報告:昨晩未明、D.U.港地区にて特異現象捜査部による大量の口伝特異体ペロロミニオンの掃討作戦中、突如として出現した超大型の特異体───後に”特級口伝特異体 ペロロジラ”と命名
上陸を試みるペロロジラの阻止に現場にいた特異現象捜査部の生徒が当たったものの、ペロロジラはこれを難無く打破。
ペロロジラの上陸を許し、現在D.U.内陸部へと進行中。
ペロロジラの進路にはD.U.中央区及びサンクトゥムタワーが存在し、早急な対処が求められる。
既にペロロジラの進路周辺区域には避難警報と連邦生徒会並びにヴァルキューレ警察学校による誘導が行われている。
先日から特異現象捜査部を賑わせているペロロミニオンの騒動をまとめた資料に目を通す特異現象捜査部部長である明星ヒマリは眉間に皺を寄せ、コーヒーを煽って眠気を誤魔化す。
現在連邦生徒会の所有する無人ヘリが騒動の中心である特級口伝特異体、ペロロジラを撮影しリアルタイムでその映像を繋いでいるが、その映像は事情を知らない者が見れば映画だと思ってもおかしくは無いだろう。
海中から身体の上部を出していただけで裕に200mを超える巨体を誇るペロロジラだったが、いざ上陸し全身を露わにして見れば300m強の体長があり、さらにペロロジラは空に孔を開きそこから自身の兵隊である無数のペロロミニオンを召喚。
軽く万は超えるペロロミニオンの大軍を自らの背後に引き連れ進軍を続けている。
ペロロミニオンが召喚される孔を閉じる方法は判明しているが、孔を閉じてもペロロジラが直ぐに新しい孔を作る為にイタチごっことなり、どうやら一度に一つまでしか孔を開けないのは不幸中の幸いと言ったところか。
「現場にいた皆さんが接敵したそうですがまるで相手にならなかったと…どうすれば止められると思います?」
「…小鳥遊ホシノでもぶつければいいんじゃないかしら?」
ヒマリが呼びかけたのは、先日から合議の為にS.C.H.A.L.E本部に居合わせていた百鬼夜行四分部長の調月リオだ。
リオは複数のモニターと向き合い素早いタイピングで各所と連絡を取り指示を出しながら、ヒマリからの質問に不機嫌気味に答えた。
「残念ながらホシノは今キヴォトスの外に流出してしまったという特級遺物の回収の為数日前から空けているので暫くは呼び戻せませんよ」
「肝心な時に居ないわね…砂狼クロコは?」
「半年も前からホシノが推薦した出張先でインターン活動を行っているのでこちらも直ぐには帰れませんね」
「言っておくけれど特級以外であれを武力で鎮められるとは思えないわよ」
「それは同意見です。ですので、そちらが何か虎の子でも用意していないかと」
「…ペロロジラがD.U.中央区に侵入までの猶予は?」
「ざっと今から19時間程…明日の深夜1時頃になるでしょうか」
「準備時間も戦力もギリギリね…連邦生徒会の方で安置されている遺物の中に埃を被った骨董品があったはずよ。起動実験をしている暇は無いから、急拵えになるわ。そっちのエンジニアと監督オペレーターを貸しなさい。連邦生徒会には私から話を通しておくわ」
「ではそうしましょう。作戦概要を資料にまとめて用意しておいて下さい。私は現場の指揮を手伝いに行きます」
「まったく…つくづくここ数年はイベントに事欠かないわね」
「良い事も悪い事も、ですか?」
「…悪い事オンリーよ」
そう言って執務室を後にするリオを見送ったヒマリは、間に合わないだろうとは思いつつも一応ホシノやクロコにメッセージを送りつつ、再び無人ヘリが中継するペロロジラの映像へと目を向ける。
足止めの為の無人戦闘ヘリが何機か威力偵察も兼ねて攻撃を仕掛けているが通常の対特異体兵器ではペロロジラの巨体に対してはあまりにも打撃力が不足しており、ペロロジラは意にも介さず代わりにその後ろに付き従うペロロミニオン達が目から光弾の弾幕を張って戦闘ヘリを撃墜している。
「さて、リオはどんなトンデモ兵器を用意してくるつもりでしょうか?」
D.U.に点在する特異現象捜査部の小支部。
その1つに臨時で急造された特級口伝特異体ペロロジラ対策本部にて。
港地区でペロロジラの迎撃に当たったアリス達はまるで歯が立たず蹴散らされ、仕方なく避難誘導を進めながらここまで退避してきていた。
病室のベッドで上半身を起こしたアリスは先程尋ねてきたアヤネから渡された資料に目を通し、隣のベッドで毛布に包まっているヒナの方を見る。
「ヒナ。リオ部長主導であの化け物」
「ペロロジラですよアリスちゃん!」
「…ペロロジラの迎撃作戦を行うそうです。人手が必要らしいですから休んだら手伝いに行きましょう」
反対側のベッドから訂正を入れてきたヒフミの方は見返すことなく言い直し、それを聞いたヒナはアリスの方を見やるとのっそりと起き上がって端末で今の時間を確認している。
時間は正午を周っており、ここに退避し治療を受けてからは随分とぐっすり眠っていたことを理解して舌打ちをする。
「チッ…カズサは?」
「さっきユウカ先輩に昼食タカってました。アリス達も一旦ご飯にします?」
「…焦っても仕方ないでしょうしね。はぁ、あんな何時間も気持ち悪い化け物を何百と向き合い続けたせいで変な夢見たわ」
「なんで皆さんそんなペロロジラの見た目に辛辣なんですか!?」
「ヒフミも一緒に行きましょう!そういえばアズサはどうしてるんでしょうか」
「あぁ、アズサちゃんならペロロジラが現れた時にメカペロロ様のカメラで連写した後停止してましたよ。今頃昨晩撮影した写真データの整理と新しく活動用のメカペロロ様の準備をしているんじゃないでしょうか?」
「なるほど…やはりどうしても趣味が合わない人っているんですね!」
「だからなんでなんですか!?」
「ほらもう行くなら行くわよ」
病み上がりだと言うのに騒ぎ立てるアリスとヒフミに顔を顰めたヒナがさっさとベッドを降りて病室を後にし、置いていかれそうになった2人も慌ててその後を追いかけたのだった。
そうして対策本部の休憩所で軽く食事を済ませた3人はユウカに奢ってもらったらしいアイスを食べていたカズサと合流、直後にアヤネに呼ばれた為会議室へと向かうことになる。
会議室にはユウカやこの小支部に詰める生徒や監督オペレーター…そして特異現象捜査部の部長であるヒマリの姿もあった。
そのヒマリがスクリーンに資料を投影し、今回の作戦の概要を説明し始める。
「今回の作戦はリオが考案したものだと先に言っておきますが…まず知っての通り特異現象捜査部が現在用意出来るもので所属する生徒、保有する戦力にあのペロロジラの巨体に有効なダメージを与えられる攻撃手段はありません。単純に巨大、そしてそれに見合った途方もない神秘の総量。その耐久度は当然果てしないものだと予測されます。そこで、ペロロジラを鎮める為に随分と前に特異現象捜査部が回収し連邦生徒会管轄の保管庫に安置されていた古代遺物をりおが引っ張り出してきました。それを用いたリオが考案するペロロジラ撃滅作戦…それをリオは『カシマ作戦』と名付けました」
「リオ部長最近なんかアニメか映画でも見たのでしょうか?」
「最近忙しくて寝れてないらしいし頭おかしくなってるんじゃない?」
「露骨にリオ部長に擦り付けようとしてるのちょっと面白いのだけれど」
「アリス、カズサ、ヒナ。あなた達今回の件が片付いた後お話があるので忘れずに部長室に来てくださいね」
「静かにしてなさい馬鹿共」
話に水を差す1年トリオにユウカが拳骨を落として行き、アヤネがジェスチャーで代わりに平謝りしたところでヒマリはため息を吐いて話を戻す。
曰く作戦に使う古代遺物はかつてアビドス砂漠に埋没していた仮称『宇宙戦艦』に搭載されていた主砲らしい。
しかしこれを扱うには幾つも問題があるようで、
確認したところ起動自体は可能だが正常に作動するかはやってみないと分からないこと。
これを作動させるにはとてつもないエネルギーと極めて高度な演算装置による制御を必要とすること。
そしてそもそも本当にこれがペロロジラに有効なダメージを与えられるかの確証がないこと。
「作動実験を行っていられる猶予は無いので起動はぶっつけ本番となりますが、作戦中リアルタイムで整備を進めるので少しでも成功率を上げられるよう善処するつもりです。2つ目の問題は…演算装置についてはミレニアム自治区の『廃墟』、その奥地にかつてミレニアムの技術者達が作り上げたという街そのものに超大規模な量子コンピューターが埋め込まれた要塞都市『エリドゥ』に特異現象捜査部が有する最新鋭の解析機構を組み合わせれば十分な演算リソースを確保出来るでしょう。エネルギーは…キヴォトス全土、とまでは行かなくとも1つの自治区全体の電力を全て良し集約する必要があるでしょう。今回は避難のために住民を既にほぼ全員退去させているD.U.のものを使います。最後の問題に関しては…神様にでも祈りましょうか?」
「で、私達の役目は準備完了までペロロジラの進行を少しでも遅延させること、と。昨晩戦って見向きもされず突破されたのに何とかなると思う?」
「あれは消耗した後だったから…と言い訳するにも厳しいわね。純粋に火力が足りてなかったわけだし」
「まさかアリスのレールガンでも効かないとはね〜…あ、アリスが悪いって言ってるわけじゃないよ?」
「いえ、気を遣わせてすみません。あれ程大きい相手には特別な武器が無ければ通じないというのはゲームでもあるあるですので!例えば狩猟ゲームなら超大型モンスターには巨龍砲とかを撃ち込んで大ダメージを与えるものです」
「映画でもよくあるパターンじゃない?ほら、歩兵の火力が通じない敵の宇宙戦に誘導ミサイルを要請して叩き込んだり敵の母艦に爆弾積んだ船で突入して内側から爆発させたり」
「それこそアニメでも定番よね。防御が硬すぎる相手に超威力の決戦兵器のビームで貫くやつ」
作戦会議後、巨大な敵の倒し方についての談義をしながら移動していた3人。
ユウカは現場指揮の手伝いに、ヒフミは会議室に持ち込んでいたミニメカペロロという名の盗聴器で録音した会議の音声を出席出来なかったアズサに送信してくると別れている。
「もし、アリス。あなたは別のお仕事を頼みたいのですが良いですか?」
「うん?あれ、ヒマリ部長。なんでしょうか?」
と、そんな3人の元に車椅子で追いかけてきたヒマリが声を掛ける。
呼ばれたアリスはヒナとカズサに先に行くようアイコンタクトで促すと、ヒマリの元へと行き聞きの姿勢に入る。
普段ならもう少し巫山戯るところだが、いつになくヒマリが真剣な表情をしているために今回はアリスも真面目モードだ。
「ヒマリ部長、アリスのお仕事とは…」
「アリスにしか出来ないことですよ。
「!」
わざわざ自分を名指しして来たぐらいなのでなんとなく察していたアリスだが、それでもその名前を出されると否が応でも身体を強ばらせてしまう。
名も無き神々の王女───Key
アリスが特異現象捜査部に入ることになったきっかけであり、現在アリスの中に宿る遺物の主。
古聖堂での事件の際はその残酷性に翻弄され、トリニティでの事件の際は散々と嘲笑われたアリスにとっても忌むべき相手だ。
「Key…知っての通り超古代の存在である彼の者は極めて危険であり決して共存できる相手ではありませんが…現在急ピッチでエンジニア達が例の超古代遺物の整備を進めていますが、その最中どうやら起動する為には特定の工程を踏む必要があるようです」
「その工程というのが…」
「はい、Keyの神秘を遺物に込めることです。どうやらあの遺物…というよりそれが搭載されていた『宇宙戦艦』がKeyの所有物…とまでは行かなくともなんらかの関連のあるものだったのでしょう。起動にKeyの神秘を必要とする上、構造解析によると起動中常にその神秘を込め続ける必要がある可能性も示唆されています」
「それはつまり、遺物の制御はアリスがする、ということですか?」
「そうなりますね。勿論照準や出力の制御はこちらで行うのでアリスは指定された通りに狙って指定されたタイミングであれを発射するだけで構いません。それに、以前行った検査でアリスの神秘とKeyの神秘は出力の差はともかく性質そのものはほぼ同様の波長を持っていることが判明していますので、Keyに肉体を貸す必要もありません…ですが少なくともあなたに責任と負担の一部を任せる仕事ではあります。それでも宜しければ───」
「やります。やらせてください」
「…!」
ひとしきり説明し終えたヒマリは申し訳そうに…本来頼られるべき立場である自分達が重荷を背負わせてしまうことへの罪悪感を抱えながら頭を下げてアリスに頼み込むが、ヒマリの躊躇に反してアリスは何の迷いもなく食い気味にそれを承認した。
そのはっきりと前向きな声に頭を上げたヒマリは澄んだ強い意志の宿るアリスの目を見て、「本当に良いのですか?」などと聞くのは野暮なことだと悟る。
「…ありがとうございます。取り扱いマニュアルは後ほど用意しますので、取り敢えずイチカに遺物の場所まで案内してもらって下さい」
「分かりました!…ヒマリ部長はこの後どうするんでしょうか?」
「私は本部に詰めて現場指揮と…AMASを使えばペロロジラ足止めの多少の役に立つ、かもしれません。遺物の方に行ったらリオに指示を仰いでください。ヒナとカズサには私の方から話しておきます」
「はい!お気を付けて!」
話が終わると早速アリスは案内役をしてくれるらしいイチカを探しに駆けて行く。
アリスという特異現象捜査部の中でも特異な存在が、生と死に触れ過酷な経験をこの短期間に何度もしてきた少女があんなにも立派でまっすぐに成長していることにヒマリはしみじみとするも、ならばこそそんな後輩からの信頼を裏切らないよう、自らもより最善を尽くそうと車椅子を進めた。
「いやぁ、大変っすねアリスさん」
「確かに大変ですけど…この境遇が誰かを救う力になるのなら、この力で誰かを守れるのなら…これはきっと、アリスに与えられたチャンスなんです」
「…そっすか」
「それに、特別な力で自分だけが起動できる兵器というのはものすごくロマンがあります!それこそ勇者だけが抜ける聖剣みたいでカッコイイと思いません?」
「お、いいっすね。主人公っぽくて。でも主人公だけが使える特別な武器で言えばメジャーなのは剣っすけど、私は乗り物系が好きっすね。特別な血筋や資質を持った主人公が動かせる船とか飛空艇みたいな」
「確かにオープンワールド系やフィールド探索系のゲームでもたまにある設定ですね!」
イチカの運転する車で目的地に向かいながら二人で雑談すること小一時間。
到着したのはD.U.の外れにある植林地として用いられている山。
車から降りイチカに案内された先には大量の機材や装置、無数のケーブルが運び込まれており、その中でも目立つのは山中の開けた平地に設置されている巨大な大砲のように見える兵器だった。
古く表面には錆や汚れが見られるみすぼらしさのある外見ながらも、異様な存在感と神秘的な雰囲気を纏ったそれにアリスは不思議と強く惹き付けられる感覚を覚える。
「おや、来たねアリス」
「あ、ウタハ!エンジニアが整備していると聞きましたが…ウタハも来てたんですね!」
「勿論、これ程の古く精密な遺物の整備を行えるなんてエンジニア冥利に尽きるからね。それに殆ど理解出来るものでもないが内部構造や機関を見るだけでも私自身の作品の参考として学べることもあるものさ」
そこで出迎えたのはつなぎを着て端末を片手に何かしらのデータを見ていたらしい特異現象捜査部のエンジニアの1人…普段アリスが用いるレールガンの整備をしてくれている白石ウタハだった。
かなりのめり込んで作業をしていたのか紺色のつなぎは大きく汚れていたり煤けているが本人は気にすることもなく、爽やかにかいた汗を拭って遺物をレンチで軽くトントンと叩いた。
「それよりも聞いて欲しい、この遺物だが原理は分からないが特定の神秘に反応し、内側に溜め込んだエネルギーを何百倍にも膨れ上がらせ放出する機構があるようなんだ。起動さえ出来ればそれこそ夢のようなエネルギーの変換効率を叩き出せるまさにオーバーテクノロジーというものさ。使いようによっては今のキヴォトスにも大きな産業革命を…」
「その辺にしておきなさい。言っておくけどこの遺物の産業利用はしないわよ。ただでさえ連邦生徒会が封印しておくほどの厄物なんだから」
「リオ部長、こんにちは!」
「…ええ、こんにちはアリス。話はヒマリから聞いてるわね。この超古代遺物…仮称として私は『エキサイティング君』と名付けたけど」
「やめてくれないかリオ部長最高の遺物に最低な名前を付けるのは。これの仮称は我々が付けた『アンタレス』で決定したはずだ」
「…だってかっこいいじゃない『エキサイティング君』…」
「ダサいよ」
「すみませんリオ部長ダサいっす」
「…アリス」
「はい!ダサいです!」
「…名前なんてどうでもいいじゃない。これ、『アンタレス』の取り扱いマニュアルよ。とはいえアリスがするのは神秘を込めることと狙いの微調整だけだけど。準備が出来たら呼ぶからそれまでは神秘の回復に努めなさい。昨晩の戦いからまだ完全に回復し切ってないのでしょう?」
自らのセンスを指摘さら露骨に話題を逸らしたリオはウタハとイチカから冷たい視線を向けられながらもそれを無視してアリスに冊子を渡し、エンジニアや作業員の指揮に戻っていく。
「…私も整備に戻るよ。アリスは…まあ神秘の回復を待つだけだから、良ければ立ち会うかい?整備の様子を見てるだけでも本番の時のインスピレーションに何か役に立つかもしれない」
「…!よろしいのであれば喜んで!」
「…じゃあ私もアリスさんの付き添い頼まれてるんでご一緒するっすかね。あ、対策本部の方に何か連絡入れたければ言ってくれれば私がしておくっすよ。この辺今ちょっと特殊な結界が張られてるんでアリスさん達が使ってるような通常の端末じゃ電波が通らないんで、私が使ってるのじゃないと通信出来ないんすよ」
「なるほど。イチカも、ありがとうございます。では早速で悪いのですが、ヒナとカズサに───」
───ペロロジラ進行方向、正面右側
ペロロジラの足止め役の1人として駆り出されているヒナとカズサは適当なビルの屋上から望遠鏡で遥か遠方にいるその圧倒的に巨大な存在を観察していた。
「うっわぁ…相変わらずキモイなぁ」
「またヒフミに怒られるわよ…同感だけど」
「ほら〜」
焦点の合わない目をぐるげると回し、開いた嘴からだらしなく長い舌を垂らす体長300m越えの巨体。
その後ろに何万にも及ぶペロロミニオンが付き従い行進する様はホラーを通り越して最早シュールだ。
だが絵面の間抜けさとは裏腹に間違いなくそれが脅威的な災害であることは確かで、現にペロロジラが行進してきた背後は一部の隙間もなく、草の根も残らずに踏み潰されている。
もし避難が間に合っていなければどれだけの犠牲者が出ていたかは想像もつかないだろう。
現在も次々と出撃する対特異体兵装を搭載した無人ヘリや無人戦闘機が迎撃に当たっているが如何なる攻撃を受けても意に介さずペロロジラが少しでも歩速を緩めることはない。
代わりにペロロジラに付き従うペロロミニオン達の目からの光弾に撃ち落されている始末だ。
「う〜ん、あれを止める…意識を逸らすのも難しいよね?」
「急所でもあれば良いのだけどね。私の式神でもあれに通じる攻撃力があるのは…最悪の場合は…」
「…変なこと考えてたらアリスが悲しむよ?」
「本当に最悪の時にしかしないわよ」
「最悪の時はするんだ…はぁ。アリスは別の方いったらしいし…自分で言うのもなんだけど、なんだかんだ私達って3人でいる時が1番安定してるよねぇ」
「…否定はしないわ。あなた達が特異現象捜査部に来てからほんと退屈しないもの」
「うわ、ヒナがデレた」
「デレてないわよ!…うん?」
死地に向かう前の気安いやり取りの途中、カズサの言葉に顔を赤くして反論しようとしたヒナだったが、その時丁度端末にメッセージの着信が入り新しい指示でも来たのかと覗き込んでくるカズサと共に確認する。
しかしメッセージを開いてみれば差出人は…
『この件が終わったら、また皆で夜通しゲームパーティをしましょう!つい最近いつもやってる大乱闘ゲームの新作が出たところなんです!またボコボコにしますからねカズサ!』
メッセージの差出人は監督オペレーターのイチカだったが、内容は見慣れた文面であり、それを見たヒナとカズサは少し固まった後に苦笑し、苦々しく目を瞑り、頭を抱えた。
「アリス…なんでわざわざ死亡フラグ立ててきたのさ…あとなんで私を名指し…」
「あの子こういうネタ詳しい方でしょうが…絶対わざとよね…ったく。こうなったらヤケよ!私は絶対に生きて帰ってミレニアムで開店したっていうドッグカフェに行くんだから!」
「む、私だってまだトリニティの超レアなスイーツ、ミラクル5000をまだ食べれてないんだから死ねないから。よし、士気も高まったし勝ったも同然だね!…こんだけフラグ立てとけば自重で折れてくれるでしょ。後はなるようになるってね」
「そうね…そういえば足止め役に私達以外にも応援を呼ぶって聞いたけど…先輩方も来るのよね?大丈夫かしら」
「配置場所は違うだろうし乱戦になるだろうし、合流できれば良いかなくらいに思っとけば良いんじゃない?…それに応援っていうなら私が苦手な連中も来てるだろうし」
───ペロロジラ進行方向、正面左側
「アリスは遺物の起動役だってよ。仕方ないとはいえあんなチンチクリンに任せる大役じゃないよな?」
「デモ!」
「その分私達が全力を尽くすとしよう。作戦開始時刻は今から3時間後…24時からだ」
「まだ時間はあるな…今のうちに装備のメンテでもするか。どうせアタシたちじゃあのデカブツにどうこう出来ないんだから周りのチビ共の露払いがメインだろ?」
「プロレタリア」
「一応過剰火力な攻撃手段は用意した方が良い。いざとなればペロロジラ本体に少しでもダメージを与えられるようにな…私が言うのも複雑だがな」
「まあペロロだもんな。百鬼夜行支部の2年連中みたいにペロロを攻撃するのは心が傷んで…」
「いや別にペロロシリーズに愛着も思い入れも無いしむしろちょっとキモイと思っている」
「ねぇのかよ!」
「労働…」
ペロロジラ進行方向、正面 対策本部
「ふふ、どうやらまたシスターに試練が訪れているようね。これを期にきっとまたシスターは一段上のステージへと登れるでしょう。ならば!私もそれに見合った成長をするというのがシスターへの礼儀!」
「キキッ、まさか私達が殺そうとした相手がここまで重要な役割を持っていたとはなぁ!…やはりあの時見逃して正解だったという訳だ!」
「まんまと捌かれてたら癖によく言うわよ…」
「そう言うなフウカ、それより貴様は遊撃向きの秘儀を持っているんだ。過労の覚悟はしておいた方がいいんじゃないか?」
「なんでなのよ!」
「…はい、アズサちゃん。作戦の内容は伝えた通りで…え?とっておきを用意している?むしろこの時の為に作ったような…ですか?ムービー撮影の準備をしておいて欲しい?は、はい。あと色んなアングルからのペロロジラの撮影ですね!任せてください!」
「…また変なこと企んでるな貴様ら」
キヴォトス外、某所
「えー?ペロロジラ?デカ過ぎる?はぇぇ…まあ皆なら何とかなるでしょ…とは思うけど、まあ間に合えば良い程度に考えて急いでみるかな」
キヴォトス海、海域
「オー?端末を見つめてどうかシマシタかクロコサーン?」
「ん…D.U.の方が大変なことになってるらしい。最初に契約した期間より短くなっちゃうけど…久しぶりに帰ろうかな。戻ってすぐゆっくりレンゲ達と話す時間は無さそうだけど」
キヴォトス、某所
「んー?え、何ナギちゃん。久しぶりに掛けてきたと思ったら。特級案件?S.C.H.A.L.Eからの応援要請って…もう、しょうがないなぁ。うん?何?お茶?…はいはい、終わったらね。はぁ…珍しく強引だなぁ」
後編は1月5日に投稿予定です