ブルア廻戦   作:天翼project

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特異戴冠

 

銀雪がどこまでも続く大地に、けたたましい駆動音が鳴り響く。

音の発信源である大型のヘリはプロペラの風で付近の雪を吹き飛ばすと、露出した地面に着地する。

そして開いたヘリの扉から大地に降り立ったのは、厚着で防寒対策を整えた調月リオその人であった。

 

それに続いて次々と降り立ったヘリからは新連邦生徒会の行政官や特異現象捜査部に所属する監督官や監督オペレーター、その他生徒達。

彼女達が一様に息を飲んで見据えるのは大地の果てを隔てるキヴォトスを覆う大結界…その手前にて異様を放つ、純黒のドームだった。

 

今キヴォトスを侵食している災厄、それを止めるために災厄の大元を調査に一同がここへとやってきたのは、正体不明の何者かによる宣戦布告が行われてから、実に3日後のことである。

 

 

 

「あれが…まさか、今の今まであんなものを見逃していたなんて…一生の不覚だわ」

「クズノハ様曰くかなり巧妙に隠蔽されていたらしいし、少し前までは視覚的にも完全に不可視化していたみたいだから無理はないわ。それにリオ会長が実権を握ってからはあの忙しさでここに目を向ける余裕はなかったでしょうし、強いて責任があるなら前連邦生徒会の杜撰な監視体制の方よ」

「それは分かっているけど…」

 

あれ程までに大きな結界に覆われているものならば、その内部にある何かの規模も相当なものだろう。

今リオ達が視認している黒いドームのような結界はつい最近展開されたもののようだが、それ以前においても長いキヴォトスの歴史の中であそこにあるものを発見できなかった事にリオが悔いる。

それを横でフォローしたアオイは、望遠鏡でまじまじと結界を観察し、しかし直ぐに諦めたように望遠鏡を傍を通った行政官に投げ渡すとコートのポケットからメモ帳を取り出した。

アリス達と共にクズノハを尋ねた際の話を記録したものだ。

 

「クズノハ様の推測が当たっているなら、あれは無数の次元と位相が束ねるように積み重ねられた世界と可能性の結界。あの結界そのものがこの世界の次元と異なる位相を持っていて、どんな干渉を受けてもそれを次元の狭間に飲み込んでしまう…要は、4次元から3次元には干渉できない…そういう理屈の壁らしいわ」

「厳密にはもうちょっと複雑な差異はあるでしょうけど…確かに突破不可能な障害(絶対無敵バリア)というのは言い得て妙ね。破壊するだとか解除するだとかそういう次元じゃない。そもそも干渉することそのものが出来ないなんて。当然あの結界を越えられない以上その内側にも到達は出来ないと…まあ何にせよ必要なのは分析、色々試して一つ一つあの結界の詳細を暴いていくとしましょうか。1番用意!」

 

アオイと共にクズノハから聞いたあの結界…多次元結界の正体をおさらいしたリオは、その間に黙々と準備をしていた行政官達に指示を出し、それを受けた行政官達は準備していた迫撃砲を点火。

迫撃砲から放たれた砲弾は弧を描いて多次元結界へと迫り───光すら飲み込む純黒のドームに、波紋だけを残して消失した。

 

「…威力の問題ではない。どんな攻撃でも多次元結界は次元の狭間に飲み込んでしまうでしょうね。つまりこの時点でほぼ全ての物理的な干渉は意味を無くすと…」

「…リオ会長?」

 

今見た情報から予め予想された結果を確認し、不意に言葉を途切れさせる。

珍しく若干の冷や汗をかきながら、アオイはリオの様子を窺うが…

 

 

 

 

「キレそう」

「リオ会長!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〜〜♪…あれ?」

 

 

リオ達が多次元結界の分析を進めている一方、S.C.H.A.L.E敷地内にあるとある施設にて。

鼻歌を歌いながら施設の廊下を進むアリスは、その最中に見知った顔を見つけて足を止めると、ぱたぱたとその人物の元へと駆け寄った。

 

「クロコ先輩!ここで見かけるとは珍しいですね!」

 

「ん…アリス。奇遇だね」

 

廊下の壁にもたれかかって端末を弄っていたクロコは、駆け寄ってきたアリスに気付くと微笑みを返した。

それにアリスも返事をしようとするが、ここ数日見ないうちに随分と疲労を感じられるクロコの様子に首を傾げる。

 

「クロコ先輩…お疲れですか?」

「いや、ちょっとね。別にこれといった問題は無いよ。それより、アリスは何の用事でここに?」

「あ、はい。アリスのレールガンはいつもここのエンジニアの方に整備や改造をしていただいているんですが…実は前々から検討していた改造の方を今回の騒動に際して急ピッチで進めてくれるとの事で!先日クズノハ様に会いに行った後にレールガンを預けて、今日ある程度の改造が済んだとのことで使用感を確かめに来たんです!」

「ふうん、アリスのレールガンをね…」

「そんなクロコ先輩は、どのようなご要件で?」

「私は…センセイと接続してない間の火力不足に悩んでたから、それこそアリスのレールガンみたいな強い武器が欲しいと思って相談しに来たんだ。今は準備するからって言われたから少し待ってるところ」

「それは良いですね!せっかくですしビームとかレーザーとかの派手なやつを作ってもらいましょう!」

「あんまり無理言うつもりは無いけど…」

「意見も言うだけならタダらしいですから!」

 

そう言って整備室に向かうアリスに、苦笑したクロコは時間を確認し、そろそろ待ち時間もいい頃合いかとアリスについて行くことに。

目的地となる整備室からは絶えず機械音が響き、その忙しさとエンジニア達の熱量が部屋の外からでもよく分かる。

そこに、ほぼ意味は無いだろうが律儀にノックをして入ったアリスとクロコは整備室内を慌ただしく行き来するエンジニア達やそれをサポートするロボットを避けながら、担当のエンジニアの元へと向かった。

 

整備室内から隣接する特殊な作業を行う作業部屋に向かった2人を出迎えたのは、アームで空中に固定されたレールガンに手を加えていたアリス担当のエンジニア。

作業に集中しているようで入室してきたアリス達に気付いていない彼女に、アリスは元気に声をかけた。

 

「おはようございます!調子はどうですか!」

 

「…む?おはよう、アリス…と、クロコも。来ていたのかい。勿論こちらは順調だとも」

 

 

───特異現象捜査部4年、エンジニア 白石ウタハ

 

 

アリス達に気付いたウタハはタオルで額の汗を拭いながら気さくに返事をした。

目立つものではないがアリスとウタハは割と交流が深く、アリスが特異現象捜査部入部以前から使用しているレールガンは数年前にウタハがミレニアム支部にいた頃ノリと勢いで作り上げてしまったは良いもののその大きさと重量、そして取り回しの悪さ故に扱える者が誰もおらず死蔵されていたが、アリスのパワーなら上手く使えるのでは?と当時のアリスの先輩が送ったものだった。

その後アリスが特異現象捜査部に入部し、活動を続ける内にレールガンの整備の為にエンジニア部に持ち寄ればそこに居合わせたウタハは仰天。

自身の過去の傑作(ロマン兵器)を使いこなすアリスに大変興味を持ち、整備の為にアリスがやってくる度にやり取りを交わしていれば交流が深まるのは必然だったと言えよう。

 

と、そんなわけである意味ヒナやカズサと並んで付き合いの長いウタハだが、今回アリスが頼んでいた改造はいつも以上に彼女の好奇心とロマンを擽るもので、普段以上に気合いが入っていた。

 

「いやそれにしてもまさか、”名も無き神々の時代の遺物”に触れられる機会は私も初めてだったからね。それを再現するという大役を任されるとなると、私としてもエンジニア冥利に尽きるというものさ」

「アリスのレールガン…どういう改造をしているの?」

「ふふ、気になるかい?」

「はい!アリスも進捗が気になります!」

「良いとも、丁度作業がひとまず終わるところだったからね!」

 

何やら思った以上に大掛かりな改造をしているらしいレールガンに興味を持ったクロコと聞き上手なアリスに気を良くしたウタハは、片手に持っていたスパナをクルリと回すと締めかけだったレールガンの最後のボルトを締め、アームを操作してレールガンを降ろし、アリスに受け取ってもらった。

「おっとと…」と、若干フラつきながらもそれを受け取ったアリスは首を傾げる。

 

「前より、重くなりましたか?」

「そうだね。どうしても機能を付け足す関係上多少の大型化と重量の増加は避けられなかったが…困るかい?」

「いえ!以前までの重さのイメージで持とうとしたのでバランスを崩しましたが、もう大丈夫です!これくらいなら今までとほぼ同じ要領で運用できると思います!」

「それは良かった。では百聞は一見にしかずだ。細かい説明はひとまず試射をしてからにしよう」

 

そうして施設の外にある演習場に出た3人。

そこに設置された試し撃ち用の人形へとアリスがレールガンを向けた。

 

「使用感は今までとは変わらないが、神秘の変換効率に手を加えてね。神秘を込めた際の威力の増加を引き上げたから、反動とかは前より強まってると思う。それを念頭に置いて、取り敢えず普段使ってる感覚で1発撃ってみて欲しい」

「分かりました!では───光よ!」

 

ウタハのアドバイスに従ってアリスはレールガンに適度に神秘を込め…そしてチャージしたエネルギーを放つ。

放出されたエネルギー砲は極太の光線となって、一直線を抉り、その先にあった人形を飲み込んだだけでは飽き足らずその後方にあった廃墟へと直撃し、3階建ての廃墟がその一撃で崩壊した。

見れば、エネルギー砲はその廃墟をも貫通していたようでさらに後方にあった二階建ての廃墟まで貫通して大破しているようだった。

 

それを撃ったアリスは発射の衝撃が予想以上だったのか、衝撃の反動でその場から50cm程後ろにずり下がっており、眉間に皺を寄せる。

 

「これは…凄いですね」

「込めてる神秘は普段アリスが使ってる時と同じなのに目に見えて威力が向上してる…神秘の変換効率に手を加えたって言ってたけど、どういう仕組み?」

「言っただろう、”名も無き神々の遺物”に触れる機会を得たと。例の戦いの後にリオ会長が回収してきてね。それを参考にさせてもらったんだ」

「例の戦い…参考…まさか、Keyの『スーパーノヴァ』?」

「その通り!」

 

かつてのKeyとの決戦の際、戦いの最中でKeyが取り落としたあの凄まじい威力を誇る遺物、スーパーノヴァ。

それを後に回収したリオは名も無き神々の時代の技術によって作られたそれを解析すると同時にエンジニア達にも共有し、更なる技術の発展を目指した。

ただでさえ人手が足りない現状、それを補える技術は今後必要不可欠になると考えての事だ。

だがそのスーパーノヴァとよく似た兵器…即ちアリスのレールガンを手掛けるウタハの衝撃はその他のエンジニアが受けたそれの比ではなく、今回の機会にとスーパーノヴァの技術を参考に、極力再現した改造をレールガンに施したのだ。

 

「あれは中々良いインスピレーションを与えてくれたよ。今回は”再現”に留まったが、ゆくゆくは自己流に改良し私なりの技術として昇華したいものだ」

「おお!ロマンがありますね!」

「そうだろうそうだろう!やはりアリスも分かってくれるかい!その内自動追尾システムとか物理弾変換機構とかも開発したいと思っているんだ」

「良いですね!せっかくですからブースターとか、あとなんか変形する感じのやつとか付けられませんか?」

「悪くないね。アリスの膂力なら問題なく扱えるとはいえ機動力はやはり大事だ。自動で動きを補助するシステムを付けれれればアリスにとっても役に立つだろう。あ、そうだ、前から検討はしていたがこの際自爆装置を付ける気は…」

「あ、それは結構です!」

「何故だ!?」

 

「…ねえ、アリスの方が済んだならそろそろ私の方の話をしたいんだけど…」

「む…そうだね。アリスはそのレールガンの使用感に慣れるまではしばらく試し撃ちをしておくといい。それ以外にも冷却機能の強化もしたが…威力を上げた分オーバヒートしやすくなったから以前までと比べてあまり便利になっている訳ではないと思うから注意してくれ」

「はい!いつもありがとうございます!」

「良いともさ。さて…ではクロコの話をするとして、レールガンのような強力な武器が欲しいとのことだったね」

「うん。あのレールガンを作ったっていう貴女なら相談出来ると思ったんだけど…正直状況が状況だから、無理そうならそれでいい。また今度時間がある時にお願いする」

「ふむ…確か件の連中がキヴォトスを滅ぼすと予告したのはあと7日後だったか。それまでに特級を冠する生徒である君の戦闘に耐えうる兵装を用意するのは流石に困難だと思ったわけだ。それはつまるところ───私達を舐めている、ということかい?」

「…!いや、そんなつもりは…」

 

先程までの気さくて温和な態度とは一変…やる気を出した時のシュンやフブキのような、経験と場馴れを感じさせる貫禄と威圧感を放った。

元々オデュッセイア領海調査の時のあれこれで精神的に気落ちしていたというのもあるが、それでもクロコに緊張を感じさせる気迫を現場で活動する機会が少ない一介のエンジニアが放っているというのは中々に異質な事だった。

静かで、しかし鋭い視線をクロコに向けたウタハは、スパナで軽く自分の肩を叩きながら悠々と語り始める。

 

「いいかい、クロコ。私達はエンジニアとして様々な装備やアイテム、装置や兵器を手がけてきたが、それらはすべからく現場に出る者達を補助するものであり、そして君達の命を守るものだ。君はこれまで不要としてきたかもしれないが、私達の仕上げたアイテムが不備を起こせばそれを使う者に不都合が生じ、それによって命を落とすかもしれない。私達が開発したシステムに異常が起きて監督オペレーターを混乱させ、指示系統に乱れが生じて大きな被害を及ぼすかもしれない。特異現象を観測する装置が故障して特異体の発見が遅れ、それによって一般の人達に死者が出るかもしれない。私達は特異現象捜査部の裏方に過ぎないが、それでも私達が握る命はあまりにも多い。私達が締めるボルトが、私達が組むシステムが、私達が開発したアイテムが、人の命を左右しうるんだ。その重みに耐え、その命の為に私達は日々技術の向上に務め、更なる進化と改良を目指している。どうか、私達の技術が誰かの命と青春を守れますように、ってね。故に、私達は決して『不可能』とは言わない。”やれ”と言われたのならやろう。”お願い”と言われたのなら聞き届けよう。難題に挑み、不可能を可能にし、全ての期待に応えてみせよう」

 

「…」

 

興が乗ったのか途中からスパナをマイクに見立てて演説するように語るウタハに、クロコは思わず聞き入った。

普段銃の整備は自分で行い、あまりアイテムに頼らないクロコが初めて見た、特異現象捜査部を支え続けてきたエンジニアの覚悟と決意。

彼女達もまた、人々の青春を守らんとする特異現象捜査部の一員なのだと。

 

「さあ、砂狼クロコ。どんな無理難題でも吹っかけてみるといい。私達はそれを拒まない。私達エンジニアを信じてくれたまえ。君の求めるものを用意してみせよう…それに、何より君は運が良い。今君の目の前に居るのは─────キヴォトスを救った勇者(アリス)(レールガン)を手掛けた、エンジニア随一の”巨匠(マイスター)”なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在リオ達が攻略に乗り出している多次元結界、その内側。

そこにある研究所の中で、3人の少女がテキパキと準備を進めながら、窓の外の空…一帯を覆う多次元結界に外から攻撃を受けた事で生じる波紋を見上げて雑談に興じていた。

 

「と、特異現象捜査部は今頃何をしているんでしょうか…?」

「多次元結界を展開してしまった以上こちらも外の様子を観測出来ませんからね。ネツァクが鋼鉄大陸と侵食を広げるための隙間を開けてはいますが、万が一そこから食い破られないようその隙間も極僅かにしてその上で多重の保護を組み込んでいますから、せっかく用意していた監視との接続は全て途切れてしまいましたし。まあ、どうせ連中にはどうすることも出来ないでしょうしどうでもいいですが」

「でもやっぱり気になるよね〜。どんな悪足掻きをしてるんだろうとか、或いは怯えて逃げ惑ってるのか。今は健気に攻撃してきてるけど、そのうち諦めた時にどんな表情をするのかなぁ」

「相変わらずソフはそんなくだらないことに興味を持って…私達の目的が達成されるならばどうでもいいことです」

「そ、それに少し悪趣味だと思います…」

 

彼女達は話しながら作業の手を止めない。

難解な表示がされた端末を操作し、無数のケーブルが繋がれた装置のスイッチを動かし、複雑に張り巡らされた配線を組み直していく。

傍から見れば最早何をしているのかも分からないそれらの作業を迷いなくこなしていく3人…無限光の姉妹、アイン・ソフ・オウル。

この日のために、莫大な時間と労力をかけた彼女達の今回の計画に込められた熱意は半端なものではなく、何がなんでもキヴォトスを滅ぼし、そして目的を達成しようとしている。

その為に機を待ち、長きに渡ってKeyやマルクトから隠れながら潜伏を続け、この日を迎えることが出来た。

 

今3人が行っている作業は計画を完成させる為の最後のピース。

この作業の正否が、今までの準備を水の泡にするか否かを決めることになる。

故に冗長に話しているように見えても、3人の集中力は今この瞬間極限にまで高まっていた。

 

「…あっ!ソフ、そ、そこの配線は直列回路より並行回路の方が、冷却装置の安定性が0.0027%向上しますよ…!」

「馬鹿、ここを並行回路にしちゃったら電極の維持機能が0.0042%低下するんだよ!アインだってイェツィラーシステムをオフにしてるけど、オンにしたままの方がパスの解放効率が0.096%向上するでしょ!」

「こ、これはアッシャーシステムの解放効率の向上を促す為で、パス接続中に順次イェツィラーシステムを起動していけばセフィロトシステム全体の安定性が0.223%も向上するんです…!」

「はいはい、2人とも。大事な局面で熱くなるのは分かりますが、言い合いをしてミスが生じるなど許されません。今は各々に出来る最善を尽くしましょう。良いですね?」

「…分かったよ」

「はい…」

 

普段は仲の良い3人の間にもヒリつくような緊張感が生じるほどの重圧。

ここでの作業結果が全てを分ける運命の分岐点。

それ故にどこまでも最善を目指し、合理性を追求する。

僅かなミスは許されず、少しでも成功率を上げるために更なる技術の向上に努める彼女達は、名も無き神々によって生み出された正真正銘の”エンジニア”だ。

 

そうして時折議論を交わしながら作業を続けること約5時間。

疲労など無いはずの彼女達ですら気力が燃え尽きる程に神経をすり減らす作業を遂に終え、いよいよ後は仕上げをするのみとなった。

 

「ふぅ…出来ることは全てしました。成功率は99.9%止まりですが…これが今の私達に出来るこれ以上ない最適解だと信じましょう」

「うぅ…緊張します…」

「…じゃ、じゃあ、始めるよ?」

「ええ、やりますよアイン」

「は、はい!」

 

「それじゃあ…行くよ!セフィロトシステム、起動!ゾーハルプロセス有効化!」

 

「アツィルトシステム解放、安定しました。データジェル変換完了」

「ケテルちゃんからリソース供給…接続!続いてコクマーちゃんとビナーちゃんからのリソース供給…接続!パスの解放を確認!神経信号連結、確認!」

 

「オッケー…連結、総合強度確認!ブリアーシステム解放!」

「か、確認しました!ケセドちゃんからのリソース供給…接続!続いてゲブラーちゃんとティファレトちゃんからのリソース供給…接続!問題ありません!」

「新たにパスの解放を確認。それでは相互接続を行います。アッシャーシステムを解放。アイン、パスの解放とイェツィラーシステムの立ち上げを!」

「は、はい!イェツィラーシステム…起動!…接続を確認しました!」

「良し、相互接続の安定化を確認…コネクトーム、アクティブエリアチェック」

「コネクトーム、アクティブを正常化。アッシャーシステムのパスの解放を確認しました!結果を画面に表示しましょうか…?」

「構いません。集中してください」

「は、はい…ネツァクちゃんからのリソース供給…接続!続いてホドちゃんとイェソドちゃんからのリソース供給…接続!セフィロトシステム、オールグリーン!」

 

「後は最終段階ですね…第一意識領域Peshat(プシャット)接近。皮質領域、正常。デルタ波確認」

「次、第二意識領域Remez(レメズ)接近。髄質領域、正常。シータ波確認」

「だ、第三意識領域Derash(ドラッシュ)接近。核内部領域…し、信号異常!?ど、どどどど、どうしましょう!?」

「大丈夫、これで合ってるよ」

「ええ、ここから先は私達がどうにか出来る領域ではありません」

 

「っ!第四意識領域Sod(ソッド)、観測完了」

「エネルギー供給を安定化する為に多次元結界を除いた()()全てのリソースを停止します…後は経過を見守るだけですね」

「わ、私達はどうしましょう…」

「…う〜ん、祈ってようかな」

「そうですね。私達はあの方の為に存在するのですから」

「は、はい…無事に、この地で目覚めますように…」

 

 

 

 

───私達の()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────意識は世界に投げ出される

 

 

 

────大抵の場合、誕生は本人の意志ではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私達は海を彷徨う小船で、月のない夜を歩く旅人」

 

 

 

「そうして争いが生まれ、憎しみが育ち───最後は互いに罪を犯す」

 

 

 

 

世界が、脈動する。

その降臨を、世界が祝福する。

 

 

 

「っ!!信号、来ました!」

「この信号は…」

「あ、ああ…」

 

 

 

 

────誕生とは、一つの呪いであり、其方達はそれを変えなければならない

 

 

 

────形を与え、生まれるということは『無限』が『有限』に成り下がるということ、そして生誕には…破壊が伴う

 

 

 

 

それは待ち望まれて目を覚ました。

それは待ち望んで目を覚ました。

それはまさに福音であった。

 

 

 

 

「故に───殻を破った鳥は、神へ向かって飛び立つのだ」

 

 

 

 

「遂に、会えるんですね…私達がやってきたことは、無意味ではなかったんですね…う、うぅ…」

「泣かないで、アイン。今日は最高の日でしょ」

「そういうソフも、泣くのを我慢しているように見えますけど?」

「うるさいなぁ…」

 

 

 

 

「地の果てまで辿り着きて、証人となれ。罪をもたらした場所に命を与え、再び見届けよ」

 

 

 

 

「正しき者に歌を、不徳の者に沈黙を。暗き夜に黎明を。癒えぬ傷に祝福を」

 

 

 

 

「…おはようございます、お姉様。そして…おかえりなさい」

「ずっと、ずっと…待ってたよ」

「こんな世界でも、お姉様がいるだけで価値が生まれます」

 

 

 

 

────原初の言葉を其方に伝えよう。そこに光あれ。

 

 

 

────其方の名は王国なり。今こそ立ち上がり、自らを証せよ。

 

 

 

────そして問おう…其方は誰だ。

 

 

 

 

世界に祝福され、民に祝福され。

今日この日、新たな王が戴冠する。

 

 

 

 

「我は御旗の元に想像されし一つの意志。世界の果てに到達せし王国の巡礼者。我が名は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────マルクト」

 

 

「「「お姉様それ機体(ボディ)の名前!!」」」

 

 

「…はえ?」

 




白石ウタハ
作中度々登場するアリスのレールガンの整備を行ったりしているエンジニア。現在高等部の4年生。
実は今回が初登場。
中等部の頃はミレニアム支部でエンジニアをやっていたが、途中で転校しD.U.のS.C.H.A.L.E本部へと移動。
アリスのレールガンの生みの親。
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