それは、合理を越えた勇猛な仲裁者───
それは、王国を守りし古代の守護者───
やや高めな波が飛沫を上げ、冷たい潮風と合わせて浴びる者に強烈な肌寒さを与える流氷流れる氷海。
海面に浮かぶ薄氷を砕きながら前進する小さなクルーザーの船頭に足をかけ、厚手の黒いコートのフードを抑えながら視線をあっちこっちに向かわせているのはこの氷海の調査へと遥々やってきた砂狼クロコだ。
「…っくしゅん」
「砂狼さん大丈夫ですか?こんな寒い中ずっと外いたら風邪引きますよ?」
「ん…ありがとう。一応危険域には入ってるから、注意は続けないといけない」
「最悪この船がスクラップになるくらいでしたら別に良いんですけどね」
「下手したらその時は君もスクラップになってる」
「あはは…そりゃ笑えないですけど、元々何かあった時被害を最小限にする為に私だけ着いてきてる訳ですし、それで特異現象を鎮められるなら見捨てていただいても構いませんよ?」
調査に来た原因となった正体不明のシグナルの観測範囲に入った以上何が起こるか分からないと、数時間前から冷たい外気に当たる船の外で警戒を続けていよいよくしゃみをしだしたクロコに、この船の操縦の為に1人だけクロコに付き添ったオデュッセイア支部の生徒がカップに入った暖かいココアを渡した。
オデュッセイア海洋高等学校らしい水兵のような制服の上から白い軍服っぽいコートを羽織る彼女は船の外を見下ろし、流氷で船底が傷付いていないか確認しながらクロコに気さくに話しかける。
そんな自重混じりの語りにむっ、と口角を下げたクロコは貰ったココアを片手に一口啜ると、空いたもう片手を彼女の頭に水兵帽の上からポンと置いた。
「まだそんな使い捨てやら犠牲前提の悪習が残ってるなんて…見逃せない」
「と言っても元々海での活動が基本のこの学園だと特異現象捜査部とか関係なく常に皆命懸けですから、死ぬ覚悟さえ出来てればあんまり気になることでもないですけどね。慣れてくると嵐の海も楽しくなってくるものです」
「…さすが海洋高等学校」
一瞬義憤に駆られたクロコだが、彼女からあっさりとそれがデフォで皆納得しているものだと聞かされるとそれ以上強く言う気にもなれずオデュッセイア生の度胸に舌を巻く。
それはそれで過酷な環境での活動を実際に体験したことでもっと安全面の補強をしてもらうべきだと今度学園そのものか新連邦生徒会にでも直談判しようと決めるのだった。
ともあれ、調査を初めて本日で2日目。
今のところシグナルの原因らしきものは見つかっておらず、たまにオデュッセイア生に釣りを教えてもらいながらクルーザーを走らせて領海内を横断して現在進行している氷海はオデュッセイアでも普段侵入することがない海域らしく、出発した時点でもこの辺りが怪しいと一応目星は付けていた。
しかしここで障害となるのが船の進行を妨げる流氷とこの極寒の気温で、船の座礁を避ける為に探索は慎重にならざるを得ず、警戒の為に船の外に出ているクロコの体力も奪って来る。
(別にこれくらいで戦えなくなる訳じゃないけど、もしここで特級に相当するような特異体が襲って来たら、今の冷えて悴んだ感覚で交戦したらちょっと面倒かな。自分の身はともかく…)
不利な環境だろうと特級特異体に遅れを取るほどクロコは弱くないが、庇う相手がいるとなると話が変わる。
1人で行動できる地上ならばまだしも、専門の知識や船を動かす技術が必要な海上をクロコ1人で調査できるはずもなくオデュッセイア生の付き添いが必要になった訳だが、防衛戦に付きまとう制約の厄介さは死滅回遊での元ミレニアム自治区
「…考えることが多いと面倒」
「なんにせよいざとなったら全然海に沈めてくれて構わないので、それより件の特異現象が民間人に牙を剥くことがないよう力を振るってください」
「ん…」
彼女の言うことは立派だしクロコも同じ立場になれば同じような事を言うだろうが、それを散々レンゲ達に咎められたこともあって複雑な気分になる。
自己犠牲の精神は果たして美徳と言えるのだろうか、「”死んで勝つ”と”死んでも勝つ”は違う」とはホシノの言だが、ヒナといいクロコ自身といい、周りにはどうにもそれを無視する輩が多くて今頃ホシノも『うへ〜』と嘆いていることだろう。
「私が言えたことじゃないけど、意識改善も課題…連邦生徒会の解体に関わった以上、今の特異現象捜査部がもっとよくなる為に私は尽力する義務がある」
「自己犠牲の正当性の話ですか?誰かの為に危険を厭わない人がいる以上、その危険を無くすしかないんじゃないでしょうかね〜、なんて」
「ん、じゃあその方向で行こう」
「…え、マジですか?」
「確か前にミカさんが特異現象を発生しなくする研究をしてた筈だし、この件が済んだらトリニティにでも行ってみる。その後は回復中のクズノハ様の所を訪ねて手がかりがないか聞いて…」
「うわぁ、凄いフットワークぅ…でも…」
割と本気で特異現象の完全な抑制の目標を語り始めるクロコに若干引き気味になるオデュッセイア生だったが、それが自分達の為でもあるのだろうと察するとこんな人と任務を共に出来た事が誇らしく感じるようになった。
きっと、帰ったら他の生徒に自慢することだろう。
そんなこんなで雑談を交えたり釣りをしたりで氷海の奥へと進んでいくと、遠方に巨大な氷山を見つけたところで今晩を越す準備を始めることにした。
クルーザーの中は外よりは暖かいし休息用の寝床もあるが、クロコは氷海に入ってから感じるようになった肌を刺すような悪寒…勿論冷気とは別に感じるそれを警戒し、今日はずっと船外に留まるつもりだった。
「という訳で君は中で寝てていい」
「いや流石に罪悪感が…雪も降ってきましたし、クロコさんが中で寝ないというのなら私も…」
「良いから、ね?」
「えぇ…」
強引に説得してオデュッセイア生を船内で休ませようとするクロコだったが…そんなクロコのコートの内ポケットに入っていた無線が着信を伝えると、2人は言い合いを止めてそれに耳を傾ける。
無線に出ると、相手はどうやら特異現象捜査部の監督オペレーターのようだった。
『クロコさ…先程レン…達からの連絡…』
「…無線の通りが悪い」
「少し天気が荒れてきましたしね。雲が厚いようですし、雷でも降るかもしれません」
『すみま…要点だけ…レンゲさん達…元ミレニ…区の廃墟…級特異体、ケテル…セドと交戦、シ…原因らしき装置…爆してサンプルが…』
雑音とノイズが通信に混ざり、そこまで話したところで無線は途切れてしまった。
顔を見合わせるクロコとオデュッセイア生だったが、一旦2人で船内に入ると通信の内容について話し合う。
「ノイズのせいで飛び飛びでしたけど、どんな内容が分かりました?」
「ミレニアム自治区の方のシグナルを調査してたレンゲ達が特級の特異体と交戦したみたい。相手はケテルと…多分ケセドかな。し、し…シグナルの原因?っぽい装置がなんとか」
「やっぱり何かいるんでしょうか。シグナルの発生に何か装置が稼働してるとすればこの氷海にそれがある可能性は…低いんでしょうかね?陸地も無いですし」
「或いは海中にあるのかもしれない…この船海底探査とか出来る?」
「一応ダイビングスーツとかは積んでますけどこんな氷海で素潜りしたら余裕で死にます」
「必要になったらその時は私が…いや、センセイに沈んでもらうか」
何処かからか聞こえた気がする”クロコ!?”という抗議を無視したクロコは外を見ようとするが、雪と霜が窓を全面覆っているせいでそれも叶わず、仕方なく一度船の外に出ようと扉を開き───急速に吹き付けてきた冷気が一瞬で船内を凍結させ始めると、慌てて扉を閉めて背中で押さえつけた。
「な、何…?」
「さぶっ…何ですか今の!?自然の冷気じゃありえないでしょう!?」
「不自然…特異現象!!」
一瞬外気に触れただけでクロコのコートの裾はガチガチに固まり、入口付近は薄く氷がまとわりついている。
前髪にも霜が降りてやや固まっていることを不快に感じたクロコは神秘をあれこれして力業で熱を発しそれらを解凍すると、船内の暖房をフル稼働させて行きオデュッセイア生を集められるだけの毛布で包んだ。
有無を言わせず包まれていくオデュッセイア生はクロコが満足気に「よし」と呟く頃にはミノムシのように変えられてしまう。
「いやよしじゃないんですけど。急に何ですかこれ」
「多分もっと寒くなる。耐えるために暫くそうしてて。それに出ようと思えば出られるでしょ?」
「手際良すぎて驚いて動けませんでしたけどね。っていうかまた1人で…!」
「ごめん、今は私の言う通りにして」
抗議するオデュッセイア生を船内に置いて、クロコは再び扉を開けると急いで潜り抜けて扉を閉める。
今度は神秘で身体の周囲を保護しているため…オデュッセイア生にも同じような保護をしている…衣類や装備が直ぐに凍りつく事は無いが、クロコの圧倒的な神秘総量があるから出来る力業でありそれでも維持するには激しい神秘の消費が必要になる。
(長時間は厳しい…早急に原因を叩く!)
船の上に上がったクロコは激しく吹き荒ぶ吹雪のせいで視界が悪い中、全神経を集中して周囲に意識を巡らせる。
特異現象によって引き起こされているせいか例によって吹雪そのものが神秘を持ち、引き起こしている原因を神秘を辿って特定するのは困難。
故にクロコが今回頼ったのは直感だ。
(北…違う。東…違う。南…こっち!)
足元が滑りやすいのも気にせず船の上でゆっくりと回っていたクロコは何かが居そうな方向を勘で割り出すと、そちらへと手を向けてその中に神秘を収束させていく。
今はまだプレナパテスを完全顕現させていないため大した出力は無いが…クロコの神秘総量のゴリ押しで放たれるそれは並大抵の相手にとって十分な威力を発揮する。
即ち、純粋な神秘の放出だ。
「消えて」
見据える方向に黒い神秘のエネルギーをそのまま解き放つクロコ。
放たれた神秘は待機を引き裂きながら暗い海を明るく照らし、その熱量によって一瞬吹雪が埋め尽くす空間に穴を穿ち、一直線に開けた視界を作り出す。
それを見逃すことなく注視したクロコは───その先の巨大な流氷の上に鎮座する
(あれは…っ!)
クロコは船の上から飛び出しビームの正面に身を投じると、莫大な神秘を纏って保護した両腕を突き出してそれを受け止めた。
高出力のそれをなんとか弾く形で受け流したクロコは船の下の流氷に着地するが、自分の両腕を見て顔を顰める。
クロコの両腕は肘元まで分厚い氷に覆われ、それに閉じ込められた腕からは急速に感覚が抜けていく。
腕の力で強引にそれを砕いたクロコだが、再び視界を覆い尽くした吹雪の奥から聞こえた爆音に反応して船頭に上がると、背負っていたライフルを取り出して船に迫っていたミサイルを撃ち落としていく。
(さっき一瞬見えた姿、このミサイルの武装…間違いなく神明特異体。出力からして特級相当。それに無線からの連絡…確認されてる特級特異体の中で該当するのは…でもあれはもう鎮められてるって聞いたし、こんな吹雪を起こす能力があったとは聞いてない…色々と面倒なことになってそう)
少なくとも船…オデュッセイア生を守りながら相手するにはやはり不安な相手。
クロコ自身の神秘の量も気にしなければならないことを考えると短期決戦を挑むしかなく、大抵頑強な性質を持つ神名特異体を相手にはやや無謀だが、それでもやるしかない。
(…動いた)
吹雪の奥で特異体が移動したようだが、一度捉えればクロコの勘はもうそれを逃がさない。
例え吹雪の中に隠れようが海中に隠れようがその探知から外れることは出来ないだろう。
面倒なのはこのまま海中に潜り続けられてずっと吹雪を起こされることだが…と、クロコが考えられる懸念の対策を編んでいると、船のエンジンが起動して氷を砕きながらゆっくりと発進を始めた。
船内のオデュッセイア生が動かしたのだろう。
(…確か船にはソナーもあった。それを使ってクルーザーを動かせばある程度特異体との距離には気を遣えるか。ならそっちはそっちに任せるとして…)
船の操作をオデュッセイア生に頼ることにしたクロコは特異体が消えた海中に意識を向け、勘で得られる特異体の方向に向かって神秘放出を打ち下ろす。
薄氷を砕いて海中へと神秘のエネルギーが突き抜けて行くがこれもあくまで牽制程度、特異体のアクションを誘発し隙を伺う為の挑発だが、特異体はこれに反応。
海中から再びあのビームを船へと放ってきた。
「一気に行く───来て、センセイ!」
”うん”
プレナパテスに呼びかけて完全顕現させたクロコはその力を借りて再び手の中に神秘を収束させ…先程とは比べ物にならない威力にまで引き上げられたそれを解き放つ。
放たれた圧倒的な出力の神秘放出は襲いかかるビームと衝突すると、それを打ち破って海中へと直進し、その先にいる特異体に直撃した。
海中での着弾の爆発がその直上に巨大な水柱を生じさせ、上がった高波が船を大きく揺らす。
並の特級特異体ならば今の一撃で消し飛ぶが…クロコは訴えかける自身の直感に従ってプレナパテスに「守って!」と指示を出すと船の側面に回ったプレナパテスはその凄まじい膂力を持って直進中の船を一気に真横へと押し出す。
その直後───先程まで船があった場所の真下から巨大な影が突き上げた。
ようやく間近に姿を収めたことで、クロコもその正体に確信を持つ。
現れたのは、全身機械の巨大な体躯にパイルバンカーや大型の砲台、ミサイルポッドやその他多数の武装を搭載した四脚の特異体。
怪獣を彷彿とさせる姿のそれは過去に幾度となくキヴォトスに災害の如き被害を撒き散らしてきた凶悪な怪物…しかし、何年も前に小鳥遊ホシノと梔子ユメによって鎮められ調伏、その後紆余曲折を経て完全に消失を確認された筈の存在。
───特級神名特異体、”完全なる”ゲブラー
「さっきの攻撃…当たったと思ったけど効いてない?そんな筈は…」
海上に飛び上がったゲブラーは先程の神秘放出を受けてもその装甲には破損どころか傷一つ付いておらず、流石にクロコも眉を顰めてしまう。
あれが最大火力では無いがそれでも相応の神秘を消費して撃つ大技、それで無傷となるとクロコでは削り切れない相手ということになってしまうが…
(…いや、違う)
違和感を覚えたクロコだが、海上に飛び上がったゲブラーは重力に従ってその巨体を再び海へと鎮め、あの質量が海面に叩きつけられたことによって生じた波が船を押し流してくる。
さらに押し流された方向には巨大な流氷があり、このままでは船が衝突してしまう。
「っ…センセイ!」
クロコの呼びかけに流される船の反対側に回ったプレナパテスは船を受け止めて流氷との衝突を防ぐが、そちらにプレナパテスを回してしまえばゲブラーにはクロコだけで対応しなければならない。
船から少し離れた位置の流氷に身を乗り出したゲブラーは搭載したポッドから大量のミサイルを、右肩のキャノン砲から直線に飛ぶ榴弾を、さらに海中に突っ込んだ右脚部から放った魚雷が、多方向からの攻撃が同時に船を襲う。
「こんのっ…!」
それをクロコは壁のように広範囲の神秘放出でその全てを巻き込んで撃墜する。
少なくともプレナパテスが顕現している間は無制限に神秘の供給を受けれるため神秘の残量を気にする必要は無いが、プレナパテスが完全顕現していられる時間はあと4分弱しかない。
この間に出来るだけゲブラーに攻撃を通し、あわよくばそのまま鎮めてしまいたいが、そう上手く行く筈もなし。
プレナパテスに船を守るよう指示を出したクロコはゲブラーの方へと向かって大きく跳躍して飛びかかると、正面にその姿を捉え次第ライフルを撃ち込んだ。
(…弾かれた。届いてない。さっきの神秘放出もあれで防がれたんだ)
しかし、弾丸はゲブラー本体に届く前に不可視の壁に阻まれて弾かれる。
あのバリアの限界値が不明な以上、とにかく今は絶え間無く攻撃を続けるしかない。
ゲブラーが乗り上げている巨大な流氷に着地するとライフルを撃ち込み、クロコを狙ってくる機銃の掃射を駆け回って回避しながら様々な角度から狙いをつける。
時折ゲブラーの攻撃の切れ目を見つければ高出力の神秘放出を放つが、それもやはりバリアに阻まれて本体には届かない。
(バリアは無敵?耐久値に限界がない?ダメージは蓄積する?それとも一瞬の間にバリアの限界を上回る負荷を加えないとダメ?)
一つ一つゲブラーのバリアの弱点を探っていき、可能性を潰していく。
そして恐らくチマチマ攻撃を加えるだけではキリが無いと判断すると、ゲブラーを船のある方から反対側に向かせるように誘導すると、思念でプレナパテスに指示を出した。
クロコの方へとその巨躯を向けたゲブラーは搭載しているあらゆる武装を解放しながら面攻撃をしかけ、ここまでの攻防でクロコにバリアを破れる手段が無いと判断したのかそのまま突進を仕掛けてきた。
クロコはミサイルや流氷の真下から狙ってくる魚雷を回避しながらも迫ってくるゲブラーに真正面からぶち当たりに行く。
そして両者が衝突する直前…クロコは足元の流氷にかかと落としを叩き込むと、神秘によって強化されたその一撃によって足場となる流氷が砕けゲブラーとクロコが乗る流氷が分断される。
それと同時に、ゲブラーが乗っていた流氷が
何が起きたのかと驚いた様子のゲブラーが振り返ると、そこではプレナパテスがゲブラーが乗る流氷を膂力だけで掴みあげていた。
そしてその流氷をプレナパテスはゲブラーごと投げ飛ばし、投げ飛ばされた方向にあった氷山にゲブラーは流氷と挟まれる形で衝突する。
直ぐにそれを振り払い氷山に脚部の爪を食い込ませる形で斜面に身体を固定したゲブラーは忌々しいとでも言うようにプレナパテスを睨みつけるが、クロコの姿が消えていることに気が付くとキョロキョロと周囲を見回し…そして上を向いた。
「今のところ威力じゃどうにもならないから…これならどうかな───『
クロコはプレナパテス完全顕現中に行える力…クロコ本来の秘儀である『秘儀の
クロコが突き出した両手は秘儀の力によって空気の面を叩き割り、硬度や耐久力を無視してゲブラーのバリアを破壊した。
すかさずバリアに空いた穴へと飛び込んだクロコは氷山に張り付くゲブラーに向かって神秘でありったけ強化した拳を振り下ろし、海中へと叩き落とす。
ゲブラーの装甲を掴んでそのまま一緒に海中へと沈んだクロコはそのまま追撃を続け、何度もゲブラーへと殴りかかった。
バリアの圧倒的な防御力に対して、ゲブラーの装甲は常識の範囲内…一撃で地割れを作れるクロコのパワーを考えれば十分桁外れな防御力だが…故に、この調子ならば力づくでゲブラーを解体出来る。
冷たい海水がクロコの体温を奪っていくが、神秘での保護によるゴリ押しでもう暫くは耐えられる。
(逃がさない、このまま破壊して────っ!?)
ゲブラーの表面の装甲を引き剥がしてその内側へとクロコが攻撃を加えようとしたその時…クロコは脳内に鳴り響く直感に従ってゲブラーから手を離し、急いで海上に浮上しようとする。
(熱っ…!)
先程まであれ程冷たかったというのに、打って変わって浮上しようと泳ぐクロコは背後から感じる熱波によって身体が焼かれていくのを感じていた。
茹でられる前になんとか浮上したクロコは海上で待っていたプレナパテスに抱えてもらって空中に逃げるが、いつの間に近づいてきていたのか海中から迫ってきた巨影…ゲブラーとは異なるそれが飛び上がり、強靭かつ重厚な前足がプレナパテスごとクロコをはたき飛ばす。
吹っ飛ばされたクロコはプレナパテスと共に丁度その方角にあったクルーザーの窓へと突っ込み、船内へと転がった。
「ひゃっ!?す、砂狼さん!?大丈夫…熱っつ!?」
割れた窓から、凄まじい熱気が船内へと流れ込んでくる。
舌打ちしながら起き上がったクロコはオデュッセイアを自分の神秘で包み込んで保護するが、その場凌ぎにしかならない。
ゲブラーの吹雪と冷気によって極寒の世界となっていた氷海は、新たに現れた特異体によって一変。
海が沸き立ち流氷が蒸気を上げて急速に溶けていく灼熱の地獄へと変貌した。
それを引き起こした特異体にクロコは見覚えがある訳では無いが、その姿を見てそれに近しい特異体が記憶の中の知識に存在していることに気が付いた。
すっかり吹雪が無くなったことによって視界は開け、それによってその特異体の姿はよく見える。
ゲブラーよりもさらに大きく、脚部や胴体はより太く、如何にも重量級といった風貌のそれはゲブラーとはまた異なる怪獣を彷彿とさせる容姿だ。
そしてそれは、クロコの知識では何十年も前に鎮められた筈の存在だった。
オデュッセイア生もそれに気付いたのか…いや、実際にずっと前にかつてオデュッセイアが迎え撃った存在だからか、その正体に思い至ったようだ。
「そんな、あれは…40年前に先輩方が…当時の特異現象捜査部が総力戦を仕掛けて鎮めた筈…!」
「…特異体の正体が公表される前は隠蔽の為にその被害をカバーストーリーで誤魔化してるっていう例で聞いたことがあるけど…あれが来た時のカバーストーリーは確か、『キヴォトス外の侵略勢力からの戦略級攻撃』…だったかな」
逆に言えば、そうでも言わなければ誤魔化せない程の被害を出した存在とも言える。
即ち───
───特級神名特異体、”完全なる”コクマー
キヴォトスの極地にある以下略
「過去の戦闘データを元に改良を加えられたコクマーちゃんは預言者の中では随一の武力を誇ります!それに今回の作戦に当たってゲブラーちゃんと連携するアルゴリズムを事前に組んできてるので、負けようがありませんよ!」
「そうだと良いけどねぇ…でもぶっちゃけゲブラーとコクマーはもう回収を終わらせてるんだから勝とうが負けようがどうでも良くない?」
「うっ…」
「確かにソフの言う通り砂狼クロコも私達の障害とはなりえませんが、不確定要素が消えるに越したことはありません。さらなる戦闘データを得られるというだけでも利点はありますからね。ゲブラーだけならいざ知らず、コクマーの力は最早”戦争”そのものと同等です。さあ、果たして特級という名の一騎当千の”
オデュッセイア生
オリジナルモブ。
原作ほぼ情報ないから制服は想像。水兵服に帽子がマスト、髪は水色系のイメージ。
オデュッセイア生は割と皆覚悟決まってる感じ。
ちなみに学園ぐるみで特異現象の存在はミレニアム事変より前から認知してる。