ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ9話の範囲でお送りします


幼魚と逆罰

 

「うっ…」

「馬鹿の癖に刃向かってんじゃねーよ!」

 

頭と背中に計4枚の翼を持つ桃色髪の少女は三人の不良に囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けていた。

弄ぶように少女を嬲る不良達はその姿を無様だと大笑いし、暴行はエスカレートして行く。

 

何も、このキヴォトスではありきたりな日常だった。

その耐久性故に多少の暴行を働いた所で大事になることはなく、故に他者を傷付ける事に対する罪悪感が薄い。

日頃から銃撃戦をしているような世界なのだから、それは常識として広がる普遍の認識。

しかし…暴行を受ければ、当然痛いのだ。

 

「オラ、財布出せや。トリニティのお嬢様なんだろ?それなりに持ってる筈だ」

(…私は、嫌いな人が死ぬボタンがあってもきっと押せない。だってその人は、私の事を嫌いと思ってないかもしれないから。でも…私を嫌いな人間が死ぬボタンがあったら、私はそれを押してしまうかもしれない)

 

その少女は、気弱だった。

しかし、やけにプライドは高く高圧的で…だからこそ、よく不良に目を付けられてこうしてイジメに合うことはザラだった。

それが、今の少女にとっての()()

逃げる事はプライドが許さず、今日も学校に通い、帰りにふと気が向いて映画館へと立ち寄った。

 

「あの…『桃色官能漫画家立志録』のチケットを1枚ください」

「はいよ」

 

気になっていた映画を見て日々のストレスを癒す。

それが最近の少女の数少ない至福の時間であり、自分が好む映画がマニアックなものだと自覚してるからこそ他の客が少ない為、穏やかで静かな一人の時間を楽しめる。

 

 

筈だった。

 

「おい、また変なの見んのかよwww」

「良いだろ?こういう馬鹿げたもんでもクソ映画だと思いながら見たら割と面白いぞ?」

「楽しみ方合ってんのかよそれwww」

 

雑音。

至福の孤独に割り込む異物。

自分以外に客がいなかった、故に静かに映画を鑑賞していた少女の平穏を招かれざる客が打ち破ってしまう。

 

(…最悪。映画も静かに聞けないの?煩い…内容が入って来ないじゃない…学生にもなってああいう輩がいることが信じらんない)

 

少女は、人は馬鹿な生き物だと思っていた。

当然自分はそれに含まれないと思っていた訳では無いが…それが真理だと気付いた自分は他の人より一歩先にいるのだと。

それを分かっている自分は凄いのだと。

そういった考え方が少女をつけ上がらせたのかもしれない。

結果として、他人を見下し、それが表に出てしまいまたイジメられる。

 

「ああ、そういやアイツ良い鴨だよな!弱っちい癖に金は持ってんの!流石トリニティのお嬢様だよな!」

「自分達だけ良い暮らししてアタシらには何のお恵みもナシなんて頭が高いったらありゃしねぇよなぁ」

「ハハッ、お前何様なんだよ!」

 

(だから煩い…もう黙って…!)

 

異物達が持っていたのであろう携帯が鳴る。

騒音は上映される映画の音声に被さり、さらに異物は遠慮すらない大声で通話を始めた。

 

(電源を切りなさいよ…!)

 

 

 

 

人の感情は、積もりに積もった怒りと憎悪は、人への害となって報いを与える。

 

ひょっこりと、小柄な少女が異物三人が座る後ろの席から顔を出した。

 

「あ?なんだテメー喧嘩売って───」

「…マナーは守ろうね?」

 

小柄なその少女は三人をひとまとめに抱きしめるように腕を回し…次の瞬間、その三人のヘイローがぐにゃりと歪むと、それに合わせて彼女達の頭部が変形し、耳を劈くような絶叫を周囲に撒き散らしながらその場で絶命した。

三人を…どのような方法であるかは検討がつかないが…殺した小柄な少女はそれで満足したのか映画館を出ていく。

 

一連の出来事を目視していた少女は、その異様な光景に硬直し、全身から滝のように冷や汗を吹き出させていた。

しかし、その悪魔のような少女に何かを感じ取り、映画の途中ではあるが鑑賞を切り上げて映画館の外にまでその少女を追いかける。

 

(何あれ…何あれ…!さっきの子…?あの子があれをやったの!?一体何がどうなって…!)

 

視界の端に映った少女の靡く髪を追い、路地裏に入って道なりに沿って掛けていくと…そこでは少女が待ち構えていた。

 

「あ、あんた…映画、館の…あんたが、やったの…?」

「…へぇ、よく追ってきたね。君〜…私が怖くないの?」

「こ、怖くなんか、ないわよ!あんたなんか…」

「本当に?」

「…!」

 

誰が見ても強がりだと分かるその態度に、小柄な少女ムツキは目の前まで近付くと、改めてその本心を聞く。

問われた桃色髪の少女…コハルはムツキから感じる常人では絶対に出せないような恐怖…死の予感を間近に浴びて腰が抜けそうになった。

それでも、コハル自身のプライドにかけてそれを堪え、強がることをやめない。

 

「怖くなんかないったら、ないんだから…!」

「…ふぅん?まあ良いや。君の質問に答えてなかったね。答えるのは良いんだけどさ…それで?やったのが私ならどうするの?責める?あの子達は…君にとって特別だった?」

「それは…」

 

 

 

『おいおい泣いてんのかー?』

『良い学校通って良い生活して、普段からアタシらをパカにしてんのはお前の方だろうがよ!』

『オメェはこれからずっとアタシらに金貢ぐだけの鴨なんだよ!調子に乗んじゃねぇ!』

『…っ!』

 

痛い、痛い。

私が何をしたというのか。

人と打ち解けるのは苦手だった、つい高圧的に出て人を困惑させてしまうことだってあった。

だが誰かに迷惑を掛けたことは無い。

友達だっていた、気にかけてくれる優しい先輩だっていた。

 

なんで、私がこんな目に合わなきゃ行けないのだろうか。

 

 

 

 

 

小さな黄金の精神は、この時その翼を堕とす。

 

 

 

 

「私にも…同じことが出来る?」

「…くふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん!これ以上前に出ないでください!」

「被害者は学生と思われる生徒三名、学生証は持っておらず、顔の判別が困難な為身元の特定に難航中。現在行方不明者を洗っています」

 

問題の事件があった映画館はヴァルキューレ警察学校が主導となって現在封鎖されていた。

見物に来た野次馬やクロノスの報道部の侵入を規制していたワルキューレ生達だったが、混乱が起きていたのは彼女達の方でも同様、特に現状を看過出来ない生徒の一人が上官に声を荒らげる。

 

「どうしてあんな関係の無い生徒を鑑識よりも先に現場上げるんですか!?指揮系統どうなってるんですか!」

「私も詳しくは知らん。だがお前も仏さんは見たろ?あれは私達の常識の範疇を遥かに超えてる。見て見ぬふりしとけ、この仕事で無事卒業したいならな」

 

 

 

 

「見えるかしら?これが神秘の”痕跡”よ」

「…何も見えませんが…」

「いいえ、それは見ようとしてないからよ」

 

映画館に乗り込み現場を検分するのはアリス、そしてもう一人青色の髪をツインテールにした少女…早瀬ユウカ。

彼女はアリスの頭に手を置いて神秘の”痕跡”があるという場所を向かせる。

 

「私達は普段当たり前みたいに秘儀や神秘を使ってると思うけど、そうするとその跡が残るものなのよ。それが”痕跡”。だけど痕跡は特異体と比べても薄いものだから、目をよく凝らさないと見えないの」

「んん…あ!見えました!足跡のようなものが!」

「当然よ、見る前に気配で悟れれば一人前ね」

「うぅ…ユウカが手厳しいです…」

「そ、そんな上目遣いで見られても褒めも貶しもしないわよ!事実に即して自分を律するだけ、それが私のやり方なんだから。会計の仕事も同じようなものだって勘違いしてた時期もあったけど、まあその話はいいでしょう。行くわよ」

「は、はい」

「…あまり気負いすぎないようにね」

 

アリスの潤んだ瞳に一瞬惑わされるユウカだったが、心を鬼にしてバッサリと切り捨て、奥へと進んで行く。

それを追い掛けるアリスは打てど響かない…本人は若干揺らぎかけているが…ユウカに少し不満そうに頬を膨らませる。

仲間…パーティメンバーとの交流を大事にしたいアリスにとっては話しづらい相手というのは大問題だった。

 

(それにしても、まさかユウカが元々特異現象捜査部に所属していたとは……)

 

中々噛み合わないユウカを相手に四苦八苦するアリスは、少し前の事を思い返す。

 

 

 

 

 

 

 

「今回おじさんは引率出来ないからさ〜、代わりを呼んでおいたよ。安心して、信用できる後輩だから」

 

そう言ってホシノは部屋の扉を開けると、そこから出てきた少女の肩にフレンドリーに腕を回した。

 

「公務員をドロップアウトしてきた早瀬ユウカちゃんで〜す!」

「ドロップしてないから、辞めただけだから…って、アリスちゃん!?」

「太もも先輩!?」

「あれ?知り合いだった?」

 

その人物…太ももが太いことでアリスがよくオカ研の仲間と共にネタにしたり、騒ぐアリス達によく苦情を入れに来ていたミレニアムの会計。

度々世話になった人とこうして再会したことにアリス、そしてユウカも驚きを隠せなかった。

 

「ちょっと!聞いてないわよ!なんでアリスちゃんがいるの!?」

「むしろ聞いてなかったの?まあS.C.H.A.L.Eの外だと連邦生徒会と百鬼夜行支部、後は各支部の部長ぐらいにしかアリスちゃんの情報は公開されてないし、つい最近まで特異現象捜査部を辞めてたユウカちゃんが知らないのも無理はないかな〜」

「いや、噂にはKeyの器の話は聞いてたけど…まさかアリスちゃんだったなんて…突然いなくなったから心配したのよ?」

「えっと…その…すみませんでした」

 

安堵したような表情を浮かべたユウカはアリスの頭に手を置くと、よしよしと撫でる。

それを面映ゆく思ったアリスは頭を振って手をどかしてもらうと、心配をかけた謝罪として頭を下げる。

 

「…良いわよ、アリスちゃんが無事なら…だけど、現場では甘やかさないわよ。それをよく踏まえて今回は私についてきなさい」

「はい!」

「ユウカちゃんは一応1級の資格を持っててさ、ミレニアムの会計をしてたぐらいだからちゃんとしてるんだ。存分に頼ると良いよ」

「…それ他の人に言ったらキレられると思いますよホシノ先輩。まったく…」

「あ、太もも先輩は…」

「ユウカ先輩」

「…ユウカはミレニアムの会計に就く前にも特異現象捜査部に所属していたんですか?」

「先輩を付けなさいよ…はぁ、もういいわ」

 

ユウカからな訂正に抵抗しつつ、アリスは先程から疑問に感じていた事を聞く。

アリスからの呼び方を諦めたユウカはため息混じりにそれに答える。

 

「私が以前S.C.H.A.L.Eで仕事してた時に学んだ事は、特異現象捜査部はクソって事よ」

「えぇ!?」

「そして事務仕事はもっとクソよ」

「ユウカちゃんも暗いね〜」

 

迫真の表情から放たれた普段の性格からは考えられない暴言にアリスは面食らう。

茶化すホシノを睨みつつ、ユウカはまたアリスの頭に手を置いた。

 

「同じクソなら適性がある方を…出戻った理由なんてそんなものよ。アリスちゃんにだって選択肢はあって然るべきよ」

「むぅ…何故ユウカは一々アリスを撫でたがるのですか…」

「さあ、ね。それは良いとしてアリスちゃん。私とホシノ先輩は同じ考えだなんて思わないでちょうだい。私はホシノ先輩を信用してるし信頼してるわ」

「フフン」

「うわーん!そのドヤ顔ウザイです!」

「けど尊敬はしてないわ」

「は?」

 

コントの様な流れの中、割と本気でドスの効いた声を上げたホシノを無視してユウカはアリス達に背を向けると、手で『着いてこい』と合図をして外へと向かう。

ホシノを残し慌てて追い掛けるアリスに、ユウカは囁くように声をかけた。

 

「アリスちゃん。私はね、アリスちゃんとしては貴女のことを尊重したいと思ってるわ。けれど、これでも私は規定側。”Keyの器”を、まだ特異現象捜査部の生徒としては認めてない。Keyという爆弾を抱えていても自分は有用だと示してみなさい。私は”アリスちゃん”も”Keyの器”も特別視しないから」

「…アリスが弱くて役立たずというのは、ここ最近嫌という程思い知らされています。ですが、アリスは強くなります。そうでなければ、生き方も選べませんから…絶対に認めさせてみせますから、もう少し待っていてください!」

「…ふふっ、いつかそれを私じゃなくて上に言えるようになるといいわね」

 

以前ミレニアムに在籍していた時とは人が違った様な、固い決意が籠ったその目に、ユウカは思わず笑みを零す。

決意新たに、激励を受けて、新たな仲間と共にアリスは任務(クエスト)へと臨んだ。

 

 

 

 

そんな回想をしながら痕跡を辿り映画館の外まで犯人を追うユウカの手伝いをしていたアリスは、話の中で現場にいたという人物の事を聞き足を止める。

 

「監視カメラには少女が()()だけ映っていた、ですか?」

「ええ、被害者以外はその子だけよ」

「では犯人は…特異体でしょうか?」

「おそらくね。あの子がやったったいう可能性も無くはないけど、そっちの身元の特定はヴァルキューレの領分…」

 

ふと、話を途切れさせユウカが足を止める。

何事かと首を傾げるアリスだったが、直後に感じた悪寒にその正体を察した。

 

「っ!」

 

気配の方に振り向くと、おおよそ人とかけ離れた異形。

建物の陰からアリス達を覗き、瞳をギラギラと輝かせている。

勿論強い敵意と殺意を持って歩み寄ってくるそれにアリスはレールガンを構えるが、それを手で制したユウカがアリスの前に立った。

 

「あれは私がやるわ。アリスちゃんはそっちを」

「!?もう一体…!」

 

続けて背後からの敵意にアリスは振り返り、ユウカと背中合わせになって戦闘体勢を取る。

そんなアリスの緊張を感じ取ったのかユウカはアリスの背中を小突いた。

 

「アリスちゃん、勝てないと思ったら言いなさいよ。直ぐに助けるから」

「…心配ありません、アリスは勇者なのですから!そう簡単には負けません!」

「心配とかそういう問題じゃないわ。私は先輩、貴女は後輩。私には自分より貴女を優先する義務があるの。格好ぐらい付けさせてよね」

「…子供扱いされるなら心配された方がマシです」

 

以前ミレニアムに在籍していた時とは確かに心意気は別人…しかし愛も変わらずま生意気な後輩に、ユウカは口元を綻ばせる。

そんな後輩に頼ってもらう為にユウカもまた気合いを入れる。

 

「貴女は幾つか死線を超えてきた…それは事実。けれど、それで成長したとは言えないわ。詳細不明の出費とか、積み重なる請求書に頭と胃を痛めさせる…そういう困難の積み重ねこそが、子供を成長させるのよ」

「うわーん!ミレニアムの会計の仕事の闇が見えて怖いです!」

 

先に言いたいことを言ったユウカはサブマシンガンを構えるとジリジリと距離を詰めてくる異形に弾丸の雨を叩き込む。

それを皮切りに二人を挟み撃ちにしていた異形が一気に駆け出してくる。

それぞれ異形の攻撃を避けると、唐突にユウカがアリスにもよく聞こえるような声量で話し始めた。

 

「私の秘儀、『分率算術』はどんな相手であろうと強制的に弱点を作り出す事が出来るわ。88%…対象の長さを線分した時、その位置にある点に攻撃を当てれば大ダメージを与えられる。格上でもそれなりのダメージになるし、格下なら一発の弾丸で絶命させることも出来る…聞いてる?アリスちゃん?」

「え?アリスに言ってたのですか?」

 

長々と説明していたユウカだったが、アリスは戦闘中ということもあり異形の攻撃を回避するのに集中していて半分程聞き流していた。

ホシノとの訓練の成果もあり着実に動きのキレを増しているアリスだが、今回の敵もそれなりに強力なのか、回避しきれなくなったアリスの脚が掴まれ、そのまま放り投げられてしまう。

ゴミステーションに突っ込んだアリスは異形の肥大化した腕による振り下ろしを避けると、ユウカの側まで撤退した。

 

「ふぅ…そういうのはアリスにも言って良いものなのですか?」

「バレても問題ない秘儀もあれば、問題の無い相手もいる。逆にブラフを混ぜて戦闘を有利に進める駆け引きに出来る材料にもなる。そして何より…自ら手の内を晒すっていう”不利”に対して、”対価”は自動的に払われる。この場合は秘儀の強化や神秘の出力の強化が主ね」

「契約がどうたら、という話でしたか?」

「ええ、よく知ってるわね」

「そうですね…」

(…この話は、誰に聞いたんでしたっけ?)

 

記憶には無いはずの知識。

しかし何故かユウカの話を聞いて思い起こしたそれに、アリスは内心戸惑った。

しかし異形はその隙を見逃してくれる訳もなく、二体の異形のうちの片方が今回の戦闘の中でも最高速でアリスとユウカへ突撃を行ってきた。

 

「この”対価”で得られる強化は馬鹿にできるものじゃないわ。人や秘儀にもよるけど…その強化率は最低でも1.2倍以上はある。だから私が使えばこんな風に…」

 

突っ込んでくる異形に対して冷静に照準を合わせたユウカは、微調整をして引き金を引く。

単発で放たれた弾丸は異形の───丁度長さ88%の点に直撃したことでユウカの秘儀によってその威力が強化される。

結果として…単発の威力が低い筈のサブマシンガンの弾丸一つ、それが何度も銃弾に耐えていた異形をあっさりと背後まで貫き、貫通部付近の肉は負荷に耐え兼ねて吹き飛んだ。

 

「私からは以上よ」

 

「凄い…」

 

命中精度を上げるなら取り回しの良いハンドガンやスナイパーライフルの方が良いのではとアリスは思ったが、数打てば当たる理論で秘儀の対象である点に当てやすい連射力高めのサブマシンガンを選んだのだろうか。

或いは…その気になれば、精度の悪いそれを狙って弱点に当て続ける事も出来るのだろうか。

 

「…アリスちゃん後ろに気を付けなさい」

「っ!?ぐっ…!」

 

ユウカに気を取られ、その間に肉薄してきた異形によってアリスは殴り飛ばされる。

咄嗟にレールガンを盾にした為事なきを得たが、伝搬した衝撃でアリスは腕が僅かに痺れていた。

 

「よそ見とは感心しないわね」

「話しかけてきたのはユウカの方ですよね!?うわっ…この!」

 

言い合う暇もなく襲いかかってくる異形の腕の薙ぎ払いをしゃがんで避けたアリスは、レールガンの銃身そのものの質量を存分に活かしたフルスイングを横っ腹に叩き込んで異形を後退させると、レールガンを構えてエネルギーをチャージする。

異形は全身を膨張させ巨大化すると、アリスを押し潰そうとその全質量を投げ出した。

 

 

 

 

『アリスちゃんさ〜、あのレールガンをメイン武器にしてるじゃん?』

『…?はい、そうですけど…』

『おじさんも運搬の為にあれ持ってみたんだけど、普通に超重いんだよね。あれ持って戦うなら私は神秘で強化して無理矢理アリスちゃんと同じぐらいの動きをすることは出来るけど、普通はあれを持ちながら機動力を保つのなんて無理。これは…秘儀が無いアリスちゃんにとっても強力な取り柄であり、武器だよ』

『それは…つまり…』

『今度知り合いのエンジニアを頼ってあれの威力を上げてみようか。頑強さと威力を同時に高めようとする分重量はさらに上がるだろうけど…元々の膂力に鍛えた神秘操作での肉体強化も出来るようになったアリスちゃんなら問題無いでしょ』

 

 

 

 

ホシノとの修行の中で得られた神秘操作による身体能力の強化、それを合わせる事で強化された分凄まじい重量があるレールガンを軽々と持ち上げられるパワー。

さらに、古聖堂地下での特級特異体に放った時のあの感覚をアリスは思い起こすと、自分だけの強みであるそれ…特性レールガン『光の剣』を思う存分に解き放つ。

 

 

「最大チャージ…光よ────!」

 

 

レールガンから放たれた極大のエネルギー、それにアリスの神秘が乗り…巨大化した異形の腹を突き破り、突き抜けたエネルギーは天にまで届いて雲にぽっかりと穴を開けた。

 

「…」

「…アリスちゃん、余程のことが無い限りそれで全力攻撃するの禁止ね」

「はい…」

 

(あの武器、あの大きさで威力とそれに耐えられる頑丈さを両立させるために内部はかなりミッチミチになってるはず…その分重量は果てしない筈だけれど…流石はホシノ先輩の推薦といったところかしら)

「ああ、トドメは私が刺しておくか、ら…」

 

人の少ない郊外にまで来ていたとはいえ、あの規模の攻撃は隠蔽が難しいとユウカは頭を抱える。

だが何はともあれ先程の一撃は異形に対する決定打となり、もう抵抗する余力のないその異形も時期に消滅するだろう。

とはいえ見逃す理由もないと確実に鎮めようとユウカは悶える異形に銃を向けて…何かに気が付いて動きをピタリと止める。

 

「…ユウカ?」

「アリスちゃん、トドメは待って」

「え?」

 

端末を取り出したユウカはカメラを起動し、それを異形はと向けて撮影する。

それからしばらく操作を行い…端末の画面をアリスへと見せてきた。

 

「見て、アリスちゃん。私はあれを撮影したわ」

「そ、そうですね。見てましたが…あれ?こういうものはカメラに映らないのでは…?」

「落ち着いて聞いてちょうだい、アリスちゃん。私達が戦っていた相手は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────生徒です』

 

端末の通話越しに、セナがそう告げた。

あの後異形は急行した特異現象捜査部の監督オペレーターによって回収され、その遺体をセナが解剖して導き出した答えがそれだった。

話を聞くアリスの表情は暗く、そして自己嫌悪を孕んでいる。

 

『いえ、元生徒と言えばよろしいでしょうか。映画館で見つかった三人の死体と同じような状態です。おそらく、秘儀で無理矢理形を変えられたのでしょう』

「それだけなら最初に気付けるわ!私達が戦った二人は特異体と同じような神秘を纏ってたのよ!?」

『そればかりは犯人に秘儀の事を聞かなければ分かりませんね。ですが、脳幹に弄られた形跡があります。おそらく意識障害、或いは錯乱を起こして他者を攻撃させる為にでしょう。脳まで弄れるのならば、神秘を扱えるように人を改造することが出来るかもしれません。脳と神秘の関係は未だブラックボックスですから』

 

その、あまりにも惨い事実にユウカは怒りを顕にし、アリスはやるせなさに、自分の罪悪感と無力感に打ちひしがれる。

そんなアリスを気遣ったのか、同じように声に怒りを滲ませていたセナは咳払いをして声を温和に戻した。

 

『…アリスさん、聞いていますか?』

「…はい」

『周辺の監視カメラで確認したところ、アリスさん達が向かった時点で既に彼女達のヘイローは確認できませんでした。彼女達の死因は身体を改造されたことによるショック死、アリスさんが殺した訳ではありません。あまり自分を責めないように』

 

「…はい」

 

 

セナとの通話を終了すると、直後にアリスは普段からは想像できないような形相を浮かべる。

 

「それでも、勇者なのに助けられませんでした…こんな事…許される筈がありません…!」

(…ああ、そう。ここで貴女が変わったのは、覚悟の差だけじゃなかったのね。元々優しい子だったし…人の為に、こんなにも怒ることが出来る)

「あの痕跡自体がおそらく罠だったんでしょうね。結果として私達は誘い込まれた。相当なやり手に違いないわ…アリスちゃん。ここからは気合いを入れて行きましょう。人を助ける為に、ね」

「…はい!絶対に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アウトローっていうのは、どうして産まれると思う?」

「…憧れ、とか?」

 

トリニティのどこかにある地下空間。

そこに潜んでいたのは、ハンモックに寝転がり1冊の本を読むムツキと、それを見上げながら質問に答えていたコハル。

 

「それもあるかもね。でもここで言うアウトローってのは心意気とかそういう話じゃないよ。基本はS.C.H.A.L.Eの設定、あいつらがアウトロー指定すればどんな善人でもアウトローってことになって指名手配されるの。分かる?」

「善悪を判別する機関って事?」

「そう。S.C.H.A.L.Eにとって都合が悪いこと、危険になりうる事、地位を脅かしかねないこと…そういうのが主にアウトローとして登録される。その本質は不明でも、取り敢えずアウトローに指定して排除してしまえば良いってのはあいつらの悪癖だと思わない?」

「そ、その人がどういう考えなのかも分からないのに…勝手に悪いものにして懲らしめるなんて、間違ってるに決まってるわ!」

「くふっ…君との会話はストレスがなくて助かるよ、コハルちゃん」

「い、いや…そんな…」

 

ムツキから送られる笑みと賛辞に、コハルは照れくさそうにモジモジと身じろいだ。

そんなコハルの目の前に降りたムツキは、コハルの顎を掴んでクイッと自分の方を向かせる。

 

「あっ…これ駄目…なんかエッチだから…」

「うん?あはは!コハルちゃんってば本当に面白いね!ムッツリさんなんだ〜」

「む、ムッツリなんかじゃ無いわよ!」

「ムッツリって言葉の知識がある時点で…まあいいや。人ってね、分からないものを恐怖するんだよ。例えばコハルちゃんの隣に顔も名前も知らない赤の他人がいたとする。コハルちゃんはその人と話せって言われて仲良くなれる自信はある?」

「はぁ?そ、そんなの無理に決まってるじゃない!余程趣味が合わないなら気まずくなって終わりよ!」

「だろうね。その気まずさは言い換えれば関わることへの恐怖ってことなんだよ。その人は自分に合わせて優しく接してくれるかもしれないのに、分からないから関われないと決めつけて退ける。これが無知の恐怖ってことなんだよ。アウトローっていうのの大半は、その無知の恐怖で定義付けられてるんだ」

「…じゃあ、ムツキは…ムツキも、よく知らなくて怖いからって、アウトローって…悪者って決め付けられてるの?」

 

コハルからの質問に…ムツキは年相応に無邪気に笑った。

 

「いいや、私達は自分で()()()()()の!確かに、アウトローっていうのは普通に悪いやつも居るし、ただの不良やスケバンとは比較出来ない、神秘絡みの悪党だからこそそう定義される。けれど…無知に怯えて怖いものをアウトローに認定するような連中の前に、突然自分からアウトローを名乗るような連中が現れたら────それって一体どれ程怖いんだろうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ最近の行方不明者、変死者、確認されている痕跡の報告をまとめました。これである程度犯人の根城を絞れるかと思います」

「はい!では乗り込みましょう!」

「いや絞れてるだけでまだ見つかってるわけじゃないから落ち着きなさいアリスちゃん」

 

トリニティの僻地に存在する廃墟を使い、資料を広げて話し合いをするアリスとユウカ、そして監督オペレーターのアヤネ。

アヤネはユウカの要請により二人の補助の為に駆けつけていた。

 

「私は捜査を続けるけど、その間アリスちゃんには別の仕事をやってもらいたいの」

「別の仕事、ですか?」

「ええ、例の映画館に事件と同時刻にいたトリニティの生徒、1学年の下江コハル。被害者の身元が上がったのだけれど、彼女は近隣の目撃情報によるとその被害者と一緒にいる姿が何度か目撃されているそうよ。監視カメラと佇まいからしてアウトローの可能性は低いと思うけど、被害者と関係があるなら調べない訳にはいかないしね」

「…あうとろー、とは何ですか?」

「神秘を使って悪事を働く悪質な連中のことよ。手順はアヤネちゃんに任せてあるから、二人で協力して下江コハルの調査をお願い」

「「はい!」」

 

敬礼のポーズで了承した二人は談笑しながら部屋を出る。

そういえばと、アリスはアヤネの顔をジロジロと見た。

 

「な、何ですか?」

「アリス、アヤネさん以外の監督オペレーターを知らない気がします!」

「ああ、アリスさんが生きてるってことを知ってるのは監督オペレーターの中では私だけですからね…他の方をアリスさんに付かせるわけには行かないとホシノ先輩が」

「なるほど」

「…あ〜、アリスさん。忘れ物を取りに行ってきますので、アリスさんは外の車に乗って待っててください」

「?分かりました」

 

アリスにそう断って先程の部屋に戻るアヤネは、出立の準備を整えていたユウカに耳打ちをする。

 

「かんぺき〜…何よ?」

「いえ、その…もう分かってますよね?犯人の居場所…」

「…勿論よ。その気になれば犯人は痕跡を消すことなんて簡単なはず。なのに堂々と残されてるってことは…間違いなくまた誘い込まれてる。私が単身乗り込むリスクと、アリスちゃんを連れていくリスク、その前者を選んだだけ。あの子は私の後輩だからね」

「…」

 

 

「ユウカ!」

「きゃあ!?」

「…ねえやっぱり先輩って付けてくれないかしらアリスちゃん。あとアヤネちゃんにごめんなさいしましょうね」

 

ユウカの覚悟に暗い空気が流れていた中、アリスが勢いよく部屋の扉を開け、扉の前にいたアヤネを突き飛ばしながら入室してくる。

ユウカの突っ込みも無視してアリスはユウカの手を取って握ると、じっと目を合わせる。

 

「えっと…アリスちゃん?」

「ユウカ…気を付けてくださいね!」

「!」

「あ、アヤネさんすみませんでした!さあ行きましょう!探索クエストです!」

 

それだけ言うと、アリスはまた部屋を出て行ってしまう。

アヤネはユウカに会釈して後を追い掛け、部屋にはユウカだけが残った。

 

「…ふふっ、本当に…可愛い後輩だわ」

 




配役
順平…コハル
七海…ユウカ
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