「…昼間からゲームばっかり、先輩達を見習ってトレーニングでもしてきたらどうなの?」
「休日なんですから遊ばないと損じゃないですか!」
「カズサ、アイテム取りすぎよ。私の分も残しなさい」
「早い者勝ちだもんね〜」
「クソガキ共…」
所用があって寮を訪れていたユウカは、ふと騒がしさが気になってアリスの部屋を覗くと、そこでは床に菓子を広げてゲーム三昧と洒落こんでいた馬鹿3人組を目にした。
無駄に馴染んでしまったのか普段真面目なヒナでさえ堕落しきった様子に思わず悪態をつくユウカは、なんとしてでも少しでもあのストイックな彼女らの先輩達を見習わせねばと考える。
「あ、せっかくですしユウカも参加してゲームパーティでもします?」
「嫌よ!あんたらのゲームパーティなんて最終的にリアルファイトになってキレたホシノ先輩にぶっ飛ばされるのがオチじゃない!」
「一理あるわね」
「毎回毎回必殺技みたいなのぶっぱしてくるホシノ先輩も大人気ないと思うけどね」
「ことある事に教室とか寮を荒らされたら必殺技の1つでも撃ちたくなるわよ」
「あの人1番アウトローなんじゃない?」
「ともかく!1回外に出なさい!散歩くらいなら付き合ってあげるから!」
そう脅かされて渋々了承したアリス達は、少し着替えるとユウカを連れ添って適当に外を散策する事に。
普段はS.C.H.A.L.Eのオフィスビルに隣接する運動場程度にしか立ち寄らない3人だが、特異現象捜査部が管轄する一帯の敷地内には授業では訪れない施設やスポットがそこそこあったりする。
そんな場所を案内しようとガイドが持つような小さな旗を片手にユウカは先導を開始した。
「特異現象捜査部の本部だけあって、敷地内には結構歴史的価値のある遺物だとか霊験あらたかな遺産だったりとかがちらほら管理されてるのよ?」
「パワースポットってことですか?」
「そういうこと」
「不思議パワーが貰えたり?」
「しないわよ!」
「ユウカせんぱ〜い、せっかくアリスが興味持ってるんだからもうちょっとノッて上げても良いじゃん」
「ほら、アリス。あの人ちょっとノリが悪いところあるから。気にしちゃ駄目よ?」
「なんで私が悪いみたいになってんのよ!?あとヒナ!あんたもっと真面目な子だったでしょうが!」
何処ぞのクソバカピンクのせいかこの1年の空気に馴染み過ぎたせいか、なんにせよあのヒナでさえ最近は悪ノリし始めた事にユウカは頭を抱える。
それに昔のホシノもそうだったが、こういう輩はシュン等の揶揄ってはいけない相手を無意識に判別して態度を変えるのだからタチが悪い。
要するにユウカは舐められているのだ。
(先輩としての威厳を見せつけて、なんとしてでもこいつらに態度を改めさせないと…!)
そう決意したユウカが最初に案内した場所はS.C.H.A.L.Eから徒歩30分程の距離にある小さな泉。
半径30m程度のその泉の中央には如何にもそれらしい祠のような物が建てられており、アリス達の目から見てもそこそこの神秘がそれから湧き上がっているのが分かった。
「おー、それっぽい」
「大昔の怪物とかが封印されてる感じですか?」
「いや、確かあれはこの地域の霊脈の間欠泉みたいなものだった筈よ」
「よく知ってるわね。それであの祠は…」
「あの祠はその霊脈を封じる重石のようなもので、霊脈を封じることでこの辺りに特異現象が発生するのを防いでるのよ。一個封印を作るのに相当な手間と苦労があるらしいから同じようなものは中々増やせないらしいけどね」
「流石ヒナ!物知りですね!」
「通りで立ち入り禁止されてる訳だ。アリスだったら勝手に近づいて祠壊しちゃいそうだし」
「そんなことしませんよ!」
「は、はは…」
説明するチャンスをヒナに掻っ攫われ、先輩の威厳を見せ損なったユウカは頬を引き攣らせてアリス達のやり取りに乾いた笑いを浮かべる。
しかしこれだけでは終われないと頭を振って気を持ち直すと、「じゃあ次行くわよ!」と強引に話を切り上げて次の場所へと向かう。
あまり歩く時間ばかりになって飽きられてしまう事を危惧して適当に雑談を交えて気を遣いつつ、そこからさらに歩いて30分程して到着したのは少し古びた研究所のような施設。
電気系統が古いのか電灯は薄暗く、不規則に点滅している。
そんな施設の内部を足元に注意しながら奥に進んだ先にあったのは、厳重にロックされているらしい重々しい扉だった。
「本来は特異現象捜査部の部長…即ちヒマリ部長の許可がないと入れないんだけど、今回は特別に事前に許可を貰ってきたわ」
「別に危険でもないし特に利用出来るようなものでも無いけど物珍しいから取り敢えず保管して置きたいっていう遺物を仕舞ってる場所よね」
「クソッ、この優等生!」
「悪いかしら?」
「ヒナもよく知ってますね?」
「言っちゃ悪いけど私は何年か前に既にホシノ先輩に連れ回されてるのよね」
「何一丁前に先輩面してるのよあのクソバカピンク…」
「先輩面ってか普通に先輩でしょ…」
「本人に聞かれたらダル絡みされるかもね」
「安心してください!ユウカのお墓は掘っておきます!」
「ブラックジョークにしても笑えないわよ!」
「大丈夫です!ユウカ先輩以外にはしませんから!」
「そっちのが余計腹立つわ!」
少しやり取りしただけでいつの間にか息を切らし、興奮に肩を上下させるユウカはさっさと扉を開けてその中にアリス達を連れ込む。
この分だと中に保管されている遺物もヒナはある程度把握しているだろうが、ならばとユウカはここ最近新たに保管されたばかりのものに目を付けて紹介することにした。
そして白一色で調和された壁の棚から取り出したのは、何やらゴテゴテと角張った四角い装置のような物だ。
「これは…?」
「流石にヒナも知らないようね!これはね、何を隠そう少し前の任務で私が遺跡から回収した古代遺物なのよ!」
「古代遺物!凄そうですね!」
「へ〜、特異現象捜査部って遺跡なんか潜ったりすることもあるんだ?」
「遺物の中には放置してると危険な物もあるし、古い遺跡を調査してそういった物を回収するのも特異現象捜査部の活動の一環なのよ。それで、それはどんな遺物なの?」
「聞いて驚きなさい、これは────名も無き神々の時代に造られた関数電卓なのよ!」
「さ、帰ろ帰ろ」
「ここで管理されてる時点で大したことないのは察してたわ」
「うわーん!ロマンを感じません!」
「待ちなさい!」
露骨に興味を失い出ていこうとする3人の前に立ちはだかったユウカは、眼前にその関数電卓を突き付けるとまくし立てるようにその説明を始めた。
「これは内部に超精密な電子基板とAIが内臓されていて、製造から途方もない時間が経った今でも寸分の狂いなく計算を行える優れものなのよ!確かに見た目は少し厳ついし持ち運ぶには少し大きいけど、45桁の数字を2万個も覚えられる大容量に加えて計算速度も異常に早い。当時から全く劣化していない機械がどれだけ貴重だと思ってるの!?」
「うわーん!ユウカがオタクみたいになりました!」
「ここまで来ると怖いんだけど…」
「別の保管品も体温計とか天気予報機とかそんなんばっかだしアリスとかカズサが面白いと思えるようなものも多分無いわよ」
「ぐっ、これだから最近の子は…!」
「ユウカ先輩もそこまで歳離れてる訳じゃないでしょ」
冷静にツッコまれ地面に両手を着いて項垂れるユウカの上を跨ぐようにして保管室を後にしたアリス達。
少しして慌てて追いかけてきたユウカは次こそ先輩の威厳を見せる為に幾つもの行き先の候補を絞り出しては厳選し、そして残り1つまで絞り込むと意気揚々とそこまで3人を案内する。
流石にもう飽き始めて帰りたそうにしているが、今日は夕飯を奢る約束を取り付けることでもう一箇所だけなんとか付き合って貰うことになり、歩いて1時間弱程でようやく辿り着いたのはS.C.H.A.L.E近辺でも珍しい木が生い茂った小高い山だった。
「ここは…来たのは初めてだけど、昔野外演習の訓練用に使われてたっていう山かしら?」
「レンゲ達はたまに勝手に入ってるけどね。今ではシュミレーションルームで極地や森林、山岳地帯の環境を再現してそこで訓練出来るから使ってないのよ。こっちは環境の整備とかも面倒だし。あなた達も2年になったらミレニアムの支部の方にある訓練用シュミレーションセンターに行くと思うわよ」
「そんなハイテクなものが…最近の技術すっごいな〜。トリニティとかそういうの全然無かったし」
「ミレニアムは技術的な面では他のどの次地区よりも優れてますからね!ミレニアム出身としては鼻が高いです!」
「一応私もミレニアム出身なんだけど…それは置いといて、レンゲ達に誘われでもしない限りもうあなた達が来ることは無いでしょうしここを散策するわよ」
少しは興味を取り戻したアリス達の様子に安堵しつつ、ユウカは今は荒れている山道に茂る高く伸びた雑草を見事な手捌きでナイフを振って切り開きながら進んでいく。
それにはアリス達も「おぉ…」と感嘆の声を漏らし、それを聞いたユウカは口角を上げ調子に乗って奥へ奥へと進んでいく。
ユウカの道選びもあって然程険しくない山登りを終え、小一時間程で到着した山頂からはS.C.H.A.L.Eの敷地を一望することが出来た。
「中等部の頃は気分転換にたまにノアと一緒に来てたのよね。当時はホシノ先輩とかユメ先輩が良くも悪くも大暴れしてたから私達もそれに振り回されたものだわ」
「…昔話、ですか?」
「そう。私にとってはすっかり遠くなった昔の話よ」
「…知ってる名前?」
「ユメって人の方は…ノアって人は初めて聞いたけれど…あの様子だと…」
「…深くは聞くまい、か。私達もいつかそういう経験するのかな」
しんみりと語るユウカの様子がやけに寂しそうで、何かを察したヒナとカズサは流石に巫山戯るタイミングではないと空気を読んで黙って景色を見渡すことにする。
一方、遠くを見つめるようなユウカの目をじっと眺めていたアリスは、少し言葉に迷うように目を閉じると、意を決した用に言葉を投げかけた。
「ノア先輩…という人は、良い人でしたか?」
「…ええ。優しくて他人想いな私の親友よ。きっと、あなた達の事も可愛がってくれると思うわ」
「そうですか…素敵な人なんですね!」
「…ありがとう、アリスちゃん。それと、ヒナちゃんとカズサちゃんもよく聞いておきなさい。特異現象捜査部として活動するなら後悔の無い終わりなんて訪れないわ。だけどね、私が…私達”先輩”がいる限り、あなた達に後悔ある終わりなんてさせてあげないんだから!もしその時があるとしたら…それは、私達の後よ」
「それは…素直に喜んで良いんでしょうか…?」
アリス達に笑みと精一杯のエールを返したユウカは、大きく伸びをして深呼吸するとパンッとしんみりした空気を吹き飛ばすように手を叩いた。
「さ、そろそろ帰るわよ!流石に歩き疲れたでしょうし、帰りはアヤネちゃんに車運転してきて貰ってるから。そのままついでに約束のご飯に行きましょう!」
「ユウカ先輩もユウカ先輩でアヤネさん酷使し過ぎじゃないですか?」
「あの人便利アイテムみたいになってんじゃん」
「なんならアヤネさんの特異現象捜査部でのヒエラルキーレンゲ先輩達より低いまであるわよ。先輩達もたまにパシリにしてるし」
「かわいそ…」
「ホシノ先輩もそうだけど、ここでは何でも出来ると酷使される運命にあるのよ。芸は身を助くとは言うけど、それを利用されて身を滅ぼすことになるのが現実よ」
「嫌な現実だぁ…」
未来へのエールを貰った矢先に嫌な将来を示唆されて微妙な表情を浮かべる一同。
そんな後輩達に向けてユウカはカラッと笑うと、当然だとでも言うように告げた。
「そりゃあ───特異現象捜査部は、クソだからね」
「ユウカ先輩!せっかくですしこの後皆でゲームしましょうよ!」
「え?で、でも…」
「良いじゃない。色々頑張ってくれたみたいだけど、なんだかんだ普段から尊敬してるのよ?」
「そうそう、それに今日のお礼もしたいしね」
「そ、そこまで言うなら…騒ぎ過ぎないって約束するなら、良いわよ?」
「はい!では皆でやるゲームといえばの”キヴォトスブラザーズ”で決まりですね!」
零時に任務明けでS.C.H.A.L.Eに帰ってきたホシノは、寮長からの苦情を受けて生徒達の寮へと足を運んでいた。
この感じは何度目か、最早慣れたものだと自嘲しながら指定された部屋の扉を開けると────そこでは、あちこちの壁や天井に弾痕が刻まれ、隣の部屋や天井と直通する風穴が空いた酷く荒れた様子の室内が見えた。
少し中を見渡せばアリスとヒナ、カズサとユウカがくたびれた様子で部屋の中で倒れている。
「…何してんの?特殊部隊でも攻めてきた?」
「ち、違うのよ…ホシノ先輩…まさかアリスがレールガンを撃って来るとは思わなくて…」
「ユウカ先輩だって『うおぉぉ私が勝つ確率は100%なのよー!』って言いながら銃乱射してきたじゃないですか!」
「…アリスちゃん、ユウカちゃん。あとしれっと逃げようとしてるヒナちゃんとカズサちゃんも」
「「「「…」」」」
「───虚式『暁』」
「いやぁぁぁぁ!」
「うわーん!やっぱりいつものパターンです!」