彼の守護天使の名前は”Rasiel”と”Chamael”───
氷海調査中にクロコ達の前に姿を現した特級神名特異体、”完全なる”ゲブラー。
それを追い詰めようとしたクロコを阻んだのは、新たに現れた特級神名特異体、”完全なる”コクマーだった。
コクマーが有する能力により周囲の温度は爆発的に上昇し、その高熱は極寒の海をも煮立たせ、ゲブラーの力により生じていた触れたものが一瞬で凍結する冷気が一転、生物の生存を許さない灼熱の熱気へ変貌していた。
ゲブラーと比較しても圧倒的なコクマーの放つプレッシャーにクロコはこの暑さ故か緊張故か頬を汗が伝い、クロコに保護されなんとか熱気から守られているオデュッセイア生は心配そうに視線をクロコと船の外に行ったり来たりさせている。
「コクマー…40年前にオデュッセイアの管轄する港を襲った怪物…厄介」
「っていうかこの熱気どうするんですか…一体の海が沸騰してますし、多分この辺の生態系崩壊しますよこれ」
「…あれがこの海域から動く前に鎮める」
クロコが以前コクマーが現れた時の記録を見た際はこのような熱気を放つ能力を持っていたような記述はなかったと記憶しており、当時は撃退出来たらしいコクマーがもし再びキヴォトスの領土に侵入するようなことがあればこの熱気だけで殆どの防衛を壊滅させてしまうだろう。
それ以前に、この能力を発動されたまま移動されるだけで通過した海域の生態系が根こそぎ滅びかねない以上、もはやこの場で対処する以外の選択肢は残されていない。
だが当然、クロコにとってもあれは楽な相手では無い。
加えて…
「…!ソナーに反応!?砂狼さん!下から来ます!」
「っ!センセイ!」
コクマーに意識を向けていたクロコにオデュッセイア生がそう呼びかけると、クロコはプレナパテスに指示を出して船を引っ張らせて無理矢理船の位置を移動させた。
その直後、先程まで船があった場所からゲブラーが浮上し、同時に搭載していたキャノン砲を船へ向けて発射してくる。
それを間に割り込んだプレナパテスが受け止めるが、それと同時に今度はコクマーが動き出し、その巨体を海へと叩き付け巨大な高波を起こした。
船を転覆させんと迫る波をクロコは咄嗟に高出力の神秘放出で迎え撃つ。
一直線に放たれた神秘の光線は波を穿ち割り、船の左右へと避けさせる事に成功するも、ついでに狙ったその奥のコクマーは片前脚部を突き出すようにしてそれを受け止め、鬱陶しいとでも言うようにいとも容易く弾いていた。
「あっつ…!?」
「そりゃそんな雑な防ぎ方したら飛沫が上がりますよ!?」
しかも無理に迎え撃った事で激しい水飛沫が上がり、高温のそれを思いっきり被ったクロコは思わず声を上げてしまい、オデュッセイア生にツッコまれる。
別に常に神秘により肉体を保護しているクロコにとってはこの程度なら火傷にもならないし我慢しようと思えばできるが、少し飛沫を被るだけで一々この高熱に晒されると思うと流石にウザイことこの上ない。
しかしそんな呑気な事を考えている余裕をくれる筈も無く、奇襲を防がれたゲブラーは搭載している巨大な砲台から凍結のビームを放とうとチャージしているのをクロコは確認すると、嫌々船の上に飛び上がった。
「ど、どうしましょう!?一応この船対大型特異体用の魚雷とか積んでますけど撃ちますか!?」
「いい。それより今は船を出して、出来るだけ全速力で。操縦は任せる」
「は、はい!」
「あいつらは私がどうにかする」
慌てるオデュッセイア生に指示を出して落ち着かせ、クロコも今の状況を分析する。
プレナパテスが顕現していられる時間もあと1分と少ししか無く、コクマーの熱のせいで足場に出来る流氷が次第に減少して行くのを見るにこの船を失えばクロコの水中での行動力などたかがしれており、水中での機動力に長けているゲブラーやコクマーからすればいい餌にしかならないだろう。
(今は船を守りつつ、センセイが顕現している間にどうにかあいつらを攻略する手がかりを見つける。顕現中に鎮めるのは諦める)
どう見てもゲブラーのものよりも分厚く頑強そうなコクマーの装甲を見て辟易とするクロコだったが、1度深呼吸して…高温の空気を思いっきり吸って喉が痛むのを堪え、船が動いたのを確認するとゲブラーの方へと振り向きそちらに飛びかかった。
急に狙われたことに驚いたのか一瞬硬直するゲブラーだったが、直ぐに機銃とキャノン砲により撃墜を図るも、クロコの正面に出たプレナパテスが耐久力にものを言わせてそれらを受け止めてながら突っ込み、ゲブラーの頭部へと張り付く。
ゲブラーは頭部を振り海面へと叩きつける事でプレナパテスを振り払うが、その隙にクロコがゲブラーへと近付き───それをコクマーが正確な狙いで放った火炎弾により邪魔される。
「チッ…」と舌打ちしたクロコはようやくその接近に気付いたゲブラーのキャノン砲によって吹き飛ばされ、空中へと打ち上げられる。
そんなクロコをコクマーは見上げるが、標的を離脱しようとする船の方に定めたようでそちらに向かって再び火炎弾を複数放っている。
それをクロコは直下に放った神秘放出で叩き落とすが、すかさずゲブラーが船の方に接近し直接叩き壊そう動く。
それを防ごうとプレナパテスがゲブラーの正面に立ち塞がるも、至近距離で放たれた凍結のビームで凍らされ海に沈んでしまう。
だがそれでも少しの足止めにはなり、その間に海面近くまで落ちてきたクロコは僅かに漂う完全に溶けかけている流氷を連続で跳び移ってゲブラーに追い付き、両手を合わせてハンマーのようにして振り下ろしゲブラーを海中へと押し戻した。
ついでにその反動を利用して船まで跳び、船の窓を突き破って船内に飛び込むとそれに驚いて肩を跳ねさせたオデュッセイア生から「わざわざ窓破って来るな」と言いたげな目で見られるもそれを無視し、窓から外を振り返ってゲブラーとコクマーの様子を確認する、が…
「…コクマーがいない?」
「ソナー…船から大きく離れた位置の深くを迂回してますね」
「周り込もうとしてる…よし、あんまり移動させたくないし次はあっちに跳ぶ」
「ちょっ、後ろから来てるゲブラーは…!?」
「大丈夫、すぐ戻ってくる」
コクマーが潜航している方へと大きく跳躍したクロコは途中ゲブラーの方を見やると、船を追いながらキャノン砲や機銃、ミサイルポッドを展開していたようで、次の瞬間にはそれらが放たれて船は沈められてしまうだろう。
が、先程凍らされて沈んだプレナパテスが海中から勢いよく飛び出ながらゲブラーの顎を打ち抜き、あの巨体がその場で一回転してひっくり返る。
それと同時にプレナパテスの顕現時間も終了を迎え、接続が切れてプレナパテスが消滅してしまった。
(これで私への神秘の供給も止まるし
風向きは悪くなっていくばかりだが、自分を奮い立たせたクロコはコクマーが潜航する真上まで跳ぶと真下に向けて神秘放出を放つ。
プレナパテスとの接続が切れたことでその威力も先程と比べて遥かに落ちるが、その攻撃を受けたことでコクマーの注意がクロコへと向き、直ぐに浮上してくる。
ありがたくその上に着地しようとするクロコだったが、それを嫌がったコクマーは自身から強烈な熱を放って接近するクロコを焼こうとする。
「熱いっ…けど…!」
それにも怯まず、そのままコクマーの背部に着地したクロコは同時に落下の勢いを乗せた拳を振り下ろし、その衝撃がコクマーの装甲の表面を歪ませる。
しかし装甲はあまりにも硬く、大して効いた様子のないコクマーは全身から炎を吹き出し、自分自身を火だるまにすることでクロコが離れざるをえなくした。
コクマーの背から降りれば着地できる足場は無く、渋々沸騰する海へと着水したクロコは全身が茹でられる感覚に表情を歪ませながらも平泳ぎで潜水し、海面から突き出る岩礁を目指す。
(…ちゃんと邪魔してくる)
だが、コクマーはクロコが目指した岩礁に火炎弾を放って破壊し、同時に泳ぐクロコの背中目掛けて口部を開き、巨大な火球を放ってくる。
圧倒的な熱量のそれは海中に入っても炎が弱ることはなく、容赦なくクロコへと襲いかかって爆ぜた。
「ゴホッ、ゲホッ…ああ、嫌になる」
海面まで浮上したクロコだったが、追跡してきたコクマーが背部から火炎弾を連射し、それが雨のように一帯へと降り注いだ。
泳ぎながらそれを回避していくクロコだが、火炎弾が船の方にまで届こうとしているのを見ると慌てて神秘放出によってそれらを撃ち落とすも、そのために動きを止めてしまったことで火炎弾の一つが直撃してしまう。
炎や熱湯で熱され続けた事でクロコの体力も急速に消耗し、それを避けようと神秘による肉体の保護を強めれば今度は神秘の残量が不安になってくる。
(私の今の神秘はあと5割くらい…センセイの力を借りれないとこんなものか。Keyみたいにもっと効率よく神秘を運用出来たら消耗を抑えられるんだろうけど…いい加減神秘を雑に消費する悪癖をなんとかしないとホシノ先輩にまた怒られる)
自己分析で若干現実逃避しつつも火炎弾の爆発に紛れてなんとか足場にできる岩礁まで泳いだクロコはまたそこが破壊される前に船の方まで跳躍し、甲板へと着地した。
コクマーは再び追跡を再開し、ゲブラーもまたプレナパテスにひっくり返されたところから復帰して来ている。
「砂狼さん!そろそろ良い感じの場所です!」
「ん、分かった」
雑な指示で船を出せと言った訳だが、その意図を汲んでくれていたオデュッセイア生はクロコが向かいたかった場所へと船を進めてくれていた。
それ即ち…
「海面から海底まで距離が近く、海底から突き出す岩礁が大量にあるので大きなタンカーがよく座礁して事故を起こしやすい海域ですが、この船なら問題ありません。砂狼さんが足場にできるような海面から露出している岩礁も多いですしね」
「海域の知識が豊富で助かる」
「オデュッセイア生ですから!」
「ん、ありがとう。船はこのまま奥の方まで進めて離脱して。後は私がここで決着を付けるから」
「…お気を付けください」
オデュッセイア生に感謝を伝えたクロコは船を行かせて近くにあった大きな岩礁…丁度良い足場になりそうなちょっとした島にも思える巨大な台状のそれに降り、ゲブラーとコクマーを待つ。
少しして、岩礁へと脚をかけ登ってきたコクマーとゲブラーは、互いに顔を見合わせるような動きをするとゲブラーが岩礁の中央に立つクロコに対して遠回りするように岩礁の外側を移動し、そして最終的にコクマーと共に挟み撃ちにするように位置取った。
それを大人しく待っていたクロコは背負っていた銃…専用に調整されているので大丈夫だろうが海中に潜ったことで動作不良が起きていないことをチェックすると、弾倉を入れ替えて準備を整えた。
「ふぅ…行くよ」
コクマーとゲブラーが武装を展開したのと同時に、クロコはコクマーの方へと駆け出した。
対して、コクマーは前脚部を地面に突き立てると岩礁の中を神秘が走り、それがクロコの進路でピタリと止まった。
危険を察したクロコが足に急ブレーキをかけると、そのすぐ目の前で岩礁が割れ、そこから火柱が勢いよく立ち上る。
そうして動きを止めたクロコの背後から今度はゲブラーが凍結のビームを放つも、クロコがそれを横に跳んで避け、スレスレで通過して行ったビームはその奥のコクマーに直撃する。
だが流石に簡単に同士討ちするほど甘くはなく、コクマーは体表を覆う氷を熱により一瞬で溶かしながら砕き、クロコ目掛けて背部から連射した火炎弾を降り注がせてくる。
「そればっかり…もうネタ切れ?」
雨のように降ってくるそれらを避けながらクロコがそう呟くと、それが聞こえたのかは分からないがコクマーは目と思われる部分を光らせ、口部を大きく開きその中に莫大なエネルギーを収束させ始める。
あいつら煽り聞くのか?と疑問に思ったクロコだったが、そんなコクマーのチャージの隙をカバーするようにゲブラーがミサイルを放ってクロコを牽制し、ビームを巨大な砲台ごと真横に振って広範囲を凍結させた。
(熱かったり冷たかったり忙しい…互いの熱と冷気でも動きに支障が出てないあたりそもそも温度変化そのものに強力な耐性がある?ゲブラーはともかくコクマーは装甲が硬すぎて物理攻撃じゃ歯が立たない。何か、大きなダメージを与える手段は…っ!)
ゲブラーの猛攻を捌きながらなんとか活路を見出そうと思考を回転させていたクロコだったが、その間にチャージを終わらせたコクマーはえづくようにビクビクと身体を震わせ───限界まで開いた口部から、超広範囲を飲み込む炎を放射した。
炎は一瞬でクロコを飲み込み、そしてかなりの広さのある岩礁の台の全体を覆ってなお余りある範囲を包み込む。
そんな炎の嵐に飲まれたクロコは必死にそれを耐えようとするが、炎に抵抗しようと神秘による防御を強めればクロコの神秘がガリガリと削れていく。
(これ以上神秘を消耗するとこいつらを仕留めるのに必要な分が足りなくなる…!でも、動けな───)
「───えっ…?」
炎を耐えるのがやっとで動けずにいたクロコだったが、突如として放射されていた炎が止まった事で呆気に囚われる。
何があったのかと炎が晴れて視認できるようになったコクマーの方を見ると…コクマーの身体に何本かの太いワイヤーのようなものが絡みつき、その動きを阻害していた。
そしてワイヤーの伸びる先を見れば、そこには離脱するように伝えた筈のオデュッセイア生の乗る船あるではないか。
確かに小型とはいえ特異現象の調査用の船なのだから何かしらの武装を積んでいるだろうとは思っていたが…
「───砂狼さん!」
「っ!」
呆然とするクロコにオデュッセイア生が呼びかけ、ハッとしたクロコが振り返ると背後からゲブラーが飛びかかりながら前脚を叩きつけようとしていた。
それをバックステップで避けるも、休む暇を与えずゲブラーはキャノン砲と機銃を放ってくる。
それを見切って回避しながら逆に距離を詰めたクロコはゲブラーの頭部の下に回ると、真上へと飛び上がりながらゲブラーの顎下を殴りつけた。
先程プレナパテスが打ち抜いたのと同じ位置を攻撃したことで元々弱っていた装甲に致命的な損傷が走り、ゲブラーが大きくよろめいた。
クロコはそれを見過ごさず、体勢を立て直される前に亀裂が出来たそこにライフルの銃口を突っ込み、神秘で強化した弾丸を直接ぶち込んでいく。
圧倒的な量の神秘で強引に強化された弾丸の威力は馬鹿にできるものでは無く、それによって装甲の内側を直接攻撃されたことでゲブラーは苦しむように大きく身体を揺らし、顎下に取り付くクロコを振り落とそうとする。
それに耐え、弾倉が空になるまで銃撃を続けたクロコは今度は亀裂に手をねじ込み、無理矢理広げるようにして亀裂をこじ開けると露出した装甲の内側へと向けて拳を叩き込んだ。
打ち込まれたクロコの拳はゲブラーの頭部内を滅茶苦茶に破壊し、ゲブラーは身体をビクンと震わせた。
だがまだコアが無事な為完全に停止することはなく、ゲブラーは滅茶苦茶に全ての武装を展開してあらぬ方向にミサイルや弾丸、ビームが飛んでいく。
放たれたミサイルはまともに誘導されずにフラフラと跳び、ゲブラー自身に落ちて爆発するものもある。
そうして落ちてくるミサイルに巻き込まれないようにゲブラーの体表を駆け回ったクロコは、コクマーが現れる直前に攻撃していた地点…既に装甲を剥がされて内部が露出していたそこに辿り着くと、脚を振り上げた。
「これで、終わり…!」
振り落とされたかかと落としが剥き出しの装甲内へと直撃し、駆け抜けた衝撃はコアまで届く。
そして───滅茶苦茶に武装を展開していたゲブラーの動きが次第に遅くなり、やがて頭上のヘイローが点滅を繰り返してゆっくりと消える。
ゲブラーは崩れ落ちるようにその場に倒れ、その背に乗っていたクロコは岩礁の上へと投げ出され地面を転がった。
「ぐっ…ゴホッ、ゴホッ…ハァ…ハァ…まだ、コクマーが…」
確実にゲブラーにトドメを刺すために無理に身体強化に注いだ神秘の量を増やした事で激しい疲労に襲われるクロコだったが、まだ倒すべき敵が残っている。
呼吸を整えながらそういえば今コクマーはどうなっているのかとそちらの方にクロコが目を向けると───
「───あっ…」
コクマーを抑えるために船から放たれたワイヤー。
コクマーは逆にそれを船ごと引っ張り、自身の側まで引き寄せた船を口部で掴み上げていた。
クロコの優れた視力はそんな船の中で、クロコの方を見てはにかんで笑いながら何かのボタンを押すオデュッセイア生の姿を捉え────コクマーが船を噛み砕いた。
「…」
そして、次の瞬間。
コクマーの口内で爆発が起こる。
確かあの船には対特異体用の魚雷が積んであると言っていたので、オデュッセイア生はそれの起動ボタンを押したのだろう。
不思議とクロコは冷静に状況を飲み込み、理解し、納得すると…痛む身体に鞭打ち、強引に強化した身体能力に任せて一瞬でコクマーへと接近し、掌印を結んだ。
「神秘解放───ウトナピシュティム」
広がった領域が、コクマーを捉える。
領域に入れられたコクマーはその状況を理解すると甲高い駆動音を上げ、頭上のヘイローが輝きを増した。
直後、コクマーを強い衝撃が襲う。
「『
空間の面を捉え防御を無視して対象を叩き割る一撃はコクマーを僅かに怯ませるが、その装甲にあまりダメージは無い。
それを見るやクロコは領域内で拾った白い銃身にピンクの差し色が入った銃をボロボロ崩すと、また別の銃を拾う。
それを乱雑にコクマーへ向けて撃つと、クロコはどこからともかく取り出した四つの小型ドローンを起動させ、それらをコクマーの周りを周回するように飛ばせた。
周囲を飛び回るそれらを煩わしく思ったコクマーは全身から炎を放出してドローンを焼き払いクロコに反撃しようとするが、見えない何かに触れてコクマーの身体が弾かれ、装甲に僅かな切り傷が付いた。
何が起きたのかを瞬時に判断しようとするコクマーだが、その前に───領域の発動によって本来のクールタイムを待たずして顕現出来るようになったプレナパテスが拳を振るい、圧倒的な膂力によってコクマーを殴り飛ばす。
あくまでそれは強烈な衝撃によりノックバックさせただけでありコクマーの装甲にあまりダメージは入っていないが、先程のドローン…その軌跡に置かれた『領域』は触れたコクマーを切り刻む…ことは出来ず、装甲の表面を傷付けコクマーを弾くのみで終わる。
「これもダメ…次は…!」
続いてクロコは黒地に赤と黄の差し色が入ったアサルトライフルを掴み取り、適当にコクマーへと乱射する。
そして大きく息を吸い込み…
『潰れろ』
真上から強い衝撃を受けたようにコクマーがうつ伏せに領域の地面へと叩きつけられる。
『潰れろ』
『ねじれろ』
『壊れろ』
クロコは連続で『言霊』の秘儀を使うも、多少装甲が歪むなり薄く装甲の表面が弾ける程度でキリがないと判断すると銃を崩し、今度は2丁銃を手に取った。
良いようにされていたコクマーは視線をクロコへと向けると背部から放った火炎弾を雨のように降り注がせて反撃を図るが、それを待ってましたと言わんばかりに空中に飛び上がったクロコは片方の銃…白地にピンクの差し色が入ったそれをコクマーに向けて打ち尽くすと、空間を掴んで歪め、その歪みに降り注ぐ火炎弾を巻き込みながらぐるぐると回転し火炎弾を渦にして集めていく。
そしてほぼ全ての火炎弾を絡め取ると、それらをコクマーへ向けて投げ返した。
散弾のように火炎弾がコクマーに降り注ぐがやはり殆ど効かず、次にクロコは領域内に突き刺さる銃の中でも一際目立つ巨大なその武装をコクマーへと向ける。
それ…
しかしメインはそれに付随する秘儀…怯んだコクマーに飛びついたクロコはその装甲に手を触れさせ、
「『捌』」
コクマーの装甲を斬撃が走り───装甲に薄く傷を付けるだけで終わる。
「っ…!」
何をやっても、コクマーのあまりに強靭な装甲を貫けない。
接触するクロコにコクマーが全身から炎を吹き出して反撃しようとするが、それをプレナパテスが殴り飛ばしつつクロコを抱えて離脱することで逃れた。
「駄目、私が勝てなかったら…無駄になる…!」
(そもそもさっきから領域に付与されてる蒼森ミネの『救護』が効果を発揮してない…領域に入れた直後あいつのヘイローが輝きを増してた…簡易領域みたいな特殊な防御が発動してる…?)
領域を維持する間も急速に神秘を消耗する。
そもそもコクマーの放つ熱から身を守る為に既にかなりの神秘のリソースを割いているため、今現在の瞬間的な神秘の消費速度は莫大だ。
これだけ消費速度が早ければプレナパテスからの神秘の供給が追い付かず、神秘が消費する量の方が多い。
もし領域が維持できなくなるまでコクマーを倒せなければその時点で詰みだ。
そんなことは、クロコは絶対に許せない。
決して親しい相手では無いが、それでも数日2人きりで旅をした仲だ。
その死が無駄に終わるなど、クロコは絶対に許さない。
だが、どうやっても攻撃が通じない。
(どうすれば…どうすれば…どうすれば…)
”クロコ”
「…センセイ」
”落ち着いて、良く見て”
「…ん、大丈夫」
プレナパテスに呼びかけられ冷静さを取り戻したクロコは殴り飛ばされてから体勢を建て直しているコクマーをよく観察し…そして”それ”に気が付いた。
(あれは、さっき爆発した…)
コクマーの口部、普段はぴったりと閉じ火球や火炎放射による攻撃時のみ開いているそこが、内側から弾けたように一部欠けていた。
恐らくは───先程船を噛み砕いた時、内側から魚雷が爆発たことで破損したのだろう。
(…狙うなら、あそこしかない)
「…センセイ、手伝って」
”もちろん、任せて”
プレナパテスと息を合わせたクロコは、コクマーが地面に前脚部を突き立てた事で生じる地面から上がる火柱を回避しながら、コクマーとの距離を詰めていく。
近づかせまいとコクマーに近付くほどに火柱が増え、更に無数の火炎弾も飛んでくる。
それらを領域を駆け回り地面に突き刺さる銃を回収し、ストックしている秘儀を駆使しながら着実にコクマーへと接近していく。
そしていよいよコクマーのすぐ近くまで迫り、そこでクロコは黒地に赤と黄の差し色が入った銃とレールガンを拾うとそれを直ぐさま打ち切って宿っている秘儀を使用する。
『働くな』
『言霊』によってコクマーの動きが一瞬硬直し、その隙を逃さず急接近したクロコ。
それと同時に、クロコがコクマーに近付くのを待っていたプレナパテスがコクマーの口部へと取り付き、口内で魚雷が爆発した事で破損した装甲の隙間に手をねじ込み、強引にコクマーの口部を開かせた。
そこへ、同じくそこへと辿り着いたクロコは先程拾ったレールガンをプレナパテスがこじ開けたコクマーの口内へとねじ込み、レールガンをチャージした。
「ぐっ…!」
だがそれを放つ前にコクマーは全身から炎を吹き出してクロコ達を引き剥がそうとする。
炎に炙られながら、クロコは必死に耐えながらレールガンのチャージが終わるのを待つ。
最早クロコ本人の身を守る為に神秘のリソースは割かれて居らず、全てのリソースはレールガンを強化するために注がれている。
(早く…早く…!)
チャージの完了まで残り5秒となったところで、コクマーは炎の勢いを更に強め、頭部を降ってクロコ達を振り落とそうとしてくる。
更に口内からも直接炎が吐き出され、クロコは至近距離から炎に焼かれることになる。
だがそれにもクロコは耐え、レールガンのチャージは残り2秒、1秒と減り────
「光、よ!」
後輩の真似をしてクロコが叫ぶと同時、チャージを終えたレールガンから放たれたのは極大出力のエネルギー砲。
かつての百物語で梔子ユメを退けたそれを思わせる威力のそれはコクマーの口内に炸裂し、外側からでは歯が立たなかった装甲を無視して直接内部を破壊した。
爆発の衝撃でクロコとプレナパテスは共に吹き飛ばされるが、コクマーは悲鳴のような唸り声を上げて暴れ周り、滅茶苦茶に炎を吹き出した。
地面を転がったクロコはなんとか起き上がると、コクマーの頭上のヘイローの輝きが弱まっているのを見てほくそ笑んだ。
「は、ははっ───出力最大、『救護』」
暴れるコクマーに、領域の空から光の柱が落ちる。
秘儀を消滅させる効果のあるそれは特異体の身体を構成する神秘の結合を弱め、劇的にその強度を弱体化させていく。
これも万全なコクマーにならばそこまで効果を発揮しなかっただろうが…内側に大打撃を入れられたことにより秘儀や神秘に対する防御機能が停止したことで、この攻撃はコクマーにとって致命的なものになる。
光の柱に飲み込まれたコクマーは激しい唸り声を上げ…そしてボロボロと崩れていく。
コクマーの身体が完全に灰のように崩れ領域の地面である砂漠と同化する程に散り散りになるのを見届けたクロコはほっと息を吐き、領域を解除した。
「…勝った、けど…」
岩礁の上にへたり込むクロコは、目の前に広がる沸騰する海…コクマーが消滅したことで時間が経てば温度は下がるだろうが、海洋への影響を考慮するとため息しか出ないそれを眺め、その場に仰向けに倒れ込んだ。
「…特異現象捜査部ではよくあること。散々学んだ筈なのに…」
忌々しい程に照りつける太陽を見上げながら、クロコは今は全てを忘れたいと意識を手放すのだった。
キヴォトス極地の以下略。
「…まあ、ドンマイ!」
「ひぃん…」
「ふむ、他と比べればいい線行きましたけどね。ですがコクマーがやられるとなるともう単純な武力であれ以上は中々用意出来ません。どちらにせよ私達のやることは変わりませんが…まあ良いでしょう。”完全なる”ケセドからの回収も間もなく終わりそうですし、それが済めば私達の勝利は確定したようなものです。後は吉報を待つとしましょう」
「う、う〜!皆強いんですからね!無敵なんですからね!」
「でも負けてるじゃん」
「ひぃん…!」
特級神明特異体”完全なる”ゲブラーと”完全なる”コクマー
新たに強化されたゲブラーは装甲や武装は当然として、圧倒的なバリアによる防御力が特徴。
単純な威力による破壊はほぼ不可能と言える堅牢さを誇るが、防御力を無視してダメージを与えるハナコの秘儀によって裏技気味に突破されてしまった。
また冷気を操り吹雪を起こす能力も獲得し、環境を急変させる災害の如き力を手に入れた。
脅威度はKeyの
そして過去にキヴォトスを襲ったというコクマーを改良されたこの”完全なる”コクマーは熱と炎を操る能力による広範囲の制圧と圧倒的な装甲強度にものを言わせたまさに移動要塞。
物理攻撃への耐性はゲブラーのバリアに劣るが、特殊な防御機能を作動させることで簡易領域のような防御が働き、神秘や秘儀を用いた攻撃にも圧倒的に硬くなり、領域の必中効果からも逃れられる。
防御を無視してダメージを与える筈の『薄衣』があまり効かなかったのもそのせいだが、この防御機能が作動していない領域に入れられる前ならば『薄衣』はそれなりの有効打になりうる。
コクマーとまともに戦う前にゲブラーにプレナパテスとの接続を消耗させられたのが運の尽き。
口内を狙えば大ダメージを与えられるが別にコクマーも鈍くは無いので、攻撃の為に口を開いたところをクロコが全速力で狙おうとしてもその前に口を閉じられるのがオチ。
その脅威度はKey