ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ13話までの範囲でお送りします


また明日

「ここで…確実に鎮めるわ」

「…はい!」

 

(天童アリスに気を付けて、まずは1級ちゃんから片付けようかな)

 

ユウカの介入により場が仕切り直され、対峙するムツキは自分へダメージを与えられる唯一の存在であるアリスへと注意を払いつつ、袖から溢れさせた肉塊で刀剣の形を作るとそれでユウカへと斬り掛かる。

サブマシンガンの銃身でそれを弾いて躱したユウカはムツキをアリスの方へと蹴り飛ばし、それに合わせてアリスもムツキの背中にレールガンの銃身をフルスイングして吹き飛ばす。

 

地面に靴を擦りながら急停止したムツキは今度は大量の肉塊を津波のように溢れさせて2人へと差し向ける。

 

「光よ─────!」

「…あれ面倒だなぁ…っと!」

「よそ見してる暇なんかあるのかしら!」

 

それに対し、迫る肉塊へアリスはレールガンを放ち、そのほとんどを消し飛ばす。

それによって開いた道を駆け抜けたユウカは飛び上がってムツキを撃ち下ろし、避けたところに肉薄したアリスが殴りかかって腕によるガードの上から殴り飛ばした。

 

「いっ…た〜!だったら…これはどうかな!」

 

着地していたユウカとすれ違うように宙へ飛び上がったムツキは自分を球状に肉塊で覆うと、全方位へと肉塊の棘を伸ばす。

地面に深く突き刺さる威力と速度のあるそれを回避するアリスとユウカは、避けたそばから棘を叩き壊した。

 

(…これ良いと思ったんだけどなぁ。躱されやすいし無駄にストックを削られるだけか…雑魚専かなこりゃ。やーめよ)

 

棘を引っ込めたムツキは肉塊から飛び出すと、その直後を狙ったアリスのレールガンによる射撃を身体を逸らして避け、同時に制御から切り離した複数の小さな肉塊を投擲する。

大して速度も無いそれを少し下がるだけで回避したアリスは追撃を続けようとするが…

 

「アリスちゃん!そこ飛び退きなさい!」

「!」

 

ユウカからの勧告に言われた通り後方に大きくアリスは跳んで…先程地面に落ちていた肉塊が爆発し、風圧で転びそうになるのを地面にレールガンを突き刺して体勢を支える事で事なきを得る。

 

「ちぇー」

「なんですか今のは…!」

「爆弾でも混ぜてたんでしょうね。警戒するものが増えたわ、面倒くさい」

「でも…分かったところで避けられるものかな?」

 

肉塊の触手を伸ばしたムツキはそれを細かく切り離すと、辺り一面に無造作にそれをばら撒く。

肉塊が落ちていない地帯まで退く2人だが、ムツキ自身はそんなアリス達にとっての地雷原の真ん中に位置取り、校舎の中の方に触手を伸ばして…誰かが使っていたのであろうマシンガンを拝借するとそれをユウカの方に乱射する。

 

常に動き続けることで銃撃を避けるユウカだが、この距離ではどうしても中々有効打を入れられず、アリスもここから撃っても回避されるだろう事が分かっているからこそ下手に攻め込めない。

 

「これではっ…近付けません!」

「あいつの武器も無限じゃない!さっき爆発した時神秘の変化が見られなかったから、爆発そのものは爆弾を使ってるはず!ならあれ全部に入ってる筈が無いわ!」

「…分かりました!一緒に行きましょう!」

 

リスクを覚悟でユウカとアリスは同時に肉塊の散らばる一帯に踏み込む。

ムツキの乱射するマシンガンを躱し、触手をいなし、アリスに迫っまハンマーのような肉塊をユウカが撃ち落とし、アリスは一気にムツキへと接近する。

足元に注意を払いながらも間近でレールガンを放とうとして…

 

「良いの?そんな馬鹿正直に近づいてきて?」

「しまっ…!」

 

その場に止まって射撃をしていたムツキは接近してくるアリスに逆に飛びかかると、袖から肉塊ではなく2つの装置を出して両手に持ち、アリスへと抱きつく。

 

(ばら撒いた肉塊はブラフ…!)

「私は私の攻撃でダメージなんか負わないもんね〜」

「アリスちゃん…!」

 

ムツキの両手の装置がけたたましいブザー音を鳴らし───特大の爆発を起こす。

爆発の直前に伏せることで爆風によるダメージを最小限に抑えてユウカは、アリスを助けに行こうとするも辺りを覆う爆煙のせいで思うように動けず、耳に意識を集中して周囲の音を拾う。

 

(…アリスちゃんは咄嗟に神秘を強めて防御できてた。あれで戦闘不能になってるって言うことは無い筈だけど…)

「…来るなら、こっちよね!」

「うがっ!」

 

背後の煙が揺らめき、そこから伸びてきた腕をユウカは紙一重で避けると肘でムツキの顎下を叩き上げ、さらに服の隙間に手榴弾を差し込むと腹に掌底を打ち込んで押し出す。

 

「ちょっ…ひどっ…!」

 

慌てて手榴弾を抜き取ろうとしたムツキだがその前に爆発し、その爆風によって周囲の煙が僅かに吹き飛ぶ。

そして手榴弾の爆発による音と光が視界の悪いこの土煙の中での良い目印となり、土煙の奥から飛来した極大のエネルギーの塊がムツキを撃ち抜く。

 

一度一息ついたユウカの元へ、ボロボロになりながらもまだまだ戦意を滾らせるアリスが合流した。

 

「アリスちゃん、大丈夫?」

「はい、アリスはまだ戦えます!」

「気付いてるかしら?あいつあの肉塊を操作する時は…」

「直前に神秘が膨れ上がってますね。それを読めばある程度は意表を突かれるのは防げます」

「よろしい、一気に行くわよ!」

 

(…流石にあれを何度も食らってたら死んじゃうな〜。天敵、本当に厄介。ちょっと大人しくしてもらおっかな)

 

土煙がようやく晴れたのを見計らって、仰向けに倒れ天を仰ぐムツキにアリスが肉薄して前衛となり、ユウカは後衛から援護射撃を行ってそれをサポートする。

攻撃が再開したのを察知して起き上がったムツキはユウカからの射撃を肉塊を避けると、袖から3体の小さな人型の異形を落とした。

 

「あれは…!」

「髪の長い子を殺して」

「改造した生徒!?」

 

まだ頭上にヒビが入った薄いヘイローを浮かべる3体の異形は、ムツキの命令に従ってアリスへと襲いかかった。

レールガンのチャージを中止したアリスは逃げるように改造生徒からの攻撃を避け、それを見たムツキはほくそ笑む。

 

「やっぱり…あいつ生徒を殺せないんだ」

「チッ…!」

 

改造生徒がアリスを足止めしている間にムツキは狙いをユウカへと絞り、触手を振り回す。

横薙ぎに払われた触手をすんでのところでしゃがんで避けるが、僅かに触れた髪の端が千切れてハラハラと落ち、真後ろにあった校舎の壁には巨大な爪で引き裂かれたような痕が刻まれる。

 

(段々攻撃が鋭くなってる!威力が増してる!こいつ…戦いながら成長してる!)

「あっはは!天童アリスが来ないなら、もう君は私の敵じゃないよ!」

 

単独では対抗する術を持たないユウカに、ムツキは容赦無く猛攻を仕掛けた。

 

 

 

 

 

「くっ…うぅっ…!」

 

殴り掛かり、飛びかかってくる改造生徒達を避けるのに必死なアリスは、回避に気を取られてユウカから引き離される事に焦りを感じていた。

 

(ユウカだけではムツキは倒せないと…アリスが行かないと、いけないのに…!)

 

引っ掻こうとしてきた改造生徒の腕を掴んで止めたアリスはどうやって彼女達を拘束しようかと考えていたその時…改造生徒の口から聞こえた微かな声を聞き取ってしまった。

 

 

「おね…が…ころ…して…」

 

「っ…!」

 

 

 

 

 

ムツキの肉塊に囚われ、ユウカは校舎の壁に押し付けられ身動きを封じられていた。

後は最早ムツキのさじ加減、殺そうと思えば次の瞬間には殺される。

文字通り命を握られている状態。

既に勝利を確信したムツキは敢えてすぐには殺さず、何をして遊ぼうか思案する子供のような無邪気な笑みを見せた。

 

「えっとね〜、次は君を天童アリスに襲わせようと思うんだ。今度は泣いちゃうかな?現実と理想の擦り合わせが出来ないお馬鹿さんは」

「…それは違うわよ。丁度あの子は今その擦り合わせの真っ最中なの。どちらかと言えばお馬鹿さんは貴女の方ね」

「…くふふっ」

 

ムツキの背後に、アリスが轟音を立てて着地する。

それを追う改造生徒の姿は無い。

それが表すのは即ち、

 

(殺してきたね!天童アリス!)

「拘束が緩んでるわよ」

「おっと〜?」

 

アリスの方をへ振り向いていたムツキに勘づかれること無くいつの間にか肉塊から抜け出していたユウカは、狙いを定めてサブマシンガンを連射する。

 

(1級ちゃんの秘儀は割れてる。適当に形を変動させるだけで1級ちゃんの攻撃は肉塊の盾を貫けな…っ!)

 

袖から溢れさせた肉塊でユウカの弾丸を受け止めようとしたムツキだったが、それよりも早く懐に潜り込んだアリスが顔面を殴り、大きく仰け反り体勢を崩したところに秘儀の発動対象の点にユウカの弾丸を受けた事で右手と左足が吹き飛ぶ。

すぐに再生するが、治したそばからアリスが強烈な殴打を与え、ユウカが追撃する。

絶え間ない連携攻撃を受け、反撃する暇さえ無くなりムツキはただ耐え凌ぐことしか出来なくなっていた。

 

(身代わりも作れない…!このままじゃ…耐えきれなくなる────死ぬ)

 

 

それは、ムツキが生まれて以来初めて感じる恐怖…いや、最早そんな言葉では言い表すことの出来ない、斬新なインスピレーション。

窮地に追い詰められ、生存本能が活性化するからこそ得られる、身体の底から溢れる力。

 

(…ああ…なんて素敵なんだろう…今なら、出来る…!)

 

2人の連撃を受けながらもムツキは…両腕の袖から溢れさせた肉塊で腕を作ると、それを操り頭上で掌印を結ばせた。

それを見た瞬間にユウカは攻撃を中断してアリスを突き飛ばす。

 

「アリスちゃん!逃げて…!」

「ユウカ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神秘解放『トリックオアトリック』」

 

 

 

ムツキを中心として広がった影のような腕はアリスを押しのけ、ムツキとユウカを包み込むとやがてそれが球状の結界を成す。

1人結界外に取り残されたアリスは取り込まれたユウカの元へ向かおうと結界の外殻を叩くが、少なくとも校舎の壁よりはずっと硬いその強度に手をこまねいていた。

 

「ユウカ!ユウカ!このままでは…ユウカまで…!」

 

 

 

 

 

「あぁ…最悪…!」

 

「今はただ…君に感謝を」

 

辿り着いた神秘、秘儀、その極地にムツキは悟りを開いたかのような穏やかな笑顔をユウカへと送った。

当然、それに巻き込まれた方からすればたまったものではない。

 

(神秘解放…神秘で構築した生得領域内で必殺の秘儀を必中必殺に昇華する…私が至れなかった極地。あいつのヘイローを弄る秘儀は自分の手で触れることが発動条件でしょうけど…領域の中なら、最早触れる必要すらない。既に、文字通り私はあいつの手のひらの上)

 

神秘解放に対して一切の対抗手段を持たないユウカは、銃を降ろして肩を竦める。

もう、自分に出来ることはないと諦観の念を抱いて。

 

(特異現象捜査部はクソよ。他人の為に命を投げ出すことを、時に仲間に強要しなくちゃいけない。だから、やめたのに…だから逃げたのに…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐古する。

懐かしいような、しかしそんなに前の話というわけでもない記憶。

いつからかミレニアムの会計の仕事で胃を痛め、通うようになった山海経の薬屋でのこと。

 

『体調大丈夫なのだ?』

『えっ?』

 

いつものように行きつけの薬屋で胃痛薬とサプリを買っていた時、ネズミのような耳を持つ店主の薬師にそう訪ねられた。

 

『いや、最近結構な頻度で来るから心配になっただけなのだ』

『まあ…そうね。ちょっとストレスとかが溜まってるだけでお医者さんにかかる程じゃないわ』

『そうなのだ?けれどあまり薬に頼り過ぎるのもどうかと思うのだ』

『とても薬屋の発言とは思えないわね。ここはもっと効きのいい薬があるって吹っかけるところよ?』

『本人の前でそれを言うのもどうかと思うのだ…まあ程々に、またの来店をお待ちしてるのだ』

『…』

 

店主の肩に乗る小さな特異体…4級にも満たない非常に弱いものに分類されるそれを視認するが、無視して店を出る。

あれならば放っておいても対して被害が出ることはない。

下手に処理してヘンテコ霊媒師か何かだとでも思われる方が面倒だと以降何度訪れる度それを見ても見て見ぬふりをした。

 

 

 

『いち、じゅう、ひゃく…にせっ…!何処の部活よ、こんなに使い込んだのは!』

 

いつものように会計の仕事をし、詳細も分からない出費にまた胃を痛め、積み重なっていく各方面からの請求書に頭を抱え、騒ぎを起こす問題児達を諌め、巻き起こるトラブルに対処する。

命を賭けるよりマシな筈なのに、命を捨てさせるよりマシな筈なのに、積もり積もるストレスは留まるところを知らず、全く平穏を得られない。

それでも、特異現象捜査部のような終わりのないマラソンゲームと違い、この仕事にはいつか終わりが来る。

会長に頭を下げ、商業団体のお偉いさん方に頭を下げ、他所の学園との交渉にあたって頭を下げ…時々、元気の有り余る後輩の世話を焼く事に僅かながらの癒しを得る。

そんな繰り返す日々も、卒業すれば自由になれる。

その後は、どこか別の自地区にでも移ってフラフラと人生を謳歌すればいい。

 

一度S.C.H.A.L.Eを抜けてミレニアムに移ってから4年、寝ても覚めても仕事の事ばかりを考える。

何か別の仕事をしていれば、特異現象にも他人にも無縁でいられる。

生きがいなんて自分には無縁。

仕事仕事仕事仕事…仕事をしていれば…

 

 

 

 

『今日はまたどうしたのだ?』

『…何がかしら?』

『目の下の隈が凄いのだ。ちゃんも寝れてるのだ?』

 

いつものように通った薬屋で店主にまた気を遣われる。

他人から見ても分かるほどにストレスが外面に出てしまっている事に気恥ずかしさを覚えるが、それもどっと襲い来る疲れと胃痛で忘れ去る。

 

『…貴女こそ、疲れが溜まってるように見えるわよ』

『あ、分かるのだ?実はここ最近肩が重くて重くて仕方ないのだ。眠りも浅いし…薬師としては失格もいい所なのだ。この調子じゃ、効かない薬を出しちゃってるからお客さんの体調も良くならないのかとさえ思えて来るのだ』

『それは無いわ。貴女の薬にはいつも助けられてるわよ。貴女は…立派に仕事を出来てるわよ』

『?』

 

疲労でいよいよ頭が上手く回らなくなってしまったのか、つい言うつもりのなかった言葉が口から零れる。

突然そんな事を言われた店主は勿論困惑する。

 

『…はぁ、私の仕事はお金を数えたり記録したりして報告することだけど、正直私がいなくても誰も困らないのよ。薬を作れる人はきっと限られてるでしょうね。でも、何故か私の仕事みたいな誰でも出来るような仕事の方が疲れたりストレスが溜まるのって、冷静に考えておかしいと思わないかしら?』

『…もしかして楽な仕事してるな、って煽られてるのだ?』

『そんなつもりじゃないわよ…ふふっ』

『う〜ん、私にはよく分からない話なのだ』

『…ちょっとだけ前に出てもらっても良いかしら?』

『うん?』

 

何事かと首を傾げるも言われた通りに1歩こちらに近付いた店主…その肩に居座る特異体を神秘を込めた腕の一振で鎮める。

 

『肩、どうかしら?』

『…え?あれ、軽いのだ!?』

『違和感が残るようなら病院を訪ねると良いわ。じゃあ、失礼するわね』

『ちょっ、ちょっと待つのだ!』

 

会計を済ませ店を出ようとしたところを、店主が呼び止めてくる。

店主は眩しい程の笑顔を浮かべると、こちらにめいいっぱいに手を振った。

 

『次はもっと良い薬を用意するから、ぜひまた来るのだ!』

 

(…ありがとう)

 

 

生きがいなんて、無縁だと思ってた。

 

端末を取り出し、最近はめっきり連絡を取ることの無くなった懐かしの先輩に電話をかける。

 

『…もしもし、早瀬よ。話があるのだけど』

『…』

『明日にでもミレニアムの支部を通して一報入れてもらうわ』

『…』

『…なんで笑ってるのよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今はただ…君に感謝を」

「…必要ないわ。それはもう…たくさん貰ったから。後悔なんて…しないわよ」

 

逃げも隠れもせず…する意味がなく、ムツキの秘儀を受け入れようとして────

 

 

 

 

 

 

 

「光、よ──────!」

 

 

領域の中に、光が差す。

結界の外殻を閃光が突き抜け、それによって出来た穴からアリスが中へと飛び込んでくる。

 

「ユウカーー!!」

「っ!なんで入れて…!」

「アリスちゃん…?」

 

 

領域は、閉じ込める事に特化した結界。

内側から外側に出る事への耐性を高める為に内側の強度が極端に強まる分…外側の外殻の強度は弱くなる。

コンクリート程度よりは硬くとも…侵入することは、外へ出ることに比べればずっと容易い。

何故ならば、侵入する事にメリットが存在しないからだ。

 

ホシノの『アイ・オブ・ホルス』や、ムツキの『トリックオアトリック』のような、引き入れた時点で決着が着くようなものならば尚更の話。

しかし…アリスの内側には、触れてはいけないものがある。

 

『トリックオアトリック』は領域内の全ての存在のヘイローに常に触れているような状況を作り出す。

ム為転変によるヘイローの改造の工程を踏まずとも…触れられている、それだけで気に障る絶対的な女王がここには存在する。

 

 

 

 

「あっ…」

「言ったはずですよ…2度は無いと」

 

再び、ムツキはKeyの生得領域へと引きずり込まれる。

玉座に座す女王は心底不機嫌そうに手を扇ぎ───ムツキの片口から胸にかけてまでが分解され、ぽっかりと大きな穴が空く。

 

天上天下唯我独尊、作られた目的、組み込まれたプログラムすら超越して自我を得たKeyは己の快、不快こそが生きる指針。

今Keyが興味を寄せている空崎ヒナを除けば…それ以外の誰が死のうと────心底どうでもいいのだ。

 

 

 

 

「かはっ…!」

 

Keyの生得領域内での攻撃はムツキのヘイローへと直接ダメージを与え、その損耗が現実にも反映される。

領域が解除されムツキは血を吐いて地に膝を着き、傍から見れば突然消滅したような胸の穴を抑えて身体を震えさせている。

 

(なんですか…?何が起こって…いや、それよりも…)

「トドメを…!」

 

呆然と未だ立ち尽くすユウカの代わりに、今の内にムツキにトドメを刺そうとレールガンのエネルギーをチャージする。

 

(神秘解放…めっちゃ神秘消費するじゃん…!まさに切り札って感じなのに、それをよくもKey…!けど、ここが瀬戸際…最後の力を振り絞れ…!)

「っ!まだ…!」

 

ムツキはストックしている全ての生徒の肉塊を出し切ると、それで自らの全身を覆って膨れ上がらせる。

やがて肉塊は校舎の屋上にも届く程に巨大化するが、苦し紛れだと判断したアリスはチャージを続けて狙いを定める。

 

(体積を誤魔化しても、本体の大きさは変わらない。どこに潜んでいても…神秘の大小までは隠せない!)

 

巨大な肉塊の中から、特に強い神秘の反応がある場所へ最大出力のレールガンを放ち、極大のエネルギーがその箇所を貫いて風穴を空ける。

しかし…

 

(…!?手応えがない…今の神秘の反応は…囮!?)

 

ムツキの神秘は既に底を突きかけており、なけなしの神秘を囮に込めて本人の神秘がすっからかんになっていたが故に、アリスはムツキの位置の特定を見誤った。

それに加え────大爆発が起きて一帯に土煙が舞う。

 

(なんで…いや、まさか…先程ばら撒いていたあの肉塊のどれかの中に、本当に爆弾が仕込まれていた!?爆発で穴が…!)

 

散々何度も大爆発が起きた事で地盤が不安定になり…地面が陥没し、トリニティの地下に広がる空間へと繋がる。

足元にまで広がってきた地割れを思わず避けてしまったアリスだったが、土煙に紛れて地下へ続く穴の底から声が響いた。

 

「バイバーイ!また遊ぼうね〜!」

「まっ…逃がしません…あぁこんな時に…!」

 

地下に向かってレールガンを放とうとするアリスだったが、度重なる連続使用によりレールガンはオーバーヒートしており、一時的に使用が困難になっていた。

復帰したユウカが穴の底に向かってサブマシンガンを連射するも、やはり手応えが感じられず、遂には完全にムツキの気配を追えなくなってしまう。

 

「…追わ、ないと…!」

「待ちなさい、アリスちゃん。セリカ、聞こえる?本丸がまた地下空間に逃げたわ。場所は第4校舎の直下、確認した限りでは南東に。トリニティの支部の連中も呼んで虱潰しに探しなさい。今なら貴女でも鎮められる筈よ…アリスちゃん、私達も…アリスちゃん…!?」

 

端末からセリカの方へ連絡を入れたユウカはアリスの方へと振り向くが、仕留め損なった事で緊張の糸が切れたアリスは今になって疲労やダメージが表に出て、倒れ込んでいた。

 

(動…かないと…あいつを…殺さ、ないと…潰して、捻って、グチャグチャに…)

 

ユウカの呼びかける声が朦朧とする意識の中脳に響くも、やがて意識は暗転し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれが名も無き神々の女王、Key…今はアルちゃんよりも神秘が少なくて弱い筈なのに…あの存在感。ヘイローの格が違う)

 

トリニティの地下を壁に身体を寄りかからせながら覚束無い足取りで進むムツキは、損傷に反して楽しそうな表情を浮かべていた。

 

(確信した…例え私達が全滅したとしても、Keyが解き放たれればキヴォトスの秩序は崩壊する。アウトローの時代が来る…!)

 

「けど…困ったなぁ…私ってば、どうしても天童アリスを殺したくて堪らない…う〜ん、もどかしいなぁ…でも、まあいっか。肉体と違って魂は何回でも殺せるんだし…次は、どうやって殺してあげようかな?」

 

邪悪に嗤い、無邪気に笑う。

遠足に行く前日の子供のように、ムツキはいつか再び訪れる天童アリスとの決着を心待ちにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安静にしてなさいって言ったわよね?」

 

第4校舎での死者の臨時の遺体安置所となった廃墟で、ユウカは仮設の医務室から抜け出して置かれている遺体に黙祷していたアリスにそう声を掛けた。

 

「う…ユウカ。これからお説教の時間ですか…?」

「はぁ…助けてもらった相手にお説教なんてするのは野暮もいい所よ」

「助けた?アリスがですか?」

「あのアウトローの秘儀は他人のヘイローに干渉する。アリスちゃんがあいつの領域に侵入した事でKeyのヘイローにも触れてしまったのでしょうね。助かったわ」

「…?ですがアリスはKeyと代わっては…」

「Keyが出たんじゃなくてあいつが入ったんじゃないかしら」

「では助けたのはアリスではありません。助けたのはKeyの気まぐれです」

 

遺体に向かって両手を合わせたまま、Keyが出てくるまでもなく瞳に影を落としたアリスは、次第に声を震わせる。

 

「アリスは…今日人を殺しました。人はいつか死んでしまうものです…ですから、せめて人生を穏やかに全うできるように救うことを考えていました。ですが…アリスは自分でそれを終わらせてしまいました。人を救うことは…どうして、こんなにも難しいのですか?」

「そんな事、私にも分からないわよ。善人が悪戯に傷付けられて、悪人が悪戯にほくそ笑む。世の中そういう理不尽がありふれてるし、それを全部解決しようとするのは心苦しいにも程がある。私はあまりオススメしようとは思わないわ…と言っても、アリスちゃんはやるんでしょうけどね」

 

ユウカもアリスに倣って遺体達に手を合わせ黙祷すると、しばらくした後に部屋を出ようと扉に手をかける。

 

「…今日アリスちゃんがいなかったらもっと多くの人が死んでいたわ。これからも、きっと貴女を必要とする人が大勢現れる。アリスちゃんはもう…立派なS.C.H.A.L.Eの生徒なんだから」

「…」

「さっさと休んで一日でも早く怪我を治しなさいよ」

 

そう残して部屋を出ていくユウカを見送ることも出来ずに、遺体達の前でアリスは一晩中自分の存在意義をただ考え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コハルちゃん…転校したって聞いたけど…」

「最近よく分からない人が校舎を出入りしてるって聞くし、変なことに巻き込まれてないかな…?」

 

まだまだほとぼり冷めあらぬトリニティでは、コハルの友人だった2人が噂話に興じていた。

トリニティにも特異現象捜査部の支部は存在するが、どの学園にも言えたことだが、その存在と活動内容を認知しているのは生徒会長とそれに近しいごく一部の者のみ。

支部も一般の生徒や住人に悟られぬよう行動しているため時々都市伝説のように囁かれるのみ。

 

そんな支部の生徒はあの後今回の事件で出た遺体の回収や怪我人の治療、諸々の聞き込みなどの調査…その途中で入手したティーパーティーに関するとある情報は、今後の活動の事も考え速やかに密告された。

 

 

パテル分派の反社組織や不良集団との内密。

それによる一部の生徒への脅迫や暴力行為。

そんな内情が明るみにされ、現ティーパーティーのホストによってその件に関与する行政官は粛々と処分を受け、同時に不良達や反社組織の制圧も行われた。

後に『大掃除』と呼ばれた大粛清は確かにトリニティの治安を一新し、それに救われた生徒も少なくない。

 

 

惜しむらくは、それがもっと早く行われていれば…ということだけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.C.H.A.L.Eへとこっそり戻ったアリスは、出迎えに待っていてくれたホシノとユウカと合流する。

 

(多くの人を救う…アリスには、それが出来るかは分かりません。それでも…せめて、やれるだけ…その為に、ムツキを殺す)

 

コハルが呼んでいた名前を思い出し、決意を改めたアリスは新たな1歩を踏み出した。




配役
パン屋の子…サヤ
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