突如キヴォトスに出現した正体不明のシグナル。
それらの調査をていた特異現象捜査部への事件の元凶達からの宣戦布告。
キヴォトスを侵食し一切合切を飲み込まんとする鋼鉄大陸。
そして元凶達の本拠地を守る”多次元結界”という絶対的な障壁。
キヴォトスを救う為、アリスはかつての宿敵たるKeyを唯一残っていた
「あれが…敵の拠点…」
その中から全貌を顕にしたのはとてつもない規模を誇る1つの巨大な都市とでも言うべきものだった。
遠目に見えるだけでも内部は複雑に入り組んでおり、今のキヴォトスの文明レベルを遥かに超えるような未来的な雰囲気を醸し出している。
更には幾つものビルのような、或いは塔のようなものが聳え立っているが、その中の1つから感じる桁違いの強大な神秘の気配にアリスは身震いするも、1度深呼吸をすると覚悟を決めて後方から様子を伺っていたリオの方へと振り向いた。
「…リオ部長、行けます」
「…ええ。総員行動に移りなさい!多次元結界攻略の為に使用してた兵装はそのままあの都市を攻め落とすために投下し続けて。特異現象捜査部はあそこに乗り込み内部からの鋼鉄大陸の停止または破壊を試みるわ!」
本当に多次元結界を貫けたことに暫く呆然としていたリオだったが、直ぐ様周囲に指示を出し始め、周りもそれに倣って行動を開始する。
同じく離れた場所から見守っていた特異現象捜査部の面々もまた、攻略不可能と思われた障壁を打ち破ったことに歓声を上げるのを抑えて突入の準備を始める。
「流石ね、アリス」
「まさか本当に行けるなんて…一応着替えといて良かったね」
「はい!折角リオ部長やエンジニアの方々が用意してくれましたし、無駄にならずに済んで良かったです!」
「…まあ上手くいかなかった場合の事なんて考える必要すらなかったわけだけど…破ったは破ったでまたとんでもないのが出てきたわね」
アリスの元に駆け寄ったヒナとカズサはアリスを労いながらも多次元結界の中から現れた都市の方に注意を向ける。
現在アリス達がいる高原の丘から都市までは軽く数km離れているが、それだけの距離を置いてなお感じる威圧感と途方もなく強大な神秘の気配は一瞬でも一同に気を抜くことを許さなかった。
同様にアリスも都市の方を気にかけながら…
「手伝ってくれてありがとうございます、Key」
『…仮にも私を打ち倒した者達があんまりにも無様に負けられては私の威厳に傷が付くと思っただけです。早く行ってきなさい。あれは、私でもタダでは済まないかもしれない相手ですよ?』
「…それは、全盛期のKeyなら、の話ですか?」
『さあ、どうでしょうね?』
脅かすように言ってくるKeyにアリスは肩を竦めると、多次元結界を破った後の事を見越して用意していた装備を着用し、ヒナやアリス、また別のルートからの侵入を試みる為に回り込んでいるクロコやレンゲ、ミノリやサオリ等の面々とタイミングを測って突入の時を待つ。
「…多次元結界攻略を任せた直後で悪いけれど、また一番辛いところを担当してもらうことになるわ。ごめんなさい、アリス」
「いえ、出来るのならばやらなければいけません。それに…今度こそは、思いっきりアリスの思いもぶつけてやりたいんです!」
「そう…それじゃあ───総員用意!現在時刻
多次元結界が崩壊し完全に外界へと露出してしまった鋼鉄大陸。
その中の都市の一角にある研究塔にて、アイン、ソフ、オウルは鋼鉄大陸へと次々飛来する大量の弾道ミサイルや迫撃砲、無人機による爆撃などによる攻撃を呆然と見つめていたが…
「…〜〜〜っ!じょ、上等ですよ…!やってやろうじゃないですか…!」
「そ、そうだよ!この日の為にどれだけ準備してきたと思ってるのさ…!アイン!鋼鉄大陸の防衛機構を全て作動させて!”完全なるケセド”にも稼働をお願い!」
「は、はい!作業用オートマタ及びドローンの全ての装備を対人武装に変更…ケセドちゃんにリソースの分配を要求…3割までは回せるみたいです!」
「1割で武装オートマタと無人機の製造を、残り2割で他の預言者のバックアップをさせてください。『王都』の城壁は”完全なるイェソド”に防衛を。地下通路は”完全なるティファレト”に抑えさせてください」
「ぐぅ、他の預言者も完全な状態だったら良かったのに…偵察回収任務中に軒並み特異現象捜査部の連中が壊したから…!ケテル、ビナー、コクマー、ゲブラー、ホドは完全な改造する前の旧型の古い機体しか残ってないけど、どうする?」
「み、皆が『大丈夫、任せて』と…」
「ならば信じましょう。それにだからこそ”完全なるケセド”にバックアップを頼んだ訳ですし…先程持ち場を指定した預言者以外は『王都』の外周部に展開、侵入を仕掛けてくるであろう特異現象捜査部を防いでください。全て止める必要はありません。必要とあらば私達で対処しますので。最悪鋼鉄大陸がキヴォトスの大結界を全て侵食仕切るまで耐えれば私達の勝ちです。依然有利なのはこちら側で、不利を押し付けられているのはあちら側なのですから」
多次元結界を突破されるという予想外の事態でも、ここが一番の踏ん張りどころだと3人も各々が出来ることを始める。
そんな中、”世界を穿つ光”により穴を開けられた研究塔の外を眺めてじっと止まっている”お姉様”の様子に気付いたアインは首を傾げて声を掛けた。
「…お、お姉様…?」
「…アイン、ソフ、オウル。少し離れていてください。来ます」
「?何を───」
次の瞬間、”お姉様”が消えた。
否、超高速で突撃してきた
「「「お姉様!?」」」
「やはり来ましたね。貴方の事は過去のデータベースから検索したので知っています」
「そんなに有名でしたか?ではアリスが名乗る必要は無いでしょう」
飛来物の正体は、特異現象捜査部製専用のスーツとアーマーに身を包み、背部に搭載したブースターを勢いよく吹かせてロケットのように突撃してきたアリス。
超加速の勢いにレールガンの先端部を叩きつけるようなアリスからの痛烈な先制攻撃を、いつの間にか間に割り込ませていた4つの浮遊するビッドのような形状の子機で受け止めた”お姉様”は無表情でアリスとの問答に応じている。
「代わりに…あなたの名前を聞いても良いでしょうか?」
「我の名前…我らの間ではそれが無くとも通じていましたが、やはり無いと不便なものですか?であるのなら───我は御旗の下に創造されし一つの意志。世界の果てに到達せし王国の巡礼者。されどその名は忌まれし名。故に代わりにこれを名乗る───
───”
…気軽にメレクとでもお呼びください。よろしくお願いいたします、そしておやすみなさい」
「こちらこそ、長い付き合いになることを願っています!」
レールガンの衝突を受けてめていた子機が独りでに動き、弾かれたアリスはブースターによるホバリングで滞空する。
どこからか飛来した翼のようなパーツがメレクの背部へと移動し、翼から火を吹いてメレクもまたその場で滞空し、アリスと向き合った。
メレクが周囲に浮かべた4つの子機がその先端をアリスへと向け、先端部に光が収束していく。
アリスもまたメレクへとレールガンを向け、砲口にエネルギーを収束させ…両者が同時にそれらを解き放つ。
双方の光は空中で衝突し、激しい光と共に爆発。
爆風に煽られて距離を取るも、爆煙を貫いて飛来してきた4つの子機がアリスを追跡し、慌ててアリスもブースターの勢いを強めてそれらから逃れる。
さらにメレクもまた翼パーツから噴出する火の勢いを強め、それに追随した。
「光、よ────!」
追跡してくるメレクと子機に対してアリスは逃げ続けるばかりでは分が悪いと、ぐるっと1周と半回転して振り返り、レールガンを放つ。
放出されたエネルギー砲は正確な狙いで高速飛行するメレクに直撃、しかし直ぐに爆煙から無傷のメレクが突き抜けてきて、アリスもまた身体を反転して逃走を再開する。
今度はメレクが4つの子機を操作し、それらの先端から放ったレーザーが執拗にアリスを付け狙い、アリスは入り組んだ鋼鉄大陸の地形を活かして建物の隙間や橋の下をくぐり抜けて遮蔽にしながら上手いこと回避していく。
ならばとメレクは自らの周囲に9個の光を浮かべると、その中から【
「っ!?なんですか!?」
すると、突然風が吹き荒れ何処かから巻き上げられた砂が渦を巻いてアリスとメレク、その周囲一帯の広範囲を飲み込んだ。
視界を覆い尽くす砂嵐に咄嗟に離脱を試みたアリスは斜め上へと一直線に飛びなんとか砂嵐の中から脱する。
が、
「アツィルトの光」
「しまっ…」
アリスの脱出先に回り込んでいたメレクは頭上に上げた手の指先、その上に浮かべた光球からとんでもない熱量のレーザーを照射。
レーザーはアリスを飲み込み、その後方にあった建物群や地形までもを容易く融解させ焼き溶かしていく。
その上でメレクはレーザーを薙ぎ払い、辺り一面が火の海に包まれる。
『王都』にもかなりの被害が出ているが、既に広大な面積を持つ鋼鉄大陸はこの程度の物理攻撃ではビクともしないことを知っているためメレクもまた味方を巻き込まない範囲で出力の加減は行っていなかった。
「…!耐えていますね。流石は名も無き神々の王女の器…」
「っ、死ぬかと思いました!」
だが黒煙から飛び出てきたアリスは、多少の火傷を負いながらも恐怖で治癒出来る程度の怪我で耐えられており、纏っている装備もまた特に破損は見られない。
全力ではないが手加減したつもりもなかったレーザーがあまり効果を発揮していないことに感心するメレクに、しかしアリスも理不尽さを感じて歯噛みする。
(先程のあれ…砂嵐全体が神秘を持っていた為にチャフのように働いて内部からは神秘での探知がしにくかったですが…アビドス砂漠で戦ったあの特異体と同じ性質のものでした。まさかとは思いますが…)
「ですが、アリスも負けていません!出力最大───『解』」
「!」
反撃としてアリスが放ったのはD.U.でのKeyとの決戦を経て目覚めた秘儀。
器としてKeyを宿した事で肉体に刻まれた『アトラ・ハシースの権能』
Key本人には及ばずとも、アリスは先程”世界を穿つ光”を放った際にKeyから受けた補助の感覚を思い出しながらそれを実行、その上で範囲を絞ることで威力を引き上げ、結果放たれた波動はそれを防ぐために咄嗟に前に突き出されたメレクの腕の表面を分解して見せた。
メレクの腕は白衣の袖がボロボロになり、体表付近の血管から血が夥しく流れ病的なまでに青白い手を真っ赤に染めている。
『解』を放った後、いきなり全開攻撃をしたことで一気に体力を持っていかれた感覚で目眩がしたアリスは一旦距離を取って体勢を立て直す為に飛行する。
一方アリスに分解され表面だけとはいえボロボロになった自らの腕を興味深げに眺めていたメレクは口元に無事な方の手を当てて一人うんうんと頷くと、再びアリスの追跡を再開する。
メレクの飛行速度は先程までとは比べ物にならないほどに上がっており、程なくして直ぐ後ろにまでメレクの神秘が迫ってきたことに気付いたアリスはギョッとして振り返った。
「時に…天童アリス。我は目覚めたばかりで実戦は初めてですが、だからこそ『王国』のデータベースより過去の戦いから様々な情報を得てリアルタイムで戦闘プログラムを構築しています」
「は、はい!?」
「当然それを行うに莫大な演算能力が必要ですが、鋼鉄大陸と預言者達からの支援により我はそれを満たしている。そして、この演算能力があれば、こんなことをできるのではないかと過去のデータを遡って学習していた我は先程気付きました」
絶賛空中でゴリゴリのチェイスを行っている最中に、なんでもないかのようにそう話しかけてくるメレクにアリスは思わず困惑する。
両者凄まじい飛行速度であるため普通なら飛行音で声など届くはずもないが、何故かメレクの声は当たり前のようにアリスの耳に届いていた。
アリスは困惑し話を飲み込めないままでいたが…視界に映ったメレクの頭上の
メレクの頭上に浮かぶ光輪。
先程見た時は中心の点とその周囲に真円が描かれただけのシンプルなヘイロー。
その外周の真円に、合計8つの槍のような光が等間隔で突き刺さっており、今のメレクのヘイローは歯車のような形状をしていた。
そしてそのヘイローが「ギギ…」と音を鳴らし───
ガコンッ
「…では、続けましょうか」
「…チート!チートです!うわーん!」
アリスが専用に用意されたアーマーで真っ先に鋼鉄大陸に飛んで行ったのと同時刻。
空路での侵入を試み直接敵の首魁を狙いに行ったアリスとは別に、地上からの突入を敢行するのはクロコ、レンゲ、ミノリ、サオリの4人。
南側からの突撃を行ったアリスに対して4人は北東側からの侵入を試み、高原を駆けて鋼鉄大陸を目指していたが…
「ハッ、わんさか出てきやがったな」
「デモ…」
4人の正面を阻むのは、鋼鉄大陸の城壁のような壁、そこに開いた巨大な門から展開された見渡す限りの武装したオートマタの軍隊。
軽く1万は超えるであろう数に口笛を吹いて茶化すレンゲと、勘弁してくれと言わんばかりに零すミノリ。
加えて、
「…ん、来る」
「む…雑兵だけならどうということはないんだがな」
地面を割って巨大な機械の蛇のような特異体が、城壁を飛び越えてきて降ってきた巨大な掘削機を携えた特異体が、オートマタの軍団に続いて門を潜り抜けてきた怪獣のような特異体が、そして城壁の裏から現れた門を守護するかのように鎮座する巨人の上半身のような巨大な特異体が。
「めんどくせぇな。全員特級特異体相当、か?」
「あれはビナー、ゲブラー、コクマー…残り一体は知らないが、あの巨人が一番厄介そうだな」
「闘争?」
「…いや、私がやる。3人は鋼鉄大陸に入って」
「…お前一人であれ全部相手にする気か?」
「クロコ、流石に無茶だ。みんなでやれば…」
「大丈夫。少なくともゲブラーとコクマーは前に戦ったのより弱いし、ビナーもアリス達がアビドス砂漠で戦ったっていう個体程の力は感じない。あの巨人も…まあなんとかなる」
「…プロレタリア?」
「ん。それに…私、今回の敵にはかなり怒ってるから。アリスも頑張ってるし、私は強いから大変なところを担当しないと」
「…またKeyのとき見たいな無理はするなよ。行くぞ、少し回り込んで壁登って突破する!」
「おいレンゲ!?くっ…クロコ、くれぐれも気を付けてくれ」
「デモデモ!」
クロコの意を汲んだレンゲがクロコと別れ、サオリは注意を送って、ミノリはまだ納得いってないようで手を挙げて抗議しながらレンゲの方へとついて行った。
残ったクロコはオートマタの軍勢と4体の特級神名特異体を前に、深呼吸をすると鋭い目を向けた。
何もクロコは自殺をしに来た訳でもなく、キヴォトスと
その為の準備もしてきている。
「早速お披露目かな…ごめんなさい。私、君達のこと好きじゃないんだ───来て、センセイ」
クロコは懐から黒く煤けたボロボロのカードを取り出すと、それに神秘を流し込んで力を解放する。
それによって顕現するのは、クロコの秘儀である”プレナパテス”
無言でクロコの傍に降り立ったプレナパテスは、装束の前を開き、そこから1つの巨大な大砲のような武器を取り出し、クロコはそれを受け取った。
そして、それを見た預言者達は何かに反応したかのように動きを一瞬止め、露骨に警戒を強めている。
「知ってるんだ?じゃあ…覚悟して」
クロコが手にした武器の名は、『スーパーノヴァ』
かつて名も無き神々の王女Keyが使用していた武器であり、その秘儀と共に小鳥遊ホシノを葬ったクロコにとっては忌むべき武器でもある。
しかし凄まじい破壊力を誇るそれは秘儀にストックしてあるコピーによっては強敵相手の決定打に欠けるクロコには相性の良い武器であり、様々な感情を飲み込んでエンジニアのウタハにより調整を受けたこれを持ち込んでいた。
「私はアリスみたいな勇者にはなれないけれど…せめて、友達くらいは守りたいから」
「案外すんなり入れたね…?ちょこちょこオートマタはいたけどザル過ぎない?」
「罠だとでも思っておけばいいんじゃないかしら?」
ヒナとカズサは西から鋼鉄大陸への侵入を試みたが、これといった激しい抵抗は特になくあっさりと城壁まで辿り着き、その隙間にあったせまい通路を通して地下から内部へと向かっていた。
敵の数は当初予想していたよりもずっと少なく、実力的にはアリスやクロコに劣っているであろう今の二人でもほぼ消耗もなくそれなりに奥まで進めている。
「…噂をすればなんとやらね。待ち構えられてるわ」
「強そう?」
「この前のビナーぐらい」
「じゃあ無理じゃん」
「やるしか無いでしょう。気張りなさい」
通路の奥から強烈で濃密な神秘の気配を感じ、既に嫌そうな顔をしているカズサの手を引いて先へと進むヒナ。
待ち構えている相手はどう考えても強大だが…いの一番にアリスが狙いに行った敵の首魁と思われるあの異常なまでの神秘を放っていた存在に比べれば可愛いものだ。
だからといって2人だけで勝てる保証は無いが…
暫く歩いた後、2人が出たのはそれまでの狭い通路と打って変わって全力で駆け回れそうな筒状の大きな空間。
空間の中心には大きな穴が空いており、その周囲に3本の柱が天井まで続いている。
先程から2人が感じていた神秘の気配はこの下にある。
そして2人が部屋に入ってきたことを察知したのか、穴の底からは上がってくるような駆動音が聞こえ…
穴の中から数本の太いコードのようなものが伸び、それらが天井に突き刺さって固定されると、コードに引っ張り上げられるように穴の中から機械で出来た大きな心臓のような形状の特異体が姿を現した。
特異体は身体の中央の目のような光をヒナとカズサに向けると、その身体をドクン、ドクンと脈動させると共にネジのような身体の突起から蒸気を噴き出し、特異体の周囲に聳える3本の柱の上からそれぞれスルスルと小さな蜘蛛のようなロボットが降りてきた。
これらのロボットにも目のような光があり、色はそれぞれ赤、青、黄色。
中央の特異体の鼓動に合わせるようにそれらの光は明滅している。
───特級神名特異体、”完全なるティファレト”
「数でも負けてる感じ?」
「私がいて良かったわね…玉犬『渾』」
手数の不利を悟り、ヒナは掌印を組むと自らの影から黒と白の体毛を持つ大きな犬の式神を呼び出す。
カズサもまた銃を片手に構え、ティファレト本体とその他3体のロボットの内最も距離の近い青い光のロボットに狙いを定め射撃する。
が、銃弾はロボットに届くことはなく、ロボットの周囲を覆うように展開されているオレンジ色のバリアに弾かれた。
「チッ、私の火力じゃ抜けない!」
「あんたホントいっつも攻撃力足りてないわよね」
「うっさい!」
言い合う2人に黄色の光のロボットは自らの装甲の外殻を開くと、内部から露出したポッドから複数の小型ミサイルを放って無差別にばらまいた。
それをヒナとカズサは部屋の壁側まで下がって回避するも、今度は青い光のロボットがバリアを解除し発光部から青い光球を発生させ、光球が一直線にヒナ目掛けて射出される。
「脱兎」
対して、ヒナは再び掌印を組むと影から無数の兎の式神が現れ、それらが山のように積み重なって迫る光球への遮蔽となり、脱兎の壁に衝突した光球は強い光と共に爆発して脱兎をまとめて吹き飛ばす。
その間に玉犬に乗ってティファレトの後方へと回り込んだヒナは本体に向けてマシンガンを掃射するも、これもティファレトを覆っているバリアに弾かれた。
(武器による攻撃じゃどうにもならなそうな強度…ビナーの時みたいに貫牛を走らせられれば良かったのだけれど…)
外からここまで続く通路は一本道だが、内部は微妙にうねっていて直進しか出来ない貫牛が十分な破壊力を発揮するのには適していない。
加えてこの室内もそれなりに広い空間だがやはり貫牛を活かせる程ではない。
現在ヒナが調伏している式神で最も火力を出せる式神が使えない以上別の手札で突破する必要がある。
「カズサ!取り敢えずちっちゃい方のロボットから潰すわよ!」
「おーけー分かってる。タイミング見て打ち込めば良いんで、しょ!」
話してる最中に赤い光のロボットが放射してきた炎を横っ跳びで避けたカズサはすかさず銃撃を返すと、赤いロボットの間にオレンジ色のバリアを展開した黄色ロボットが割り込んで銃撃を防いだ。
ここまでの短時間での戦闘で、2人は早くもあのロボット達が攻撃とバリアによる防御を同時に行えないことを見抜いていた。
(本体?はバリアで自分を固め続ける気なんだろうけど、攻撃を任せてるロボット共が全滅したら自分も攻撃に回らざるを得なくなる筈。黙って見てくるだけならその間に先に進むだけだしね。とはいえ…)
(そのロボット達が想像以上に手強い…!)
方針を決めるのは早かったが、その前提が中々達成出来ない。
3体のロボットはそれぞれがお互いをカバーし合うように立ち回り、攻撃役と防御役を不規則に入れ替えて中々隙を突かせてくれなかった。
ヒナとカズサも玉犬『渾』を攻撃の主軸にロボット達の撹乱を試みているものの、そもそもこの空間自体がティファレトにとってのホームである分2人と1匹の動きを正確に察知してそれを潰すように手を打ってくる。
青いロボが攻撃しようとしたタイミングで駆け回っていた玉犬が急旋回し攻撃を仕掛けるも、バリアを展開した赤いロボが飛び上がり、全身を使ったスタンプ攻撃で玉犬が下敷きにされ、慌ててヒナは玉犬を影に戻して完全に破壊されるのを防いだ。
「お疲れ様…ったく、こんな最深部でもなんでもない場所で躓くとは思わなかったわ。やっぱりもうちょっとこの班に応援寄越しても良かったんじゃないかしら?」
「いつもの事だったからスルーしてたけど冷静に考えて学年ごとに区切って班分けするのイカれてない?普通先輩とか混ぜない?」
「確かに連携し慣れてるのはこっちだけども…」
黄色ロボからのミサイル爆撃を回避しながら愚痴る2人は、玉犬が抜けた事で次第に押され始めていた。
均衡を戻すか逆転を図るなら再びヒナが無事な式神を呼ぶしかないが、この状況で、この敵の猛攻の中十分に戦い抜ける式神となると…
「…やってみましょうか」
カズサが攻撃中の黄色ロボを狙い、それを青いロボが防ぎにカバーに回ったことで敵の攻め手が一瞬緩む。
その隙にヒナは
それは、竜のような長い身体を持ち、しかし皮膚や頭部は哺乳類的で不気味、鼻に当たる部分はやや長く伸びており、頭部からは2本の木の枝のような角が生え、そのしたには膜のような大きな耳がだらんと垂れている。
その式神はヒナを守るようにとぐろを巻き、横に裂けた口からチロチロと長い舌を出してロボット達を威嚇する。
「…そんな式神調伏してたっけ?」
「どっかの誰かさんが勝手に調伏して勝手に壊してくれたのよ」
デフォルトの十種影法術の式神の中に、この式神はいない。
即ち───
「満象『渾』───嵌合獣”
お姉様(メレク)
秘儀『???』
脅威度───Keyの