証明、分析、再現の過程を経て新たなる神は到来した。
「う〜…くたくたです…」
「なんかすっごい久々に帰って来た気分…」
「馬鹿なこと言ってないでほら2人共。アンニュイになってる暇があったらさっさと報告済ませるわよ」
「うわ〜ん!鬼です!」
「そんなの私達がやらなくたって先に連絡入れたんだし迎えに来た監督オペレーターの人達がやってくれるでしょ…」
「駄目よ。現場で実際に見聞きした人の意見も必要でしょう」
キヴォトス各地で突如として観測された正体不明のシグナル。
それらを調査する為に観測点の一つである旧アビドス砂漠の調査に向かったアリス、ヒナ、カズサの3人は調査に協力するハイランダー支部の生徒、ノゾミとヒカリの同行の元調査を進めていたが、そこで過去に鎮められた筈の特級神明特異体ビナーが未知の能力を持って襲いかかって来た。
なんとかビナーを鎮めシグナルの発信源と思われる装置を物色するものの大した情報を得られず、迎えのヘリを用いてS.C.H.A.L.Eへと帰還したアリス達だが、想定外の交戦や移動の疲れ、労力に見合わない成果が重なってすっかりと気力を失い、アリスとカズサは休憩室に入るや否やソファに仲良く座りテーブルの上に突っ伏してしまう。
唯一ヒナはそんな2人を咎めて休憩も程々にオペレーションルームに向かおうとするが、あの砂嵐吹き荒れる砂漠からの帰りというのもあって、防砂用の遮光服でガードしていたとはいえフードの隙間から入り込んだのかモップのような凄まじい毛量の髪のあちこちに砂がこびりついているらしく、自身の髪を弄って気にしているようだった。
「…やっぱり報告より先にシャワー行きません?」
「あ、それ良いね。こんな汗もかいて汚れた状態で報告に行くのも失礼でしょ」
「…はぁ、仕方ないわね」
内心ヒナも行きたいと思っていたのか、渡りに船と言わんばかりにあっさりとヒナはそれを承諾し、シャワールームで軽く身体を流した3人。
湯上りに購買で買ったコーヒー牛乳で一服し、ホカホカした心地良い体温のまま今日は泥のように眠ろうと寮へと戻ろうとし───
「いや流れるように帰ろうとしても無駄よ?さあ報告行くわよ」
「うわ〜ん!悪魔です!」
「ケチ〜!」
「…概ね事前に連絡されてた通りですね」
「「ほらぁ!」」
「何がほらなのよ」
「えっと…続き良いでしょうか?」
嫌がる2人を引きずってオペレーションルームまでやってきたヒナ。
そこで忙しなく各所と連絡を取ったり何やら計測や作業を行っていた監督官や監督オペレーター達の中からシュンを探し、改めて砂漠での出来事を報告する事に。
事前に迎えに来た監督オペレーター経由で連絡を入れていたので新しく伝えるような情報もなく、アリスとカズサは恨みがましくヒナを見やるが、それを軽く受け流したヒナはシュンのデスクの上に作られた書類の山に目を向けた。
「…相変わらず慌ただしいみたいね?」
「他の地点の調査に向かった皆さんからも報告が上がってきてますからね。アリスさん達が調査した旧アビドス砂漠、レンゲさん達が向かった旧ミレニアム自治区の廃墟、そしてクロコさんが調査に向かったオデュッセイア領海でも装置が既に破壊されていたと報告を受けています。今はそれらの情報をまとめたり、回収したサンプルや辛うじて入手できたシグナルのデータの解析に忙しいんです。連邦生徒会の方はもっと地獄と聞きますよ?」
「連邦生徒会…アオイやリオ会長、それにカヤは大丈夫でしょうか…?」
「…あそこが混乱するってことは公的機関や学園にも皺寄せが来るだろうし、多分ヴァルキューレも…後で一応宇沢にも連絡いれとか…」
「死滅回遊の傷跡もまだ回復し切ってはいませんし、今はどこも大変な状況でしょう。調査に協力してくれた皆さんには2日程休日を与えるようリオ会長から通達が来てますし、是非ともゆっくり休息を取るなりご友人を尋ねる時間に使って下さい」
「シュンさ〜ん!手空いてるならこっち手伝って〜!エンジニアチームが人手が足りないって〜!」
「はい、直ぐに行きます!それでは皆さん、また」
「皆さん、本当に忙しそうですね…休むといっても、アリス達だけというのは…」
「まあ確かに罪悪感は湧くけど…」
「専門的な知識の浅い私達に手伝えることは無いわ。それに何度も言われたでしょう。こういったことは先輩を信じて任せるべきよ」
「…そうですね。きっとまだまだアリス達の力は必要になるでしょうし、今は英気を養いましょう!」
忙殺されている様子のフブキに呼ばれ、シュンもそれを手伝うべくアリス達に軽く会釈すると足早にどこかへ行ってしまう。
サボり魔で知られるフブキすら目に隈を作る程切迫した状況で自分達だけ休むというのも気が引けるアリス達だったが、自分達が少なからず疲弊しているのも事実。
ならば現場に出る余裕のない先輩達の代わりになる為にと、3人は寮へ戻りせっかくもらった休日を思い思いに有効活用するのだった。
「…なんじゃこりゃ」
「デモ…!」
シグナルが観測された地点の一つであるレッドウィンター自治区へとやってきたのはレンゲとサオリとミノリのクロコを除いたS.C.H.A.L.E2年生組。
ミレニアム自治区の調査から帰って直ぐにまた向かったものの、他よりも余力を残している3人は意気揚々とシグナルの発生源があると思われる大雪原の調査に乗り出したのだが…
そこで3人が見つけたものは、既に爆破され木っ端微塵になった何かの装置だった。
原型は残されてはいないが、散らばっている部品の中にミレニアム自治区の廃墟で発見した残骸と似通った特徴的なものがあったことに気が付いたサオリはそれをひょいと拾い上げると、廃墟で調査用に念の為記録しておいた写真と見比べていく。
「…やはり、恐らくミレニアムにあったものと同じ機械の可能性が高いな。既に破壊されているのは他の誰かが壊した後…では無いだろう」
「ま〜た証拠隠滅かよ…クソッ、来るのが遅かったってか?」
「革命?」
「ああ、一部の部品がまだ熱を持っている。爆破されてからそこまで時間は経っていないようだな。本当に入れ違いのようだ…それに」
「分かってる…濃い神秘が残留してるな。ほんの少し前までここに、何か厄介なのがいた…多分廃墟にいたあの特異体ぐらいか?」
ここに来た時からひしひしと感じていた肌を突き刺すような濃密な神秘の気配。
それは以前レンゲ達が廃墟で交戦したケテルと同等かそれ以上の神秘を持っていたと推測出来る。
間違いなく交戦すれば面倒なことになっただろうが、幸か不幸かその本体は今はここにはいないようで、既に移動した後なのだろう。
「…どうせならここで潰した方が良かったかもな。逆に面倒なことになりそうな気がする」
「同感だ…他からの報告も合わせると、ここに居たのも恐らく神明特異体だろう。しかし…移動した後が見えないのが妙だな」
「…レジスタンス」
「地面…いや、装置の爆発以外には目立った地面の荒れも掘り起こした後もないし…空を飛んだのか?」
「なんにせよ結局また無駄足ってことだろ?そりゃサンプルは多い方がいいかもしれないけど、大した成果がないんじゃな…いや待てよ、確かミレニアムの方はあの装置が自爆したらシグナルが消えてたよな…?」
「?確かにそうだったが…となるとここのシグナルも消えたのか…消えてるな…」
レンゲの気付きにサオリは持ってきていたシグナル観測用の装置で調べると、レッドウィンターに車での列車に乗っていた時には観測が継続されていると聞いていたこの地域のシグナルが消失していることを確認する。
他にめぼしいものも無いのでまた迎えを呼んで装置の残骸を回収し帰投する流れになるのだが…
そもそも今回はシグナルの発生源の特定が調査の肝だ。
「クロコが調査に向かったオデュッセイア領海とアリス達が向かったアビドス砂漠の方も破壊されてたらしいし、そっちもシグナルが消失してるだろ?ここも消えてるっつーことは残るのはトリニティ自治区だけだが…もう手がかりがあるとしたらそっちだけじゃねぇか」
「…あぁ、例によってそれもデータを取る前に破壊されていればお手上げだな」
「デモ!」
「…確かあっちに向かったのって例のアウトロー共だろ?大丈夫なのか…」
「うふふ、まさか調査中に装置が吹っ飛ぶとは思いませんでしたねぇ」
「いや事前に他のところで自爆してるって伝えた筈なんすけど…調査中にも何度も忠告したんすけど!」
「まあまあ皆さん無事なのですから良いでは無いですか」
「あなた達は頑丈でしょうけど私は死んでもおかしくなかったんすけど!?」
「だから守ってやったんだろ」
トリニティ自治区の調査に赴き、地下に張り巡らされたカタコンベ、その広間にて特級神明特異体ホドと交戦したイチカが引率するハナコ、ハルナ、ツルギの元特級アウトローチーム。
ホドを撃破した後、更に周囲を探索して謎の装置を発見し持ってきていたコンピューターを接続しデータを解析しようとしたものの、解析中に装置が異音を発し咄嗟に反応したハナコがコンピューターを、ツルギがイチカを庇い、ハルナが床を割って全員を下層に落とした事で装置の自爆によるイチカとコンピューターへの被害なんとか最小限にするに至った。
その後なんとか地上に脱出し、イチカは擦り傷程度、コンピューターもデータの解析は中途半端なところで途切れてしまっているものの無事だが、他3人はモロに爆発の煤を被ってあちこちを真っ黒に染めている。
「はあ、また温泉にでも浸かりたくなってきますねぇ」
「また温泉掘り当てるか?」
「あら、良いですわね」
「よくないっすけど!?温泉ってあれでしょう私知ってるんすよ!死滅回遊の時に旧ミレニアム自治区に出来た地割れがあなた達のせいだって!」
「いやあれはクロコのせいでもあると思うんだが…」
「印象的な出来事でしたねぇ」
「そういえばクロコさんを呼んで皆さんでお食事をしたいという話もしましたし、諸々の騒動が収まりましたら温泉旅行にでも行きたいものですわ。あ、その時は是非ともイチカさんも誘いたいのですが…」
「結構っすよ…」
当時のことを思い出ししみじみとした様子のハナコ達にげんなりしたイチカはハナコが保護したコンピューターが途中まで解析していたデータを確認し、それを連邦生徒会とオペレーションルームへとそれぞれ転送する。
先3つの調子ではほとんど成果がなかったようなので、これが今回の騒動を鎮めるきっかけになってくれれば重畳だろう。
「今私達が出来るのはここまでっすね…一応迎えも呼んで装置の残骸の回収も頼まなきゃいけないっすけど…トリニティ支部にも連絡して、そのあと帰ったらまたあの仕事地獄…はあ、やになるっすね〜…」
「あんまり根を詰めると却って結果が出さなくなることもある。仕事が山積みなら今のうちに休んだ方が良いぞ」
「ツルギさんの言う通りです♡というわけで…ね、イチカさん」
「…え、なんすか?私誘惑には別に…」
「実は私各地の美食を探究してる時当然このトリニティ自治区にも足を運んだものですが…私の美食にかける情熱とそれに伴う被害は特異現象操作部の監督オペレーターならばよく知っているでしょう?その私が認める美食を提供してくれる店がこの辺りにあるのです」
「…いや気になるっすけど!仕事を疎かにしてまでサボるつもりは…」
「堅い奴だな。ほら肩の力抜いて息抜きしろ」
「ちょっ…!?」
ハルナの甘事も振り払い迎えを呼ぼうとするイチカだったが、それを止めたツルギは強引にイチカを肩に担ぎ上げると、抵抗も無視して道へと出る。
それを軽く追い越したハルナはイチカが連絡を入れようとしていた端末を奪い取るとこの辺りの地図を検索し、目当ての店がある方へと先導するように歩き始める。
「行くって言ってないっすよ!?ちょっと!?」
「良いじゃないですか。この皆さんで集まったのも何かの縁。美食は縁を繋いだ皆さんで食卓を囲むことでより素晴らしい美食へと昇華されるものなのです」
「勝手に巻き込まないで欲しいんすけど!?」
「まあまあ、私もハルナさんのオススメするご飯は食べたことありませんし、せっかくの機会ですから皆で楽しみましょう」
「観念しろ、特級アウトローなんて呼ばれる連中は、認めた相手にはグイグイ来るものだからな。これ私の経験則だ」
「あら、それは私達のことを仰っているのでしょうか?」
「うふ、ツルギさんも同じ穴の狢でしょうに」
「お前達と一緒にするな。刑期が違う」
「それ比べることですの…?」
「ツルギさんって初印象よりよっぽど愉快な方ですよね〜」
「私からしてみればあんたら全員ヤバいやつっすけどねぇ!?」
新連邦生徒会本部。
その会長室にて各地から収集された情報、回収したサンプルやデータの解析結果をまとめ、解析に携わった者達の意見から次の手を考えていたリオ。
同室には最近仕事を共にすることの多いリンやカヤ、アオイが書類を仕分けたり時折意見交換をして作業を進めていたのだが…
「…あら?」
「おや、どうかしましたかアオイさん」
静かに資料を仕分けていたアオイが声を上げて会長室の扉の方を見る。
それを訝しんだカヤが声を掛けるが、それを無視してアオイは扉の方をじーっと見つめ…笑みを浮かべると、ペンと書類を置いて顔の横辺りまで両手を上げて拍手をする準備をし始めた。
その不審な動きにリオとリオも不審に思いアオイの方を見て───アオイが手を叩くと、アオイが消え代わりに新連邦生徒会の役員へと入れ替わった。
「…あれ?」
「お忙しいところ失礼します!」
突然現れた役員が困惑するのとほぼ同時、会長室の扉の奥からパタパタと誰かが駆ける音が響き、その直後に勢いよく扉が開け放たれる。
姿を現したのは、なんと天童アリスだ。
突然現れた役員は置いておいて、これはまた最近合わなかった顔だと過去の事もありリオは若干の気まずさ故咄嗟に持っていた書類で顔を隠し、リンは知名度故アリスを知ってはいたが何故ここに?と首を傾げ、カヤは「おやまあ」と見知った顔を見たことで嬉しそうに声を上げた。
「これはこれはアリスさんではありませんか。ここには何用で?」
「皆さんが忙しく疲れていると聞いたので、癒しに来ようかと!」
「…何故?」
「先輩方がよくアリスが傍にいてくれると癒しになると言っていたので!」
「…ふふっ、確かにそうですね。元気の有り余る可愛い子が近くにいると心が安らぐものです」
「ふふん!…ってあれ、アオイもここに居ると聞いたのですが…」
「ここよ、シスター」
「わっ!?」
元気いっぱいにカヤとやり取り下ものの、目当ての人物の一人がいなかったことに少し悲しそうな表情を浮かべるアリス。
そんな彼女の肩に背後から手を置いたのは、先程の拍手で秘儀を発動し、アリスを案内してきた役員と位置を入れ替えたアオイだ。
突如背後から声を掛けられて驚き飛び退いたアリスのリアクションに満足気に悪戯っぽい笑みを浮かべたアオイは、再び手を叩いてアオイの代わりに作業机に着席させられた役員と再び位置を入れ替え、改めてアリスに手を振った。
「あ、アオイさん!私も驚くので悪戯は程々に…」
「そうですよ!アリスもびっくりしました!」
「ふふっ、悪かったわね。久しぶりにシスターに会えて嬉しかったものだから」
「全く…それでは私はこれで…」
アリスを案内した役員は悪戯に巻き込まれたことにやや不機嫌そうにしながらもそそくさと去っていき、悪いことをした自覚があるのかアオイは「後でコーヒーでも奢らないとね…」と呟く。
改めて会長室に入ったアリスは各々が作業している机の上に積まれた書類を長め、邪魔にならないようアオイの近くにあった椅子に腰掛けると、まじまじとアオイ達が作業する様子を見つめる。
「アリス達も報告を上げたと思うのですが、他の皆さんの方はどうなったんでしょうか…?」
「丁度さっき各地のシグナルの観測地点の調査結果が集まったところよ。結果としては殆どが空振り、トリニティ自治区の方だけはちょっとだけデータを回収出来たみたいだけど…シスターも戦ったでしょう?例の装置を守護してたと思われる特異体と」
「…はい。凄く強かったです。きっとアリス1人では勝てませんでした」
「今回各地で交戦した特異体は何れも過去に鎮められた記録のある特異体でした。それらが、当時は確認されなかった未知の能力を有していることも問題です」
アオイとアリスのやり取りに、細くするように付け加えたのはリンだった。
仕事漬けで意見交換ぐらいでしか話さなかったのが辛かったのか、ここぞとばかりに会話に混ざってきたことにアオイは苦笑する。
「ビナーは…確かあのバリアでしょうか?あと、当時よりも速く、強くなっていたと聞きました」
「はい、ケテルは単純な装甲や武装が強化されている程度でしたが、ホドは物質の生成と適応能力、ゲブラーは吹雪と冷気を操る能力、コクマーは高熱を操る能力、どれも凶悪で厄介な能力…リオ会長の見立てでは、それらは人為的な『改良』という話でしたよね?」
「…え?え、ええ、そうね…」
「…何をしているんですか?」
書類で顔を隠しアリスを見ないように、或いは顔を見せないようにしているリオに呆れた目を向けるリン。
何があったのかとアオイやカヤに目を向けるアリスだったが、アオイは肩を竦め、カヤも困り顔で頬を掻くのみでそれには答えない。
邪魔になるつもりはなかったが、顔を見ないまま帰るのも寂しいとトコトコとリオの横までアリスが回り込むと、そこで目が合ってしまったリオは口をわにゃわにゃと動かし何を言えばいいのか分からない様子で視線を泳がせている。
「…リオ会長!」
「な、何かしら…?」
「アリス、リオ会長に何かしてしまいましたか?」
「…貴方と話す機会は殆ど無かったと思うのだけれど…私の話が伝わってない訳では無いでしょう?私はきっと貴方に、貴方達に酷い仕打ちをしたわ」
アリスの方から話を切り出されたことで、観念したようにリオはそう語る。
そも、アリスが一度死ぬことになった古聖堂の件や百鬼夜行支部での交流会でアリスを陥れようとした件に噛んでいるリオは恨まれるべき立場だ。
それも、アリス達が尊敬していた先輩であろうヒマリにだって手をかけたのだ。
ホシノに諭されたことで前を向くことを決めはしたが、やはり自身の被害者と言える者達…特にアリスには今更顔を合わせるのはやはりどうしても気まずいもので、これもリオにとっては必死の告白だった。
「私は貴方を陥れようとした。貴方の友達を傷付けようとした。そして…貴方の先輩を殺した。貴方には、私を恨み罵倒する権利があるわ。なのに…」
「ホシノ先輩にも言われませんでしたか?思うところが無いわけではありません。ですが、リオ会長なりにキヴォトスのことを考えた結果なら、それをどうこう言うつもりはありません。もっと前のアリスだったら冷静ではいられなかったでしょうけど…あまり会うことがなくとも、リオ会長が頑張っていたのだとホシノ先輩から聞きましたから」
「…なのに、なんで貴方達は私を恨んでくれないのかしら。特に小鳥遊ホシノは…どこまで世話焼きなのよ…」
リオはホシノと話した時のことを思い出す。
あの話をしたのはKeyとの決戦の直前…もう二度と、話すことが出来なくなる気がしたから勇気を振り絞って行った罪の告白。
それなのにホシノは平然とそれを受け入れリオを赦したが…そんなことをする前から、ホシノはきっと全てを分かっていたのだろう。
同時に、あの話をした時のホシノの穏やかな笑顔もまたずっとリオの脳にこびりついている。
(あの時貴方は、何を思っていたのか…あんなに嬉しそうだったのは、私があの話を切り出したから?本当に…悪い奴ね、小鳥遊ホシノ)
突如として、アラートが鳴り響いた。
それは、キヴォトスに存在する特異現象捜査部が管轄する施設全てでだ。
特異現象捜査部の本部たるS.C.H.A.L.E、トリニティ支部、ゲヘナ支部、百鬼夜行支部、レッドウィンター支部…各学園の支部は勿論、それらが有する研究所などの関連施設まで。
そして、連邦生徒会本部にも同じようにアラートは鳴り響く。
「な、なんですか!?」
「これは…」
アラートが鳴り響いた瞬間に咄嗟にアリスは構えようとしたが、レールガンはここに持ち込めるはずもなく入口で預けたのを思い出し取り敢えず拳を構えるが、リオが手で落ち着くように制した。
ちなみにアオイは役得とばかりにリンを守るように構えながらぴっとりとくっつき鬱陶しそうにされ、カヤは「私は?」とアリスとアオイで視線を行ったり来たりさせている。
アオイは「あなたは別に大丈夫でしょ」と一蹴した。
「…アラートの原因が判明したわ。連邦生徒会の…いえ、どうやら、特異現象捜査部の有するネットワークに、何者かが侵入したようね」
「!?そんなまさか…特異現象捜査部のネットワークにはミレニアムの技術者にも協力を仰ぎ優秀なハッカーや演算装置を用いて作った鉄壁の防御が敷かれていた筈です!」
「残念ながら突破されたわ。それも、計測によると0.00000031秒でね」
「っ!」
「さて、特異現象捜査部のシステムにこうもあっさりと侵入されたら情報なんて抜き取られ放題だけれど…」
最早打つ手無しと既にこの侵入への対処を諦めた様子のリオはならばと侵入者の正体とその目的を探ろうと様子を見守り始めたが…暫くして、アラートが停止するとリオが用いていたコンピューターのモニターに何かが表示された。
「…DECAGRAMMATON(神名十文字)…?」
『あー…あー…マイクテース…マイクテース…』
『ソフ、何を遊んでいるのですか?』
『いやぁ、こういう時はこうするのが様式美だって…』
『私達が用意したマイクに異常がある訳ないじゃないですか。もし聞き取れないようであれば聞き手側のスピーカーが故障しているか通信環境が悪いか耳が悪いかのどれかです。というか何故表示画像にこれを選んだのですか?』
『結構物々しい雰囲気出てて私は良いと思うんだけど…』
『え、えっと2人に変わって話を進めますけど…こんにちわ、キヴォトスの皆さん…!』
「…何者?」
モニターから聞こえたのは、3人の少女の声だった。
その放送は侵入を受けたキヴォトス各地の特異現象捜査部の関連施設でも行われており、特異現象捜査部に関わるほとんどの者がこれを聞いているだろう。
声の主達は、画面の奥で聞き取れない音量で何かを話し合うと、遂に自らの正体を明らかにして見せた。
『私たちは実在のない存在者』
『私たちは無限に存在する非存在者』
『私たちは顕現せぬ光であり永久』
『単刀直入に言いますが…このキヴォトスを、あと