることは無い。

特異現象なんて遭遇することなく生涯を終えられるのが1番良いに決まっているのだ。

そしてそれを知らないということは、他の特異現象捜査部が彼女達から特異現象を遠ざけ守っている事の証明でもあり…それは共に命を賭す者としての誇りでもある。

 

 

 

「迷惑をかけて悪かったわね。良ければ今回招いた分の誤解を解いて回るのを手伝うけれど」

「ご心配には及びませんよ。こういったことは慣れているので…こちらで”速やか”に、”穏便”に、”丁寧”に、”処理”させていただきますので…」

「いや、その…」

「アリス分かりました!そういうところだと思います!」

「!?」

「アリス!」

 

敢えて言わないようにしていたことを躊躇い無しに言うアリスをカズサが咎めるも、時既に遅くショックを受けたように顔を顰めてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい!というわけで完全に白でした!」

「あ〜…連邦生徒会も雑な調査をしてくれたもんだよ。わざわざ特異現象捜査部(私達)に任せる程のことじゃなかったじゃ〜ん」

 

 

あの後要請してしまった結果駆けつけてきたホシノに事情を説明すると、ホシノはサンクトゥムタワーの方を見てそう毒づいた。

とはいえ結果的には何事もなかったが、宗教絡みの団体の恐ろしさ…というより悪辣さを知っているホシノは心の奥底でアリス達の無事を喜び、トリニティのレストランで夕食を済ませようと盛り上がっている3人を見て微笑んだ。

そして思いついたように無線を起動すると、その奥の相手へと話しかける。

 

 

「…あーあー、聞こえますか〜?」

 

『あら、ホシノさん。蛇でも出ましたか?』

 

「またまたとぼけますね…シュンさん今回ずっとアリスちゃん達のバックアップに鴉飛ばしてたでしょ?それで…割と早めの段階で特に邪なものはないって気付いてたんじゃないですか?」

 

『ふむ、どうしてそうお思いで?』

 

「だって子供好きなシュンさんなら、本当にアリスちゃん達に危ないことが迫ってるかもってなったら救援要請が出た瞬間に私が来るより先にすっ飛んでるじゃないですか」

 

『ふふっ、どうでしょう?可愛い子には旅をさせよとも言いますし…なんにせよ、手際が悪くともこういった経験を積めるのは良い機会ですので』

 

「はっ、答えになってますかねそれ…」

 

 

 

「ホシノせんぱーい!カズサがお財布係早くしろと言ってます!」

「ちょっアリス、呼んできてとは言ったけどそれそのまま伝えてどうすんのさ!?」

「何やってんだか…」

 

 

 

「…」

 

『行かないのですか、お財布係さん?』

 

「意地悪ですね〜…はいはい!任務終わりだし、特別におじさん奢っちゃうよ〜!でも言い方が悪いからカズサちゃんは後でおじさんとマンツーマンしようね」

「なんでぇ!?」

 

 

 

時には締まらない結末も、それもまた1つの青春に違いない。

七転八倒、七転び八起き…挫折も失敗も経験して、アリスが、カズサが、ヒナが、可愛い後輩達がもっと立派に成長できることを願って。

 

 

「アリスは回らないお寿司が食べたいです!」

「せっかくだし料亭とか行きたいわね。店によっては寿司も出るはずよ」

「もう…どうせ怒られるならその前にクソ高いデザートまで頼んでやる!」

 

 

「うへ〜、あんまり遠慮ないのは困っちゃうなぁ〜」

 

 




尾行
サクラコ様…ゲスト出演。相変わらず誤解をよく招くが本作では部員からの慕われ具合が凄い。
シスターフッドのトップでありアイドル。
よく例の過酷顔をする。
どこかのタイミングで覚悟礼装を着せようか迷ったのは内緒の話。
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