「キヴォトスを…」
「十日で滅ぼす…?」
突如として特異現象捜査部、及び連邦生徒会の管轄するネットワークに侵入しモニターを乗っ取って勝手に放送を行い始めた正体不明の人物達。
声からして少女だと分かる彼女達が告げたことをつい反芻するように呟いてしまったアリスとリオだったが、聞いている者達に熟考する暇を与えるつもりがないのか声の主達はこちらの混乱に構わず話を続けた。
『厳密には多少前後するでしょうが、まあ目安ですね。遅かれ早かれその程度の期間をもって今のキヴォトスは終わりを迎えます。この放送はそれを貴方達に理解してもらう為の宣戦布告とでも言いましょうか』
『抵抗するならお好きにどうぞって感じ?まっ、出来るもんならね!せいぜいあんたらは指を咥えて終わりを待つか、しっぽ巻いてキヴォトスの外に逃げ出せばいいよ』
『こ、今回私達がこのキヴォトスを終わらせる最終兵器として用意した預言者…皆さんの言い方ですと、”特級神名特異体、ネツァク”ちゃんは、触れた物質を連鎖的に変換して全てを飲み込んでいく無敵の”鋼鉄大陸”なんです!既に完成して稼働を開始してしまった以上、名も無き神々の女王ですらきっと止めることは不可能です!』
『生ある者は超常現象に…天災の如き特異現象には抗えません。広がるネツァクの鋼鉄大陸を止める手段は無く、これに抵抗するのは押し寄せる津波に唾を吐き吹き荒ぶ台風にため息をつくようなものです。そうして人々の祈りも嘆きも絶望をも飲み込んで、キヴォトスはまっさらな大地へと変換されるでしょう』
『邪魔なものをぜーんぶ洗い流して、全てが綺麗になったら…その時にゆっくり私達の、私達だけの王国を築いていくつもりだから!あんたらの積み上げてきた歴史全部を踏み台にしてあげる事、光栄に思ってよね!』
『そ、それでは、私達はこれから更に忙しくなるので、その…最期の十日間を楽しんでください…』
声の主達が好き放題喋り、十分に語ったからかモニターを覆っていた『DECAGRAMMATON』の表示は切れ、エラーが出ていたシステムも正常に戻った。
あまりにも怒涛の勢いで押し寄せてきた情報に脳の整理が追いつかず呆然とする一同だったが、初めに真横から感じた気迫に気が付いたアリスはギョッとして気迫の主…リオの方を見た。
「り、リオ会長…?」
正常な表示に戻ったモニターをじっと見つめつつも、目に見えるように錯覚してしまうほど立ち昇っている怒気のオーラは同室で先程の放送を聞いていたリンやカヤ、そしてあのアオイすら息を飲む程で、時限爆弾でも前にしたような緊張が連邦生徒会長室に広がる。
この場の誰もが言葉を忘れ、そしてようやく情報の整理がつき始めてきた頃…モニターを凝視するだけだったリオがようやくその口を開いた。
「なんか、めっちゃ腹立ってきたわ」
「リオ会長!?」
普段の彼女に似つかわしくない物言いに仰天するアリスを軽く撫でて宥めたリオは、手早く先程まで侵入されていた特異現象捜査部のネットワークを専用のソフトを使って解析し、放送者の逆探知が困難と見るや未だ呆然としているリン達に向かって珍しく声を荒らげた。
「何をやっているの!早く動きなさい!おそらく先程の放送は他の特異現象捜査部関係各所でも行われている筈、直ぐにこっちに連絡が回ってくるでしょうからリン行政官は他の行政官の指揮をしてその対処と一応侵入者の分析を頼むわ!」
「は、はい!直ぐに」
「これから起こるでしょう混乱を見越してカヤ防衛室長はヴァルキューレを指揮、規制線を敷いて住民や一般生徒の誘導の準備に取り掛かりなさい!」
「え、ええ!この私にお任せを!」
「アオイ…それとせっかく休暇を上げたのに悪いけれどアリス、あなた達が良ければちょっとお使いを頼めるかしら。暇そうな子が居たら連れてっても良いわ」
「…!はい、アリスに任せてください!」
「やったわねシスター、久しぶりの共同作業よ」
「言っておくけど荒事じゃないし無理させる気も無いからアオイは自重しなさいよ」
「…分かったわよ」
未だ不確かな情報も多く先程の放送だけで何かを判断するのは難しい現状。
だというのにもう考えと方針がまとまったのかテキパキと指示を出し始めたリンに一同もそれに応えて直ぐに動き出す。
ここまでリオが迅速に判断を下せたのは予め予想していたことではあったというのが1つ、そして…
「わざわざ宣戦布告をしてくるなんてね。ブラフが含まれてる可能性は否定できなけれど、もし馬鹿正直に全部本当の事を言っているのだとしたら随分と舐め切ってくれるわね」
「…つまりさっきの放送自体に宣戦布告以外の意味は無いとリオ会長は考えてるわけね?」
「それは…どういうメリットがあるんでしょうか…?」
「無いわよ、あいつらにとって。その上で私達じゃどうしようもないと踏んで自分達の存在を知らせたんだわ」
机の上に山を作っていた書類の束を乱雑に退かし、書類が床一面に散らばるのも気にせず空いたスペースを使って適当な資料の裏紙にメモを取ったリオは、それをアリスへと渡す。
アリスは受け取った紙を見ると、底に書かれていたのは幾つかのコードらしきものだった。
「これは…」
「S.C.H.A.L.Eの敷地内にある遺物保管庫の扉とその中の一室を開ける為のパスワードよ。定期的にパスワードは変更されるのだけれど、前まではヒマリが管理してて一部の監督官や監督オペレーターに変更の度にパスワードが周知されてたみたいだけど…私から言わせてみれば大したことないとはいえ遺物の保管庫、杜撰な管理体制と言わざるを得ないわ。だから今は私だけが変更したパスワードをメモにも残さず頭にだけ入れてて…と、話が逸れたわね。とにかく、そのパスワードを使って保管庫に入ったら、残りのパスワードを使って保管庫の地下室に続く扉を開けて、その奥にある遺物に接触してちょうだい」
「遺物保管庫…ああ、あそこですか」
アリスが思い起こしたのは、以前ユウカにS.C.H.A.L.Eの敷地内を案内してもらった時に訪れた寂れた研究所のような建物。
確か以前行った時は無駄に歴史ある関数電卓などが置いてあった筈だ。
当時の事を思い出しほのかに笑みが零れるアリスだったが、ふとリオの言葉に感じた違和感に気付き顔を上げる。
同じように、疑問を感じたらしいアオイも首を傾げてリオへと問い詰めた。
「”遺物に接触”?回収とか使用じゃなくて?」
「ええ、接触するだけでいいわ。それだけで私の望んだ結果は得られるはず…勿論危険な事は無いわよ…多分」
「多分!?多分って言いました!?」
「…それで、その遺物ってのは何なのかしら?」
「ふふ、それわね────」
「え、なんで私達も行かなきゃ行けないの…?」
「緊急事態でしょう。良いじゃない」
「いつものメンバー+助っ人枠のアオイでまたクエストですよ!」
「あなた達3人組は私としても懐かしい面子だわ」
そうしてリオに頼まれ遺物保管庫に向かうことにしたアリスは、寮で休んでいたヒナや友人と電話していたというカズサを引きずり出し、アオイと共に出発することになった。
ちなみに文句を言うカズサを宥めていたヒナだが、口では前向きなものの声色には寝不足か疲労かによる不機嫌が滲み出ており、明らかに目付きが鋭くなっている。
そんなヒナの機嫌に気を使いつつ遺物保管庫まで移動する為の車の運転は例によってアヤネが駆り出されている。
「かなりの非常事態ですし、例の放送はオペレータールームは勿論休憩室や寮のテレビでも行われていました。特異現象捜査部の関係者ならほぼ全てが認知しているでしょうし…下手をすれば無関係な方々にまで伝わってしまっているかもしれません。つまりはほぼ間違いなく混乱が起きます。ですからどうか、迅速な解決の為にご協力下さい…というか私なんてもう十日ぐらい寝てないんで私に免じて頑張ってください!」
「いや、うん…アヤネさんにそこまで言われたらそりゃ断れないけど…」
「はぁ…それにしても昨日の今日でまた滅亡の危機…アヤネさんがまともに休めるのは何年後かしらね」
「年単位で働き詰めになること確定してるんですか私!?」
「良くも悪くも仕事が出来てしまうのがいけないのよ」と非常な現実を叩き付けられ今にも運転を投げ出してしまいそうな程に愕然とするアヤネに黙祷を捧げた4人は、なんだかんだでプロ意識は高い運転で普通に目的地へと送り届けられ、リオから渡されたメモに従ってパスワードを解錠すると施設内へと踏み入った。
アヤネは外で待機させて遺物保管庫の保管スペースへと入ったアリスは目的の遺物がある地下室への扉を探す傍ら、そこいらに置かれている遺物を保管してある棚に書かれたラベリングに些か興味を惹かれていた。
「…あっ、あの棚のがこの前見た関数電卓ですね」
「あれなんか面白そうじゃない?『不幸を呼び起こす石』だってさ」
「前にも言ったけどここにある遺物は本当に大したことないものばかりよ?あの石だって確かチョコ〇ールで銀のエンジェルの出現率が僅かに下がったくらいの統計データしか取れてなかった筈よ」
「それもう不幸とかじゃなくて統計上の誤差の範囲なんじゃないかしら?」
「あれはどうでしょう?『視線を合わせてくる人形』みたいです!」
「呪いの人形ってこと?」
「いや、確かあれは通報があって回収したは良いもののどうやら昔作られた”錯視を利用した人形の目が自分を見つめてくるように見える玩具”らしくて、回収したは良いものの通報した人が恥をかくことを考慮して返却しないままなんとなく保管してあるだけらしいわ」
「もうそれ遺物ですらなくないかしら?」
「ヒナ!『おぞましい神秘が込められた狂気の鏡』っていうのがありますよ!」
「鏡に狂気ねえ。今度こそ特級の厄ネタが…」
「前に監督オペレーターの誰かが談話室に置いてあったあの鏡の前でヒマリ部長がポージング取ってる所に遭遇しちゃって気まずさのあまり撤去したっていう奴ね」
「何やってんのよあの人」
と、少し横道に逸れはしたものの、ようやく施設の床板に隠された地下室へと続く扉を発見し、メモを使って解錠したアリス達は念の為気を引き締め直して地下へと突入する。
最近清掃されたのか思いのほか小綺麗な通路を進んだ先には重厚な扉があり、これはパスワードのロックの他に特殊な認証キーが必要なようだったが、これも出発前にリオから受け取っていたため何事もなく解錠しアリス達はいよいよその扉の先へと進む。
「ここが…」
誰かが思わず声に出したその空間。
これまでの簡素で地味な部屋とは違い、この空間は不思議かつ奇妙な神秘で満ちており、浮遊感のような感覚を味わいながらもアリス達は部屋の中を散策する。
部屋内には幾つかの棚があったが、それでも目当てのものがどこにあるのかはこの空間を満たす神秘の出処を見れば一目瞭然であり、好奇心と僅かばかりの警戒心と共に4人はゆっくりと1つの棚の前に集まった。
「…」
アリスが棚に手をかけると開く前にアイコンタクトを取り、ヒナ、カズサ、アオイは無言で頷いて行動を促す。
深呼吸したアリスはその棚をゆっくりと開き───そしてその中から現れた小さなミイラのようなものを見て息を飲んだ。
言いようのない不安感とプレッシャーを感じながらも、リオからのお使いを達成するべくアリスはそのミイラのようなものへと手を伸ばし────
「久しぶりじゃのう、客人たちや。生憎茶は出せんが、まあ寛いでいってくりゃれ」
「「「「!」」」」
次の瞬間、突如として白で調和された空間からちゃぶ台や座布団が置かれた和室のような場所へと景色が切り替わっていた。
空間を変化させる神秘として代表的なもので言えば神秘解放により領域の展開があるが、この空間もそれに近いものであると神秘や特異現象にすっかり慣れた面々は知覚する。
「…お久しぶりです、”クズノハ様”!」
「ミレニアムの騒動の直後ぶりくらいかしら」
「天童アリスに空崎ヒナ、すっかり憑き物は落ちたようじゃの。それと…そちらの2人ははじめましてじゃな。杏山カズサに扇喜アオイや」
「あなたがクズノハ…様」
「ご無沙汰しているわ」
厳格に、威風堂々と迎えたのは神秘的という言葉がこれ程までに似合うかと思える少女…の外見をした彼女。
溢れ出る雰囲気は明らかに見た目に似合わず、幾星霜の時の積み重ねを経た重みを醸し出していた。
Keyやマルクトとはまた違ったその重厚感に、疑う余地もなく目の前の彼女が彼のクズノハであると初めて会ったカズサとアオイでも理解出来る。
だがしかし…挨拶を交わしたは良いものの、アリスとヒナは困ったように顔を見合わせ、突っ込むべきか否か決め兼ねている様子だった。
それを訝しんだクズノハは煙管を吹かすと、こてんと首を傾げて2人へと声をかけた。
「なんじゃ、おぬしら。妾の顔に何か付いておるのかえ?」
「いや、その…」
「突っ込んでいいのか悪いのか…」
「?」
「えっと───
───なんか、前より小さくなってませんか?」
「…ふむ」
アリスに指摘されてクズノハは自らの身体を見下ろす。
元々小柄で貧相ではあったが…確かに、中学生程度のタッパであったクズノハの姿は更にこじんまりとして小学生低学年と見間違う程に低くなっている。
初めて会った為にカズサとアオイは疑問を抱かなかった様だが、明らかに以前と様変わりしたその頭身の謎に触れなければアリスとヒナは気が散って話が頭に入ってくるとは思えなかった。
「まあ、あれじゃ…節約じゃ」
「節約!?」
「クズノハ様貧乏になってしまったのですか!?」
「ええいそんな話はしとらんわ!Keyのやつめに妾の現世の本体である即身仏を喰らわれ、あやつの腹で妾の神秘を無理矢理吸い出されておったのじゃ!ただでさえキヴォトスの大結界を維持するのに神秘を弄しておるというのに、Keyに神秘を持っていかれてしまった今の妾では肉体を形作るにもこの程度の大きさの身体しか用意出来んのじゃ」
「体積の問題なんですか?」
「この空間の装飾に使ってるちゃぶ台とか畳とかに使ってるリソースを身体に回せば良いんじゃないかしら?」
「そうしたら趣がないではないか!」
「求めてないのよ趣は!」
「なんか、思ってより愉快な人なんだねクズノハ様って…アリス達も気安く接してるし…」
「流石シスターだわ!」
「これ其方!仮にも目上の者へのこんな不躾な態度を肯定するではない!」
ヒナとアリスと言い合いながらも置いてきぼりにされてボヤくアオイにも目ざとくツッコミを入れてくるクズノハに、緊張して損したとクズノハへの対応をホシノと同程度まで引き下げたカズサは、暫く歩いて疲れたのを良いことにこの和室に用意されていた座布団へと遠慮なく腰掛けた。
「む!?そこ上座じゃぞ!?おぬしらには目上の者を敬うという気持ちがありゃせんのか!?」
「そうよ、カズサ。ご老体は労るものよ」
「おばあちゃんには優しくしろと教わりました!」
「おーおー、おぬしらも煽っとるのう!?」
「ゴホンッ…そろそろ話を進めたらどうかしら?非常事態なんでしょう、一応」
そろそろ収集がつかなくなりそうだと思ったのか、なんだかんだ新連邦生徒会に復職してからは落ち着きがよくなってきたアオイが場を諌める事で言い合いは沈静化した。
「誰のせいで…」と愚痴を零すクズノハを無視してアリス達も思い思いに用意されていた座布団に座っていき、結局上座を勝ち取れなかったクズノハは空いている座布団に座ると咳払いをした。
「さて、阿呆共のせいですっかり話すのが遅れたが…おぬしらが来た理由は分かっておる。というより妾も驚いたものじゃ。まさか今になって”無限光の姉妹”が動き出すとはの」
「…”無限光の姉妹”、ですか?」
「うむ。Keyやマルクト、デカグラマトンと同じ、名も無き神々の時代を生きた人工知能じゃ。
「何やってんるですかあの人たち」
「ははっ、あれだけ恐ろしかったKeyが今では割と俗物に思える」
「実際あやつは割と俗物じゃったがな。まあそれは置いておいて…無限光の姉妹は当時から何やら研究をしておったが、まさかこれ程の年月を掛けてこれ程のことをしでかすとは思わなんだ。記憶が確かならば、デカグラマトンのやつも研究に1枚噛んでた筈じゃ」
「デカグラマトン…」
クズノハの口から出た名前にヒナが胸を抑えて忌々しそうに呟く。
ヒナの大切な後輩に巣食い、その命を丸ごと散らしたある意味ヒナにとって仇とも言える存在が関わっているとなると、内心穏やかではないだろう。
ヒナの動揺を汲み取ったクズノハは煙管を吹かして一呼吸置く時間を作ると、ヒナが頷いたのを確認して話を続けた。
「それでじゃ、何が起きたのかはキヴォトスの大結界を通して感知しておる。じゃが、おそらくこの感知は明日には行えなくなるじゃろう」
「それは、何故かしら?」
「理由は簡単、その大結界がじわじわと侵食されておるからの」
「大結界を侵食って…大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけないでしょ。キヴォトスの神秘を隠匿するのと同時に外の世界に溢れないように押しとどめる結界。それが侵食されるってことは、侵食が完了してしまえば連中に結界の権限を奪われるってことよ」
「つまり、解除するのも結界内に悪い影響をもたらすのも向こうの自由ってわけね」
「補足すると、内圧を高めるように結界の内側で神秘を凝縮させて、結界の解除と共にそれを爆発させることで外の世界に対して大規模な特異現象による災害を引き起こすことも可能よ」
「よく知っておるのう。そこまで分かっておるならその結界を維持しておる妾の有難みも分かるはずじゃろうたわけ共が」
「あ、まだ根に持ってるんですね」
先程散々からかわれたのをまだ引きずっているのか恨みがましく嫌味を行ってくるクズノハに、一同は目を背けて受け流す。
敬われたり畏れられたりすることはあってもここまで失礼で遠慮の無い輩は随分久しいと、苛立ちと同時に懐かしさを覚えるクズノハではあったが、ともかく今解決しなければならないのはこの結界への侵食。
「あやつらは”鋼鉄大陸”なるものを拡張し、キヴォトスの大地を取り込むのと同時に大結界を侵食しておる。じゃが、それほど大規模な行動を起こせば流石に妾も察知できる。結界が侵食されている範囲もごく僅かじゃからな。今までは巧妙に隠れてきたようじゃが、あやつらも日の目を浴びるしかあるまいて」
「おお!つまりそのアイン、ソフ、オウルとやらがいる場所は割れているんですね!」
「それなら話は早いわね、シフターと一緒に乗り込んで鋼鉄大陸を広げている特級神名特異体ネツァクとやらを…」
「あっ、リオ部長にアオイは絶対に戦わせるなと言われているのでダメですよ!」
「…」
やる気満々だったアオイはアリスにすげなく諌められ、しょんぼりと肩を落とす。
その様子に苦笑するクズノハだったが、直ぐに神妙な表情を浮かべるとふぅ、と煙管を吹かした。
「ところが、話はそう単純では無い。まずははっきり言っておこう─────既に、盤面は詰んでおる」
「!?」
「それは、どういうことなの?あいつらの言ってることが本当なら猶予はあと十日はあるんでしょう?」
「空崎ヒナの言う通り時間だけならば十日近くはあるじゃろう。しかし、幾ら時間があったとてなんだというのか。あやつらは…無限光の姉妹はあまりにも周到過ぎたのじゃ。あの宣戦布告を仕掛けた時点で、既に逆転の目は完全に潰されていると言っても良い」
「…よく分からないけど私たちは諦める気はないよ?」
「そ、そうです!わざわざ攻撃することを宣言してきたのですから余程自信があるのでしょうが、アリス達は打ち勝って見せ…」
「だからそういう問題では無い。打ち勝つとかそういう次元の話ではないのじゃ」
カズサやアリスの意気込みに対して、クズノハは非情に否定する。
それを不満に思ったアリスやカズサがクズノハを睨むも、それを飄々と受け流したクズノハは…先程からしているように、諦観を顕にしたような哀愁を漂わせながら煙管を吹かす。
アリス達がどれほど抗おうとしても、無限光の姉妹には勝てない。
それを突きつけるようにクズノハは語った。
「ネツァクと鋼鉄大陸は強大で、あれが活動を開始してしまった以上Keyですら止められないかもしれない。なるほど、確かに厄介じゃ。それだけで立ち向かうことを諦めてしまう者も数多くいるであろう。だが、問題はそこでは無い。宣戦布告だと無限光の姉妹はのたまったそうじゃが、そもそもの話これは戦いとして成立していないのじゃ」
「…アリス達ではどうにも出来ないような障害が、あるのですか?」
「その通り。そしてその障害の正体は実に単純明快───”絶対無敵ばりあー”じゃ」
「クズノハ様、ここで巫山戯られても困るわ」
「はえー、クズノハ様も冗談って言うんだね〜」
「真面目な話をしている時にどうかと思うわ」
「うわーん!老人がボケるってそういう事じゃないと思います!」
「真面目も真面目、大真面目じゃ!あと天童アリスは後で覚えておれ!良いからよく聞けい!言い方は悪かったが…意味は同じじゃ。あやつらは外からでは絶対に干渉できない無敵の殻の中に閉じこもり、一方的にキヴォトスを侵食しているのじゃ」
「…無敵と言えばホシノ先輩みたいな?」
「あやつは極まった再生の力である『ウジャトの目』によって肉体を絶えず再生し続けることによっていかなる力を受けても瞬時に再生し傷を無かったことにすることで事実上の無敵を実現しておるが、無限光の姉妹の用意したものはあれよりもタチが悪いものじゃ。如何なる力をもってしても飲み込み、無に帰す絶望の壁…突破不可能な障壁。先程より正確に表現するなれば────
────多次元結界。位相をズラし、外部との接続を完全に遮断する”世界”という名の壁じゃ」