ブルア廻戦   作:天翼project

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成長期

 

 

 

神である主は言われた。

「人は我々の一人のように善悪を知る者となった。さあ、彼が手を伸ばし、また命の木から取って食べ、永遠に生きることがないようにしよう。」

 

 

『聖書協会共同訳聖書創世記3章22節』より───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キヴォトスの中心、D.U.の一角にあるビル。

かつてのKeyとの戦いの中でサンクトゥムタワーが崩壊した為に新連邦生徒会の仮本部として使われているそこでは、新たに特異現象捜査部部長、兼連邦生徒会長として就任した調月リオが険しい顔でモニターとにらめっこしていた。

画面に表示されているのはキヴォトス全体の地図、そして5つの地点にマークされた何かの反応。

つい先日から突如として観測されるようになったそれらの正体不明のシグナルは発見した時点でリオの中で嫌な予感をこれでもかと掻き立て、至急送り込んだ最寄りの支部の生徒達はいずれも消息を絶っている。

 

(果たしてシグナルの発信源には何があるのか…一体何処に向けてシグナルを発しているのか…これが作為的なものなら、その目的は…?)

 

マルクトとKeyという脅威を退けたばかりだというのに、これがまたキヴォトスの命運を賭けた惨事になるのだとしたらたまったものでは無い。

今のキヴォトスに、もう一度ゼロから立て直せる力などある筈がない。

故にこれ以上問題が起こる前にこれを鎮めなければならないのだが、半端な戦力を送る訳にも行かず現在追加で派遣されている生徒の数も少なく、人手は圧倒的に足りていないのだ。

 

(現在三箇所は対処中だから残り二箇所…いや、同時に対処する必要は今のところないけれど、早く調査を進めないとマズイことになるっていう私の勘は無視出来ない)

 

 

 

「───既に派遣した砂狼クロコからの定期連絡では今のところそれらしい原因は特定出来ていないと…リオ連邦生徒会長、大丈夫ですか?」

「…ええ、なんでもないわ。続けてちょうだい」

「そうですか…?」

 

報告に来ていたリン行政官の話の最中にそうして考えに耽ってしまっていた為か、心配を受けたリオは意識を切りかえてその話に集中する。

現在オデュッセイア領海の調査を進めているクロコ、旧ミレニアム自治区の調査を進めているレンゲ、ミノリ、サオリ。

その双方から現状不審な点は発見出来ていないと定期連絡があったと言うが、これまでの嫌な予感がただの考えすぎなのかと言うとそうではないだろうし、調査しているクロコ達も同様に嫌な予感を感じているからこそ今も集中して調査に取り組んでいるとのことだ。

 

「そもそも何も無いのに前回送り込んだ生徒が消息を絶つ訳ありませんでしょうし。クロコさん達に恐れをなして今は隠れ潜んでいるのでは?」

「だとしたらそれだけの知能を有した特異現象、或いはアウトローが背後に存在することになるのだから、余計厄介な案件ということになるわよ」

 

リンと一緒にまた別の報告に来ていたアオイとカヤがそう口を挟む。

ちなみにこの2人は現在新連邦生徒会のそれぞれ財務室長と防衛室長を任されている。

 

クロコ達から隠れているというカヤの意見は現在も構わずシグナルを発し続けていることから無いだろうとリオは考えるが、アオイの方の意見には同意している。

示し合わせたように出現した5つのシグナル、これらが何らかの作戦的な意味合いを持つ可能性は非常に高い。

問題はその意味が何なのかということだが…

 

「ともかく、現状調査出来る人材が足りてないのが問題なのよ。天童アリス達は実力はあるけど現場での柔軟性に不安があるからチームを組ませて向かわせた訳で、砂狼クロコのように単独でも動かせる生徒がもう少し状況は違ったのだけれど…」

「…正直なところ、前連邦生徒会にいた頃は小鳥遊ホシノの破天荒さには辟易していて苦手に思っていましたが、今では彼女が居ればと思わずにはいられません」

「おやおやリン行政官ともあろうお方が他人の愚痴とは珍しいですね。まあ私もあの人は苦手でしたけどね」

「リン行政官の言う通りね。逆に連邦生徒会の行政官で小鳥遊ホシノを苦手に思っていなかった人なんていたのかしら」

「仮にも故人に散々な言い様ね貴女達」

 

そのぶっ飛び具合は有名だったとはいえKeyとの戦いでの…それ以前に特異現象捜査部での活動においてキヴォトスを特異現象から守り続けてきた立役者に揃って辛辣な評価を下す3人にリオは苦笑する。

というかアオイに関しては特異現象捜査部にいた頃はホシノとも普通に接していた筈だが、リン行政官の意見に擦り寄りに言ってるまであった。

伊達に推しと同じ職場で働いているというモチベーションだけでリオ含め他の新連邦生徒会の行政官達と違って連日の激務の中1人平然としていないのだ。

 

「小鳥遊ホシノに頼れないのは仕方ないとして…調査に送り出せる実力のある人手に心当たりは無いのですか?」

「単に実力のある人達なら一応あるのだけれど…」

「牢にぶち込まれてる彼女達の事かしら?社会福祉や特異現象捜査部への協力も減刑条件に入ってたから私はアリだと思うわよ?」

「一応元特級に指定されてたアウトローだからあんまり自由に動いて欲しくは無いのだけれど…」

 

アオイは妙案だと言うが、今は素直に大人しくしているとはいえ大暴れしていたアウトロー達を目の届きにくい場所に送ることにリオは抵抗感を覚える。

とはいえ実力があるのは確かで、調査に長けたサポートさえ付ければこれ以上ない人材はそういないだろう。

 

「…そうね。早めに検討はしておくわ。本人達の意思も聞かないといけないし」

「リオ連邦生徒会長は以前百鬼夜行支部の部長でしたよね?彼女達は動かせないのですか?」

「支部の元主力が現場を退いて目の前にいる上に監督オペレーターに転向した子やら裏方に専念することにした子やらであっちも大概動ける生徒が殆どいないのよ」

 

カヤの提案にこれまたリオは渋い顔をする。

そもそもこの1年以内での百鬼夜行支部での人の減り方は中々凄まじいものがあり、白州アズサと桐生キキョウは死亡、阿慈谷ヒフミはKeyとの決戦後に監督オペレーターに転向し、羽沼マコトは前線を退いて彼女が気にかけていたという後輩にちょくちょく顔を出しながら裏方での支援に専念している。

静山マシロは秘儀の治療における利便性故に今は氷室セナのサポートについて今は医療についてより詳しく勉強しているとのことで、愛清フウカは秘儀によるフットワークの軽さを活かして今も元気にキヴォトスの空を飛び回って任務に当たっているが、厳しいことを言えば彼女では実力不足だろう。

 

「勿論他の支部も、トリニティ支部は幾らかは落ち着いたとはいえ桐藤ナギサが死亡したことによる混乱はまだ続いていて上手く機能出来ていないし、ミレニアム支部はあの事変で消滅、ゲヘナ支部はマルクトからの干渉を受けて事実上ほぼ全滅…保護した意識のない生徒達はセナが来年度までには学業に復帰出来るようになるとは言っていたけれど、まあ今は動かせないでしょうね。他の支部にはそもそも本件の対処が出来るような実力のある生徒が殆どいないのが現状よ」

「有力な監督官達は…仕事で忙殺されてますか…せめてこれがもう少し体制が安定した後のことならば良かったのですが…」

「なんならばそれすら狙って起こされたような気がするのですよ?Keyとの戦いの直後じゃなかったのは…Keyがあの戦いに勝った場合も考えて漁夫の利を取る準備をしていなかったからですかね?」

「或いはKeyが倒されてから今回のことが計画された可能性もあるよ?今回の件が作為的なものだという前提になるけれど」

 

リオからの現状のまとめを受けてリン、カヤ、アオイと意見を出し合うもやはり答えは出ず、これ以上を求めようとするならば調査班からの報告を待つしかない。

 

「いっその事私が行きましょうか?マルクトとドンパチして私って結構イケてると思うんですよ」

「貴女マルクトの時は後方待機だった筈のなのに勝手に前線に出てったんじゃない」

「第一カヤ防衛室長、ただでさえ再編されたばかりで人手の少ない新連邦生徒会で防衛室長を担う貴女がここを離れたら他の行政官達の仕事量が地獄になるのですが」

「以前の連邦生徒会長もそこまで無責任じゃありませんでしたよ」

「う…」

 

良かれと思った提案は全員から否定を喰らい、カヤは両手の指先を合わせるようにして弄りイジけ始める。

嘆息したリオは派遣した生徒達がこの困窮した現状を打開してくれることを、ただ心の中で祈る。

 

 

(この騒動がどれほど大きなものになるかはまだ分からないけど…ようやく立ち直り始めたキヴォトスをまた揺らがせることは絶対にさせない。頼んだわよ、皆)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ仕方ありません…私が出たら『秘儀がなんでもあり過ぎて扱いに困る』という作劇的な都合も感じましたし」

「何の話してるんですかカヤ防衛室長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑っつい…」

「干からびそう…」

「うわーん!動いてないのに暑いです!」

 

アヤネの車で送り出されたアリス、ヒナ、カズサの3人は一旦の目的地である旧アビドス自治区にある砂漠横断鉄道駅に到着するや否やそう愚痴を零した。

昼頃というのもあって太陽は激しく照りつけ、遠くの地平には陽炎(かげろう)すら立ち昇って見える。

着いて早々その猛暑に耐えられなくなった3人は急いで列車に駆け込むと、クーラーの聞いた列車内でそれを出迎えたのは瓜二つの容姿をした小柄な双子だった。

 

「ハイランダー支部管轄特異現象捜査部専用鉄道へようこそ!」

「ようこそ〜」

 

「あ、お2人がお話に聞いた今回アリス達のサポートをしてくれるという…」

「そ!今回あんた達を案内するこの列車の車掌だよ!私は橘ノゾミ!」

「橘ヒカリ。よろしく〜」

 

「えっと、天童アリスです!よろしくお願いします!」

「杏山カズサ」

「空崎ヒナよ」

 

「よし、じゃあ挨拶も済ませた事だしちゃっちゃと準備しちゃおう!一応情報共有とかもしときたいから準備次いでに運転台まで来なよ!時は金なりってね!」

「シュバッと行くよ〜」

「え、もうですか!?」

「なんかもう馬が合わなそうな連中なんだけど…」

「この前紹介してくれたあなたの友達もあんなんじゃなかった?」

 

片や明るく悪戯っぽい無邪気という言葉が様になるノゾミ。

片や緩い雰囲気と気の抜けた態度が特徴的なヒカリ。

ハイランダー鉄道学園の特異現象捜査部支部において今回アリス達のサポートをすることになる2人はアリス達の挨拶を聞くと、そう言って列車の前方へと駆けて行く。

アリス達も慌ててそれを追いかけ、運転台に着くと既に2人は発進の準備を始めており、3人が追いついてきたのを認めると作業を進めながらハイランダーが掴んでいる情報について話し始める。

 

「うんとねぇ、ウチもウチで今回要請されたシグナルのこと探して既に何本か列車走らせてたんだけど、空振りか行方不明の二択だったわけさ」

「行方不明…つまり送り込んだ生徒達の消息も掴めなくなったと。被害は何人くらい出てるの?」

「えーと、3本くらいロストしてるからー…20人弱〜?」

「列車に乗せてた他の支部の生徒とか監督オペレーターも合わせたら30は行くかな?とにかくこっちも被害出まくってるから今回は少数だけサポートに着くことになったんだ」

「あぁ、だからここに他の整備士とかいないんだ…本当にあんたらだけで大丈夫?」

「失礼な!私達より優秀な車掌はそういないよ!」

「ぎゅーんって行ってどかーんたよー」

「擬音で既に事故ってませんか!?」

「ほらもう出発するからあんた達も座る座る!」

 

話して数分でもうこの2人の奔放さを理解したアリス達は既に前途多難を感じているが、そんなこともお構い無しに発進の準備を終えた2人は運転席に座るとアリス達にこの列車専用の運転台内にある乗務員用備え付け椅子に座るよう指示し、渋々3人が座ったことを確認すると早速列車を動かした。

警笛を上げながらゆっくりと列車が発進すると、窓際の席に座るアリスは目を輝かせながら移ろう景色を眺める。

 

「おぉ…普段の任務の時はアヤネさんやイチカさんの車で移動していましたから、列車に乗るのは新鮮です!」

「そうじゃなくてもこんな砂漠の景色は滅多に見ないし、単純に旅としても面白いかもね」

「なんであなた達はもう旅行気分なのよ…重大な任務ってことは忘れないようにしなさいよ」

 

「いやいや、任務中でも列車旅は楽しむものだよ?特に快速列車の窓から眺める高速で過ぎてく景色は絶品なんだから!」

「列車旅の醍醐味〜。駅弁もあるよー」

 

運転しながら耳敏くアリス達の話を聞いていたヒカリとノゾミからそう野次が飛び、運転席を降りたヒカリが車内販売用に用意されていた台車から適当に人数分の弁当を取り出すとアリス達に配っていく。

 

「今日のメニューは幕の内〜」

「パヒャヒャッ、私達が運転する列車で退屈なんてさせないよ!良ければこの辺のガイドもするけど?」

 

「いや、結構…」

「ヒナ!」

「ねぇ〜?」

「…じゃあ頼んだわ」

「りょうかーい!」

「それじゃあ右手に見えますのは〜アビドス砂漠名物大砂丘〜…」

 

ガイドを断ろうとするヒナだったがそれをなんとも言えない目で見つめてくるアリスとカズサに折れ、仕方なく了承するとヒカリとノゾミは待ってましたと言わんばかりに意気揚々と周囲の地形の解説等を始める。

流石ハイランダーの生徒と言えば良いのか、仕事柄必要になる地域や土地についての詳しさを遺憾無く発揮し、同じ景色ばかりの砂漠の真ん中とはいえ地点によっては砂に埋もれる前にどんな土地があったのか、その地域では当時どんな催しが行われていたのか等を饒舌に解説される。

最初はあまり興味が無かったヒナも思わず2人の熱の入った、そして息の合った解説や話術に引き込まれ駅弁を食べながら普通にそれを楽しんでしまう。

 

小一時間それが続き最早目的を忘れかけていた頃、解説に一区切り入れたノゾミとヒカリは次は何の話をしようかと考えていたが、突如として何かに気付いたようにはっとして顔を見合わせ頷き合うと、ゆっくりと列車を減速させていった。

それを怪訝に思ったヒナは列車が完全に停止したところで席を離れ何か話し合っている2人に話を聞きに向かう。

 

「…どうかしたの?」

「あ、ごめんごめん。列車が不自然に揺れると思ってね」

「そうなの?私にはよく分からなかったけど?」

「何度も列車運転してないと分からない。もしかしたら線路が歪んでるのかもー?」

「もしくは車輪に何か巻き込んでるとか?ちょっと私降りて様子見てくるからヒカリは機器の方見といて」

「はーい」

 

「うん?ヒカリは降りるんですか?」

「列車の調子が気になってね。長旅になるから不調が起きてたら大変だし」

「そうなんだ、なんか手伝えることでもある?」

「いや良いよ。むしろこういうのに素人が手がだすと余計に悪化するって相場は決まってるしね」

「ふーん、じゃあ任せようかな」

 

1人列車を降りようとするノゾミにごもっともだとカズサ…そしてヒカリに話を聞いてるヒナはここで待とうとしているようだが、何か妙な胸騒ぎがしたアリスは列車を降りようとするノゾミの後を大慌てて追いかけた。

 

「ん?どうしたの?」

「いえ、アリスも気になって…どんな風に整備してるのとか少し見てみたいですし」

「そう?まあ見るだけなら…」

 

工具箱を片手に列車の横に降りたノゾミは体勢を低くしながら列車の車輪や線路を観察して歩き、その後ろをアリスもついて行く。

そうして見ていくことこの列車…元々少ない搭乗人数で想定されていた為に3両しかないコンパクトなこの列車の最後尾に差し掛かった辺りで「お」と声を上げて屈んだノゾミはまじまじと線路を見つめた。

 

「何か見つかりましたか?」

「やっぱり線路がちょっとだけ歪んでるね。つい最近復旧したばかりだから劣化じゃないとは思うんだけど…暑すぎて太陽光かなんかで歪んだのかな?まあこれくらいなら取り敢えず今回の運行じゃ支障は出ないと思うし調査が終わった後にまた直せば良いかな…」

 

列車の外はクーラーの効いた車内と比べると非常に気温が高く、この短時間外に出ただけで滝のようにかいた額の汗を拭いながらノゾミは忌々しげに太陽を見上げる。

本当にこの環境が原因ならば先程の胸騒ぎも気のせいなのだろうとアリスはノゾミに手を差し出し立ち上がろうとするのを助け───列車の後方を見て硬直した。

 

「…?何そのお化けでも見たみたいな顔は」

「…あれって、何でしょうか?」

「うん?…げっ!?」

 

アリスの視線の先…自分の後方を振り返ったノゾミは思わず声を上げて驚く。

 

その先に見えたのは、空高くまで登る巨大な()()だった。

砂漠を飲み込みながら進行してくる、遠目から見れば台風のようなその凄まじい砂嵐にここで巻き込まれては堪らないと大急ぎで列車の中に戻ろうとするアリスとノゾミだったが───

 

 

 

 

 

 

───次の瞬間、地面が激しく揺れた。

 

 

「のわぁっ!?」

「危ないです!」

 

まるで地面から突き上げられたような揺れはアリスとノゾミを軽く跳ね上げる。

転倒しそうになるノゾミの首根っこを捕まえて阻止したアリスだったが、続いてとてつもなく強大な神秘の反応が近付いてきていることを察知するとノゾミが装備していたヒカリが持っていたものと繋がる無線を起動する。

 

「ちょっ、何して…!?」

「ヒカリ!直ぐに列車を走らせてください!今すぐ!」

『…?分かったー』

 

その鬼気迫るアリスの叫び声に素直に従ったヒカリが列車を走らせ始めると、加速しきる前にアリスはノゾミを小脇に抱えて並走し───列車の窓を体当たりで破りながら車内へと突入。

その直後、先程までアリスとノゾミがいた場所に何かが飛来し、大爆発が起きた。

 

「な、何っ…!?」

「攻撃されました!何かがこの列車を追いかけています!」

「なんでそんな事に…いや、もしかして今回の事件に関係が!?」

「おそらく!」

 

流石に特異現象捜査部に所属しているだけあり察しの良いノゾミの意見に賛同したアリスは、突き破った窓から列車の後方を確認すると目を細めて表情を険しくする。

砂嵐の速度は非常に速く、列車が加速している最中なのを加味してもあと数分もしない内に追い付かれるだろう。

 

そこに、何事かと武装して…アリスのレールガンも持って後部の様子を見に来たヒナとカズサが駆け付ける。

 

「アリス!何があったの!?」

「列車の後ろの砂嵐…あそこにいる何かが攻撃してきました!」

「砂嵐…?」

 

アリスの話を聞いたカズサは何が何だかといった様子だが、ヒナの方は何か心当たりがあるのか、しかし何かに納得が言ってないようで首を傾げる。

なんにせよ攻撃を受けた以上それからこの列車…自分達やノゾミとヒカリを守らなければならず、また列車が砂嵐に飲み込まれることを見越して一先ず3人は対砂嵐機能付き遮光服を羽織るとノゾミから無線だけ受け取り運転台に向かわせ、念の為それにカズサが同行する。

後部車両に残ったアリスとヒナは先程突き破った窓から列車の上に登ると、迫ってくる砂嵐とその中にいる何かの正体を見極めようとした。

 

「何なんでしょうか、あれは…」

「…砂嵐を引き連れる特異体になら心当たりがあるわ」

「!それは一体…」

「でも、あれは何年も前に既に鎮められてる筈よ。そしてあの特異体の性質上同一の個体が生まれることは無いって言うのがこれまでの見解だったけど…なんで、居るのよ…!」

 

ヒナが歯噛みする視線の先───砂嵐の奥に見える()()()()のような影。

それはゆらりと揺らめくとその姿を消し…そして再び激しく走行中列車が揺れる程の地震を起こすと、後方の線路を破壊しながら列車へと迫ってきた。

 

「報告だけ聞いたことがあるけど、あの時もこんな状況だったらしいわね…」

 

ヒナが思い浮かべたのは以前特級を冠する生徒が式神として従え、そして死亡したのと同時に消失した特異体。

その目の前に迫るのは幻影に非ず、しかし完全な同体という訳では無い。

追跡者の正体、それは───

 

 

 

 

 

───特級神名特異体、”完全なる”ビナー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、他の地点でも。

 

 

 

 

 

「…ん、参った。流石にこれは予想外」

 

オデュッセイア領海を調査中、氷海エリアへと入った時に現れたそれに船を囲まれ油断なく構えるクロコ。

相対するのは、とてつもなく強大な神秘を放つ2()()の巨影。

 

「どっちも報告で見たことがある特異体…少なくとも片方はもう鎮められてるって聞いたけど…」

 

 

 

 

───特級神名特異体、”完全なる”ゲブラー

───特級神名特異体、”完全なる”コクマー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい突然現れやがって。アタシらのことを待ち伏せでもしてたのか?」

「いや、待て。あいつはともかく、あっちはもう鎮められたと聞いていたが…」

「デモ!」

 

旧ミレニアム自治区において、幾ら調査しても何も出てこなかった事で何か潜んでいる可能性が高いとレンゲ、サオリ、ミノリが踏み込んだ”廃墟”で、3人を取り囲む無数のオートマタ。

そしてその発生源となっている特異体と、それを護衛している特異体。

 

 

 

───特級神名特異体、”完全なる”ケテル

───特級神名特異体、ケセド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キヴォトスの果てにある研究所。

そこで各地の様子をモニタリングしつつ、人影は楽しそうに口元を歪める。

 

「これまでの活動で戦闘データは充分に確保しました。我々が動くのに充分機は熟したと言えるでしょう」

「一部調伏されてしまったせいでデータの回収に苦労しましたけど…今のビナーちゃん達には敵なんていません!」

「ようやくお披露目の時が来て楽しくなってきたんじゃない?これからはお祭り騒ぎだね!」

 

 

 

「それでは始めましょうか、私達とキヴォトス(あなた達)の戦争を」

 

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