「神秘拡張───仮想領域展開」
「…ほお?」
鋼鉄大陸内にあるとある施設へと侵入したレンゲを待ち構えていたオウルは、頬に人差し指を当て余裕のある笑みのままそう宣言すると、八角柱状になっていた部屋の背景は無限に続く夕焼けの地平のように変化し、オウルが立っていた足場が柱のようにせり上って結果10mほど高い位置からオウルがレンゲを見下ろす形になる。
「領域…いや、今まで見てきたのとは違うか…?」
「ご名答、流石に分かりますか?それで、この領域がどのようなものなのか───身をもって体感していただきましょう!」
「っ!うおっ!?」
オウルが高らかに叫び、直後にレンゲの立っていた足場が消失しレンゲは底のない無限の穴へと落ちていく。
それを柱の上から見下ろしていたオウルは手を叩いて嗤い、穴の底へと勝ち誇る。
「あっはっは!どうです!この領域には通常貴方達が使うような秘儀の必中効果は付与されていませんが───代わりに領域内の地形と物理法則を自由に設定し変更出来るのです!例え一切の神秘を脱ぎ捨て運命から解き放たれた貴方でも、所詮重力に魂を拘束された”人間”に過ぎない!即ちこの領域は貴方への必殺の───」
「だったらアタシにとっての格好の遊び場ってわけだ!」
「!」
オウルが言い終わる前に虚空を蹴って空中を駆け上がってきたレンゲは、穴から飛び出した勢いのまま柱の上のオウルへと向かって釈魂刀で切りかかる…が、刃が届く直前にレンゲの正面の虚空に穴が開き、そこに突っ込んだレンゲはオウルから離れた位置の穴から吐き出されるように排出された。
「そういえば
「…んだ今の」
「
「チッ、またかよ!」
再びレンゲの立っていた足場が消失し落下する。
これまた空気の面を捉えることで虚空を蹴り穴から脱出したレンゲだったが…今度はその体が
「なっ…んだこりゃあ!?」
さらに上へ、下へ、右へ、左へ、空中で滅茶苦茶にレンゲの身体が振り回され、空を蹴り抵抗しようとするも変則的に重力の向きが変化しているかのように滅茶苦茶に引っ張られる。
ここまで脈絡のない動きはしたことが無いのかレンゲですら口元を抑え乗り物酔いのように気持ち悪さが込み上げ、今更気にする意味も無いはずの乙女の尊厳が汚されそうになり、そこで敢えてレンゲは変化した重力の向きに従って落ちる方向へ自ら跳ぶ事で一気に部屋の地面に到達し、足元に釈魂刀を刺す事で身体を固定した。
「これで…!」
「ですからオブジェクトの変更も自由なんですってば」
「だよなぁ!?」
が、釈魂刀を刺していた足場が消滅してまたレンゲの身体は空中で振り回される。
タイミングを見計らってオウルを狙おうとしても、攻撃を阻むようにワームホールが開きそこに入ってしまえばまた遠くに排出されて距離を取らされる。
(クソッ、これ結構シャレになんねぇぞ!)
「ほらほら、先程までの余裕はどうしたのですか?身の程も弁えず私達の崇高なる目的に楯突く人の子如き、私達の敵では無いのですよ!貴方達は、お姉様どころかこの私にすら勝てずここで朽ちて行くのです!」
「舐めんじゃ…!」
「…はあ、興醒めですね」
空中で振り回されていたレンゲは今度は斜め下へと落下し地面に勢いよく叩きつけられる。
部屋の地面にクレーターが出来るほどの威力で墜落しそれでも肉体に大した損傷がないのは流石天与宣誓のフィジカルギフテッドだと感心するオウルだったが、それでも攻撃手段は己の身と武器便りで特殊な能力を持たないレンゲではこの領域を支配するオウルは相性が悪過ぎるのだ。
想定した難敵の1人を存外楽に片付けられそうだと肩透かししながら、オウルは自らの肩に乗せていた黒曜石で出来たようなサソリに似た形状をした不可思議な構造体を地面に落とすと、それは途端にレンゲを見下ろす程度にまで巨大化する。
サソリ(仮)は鋭い脚の一本を振り上げ、虚空へと突き刺した。
すると、
「っぶねぇ!」
レンゲの顔の真正面に開いたワームホールからサソリ(仮)の脚が突き出て、咄嗟に避けたレンゲの側頭部を抉る。
さらにサソリ(仮)は6本の脚を次々と虚空へと突き刺し、レンゲの周囲に開いたワームホールからそれらが縦横無尽に襲いかかって来る。
それをバク転や宙返りとパルクール地味た動きで回避するレンゲだが如何せん手数が多く、反撃に釈魂刀を振るって脚を切り落としてもサソリ(仮)が脚を引き戻すと直ぐに再生している。
(釈魂刀はそいつの
「やってくれたなぁ!ならこっちもボチボチ反撃させてもらうぞ!」
「フン、ただ振り回されるだけの貴方に何が出来ると言うのですか」
レンゲの言葉を一笑に付したオウルはクイと人差し指を上に向け、それに合わせて領域内の重力が変化しレンゲの身体が真上に引っ張られる。
そしてレンゲの引っ張られた方向にワームホールが開き、そこからサソリ(仮)の鋭い脚が突き出された。
「チェックメイトです」
恐ろしく鋭い脚が抵抗も出来ず引っ張られるレンゲを貫こうとして───レンゲは身を捩り、脚の先端を避けそれの側面に取り付くように着地すると、サソリ(仮)の脚を足場として蹴ってオウルの方へと跳んだ。
「っ、またそれ…馬鹿の一つ覚えですねぇ!」
向かってくるレンゲを叩き落とそうとオウルは再び重力を変化させようとして…その直前、レンゲは懐から小さな筒のような物を取り出し、それをカチリと作動させる。
「”簡易版『簡易領域』”…ってな」
「なっ!?」
筒を中心に半径2m程の薄い膜状の結界が広がりレンゲを包み込んだ。
それと同時にオウルによる領域内の重力変化が行われたが、結界内のレンゲはその影響を受けずにオウルへと向かって直進してくる。
『今回、突入班にはこの”簡易領域”が込められたアイテムを1本ずつ配備するわ。ミレニアムでの事変やら死滅回遊やらの後始末をしてる時に見つけた白州アズサの遺していた技術を参考にしたのだけれど…時間があればもう少し量産したかったところね。領域への対策は勿論秘儀に対する緊急用の防御としても役立つ筈よ。必要な時に使いなさい』
(例によって神秘の無いアタシには不要だとか言わずに素直に貰っといて助かった。Keyの領域がアタシにも当たるタイプだったから念を入れて正解だったな)
作戦開始前にリオからそれを渡された時の事を思い出しつつ、柱の上のオウルを見据え空気の面を蹴る事でさらに加速してその距離を縮めていく。
「くっ…なら!」
対してオウルはレンゲの真正面にワームホールを開く事で接近を妨害しようとするが、
「そう何度も同じ手にかかるかよ!」
空気の面を蹴り、鋭角に軌道を変えワームホールを避けてオウルのもとまで回り込む。
ようやく表情に焦りが見えたオウルは手を横に振るとレンゲの周囲四方八方にワームホールが開き、その全てからサソリ(仮)の鋭い脚が襲いかかり───嵐のように駆け抜けた釈魂刀がその全てを切り捨ててレンゲが遂にオウルへと届く。
「降りて来やがれ」
「このっ…人間風情が…!」
釈魂刀の一閃を後ろに飛び退いて避けたオウルは背後に開いたワームホールへと飛び込み領域内の上部へと出ると、自らの周囲に無数のワームホールを開き、それら全てからレンゲへ向けて幾条もの光線が射出される。
空から降り注ぐ光を見上げたレンゲは獰猛に嗤うと空気を蹴り、次々と走る光を避けながら天へと駆け上がっていく。
「このっ、このっ、このっ!」
「やっぱり領域に必中は付けとくべきだったんじゃないか?まあだとしても当たらないけどなぁ!」
妨害に開くワームホールを避け、周囲に開いたワームホールから攻撃してくるサソリ(仮)の脚を避け、天から降り注ぐ光線を避けレンゲの位置はグングンと上昇しオウルとの距離が縮まっていく。
一向に決定打を与えさせてくれないレンゲを前に、しかし位置的優位を得たことである程度冷静さを取り戻したオウルは口では荒い言葉を吐きながらも内心ではほくそ笑んでいた。
(分かっていますよ…この空間は仮想とはいえ”領域”。簡易領域程度なら剥がせるぐらいには押し合いの強さがあります。そしてこの拮抗はそう長くは持たない…近付かれる度にまたワームホールに逃げれば簡易領域が剥がれるまで耐え切れる!)
「身の程を知らない凡夫が天を目指せば、太陽にその身と翼を焼き溶かされるものなのですよ!」
周囲に無数に開いたワームホールから下から迫ってくるレンゲに光線を射出しながらそろそろ逃げようとオウルは振り返ってワームホールへと入ろうとして───
「チェックメイト、だったか?」
「!」
ワームホールに逃げる直前、隙を見計らったレンゲが投擲した釈魂刀がオウルの背中から胸にかけてを貫いた。
自らの胸から突き出た刃を見下ろし、口から血を溢れさせたオウルはそのまま力なく落下し、地面に激突する前にレンゲが首根っこを捕まえて受け止めた。
「が…この…」
「急所は外してやったんだ。もう諦めろ」
オウルが大きなダメージを受けたことで仮想領域は崩壊し、無限に続いていた空間は元の広々とした八角柱状の部屋に戻る。
また、巨大化していたサソリ(仮)も肩に乗る程度の小ささに戻り、脚を振り上げてレンゲを威嚇している。
簡易領域も切れ、一息着いたレンゲはオウルを持ち込んでいた捕縛具で縛り上げるとサソリ(仮)の方に放り捨て、オウルが塞いでいたこの建物の奥に続く道へと進むのだった。
壁を駆けるクロコを追って無数のミサイルが撃ち込まれる。
それらを回避し続け、弾幕と光線を掻い潜ってメレクへと接近したクロコは鋭利な槍を振り回し突き入れるが、最小限の動きのみで回避したメレクは反撃にクロコの胸に肘を打ち、ミシリと音を立ててクロコは吹き飛ばされる。
「ゴホッ…ゲホッ…ん…胸骨折れたかな…痛い…」
怪我を恐怖で治癒するものの、そこへ息付く暇もなくメレクの周囲を飛ぶ4つの子機から光線が撃ち込まれる。
転がって避け、再び駆け出しながらクロコは槍を真上に放り投げ呼び出したプレナパテスから今度は独鈷杵のような形状の遺物を受け取った。
薙ぎ払われた光線を背面跳びで避けながらクロコがその遺物を振ると、メレクが立っていた位置に直接雷撃が生じて落雷のような閃光が炸裂する。
ガコンッ
「これもダメ…」
「引き出しが多いのですね。学習素材は多くて困りません。是非持ちうる全てをぶつけてください」
煙の中から無傷で現れたメレクは表情1つ変えずにそう言い、光線による攻撃を打ち止めると今度は自ら接近して蹴りかかった。
超常的な身体能力から繰り出される蹴りはクロコと言えどまともに喰らえば命は無く、頭を狙った回し蹴りを姿勢を低くして避けたクロコは新たにプレナパテスから幅広の剣を受け取り、それをメレクの腹へと突き刺す───刺さらない。
刃はメレクの露出したしなやかな感触の白い腹の肉に軽く食い込むのみで止まっている。
「起動」
しかし予想していたことだと驚くこともなく、クロコはその剣状の遺物に込められていた秘儀を使用。
すると剣の刃が急速に伸び、メレクに刺さらずともどんどんと押しやって壁にメレクを刃と挟み込むようにして縫い付けた。
さらにそこから剣を押し込み───メレクが刃を掴むとそのまま腕力で握り折り、砕けた刃先をクロコへと投擲。
刃は首を傾けて避けたクロコの髪を一房切り落とし、後方の建物群を幾つも貫いて破壊していく。
折られた剣を捨てたクロコは続いてプレナパテスからオカリナのような笛を受け取り、クロコに向かって駆け出してきたメレクに向かってそれを吹く。
直後、メレクの足が止まり、メレクは自分の腕で自分の首を絞め始める。
ギチギチと音を立てながら首を締める腕の力は強くなり、
ガコンッ
メレクの頭上でヘイローが回転すると腕の力が解け、メレクは再びクロコへと駆け出す。
クロコが絞められれば余裕で窒息するどころか首が折れそのまま千切れるだろう腕力で自らの首を絞めたのにも関わらずその首には微かに赤い跡が残っているのみだ。
「笑っちゃうくらい頑丈だね」
苦笑しながらも笛を捨てたクロコはプレナパテスから今度は1枚の大きな布を受け取り、メレクからの鋭い回し蹴りを腕で受けるも防ぎきれずに腕が折れ横に蹴り飛ばされる。
軋み痛む全身に鞭打ち腕を直ぐに回復すると接近し掴みかかろうとしてきたメレクを避け、受け取った布を広げてメレクの全身を包み込み…布を取ると、メレクの姿が消え代わりに大きな岩が現れた。
「…」
その状態で暫く待っていたクロコだったが…少しの間を置いて地面が激しく跳ね上がり、大地を割って地中からメレクが飛び出してきた。
「『布で包んだ物体と誰からも観測されていない状態にある物体の位置を入れ替える』といったところでしょうか?深海の底にある物とでも入れ替えられれば面倒でしたが、鋼鉄大陸の地中を選んだということは距離に制限があると」
「概ね当たり。本当に嫌になるね───『
「!」
地中から復帰してきたメレクの拳を避けたクロコは布の遺物を捨てるとメレクの胸に両手を当て、コピーしストックしていた秘儀の中から浦和ハナコの秘儀を選択し発動。
対象物ではなく空間を割るように攻撃することで対象に硬度を無視したダメージを与えるそれは確かにメレクの表情を歪め口の端から血を流させる程度にはダメージを通し、強く弾き飛ばしてメレクが建物に突っ込んでいく。
ガコンッ
(…もう先生を顕現させられる時間が殆ど残ってない。ここで畳み掛ける)
神秘の供給を受けないことで引き伸ばしていたプレナパテスの完全顕現の残り時間は30秒弱。
適応を恐れて出し渋っていた秘儀をここで出し切ることに決め、地面に手を触れたクロコは地面を対象に空間を掴む秘儀を発動。
”地面”という1つの空間を捉え、それを引っ張ることで大地が布のように波打ち周囲の建物もぐにゃんぐにゃんと揺れる地面の上では自立出来ず連鎖的に崩壊していく。
崩れた建物の瓦礫の中から飛び出してきたメレクは4つの子機を呼び戻してそれらからクロコに向けて光線を発射するも、クロコは空間を歪め飛来してきた光線を絡め取り自らの周囲で回転させてメレクへと返した。
4本分の収束した光線を手のひらで弾き返したメレクだが、それを受けたことによって生じた光に紛れて急接近したクロコは全力でメレクの顔面を殴り飛ばす。
(っ…殴った方の手が痛い…手応えが無さすぎる…!)
「…もう種が切れたのですか?」
「まさか───『救護』!」
「む…」
至近距離からの秘儀の発動。
溢れ出る光は蒼森ミネ…ミネルバの秘儀を消滅させる秘儀。
Keyやマルクトのような受肉体では無いために当時のような特攻的な効果は発揮しないが、それでも無傷とは行かない。
これを浴び続けるのはマズいとメレクは適応することを優先しヘイローの回転にリソースを割く為に動きを止めた。
それを見ながら、クロコは仕込んでいた切り札のことを考えていた。
(…そろそろ、さっき投げた槍が戻ってくる)
プレナパテスから独鈷杵を受け取る際にさりげなく上へと投げていた槍。
あの槍の遺物に込められていた秘儀は『投射秘術』
予めルートを設定して投擲することで槍はそのルートをトレースして飛び、そしてルートを辿っている最中は槍は無制限に加速する。
設定できる距離は使用者が遺物に神秘を込めれば込めるほど伸び…クロコはあの槍に自身が有する莫大な神秘の内の3分の1近くを込めていた。
それにより槍に設定出来るルートの距離は飛躍的に伸び…槍は成層圏まで登り、そしてU字に曲がって今現在地上に向けて落下してきている。
槍そのものの設定したルートを辿ることによる加速と重力に引かれることによる二重の加速。
それはこれまでクロコが及び腰で行ってきた撫でる付けるような攻撃とは威力が桁違いであり、これならば頑強過ぎるメレクの肉体をも貫きうるだろう。
難点があるとすれば予め設定したルートを正確に辿る都合上その着地点にメレクを誘導しその位置に固定しなければいけない為、気付かれた時点で攻撃を当てることがほぼ不可能になることだが。
ガコンッ
『救護』への適応が済まされる。
(お願いだから気付かないで…)と切実に祈り、クロコは凄まじい勢いで落下してくる槍に意識を向けないようにしながら新たにプレナパテスから受け取った薙刀でメレクに切りかかりながらその立ち位置を槍の落下地点に追い詰めていく。
(槍の落下まであと7秒…)
メレクは決してクロコとクロコが次々に持ち出してくる遺物を侮っていない。
その為最初は遺物による攻撃は律儀に回避しようとしてくる。
適応出来るとはいえ万が一にも一撃で自らを脅かしうる秘儀を秘めている可能性を考慮しているからだ。
メレクは暫く…傍から見れば一瞬だが…薙刀と向き合って目算だけで大した脅威ではないと解析したのか振り払われた刃を首で受け、刃の方が砕け散る。
そして自らの周囲に7つの光を浮かべると、その中から
「!」
クロコが取り出したのは刃が一部欠けた小型の剣にも似た遺物───特級遺物、天逆鉾
狐坂ワカモに敗れ、リベンジを果たした小鳥遊ホシノがその力を警戒しどこかへ封印していたものの、D.U.での決戦前にその在り処を聞いていたクロコが決戦後に一段落した際に回収した遺物。
その効果はあらゆる発動中の秘儀の強制解除、天逆鉾で切りつけられたことでメレクが発動しようとしていた光は崩れて効果を中断され、更にその腕には薄く赤い線が引かれ僅かに血が滲んでいる。
(付属する秘儀が本命とはいえ流石特級遺物、メレクに傷を付けられる程度には攻撃力もある…でも足りない。だから…)
天逆鉾を警戒したことで大きく飛び退いたメレクの立ち位置は槍の落下地点に入った。
そしてその位置から動かさない為にクロコはメレクに向かって駆け出しながら…
「『働くな』」
「っ…」
メレクの動きがピタリと止まる。
クロコの喉が裂けたかのように痛む。
血を吐きながらも全力で発動した『言霊』はメレクの動きを2秒は止めるだろう。
そして槍が落下するまでの時間も丁度2秒。
この瞬間まで適応させないよう取っていた切り札を切り、致命の一撃がメレクへと届く───
「えっ…」
瞬間、メレクのすぐ側に光線が落ち爆煙が上がった。
同時に、クロコをすっぽりと布が被った。
布に覆われる直前にクロコは光線を撃ったのも布をクロコに多い被せてきたのもメレクが操っていた子機であることを目撃していた。
光線を撃った意味は、この布は一体───そこまで考えて、気付けば煙の中に放り出されていたクロコを神速の槍が穿っていた。
「…あ」
薄れかける意識の中、槍の衝撃によって晴れた煙の奥で布を邪魔そうに振り払っているメレクの姿が目に入る。
(私が、使っていた遺物で…私と、自分の位置を、入れ替えた…?)
立つことも出来ずその場に倒れ込むクロコ。
見下ろせば、極限まで加速した槍に穿たれたことでクロコの胴は貫かれるどころか広く抉り取られ風穴が空いている。
(これは…今度こそ、死ぬかも…でも…)
心配そうにプレナパテスがクロコを抱え離脱しようとしているが、直ぐにメレクは追撃してくるだろう。
クロコのプレナパテスとの接続時間はもう5秒も残っていない。
だが…それだけの時間があれば出来ることがある。
クロコはプレナパテスにお姫様抱っこの形で抱え上げられながら、両手を空に向かって持ち上げ
突然だが、クロコが特異操術のような秘儀をコピーした場合、コピーした相手がストックしていた特異体は使用することが出来ず、特異体を使役する場合は新たに自分で使役する必要がある。
その他にも奇跡を貯める秘儀のような何かをストックするような秘儀は本来の使用者のストックはクロコとは共有されない。
例外としてKeyの使うアトラ・ハシースの権能を反転させることによる再構築は秘儀を通して『アトラ・ハシース』という貯蔵庫にアクセスする為にKeyが溜め込んできた分子を『アトラ・ハシース』が開かれている時に限りクロコも引き出す事が出来るが…
それに似たような事例で、十種影法術をコピーしている場合クロコはヒナが既に調伏している式神でも新たに調伏しなければ使役できない。
ヒナの十種影法術とコピーした十種影法術は別物であるという扱いになるからだ。
クロコは今回ヒナの十種影法術をコピーして来ている。
そして式神の調伏状態がヒナのものと共有されていないように───式神の
故に───
「『布瑠部由良由良』」
「…なるほど、
空に影がかかる。
プレナパテスはクロコを抱えあげて全力で逃走し…一瞬前までプレナパテスがいた位置に影が落ちてくる。
影はプレナパテスに抱えられ逃走するクロコを見やるが、後で追えば良いと判断して先に距離の近いもう1人の
一見動物的な耳を生やした小柄な少女に見えるそれは、遍く死を齎す
またの名を───八握剣異戒神将 死路虚