ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はオリジナルの番外編でお送りします


短編:遠い記憶

 

「でさぁ、クズノハがつれないんだよ〜!私はただ一緒にお茶でもどう?って誘っただけなのにあいつってば冷たくあしらって、私の話なんか何も聞いちゃくれないんだもん」

「マルクト」

「しかもその後なんて言ったと思う?『お主にはろくに後先考える頭も無いのか。Keyの爪の垢でも煎じて飲めば少しはあの知能にあやかれるのではなかろうか?』だってさ!もうカッチーンって来てね。そこまで言うなら飲んで来てあげるよ、ってことでお願い出来る?」

「何をですか。キショいからやめてください。いやそうではなくて…」

「うん?」

 

 

遥か天空に浮かぶ巨大な要塞の外郭で静かに日向ぼっこをして暇を潰していたKeyに、さも当然のようにここまで登ってきたマルクトがダル絡みをしていた。

何が悲しくてこんな奴の愚痴に付き合わされなければ行けないのかと鬱陶しくなったKeyはマルクトの話を止めさせ、彼女を咎めるようにジト目で見つめるが、何か気に障ったのかと本気で頭に疑問符を浮かべていることに呆れ果て首を捻った。

 

 

「はぁ…今度は何の用ですか?まさかただそんな下らない話をしに来たと言うだけなら塵に変えてやりますよ」

「同じ台詞をもう100回は聞いた気がするんだけど未だに私がこうして生きてるのはなんでだろうねKeyちゃ〜ん?」

「ニヤニヤしないでください、その表情シンプルに腹立つんですよ!」

「またまた〜、素直じゃないな〜」

「…司祭」

「御意」

 

 

揶揄うマルクトにKeyは業を煮やしてその名前を呼ぶと、どこからともなく白い法衣の者…無名の司祭が現れる。

そして無名の司祭は懐から黒い立方体のような遺物を取り出すと、それから冷気を溢れ出させた。

 

そしてそれを見たマルクトは慌ててそれを制しようと手を前に出した。

 

 

「ちょっと、寒いじゃんやめてよ」

「黙れ下郎。貴様は毎度毎度王女にしつこく絡んで煩わしい!そろそろお灸を据えねば反省もせぬだろう!」

「酷いなぁ、暇してる君のご主人様を相手してあげてるんだからむしろ感謝して欲しいくらいだよ。Keyは君じゃ話し相手にならないからこんな場所でぼーっとしてるわけでしょ?」

「なっ…!そうなのですか王女…!?私の至らなさが女王を退屈にしているというのならば、トーク力というものを鍛え上げて参ります…!」

「…マルクト、司祭に余計なことを吹き込まないでください。私は静かな方が好きなのでそのままで結構ですよ」

「おぉ…有り難きお言葉…」

 

 

一礼して大袈裟に感謝を表す司祭に対して、マルクトは飄々と肩を竦めている。

反省する気配のないその様子に嘆息したKeyは注意した所で聞くような奴ではないかと何度目かの再確認をさせられると、のっそりと要塞の端で外に足をプラプラと投げ出すように座ると、その両隣をポンポンと叩いて司祭とマルクトに座るように促した。

顔を見合わせた司祭とマルクトは、それに従って…司祭は恐れ多い様子でKeyから少し間を空けて正座し、マルクトは遠慮なくその反対側でKeyにほど近い距離で同じように足を要塞の外に投げ出して座る。

 

 

「近いんですよ貴女は」

「この下りも慣れたものだね」

「何処ぞの馬鹿のせいですよ…で、結局今日は何の用ですか?」

「また遊びにでも誘おうと思っただけだよ。プランとしてはクズノハにの所に2人…3人でダル絡みしに行くとか」

「自分でダル絡みって言っちゃってるじゃないですか」

「王女をそのような仕様も無いことに付き合わせようとするなたわけ」

「もしくは無限光の姉妹の所に行って今佳境に入ってるらしい研究を台無しにさせて泣かせるとか」

「なんでそんな酷いことするんですか」

「そろそろ仕返しされても知らんぞ」

「或いは皆で温泉でも掘る?」

「いい加減にしろ貴様、これ以上王女にそのような戯言を抜かすようならば…!」

 

「ふむ…温泉ですか。少し興味はありますね」

「王女!?」

「お、やっぱり食いつくと思ったんだ!娯楽に飢えた君からしたら気になるんじゃないかと思ってたんだよ〜!」

 

 

普段マルクトの誘いをすげなく断っていることを知っている司祭からすれば、予想外の反応をKeyが見せたことに思わず声色が上擦る程に動揺してしまう。

そんな司祭を置き去りにして、Keyの手を取って詰め寄ったマルクトは‪✕‬のような模様の瞳孔をした瞳をキラキラと輝かせた。

Keyはその勢いに若干引き気味になるが、それ以上にここまでマルクトがぐいぐい来ることも珍しいと首を傾げる。

 

 

「さあさあ、水脈には幾つか目星を付けてるんだ!Keyの力を借りたら掘削も簡単に済んで楽だしね〜!」

「ええい、いつにも増して鬱陶しいですね!司祭!1回この馬鹿の頭を冷やしてあげてください!」

「御意!」

「あっ待ってこれから温まりに行こうってのにそんな冷気なんかやだなぁあぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…酷い目にあった…」

「貴女最近私に対して気楽に接し過ぎですよ…他の相手ならとっくに欠片も残さず塵にしてるところですよ」

「え〜、つまり私の事気に入ってくれてるの〜?照れくさいなぁもう!」

「王女、また此奴の頭を冷やした方がよろしいですか?」

「許可します」

「冗談だって」

 

 

司祭に一旦氷漬けにされて小一時間放置された後、ようやく脱出させてもらったマルクトはそれでも尚懲りることなく揶揄おうとする。

呆れ果てるKeyと司祭だったが、なんだかんだマルクトの誘いには乗り現在地上をのんびりと歩いて温泉が湧き出るという水脈に向かっている最中だった。

とはいえ主人の意向故に従うもののあまり気乗りしない司祭は、チラリとKeyの方を見てマルクトと軽口を叩き合いながらもほんの僅かに…普段何度も接していなければ分からないほどに表情が柔らかくなっているのを見てまあ良いかと息を着いた。

 

そうして散歩のような気分で進んでいた道すがら…

 

 

「…なんですかあれは」

「おいマルクト貴様」

「ん〜?なんの事かな〜?」

 

 

 

「フッ…ハッハッハッ!待っていたぞ、Keyよ。マルクトの事だからまた口先だけのでまかせかとも思ったが、念の為来ておいて正解だったようだな!」

 

 

小高い丘を乗り越えた先に見えたそれに少し気の緩んでいたKeyはスッ…と真顔になり、なんなら嫌悪が隠れることなく溢れ出している。

同時に司祭も遺物を取り出し冷気を放とうとするが、それに割り込むようにマルクトが立ち塞がった。

視線の先でなにやら巨大な機械の上で3人に向けて大袈裟に手を振っていたのは、Keyに連なる強大なAI…対絶対者自立分析システムことデカグラマトンだった。

自分のことを解析したいだのとのたまい、しつこくサンプルを寄越せとKeyをものともしない図太い要求をしてくるその存在が酷く苦手なKeyは、それをここに呼び出したであろうマルクトの方を振り向き睨みつけた。

 

 

「…何のつもりですか」

「いやその、私だけだと探すの大変だったから手伝って貰っただけだって!流石に女の園にあんなガラクタを入れるわけには行かないから、入る時にはぶっ飛ばしてでも帰ってもらうって!」

「口約束では確かにそう言ったが、そうは行かない。貴重なKeyのデータを採取出来る好機、みすみす逃すわけが無いだろう。故に、予めKeyの姿を余すことなく観測できるようこの一帯を監視する為の人工衛星を浮かべたところだ!」

「何無駄に壮大な盗撮をしようとしてるんですか。そんなしょうもない事の為に宇宙に進出しないでください」

「貴様に王女の情報の一欠片でもくれてたまるか!去ね!」

「野蛮だな、やはり貴様より私の方がKeyの隣には相応しい」

 

 

堪忍袋の尾が切れた司祭は遺物から強力な冷気を放ちデカグラマトンを凍てつかせんとするが、対してデカグラマトンは指を鳴らすと彼の秘儀…『構築秘術』により生成された流体金属が障壁となりそれを防いだ。

障壁を崩したデカグラマトンはオートマタとしての表情のない顔だと言うのに、憎たらしい笑みを浮かべているのが分かるような声色で司祭を煽る。

見かねたKeyはパチンと指を鳴らすと、司祭とデカグラマトンの間にあった地面がゴッソリと深く抉られて今にも衝突しそうだった2人を牽制した。

 

 

「王女…」

「落ち着きなさい。こんなやつまともに相手するだけ無駄です。貴方も、些か図に乗り過ぎなのでは?」

「これは手厳しいな、私はただKeyと仲良くしたいだけだというのに」

「そうだよ〜、あんまりギスギスしちゃせっかくのお遊び気分が台無しになっちゃうでしょ?」

「そもそも貴様が嫌がらせ目的で彼奴を呼んだのだろうが!」

「はぁ…もう良いですよ、司祭。今に始まったことでは無いでしょう。以前無駄に捏ねくり回した結界を利用してあいつと私を道の曲がり角で衝突させて無理矢理ラブロマンス展開的なシュチュエーションを作りに来た事は死ぬほど腹立ちましたが、いい加減慣れる段階に入らなければなりません。折檻はその度に加えるとしましょう」

「折檻されることはもう確定なんだぁ、そうかぁ…」

「この…生かされているだけ有難く思え…」

 

 

マルクトの悪戯により悪くなりかけた場の空気を取り持ったKeyは、「さて」と手を叩くと先程抉った地面を覗き込み、手で指鉄砲の形を作ると指先から放たれた分解の波動が更に奥深くまで地中を掘り進み、あっという間に底の見えない深い縦穴が完成した。

するとマルクトもKeyが真面目に作業をし始めたからか悪ふざけもここまでかと、デカグラマトンが持ち込んできていたあの悪目立ちする巨大な機械…その中に搭載されてたらしい無人機を遠隔でジャックして操作すると、縦穴の底に降下させて様子を探り始める。

 

 

「水脈ギリギリまで削ったつもりですが、どうでしょう」

「う〜ん、良い感じかな。もうちょっと掘ったら一気に間欠泉が吹き出るよ〜」

「勝手に人の探査機を使うなマルクト。いやそれより待て待て、この辺りは窪地なのだから下手に掘れば周囲が惨事になるだろう?私が持ってきた探査機搭載型陸上空母が水没してしまう。ここは私に任せて吹き出す水量を計算しながら慎重に───」

 

「『解』」

 

「おい話を聞いていたのか!?」

 

 

デカグラマトンの話を無視して縦穴の底へ向けてKeyは秘儀を発動、その直後に足元を激しく揺らす地響きが起こり───縦穴から天に昇る水柱が吹き上がった。

 

小雨のように降り頻る細かな水飛沫が日光に照らされて空に大きな虹をかけ、同時に周囲を沈めんと降り注ぐ莫大な水量に対して司祭は自分とKeyを包み込むように薄くほぼ透明に近い氷の幕で覆い、マルクトは自分を結界で包み、デカグラマトンは自分と少し離れた場所にあった機材一式を丸ごと流体金属で飲み込むようにして保護した。

 

 

「見なさい司祭。中々風流ではないですか?」

「流石で御座います、王女」

 

『相変わらず派手なことするねぇ君は。この水量だとここら辺水没するだろうけど、離れたところに丁度いい穴でも掘ってそこにお湯を引き込むかい?』

 

 

湧き出る間欠泉の熱湯をものともしない司祭の氷の幕、そしてその熱湯とマルクトの結界に隔てられているというのにやけにスッキリと聞こえる声に、技術の無駄遣いだと思いつつも頷いたKeyは一旦熱湯が溜まり始めたこの窪地から浮上しようとして…一緒に沈んでいた球状の流体金属がふるふると震えているのに気付いた。

 

 

「…なんでしょうかあれ」

 

『抗議してるんじゃない?いくらデカグラマトンでもあの規模の構築を一気にやると流石に堪えるんでしょ』

 

「ハッ、馬鹿には良い薬です。彼奴はあのまま放置して我らは先に浮上しましょう」

「そうですね。さっさと準備をしてしまいましょう」

 

 

そうしてKeyと司祭、そしてマルクトはデカグラマトンを置いてさっさと水上に上がると、水没したその一帯から少し離れた場所に身体を沈めるのに丁度いい穴をKeyの秘儀で掘り、同じようにそこに通じる水路を引いて温泉を流し込んだ。

さらに温度は司祭の遺物による冷気で調節していると、のっそりとした動きでようやくデカグラマトンの流体金属が地上へと上がってくる。

 

地上へと全体を乗り上げるなりデカグラマトン…そして機材一式を包み込んで保護していた流体金属が溶けるように崩れ落ち、同時に姿を現したデカグラマトンが無い息を荒らげるようにしてKey達に恨めしい視線を送ってくる。

 

 

「ハァ…ハァ…私はお前達のようにタンパク質の肉体は持っていないのだ…ショートしたり錆びたりでもしたらどうする?」

「そんな貧弱な存在なら今こうして私の目の前にはいないでしょう。誇りなさい、貴方は強い」

「桶を片手に言われても締まらないのだが?私が上がるまでに準備を進め過ぎだろう」

「ほらほらもうすぐここは女の子の聖域になるんだからデカグラは早く帰って帰って」

「お前が呼んだんだろう!こんな散々な目にだけあって大人しく帰る訳には行かん!なんとしてでもKeyの裸婦像だけでも持ち帰らせてもらう!」

「王女、やはり此奴はここで消しましょう」

「まったく…『(ボックス)』『(フーガ)』」

 

「!」

 

 

最低なことを平然と言ってのけるデカグラマトンに殺意を抑えきれなくなった司祭だったが、Keyはそれを手で制すると代わりにそう唱えると…Keyの手元に無数の粒子が集い、それらが集結して1つの大型武装へと構成された。

そしてKeyはその大型武装───スーパーノヴァの砲口を空へと向けると、細かく角度の調整をして引き金を引く。

 

 

「ま、待て…!」

「特別ですよ。私の力を見せびらかすのは」

 

 

何をしようとしているのかに気が付いたデカグラマトンはそれを止めようとするが、当然間に合うはずもなくスーパーノヴァから凄まじい出力の光線が放たれ天に光の柱が登った。

そしてそれは瞬く間に雲を突き抜け、成層圏を超え…衛星軌道上に浮かべられていたデカグラマトンの人工衛星を正確に撃ち抜いて撃墜してみせた。

 

遙か天空で爆発の光が瞬いたのを見たデカグラマトンは唖然とし、暫くして頭を抱えて項垂れる。

 

 

「良い気味だ。貴様なんぞが王女の玉体を覗き見ようとするからそうなるのだ」

「ありゃ〜、多分結構高性能で作るのに手間もかかっただろうにもったいないね〜」

「くっ…私は諦めんぞ!必ずやKey、お前からありとあらゆるデータを採取して…!」

「不屈は結構ですが、今日のところはお引き取りください。私は楽しむと決めたことを邪魔されることが大の苦手なので」

「ぐっ…うおぉぉぉぉぉ!?」

 

 

頼みの綱の人工衛星を撃ち落とされてなお折れようとしないデカグラマトンだったが、これ以上は付き合ってられないとKeyはデカグラマトンの首根っこを掴むと、デカグラマトンが拠点としている研究所がある方向へとぶん投げた。

そうしてデカグラマトンは元気に叫びながら空気の膜を突き破っているのかと錯覚する程の速度でぶっ飛んで行き、その姿は星となって彼方へ消えてしまう。

 

次いでに、デカグラマトンが持ってきていた巨大な機械も剛腕で掴みあげたKeyは同じ方向へとぶん投げ、手を叩いて成し遂げたとでも言うようにドヤ顔を浮かべる。

 

 

「…着地のことは考えてあげたの?」

「まさか。受け身も取れず上手く受け止められもしないで諸々が壊れるのならそれはそれでいい仕返しになるというものです。まあ、あいつの事ですからどうにかするでしょうね。さて、無駄な時間を浪費しましたがさっさと入ってしまいましょう。司祭、温度は?」

「良い湯かと」

「ならば良し」

「ははっ…私に色々言うけど君も大概だよ、Key」

「お生憎様、私は私なりの快・不快に沿って生きていますので」

「じゃあ私達は似た者同士だね」

「おい、王女を貴様のような気違いと一緒にするな」

「君もすーぐ突っかかるねぇ」

「司祭、今ぐらいは仲良く」

「…御意」

 

 

 

そうして少しのいざこざはあったものの無事に温泉の準備も整い、適当に着替えたKey達はようやくお湯へと浸かって…

 

 

 

「…ふぅ…新鮮な経験ですね。少し前までは身を清めるだけならばともかく、温水に身を浸けることの何が楽しいのかと思っておりましたが…」

「君も段々感性が豊かになってきてる証拠だよ。或いは感情も、かな?まあ昔から君は割と図太かったと思うけど」

「心外ですね、当時の私は生きるべくして他者に高圧的にかかることを心がけていたのですよ。今でこそ私の力を恐れて絡む輩は早々いませんが、それでも時々名も無き神々が刺客を送ってくることもしばしばあるくらいです。存分に恐れて遠ざかって貰わなければ呑気に居眠りすることすらままならなかったでしょう」

「ふぅん、君も中々どうして苦労してるんだね」

「当然だ、王女の歩んだ道の苦労を軽んじる者は何人であろうとこの私が許すものか。勿論貴様でもだ」

「それはそれは随分な忠臣なことで」

「言っていろ、貴様の近くだけ冷やせば良いだけだからな」

「うわ冷たっ!?最っ低、温泉入ってる時にそれは無いでしょ!?」

「司祭、こっちまで冷えてきたのでやめてください」

「む、これは失礼しました…」

 

 

温泉に浸かることで幾分か気が緩んでいるのか、司祭も気の抜けた声色でマルクトに悪戯を仕掛け慌てている様を見てクスクスと笑う。

両隣に2人が陣取っている関係上、文字通り冷や水を浴びせられたKeyは溜まったものでは無いが、こんな空気もたまには…マルクトが絡んでくるようになってからはたまにどころではなくなったが…良いものだと、未だ湧き上がる間欠泉が空にかける虹を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…いやおかしくない?)

 

 

と、話がそこで終われば良かったのだが。

冷静になって考えたマルクトはこの状況を酷く訝しんでいた。

今の状況は、身体にタオルを巻いて温泉に浸かるマルクトとKey、そして同じように厚手のタオルで身体を覆い頭巾と仮面を被ったまま湯に浸かる司祭という構図だ。

それに対してKeyが何も言わないものだから自然に受け入れていたが…マルクトは今の今まで意識してこなかった司祭の身体へとチラリと目をやる。

 

 

(…体格はそれなりに良い方…だけど所々の曲線はやけに滑らか…胸筋とも貧相とも捉えられる絶妙な出っ張り…あっれぇ?てっきりそうだと思ってたんだけど…いや確かにゆったりした法衣と仮面と声の雰囲気で断定出来なかったとはいえ…)

 

「…ねぇ、Key」

「なんですか?」

「司祭ってせいべ」

「んっんん…!さて、司祭。私遊泳というものをやってみたかったのです。あちらの水没した方を使って泳ぐので温度を下げてきてください」

「かしこまりました」

「いや温泉は泳ぐ場所じゃ…そうじゃなくて私の質問は!?結局司祭ってどっち」

「さあさあ行きましょう。或いはもう1つ水路を引いて、そちらはぐっと温度を下げてプールとやらにしてもいいかもしれません」

「良いお考えかと。存分にこの身をお使い潰し下さい」

「ちょっとー!?」

 

 

そうして、終ぞマルクトの疑問の答えが明かされる日は来なかったとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ふふふっ…私は諦めん…!諦めんぞぉ!」

 

 

一方その頃、拠点である研究所にぶん投げられたデカグラマトン。

研究所にはその後同様に投げ飛ばされてきた巨大な機械こと探査機搭載型陸上空母が研究所へと突き刺さっているが、どうにかして空母の致命的な破損と研究所の重要な設備へのダメージは避けられている。

とはいえ惨状に変わりないが、へこたれることもなく直ぐに復帰したデカグラマトンは施設の天井から巨大な望遠鏡を展開すると、それをKey達がいる方角へと向けていた。

 

 

「こんなこともあろうかと用意していて正解だったな…!この結界術と化学の組み合わせで作り上げた空間屈折光望遠鏡ならば地平線を超えての対象の観測をも可能とする!その上サーモグラフィーや透視機能による解析システムも万全に備えた至高の発明!さあこれで、その姿を捉えさせてもら───」

 

 

 

ズドンッ

 

 

 

その瞬間、何かが凄まじい速度で落下してきて展開されていた望遠鏡を踏み潰すように破壊してしまう。

あまりにも一瞬の出来事にフリーズしてしまったデカグラマトンは、恐る恐るその破壊者が着地した場所へと目を向けると…

 

 

 

「邪な気配を感じたと思って来てみれば…この世界を蝕む病!今日こそあなたを()()します!」

「げっ、ミネルバ何故ここに…!?」

「問答無用!迅速に、適切に、救護が行き渡らぬ場所へ救護を!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

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