数十体ものオートマタを巻き込んでビナーが倒れる。
弾き飛ばされたコクマーが同じく味方のオートマタを多数巻き込んで転がる。
鋼鉄大陸城壁の門まで吹き飛ばされたゲブラは門から次々と湧き出て来ようとしていたオートマタを下敷きにした。
それら特級神名特異体に数えられる預言者達を下したクロコだったが、このくだりをやったのはこれで3度目だ。
微かに息が上がったように肩を上下させるクロコは、城壁の上から巨大な光の槍を出現させて投擲してくる巨人のような預言者の攻撃を回避しながら、先程致命傷を与えたはずの預言者達を睨む。
「ん…これじゃあ終わらない」
ビナーも、コクマーも、ゲブラも、破損した箇所が徐々に修復され少し時間が経過した後に復帰してくる。
あれらの個体はクロコが氷海で戦ったものやアリス達がアビドス砂漠で戦ったというものより弱く、その時に有していた特殊能力も使用していない。
ならば数の差があったとしてもクロコにとっては本来苦ではない戦場だが、2つの要因によって戦況は拮抗していた。
1つは幾らあれらの機体を大破させコアを破壊しようとどこからか力とリソースの供給を受けて復帰してくる預言者達の不死性。
そしてもう1つは、城壁の上に構える巨人のような預言者の存在だ。
(あいつだけ他の連中よりも数段強い…雰囲気はそれこそ氷海で戦ったゲブラやコクマーに似てる…ハイエンドモデル?って呼び方がしっくりくるかな)
巨人のような預言者───特級神名特異体”完全なるイェソド”
完全体となる最高スペックの機体を特異現象捜査部によって破壊され旧型の古い機体で出撃せざるを得なかった他3体と違い、長い時間とリソースを割いて作られた完全体を有するイェソドの力はクロコを相手にも1歩も引かず、他の預言者やオートマタの軍勢からの横槍もあってこの門を死守することに成功していた。
イェソドが出現させた巨大な光の槍を両手で持ち、それをゴルフでもするかのように地面を巻き込みながらのフルスイング。
衝撃によって嵐のように土が舞い、後退して避けたクロコへと落石が雨のように降り注ぐ。
それをプレナパテスが庇うように背中で受け、プレナパテスの脇の下からクロコはイェソドを遺物…D.U.での決戦でKeyが使用していたアリスのレールガンにも似た武器、スーパーノヴァの光線を放った。
収束された光の束はイェソドの頭部目掛けて空を切り裂くが、イェソドは巨大な右腕の掌でそれを受け、手首から先が崩壊しながらもそれを受け切る。
「チッ…この距離じゃ駄目」
スーパーノヴァの威力は申し分ない。
Keyの所有物であるこれは本来クロコの手に余るものであるが、「原理が分からずともどこを動かせばどう動くかさえ分かればギミックを外付けするだけならそう難しくない」と豪語したウタハの改造により、神秘の制御を補助する機構と出力を調整する装置が取り付けられている。
その分元より大型化して取り回しは悪くなっているが、クロコのパワーなら気にならない程度だ。
『この遺物の何よりの特性は、流し込まれた神秘を直接”破壊力”に変換することだろう。術者だけでなく周囲の環境からも神秘を回収し、更に内部に神秘の増幅機構でもあるのか流し込まれた神秘の量以上に出力を引き出せる…私達でも再現できないまさにオーパーツと呼ぶべき代物だ。その上これは神秘が流し込まれれば流し込まれるだけ際限なくその威力は上昇していく…制御さえ出来れば君が使うにはうってつけの武器というわけさ』
と興奮した様子で熱弁していたウタハの様子を思い出しながら、その威力を持ってしても壊しきれないイェソドの頑強さに辟易とする。
一撃で完全に粉砕するならばクロコの有する神秘の大半をスーパーノヴァに注ぎ込めば簡単に達成出来るだろう。
だがその後戦えなくなっては意味がなく、何より現にイェソドの破壊された右腕が修復されていっている為に無駄撃ちで終わる可能性が高い。
ならばどうしようかとプレナパテスの後ろに身を隠しながら熟考していたクロコだったが、そこで端末に緊急連絡を表す通知が来た為にこっそりと内容を確認し、
「…強制遮断プログラム?コアに接続すればいい…なるほど?」
事前に配布されていた解析装置、それにプログラムを追加した旨を受けてクロコは真っ先に復帰して襲いかかってきたビナーを見て早速試してみようと放たれる極太の熱線をプレナパテスと共に回避し、プレナパテスがレシーブをするように構えた手の上に乗ると、それをジャンプ台として利用しビナーの頭部の真上まで飛び上がった。
一瞬の高速移動にクロコを見失ったビナーの頭頂へ向けて、身体を縦に回転させながらのかかと落としが突き刺さる。
装甲がひしゃげ頭を地面に叩き落とされたビナーの口の前に降りたクロコは口内へと向けてスーパーノヴァを放ち、首の後ろにかけてを光が貫く。
光の奔流はその勢いでビナーに内蔵されていたコアを空高くまで弾き出し、それにジャンプ一つで追い付いたクロコは例の解析装置をコアに接続、そこからコアごと地上に落下した時にはプログラムを作動させることに成功する。
「…修復されない、これなら倒せるんだ。でも…」
ビナーが沈黙するのを確認したのも束の間、薙ぎ払われたビームを上に飛んで避けるも、ビームの通過地点は凍結し足場が悪くなっている。
そこに飛んできたプレナパテスがクロコを背中でキャッチし、プレナパテスの肩に足をかけたクロコはスーパーノヴァのビームを撃ってきたゲブラを狙おうとする…が、プレナパテスが身を翻しクロコを抱きしめるように覆い隠すと、別の方向から飛んできた火球がプレナパテスを飲み込んだ。
「ん…ありがとう」
プレナパテスのローブから顔を出したクロコは火球を放ってきたコクマーと、巨大な光の槍を構えているイェソドに視線を行き来させ、拾っていたビナーのコアをプレナパテスの懐に収納し腕の中から飛び出した。
クロコに向かってイェソドが光の槍を投擲。
それをクロコはコピーしストックしていた秘儀の1つ…空間を面で捉える秘儀により広い範囲の空間を歪め、光の槍の軌道を逸らす事でコクマーの方へと返した。
光の槍はコクマーの背中を貫いて地面に縫い付けるように刺さり、神秘で作られている被造体である槍は徐々に崩壊し始めているが、完全に消えてコクマーが拘束から抜け出す前にコアを遮断しようとクロコは走るが、散々戦闘に巻き込まれ潰されていたオートマタの軍隊が前線まで上がり数にものを言わせた超密度の弾幕を張ってクロコの行き先を邪魔してくる。
身体強化で無理矢理突っ切るか先にオートマタを蹴散らすかで一瞬思考に耽るクロコだったが、その僅かな隙にブースターにより急加速して接近してきたゲブラの突進を回避するも、クロコの横を通り過ぎたゲブラはコクマーの元まで行くと搭載していた掘削機のような兵装で光の槍を無理矢理破壊してコクマーを救出すると、コクマーの首を口に当たる部位で掴みポッドからワイヤーを射出して固定するとコクマーごとロケット飛行により城壁の内側まで撤退してしまった。
予想外に仲間思い?なゲブラの行動に呆気にとられたクロコだったが、オートマタの軍勢が迫っているのを見てスーパーノヴァの銃身を盾に弾幕を防ぎ、その後ろから乱雑に放った神秘の波がオートマタの軍勢の前方をまとめて消し飛ばす。
(…今回はセンセイの顕現時間を延長する代わりに”無制限の神秘の供給”をカットしてる。あんまりこういうので浪費したくないけど…)
『大人のカード』によりプレナパテスを完全顕現させた際に本来得られる3つの効果。
1.プレナパテスを完全な状態で戦闘に参加させられること。
2.秘儀をコピー、ストックし使用できるようになること。
3.そしてプレナパテスから無制限の神秘の供給を受けられること。
通常これらの効果をプレナパテスが完全顕現する5分間のみ受けられるが、今回は3の効果を除外することでプレナパテスの完全顕現時間を20分にまで拡張している。
当然、供給を受けられない分は自らの神秘で賄うしかないが…
「流石に散々注意されたからね…いい加減幾らかは効率的に運用できるようになった」
スーパーノヴァを放ち、光線を横に振り払ってオートマタの軍勢を一掃すると弾幕が止んだ隙にクロコは城壁の上のイェソドまで駆け出す。
対してイェソドも近付けまいと頭部の目に当たる部分から青と赤の光を放ち、光が照射された地面から次々と柱が伸びてクロコの進路を塞ごうとする。
しかしクロコは加速の勢いを止めないまま伸びた柱の上に飛び上がると、そのまま柱を都合の良い足場にしてイェソドと距離を詰めていく。
ならばとイェソドは巨大な光の槍を出現させ片腕で横に薙ぎ払い柱を丸ごと破壊すると、胸部の吸引口から地表に散乱した瓦礫やオートマタの残骸を飲み込んで回収。
それを体内で再構成し、自らの更なる外装として纏っていく。
「ん、露骨なパワーアップは負けフラグ」
そんなイェソドを見て軽口を叩いたクロコは、鋼の鎧を纏ったイェソドが振り下ろした巨大な右腕によるパンチをジャンプで避けると、腕の上を駆け上がり頭部を目指す。
それをイェソドは左腕で叩いて止めようとするが、そこに割って入ったプレナパテスが左腕を空中で受け止め、プレナパテスとイェソド両者のパワーが拮抗した。
その間に頭部近くまで迫ったクロコにイェソドは悪足掻きの如く目から光を放ち自らの鎧の上にクロコを取り囲むよう柱を生成して閉じ込める。
が、鋼鉄の柱の檻の内側から光が漏れたかと思えば次の瞬間には内部から吹き飛び、スーパーノヴァの砲口をイェソドへと向けて極太の光線を放つ。
光線は鎧ごとイェソドの頭部を貫き粉砕する…が、直後にイェソドの全身が崩壊すると、散らばった無数の残骸が渦を巻くようにクロコを取り囲んだ。
「コアは…あそこか」
そんな鋼の嵐の中一点に光るものを見つけたクロコはそこへ向けてスーパーノヴァを放つも、光は移動してそれを避け、さらに光に向かって残骸が集まっていき空中に再びイェソドの上半身が出現する。
そのままイェソドは巨大な光の槍を手に取ると、城壁の上に着地したクロコ目掛けて光の槍の先端を振り下ろした。
光の槍は城壁を縦に粉砕しながら大地へと突き立てられるが、それを回避して城壁の内側へ、そして空中に鎮座するイェソドの真下へと跳んだクロコは真上のイェソドに向かって再度スーパーノヴァを発射。
直下から光に貫かれたイェソドは再び崩壊するが…崩れた残骸が渦を巻きながら移動する。
渦の先に見つけた光を鋼鉄大陸内に所狭しと建ち並ぶ建造物の上を跳躍しながら追いかけたクロコは、1つの生命体のように統制された意志の下流動する残骸、その内のパイプのような残骸を1つを捕まえ、自らの神秘を流し込む事で強引にイェソドの制御から外し、それを再び残骸を纏い巨人を構成しようとしていた光目掛けて投げ槍のように投げ放った。
圧倒的な膂力で投げられた残骸は一直線に飛んで光を…イェソドのコアを貫く。
それによって構成仕掛けの巨人の身体が崩れ落ち、共に落下するコアの下まで移動したクロコはそれをキャッチすると、解析装置を接続、プログラムを起動する。
「…強制遮断完了。センセイ、これもお願い」
イェソドのコアをプレナパテスに取り込ませ回収したクロコは次にどこへ行こうかと辺りを見回し───視界の端で光が乱舞しているのを捉えた。
「あれは、アリスと…」
決戦用装備に身を包み高速での飛行を可能にしたアリスに平然と追い付き、飛び回る装置から発射されるレーザーや何かしらの能力で周囲を灼熱や寒冷の環境に変えて追撃を行っているのは…多次元結界が崩壊した際に鋼鉄大陸から感じた異常なまでに強い神秘の気配の持ち主だろうと当たりを付ける。
(センセイの残り時間は…4分と少し。なら…)
プレナパテスの完全顕現の制限時間を確認したクロコは少し考え、この後の動きをシュミレートした後アリス達の方を目指して建物の上を移動した。
「!」
(今のは…勘違いじゃありませんね。確かにメレクの神秘の出力が低下しています)
絶え間なく追撃してくるメレクに対し決死の逃走を敢行していたアリスは、その最中圧倒的なまでに強大だったメレクがまた一段階弱体化していることに気が付いた。
何か状況が動いているのは間違いなく、アリスがまだ何もしてないことから他の突入班が何かしらの支援をしてくれているのだろうと考えたアリスは取り敢えず作戦に参加している仲間達全員の顔を思い浮かべて感謝すると、直ぐに思考を切り替えて背後から飛んできた子機の突撃を回避する。
「名も無き神々の王女の器。貴方に勝機はありません。諦めて首を差し出せば苦痛は与えませんよ」
「痛いのが怖くて、特異現象捜査部なんてやってられませんよ!光よ───!」
逃げ回るアリスを追跡しながらそう声をかけてくるメレクに、アリスは若干苛立ち混じりにそう返しながらレールガンを向け、高出力のエネルギー砲を放つ。
が、それが直撃してもメレクには僅かともダメージは入らない。
これに関してはあの適応擬き以前の問題で、そもそもレールガンによる攻撃力ではメレクの肉体強度を貫けない。
(秘儀の方は最大出力ならちょっとは効いてましたけど…既に適応された以上もう通じることはないでしょう。このまま逃げるのにも限界が…)
「…ビナーとイェソドも
小声で零したメレクは自身の周囲に浮かべていた光の内『Ⅲ』と『Ⅸ』が刻まれていた光が消えていることを確認すると、今度は『Ⅷ』と刻まれた光に触れる。
「『栄光の輝き』」
それに合わせてメレクの周囲に計8本の機械的な構造の柱が追従し、それらが地上付近を低空飛行するアリスに向かって1本ずつ射出された。
「わっ!?」
これまでとは経路の違った攻撃に驚くものの咄嗟の回避で1本目を避けたアリスだったが、2本目がアリスの前方に置かれるように突き刺さり───柱を中心に半透明の膜のようなものが広がって、回避も減速も間に合わずアリスはその範囲に突入してしまう。
そして、膜の中に入った瞬間にアリスは一気に脱力感と倦怠感に襲われ、これはまずいと飛行の軌道を真上に向け直角に上昇し、追撃の3本目を足先を掠めながらもギリギリで避けた。
(あの膜…侵入自由の結界?おそらく一種の低規模な領域のようなもので、内部にいると神秘の出力に著しく抑制を受けるといったところでしょうか?あの領域はメレクが発射してくる柱を中心に展開されるなら…柱を固定出来ない上空を飛んでいれば避けられるでしょうか。しかし…)
懸念はあっても地上に柱を設置されると低空飛行にリスクが生じるため高空を飛ばざるを得ない。
そしてそれを待っていたと言わんばかりにメレクは残り5本の柱を一切に射出。
4つの子機から同時にレーザーを放ち、更に背後に装備している翼のようなパーツから十数のミサイルを発射した。
最初のミサイルは何とか回避したものの、障害物を利用しなければレーザーとミサイルの回避は困難。
何とかミサイルを数発レールガンで撃ち落とすものの、1つの接近を許してしまいアリスの背中に直撃する。
「ぐっ…この、くらい…!」
「では追加しましょうか」
何とか1回の被弾を耐えたアリスだったが、メレクはレーザーを照射させていた4つの子機を自らの元へ呼び戻すとそれらの先端を1つに合わせ、矢じり状に合わせられた子機の元へ更に何処かから飛来した捻れた槍のような母機が組み合わさり、1つの大きな砲身が完成する。
そして子機から光が走り、それが母機へと流れ込み…母機の先端から、大気を引き裂く程の超高出力のレーザーが放たれた。
そこにはメレクの高度な計算による予測も織り交ぜられており…光は精確に高速飛行するアリスを撃ち抜いて遂に撃墜した。
「ぐあっ!?」
(駄目…です…アリスが、戦わないと…!)
今の一撃で飛行パーツが壊れ、翼を失ったアリスにはもう逃げ場は無い。
煙を上げながら落下していくアリスに向けてメレクはもう一度レーザーを放とうとして───
「…?」
アリスは、気付けば自分が白い大きな犬の背中に乗せられていることに気が付いた。
「…ヒナ…?」
(…いえ、ヒナの玉犬の…白は…)
「後退だよ、アリス。一旦休んでおいで」
「…クロコ、せんぱい…」
呼ばれた声に顔を上げれば、尊敬する先輩がアリスの前で背を向けたまま正面を見据えていた。
クロコの視線の先には、地上に降り立ち優雅に歩いて少しずつ歩み寄ってくるメレクの姿が。
「…クロコ、先輩…あいつは、死路虚の適応を真似して、1度受けた攻撃に耐性を付けていきます…」
「本当?それは…私ならちょっとは相性が良いかな。さあ、行って」
クロコが言うやいなや、アリスを背に乗せた白い玉犬はアリスをこの場から遠ざけるようにクロコとは逆の方向へと駆け出す。
そうしてアリスが離脱したのを気配だけで確認したクロコはゆっくり歩み寄ってくるメレクへと逆に自分から歩を進めた。
「砂狼クロコ…貴方も天童アリスに次いで特異な存在として記録されています」
「ん、それはどうも。君の名前を聞いても?」
「…名乗るのは吝かではありませんが毎回やるとなると煩わしいですね。仲間内で回線を繋いでいるのでしょう?”Adonai Melek”…先に共有しておいてください」
「そうしておく」
素直に大人しく待ってくれているためクロコも今聞いた情報…名前と、つついでにメレクが死路虚に似た適応能力を有していることを特異現象捜査部に通達すると、端末を閉まってメレクへと向き直る。
(まだ神秘は出来るだけ節約したいから…)
そう考えたクロコはスーパーノヴァを背後に出現させたプレナパテスへと預け、代わりにプレナパテスの懐から2本の刀を取り出した。
「普段はこういうのはあんまり使わないんだけど」
「遺物…ですか」
「気になるなら実際に食らって解析してみたら?」
そういうと、クロコは目にも止まらぬ速さでメレクへと切りかかる。
特異現象捜査部に限らず、キヴォトスの住民性として武器は銃火器が基本となり刀剣の部類が好まれることはなく、クロコもその例には漏れない。
だがフィジカルギフテッドに完全覚醒する前のレンゲが他者より劣る分を遺物で補う為に銃火器のみならず様々な武器の遺物を試し、その練習に散々付き合わされたという経験故にクロコの剣の扱いは本人の才能も合わせて決して半端なものではない。
そうして振られた2本の刀…紫色に鈍い輝きを持った太刀と赤みがかった刀身に黒い光を帯びた直刀。
前者はかつてキヴォトスでも珍しい人斬りの殺人鬼が所持していたと言われるもので、後者は元々はただの観賞用の飾り刀だったが何度も持ち主を変え、そして所有してきた者は全てこの刀により自害しているという、どちらも相当な曰く付きの遺物だ。
それらの効果を警戒してメレクは大袈裟に飛び退いて避けるながら周囲に4つの子機を浮かべそれらから熱線をはなって反撃するが、クロコは恐れることなく踏み込み4本のレーザーの間を身体を捻りながらくぐり抜け、横に二閃。
上体を柔軟に逸らし避けながらメレクが蹴り上げるも、空中で身体を捩ってそれを避けると四肢を地に着せて着地し、獣のような低い姿勢でまず太刀を横に一閃する。
足元を狙った切り払いを小さくジャンプして避けたメレクにすかさずクロコは直刀を振り上げ、刃がメレクの衣装の端を切り裂いた。
「…?」
何かに驚いたように目を僅かに見開いたメレクへ更にクロコは2度、3度と切り付け、特に直刀による斬撃はメレクは余裕を持って回避出来ておらず何度もその純白の衣装を掠めている。
衣装の切れ端が千切れ飛び、一瞬メレクの動きが固まった所へクロコは直刀をメレクの首目掛けて振るい───刃がメレクの手によって掴まれ止められた。
「!」
「違和感を感じていましたが…そういう能力でしたか」
メレクは掴んだ刃を、それを握っているクロコの抵抗をまるで気にしない様子で自らの首へと当て、押し付け…そして刀身が砕け散った。
「本質的には電子生命体である我ですら抵抗しきれない程に強力な魅了の秘儀。この刀を見ればその刃を自らに埋めてみたくなってしまうほどに…道理でその刀だけ避けにくかった筈です───まあ、どうでも良いですが」
ガコンッ
「チッ…!」
メレクの頭上のヘイローが回転すると同時にクロコは刀身を砕かれた直刀を放り捨て、太刀をメレクへと振るう。
今度はメレクはそれを避ける素振りも見せずに刃はメレクの腰を捉え…衣装のみを切り裂き、刃が切り付けた筈の肌には一切の傷は付いていない。
(これは…!)
「その刀に込められているのは…傷付けた相手のヘイローを抉る秘儀ですか。不破レンゲの持つという釈魂刀の下位互換のような遺物ですね」
ガコンッ
再びメレクのヘイローが回転する。
クロコは気付いてしまった。
先程の攻撃が効かなかったのはメレクが何か特別な防御をした訳でもなければ、適応による結果でも無い。
クロコの腕力やパワーは神秘による身体強化を含めれば相当なもので、これに力勝ち出来るものは早々いない。
剣の技量もまたレンゲの特訓に付き合わされた際に何度も振るったことがあり、本人の才能含め半端なものではない。
そして武器とした遺物もまた、クロコが今回の決戦を見越してクズノハの許可を取って特異現象捜査部の忌庫から持ち出してきた強力なものだ。
これらの要素は敵を撃滅するのに十分なものである。
では何故それでもクロコの攻撃でメレクを傷付けられないのか。
太刀をプレナパテスに預け、代わりに大きな槍を取り出しながらクロコは思う。
(こいつ───
「名も無き神々の作った器とは、そういうものです」
空中に浮遊するモニター越しにその戦いを観察しながら、オウルは独りごちる。
それが当然であるかのように、オウルは姉であるメレクの勝利を疑いもしていない。
「マルクトがKeyの器とする為に作り上げた天童アリスなど比になりません。名も無き神々が、Keyやマルクトという超級の人工知能を収め、最大限にその力を引き出す為に作り上げたまさに名も無き神々の技術の結晶。オーバースペックなAIを受け入れられるだけの単純にどこまでも硬く、どこまでも速く、どこまでも強い。それがあの器なのですから。流石にKeyの本来の
「D.U.での決戦では名も無き神々の王女が受肉したのは所詮空崎ヒナの肉体をベースにしたものに過ぎませんでしたが…もしあの戦いでKeyが使用していたのがかつての本来の
メレクの神秘での肉体強化すら関係の無い超常的な肉体能力と強度に冷や汗を滲ませているクロコを見て愉快そうに笑いながら、オウルは正面からやってきた侵入者へと目隠し越しに目を向けた。
「貴方もそうは思いませんか?」
「さあな、知るか」
オウルと対峙したレンゲは、好戦的な笑みを浮かべながら釈魂刀をオウルへと突き付けた。
特級神名特異体”完全なるイェソド”
全高30mにもなる上半身のみの巨人のような特異体。
圧倒的な巨体から繰り出される質量攻撃はそれだけで脅威だが、それに加えて完全なるイェソドは光により鋼鉄程度の強度の物体を構築する能力、そして資源を取り込む事でそれを自由に変形させ作り替える能力を持つ。
本体となるコアは独立して移動し、機体を破壊されても再構築してコアに纏い直すことで何度でも復帰することが可能。
その脅威度はKeyの