ブルア廻戦   作:天翼project

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彼の守護天使の名はRaphael───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トリニティ自治区に出現したシグナルの調査の為、諸々やらかした事への精算を含めて一時的に特異現象捜査部の指揮下に入ることになったハナコ、ハルナ、ツルギの元特級アウトロー3人組。

そしてそれをサポート…もとい引率する羽目になったイチカは、シグナルの発生源である自治区の地下に根を広げるカタコンベへと乗り込むことになったのだが…変則的に構造が変化するカタコンベの迷宮の真っ当な攻略を嫌ったツルギによりシグナルに近い位置の地面が粉砕、剥き出しとなったカタコンベへと直接降りることになり、現在も迷宮の壁や地面を粉砕しながら強引にシグナルを追ってカタコンベの奥深くへと進行していた。

 

「あ、あの〜…仮にも今まで慎重に調査されてきた迷宮なんすけど…下手に迷宮を壊したら何か悪い影響が出るかもしれないっていう先人の熟慮なんすけど…」

「現在進行形でマズイことになってそうなんだろ?ならさっさと潰しちまった方が早い」

「そういう問題じゃないと思うんすけどねぇ〜…」

「待ってくださいツルギさん。そんなやり方ではいけませんわ」

「私もそう思います」

「ハルナさん、ハナコさん…!」

 

先程から豪腕に任せてカタコンベの壁や地面をぶち抜いていくツルギのやり方に、苦言を呈するように言った2人にイチカは希望の眼差しを向けた。

自分が言っても止まらないだろうし力づくで止められるはずも無いが、ほぼ同格の力を持ちその上で拘留中にいつの間にか仲良くなっていたらしい彼女達の言葉なら或いは…が、当然のようにそんな希望は儚く散ることになる。

 

「一々壁や地面を1枚1枚破って行ってもキリがありませんわ。ここは私の『グラニテブラスト』で縦に深々と穴を空けてしまいましょう!」

「それにカタコンベの大迷宮がどのような力でその構造を保っているかも分かりませんが、崩落すれば私達はともかくイチカさんが危ないので私が壊す方向を指定しますのでそれに従ってくれると助かります」

「そうか。なら任せる」

「…まあ最初に地上ぶち抜いた時止めてくれなかった時点で薄々察してたっすけどね、ははっ…」

 

期待とは別方向の意見を出し始めた2人に、イチカは乾いた笑いを漏らす。

そんな小さな声は何やらガチャガチャと準備を始めたハルナ達の喧騒によって溶けるようにかき消され、暫くした後に激しい光が瞬くと、底の見えない深い穴が穿たれそれを成した3人はそれは仲良さそうにハイタッチをしているのだった。

 

 

 

(やっぱりこの人達シャバに出しちゃダメなんじゃないっすかね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚痴を零しつつ割と好き放題暴れてカタコンベを破壊しながら進んでいくほぼアウトロー3人組について行くイチカは、道中でシグナルの探査用に持ってきた装置で反応を測定しながら発生源の方向を着々と絞り、ハナコが上手く計算をしたりツルギやハルナが迷宮を切り開くお陰でなんだかんだ調査自体は順調に進む。

 

「…しかし、何もありませんわね」

「本当にこっちで合ってるのか?」

「この機械が正確ならその筈なんですけどねえ」

「リオ部長やウチのエンジニアがレンゲさん達が回収したサンプルとデータを元に急ごしらえで調整したシグナル測定器っすからね。本人達からも『前のよりはマシだと思うけど精度にはあまり期待するな』とのことっす」

「なら間違ってるかもしれないのか…やっぱりこのカタコンベ丸ごとぶっ壊した方が早くないか?」

「そこまで派手にやったら地上にまで影響が出かねないから駄目っすよ」

「装置の精度が不確かな分は私が修正していきますので、ひとまずはこのまま進めていきましょう」

「ではもう暫くは進路はハナコさんとイチカさんに任せるとしましょうか。それでも何も見つからなかった場合は…適当な方向に掘り進ませてもらいますわ」

「勘弁してほしいっす」

 

ある程度このアウトロー達との付き合い方に慣れてきたイチカは装置が観測するシグナルの波長や強さ、揺らぎをよく観察し、ハナコと相談しながらその発生源を少しずつ見定めていく。

途中ツルギが面倒臭くなって派手に壁を破壊しながら奇声を上げたり、ハルナが何処に隠し持っていたのか弁当を取り出したり、ハナコから下ネタを振られたりとイチカのストレスを貯めてくるイベントはあったものの…

 

ツルギとハルナも当面は大人しく指示に従ってくれるため何か動きがあるまでは順調に進みそうだと胸をなでおろした矢先…シグナルを観測していた装置が大きな反応を捉えた。

 

「…近いっすね」

「今までの波長のパターンからこの方向に100と数十m程…直進した方が早いですね。ツルギさん、何枚か壁を抜いて行ってください。ハルナさんはいつでも最大出力で打ち込める準備を。イチカさんは…守りやすいよう私の傍から離れないでくださいね♡」

「は、はいっす…」

 

真剣に、しかし何故か艶っぽくそう言うハナコにイチカは少し面食らい、僅かに顔を赤くしながらハナコの背後に隠れるように立つ。

それを確認したハナコはツルギとハルナの方へと頷くと、それを受け取ったツルギは2丁背負っている内の片方のショットガンを片手に、空いたもう片手で正面の壁を殴り飛ばして粉砕する。

その奥に別の通路が現れると、さらに進んでもう1枚壁を破壊する。

さらにさらにその奥に通路が現れるともう1度壁を破壊しようとして…思い留まったツルギはハルナの方へと振り返ると、アイコンタクトだけで指示を出した。

 

「…分かりましたわ」

 

それだけで意図を察したハルナはハナコの方へと合図をすると、ハナコもまたそれに頷き背後のイチカを唐突に掬い上げるように背負った。

 

「なっ…!?」

「しーっ…現場の事なら私達の判断に任せてください。これでも、踏んで来た場数は特異現象捜査部の皆さんにも負けてない自信がありますから♡」

「…経験豊富って事っすね」

「あら、ノリが良い方は好きですよ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタコンベの深部、その中でも一際広々とした空間。

その中央に鎮座するのは、”同士”達により与えられた指示に従い自らの役割をこなしていた特級神名特異体…否、彼の者達の呼び名で言うのならば、”預言者”───”完全なる”ホド。

そしてホドはその役割を先日終えたばかりであり、現在は新たに与えられた指示である余剰リソースの確保の為に未だその場に留まっていた。

既にノルマはこなしているのであくまで残業のようなもの、帰投のタイミングは己の判断で良いと受けたホドであったがせっかくならばと可能な限り取れるだけ確保していこうと作業を続けていたのだが…ホドが自らのテリトリーとしていた空間、その上方の地上部で大きな振動が起こったのを検知していた。

 

その後振動は少しずつホドのいる空間へと接近しており、それが自らを、或いは同士達が用意した機材を狙っている者だと確信したホドは回収していたリソースの一部を変換し、広々とした空間に三角形の頂点を位置取るように3本の柱を組み上げた。

 

そして振動はホドのいる空間のすぐ側へと接近し、壁数枚を隔てた先から破壊音が響く。

1度、2度と破壊音が続き、遂に音は壁1枚を隔てた先にまで近付く。

そこから敵が現れることを見越してホドは自らに搭載している武装…超高出力のエネルギー光線を放つ目のようにも口のようにも見える部位と、その他エネルギー弾を撃ち出す多数の兵装を音の方向へと向け、その壁が破られた瞬間に敵を消し炭にするつもりで武装にエネルギーを装填していく。

 

壁の奥の敵はホドが構えていることに気が付いたのか一旦破壊を辞めたようだが、1呼吸置いて直進することを決めたのか破壊を継続し、ホドの狙う壁に亀裂が走り────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『グラニテブラスト』…ですわ!」

 

 

ホドの狙うのとはまるで違う方向から飛来した高出力の神秘エネルギーがホドの側面に直撃し、装甲の表面を著しく溶解させた。

直後、攻撃者の方向に意識を向けたホドはすかさず第二撃を繰り出そうとする娘…ハルナへと装填していた武装のエネルギー弾を解き放つ。

が、

 

「ふふっ…お返しします」

 

ハルナとエネルギー弾の間に割り込むように物陰から飛び出てきた娘…ハナコが秘儀により空間を掴み、歪ませるとそれに巻き込まれたエネルギー弾は本来の軌道から外れ、ハナコの掴んだ空間の動きに合わせて向きを変えホドへと向けて跳ね返される。

エネルギー弾に装甲を削られながらも、ホドはならばと自身に接続された複数の鎖のような長い金属の触手を操り、それを縦横無尽に動かしてハナコとハルナを狙う。

 

その時、最初にホドが狙っていた壁。

それを突き破って新たにツルギが現れた。

 

だが、ずっとその方向への警戒は解いていなかったホドはツルギが現れた瞬間に主砲に装填したエネルギーを解き放ち、極太のエネルギー光線がツルギを飲み込む。

同種の預言者の中でも最高峰の装甲の強靭さを持つコクマーでもなければタダでは済まないだろう超火力の光線。

これに幾ら神秘に精通していようが名も無き神々の力も持たない生身の生徒(ニンゲン)が耐えられる筈も無いだろうとホドはハナコとハルナの方へと意識を向けるが…

 

 

「余所見、してんじゃねぇよ!」

 

 

ボロボロになりながらも勢いの衰えることなく突っ込んできたツルギが、ホドへと急接近する。

それに対して咄嗟に触手で迎撃しようとしたホドだが、振り回された触手を腹で受け止めたツルギはそれを手で掴み、触手を半ばから腕力のみで引き千切るという荒業に出た。

 

ビチビチと蠢く触手の先の方を得たツルギはそれを鞭のように振り回し、遠心力を付けてホド本体に叩きつける。

その衝撃により叩きつけられた触手はバラバラに砕け散り、装甲にも深い傷が付けられた。

 

「デクの棒ですわね。もう1発景気の良いのを行きますわよ───『グラニテブラスト』!」

 

再度放たれた高出力の神秘エネルギーがホドを襲おうとするが、今度は触手で拾い上げた瓦礫を盾にそれを防ぐ。

続けて触手を薙ぎ払いハルナを狙おうとするが、駆け付けたハナコがハルナを抱え上げ、共に空中に飛び上がることでそれを回避する。

その間にツルギはホドに接近しようとするが、対してホドは触手を地面に突き立てると、触手の先からエネルギーを地面へと流し込み…駆けていたツルギの足元から登るような雷撃を発生させ、ツルギを空間の天井へと叩き上げた。

 

「ツルギさん!…流石に学習が早いですね」

「『グラニテブラスト』も対応されました。別のパターンなら意表を突けるでしょうが、それも2〜3回もやれば通じなくなりそうですわね」

「ツルギさんとハルナさんは攻撃手段が単調になりがちですし、仕方ありません。メインアタッカーは私がやります」

 

ホドの対応力の高さから即座に役割を変更したハナコは、歪めた空間をトランポリンのようにして飛び跳ね、ホドに近付いて行く。

それをさせまいとホドも触手を振り回すが、ハナコは空間を歪めることによって触手の軌道を逸らし、或いは形を歪め、直撃を防いでいく。

触手を地面に突き立てる事で発生させる雷撃も、来ることが分かっていればハナコ自身の下側の空間に常に歪みを作ることで対処出来た。

 

そして遂にホド本体へと接触したハナコは両手を合わせて…ホドへと突き出すようにして秘儀を発動させる。

 

「『薄衣(うすらい)』」

 

突き出された両手は薄氷を砕くように空間の面を捉えて叩き割り、それに巻き込まれたホドの装甲は硬度を無視して破壊される。

表面に浅くない亀裂が走り、この攻撃を受け続けるのはマズいと察したホドは全身のエネルギーの循環を早め、強制的に負荷をかけることで自らを帯電させた。

 

「む…」

 

ホドの身体から電光が迸り、近くにいるだけで肌がピリつく感覚を受けたハナコは咄嗟に後方に跳んでホドから距離を取るも、追撃しようと電流を帯びた触手が追ってくる。

空間を歪めることで直撃は避けられるも、付近を通り過ぎるだけで僅かながらも痺れを与えてくるこれをどう防いだものかと高速で頭を働かせようとするハナコだが、それを助けたのは先程雷撃で天井にまで打ち上げられたツルギだった。

 

「き、ひゃひゃひゃひゃ!」

 

弾丸のように降下してきたツルギはハナコに迫る2本の触手を両脇で掴むと、感電するのも気にせずにそれを逆に勢い良く引っ張り、剛力に耐えられなくなった触手が根元から引き千切られた。

千切られた触手は激しい火花を上げ、本体から離れてもなお敵対者を仕留めんと独りでにうねりツルギへと絡みつき締め付けようとするも、それを軽く引き裂いたツルギは獣のように前傾姿勢を取ると、這うような動きで一気にホドへと迫る。

 

慌ててホドは地面に触手を突き立て雷撃で迎撃しようとするも、急加速したツルギにそれが間に合うことはなく、その勢いのまま突撃したツルギは指をホドの装甲の表面にねじ込み、力任せに装甲の1枚を剥ぎ取った。

そして剥き出しになった装甲の内側にショットガンを打ち込もうとするも、ホドはエネルギーの負荷をさらに高めて全身から全方位に向けて激しく放電させることでツルギを吹き飛ばして引き離すことに成功する。

 

さらに放電は離れた位置にいたハルナとハナコも撃ち抜くが、ハルナは自前の圧倒的な神秘出力による肉体の保護で、ハナコは自身の正面の空間を歪めることで迫る放電を拡散し直撃する放電を最低限にしてダメージを抑えている。

直近で放電を受けたツルギもまた本人の凄まじいタフネスと強力な神秘による自己再生能力により感電して破壊された細胞も瞬時に回復し、まだまだ継戦の意を見せていた。

 

 

現状を分析したホドは、自らが不利であると結論付ける。

既にツルギによって6本ある内の触手の2本が全壊、1本が半壊。

装甲も3人からの猛攻によって所々に甚大なダメージが入り一部に至っては完全に剥がされ脆い内側が露出してしまっている。

この状況を打破するには…否、同士達の目的の障害になりうるこの3人を排除するには手段を選んでいられないと判断したホドは、戦闘前に空間内に設置した3本の柱───『インベイドピラー』を起動することを決める。

 

 

「…っ!?これは…ツルギさん、ハルナさん!あの柱を破壊してください!」

「っ…了解、しましたわ!」

「…分かった」

 

 

いち早く異変を察知したハナコは高い攻撃力を持つ2人にインベイドピラーの破壊を指示し、ツルギとハルナもそれを了承するも、2人が動き出そうとしたのと同時に───インベイドピラーはそれらを中心として、空間全体を飲み込む3層の領域を展開した。

 

「チッ…きぃえぇぇぇぇぇぇ!」

 

破壊する前にインベイドピラーの起動を許してしまったことに舌打ちしながらも即座に破壊を試みようとするツルギだが、打ち込まれた拳は思ったような力が出ず大したダメージを与えられなかった。

同じく、別のインベイドピラーを狙ったハルナもまた『グラニテブラスト』を放つが、放たれたのは本来のものとかけ離れた低出力の神秘エネルギー光線。

勢いの感じられないそれはインベイドピラーに直撃するも、表面を薄く煤けさせるのみでやはりダメージはほとんど与えられていない。

 

「神秘の出力が強制的に抑制されている…今から神秘解放して中和しようとしても、展開した領域そのものの出力も下げられて一瞬で塗り潰されて終わりでしょうね。さて、どうしたものでしょうか…」

 

先程までは押せ押せの状態だったが、こうなってしまっては立場が逆転してしまう。

ここからホドの反撃が始まると警戒を強めるハナコだったが…

 

当のホドは、残っている万全の3本の触手と半分程度だけの触手をハナコ達へと向けて振り回すだけで、エネルギー弾や光線、雷撃等の攻撃が飛んでくることは無かった。

秘儀も上手く機能せず神秘による肉体強化も弱められている現状ではそれも充分脅威になり得るが、場数を踏んでいるハナコ達にとってはそれぐらいなら持ち前の運動神経と戦闘勘だけで回避出来るものであり、そう簡単にやられるはずも無い。

 

「…この領域、あいつ自身も神秘出力を抑制されてるのか?」

「そのようですわね。見たところ私達が使うような神秘解放とは異なる原理で働いているようです」

「おそらく必中効果として私達に影響が働いているのではなく、空間そのものに神秘の抑制が働いているのでしょう。それで領域の内側にいる限りは敵味方関係なく神秘出力の抑制を受けると…面倒ですね」

「全くだ」

 

確かにホドも決め手を失ってしまうが、元より有利だったのはハナコ達。

そして元々攻め手に欠けていたホドと同じ土俵に引きずり下ろされてしまえば、圧倒していた当初よりも負けの目が見えてきてしまう。

優位を取り戻すにはインベイドピラーが展開する領域を解除するしかないが、神秘解放で抵抗するのはハナコの言った通り困難、そして領域を展開しているインベイドピラーの破壊も今のハナコ達では困難だ。

 

「これは長丁場になりますわね。幸いツルギさんが本体の装甲を一部剥いでくれていますし、そこを集中攻撃すればなんとかなるでしょうか?」

「そう簡単にはいかないと思いますよ?ほら、触手の1本で露出している部分を覆い隠してますし…ちょっとエッチじゃないですか?」

「グラビアじゃねぇんだぞ」

「あらツルギさんもそういうの読むんですね、意外です♡」

「お前後で覚えてろよ…」

 

ややピンチとはいえ調子は変わらずおちょくってくるハナコを軽く睨んだツルギは、しかしどうしようかと頭を悩ませる。

神秘の出力を抑制されてもツルギは素で並大抵の特異現象捜査部の生徒をねじ伏せられる豪腕を持っているが、それだけでは通じない程度にはインベイドピラーは強固だ。

少なくとも現状物理的な攻撃では太刀打ち出来ない。

そしてそれはホド本体も同様…圧倒的な火力不足、ハッキリ言って手詰まりだ。

その上今はある程度余裕を持って振り回されているホドの触手を回避出来ているが、一応体力に限界があるツルギ達に対して特異体であるホドにスタミナの限界などあろうはずも無い。

いつかは疲弊した所をすり潰される。

 

「…とにかく今は手数を増やすか」

 

近付いても仕方ないので両手にショットガンを装備したツルギはホドの周囲を駆け回り触手を回避しながらあらゆる位置に、あらゆる角度から射撃を加えていく。

それにならってハナコとハルナも縦横無尽に空間を動き回りながら射撃を行い、3人分の手数でホドを撹乱しつつ隙を狙っていく事を決めた。

 

 

 

そしてそんな3人の様子を、物陰から覗くのは思ったよりインベイドピラーの広げた領域の範囲が広くその内側に巻き込まれてしまったイチカだ。

 

(な、なんでこんなことに…ハナコさんが安全な場所にって降ろしてくれたのに全然戦闘範囲じゃないっすか!)

 

ホドを観察しながらシグナルの大元に近付いた事でその解析を行っていたが、こうなってしまってはそれどころでは無いと苦戦する3人を眺めながら現状の打開策をイチカは練る。

 

(領域の発生源はあの3本の柱…効果は領域内の全ての存在の神秘出力の抑制。あれはあの特異体…というか、外見からして何年か前に出現が途絶えた特級神名特異体、ホドっすかね?も神秘出力の抑制は受けていると…でもそれで圧倒的に不利になっているのはハナコさん達の方…あれをどうにかしないと最悪全滅まで有り得るっすね。あの柱をどうにか…柱…見たところ完全に機械っすけど…いけるんすかね?)

 

領域による抑制によって全体のレベルが下げられたとはいえ、戦闘員ではないイチカの目線では危険極まりない戦場。

しかしこのままでは敗北してしまう可能性があると自分を奮い立たせると、意を決したイチカはその戦場へと飛び出すことを決めた。

 

「…!イチカさん!?何やってるんですか!?」

「馬鹿…隠れてろ!」

「ふむ…?」

 

その行動を見たハナコとツルギは批難するように退避するよう伝えて来るが、ハルナは訝しむと触手を回避しながらイチカの方へと移動を開始した。

その間にインベイドピラーの1つへと到達したイチカは、今回のシグナルの調査の為に持ってきていた様々な機器…その中からもしシグナルの発生源となる装置を見つけた際にデータを抜き取る為のコンピューターを取り出すと、無線でインベイドピラーとの接続を開始する。

 

しかし、今まで息を潜めていた新たな敵がそんな怪しい行動を取れば否が応でもホドの敵視を集め、触手の1本がイチカへと向けて薙ぎ払われる。

 

 

「やばっ…」

 

「いえ、続けてくださいな!」

 

 

イチカを狙ったそれを、割り込んだハルナが受け止めた。

神秘出力を抑制されたことにより神秘による身体強化も弱められ押されそうになるハルナだったが、元々この中でも随一の神秘出力を持っていたハルナはハナコやツルギよりも引き出せる神秘出力は大きい。

故にそれを活かして全力で触手を押し返し、力任せに蹴りつけることで触手を弾き飛ばしてイチカから遠ざけた。

 

「何か狙いがあるのでしょう?であるのならば、その間の防衛は私達が務めさせていただきますわ。指1本触れさせませんので、今は背中を預けさせてくださいな」

「お、お願いするっす!」

 

「…では私達も頑張りましょうか」

「…あいつが1番無茶してるんじゃないか?」

 

ハルナの啖呵にツルギとハナコも肩を竦め、イチカに向いたホドのヘイトを逸らそうと攻め手を強め、イチカが攻撃されそうになれば誰かがそれを全力で防いで受け止める。

その間にイチカはコンピューターとインベイドピラーの接続を進め…

 

「…!やった、繋がったっす!流石はウチのエンジニア製っすね。あとはこっちから命令を与えれば…」

 

元々未知のテクノロジーの装置に接続する為に用意されたコンピューターである為、ある程度の対ハッキング防御を自動で突破できるプログラムが組み込まれている。

これがホド本体、或いは()()()と直接繋がっているシグナルの発生装置であればそう簡単には行かなかったであろうが…仮にも特異現象捜査部を支えているエンジニアやハッカー達が作り上げたプログラムはホドが外付けで制作したインベイドピラー程度、少し時間をかければ突破できるものであった。

 

そしてインベイドピラーにコンピューターを接続したイチカは直接命令を与え…インベイドピラーは命令に従って自壊した。

 

「…少し神秘出力が戻りましたわね」

「領域が1つ解けたな。よし、そのまま残り2つも頼む」

「いえ、それは少し難しいかもしれません。こちらの神秘出力が戻ったと言うことは───っと!」

 

次のインベイドピラーを止めるために駆け出したイチカ。

それを狙って、自身の神秘出力も少し戻ったホドは武装を展開し先程まで使えていなかったエネルギー弾を放った。

それを咄嗟に辛うじて秘儀が使えるようになったハナコが空間を掴んで歪めることで軌道を逸らしイチカから狙いを外させるが、空間を捉える秘儀は出力不足により不安定で、維持が続かずエネルギー弾を跳ね返すまでには至らなかった。

 

「インベイドピラーの1つが止まり神秘出力が少し戻った分、あいつの攻撃も激しくなりますよ」

「上等だぁ、捻り潰してやる」

「イチカさんは流れ弾に御注意を!」

 

そこから、ホドの猛攻が再開する。

少し出力が戻ったとはいえ全力を出せない3人に、イチカ1人を集中砲火する事に決めたホドは稼働できる全ての武装と触手でイチカを狙ってくる。

それらをハナコが逸らし、ツルギが受け止め、ハルナが防ぐことで防衛し

次のインベイドピラーに辿り着いたイチカは再びコンピューターにより接続を試みる。

 

束ねるように捻りひとつにまとめられた触手がドリルのようにイチカを貫こうとするも、それをツルギが真正面から手で受け止め、手を削られ皮膚や筋肉が引き裂かれようともイチカはと届かせない。

放たれるエネルギー弾もハナコが撃ち落とし、或いは逸らし、その間にハルナはホドが守っている装甲が剥げた部分を攻撃しようとすると、慌ててホドはそこを守ろうと触手を引き戻した。

 

(こちらが攻撃を強めればホドも守りに回らざるを得なくなり攻撃が弱まる。そして隙を狙って刺してくるような相手は鬱陶しくて嫌でも意識しなければ行けなくなる。ヘイト管理は乙女の嗜みですわ)

 

(武装が戻ったとはいえこちらも最低限秘儀を使えますし、戦況は未だ五分ですね。そして領域を全て解除出来れば、趨勢は完全にこちらに傾きます)

 

(正直協力はあんまり得意じゃないが…まあマルクトの時以来か。たまにはこういうのも悪くない。身体を張るのは得意だしな。こういう使い方をするのも良いものだ)

 

三者三葉、思い思いの今の状況を分析し自分の役割を果たしていく。

そうしているうちにインベイドピラーとの接続を終え、命令を下して2つ目のインベイドピラーもまた自壊する。

それによりまた領域が1つ解け、ハナコ達に神秘出力がまた少し戻った。

勿論ホドもそれは同様で…そして激戦が始まる。

 

最後のインベイドピラーに駆け出したイチカだが、ホドは地面に触手を突き立てて進路に雷撃を発生させる事でそれを阻む。

対して、ハナコは『薄衣(うすらい)』で、ハルナは『グラニテブラスト』で、ツルギは単純な膂力でホド本体への攻撃も織り交ぜ、エネルギー弾の弾幕や雷撃を交わしながらイチカへの攻撃を少しでも防ぎ、減らそうと攻め手を強めていく。

 

「ツルギさん!もうあなたがイチカさん抱えて連れてってあげた方が早いと思います!」

「分かったそうする!」

「ハナコさん、それでは攻めが1人減るんでその分私達が攻撃しないとイチカさんごとツルギさんが攻撃されますわよ?」

「その分私達が頑張りましょう!」

「ではそのように!」

 

ホドの妨害のせいでインベイドピラーに近付けずにいたイチカを、駆け寄ったツルギが掻っ攫うように肩に抱えてインベイドピラーを目指していく。

地面から登る雷撃を、絶え間なく放たれるエネルギー弾を、縦横無尽に振り回される触手を、それらの隙間を縫うようにイチカを抱えたまま駆け抜けるツルギの反応速度と柔軟性を直接味わうイチカは「ジェットコースター乗ってみたいっすね〜」と半ば現実逃避しながら味わい、そしてインベイドピラーの前に投げ出されたところで直ぐに思考を切り替えてコンピューターにより接続を開始する。

 

その間果敢にホドに攻撃を仕掛けていたハルナとハナコは無理に攻めようとした結果何度かエネルギー弾や雷撃を受けてダメージを蓄積しているようだが、イチカを送り届けたツルギが復帰したことで均衡は戻される。

 

「あ、イチカさん!足元からの雷撃に注意して、1箇所に留まらないよう柱の周りをぐるぐるしながらそれ進めてください!」

「無茶言うっすね!?」

 

しかしやらなければいけない。

イチカはコンピューターの接続を進めながら足元に注意を払い、誰かから呼びかけがある、或いは足元が光ったのを見ると即座にその場から転がるようにして跳び、登る雷撃を回避する。

当然コンピューターが壊されればアウトなので、時折ホドが本体から放ってくる放電はハナコが空間を歪めることで全力でイチカとコンピューターから逸らしていた。

 

「まだか!?」

「もうすぐ終わるっすよ…!あと10…9…」

 

ホドの攻撃は激しさを増し、2つ分の領域が解除されているとはいえ神秘出力を弱められたままではまだギリギリハナコ達が劣勢。

押し切れず攻め切れず、武装を復帰させたホドの手数により着々と消耗が増えるばかりだ。

 

「少し、厳しいですわね…」

「分かってるっすよ…!6…5…」

 

ホドは出力を抑えられながらも少しずつ主砲にエネルギーを装填しており、遂にそれが最大までチャージされたそれをイチカへと向ける。

 

「あれは…今の出力では逸らしきれません…早く…!」

「もう終わるっすよ!3…2…」

 

 

 

そして、限界までエネルギーを主砲に溜めたホドはそれを解き放ってイチカを消し飛ばそうとして────

 

 

 

 

 

 

 

「1…いっ、けえぇぇっす!」

 

直前、コンピューターを介してイチカが下した命令を受け取ったインベイドピラーが自壊する。

それと同時に───

 

 

 

「返し、ます!」

 

最後の領域が解除、放たれるホドの高出力のエネルギー光線。

同時に、本来の神秘出力を取り戻したハナコが空間を捻じ曲げ…光線を空間の歪みに巻き込み、自身の周囲を数回回転させてタイミングを調整すると、ホドへと向けて光線を跳ね返した。

 

返された光線はホドの主砲を直撃し、ホドは大きく火花を上げる。

その直後…

 

「ふふっ…やはり、出し尽くすのが一番のご馳走ですわ!『グラニテブラスト』!」

 

ハルナが放った全力の神秘エネルギー放出が強烈な攻撃を受けて装甲の弱ったホドを直撃、そして真横に貫いた。

グラニテブラストが抜けた方向へと火を吹き、炎上するホドは最後の力を振り絞って全身の負荷を極限まで高め帯電し、逸らそうとしても防ごうとしても意味の無いほどの強烈な放電を行おうとするが…それを意に介することなく、自前のタフネスと再生力で強引に接近したツルギがホドの上部へと手を振り上げ───

 

 

「ぶっ潰れろ」

 

 

───振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某研究所。

その様子をホドの視点を介して見ていた3人組。

 

「ひ、ひぃん…」

「まあそんな気はしてたよね」

「あの中の誰か1人だけならともかく、3人で来られては流石に”完全なる”ホドとはいえ勝ち目はないでしょう。むしろ、咄嗟に機転を利かせて勝ちの目が見えるまでに持ち込んだのは検討した方でしょう」

「インベイドピラーは元々電波妨害用なのに、神秘に干渉出来るように自分でチューニングするとは思わなかったね。でもやっぱりもうちょっと武装詰んだ方が良かったって」

「で、ですがホドちゃんは戦闘向けの預言者ではありませんし…え、えっと…け、ケセドちゃんが丁度回収を終えたそうなので帰投させましょう!負けるとは思ってませんが…ケセドちゃんはまだ役割がありますし…」

「…預言者達が負けるのは悔しいことですが、私達の計画そのものからすればどうでもいいことです。データのバックアップは出来てますので、スペックを元通りにするのは困難ですが記憶だけなら戻せますしね。全てが片付いてから本来のスペックまでゆっくりと回復しておけば良いだけですし…」

「うん、それにこれで全ての回収は終わったわけだから、いよいよ計画も最終段階に進むわけだし」

「っ!つ、つまりようやく…!」

「ええ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───お姉様が、目覚めます」

 




特級神名特異体”完全なる”ホド
以前よりキヴォトスで観測されていたが、数年前に突如として消息を断った特異体(マルクトがしれっと回収していた)
元来よりも全体的なスペックが強化されているが、最も大きな進化はその自己進化能力。
ケセドほど万能かつ迅速ではないがリソースさえあればある程度の機能を持った装置の作成が可能で、本来は今回の計画に当たって特異現象捜査部からの観測を妨害する為の電波妨害用のインベイドピラーを自分で改造して神秘出力を抑制する結界を展開する装置に作り替えた。
ホシノやKeyのような規格外が相手でもなければ、高い学習能力で着実に詰めていくその脅威度はKeyの機器部品(モジュール)10個分未満程度に相当。
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