それは、最もきらびやかに輝く至高の王冠───
時は、アリス達が調査の為砂漠に赴く前へと遡る。
連邦生徒会が観測したキヴォトスに突如として現れた5つの不明なシグナル。
先にそれの調査に向かった最寄りの生徒はどれも消息不明となり、この案件は特級の特異現象として登録されるに至る。
そしてこれ以上の被害を出さない為にも次に調査に向かわせる生徒はどれだけの脅威であろうと対応出来る実力者でなければならず、その為に適した人材として白羽の矢が立ったのは特異現象捜査部本部、S.C.H.A.L.Eに属する2年生組だった。
そうして少し長めの出張から戻ってきたばかりの4人…クロコ、レンゲ、サオリ、ミノリはフブキに呼び出され事の次第を聞かされる。
「正体不明のシグナル、ねぇ」
「そうそう、先に調査に向かった子達が帰ってこなくて、1級の子ですら行方を絶っている以上この先生半可な生徒は送り出せなくてさ。そこで皆の出番ってわけ」
概要だけでもまた面倒臭そうな案件だと察したレンゲは眉を顰めるが、他に調査に出れる生徒が少ないとフブキが説明すれば自分達が向かうのもやむ無しと納得する。
それにしてもついこの間滅びそうになったばかりだと言うのにまた非常事態に巻き込まれているのかこのキヴォトスは、と呆れの感情は強い。
「ん…でも5つのシグナルを全部調べるんだったら、私達もそれぞれ1箇所ずつ分担しないと駄目?」
「いや、流石に1人ずつだと何かあった時の対応が限られちゃうからね。クロコちゃんは1人でも色々できるから大丈夫だろうけど、レンゲちゃんとサオリちゃん、ミノリちゃんには3人1組で旧ミレニアム自治区の方に向かってもらうよ。クロコちゃんはオデュッセイア領海の方の調査ね」
「ん、了解した」
「まあ良いけど…」
「プロレタリア」
「む?それだと他の3箇所はどうするつもりなんだ?各自調査を終え次第また別の場所に向かえと言うことならそんな悠長なことをしている時間はあるのかと思うんだが…」
調査地点の割り当てに各々了承していくが、先程の話を疑問に思ったサオリがそう聞くと、フブキは目を瞑って「う〜ん…それは…」と唸り言い淀む。
癖の強い面々とはいえ仲間思いでなんだかんだ後輩を大事にしている2年生の面々にアリス達にも調査を任せることにしたと言えば反発があるかもしれないからだ。
ヒナやカズサも以前と比べてかなり回復したとはいえ決して万全という訳でもない。
が、正直に言わないとそれはそれで後が怖いので恐る恐るその旨を伝えることを決める。
「…まあ、了承して貰えたらアリスちゃん達…1年生に頼むつもりだよ。大分元気なアリスちゃんはともかく、ヒナちゃんとカズサちゃんにはまだ荷が重いかもしれないけど…」
「そうか。なら問題ないな」
「また変な問題起こさなければ良いけどなぁ」
「デモ」
「…って、あんまり心配してない感じ?随分薄情だね」
「ばっかやろー、信頼してるからに決まってんだろ。Keyとドンパチした今のあいつらが今更何を怖いと思うんだ?」
「それはそうかもだけど…」
「私達以上にアリス達を心配してるのはフブキ先輩の方。大丈夫、私達の後輩はかなり逞しいから」
「むぅ…」
心配し過ぎているのは自分の方だとクロコに諭されフブキも口を紡ぐ。
クロコ達はフブキが他人を心配するのは柄ではないと思っていたが、Keyとの戦いを生き延びたことで本人も知らず知らずの内に心境に変化があったのだろあと見抜いていた。
そして同時に、それが杞憂であろうことも。
「確かにあいつらは馬鹿馬鹿だけどよ、やる時はやる奴らだって分かってんだろ?」
「また予想外なこと巻き込まれて騒ぎを起こしそうだが、なんだかんだ上手くやるだろう」
「あれからヒナもカズサも垢抜けたように見えるし、きっと3人で楽しくやると思う」
「労働」
「…まあ、皆がそういうなら大丈夫なんだろうけど…はぁ、いつからこんな心配性になっちゃったんだか。私も甘くなったなぁ…だったら、今心配すべきは自分たちのこと!さっきも言った通りクロコちゃんにはオデュッセイア領海、レンゲちゃんとサオリちゃんとミノリちゃんには旧ミレニアム自治区に向かってもらうから、各自準備を急いで!」
クロコ達に諭され気を取り直したフブキが話を戻すと、若干ニヤついていたレンゲ達も顔を見合せ、威勢よく返事を返して準備へと向かう。
当然、信じる後輩達からの信頼を損ねるような格好悪い所を見せるつもりもなく、4人は全力で任務に当たるのだった。
そうして各自が準備を終えた後クロコと分かれたレンゲ達は監督オペレーターの車で旧ミレニアム自治区へと急行する。
到着した旧ミレニアム自治区はかつての事変の影響で完全に壊滅しており、未だに復旧の目処は立っておらず完全に放棄された廃墟となっている。
一応マルクトがばらまいた分の特異体は制圧されているが元々一部地域では神秘が深く根付いていること、事変によって多くの生徒が命を落としているという曰くがあることによって特異体の出現数は他の自治区の比にならない。
「久しぶりに来たが、相変わらず辛気臭い場所だな」
「これだけ荒廃してれば当然だと思うが…」
「デモデモ」
「うっせえ、ほらさっさと調査するぞ」
物怖じせずズンズン奥へと進んでいくレンゲをサオリとミノリも周囲を見回しながら追いかける。
今回は件のシグナルの発生源とその送信地点の調査を行う為に色々と器具を持ってきており、戦闘時の役割上固定砲台として動くことの多いサオリがそれらの器具を背負うリュックに持ち歩いている。
最も特異現象が絡んでいるのなら役に立たない可能性もあるのであくまで一応持ってきているだけだ。
そんな荷物持ちの役割を買って出ているサオリは自治区の中心部…かつての事変でKeyが暴れ円形状に更地になっている地点に近付くと、その範囲外で辛うじて形を保っている高層ビルの屋上に登って器具の設置や広域の監視を始める。
地上に残ったレンゲとミノリはサオリと無線を繋ぎつつ、更地の範囲へと入り何か異常が起きてないかを確かめていく。
「…まだKeyと…向こうの駅の方にクソバカピンクの神秘が残ってるな。そのせいか特異体の一体も寄り付いてねぇ」
「労働?」
「ああ、とんでもなく深い爪痕を残してくれたお陰で調査が捗る捗る。少なくともこの辺にシグナルの原因は無さそうだな。サオリ、そっちはなんか見えるか?」
『いや、レンゲ達の方面には何も。ただ、”特級特異現象”としての”廃墟”の方が気になるな。件のシグナルを探知する装置で調べると何処を見ても酷いノイズが入ってるが、廃墟方面は僅かにそのノイズが強く感じる』
「まあ予め想定してた本命はそっちだしな。一応別の場所を見てから最後に行くとするか」
『了解、こちらで観測を続けるから何かあれば連絡する』
シグナルの発生源に当たりを付けたレンゲ達だが、元々あそこは”特級神名特異体、ケセド”の発生地点。
彼の特異体は多数の低級の神名特異体を生産する能力を持ち、その物量は如何に天与宣誓を覚醒させ無双の力を持つレンゲとて消耗を余儀なくされる。
大多数において強力なミノリの秘儀も同様で、そこに踏み込んで消耗した上で本命は別にあったなどとなれば笑い話も良いところだ。
故に先に他の場所を調査し、それらに異変が無いことを確かめた後に廃墟へと向かう。
事変の中心となった駅、自治区の地下を蜘蛛の巣のように入り組む地下鉄の線路。
自治区内の廃病院や今は消滅したミレニアム学園本校舎の関連施設。
そして共同墓地や荒廃した街の路地裏まで。
それらを全て調べてせいぜいが一般的な特異体が発生している程度なのを軽く鎮めながら確認を終えると、いよいよレンゲ達は焦点を廃墟へと絞った。
「結局ここが怪しいってことになるのか…サオリ、こっちまで来て合流しろ、次は廃墟の中の高い建物まで行くぞ」
『了解、すぐ向かう』
「革命」
「ん?そうか…」
頑強なフェンスで区切られた廃墟の近くまで来たレンゲがサオリに連絡していると、ミノリが何かを感じたようでレンゲも注意深くフェンスの向こうに意識を向ける。
確かに多数の特異体の反応はあるが…
そう、ケセドと思われる強力な神秘の気配を感じないのだ。
「…妙なことになってそうだな。サオリ、予定変更だ。私達は先に廃墟に入る。お前はさっき言った通り廃墟に来たら適当な高台に上がってろ」
『む?分かった。だが無理はするなよ』
断りを入れたレンゲはミノリを肩で担ぎ上げるとフェンスを飛び越え向かい側へと着地する。
ここから先は完全に廃墟の敷地内であり、外とは空間が異なるある種の領域のような世界となる。
ミノリを下ろしたレンゲは背負っていた武器…”釈魂刀”に手をかけると、ミノリと共にゆっくりと廃墟の奥へと足を進めた。
「雑魚共はどれくらいいると思う?」
「ブルジョワ」
「なんかもうそれ数字くらいは別に言っても良いんじゃねえか?」
「…500」
今更ながらその語彙で行けるならもうちょっと発言の自由度があるだろうというレンゲの私的に、分かっていましたよと言わんばかりに当然のようにミノリがそう答える。
言った言葉がそのまま他者への影響となるミノリの秘儀『言霊』は常時発動し本人でもその効果をオフにすることは出来ないため下手なことは喋れないが、何故か代わりの語彙としてミノリが使っている革命用語が秘儀の琴線に触れないのもそれをチョイスした理由も謎だし、なんとなくずっと誰も聞いてこなかった。
もしかしたら語彙を革命用語に絞るという何かの”契約”を結んでるのかもと思ったが…
遂に今回切り込んでレンゲは確信した。
(…こいつ、語彙で個性出そうとしてやがる…!)
「弾劾」
「なんでもねぇ」
ミノリの闇は深い…のかもしれない。
廃墟の奥まで来たレンゲとミノリは大量の低級の神名特異体…オートマタが1つの区画に集まっているのを発見する。
数はミノリの目算通りざっと500体程、殲滅は容易だがどこからこれが湧いたのかという疑問は残る。
「こいつらに秘儀使ったらどれぐらい喉に負担がかかる?」
「ゆとり」
「よしじゃあ頼んだ」
格下を制圧するのにおいてミノリの秘儀ほど適したものは無い。
故に一旦この場を任せたレンゲは少し下がり、代わりに前に出たミノリは口元を覆っていたマフラーを下げると集合して動かない特異体へと秘儀を使用した。
『クビ』
次の瞬間、その場にいた全てのオートマタの首が独りでに吹っ飛んだ。
オートマタ達の頭部は地面を転がり、残った胴体もバタバタと倒れていく。
これが生きている人ならばさぞスプラッターな光景なのだろうが、特異体にかける慈悲も情もないレンゲとミノリは無数のオートマタの残骸で出来た絨毯の上を歩いていく。
ここにあの数のオートマタがじっと動かず待機していた以上ここに何かあるのは間違いないが…
「…パッと見じゃ分からねぇか。おいサオリ、もう来たか?そっちからはどうだ?」
『…今適当な鉄塔の上に登った。そこから4時の方向だ。こっちからは2人の周囲に異常は確認出来ない』
「そうか…地下になんかあるなら話は早いんだが、それも無さそうだし…また別の場所を探るか?」
「出向」
オートマタが集まっていた付近にはこれといった異常はなく、この下に地下がある訳でと無さそうだった。
となると別の場所を探るしかないが…それから丸一日を調査に費やしても何も見つからず、仕方なくレンゲとミノリは一旦サオリと合流して安全を確保した廃屋の中でキャンプをする事になった。
ライトで照らされた室内で、割れて風通しの良い窓から肌寒い夜風を浴びながら3人は持ってきていた携帯食を齧りサオリが視認できる範囲で作っていた廃墟の地図を眺める。
「シグナル観測装置の方はどうだ?」
「やはりと言うか、廃墟に入ってからは波形が荒れ狂ってまるで役にたたないな。ううむ…明日はこっちの方を探るか?」
「ここも時間が経つと地形や構造が変化するらしいからこの地図もいつまで信用出来るか分からないけどな。最初の大量のオートマタ以降に見かけたのも小規模なオートマタの集まりくらい…後はやっぱりケセドも見つからなかったし…」
「クーデター?」
「ふむ、何かの準備をする為に隠れているという線もあるか。だが特異体が自発的にそんなことをするか?」
「梔子ユメとかマルクトみたいに特異体に指示を出してる奴がいるのかもな。そうなるといよいよまた大事だが…一旦クロコの方の進捗も聞くとするか」
明日の調査の方針を話し合い、何か手がかりを見つけていれば参考にしようとレンゲはクロコの方に無線を繋ぐ。
暫く待った後、繋いだ無線の奥からは波のような音と大きな機械の音が聞こえてきた。
『ん…もしもし』
「…もしもし。レンゲだけど…今船に乗ってるのか?」
『ん。オデュッセイアの支部の人にクルーザー運転してもらってる。さっきカジキ釣り上げたから今捌いてもらってるところ』
「なに満喫してんだお前」
ちょっと楽しそうで向こうの様子が無性に気になるレンゲだったがそれを口に出すのをグッと堪え、一先ず今日のレンゲ側の調査状況についてを報告した。
それを…特異体に指示を出している存在がいるかもしれないという考察を聞いたクロコは少しの時間黙りこくる。
『もしそれが本当なら相手は多分特級クラス…それも生徒側の区分で、つまり梔子ユメや私に匹敵する奴がいるかもしれない。こっちはシグナルの検知範囲が広すぎてまだまだ探ってる途中だけど…気を引き締めるべき』
「言われずとも。にしても探ってる途中ってことはまだ何も見つけてないのか。ならクロコより先に私達の方が調査を終わらせちまうかもな」
『む…競走のつもり?』
「条件が違うとはいえ特級様に調査の早さで勝ったら中々名誉になりそうだろ?それとも勝てる自信が無いか?」
『…乗った。私が先に調査を終えたらレンゲ達には一日私に付き合ってもらう』
「じゃあアタシ達が勝ったら一日中パシリだ。さぞ稼いでるだろうからたっぷり奢って貰うぞ?」
『負けないからなんでも良いけど』
「ははっ、言うじゃねぇか」
売り言葉に買い言葉。
そこで通話を切り、さて明日は一気に調査を進めようとやる気を高めるレンゲだったが、そこでサオリとミノリがニヤニヤと自分を見ていることに気が付いた。
「…なんだお前ら」
「ふふ、相変わらずクロコと話す時は楽しそうじゃないか」
「共産」
「…は〜?別に、普通だし?お前らと話してる時も変わらないだろ」
「まあまあ、皆まで言うな」
「ブルジョワ〜」
「よっしゃお前ら外出ろ。喧嘩なら買ってやる」
茶化すサオリとミノリにレンゲが釈魂刀を取り出すと、2人は勢いよく廃屋から飛び出して逃げ去っていく。
それをフィジカルギフテッドとしての身体能力を大人気なくフル活用して追跡するレンゲは追い付いた2人の頭を釈魂刀の柄でたんこぶが出来る程度の力で殴り飛ばすのであった。
夜が明けて翌日。
昨晩の出来事がありあまり眠れず寝不足な一同は欠伸をしながら昨日調べなかった方角へと調査の足を向ける。
暫くの間はやはり時々小規模なオートマタの集まりがある程度で異常という異常は見つけられなかったのだが…
「…デモ」
「…またか」
「こりゃまた雁首揃えてやがんな」
「私はそこの鉄塔に上がる」
「なら昨日と同じだな。ミノリ、頼んだ」
「プロレタリア」
そこにはまたもや500は上回るだろう大量のオートマタの気配があった。
念の為不測の事態に備えてサオリが見渡しが良く援護し易い場所に上がり、レンゲとミノリがオートマタの制圧に向かう。
そうして2人がそれらの集団と接触しようとした時…レンゲの無線にサオリからの通信が入った。
『2人共待て!何か様子が変だ!』
「あ?」
「…共産」
サオリから制止が入りレンゲは疑問を感じつつも足を止め、それを聞いていたミノリは建物の影からこっそりとオートマタの様子を伺う。
そこでは…開けた広場で何か巨大な装置を取り囲み、それを操作したり機材を運ぶ等の作業をしていたオートマタ達の姿があった。
その巨大な装置はそれがある広場を囲む建物に隠れる程度の高さで、サオリが上がったあの摩天楼のような鉄塔程の高さでもなければ目視で観測することは出来なかっただろう。
装置は何かの塔…そしてアンテナのような容貌で、あれが連邦生徒会が観測した不明なシグナルの正体だとレンゲ達は思い至る。
オートマタ達に気付かれないように気配を消しそれらが作業する様子を観測するレンゲ達は後で報告書に纏めるために急いでメモを取っていく。
「ありゃ何かと交信してんのか?オートマタは明らかに何かの指示を受けて行動してる動きだな。やっぱり作為的な何かが…」
『今回の目的はシグナルの発生源とその向かい先の特定だったが…あれは破壊した方が良いのだろうか』
「配布された資料には現場の判断に任せるとは注釈されてたが…向かい先の特定だけはした方が良いな。オートマタだけ制圧して、あの装置を調べるか。となると…ミノリ、また頼む」
「プロレタリア」
方針を決めれば行動は迅速に。
オートマタの行動や外見から予想出来る装置の考察などのメモを終えると、身を出したミノリが秘儀を用いてオートマタを一掃しようとする。
が…
『ク──っ…!」
「ミノリ!?」
たった二文字を言うだけで発動するそれを一文字目で止められたのはミノリの直感が危機を察知からに違いない。
即ち…範囲内に、下手に『言霊』の対象に入れれば凄まじい反動を与えてくるだろう強烈な存在がいたということだ。
それを察してその場を飛び退きミノリがレンゲの側まで下がると、その直後に地面が大きく揺れる。
作業をしていたオートマタ達は異変を受けるとその手を止めて各々が武装し…広場の一角の地面が開く。
そして大きな装置が稼働するような轟音が響くと、開いた地面から勢いよく巨大な何かが迫り上がるように出現した。
「はっ、出やがったな!ケセド!」
───”特級神名特異体、ケセド”
球体上の外殻に覆われた特異体。
無数のオートマタを製造し軍隊を増やす脅威の怪物。
そして神名特異体の中では異質な鎮められても時間を置けば再度復活する性質のある特異体である。
それが現れたことで戦意を剥き出しにして挑もうとするレンゲだったが、先程感じた強烈な気配と目の前のケセドが同一のものでは無いと気付いたミノリは今にも飛び出そうと前のめりになっているレンゲの手を引いて更に下がることを促した。
「なんだミノリ?」
「デモ!」
『っ!?マズイ、今すぐそこを離れろ!』
「「!」」
そこに、鉄塔の上から見張っていたサオリが警告を入れる。
仕方ないとミノリと共に後ろに下がったレンゲ───次の瞬間、その目の前にどこから現れたのか地面を踏み砕き粉砕する勢いで巨大な何かが着地し、余波によってミノリと共に吹っ飛ばされ地面を転がった。
「ぐっ…なんだ!?」
「…闘争」
レンゲ達と装置やケセドの間に割り込むように現れたのは、強靭な四脚に支えられるように巨大な砲台を搭載した機械的な外見を持つ存在。
そしてその特徴を持つ神名特異体となればその正体は限られる。
「おいおい突然現れやがって。アタシらのことを待ち伏せでもしてたのか?」
『いや、待て。あいつはともかく、あっちはもう鎮められたと聞いていたが…』
「デモ!」
「サオリ、あれか何か分かるのか?」
『あれは…まさか、ケテルなのか?』
構えたライフルのスコープでその姿を観察していたサオリはKeyとの戦いの後に聞いた諸々の話…クロコ達がマルクトと戦った際に使役されていたというそれと似通った外見を持っていたことで、その正体が特級神名特異体、ケテルなのではないかと想起する。
だが、特異体については特異現象捜査部の授業でその性質を習うが、複製特異体などと違って神名特異体はこれまで一度鎮められた
例として、過去に特級神名特異体のホドや同じく特級神名特異体のコクマーが鎮められているというが、それらが数十年経過してなお再出現することは無かった。
だがしかし、確かにマルクトとの戦いの際に鎮められたケテルはそこにいる。
否、それはその時のケテルと同一の存在では無い。
───特級神名特異体、”完全なる”ケテル
「ケテル…ああ、クロコが言ってたヤツか。おいおい話に聞いてたより強そうじゃねえか!」
「クーデター!」
『ケセドとその軍勢もいるというのに…時間との勝負だな、これは』
キヴォトスの極地にある研究所にて、やはりこの場面は観測されていた。
「…ミ、ミレニアム自治区からの回収率が98%を超えました。けど…」
「お、こっちも会敵したのか。これは、間に合うかな?」
「ま、間に合うも何もケテルちゃんが守ってますし止められなんてしません!」
「そう言ってビナーは破壊されたじゃないですか。あちらは既に回収を終えていたから良かったものを…あそこのケセドは改良版ではありませんし、幾ら不可解な軍隊を製造出来るとはいえ戦力として役に立つのは実質ケテルだけでしょうに」
「ですから、ケテルちゃんは絶対に負けませんもん!」
「まあまあ、取り敢えず様子見ようよ。あとオートマタの何体かにだけ作業を継続して回収を急がせるよう指示出しといてね」