ブルア廻戦   作:天翼project

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短編:アクアリウムから

 

「というわけで、お疲れ様ー!」

 

淡く色付いた水族館のラウンジ。

卓を囲むのは、後輩達や仲間を見送った先立ちの集まり。

 

その中でもホシノが音頭を取ってオレンジジュースが注がれたグラスを掲げると、それに合わせてその他の面々も隣合う者とグラスを合わせた。

 

「いやぁ、最後の最後までヒヤヒヤしたけど勝てて良かったね〜。おじさん皆の成長に涙が出そうだよ」

「ホシノちゃん達の教育の賜物だね!アリスちゃんなんか神秘解放に辿り着くなんて、ワクワクしちゃったよ!」

「とはいえ頼りの比重がアリスちゃんに偏りすぎなのもどうかと思いますけどね…最後の方とか場当たり過ぎでしょう」

「後輩が目ざましい活躍をしていて嬉しいですね。本当に、もっと長生きして皆さんとお話したかったです。普段は皆さんどんな様子だったんですか?」

「そうだねぇ、アリスちゃんもそうだけどヒナちゃんとカズサちゃんも中々世話が焼ける子達で…」

 

ホシノ、ユメ、ノア、ユウカと中等部の頃は絡みの多かった面々が思い思いにアリス達とKeyとの戦いを振り返る。

特に早逝してしまったノアは会えなかった後輩達に興味津々で、聞かれたホシノも満更でもなく語り始める。

その様子を見て苦笑したユメとユウカは遠慮がちに縮こまるモモイと椅子の背もたれに寄りかかりテーブルに足を乗せているネルの方に目を向ける。

 

「あなた達も、喜んで良いのよ?」

「いや、その…これ多分昔馴染みの集まりとかだよね?私達がいるの気まずいっていうか…」

「満足して逝こうとしたらなんか知らん場所に拉致された気持ちになってみろ」

「気にしない気にしない!モモイちゃんもネルちゃんも功労者なんだから、打ち上げに参加しても良いんだよ」

「っていうかおじさんとしては敗退者席のノリだしね〜。それと同時に可愛い後輩と仲間達の門出を祝う祝勝会だよ。だからほら飲みなって」

「もごっ!?」

 

ノアと話していたホシノもそこに混ざり、ネルに無理矢理グラスを押し付けてオレンジジュースを飲ませる。

急に押し付けられるものだから危うく窒息しそうになり抵抗するネルだが、ホシノの腕力には敵わずそのまま一気飲みさせられた。

 

「っ…何すんだてめぇ!調子乗りやがって…つーかKeyと戦うのに先手持ってかれたのまだ納得してねーからな!」

「お、おじさんとやるかいお嬢ちゃん。手加減出来ないよ〜?」

「はっ、上等だ!万全なKeyと戦えなかった分てめぇで発散して…」

 

「こら、せっかくのお祝いなんだから2人とも仲良くするんだよ」

 

互いに神秘を紛らせ可視化する程に濃く濃密なオーラのような神秘を放つホシノと電気のような性質を持つ神秘をバチバチと迸らせるネルが対峙し、一触即発の空気になるが…そんな2人を諌めようとユメが2人の首に腕を回して両脇に抱え込むようにして止めようとする。

だがその状態のネルに直接触れたので勿論…

 

「あばばばばばばば!?」

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「おい離せ!」

 

電気質の神秘が通電しユメとホシノをまとめて感電させ、慌ててネルがユメの脇から抜け出した頃にはアフロが2人出来上がってしまう。

そしていち早く起き上がったホシノが抗議しようとまたネルと口論を始め、呆れたユウカはノアとモモイを連れ少し離れた席に移動した。

 

「まったく、大人になってもまだ馬鹿なのは変わらないんだから…」

「でも元気そうなホシノ先輩とユメ先輩を見れて少し懐かしいですよね?」

「それはそうだけど…あのノリでアリスちゃん達に悪い影響与えてたらどうするのよ」

「…大丈夫だと思うよ。アリス、ホシノ先輩がすっごく素敵で尊敬する人って言ってたから。だから、アリスならきっと大丈夫」

「…ま、あの子もあの子で我が強いし変な影響ばかりは受けないでしょうけど」

 

実際そこそこの期間をアリスの隣で過ごしたモモイのどこか確信めいた呟きに、ユウカもそれ以上は何も言うまいとそれを信じることにする。

そもそもホシノが本当に後輩が損をするようなことをする人物ではないという信頼は揺らいでいないのだ。

 

そんなユウカの照れ隠しを見抜いたノアはニコニコとその澄ました横顔を眺めていると、後ろでパタパタと駆けてくる音が聞こえて振り向いた。

 

「お疲れ様ですのー!身共達も混ぜてもらっても良いでしょうか?」

「お嬢様、あまりおはしゃぎになってははしたないですよ…」

「ユカリさんに黒井さん。どうぞ遠慮なく、私も任務の時は殆ど話せなかったので色々聞きたいこととかあるんですよ?」

「…で、そっちはなんでいるの?」

 

元気に挨拶してくるユカリとそれを宥める雀の使用人こと黒井に手招きをして席に座るようノアが促す。

そしてそれは良いとして、ユカリはその2人の後方へと鋭い視線を向けた。

そこには、遅れて瓢箪を片手に下げ、もう片手で狐面を器用にくるくると回して弄ぶワカモの姿があった。

 

「あら、何故かこの場所に招かれたので私も混ざって良いのかと」

「ホシノ先輩!ガード!」

「もう、まだいたの?確かに君もある意味私の思い出だけどどっちかと言うと黒歴史なんだけど…」

 

ユウカの呼びかけに結局喧嘩してダウンさせたのかくたびれた様子のネルを引きずりながらホシノが滑るようにユカリとワカモの間に割り込んだ。

ついでにユメも「ひぃん」と泣きながら追いかけてくる。

 

ホシノは腰に手を当て身長差的に見上げざるを得ないワカモの顔を睨むが、ワカモも臆することなく口端を上げると、ふいっと振り返って離れた位置の椅子へ乱暴に腰掛けた。

 

「終わったことでしょうに随分と根に持ちますね」

「君のせいで私達の青春が台無しになったんだからね。むしろ『そんなこともあったね〜』で流してもらえると思ってた方が驚きだよ」

「ほ、ホシノさん…」

 

先程までの浮かれた様子から打って変わって、空気を張り詰めさせるホシノ。

誰もがどうなるのかと黙りこくり、現在も首根っこを掴まれているネルすら空気を読んで傍観する状況。

遠因に自分があることを気に病んだユカリはそんなホシノに声をかけようとするが…

 

「でも、それでもやっぱり終わったことだよ」

「…つまり?」

「君のせいでユカリちゃんや黒井さんは死んだしユメ先輩と決別するきっかねになったけど、君との戦いで神秘の核心を掴めたからこそ後輩達を守れるくらい強くなれた。ここまでの全ては私が歩いてきた道で、それが誰かを守るための役に立てたんだから…私はソの過程を許容するよ。ユカリちゃん達には面目ないけどね」

「…いえ、本当ならどの道身共はあそこで終わっていました。そんな身共に最後まで夢を、希望を見せてくれたことを、身共は感謝していますの。ですから、どうかご自分を責めないでください。それに…ワカモさんも、身共は恨んだりはしていませんので」

「…そんなにはっきり言われるとこちらの方が悪く思えてきてしまうでは無いですか」

「いや君が悪いからね?でも…ありがとう、ユカリちゃん…ってことで、せっかくの私の青春の舞台の1幕なんだから君もこっち来なよ!」

「…私が言うのもなんですが呑気なものですね」

 

ユカリからも赦しを得たホシノはここぞとばかりにワカモの手を引き、自分達が使っていたテーブルの席に座らせる。

同じようにユカリもその近くに座り、それでも心配な黒井もユカリの隣の席へ。

かつての敵だとしても皆死んでしまえば因縁など無いかのように、ホシノ達は気軽に騒ぎ立てた。

 

そんな一同を遠巻きに見つめていたユメに、まだ空気に馴染み難いモモイが恐る恐る声をかけた。

 

「あの…詳しい事情は知らないんだけど…良いの?」

「うん?どうしたのモモイちゃん」

「いや…ユメさんちょっと難しそうな顔してたから」

「そうよ。なんだかんだ恨んでたんじゃないの?」

「ユウカちゃんまで…確かに思うところはあるけど、本当に恨むべきは力足らずだったあの時の私自身だからね。それに今更私にワカモちゃんにどうこう言える資格なんてないし。それなら、今は、今だけは全部忘れても良いかなって。可愛い後輩達を祝うのにギスギスする訳にもいかないしね!」

「…そう。行きましょうモモイちゃん。アリスちゃん達の勝利を祝うんだから明るくしないと」

「う、うん!」

 

 

「あなたも案外強がりですよね」

「…ヒマリ部長」

 

ホシノ達の輪に混ざりに行ったユウカとモモイを見送ったユメに、今度はヒマリが声をかける。

見透かしたようなヒマリにユメも「敵わないなぁ」と零すと、一旦テーブルの方まで行って湯呑みを取ってくるとお茶を注ぎヒマリにそれを渡した。

受け取ったヒマリはそれを一啜りすると、ほうっと息を吐く。

 

「まだ大人は嫌いですか?」

「私達ももう大人で、皆もいつか大人になるのに何言ってるんだってホシノちゃんにお説教されたのに、情けないですよね…」

「人間好悪がそう簡単に覆るものではありません。あなたの気持ちの全てを理解出来ている程自分に自信があるわけではありませんが、大切な教え子なんですから同情ぐらいはしますよ。その上で、私は物凄く怒っていますからね。一人抱え込んだことを」

「…」

「そして私以上にホシノも怒っていると思いますよ。だから、落ち着いた時にはまたゆっくり話してあげてください」

「…はい、すみませんでした」

「よろしい。ではホシノが寂しそうにしていますので早く混ざりに行きなさい」

 

ヒマリがそう言うと、ユメはぺこりとお辞儀を返し…名前を呼んで早く来るよう手を振っているホシノ達の元へと小走りで駆けて行くと、抱え込むのはやめたのか何やらワカモを指差して文句を吐き出しているようだった。

突然の告白に一同がきょとんとするものの、ホシノは面白可笑しそうに吹き出すとユメに加勢するように共に騒ぎ始め、ワカモは肩を竦めて言い返す。

 

ユウカは呆れ、ノアは苦笑し、モモイは引き、ユカリと黒井はユメとホシノを応援し、ネルは面白がって両者を焚き付けるように野次を飛ばす。

 

かつての日々を思い出す賑やかな一幕に、あの頃と比べると足りない者や逆に関係なかった者もいるが、それが良いのか悪いのか…ただこんなにもここに人が集まってしまったことにヒマリは残念だと思った。

 

「願わくば、アリスやシロコさん達にはまだ来て欲しくないですが…人生何が起こるか分かりませんし、いつ来ても良いように歓迎の準備だけは整えておかなければいけないでしょうかね…痛っ!?」

 

気取ったように独りごちるヒマリの顔面に、喧嘩がヒートアップしたのかテーブルの方から飛んできた皿がクリーンヒットする。

その短い悲鳴に騒ぎ立ててた一同はぴたりと動きを止めると、ゆっくりとぷるぷると震えるヒマリの方を見やる。

 

額に青筋を浮かべたヒマリは我慢ならず…

 

 

「あなた達は…いい加減節操というものを覚えなさい!」

 

「うへ〜、逃げろっ!」

「ひぃん、怒られる〜!」

 

 

不味そうだと察して散り散りに逃げ出す一同を、ヒマリは爆速で車椅子をかっ飛ばし追いかけ回す。

その後アクアリウム全体を使った無駄に壮大な追いかけっこが始まるのだが…その行方は大水槽を遊覧するクジラだけが眺めていた。

 

 

1つ言えるのは、現世に託して来た者達は割と賑やかにその後を楽しんでいるということだけだろう。

 




小ネタ 一方その頃

マルクト「というわけでお疲れ様〜!」
Key「存外貴女の夢も他愛なく打ち砕かれたものですね。まあ私としてはどうでもいい話ですが」
司祭「さんざん王女を振り回して何も得られないとは…情けない奴め」
マルクト「良いじゃん良いじゃん、少なくとも私はいっぱい楽しめたからね。Keyはどうだった?楽しかった?」
司祭「貴様、あまり調子に乗ると…」
Key「構いませんよ、司祭。その言に答えるとすれば…中々悪くはありませんでした」
司祭「王女…」
マルクト「へぇ?君ともあろうものがどんな心境の変化なんだか」
Key「…司祭。私の永き旅の共、ご苦労様でした」
司祭「…は、は!光栄で御座います!」
Key「マルクト。腐れ縁ではありましたが、貴女は私の良き友でしたよ」
マルクト「え?えぇ…なにそれ、らしくないなぁ…そんな素直に言われるとちょっと照れるんだけど…」

Key「そうですね…次というものがあれば、今度は身の程を弁えて皆でゲームでも嗜むとしましょうか」
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