ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ12話までの範囲でお送りします。
閲覧注意


いつかの君へ

 

少し時間は遡り───

 

 

「…アリスは行きます、ユウカ」

『ダメよ。理由は今朝言った筈でしょ?』

 

トリニティ総合学園第4校舎に結界が降りたことが確認され、その報告は映画館の事件を追っていたアリス達の元にも届いていた。

現場へ向かうことを別行動中のユウカへと伝えるアリスだったが、当然ユウカはそれを了承しない。

 

『結界まで降りてるとなると、あいつが生きてる上例の第4校舎に潜んでいる可能性が高いわ。すぐ戻るから、アリスちゃんは待機してて』

 

 

(…まあ言っても無駄でしょうけど)

 

止めてもアリスは行ってしまうだろう事を見越したユウカは通話を切ると、確認の為に再び訪れたトリニティの地下空間での仕事を切り上げる事にした。

その場にはまた来ると踏んでいたのだろう、ムツキが足止め、或いは嫌がらせ目的で配置した改造された生徒が軽く数十今にもユウカへと飛びかかろうとしていたが…別の場所からの射撃によりそれが牽制される。

 

「ユウカせんぱーい!?帰っちゃうの!?」

 

 

───ミレニアム支部2年 黒見セリカ

 

 

「私はね。後は任せたわよ、セリカちゃん」

「いやかなり多いんだけど!?それに…この人達、生徒なんでしょ…?」

 

今回手が空いているということでミレニアム支部から応援に来ていたセリカは、先程の発砲で一斉に自分に意識を向けてきた改造生徒達に後込みするが、彼女の実力とやる気の出し方を心得ているユウカは現場を任せる事をまるで心配せず去り際に一言だけ残す。

 

「1級資格の推薦、引き受けても良いわよ」

「よっし、任せなさい!気合い入れてくわよー!」

 

現金な後輩を背に、ユウカはトリニティ総合学園第4校舎へと急いだ。

 

 

 

 

 

一方急行しようとするアリスの前に、アヤネが立ちはだかっていた。

 

「そこを退いてください、アヤネさん」

「私達の仕事は、皆さんのサポート…そして人助けです。その助ける対象の中にはアリスさん達だって含まれています。みすみす、死にに行かせたりはしません」

 

アヤネの脳裏に過ぎるのは、以前の古聖堂での一件。

今こうして元気に生きているとはいえ、1度確かに死なせてしまったのは少なからずアヤネにも判断ミスがあったからだ。

 

(私はもう…間違えない!)

「行ってはいけません、アリスさん!」

「アヤネさん…すみません」

「っ!?」

 

しかし、アリスは跳躍してアヤネの真上を飛び越えると、そのまま現場へと走る。

伊達にS.C.H.A.L.Eに所属する前から俊足と持て囃されてはおらず、直ぐにアヤネはアリスの後ろ姿を追えなくなってしまう。

1人残され…それでも出来ることをしようとアヤネは端末を操作した。

 

 

 

 

 

 

「何をしているんですか!コハル!」

 

バルコニーへの扉が勢いよく開け放たれる。

突入してきたアリスはコハルを目視するなりレールガンを構え、それをコハルへと向けた。

 

 

「…引っ込んでなさいよ、アリス」

 

 

吊るし上げられていた行政官が床に放り捨てられ…コハルの背後を、紫と緑の体色を持つブヨブヨとした気味の悪い怪物が漂う。

 

(あれは…?特異体、とは違う…ヒナのと同じ?ですが、なんであろうと…!)

 

アリスはコハルにレールガンを放った。

放出された極大のエネルギーの塊は…割り込んだあの気味の悪い怪物によって防がれる。

 

「!」

「”パンちゃん”、行って」

 

パンちゃんという名前らしい…式神。

それはコハルの指示に従って触手を伸ばし、アリスに絡みつこうとしてくる。

それをレールガンの銃身を横に叩きつけて逸らし、触手に銃身を滑らせながらコハルへと肉薄して滑らせた勢いのままレールガンをフルスイングするも、やはりパンちゃんが身体を割り込ませて防いでしまう。

 

(あの式神のせいで攻撃が通らない…!)

「言ったでしょ…引っ込んでなさいよ、アリス!あんたには関係ないでしょ!」

「それを決めるのは…コハルではありません!」

「無闇やたらに助けることに、なんの意味があるってのよ!色々履き違えてるのはそっちでしょ!」

「ぐっ…うわぁっ!?」

 

コハルの指示により先程以上の触手が伸びてくる。

レールガンを撃ってその一部を吹き飛ばすも、防ぎきれずにアリスの手足に触手が絡みつき、力強く締め上げられる。

 

「くぅっ…!」

「人の感情も、心も、ヘイローの代謝でしかないのよ。全部まやかし。まやかしで私を縛らないで。私の”殺す”っていう選択を、邪魔しないで」

「待ってください、コハル…!」

「…じゃあね、アリス。そこで寝ててよ。私にはやることがあるんだから…」

 

アリスをパンちゃんに抑えさせ、この場にはいない行政官を探しに行こうとコハルは館内への扉に手をかける。

 

一瞬、名残惜しそうにアリスの方を振り返ろうとしたが、自ら捨てたそれを惜しむ資格など自分には無いと言い聞かせ、思考を埋め尽くす怒りと憎悪に身を任せる。

 

(これで、良いのよね…ムツキ)

 

 

 

 

『コハルちゃんの秘儀は毒だね。神秘から精製した毒を式神の触手から分泌する』

『触手!?なんかエッチじゃない!?』

『う〜ん…使い方次第だと思うけど…とにかく、毒の加減、式神のサイズや強度の可変はこれから覚えれば良いよ。普通の生徒が時間をかけて掴む感覚は私が教えてあげられるし、きっと直ぐに戦える…コハルちゃん、才能あるね』

『…!』

 

 

 

 

(この力で…私は…)

「一体…!」

「っ!?」

「何に言い訳をしているんですか!」

 

服の襟が引っ張られ、コハルはバルコニーへと引き戻される。

驚きに振り返れば、アリスはパンちゃんの触手による拘束を力尽くで引きちぎっていた。

コハルはアリスを押さえつけようとパンちゃんを操作してさらに触手を絡めさせるが、アリスは引き寄せたコハルに頭突きを行い、それによってコハルが怯んだ事でパンちゃんの操作が甘くなり、その隙を突いてアリスは触手を全て振り払う。

 

「コハル!歯を食いしばってください!」

「このっ…ぎゃっ!?」

 

アリスは全力で顔へ向かって殴りつけ、コハルはバルコニーの外に吹っ飛んで地上に落ちる。

それを追いかけアリスは飛び降りるが、コハルはパンちゃんをクッションに着地して既に体勢を立て直していた。

 

(パンちゃんの毒が効いてない!なんで、邪魔するのよ…なんで…!)

 

コハルの脳裏にハスミの笑顔が過ぎる。

いつも自分を気にかけてくれて、ずっと優しくしてくれた大好きな先輩。

だが、その先輩はもういない。

 

(…アリス、追って来てる。空中なら身動きができない筈…いや潰すなら着地寸前を!)

 

もう、止まれない。

邪魔をするならば打ち破る。

パンちゃんを操作し、地面に着地する無防備な瞬間を狙って触手を伸ばさせ───アリスは着地と同時に地面に渾身の力でレールガンを叩き付け、それにより生じた衝撃波で迫る触手を吹き飛ばした。

 

「なっ…!?」

「コハルが何を言っているのか、まったく分かりません!」

「!」

「コハルがどれだけ見栄を張った様な理屈を捏ねても…!」

 

 

 

『うへ〜、式神を使う相手は本人を狙うのが1番楽だよ?』

 

 

 

「コハルはただ…自分が正しいと思いたいだけです!」

「っ…!」

 

再びアリスは拳を振るい、また顔を殴られ吹き飛んだコハルは窓を破って校舎へと突っ込んで階段に背中をぶつけ、痛みに身体を悶えさせた。

それを追って校舎に入ったアリスはコハルの戦意が揺らいだのを感じ、攻め手を止めて優しい声で声を掛ける。

 

「…コハルの動機は、分かりません。ですが、何か理由があるんですよね?ですが…それはハスミさんを悲しませてしまいませんか?コハルは自信を持ってハスミさんに顔を向けられるのですか?」

「くっ…!あんたに、何が分かるのよ…!」

「人の心がまやかしなんて、ハスミさんの前で言えるのですか!」

「…人に心なんて、無いのよ!」

「コハル、まだ…」

「だって…!」

「!」

 

俯いていたコハルが、顔を上げる。

その顔は…泣きじゃくり、くしゃくしゃに歪んでいた。

とめどない大粒の涙がポツポツと床に滴る。

 

「そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ!私は…ハスミ先輩は…人の心に堕とされたって言うの…!?そんなの、あんまりじゃない…!」

「コハル…」

「もう、何が正しくて、何が間違ってるのかも…私にとっては、分かんないっ!」

 

コハルはパンちゃんを操ってアリスへと触手を伸ばし───アリスはそれを真っ向から受け止める。

 

「…な、んで…避けないのよ…!」

 

触手がアリスの肩と腹を貫き、血が白いシャツに滲む。

しかし、それでもアリスは触手を払い除けようともせず、抜こうともしない。

咄嗟にコハルがパンちゃんを消すと、アリスは膝を着いて荒く息を吐くが、ゆっくりとコハルへと歩み寄るとコハルの手を包み込むように握った。

 

「すみません、コハル。何も知りもしないで偉そうに言ってしまって…何があったのか、教えてくれませんか?アリスは絶対に、コハルを嫌いになったりしませんから」

「…うぅっ…ぐすっ…うぅぁぁ…!」

 

しばらく嗚咽と泣き声のせいでまともに話すことが出来なかったコハルだが、やがて落ち着いたのか、事の経緯を少しづつ…自分の気持ちに整理をつけながらアリスへと話した。

そして吐き出される激情を聞き届けたアリスは目を瞑って一瞬、或いはどこまでも長く感じるような間を置くと、まとまった考えをコハルに提案する。

 

「…コハル。良ければ、S.C.H.A.L.Eに来ませんか?」

「…え?」

「そうです。それが良いです。ステータスカンストのチートみたいに強い先輩や、頼りになる仲間がたくさんいるんです!皆で協力すれば、ハスミさんを陥れた人だって見つけられます!」

「でも…私は…」

「S.C.H.A.L.Eは、特異現象捜査部は変人奇人の巣窟だそうです。コハルでも、きっと埋もれてしまうような癖の強い人がたくさんいるのだと。ですから、きっと受け入れてくれます。もし受け入れないと言われても、アリスが絶対に認めさせてみせます!」

「アリス…」

「コハルはもうアリスの友達…いえ、パーティメンバー。仲間ですから!」

「…うんっ…!」

 

泣き腫らした目元を拭い、コハルはアリスが差し伸べた手に手を伸ばして────

 

 

 

 

 

 

 

「くふふっ」

「あぐっ!?」

「アリス!」

 

突如として階段の上から現れた流動する肉塊が、アリスを壁に押さえつけた。

なんの前触れもない出来事に事態を飲み込めない2人だったが、そんな2人を嘲笑うように階段から1人の少女が両手を広げ…片方の袖から肉塊の根元が出ている…降りてくる。

 

「誰…ですか…!」

「初めましてかな?Keyの器」

(生徒…?でも、この感じ…まるで特異体のような…!いや、それよりもあの人…!白い髪と赤黒い装い、ユウカさんが言っていた地下にいたというアウトロー!)

「ム、ムツキ!なんでここに居るのよ!それより、アリスを離して!」

 

肉塊でアリスを押さえつけるムツキに気安い仲であるかのように近付くコハルに、アリスは肺が圧迫され呼吸を苦しくしながらも、喉が潰れんばかりに声を張り上げるた。

 

「コハル…!その人とどのような関係なのかは知りません…!ですが、今はどうか逃げてください…!早く…!」

「あ、アリス?落ち着いて、ムツキは悪い人じゃ───悪い、人…?」

 

そう出かかった言葉を止めて、コハルは夢から覚めたような感覚を味わう。

生徒を大きくする実験、小さくする実験、改造した生徒を肉塊にして武器として扱い、残虐に人を殺すムツキを…何故、悪い人では無いと思っていたのだろうか、と。

 

「コハルちゃんはさ〜」

「っ…」

 

コハルの肩に、ムツキが腕を回す。

コハルはそんなムツキの顔を見ることが出来ず、喋ることも動くことも出来ずに肩を小刻みに震わせる。

 

「やれば出来る子ではあるんだろうね。勉強も運動も、見栄張って出来ると言うけど実際コツコツと練習すればこなせるようになると思うんだ」

「コハル…!逃げ、て…!」

「でもさ〜、熟慮は時に短慮以上の愚行を招く、だっけ?慣れない癖に頭を使い過ぎるコハルちゃんはその典型なんじゃないかな?」

「む、つき…?」

 

 

 

「コハルちゃんって、あんたが馬鹿だと思ってる子の、その次ぐらいにはお馬鹿だから」

 

 

「───ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グニィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、はる…?」

 

コハルのヘイローが、歪む。

その歪みに呼応するようにコハルの肉体も同様に歪み、溶け落ちるようにぐちゃぐちゃになり…中途半端に残った髪と翼が僅かに面影を感じさせる、肉塊へと成り果てた。

 

「ほらほら、頑張れ頑張れ。第2ラウンドだよ〜」

 

ムツキの傀儡となったコハルは、ムツキが伸ばしていた肉塊を袖に収めた事で開放されたアリスへと体当たりをする。

それを受け止め、身体で押しとどめるアリスは人生で出したことのないような、やり切れない声を震わせる。

 

「こ、コハル、しっかりしてください!今、今、治しますから…!Key、Key!」

 

キィーン、と機械音が鳴るとアリスの片目が光を失い、そこから声が響く。

 

『…なんでしょうか?』

「なんでも、します…アリスのことは好きにしても構いません…!ですから、どうか…アリスを治した時のように、コハルを治してください…!」

 

 

 

 

『嫌ですよ』

 

「ぇ…?」

(…ふふっ、あの時の契約は忘れているようですね)

 

『クックック…愉快、実に愉快です!矜恃も、未来も、信念も、貴女の全てを投げ捨てて私に縋ろうとも何一つ救えないとは!』

 

 

 

アリスとKeyのやり取りを見ていたムツキは、思っていた通りの展開にならなかったことに首を傾げていた。

 

(契約を断った?あの圧倒的に有利な条件で…ヘイローの形は恐怖がどうこうで治るものじゃないけど…他人を治すのは専門外だったのかな?ちょっと予定が狂ったけど…でも、これはこれで…)

 

「面白いや!くふふっ、あっはははは!」

『惨めですよ!この上なく惨めです!小娘!フフッ、フフフフフッ!』

 

 

 

 

 

 

ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ

 

 

 

 

 

(あぁ…この人達は…こいつらは…)

 

 

『どうしようも無い奴ってのはいるものだわ』

 

 

(…どこまで行っても、”敵”なんですね…)

 

「あ…りす…なん、で…?」

「!」

 

コハルだった肉塊が、アリスの腕の中で弱っていく。

それを止める方法も、救う方法も…何一つ思いつくことは無く…やがて肉塊はその動きを完全に止め、ボロボロと崩れるようにアリスの腕の中から落ちていった。

 

「あっははは!もう死んじゃった〜!ちょっと乱暴に形変えちゃったから、長持ちしなかったか〜。まあでもこんなものだよね…ぶぇっ!?」

 

一頻り笑い、笑いすぎでつい零れた涙を指で拭っていたムツキの顔面を、アリスは一切の加減も躊躇もなく殴り飛ばした。

飛ばされた勢いで壁に半身が突き刺さるムツキだったが、直ぐに抜け出して余裕の笑みを浮かべた。

 

「見た目以上に力強いんだね?そんな極端な神秘があるようには見えないけど…でも、そんな攻撃私には効かないよ?ヘイローの形を保って…あれ…?」

 

煽ろうとしたムツキだったが、異変を感じ取り自分を見下ろすと、滝のように流れる鼻血が胸元を濡らしていた。

本来ならば、どんな力で殴られようと殴られた部分が傷付くか折れるか潰れるか。

衝撃に対しての直接的な損耗しか負う事はなく、それによってダメージが鼻血に派生する事などありえない。

その上…

 

(傷の治りも遅い…身体を内側から突き刺されたみたいな痛みが響く…ヘイローを直接殴れらたみたいな…そんなこと有り得るの?)

 

まさに、ムツキはアリスの殴打によってヘイローそのものにダメージを受けていた。

接触不可能なヘイローを本体とし、ダメージを肉体で肩代わりすることで事実上の無敵を成しているムツキにとってありえないダメージ。

 

(…そういうことか。天童アリスは器…常に肉体の中に『Key』という異物を内包し、同時にヘイローを重ねている状態。だから自然に…ヘイローの輪郭を知覚して、神秘を私のヘイローに響かせる事が出来ている!)

「…くふふっ、これはちょっと…面白くなってきたね」

 

 

 

 

 

(今まで自分が掲げてきたものが全て嘘だったと思うような、湧き上がるこの感情。目指したものすら否定してしまうような、それ程に心の底から湧き出た本音)

 

「…殺す」

 

「ふっ…鎮めるの間違いじゃないかな!天童アリス!」

(天童アリスは自らの命を顧みない。人質とかを使った外的な要因による契約の強制は効果が薄いからユメに止められてるし…だったら、殺したい程憎い相手を殺せない時、この子はKeyに頼るのかな?)

 

少なくともアウトローを名乗るようになって以来、初めて受けたヘイローへの”ダメージ”という感覚に、自分でも驚く程に冷静なムツキは計画を達成する為にまたも悪巧みをする。

 

(コハルちゃんで足りなかったのなら、今度は別の生徒を1人1人目の前で弄ってやれば良い。利害を超えた憎しみで天童アリスにKeyと契約を交わさせる。それでKeyをこっちに引き入れられたら万々歳かな。でも…それは私が天童アリスより強いことが前提。中々どうして、天敵ってのは厄介だね)

 

「うああぁぁぁぁ!!」

 

ホシノが見れば驚きに目を細めるであろう程に怒りと憎悪で神秘を漲らせたアリスは、その全てをレールガンへと注ぎ込み…そしてムツキへと放つ。

それを真上に跳んで軽やかに避けたムツキは袖から伸ばした肉塊の触手をワイヤーのように使いアリスの後方にある柱に巻き付けると、それを引き戻す勢いでアリスへと飛び蹴りを当てる。

 

「…いっ!?」

「光よ─────!」

 

だが蹴りを手のひらで受け止めたアリスは脚を掴んだままムツキにレールガンを押し当て、ゼロ距離でもう一度放つ。

エネルギーの奔流を直に受けて吹き飛びそうになるムツキだが、アリスに脚を掴まれていることで敢えて吹き飛んで距離をとることも出来ない。

 

(チッ…やっぱりこいつの神秘が乗ると得物を使ってもヘイローにダメージが来る…!)

 

(…傷が再生している?リジェネか何かでしょうか?それなら…回復できなくなるまで、何百回でも何千回でも叩き潰す!)

 

「くっ…ふふ、厄介だねぇ!楽しいよ!」

「そうでしょうね…ですが、アリスは!」

「おぉっ!?」

 

掴んだままの脚を振り回し、何度も床にムツキを叩き付け、レールガンの発射によって空いた壁の穴からムツキを外へ放り投げると、さらにレールガンで追撃する。

踏ん張る場所のない空中ならば避けられない筈…だが、再度ムツキは袖から伸ばした肉塊の触手を地面に突き刺し、引き戻す勢いで地上に高速で降りてそれを避けた。

 

「逃がしません!」

「逃げてなんかないよ!」

「っ!」

 

追いかけようと飛び降りたアリスにムツキは触手を放つ。

空中で身体を捻り辛うじて直撃を避けたアリスは触手を掴み、伸びることが出来る距離に限界があることを確かめるとそれを引っ張ろうとする。

 

「くふっ」

「!」

 

しかし掴んだ位置から生えた棘がアリスの手のひらを貫いて…それを気にせず握る力をより強めたアリスは触手を引っ張り、ムツキごと振り回して校舎の壁に叩き付ける。

 

「いって…離すでしょ普通…!」

(伸ばしすぎたり大きくし過ぎると強度と操作性が下がっちゃうなこれ…)

「ふんっ…!」

 

背中を摩るムツキの目の前まで跳んだアリスは着地と同時にレールガンで地面を叩き、土煙を巻き上げ、不明瞭な視界に紛れてムツキにボディブローを叩き込む。

 

「がっ…!?」

「くふふ、でもあんたじゃ私に勝てないよ」

 

が、肉薄することはムツキにとっても反撃のチャンスとなる。

ムツキは服のお腹の部分に空いたスリットから肉塊の棘を伸ばし、距離故に避け切ることが出来ず、モロに棘がアリスを貫いた。

棘で身体を固定され身動き出来ないアリスに、ムツキはそっと手を伸ばす。

 

「ほら…さっさとKeyに代わりなよ」

 

そして、手がアリスへと触れ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

ムツキは気が付けば、薄暗い景観に、所々光が灯る空間。

地面を無数のケーブルが這い、至る所に歯車や壊れた機械のようなものが落ちている摩訶不思議な世界の中にいた。

そして、機械の残骸の山の上にある、無数のケーブルが繋がる椅子の上に座る、Keyと対峙する。

 

「私のヘイローに触れますか…共に腹のそこから小娘を笑った仲です。一度は許しましょう。二度はありません───分を弁えなさい、痴れ者め」

 

 

 

 

 

 

 

Keyの生得領域から放り出され現実に意識の戻ったムツキの頭を、アリスが掴んだ。

 

「代わったりなどしません…言ったはずです───殺すと」

「クソッ…!」

 

頭蓋を陥没させんばかりの頭突きを食らわせ、仰け反ったムツキの腹を蹴り飛ばし、校舎の壁にぶつかり崩れ落ちた瓦礫にムツキが沈む。

瓦礫を押しのけて姿を表したところに休む暇を与えず飛び蹴りをかまし、くの字に曲がったムツキの身体にもう一度レールガンを押し当て…

 

 

 

「ばーか」

「!?」

(偽物…!?分身…!?いつの間に…!)

 

アリスの背後を取った()()1()()のムツキは、肉塊で作り上げた刃をアリスへと振り下ろす。

瓦礫に埋もれた時にムツキが肉塊で作った分身にまんまと騙されたアリスは本体による奇襲に対応しきれず────

 

 

 

 

「アリスちゃん!」

 

銃撃がアリスへと迫る肉塊の刃を粉砕した。

 

「ユウカ!」

「説教は後よ!状況の説明を!」

「…2人、助けられませんでした…」

(どこまで行っても他人の心配を…)

 

「はぁ、まずはアリスちゃんの身体の事を」

「アリスは平気です。ちょっと穴が空いてますが…」

「平気の意味…」

「それと、校舎の中の生徒達は皆倒れていましたが、息はあるようです」

 

「やっほー、1級ちゃん。ピンピンしてるじゃん。お互い無事で何よりだよ。再開の記念にハグでもするー?」

(…!)

 

ムツキの軽い調子の煽りに眉間に皺を寄せるユウカだったが、ムツキの鼻から流れる血に…そして強がっているように見えるが微かに身体が震えている事に気が付き、以前自分が戦った時とは様子が違うことを看破する。

 

「アリスちゃん、あの血は?」

「えっ…?普通に、殴ったら出てましたけど…」

「いつ?」

「最初です」

「あいつの手には触られた?」

「は、はい」

 

「…」

 

アリスにその役目を課す事に一瞬躊躇いがあったユウカだったが、今はなによりもあのアウトローを鎮める事が先決と心を鬼にして判断を下す。

 

「…アリスちゃん、私の攻撃はあいつには効かないわ」

「えぇ!?」

「理由は説教の時にね」

(あいつはアリスちゃんを殺せない理由がある。或いは何かしらの要因によってあいつの攻撃はアリスちゃんには効かない。どっちにしても好都合!)

 

「でも牽制で動きを邪魔するくらいは出来るわ。お互いで隙を作って畳み掛けましょう。ここで…確実に鎮めるわ」

「…はい!」

 

「ふっふふ…良いね、まだまだ遊ぼっか!」

 

 




配役
イノタク…セリカ
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