ブルア廻戦   作:天翼project

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オリジナルストーリーの新章、始まります
(多分そこまで長くはない)


炎の剣
発芽


 

 

 

神である主は、見るからに好ましく、食べるのに良さそうなあらゆる木を地から生えさせ、園の中央には、命の木と善悪の知識の木を生えさせた。

 

 

『聖書協会共同訳聖書創世記2章9節』より───

 

 

 

 

 

 

 

文明圏より彼方に外れたキヴォトスの極地。

何人にも観測されない特異な神秘に覆われたその研究所の中で、淡い光が脈動していた。

幾つものケーブルや管が繋がれた培養槽のような装置の中で、()()は来たりし時を待って眠り続ける。

 

そして、そんな様子をうっとりとした表情で見つめる影が3つ。

 

 

「嗚呼、私達の()()()…もうすぐです…!」

「ほんっと長かったよね…!でも遂に…」

「えへへ…もうすぐ、会えるんですよね…!」

 

まるで主の生誕を心待ちにするかの如く彼女達は激しく高揚し、普段はそうそう表に出さないような喜びを確かに表現していた。

実際、彼女達が待ってきた時間は果てしなく長い。

その我慢と苦労がいよいよ報われるとなれば、それを喜ばずにいられようか。

 

もっとも、問題なのは彼女達が自分達の幸福しか勘定に入れていないということだが。

 

「恐ろしいKeyも、邪魔な小鳥遊ホシノも、ウザったいマルクトも消えた今もう私達を邪魔出来るものなどおりません」

「手伝ってくれた共同研究者のデカグラマトンさんまで消えてしまったのは誤算でしたけど…」

「お姉様が完成するならどうでも良くない?でも、マルクトか…あいつ昔っから私達にちょっかいかけてきて本当にウザかったけど、お姉様に相応しい(ボディ)を残してくれたのには感謝だね」

「正直あんな奴の(ボディ)にお姉様を入れなければいけないのは不満ですが…それ以外にお姉様を受け入れられるだけのスペックを持った(ボディ)などありませんし、仕方ありませんね。Keyのものなんて使えば逆に毒になりそうですし」

「それにしても、マルクトさんも勿体ないですよね…せっかく名も無き神々が作った完全にして究極の(ボディ)を『色んな事を体験してみたい』だなんて理由で簡単に破棄してしまうなんて…」

「まあ機械の身体じゃ出来ることに限りはあるだろうし身体的な成長とかも起こらないから研究者として不満なのはちょっと分かるかも?」

「私には理解不能ですね。最初期でありながら既に完全であり不変、究極であり不滅。それの何が悪いのやら…全てを与えられているのならそれで満足すれば良いというものを。まあ結果として私達の助けになっているのでどうでもいいことですが」

 

感傷に浸りながらそう雑談していた3人だったが、培養槽の中の()()が僅かに目を開いたのを察知すると慌てて何かの装置を操作して、培養槽内の液体の温度を下げた。

すると()()は微かに震え、再び目を完全に閉じた。

 

「…ふぅ、申し訳ありませんお姉様。ソフがくだらない話をしてしまったばかりに」

「私が悪いの!?」

「うぅ…まだ不便をかけてしまいますが…きっと直ぐに暖かくしますので、今はまだお休みしててください」

 

「さあさあ、これ以上お姉様をお待たせする訳にも行きませんし、早急に計画を進めてしまいましょう。このキヴォトスに生きとし生ける全ての者達に知らしめるのです───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───次は、私達の番だと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっはよーございまーす!」

 

特異現象捜査部、その本部に当たるD.U.にある校舎。

その教室に朝から元気な声が木霊する。

 

勢いよく扉を開け放ち笑顔で教室に突入してきたアリスに、既に着席していたヒナとカズサはジト目を向け、教壇に立つシュンはにっこりと微笑む。

パタパタと小走りで駆けながら自分の席に座ったアリスは何か違和感を感じたようにカズサの顔を覗き込み、その正体に気付くとぱぁっと笑顔になった。

 

「カズサ!眼帯が取れてますね!?目治ったんですか!?」

「いや、まあ…治ったって言うか精巧な義眼というか…いつものエンジニア連中とリオ部長の合作だってさ。あの人達すぐ変な機能付けようとするから危なっかしいんだよ?最終的になんとかビーム出る機能付けるのは食い止められたけど」

「えー、勿体なくないですか?せっかく付けてくれるんでしたら出しましょうよビーム」

「アンタは他人事だから面白がれるんでしょうが馬鹿アリス!」

 

「まあまあお二人共お喋りはそのぐらいにしてくださいね。さて…アリスさん。何か言うことは?」

「あ〜…誤魔化せませんでした?」

「はい、誤魔化せてませんでした。で、何か言うことは?」

「遅れて申し訳ありませんでしたっ!!」

 

「何やってるんだか…」

「はは…」

 

圧のある微笑みを向けてくるシュンに机の上に上がり渾身の土下座をするアリス。

ここまでの茶番を横から見守っていたヒナも思わず呆れ、付き合っていたカズサも苦笑する。

 

何を隠そう現在時刻は午前9時を回っており、特異現象捜査部における始業時間は午前8時半。

言うまでもなく遅刻である。

 

「まあ構いませんけど…なんで1回誤魔化そうとしたんですか…」

「いや、ワンチャンあるかなと…」

「なんでそこで賭けに出るのよ。別にこれまで遅刻もしたこと無いんだし1回くらい気楽にしなさいよ」

「初めて遅刻したからですよ!うわーん!それもこれも昨晩アリスのこといじめてきたヒナのせいです!」

「いやあなたが無理矢理ゲームに誘ってきたんでしょう!?」

「私が手術疲れでセナさんのところで寝込んでた時にあんたらだけ楽しそうに…」

「はっ!?ごめんなさいカズサ!次はカズサも誘いますから…」

「はいはい皆さん。もうそろそろ授業に戻りますから、アリスさんも早く準備してくださいね」

 

姦しい3人のやり取りを見かねたシュンが強制的に話題を中止させる。

まだ何か言いたげな3人だったが、普段温厚なシュンも何度も授業を妨害させてしまえば堪忍袋の緒が切れるのは当然のことであり、そしてその時の恐ろしさをレンゲやクロコから教え伝えられている3人は渋々大人しく注意に従って授業の用意をする。

 

 

 

Keyとの戦いから早3ヶ月。

マルクトが企てた大惨事によりキヴォトスは未曾有の危機を迎えたが、迎え撃った特異現象捜査部によりそれも打ち砕かれ、最大の脅威となったKeyもまた打ち倒された。

しかしキヴォトスに残された爪痕も大きく、未だに復興していない学園は数多く、最優先で復旧が進められたD.U.もまたインフラが殆ど機能していない。

それでも多くの人の献身によりかなり人が生活出来る環境が整ってきた方で、特に激しい戦場となった中央区から外れた郊外の方ではある程度人の賑わいが戻っているそうな。

 

そんな復興中のキヴォトスにおいても特異現象捜査部の仕事は忙しく、マルクトが解き放った1000万の特異体こそ鎮圧されたもののそれを除いてもキヴォトスに巣食う特異現象は幾らでも現れ続ける。

再生の希望に向かってまた歩み始めたキヴォトスの住民達を守るべく、特異現象捜査部の青春をめぐる戦いはまだまだ続くのだ。

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

多くの変化こそあれど結局やることはこれまでと変わらず、そしてアリス達の日常にもまた変わりは無い。

身近な変化と言えばKeyとの戦いでホシノが命を落としたことにより1年の担任にシュンが就いたことくらいだろうか。

 

そんな1日の授業──特異現象捜査部といえど生徒なので通常の勉強のみを行う日もある──を終えたアリス達は寮への下校中、殆どが溶け僅かに積もった雪を踏みしめながらこの先のことについて思いを馳せていた。

 

「…もう3月、ですか。アリスとカズサは変な時期に転入したから実感薄いですけど、もう卒業シーズンなんですね」

「といっても顔触れは変わらないと思うわよ?4年なんてほぼ遠征だから会ったこと無いでしょうし、アツコ先輩とノドカ先輩は例によって留年だし」

「じゃあレンゲ先輩達2年生組はあの人達と同学年になるわけだ…クロコ先輩なんか言ってた?」

「『ん、来年には私達のが先輩になる』だってさ」

「また留年すること前提なんだ…」

「アツコ先輩達卒業する気あるんでしょうかね…」

 

ヒナの若干似てるクロコの物真似に笑いを堪えながらも先輩達の進路に不安を覚えるアリスとカズサ。

実際それを本人に言えば余計なお世話だと言われるだろうことは想像にかたくなく、それにどうせそんな心配をしなくてもなんだかんだ上手く世渡りして自分達の地位を持つだろう人達だ。

 

そして卒業の話題があるならば同時にもう1つの話題も欠かせない。

 

「それで…いよいよアリス達が2年生になるんですよ!」

「いや〜、これで遂に私達も後輩をパシれるってわけだ」

「うわーん!カズサが先輩のダメな部分だけ学んでます!」

「自分の苦労を後輩に押し付けないの。嫌な先輩だって思われたくないでしょう?」

「これに関しては先輩達が悪くない?もっと言えばレンゲ先輩が悪くない?」

「アリスはパシリにされてもなんだかんだレンゲ先輩のことは頼りにしてますけどね」

「…アリスもアリスで困りものだけどね」

「あんたはもうちょっと断れるようになった方が良いよ」

「えぇ!?」

 

「しっかし後輩ねぇ…どんなのが来るのかはまだ聞いてないの?」

「フブキ先輩から来るとは聞かされてはいるけれど、何人来るとかそういうのはまだね。今年は素直で癖の少ない子が来てくれると良いんだけど…」

特異現象捜査部(ここ)に来る時点で一癖あるのは間違い無いでしょ」

「そもそもキヴォトスに癖のない奴が何人いるかって話になるんじゃないかしら」

「アリスは明るくて先輩(アリス)を頼ってくれる人が良いですね!頼りがいのある先輩達みたいになりたいので!」

「どうせ生意気なの来るよ〜?」

 

話題に事欠かない季節であるが故に会話は弾み、そうこうしている内に3人は寮へと到着する。

寮の玄関に入ってすぐにあるロビーでは寮長が掃除をしていたが、ことある事に寮を破壊するアリス達を苦手に思っている彼女はそそくさと自室へ戻っていってしまった。

 

「…露骨に避けられると流石に居心地悪いね」

「…今度皆でしっかり謝りに行きましょうか」

「それよりはもう騒がないって確約した方が良いんでしょうけど、どうせまたあなた達の事だから壊すでしょうしね」

「他人事みたいに言ってるけどヒナだってノリノリでリアルファイトに加わってたじゃん!」

「そうですよ!確かに1番大きな穴空けるのはアリスですけどヒナだってイシュボシェって穴だらけにしてるじゃないですか!」

「イシュボシェって…?」

「どういう擬音なのよそれは」

 

その後も話が盛り上がった3人は最終的にゲーム対戦を洒落込むことになり、寮を破壊することこそなかったものの馬鹿騒ぎして結局寮長からクレームを入れられたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

生徒達がそんな他愛ない日常を送る中も特異現象捜査部の上層部は忙しい様子で、今日も監督官や監督オペレーターが慌ただしく駆け回っている。

Keyとの戦いから色々と体制に変化が起きてからのごたごたは未だ継続しており、特に人手不足によって手が回らない為に1人当たりの仕事量が増え、徹夜での連勤等が当然になってしまっているのが現状だ。

そしてそんな状況を最も嘆いているのが…

 

 

「嫌だぁ!もう働きたくないんだけどぉ!?」

「そんなこと言ってる場合ではありませんよフブキさん!私なんてもう10日もまともに寝れてないんですから!」

「それはそれで心配だからアヤネさんも寝た方が良くない!?」

 

報告書やら上層部からの指示書やらの書類の束と格闘しているフブキがそう愚痴を零すと、目の下に大きな隈を作ったアヤネが咎める。

アヤネの場合は勝手に1人で仕事を請け負って1人で処理しようとしてるが為の作業量なので若干自業自得だが、それにも増して全体的に仕事の量が多いのもまた事実。

 

「もお〜!新連邦生徒会設立直後はもうちょっと余裕あったじゃん!なんで今になって…」

「むしろ新体制を確立させる為の途上だからこそやることが多くて忙しくなっているので、もう数ヶ月かして体制が安定すれば幾らかは楽になる…ってシュン姉さんが言ってましたよ。はいお二人共コーヒーどうぞ!」

「あ、ありがとうございます」

「はぁ〜、ココナちゃんは偉いねぇ〜」

 

草臥れた2人の会話に混ざりながらコーヒーを持ってきたのは、シュンの妹春原ココナ。

普段は仲良しな姉と一緒に過ごしている事が多いが、最近の特異現象捜査部の多忙を見かねて給仕や簡単な書類運びをお手伝いしている。

このコーヒーも2人がリクエストした訳では無いが、気を利かせたココナがアヤネにはブラック、フブキにはミルクと砂糖をたっぷりいれたものをそれぞれの好みに合わせて淹れたものだ。

 

「こんな出来た妹さんがいるシュンさんが羨ましいよ…秘儀も便利だし…ねえ、今度私が現場出る時着いてきてくれない?」

「年下を便利扱いしようとしないでください。ココナさんも無理に手伝わなくても良いですからね?」

「あはは…頑張ってる皆さんの助けになりたいというのは私の本心ですから。どうか手伝わせてください。あっ、フブキさんのお手伝いをするかどうかはシュン姉さんに相談してからということで…」

「ごめんて」

 

シュンの名前を出されれば堪らないと平謝りしたフブキは嫌々書類の処理に戻ることに。

年長は正義であり、今の特異現象捜査部でのヒエラルキーにおいてシュンに頭が上がる人はそうそういないのだ。

ともあれ、フブキが目を通す書類の内容は多くが復旧中の各自治区の特異現象捜査部の支部からの報告であり、必要な支援や人員の要求、人事に関する相談、死滅回遊以降の特異現象の発生数と種別の傾向報告等々…

それだけでなく特異現象が公なものとなった今は民間からも直接特異現象の目撃情報や調査依頼が寄せられる事案も増えて来ている。

それらに対して返事をしたり要請を認可したり動ける人員を派遣するのが今のS.C.H.A.L.Eの監督官や監督オペレーター達の主な仕事なのだが…

そんな書類を一応は手際よく流すように片付けていたフブキはとある書類が目に付いてピタリと動きを止めた。

 

急に手を止めたフブキにまたサボりかと注意しようとしたアヤネだったが、フブキの眉を顰めた真面目な表情を怪訝に思い、彼女がじっと見つめている書類を横から覗き込んだ。

 

「これは…『現在5つの自治区で観測されている不明なシグナル』…?差出人は…リオ連邦生徒会長!?」

「またなんか面倒臭そうなものを見つけたらしいねあの人も。既に最寄りの支部から何人か調査に向かったらしいけど、いずれも行方知れず。この件を特異現象として『特級』に任命、と」

「新たに特級認定される事案は新連邦生徒会発足以来初めてでしょうか…それがウチに来たということは…」

「特級案件だから仕方ないとはいえ…2年生は少ししたら任務から戻ってくるし、クロコちゃん達に任せよっかな。進級を間近に控えてるってのに時期が悪いよ、まったく。でもそれでも人手がやっぱり足りないから…ココナちゃん、シュンさんにこのこと連絡しといて。アヤネさんは寝不足で悪いけど久々の現場仕事だよ。めんどいけど私も頑張るから…落ち着いたら今度みんなで焼肉でも行こっか」

「は、はい!直ぐに伝えてきます!」

「はぁ…車準備してきますからイチカさん辺りに仕事の引き継ぎお願いしますね」

「りょーかい」

 

サボりがちなフブキといえど大事な案件には真剣に取り組み、それに触発されたアヤネとココナもやる気を引き締めて自分が出来ることに向き合う。

さりとてやはり面倒なことに変わりはなく、フブキは今は亡き頼れるあの先輩がいればどれだけ今より楽だっだろうと思わずにはいられないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今日は3人で登校してきたアリス達3人はホームルームのチャイムがなるまでもなく真剣な面持ちのシュンに着席するよう言い渡された。

普段の任務ならばその概要の説明や派遣が行われるのは始業時間の後なので、登校下直後に呼び集められたとなればこれは大事だと全員が察していた。

ヒナは神妙に、カズサは面倒臭そうに、アリスは不安の中にやる気が入り交じった様子で、三者三葉に話を待つ3人にシュンは一呼吸置くと事の概要を説明した。

 

「先日、新連邦生徒会は幾つかの自治区で不明なシグナルが発信されているのを観測しました。確認されたのは旧アビドス自治区、トリニティ自治区、旧ミレニアム自治区、オデュッセイア海洋高校管轄の領海、そしてレッドウィンター自治区です」

「不明なシグナルって言うと、誰かが何かに連絡してるってこと?」

「それも含めて”不明”です。何処の自治区で観測されているのかは判明していますが、正確なシグナルの発生源とその向かい先は何も判明していませんから。ですが1つ言えるのは既にそれらの調査に向かった各支部の生徒達が次々と消息を絶っているということです。派遣された生徒の中には1級の方もいましたから、昨日時点をもって連邦生徒会により本件は『特級』の特異現象として認定されております」

「民間人に被害は出てるんですか!?」

「今のところそれらしい報告は上がっておりませんが…上はそれも時間の問題だと判断しているようです。よって早急に対処しなければ行けないのですが…」

 

言い淀んだシュンはホワイトボードにプロジェクターでキヴォトスの地図を表示し、シグナルの発生源の大まかな予測範囲にマークを付ける。

その範囲も非常に広大でまるで絞り込めているとは言えないが、今は仕方ないことだろう。

 

「…ある程度実力のある生徒ですら調査に失敗している以上こちらも生半可な戦力を送り出す訳には行きません。現在はクロコさんがオデュッセイア領海を、レンゲさんとミノリさんとサオリさんが旧ミレニアム自治区の調査に当たっていますが、やはり手は足りていません。そこで…」

「私達にも出て欲しい、と」

 

予想してた答えをヒナが挙げると、シュンが申し訳なさそうに頷く。

というのも諸々の功績から恩赦が与えられたり批判的な行政官が全滅した今、以前まで課せられていた殆どのしがらみから解き放たれたアリスはKey討伐後に晴れて1級の資格を与えられたのだが、色々あって休養期間が長くブランクのあるヒナとカズサはまだ準1級止まり。

本来特級案件では裏方的な支援やサポート以外では1級以上の生徒しか直接的な調査を行うことが出来ないし、させてはいけない。

古聖堂の時やミレニアム事変の時が例外も例外なのだ。

勿論今のヒナとカズサの実力は確かなものではあるが、今回の要請はその規則を破るものであり、故にシュンはバツが悪そうにしているのだが…

 

「勿論アリスは行きますが…」

「”は”、なんて寂しいこと言ってないで、皆で行くに決まってんでしょ」

「そうそう、今更怖いものがあるかっての。こちとら1度目ん玉吹っ飛ばされてんのよ」

「奇遇ね。私なんかホシノ先輩消し飛ばしてんのよ」

「うわーん!ブラックジョークにしても笑えません!」

 

「…本当に、皆さんはあれから随分と成長しましたね。それでは任務の詳細を伝えますよ!」

 

威勢のいい3人にフッと笑みを零したシュンは、プロジェクターに予め用意した指示書を表示する。

 

「皆さんに向かって頂きたいのは旧アビドス自治区のアビドス砂漠!知っての通り自治区内の殆どが砂漠化しているのが特徴で昼夜で気温の変化が激しく昼間は日差しも強い過酷な気候です。出発前にはアヤネさんが用意した防砂機能付き遮光服を受け取り、長期の滞在に備えてキャンプ用具の準備もしてください。現地では事前に要請したハイランダー鉄道学園の協力の元、現在はもう使用されていない砂漠横断鉄道を復旧させて脚を確保してくれるとのことですので、それを利用してアビドス砂漠の全域を調査していただくことになります。元々人の手が入らず特異現象の発生数も多い地域ですが、あくまでシグナルの発生源の調査が目的ですので無関係の特異現象への対処は必要最低限で構いません」

「砂漠の探検…!腕がなりますね!古代遺跡とかありそうでワクワクします!」

「もう既に私は地獄を見ることを確信してるのだけれど」

「あんたの場合髪長過ぎて帰る頃には髪の間砂だらけになってそうね」

「だからこの前切りたかったのよ!あなたに言ってるのよシュン先輩!」

「その髪を切るなんてとんでもないです」

 

ショートにするチャンスを逃してしまった元凶に恨みがましい視線を向けるヒナだったが、微笑み1つでそれを受け流したシュンは3人に詳細を記載した資料を配ると、シュン自身片付けなければいけない仕事があると準備を整えたら駐車場に向かうよう指示だけすると教室を出て行った。

残されたアリス達も装備や所持品の確認をさっさと済ませて駐車場へと向かい、そこで用意された車の前に待っていたアヤネと合流する。

 

「おはようございますアヤネさん!…また隈が濃くなってませんか…?」

「アヤネさん今日で何徹さ」

「えへへっ…いよいよ11徹の大台突破ですよ…!」

「そんなの誇ってないでこの後休みなさい。11徹してる人に運転任せるこっちの身にもなりなさいよ」

「それはフブキさんにも注意されたので流石に休みますけど…聞いているとは思いますけど、私はハイランダー鉄道学園支部管轄の駅まで送るので、その後は合流するハイランダー生の指示にしたがってくださいね。それでは車に乗ってください。詳細は移動中にお話しますので」

 

アヤネに催促され、武装をトランクに仕舞い車の後部座席に並んで座った3人。

真ん中に座ったアリスは左右のヒナとカズサにそれぞれ視線を向けてアイコンタクトを取ると、気合を入れるように手を挙げて今回の任務の始まりを宣言した。

 

 

「それでは────

 

 

 

 

 

────勇者パーティ、出発です!

 





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