ブルア廻戦   作:天翼project

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小鳥遊ホシノの多忙な一日

 

AM 5:00

 

「んっ…ふぁあ〜…ふぅ…」

 

小鳥遊ホシノの朝は早い。

まだ日も登り切らない時間に目を覚ましたホシノは、欠伸一つかくとのっそりとベッドから起き上がり、習慣として染み付いた故無意識の内に洗面台を目指すと顔を洗う。

 

「…昨晩貨物輸送列車がジャック…ロケット発射打ち上げ失敗でミレニアム科学館が壊滅…ゲヘナで間欠泉騒ぎ…なんだいつものか」

 

そして少し眠気が覚めると端末を覗き込みモモトークや今朝のネットニュースを確認し、目新しいものが無ければ支給されている弁当でさっさと朝食を済ませ、着替えや身支度を終えて監督官用の寮を出てS.C.H.A.L.E本部へと向かう。

 

 

AM 6:00

 

少し歩いた程度で辿り着く距離にあるそのオフィスビルに到着したホシノは教員室に入ると、既にヒマリが優雅にコーヒーを啜りながらロッキングチェア…に変形しているいつもの車椅子を揺らしているのを見つける。

 

「…おはようヒマリ部長。もしかして昨日から帰ってないの?」

「おや、ホシノさん。1年生に斡旋する任務や演習指導のカリキュラムを組む会議が盛り上がってしまいまして。今頃アヤネさんやシュンさんも休憩室だと思いますよ」

「そんなのやってたんだ…昨日も夜中に任務帰りでそのまま寝ちゃってたから知らなかったよ」

「そちらもお忙しいようですが、残念ながらまたホシノさんに任務が来てますよ」

「うへぇ…」

 

出勤早々にそう伝えられてホシノは露骨に顔を顰めるが、ため息混じりに自分のデスクに着くとそこに上げられていた資料に目を通していく。

一通り読み終わると資料の束を纏め、自分の鞄に放り込んだ。

 

「はぁ…アヤネちゃん叩き起してから行ってくるね」

「あの子も扱き使われますねぇ…あ、そうだ待ってください」

「うん?」

「任務の中でゲヘナの方に赴きますよね?そこでつい最近オープンしたばかりだという洋菓子店があった筈なので、私の分のお土産も買ってきてください」

「ヒマリ部長も人の事言えないよね?」

 

少し抵抗するも結局お土産を買ってくる約束を取り付けられ、ホシノはS.C.H.A.L.E内にある休憩室の扉を八つ当たり気味に強く開け放つ。

その音に驚き部屋のドレッサーで身嗜みを整えていたアヤネが椅子から転げ落ちるのも気にせず、テーブルの上に置かれていたお茶菓子を適当につまむと起き上がろうとしている最中のアヤネを見た。

 

「…何してるの?」

「誰のせいだと思ってるんですかねぇ!?」

「冗談冗談。で、早速だけどもうこの後直ぐにまずはミレニアムの廃墟に行くから車出して」

「今その支度をしてたところなんですけど…」

「あらあら、朝からお忙しそうですね」

「あ、シュンさん。騒がしくしてごめんね」

「ほんと私と扱い変わりますね!?」

 

横から声を掛けてきたのは休憩室に隣接したシャワールームから出てきたばかりでラフな格好をしたシュン。

それに対して一転して丁寧な対応をするホシノにアヤネが抗議するも、いつものことなのでさらりと流される。

 

「今日もスケジュールみっちりだし、また深夜コースかなぁ」

「本当にホシノさんには頭が上がりませんね。山海経の方でお気に入りの料理店があるのですが、今度ご一緒にどうですか?」

「休日が合えばお願いしようかな。合えばだけど…」

「ふふ、まあそう簡単には無いでしょうが…いざとなれば私の方でヒマリ部長か連邦生徒会の方に文句を言いに行くので楽しみにしていてください」

「それは心強いねぇ…っと、アヤネちゃん支度まだ〜?」

「今終わらせますから待っててください!」

 

急かされ大慌てで準備を整えたアヤネはホシノを連れてS.C.H.A.L.Eの傍に停めてある車に乗りこみ、そのままホシノ最初の目的地であるミレニアムの迷宮、それそのものが特級の特異現象として登録される『廃墟』へと向かう。

 

 

AM 9:00

 

暫く車に揺られながら任務の内容を確認し、到着したのは鬱蒼と寂れた文字通りの廃墟と化した街並。

特異現象捜査部と連邦生徒会の規制により一般人の立ち入りが禁止されているそこは何処かから発生している神秘で空気が満たされた、超自然的な雰囲気が漂っている。

車を降りて頑丈なバリケードにより封鎖されたそこに、唯一の出入口であるゲートを超えて踏み入ったホシノはゲートの外で待つアヤネに声を掛ける。

 

「これ終わったらゲヘナの方に行くけど、そっちは列車使って自分で行くからアヤネちゃんは帰ってて良いよ〜」

「はい?…本当に大丈夫ですか?」

「初めてのお使いじゃないんだし自分で列車くらい乗れるよ。私用もあるしね」

「そうですか…ではお気を付けて。何かあればオペレーションルームの方へご連絡ください」

「りょーかい」

 

それだけ告げて廃墟の奥の方へと進んで行くホシノは、鞄からここでの任務についての資料と同封された地図を確認する。

今回ホシノがやるべき事は最近活動が活性化し徐々にミレニアム自治区の住宅街へと迫っていることが観測された神明特異体の掃討と、今回活性化を促している原因と見られる特級神名特異体、『ケセド』を鎮めることだ。

ケセドは神明特異体の中でも特殊な個体で、一度に複数の存在が確認されている上に鎮められてもいつの間にかまた何処かで復活しているという面倒な特性を持っている。

その為何度鎮めても完全な制圧が出来ず、神名特異体を活性化させ続ける厄介極まりない存在。

『廃墟』を特級の特異現象たらしめる最大の要因の一つだ。

 

そんなケセドを鎮める任務だが活動が確認される度に毎回ホシノが駆り出されている為この任務に関しては最早ベテランと化している。

 

「今回観測されたのは廃墟の深部…武器工場の辺りかな?全く懲りないんだから、ね!」

 

方角を確認したホシノは膝をぐっと屈めると、バネのように伸ばす勢いで大跳躍を行い、一気に長大な距離を移動する。

そして進路に目的地である工場を見つけると背中に背負っていた鞄を盾に変形させ、それを前方に扇いでその反動で空中で急停止する。

失速したホシノはそのままピンポイントで工場の天井を突き破って内部に突入すると、そこには大量にひしめく武装した自動人形(オートマタ)の群れ…その奥に鎮座する球体状の機械のようなそれこそが特級神明特異体、ケセドである。

 

「さて、いつものやり方で良いかな」

 

ホシノが突入してきた瞬間に工場内には警報音が鳴り響き、それに追い立てられるように大量のオートマタも武器を構えてホシノへと向け掃射する。

凄まじい弾幕と硝煙が空間を満たし、一瞬ホシノの姿が掻き消える。

全てのオートマタが一弾倉分の掃射を終えるとそこで一度攻撃を中止し、リロードしながら煙が晴れるのを待つ。

そして煙が晴れた先には───

 

 

「順転『明け』 反転『宵』── 虚式『暁』」

 

 

ショットガンを構え、その銃口に青い光と赤い光が混ざり合い、生じた紫色の光がホシノが引き金を引くのと同時に解き放たれる。

結果、銃口の正面に立ち塞がっていた一切のオートマタ…そしてその直線上にいたケセドは本来その難攻不落とも言える頑強極まりない装甲を丸ごと飲み込み、その全てを消し飛ばす。

『暁』が駆け抜けた範囲の建物は地形ごと抉り取られ、長い距離に渡って断層が露出するほどの溝が出来上がった。

 

そこに集まっていた多くのオートマタを鎮めたホシノは『暁』の範囲外にいた為討ち漏らしたオートマタ達も順次掃討し、そこからゲートの方に戻るまでのルート付近にいた全てを鎮め、端末からアヤネの方に廃墟での任務の終了を通達した。

 

「それにしても、あれだけ派手にぶっ壊しても次来た時には地形ごと直ってるんだから何度見ても不思議なものだよね〜…えっと、次はゲヘナの方だよね…列車の時刻表…うへっ、あんまり時間無いじゃん!?いつもより多かったしちょっと時間掛けすぎたかな…?」

 

現在の時刻を確認したホシノは大急ぎで廃墟を後にし、最寄りの駅へと走って向かう。

街中ではあまり目立ち過ぎないように速度を落とす必要があるのをもどかしく感じながらも、なんとか目的の列車が出る前に間に合い、特に息を切らしてる訳でも無く席に腰掛けた。

 

 

AM 11:00

 

列車が発進し、車内販売の弁当にて早めの昼食を取っていたホシノは列車内を歩く人物の中に見知った顔を見つけた。

この列車はハイランダー鉄道学園の特異現象捜査部の支部が管轄して運行しているものだが、その車掌を務めているのであろう眼帯がよく目立つその人物にホシノは席から顔を出してひらひらと手を振って見せた。

それに気付いたその人物…朝霧スオウは半目でホシノをじっと見ると、面倒臭そうに傍まで寄ってホシノの向かいの席へと腰掛ける。

 

「眼帯ちゃん久しぶり〜」

「本当にな。見覚えのあるピンクが見えたから無視してやろうかと思ったぞ」

「すっごい失礼だね」

 

界隈でも傍若無人なセクハラピンク、またはクソバカピンクで知られるホシノにスオウが気兼ねなく接するのは割とそこそこ長い付き合い…とは言っても遭遇する頻度は少ないが…故であり、その気質を理解しているが為にホシノに対する発言は辛辣で容赦ない。

そしてそれを気にすることもなく受け入れるホシノはさて呼んだは良いが何を話そうかとそれはそれで気まずくなっていると、それを察したのか呼ばれた側であるにも関わらずスオウの方から話題を振ってきた。

 

「そっちは最近どうなんだ?あまり良い噂は聞かないが…」

「良い噂は聞かない、ねぇ。果たして誰が良くない噂をしてるのかは気になるところだけど、こっちはこっちでやり甲斐を感じてるよ〜?手のかかる後輩を導くのは先輩冥利に尽きるしね。逆に聞くけど、そっちの方はどうなの?」

「ふむ…手のかかる後輩というのなら、丁度最近やかましい双子が入ってきたな。この前もウチで管轄する列車で複線ドリフトを決めて謹慎処分を食らっていた」

「手のかかるとかそういう次元じゃなくない?」

 

自分の方もかなりゴタゴタしてると思っていたホシノだが、スオウの方も大概だなと苦笑いする。

対してスオウは面倒だからかホシノと同じようにそれはそれで楽しんでいるのかよく分からない表情でため息を吐くと、髪の隙間から覗く碧色の瞳でホシノをじっと見つめた。

 

「…何?」

「いや、やっばり昔会った時とは随分色々と変わっているなと思っただけだ。ツレがいた頃が懐かしいな」

「嫌な話してくるねぇ…これでも頑張って変わろうとしてるんだから褒めて欲しいぐらいだよ」

「そう言うな。折角の電車旅をそんな疲れた様子で過ごされるのはハイランダーの生徒として見過ごせないな。どうだ?今度オススメの温泉宿でも紹介するぞ?」

「余計なお世話…って言いたいところだけど、後輩連れて演習と称して息抜きするのもアリかな…一応聞いとこうかな」

「はっ、お前程の奴がそんな小賢しい真似でもしなければまともに休めないとは連邦生徒会も猛獣の扱い方が分かっていないと見える」

「つくづく失礼だね?」

 

そうして駄弁って入ればいつの間にか時間も過ぎ、長話し過ぎるのも良くないとスオウは席を立ち業務に戻って行った。

その後ろ姿を目で追ったホシノは懐かしい顔見知りと話して時間を潰せた事はそう悪くない事だと思い、過去に仲間達と同じように列車で過ごしては他愛無い話をしたことを思い返す。

それこそ一学生として任務に赴いていた頃はこうして単独行動することは殆ど無かったなと、今の1人で任務を回る日々に少し辟易と感じるのだった。

 

 

PM 13:00

 

長い時間電車に揺られて漸く目的地に到着したホシノが向かったのは、ゲヘナ辺境に存在する霊脈地帯。

他の土地より神秘が多く大気に含まれるその一帯にて、ホシノは任務の詳細が書かれた資料を改めて確認する。

ここでのホシノの任務は最近この周囲での特異体の発生量の増加や発生する特異体が次第に強力になってきている原因の調査となっている。

特にここ2週間ほど前からは1級相当の特異体が複数確認されており、ゲヘナの支部ではいよいよ手に負えなくなってしまったとのこと。

 

「ふ〜む…霊脈が乱れてるのかな?辿れば何かある筈…」

 

早速地面に手を当てその異常を察知したホシノは軽く地面を叩くのと同時に地下に向けて神秘を波のようにして送り込み、その反応を確かめる。

すると神秘の反響が不自然になっている事に気付き、それを基に霊脈が乱れている方向を割り出すとそちらへと歩を進めた。

 

道中度々特異体…報告に上がっていたような1級相当を含むそれらにより奇襲を受けたが、ただひたすら捕まえては腕力で捻り潰すなり捻じ切るなり神秘を込めたショットガンで吹き飛ばすなりでちぎっては投げの作業するかのような対処が行われていた為に詳細は割愛。

 

そして辿り着いた先にあったのは何やら重機やドリル等の発掘機が大量に遺棄された場所だった。

それらを調べたホシノは…見つけた時点で薄々察してはいたが、これがキヴォトス各地に現れては破壊活動を行いその土地の水脈を掘り当て温泉を作っていく迷惑集団、温泉開発部による犯行だと結論付ける。

辛うじて神秘を使った騒動を起こしていないだけで正式にアウトローとして認定されていない彼女達だが、やっている事の迷惑さから半ばアウトロー扱いされている問題児達にホシノはまた面倒なことをしてくれたものだと頭を抱える。

 

大方、この辺りに温泉の気配を感じて地面を砕いてみればそれによって霊脈が刺激され、触発されるように現れた特異体に襲われ蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行ったのだろう。

そのまま放置された結果が今回の特異体発生に繋がってしまったようだ。

 

「元から特異体が湧きやすい土地だから人があまり住んでないお陰で民間人への被害は無かったけど…一回特異現象捜査部からも連中を追って貰うようにヒマリ部長に嘆願しとこうかな…」

 

本来アウトローに認定されてない生徒ならばそれがどれだけ迷惑な存在でも特異現象捜査部が干渉することは無いが、あまりにもヴァルキューレや各自治区の治安維持組織が温泉開発部を捕えられないようであれば、今回のような事件が今後起きぬよう特異現象捜査部が戦力を送る必要が出てしまう。

また忙しくなる要因が増えてしまうことに最早諦めを通り越して悟りの境地に至ったホシノは、端末を通してアヤネに特異体増加の原因を報告、後日霊脈の復元が出来るような人材を派遣するように要請したのだった。

 

 

PM 18:00

 

ヒマリに頼まれていた洋菓子店のお土産を買ったホシノは再び列車に乗り込み、自分用に買った分を幾つか平らげながら向かったのはトリニティ自治区。

予定より遅い到着になってしまったのは件の洋菓子店がその話題性と人気により多くの客を集めており、列の順番待ちの時間が長引いてしまったからだ。

 

自分としてもそこで買った洋菓子店は中々気に入るものだったとはいえ余計な事に時間を使わせてくれたとホシノが内心ヒマリを恨んでいると、いつの間にか辿り着いていたのはトリニティ第一校舎、そこにあるトリニティの生徒会とも言えるティーパーティーのホスト兼特異現象捜査部トリニティ支部の部長でもある桐藤ナギサの茶会室だった。

 

役員に通された部屋の中では既に席に着いたナギサがホシノにとっては他と違いの分からない無駄に値段は張りそうな紅茶を嗜んでいる最中で、目が合ったナギサはティーカップを降ろすと手で着席するように促した。

 

大人しく席に着いたホシノは予め用意されていた紅茶をグビっと一気に飲み干すと、これまた高級そうな茶菓子をバリバリと食べる。

 

「遅れて来て早々遠慮が無い方ですね」

「呼び出されてる側だしこれくらいの無礼講は許して欲しいね」

「無礼講とは目上の者が目下の者に気を遣わなくて良いと言うものですのに、貴女の方から勝手に無礼講云々言うのはどうかと思いますが」

「へえ?一体いつから君が私より目上になったんだろうね?同じ特級のミカちゃんがいるならともかくさぁ。あぁごめんごめん、ナギサちゃんはミカちゃんと長い間会ってないからこの場に呼ぶなんて無理な話だったね」

「人に配慮が出来ないのは相変わらずですね。そんな調子ですから友人の変容にも気付けず、その内心を理解することも出来ず、ろくに思いを打ち明け合う事も出来ずに梔子ユメと離れ離れになってしまうのですよ」

「…やめよっか」

「ですね…」

 

例の通り仲が良いとは決して言えない2人だが、互いに傷を抉り合いあまつさえお互いにブーメランを投げ合ってしまったのは流石に堪えたのか、早々に煽り合いを打ち切って咳払い一つすると早速本題へと移る。

つまりはホシノを態々トリニティ支部に呼びつけた理由だが、これも予想の着く話ではあった。

 

「さて、察してはいるとお思いでしょうが自地区に特級複製特異体、『バルバラ』が発生しています。ホシノさんにはそれを鎮めて欲しいのです」

「回りくどくここに呼ばなくても直接現場に案内してくれれば良かったのにねぇ」

「他の学園とは違いこちらでは色々と面倒があるとご存知でしょう?特にホシノさんともなると色々と確認を取ってから送り出さないとどんな二次被害が出るか分かりませんからね」

「人のことを無差別に周囲を巻き込んで破壊するバーサーカーみたいに言うのやめようか。『廃墟』とか『カタコンベ』みたいな人っ子一人いない場所ならともかく、普通にインフラが通ってる場所で大立ち回りしたりはしないからね?」

「日頃の行いですかね」

「うへぇ、またさっきの続きする?」

 

また双方損するだけの不毛な言い争いをする訳にも行かないので軽く謝罪したナギサは、バルバラが確認された場所の地図と周辺情報を記載した資料をホシノへと渡す。

受け取ったホシノは現在地から目的地までの距離の遠さを確認すると、資料から目線を上げてナギサに一言。

 

「移動用の監督オペレーター貸してくれない?」

「貴女免許持ってるでしょう」

「うへ…ほら、おじさんペーパードライバーだから」

 

 

 

 

PM 19:00

 

トリニティ支部の監督オペレーターが運転する車に乗って現場に急行したホシノは、目的地より少し前の場所で降りると1人でその先へと歩いていく。

既に日は落ち街頭に照らされるのみの街並は薄暗く、不気味な静けさが漂っている。

そんな街道を抜けた先でホシノが発見したのは、青白いオーラを立ち登らせる人型の特異体…トリニティを中心にカタコンベから現れる『ユスティナ』と呼ばれる複製特異体、その中でも特級に位置するガスマスクと両手に持ったガトリングが特徴的な『バルバラ』が佇んでいた。

 

バルバラはホシノに気付くなり両手のそれらを掃射するが、ひょいと跳躍し近くの屋根に着地して回避したホシノは追いかけてくる弾幕を屋根の上を駆けながら逃れ、反撃に神秘を込めたショットガンを一発放つ。

弾丸は拡散するもののホシノが神秘を込めたそれは特異体にとって致命的な威力を誇り、僅かに掠っただけでバルバラは体勢を崩してその場に膝を着く。

その隙を逃すまいとホシノは一気に距離を詰めると、迎撃しようとするバルバラの持つガトリングを蹴り上げ、もう片手の方も回し蹴りで弾き飛ばして武装を解除させる。

 

あっという間に武器を失ったバルバラはならばと腕を…並の生徒ならば簡単に引き裂ける程の腕力のそれを…振るうも、ホシノはショットガンを持つ手の甲で払い除けるとそのままバルバラの顎下目掛けて肘を打ち込み、仰け反って怯んだ胴に強烈な蹴りを入れる。

蹴り飛ばされたバルバラは近くの廃墟一件を丸々突き破って反対側の路地へと転がり、廃墟を飛び越えてそれに追いついたホシノは起き上がったバルバラの背後に背中合わせになるように着地した。

 

「…」

 

背中合わせの2人の間に一瞬の静寂が流れるが、弾かれ合うように同時に振り向くとバルバラの拳より先にホシノの掌底がバルバラの額に打ち込まれる。

ぐるんとその場で縦に一回転したバルバラの脚を掴んだホシノは先程貫通した廃墟の方に再びバルバラを投げつけ、今度は廃墟の中を転がったバルバラに起き上がる前にその頭部を掴み、床へと力強く叩きつけた。

 

それによってガスマスクが砕け、弱ったバルバラにトドメとばかりにホシノはショットガンを突きつけると、神秘をたっぷりと込めたそれを放つ。

至近距離から打ち込まれたホシノの銃撃にバルバラは最早耐えることは出来ず、程なくして消滅を迎えた。

 

「ふぅ…とはいえ、あいつもケセドみたいに時間が経ったらまた湧いてくるしなぁ…」

 

ケセド然り、今回の件についてもその場凌ぎの応急処置でしかない。

ホシノとて肉体は1つしかいないので仕事に忙殺されている時にこんなのが各地で大量発生しようものならお手上げだ。

そうならない為にも、やはり後進の育成を急ぐ必要が出てくる。

 

「…またナギサちゃんの所に行って一々報告しなきゃか…はーあ、トリニティ面倒くさっ」

 

今年の1年生がよくトリニティについての愚痴を言っている所を目にするが、こうしてトリニティ絡みの任務をする度に本当にそうだとよく思う。

とはいえ人命優先は徹底なので見捨てるという選択肢は無いが…それでも憂鬱になってしまうのは事実だ。

 

「帰る頃には何時になるんだろ、これ…」

 

 

 

 

 

 

 

AM 1:00

 

無駄に長ったらしい報告や手続きを終えて列車に乗り1人で夜中にS.C.H.A.L.Eのオフィスビルへと戻ってきたホシノは教員室に入るなり自分のデスクに伏せた。

それに声を掛けたのは、残業が発生してしまったのかひぃひぃ言いながら仕事を片付けていた最中だったフブキだ。

 

「ホシノ先輩お疲れ様〜」

「お疲れフブキちゃん…フブキちゃんが残業なんて珍しいね?」

「私だってサボれるならサボりたいけど、今日やった1年の現場実習のレポートの採点とか次に向けてのアドバイスとか明日の授業までに絶対やらなきゃ行けないんだよ…」

「あぁ、私がいない間1年の面倒見てくれてありがとねぇ。後はおじさんが引き継ぐからフブキちゃんは休んで良いよ」

「マジ?ラッキー…って言いたいところだけど、流石に疲れてるんじゃない?」

「今日は移動する時間の方が多かったからその間に仮眠は取ってるよ。だから後はおじさんに任せなって」

「まあ、そこまで言うならお言葉に甘えて…」

 

ホシノの提案を受け入れたフブキはブランケットを羽織って休憩室へと向かった。

他の監督官や監督オペレーターは今日は皆帰宅したか既に休憩室に向かったのか、もう教員室にはホシノしか残っていない。

ホシノはフブキが残した1年生な現場実習レポートに向き合うと、内容をよく確認してコメントを付けたりデフォルメされた似顔絵を遊び心で加えていく。

 

 

AM 5:00

 

レポートの方を終えてもまだやることは残っており、今回の任務の報告書をまとめたり、明日…というか今日の1年生の授業のカリキュラムを精査したりしている内に、気付けば彼方に薄らと茜色が差す時間になってしまった。

そろそろヒマリ辺りが出勤してくる時間だろうが、なんとなく鉢合わせるのが気まずいと思ったホシノは教員室を後にして1年生の教室へと向かう。

 

昨日は任務で忙しい関係上フブキに任せたが今日の授業はホシノが担当することになっており、今のうちに準備を済ませてしまおうと教員室から持ってきていたBD等の教材や資料をまとめ、3人分しかない生徒達の机の上に連絡用のプリントを並べていく。

一通りの準備が終わると教室に置かれている自分専用の椅子に腰掛け、教卓の中にしまわれていたアイマスクを手に取る。

アイマスクを付ける直前、ホシノは時間を確認するともう6時になる頃で、生徒達が来るまでまたホシノは仮眠を取る事にした。

 

 

 

 

AM 8:00

 

先輩…ホシノ先輩!」

 

「…んぅ〜」

 

教室を締め切っていたカーテンが開かれ、自分の名前を呼ぶ声が響く。

目を覚ましたホシノがアイマスクを外すと、そこには自分の顔を覗き込むようにしているヒナとカズサ、アリスの姿があった。

 

「いつまで寝てるのよ。シャキッとしなさい」

「最早いつもの事だけど来る度いっつも寝てるよねホシノ先輩」

「もしかして、あまり寝れてないんですか?」

 

 

 

 

 

「…ふふ、おじさん寝坊助だから昨日からずっと寝通しだよ〜…さてさて、今日の授業始めるから皆席に着いて〜!」

 

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