ブルア廻戦   作:天翼project

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短編:子育ては大変

 

「元気な女の子が産まれましたよ〜!」

 

 

祝福するように告げる女医から、女性はおくるみに包まれた赤ん坊を大事に受け取ってそっと抱いた。

赤ん坊は元気に泣いており、女性はそれをあやしながら赤ん坊に意識を集中させた。

 

(…よし、神秘は一般人程度。内に封じてるKeyの機器部品(モジュール)の力は漏れてない…ひとまずは成功かな?)

 

女性の名は…厳密にはその肉体に巣食う存在の名は、マルクト。

太古の昔、名も無き神々の時代に生み出された『対絶対者自立分析システム』であるAI。

自律した思考と悪意を得たその存在は今の時代まで幾度となく肉体を乗り移り生き永らえ、そして今日とある計画が1つ前進したところだった。

その計画こそが───K()e()y()()()()()()()()()という、狂気の沙汰にしか思えないようなものだった。

 

(まあ色んな立場の人に乗り移る中で何度もそういうこともしたことあるし、それ自体は別にどうとも思わないけど…赤子にKeyの機器部品(モジュール)を取り込ませられるかは賭けだったから、これで失敗して奇形児でも産まれてきたら台無しだし久しぶりに緊張したよ)

 

Keyの器を作る為に予めKeyの力の欠片である機器部品(モジュール)を1つ赤子に埋め込む必要があるのだが、下手をすれば赤子どころかそれをお腹に入れるマルクト諸共死んでしまう。

故に慎重に慎重を重ね、今回の計画に至るまでに以前の身体で研究と実験を繰り返し、本番となる母体では儀式的に処理したKeyの機器部品(モジュール)を直接お腹の中の…成長段階の胎児に害のないように封じる事で事なきを得た。

 

胸に抱く赤ん坊はその内にKeyの機器部品(モジュール)が封じられているというのにそれが何か肉体に支障を与えている様子もなく、また機器部品(モジュール)の持つ特異で強大な神秘も完全に抑え込まれているため当分は特異現象捜査部に目をつけられる事も無いだろう。

 

(後は適当に育てて、時期を見計らって他の機器部品(モジュール)も取り込ませていけばKeyの器になれる筈。とはいえ赤子から真面目に育てるとなると意外と初めてだなぁ。知識だけはあるけど…ま、なんとかなるか)

 

 

そうしてKeyの器として産んだ赤子、名を”アリス”と名付けた赤ん坊を育てるマルクトの育児の日々が始まるのだが…

 

 

 

 

 

 

 

「こら、アリス!ぺっしなさい、ぺっ!それは食べるものじゃないでしょ!」

「?」

 

ある日は家のテレビのリモコンの角を口に入れガジガジと齧り、涎だらけにし…

 

 

 

 

 

「あぅー」

「危なっ…!?ちょっ、大丈夫!?」

 

ある日はハイハイで随分と元気に走り回っているかと思えば棚に激突して置かれていたものが落下し、アリスに直撃する前になんとかキャッチし…

 

 

 

 

 

「あーう!」

「ウワァーーッ!?」

 

ある日は椅子の足を掴んだかと思えば片手で振り回して食器を洗っていたマルクトの後頭部目掛けて投げつけ、予想していなかった奇襲に前のめりになったマルクトは頭からシンクへと顔を突っ込む羽目になった。

 

 

 

 

 

 

「っもう!子供ってすっごい元気!!」

「んまんま」

 

アリスを抱きかかえあやしながら哺乳瓶でミルクを与えるマルクトは、想像以上に大変な育児というものに新鮮なストレスを感じて久しぶりに大声を上げていた。

事の張本人であるアリスは首を傾げながらも呑気にミルクを飲んでおり、何処吹く風だ。

 

(おかしい…絶対普通の赤子ってこんなアクティブじゃない。やっぱりKeyの機器部品(モジュール)の影響が出てる?神秘的には異常は見られないし肉体にも異変は無いはずなんだけどな…)

 

明らかに赤ん坊としては異常なパワーと俊敏性を持っているアリスに疑問が尽きないマルクトだったが、色々あって人体構造を知り尽くしそれを検査する術も身につけている自身をもってしてもその力の詳細を測れないことからこの件に関しては匙を投げ、とにかく注意を払いつつ育てていくことを決める。

 

「まー?」

「はぁ…赤子ってのは呑気だねぇ。情操教育どころじゃないから人を見る目なんてものもありゃしない。自分で言うのもなんだけど私なんかを親だと思うなんて物好きとしか思えないね」

 

自虐を交えつつ、今はまだ無垢なアリスをこれからどういった方針で育てていこうかマルクトは頭を悩ませる。

Keyの器として利用するなら洗脳教育でKeyに身を捧げることを使命として背負わせ、使い勝手のいい手駒にするのが妥当なところだろう。

間者として特異現象捜査部に内通させるのも良いかもしれない。

ただそれをするのにも少し問題があるのだが…

 

(…クズノハの巫女との同化まであと10年も残ってない。それまでにはまた別の肉体を探してそっちに移って準備を始めないと行けないから、アリスを育てるのにも私にはあと数年しか時間がない。夫は暗示をかけて私がこの肉体を乗っ取ってることをバレないようにしてるけど、足がつくといけないから始末する必要もある。そうなるといよいよアリスを育てる人が居なくなっちゃうし…司祭にでも預けようかな?)

 

マルクトの計画を成就させるには数年後に控えているクズノハと巫女の同化を妨害し、その時必ず立ちはだかるであろう『ウジャトの目』の持ち主を打ち破らなければいけない。

今までマルクトは何度も『ウジャトの目』によって阻まれ、クズノハの同化を止められないでいる。

今回こそは成功させると意気込み、気合いを入れて産んだのがアリスである為いざとなればこれも利用することになるだろう。

とはいえやはり相応の仕込みや準備が必要になり、その為にアリスの元を離れなければいけないためその間に誰に子育ての代わりを任せるのかという話になる。

幼稚園等に通わせれば…その異質な力が悪目立ちし、最悪特異現象捜査部の目に着いてしまうだろう。

ならば信頼出来る身内に託すのが1番だと思われるが…

 

(司祭は良くも悪くもKey一筋。Keyの器なら丁重に育ててくれるだろうけど、完全に目的が一致してない以上私にとって都合のいい教育をしてくれるとは限らない。なんなら司祭には嫌われてる方だと思うし、私を裏切るように唆してたらかなり面倒なことになる…う〜ん、子育てって難しい…)

 

「…取り敢えず、相談するだけしてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー最近の子供って元気が有り余ってるよねぇ。お母さん嬉しくて嬉しくて、お腹を痛めて産んだ甲斐があるよ」

「気色悪い話をするな馬鹿」

 

ベビーベッドに寝かせたアリスを横目に、部屋に招いた司祭にそう零すマルクト。

内情が内情だけにほのぼの出来る訳もなく気色悪いと吐き捨てた司祭は、すやすやと眠るアリスの頬をぷにぷにと壊れ物を扱うように突っついた。

 

「…これは、大丈夫なのだろうな?王女の器とする以上、不健全で不摂生な器など許されん。清く美しく可愛らしく育てるのだぞ」

「若干私情混ざってない?」

「戯れ言を言うな。良いか?美容には気を遣わせ、栄養のあるものを食べさせ、シャンプーやボディソープは高級なものを使わせろ。よく分からないのなら私が見繕ってやる。王女が使うのに相応しい美しい器にするのだ。絶対に髪は伸ばさせろよ!王女は超ロングヘアが最も似合うのだ!」

「ねぇやっぱりちょっと私情混ざってるよね?」

 

色々相談するために呼び出したというのに実際にアリスを見て半ば暴走しかける司祭。

適当に宥めて落ち着かせつつ、本題としてこれからどういう方針でアリスを育て利用するのかという話になったのだが…

 

「…何でもいいのではないか?」

「うん?」

「先程私が言ったことを守りつつ傷物にならないようにしてくれるのであれば私から言うことは無い」

「ふぅん、意外だね。司祭ならもっと厳しく言ってくるかと思ってたんだけど」

「まあ強いていえば、王女の器とするのならあまり束縛して精神に負担をかけないようにした方がいいというぐらいか?精神が摩耗してる状態では王女を完全に受肉させた時に精神が崩れ、それに釣られてヘイローも砕けてしまう可能性がある。”浴”をして器の強度を底上げするのも手だが、神秘に馴染んでいない内にしても毒にしかならんしな」

「そっか…神秘に馴染ませる…でも今アリスに封じてる機器部品(モジュール)が肉体に完全に癒着して器として完成するのを待ってる段階だから、今神秘に触れさせると支障が出るかもしれないんだよなぁ。でも完全に器として完成する頃には私は別の身体に行かないと行けないし…ねえ、司祭が代わりに育てない?Keyの子守りもしてたんだし慣れてるでしょ?」

「子守りでは無い!王女は生まれた頃から成熟しておったわ!それに私とてやらねばならぬことがある。時々様子を見るぐらいなら構わないが、付きっきりという訳にもいくまい」

「う〜ん、なら大人しくここは時期を見て施設にでも預けるか…いや、この肉体の親族に預ければ良いのかな?事故死したことにしとけば引き取ってくれるだろうし」

「まったく…とにかく、王女の器とするならば細心の注意を払え!良いな!?」

 

そう忠告した司祭はアリスの頭を撫で、一瞬穏やかに笑い…実際その目が見据えているのはアリスの中のKeyの機器部品(モジュール)だろうが…満足したのかさっさとここを去ってしまった。

残されたマルクトは肩を竦めていると、突如アリスが泣き始めて慌てて抱き上げる。

 

「ほらよしよし、お腹減ったの?ちょっと待っててね〜」

 

ミルクを用意し、哺乳瓶からアリスに与えると落ち着いたのか静かにミルクを飲み始めた。

赤ん坊の世話とはなんと面倒だろうと感じつつも、すっかり母親としての生活が板に付いてしまったと自分が迷走していることを自覚しつつも、やはりマルクトは自分の目的の為に止まる気はさらさらない。

 

(全ては”面白い”ものを見る為に。そう思えば、この経験も中々面白いと言えるね。せっかくなら本当に親として一から子供を大人まで育てるなんて言うのもアリかもしれないけど、今回はまあ色々特殊だし最終的には使い潰す予定なのが残念だなぁ。それはまたの機会に…と言いたいところだけど、計画が成功したらキヴォトスも崩壊するだろうしどうしたものか…外の世界だと神秘が安定してないから肉体を乗り移るのにもリスクがあるし、もっと前に遊んでおけば良かったよ)

 

これまでも計画を進める合間に息抜き程度に家族ごっこをしたり恋人ごっこをしたりして来たが、自分で産んだ子を育てるというのはやはり初めてなわけで。

こんな面白そうなことを何故今までやってこなかったのだと自分に駄目出ししたマルクトはお腹いっぱいになったのかまたスヤスヤと眠ってしまったアリスをベッドに下ろし、その寝顔を眺める。

 

(…アリスを育てる方針、か。司祭もああ言ってたし洗脳教育は厳しいかな。手駒になるように忠誠心とか植え付けるにも手間だし…)

 

マルクトの手がアリスの頬をさらりと撫でていると、寝ぼけたアリスがその手の指を咥えてしゃぶり始めた。

なんとなく、そうされることに抵抗感もなくされるがままにしていたマルクトは、はぁ、とため息をつくとこの先のことを決めた。

 

「そうだね、アリス。君はこれから一時の平穏を過ごすといい。私は君を縛らないよ。時が来るまで自由に生きて、友達を作ったり面白おかしく過ごしたりして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───きっと訪れる地獄の前の、せめてもの甘い甘い平穏に浸るといい。それがお腹を痛めて産んだ君への、親としての情けだ」

 

歪な親愛をアリスへ向けたマルクトは、誰に見られることも無く不気味に笑うと、パッと人の良い母親の笑顔を作り今日もまたアリスの育児に四苦八苦するのだった。

 

 

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