ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は呪術廻戦0の前半部分でお送りします
後編の投稿日は未定、もしかしたら中編、後編と分かれるかもしれません


ブルア廻戦 0
0前編


 

キヴォトスの何処かにある、とある田舎の学園。

夕日が不気味に影を差す校舎で、狼のような耳を持つ銀髪の少女が不良達に取り囲まれていた。

 

 

「久しぶりじゃないか…クロコ!」

「…来ないで」

「ククッ、そんな寂しいこと言うなよなぁ…アタシがどんだけお前を殴りたかったか分かるか?」

 

 

 

─────駄目

 

 

 

「もっとアタシらの気持ちを想像してくれよ、なぁ?」

 

主犯となる不良に追随し、他の不良達もクスクスと笑う。

そんな彼女らに少女…クロコは、自分の体を抱くようにして蹲っていた。

 

 

─────やめて

 

 

「こんなに焦らされたら…殺しちゃうかもしれないだろぉ?」

「っ…!駄目!先生!」

「あ?先生…?」

 

 

不良が詰め寄ったその時、クロコの叫びに不良達は困惑して動きを止める。

その直後───不良の背後から腕が伸びると、その不良の顔を掴み上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

記録───20XX年11月某学園。

同級生による執拗な嫌がらせが誘因となり首謀者含む4名の女子生徒が重症を負う。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか雨が降りしきり、窓を雨水が打ち付ける音が大きくなる。

雷鳴が轟き、閃光に照らされた教室の中でクロコはロッカーから流れる血で足元を濡らしながら1人膝を抱えて啜り泣く。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

 

ギギ…と鈍い音を立てて開いたロッカーの中には…身体を複雑に曲げられた不良達が無造作に詰め込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やけに広い、壁にびっしりと御札や何かの機械やその配線が広がっている、見るからに何かを封じ込めているような奇妙な部屋でクロコは腕を後ろ手に縛られていた。

クロコの周囲には6つのモニターが浮かび、それぞれ別々の人物を映す。

そしてもう1人クロコと同じ部屋にピンクの髪の小柄な少女…ホシノもその場にはいた。

ホシノはモニターの奥にいる者達に苛立ち混じりに抗議する。

 

「完全秘匿での死刑執行…ありえないでしょ?」

『ですが、本人が了承したことですよ?』

「未成年、16歳だよ?それに逆にどんな特異現象に転じて何人が殺されるかも分からない。現に2級の子が3人、1級が1人返り討ちになってるんだから。それで私にお鉢を回したんでしょ?まさかそれを忘れたなんてことは無いよね?」

『…』

 

ホシノの反論にモニターの奥の者達は唸り声をあげ、暫く沈黙が続くとその内の1人が確認を取った。

 

『ではやはり…?』

「うん、後はS.C.H.A.L.Eで預かるよ」

 

 

 

 

 

モニターが消えた後、腕の拘束を外され用意された椅子の上で体育座りになるクロコにホシノが目の前まで近付くと捻れた金属片のようなものを取り出し軽い調子で話しかけた。

 

「えーっと、砂狼クロコちゃんだったかな?これは何かな?」

「…ナイフ…だったもの…死のうとしたけど…先生に邪魔された…」

 

顔を上げたクロコは、濁った目でホシノが持つナイフを見つめる。

表情からは完全に活力が抜けていて、最早生気すら感じられないほどに憔悴しているのが見て取れた。

それを聞いたホシノはフンッと鼻を鳴らすと、ナイフだったものを放り捨てる。

 

「暗いね。今日から新しい学校だよ」

「行かない…」

「うん?」

「もう…誰も傷付けたくない…外に出たくない…」

「…でも、1人は寂しいでしょ?」

 

ホシノが達観したように言うと、クロコは膝を抱える腕にギュッと力を込める。

 

「君に降りかかる特異現象はね…使い方次第で人を助けることも出来る。力の使い方を学びなよ。全てを投げ出すなら、その後でも遅くはないよ」

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

その後S.C.H.A.L.Eが用意した寮に場所を移したクロコは、枕に顔を埋めて寝起きの微睡みをやり過ごす。

少しして眠気が晴れてくると、のっそりと上半身を起こして手で顔を拭った。

窓の外からは穏やかな朝日が差し込み、新たな1日の始まりを告げる。

 

ベッドから降りた後は歯磨きをし、用意された朝食を1人で食べ、支給された専用の制服に着替えて外へ出る。

寮の管理人の生徒に挨拶をした後人気の少ない街中に繰り出すと、道の先にはホシノがクロコへ手を振っていた。

 

ホシノと合流したクロコは案内に従って後を着いていくと、やがて大きなオフィスビルへと辿り着く。

 

 

 

 

「聞いたか?今日来る転校生、どうやらクラスメイト4人をロッカーに詰めたらしいぞ」

「あぁ?殺したのか?」

「革命?」

 

仲良く並んで通学路を歩くのは…赤い髪と1本角が特徴的な少女、レンゲ。

焦点のあっていない目とだらしなく垂れ下がる舌が特徴的な奇妙な鳥のような着ぐるみを着た生徒…ペロロ。

口元をマフラーで覆い隠す特徴的な語彙が目立つ少女…ミノリ。

 

「いや、重症らしい」

「ふ〜ん?まあ生意気なら締めるだけだ」

「プロレタリア…」

 

 

 

「やあやあ!皆!転校生を紹介するよ〜!」

 

教室に集まるやいなや、ハイテンションで滑り込んできたホシノに3人は静まり返り軽蔑の視線を向ける。

 

「…随分尖ったヤツらしいな。そんなヤツの為に空気作りなんてする気はないぞ」

「デモ」

「…」

 

「はぁ…まあいいや。入っといで〜」

「…ものすごく覚めた空気を感じる…」

 

ホシノに呼ばれクロコは恐る恐る教室へ足を踏み入れた。

対して転校生に興味が無い3人は冷たくあしらうつもりでいたが────

 

 

 

 

 

「「「!」」」

 

クロコが入ってきた瞬間、教室を満たす濃密で強大な神秘…そしてクロコの背後に薄らと浮かぶ途方もなく禍々しい特異現象の気配に一同は息を飲んだ。

その特異現象は、3人を見つめると全身から放つ殺気を強める。

 

 

次の瞬間、レンゲは鞄に入れていた銃を取り出し、ペロロは背中からアサルトライフルを取り出し、ミノリはマフラーを外して口元を晒す。

 

「砂狼クロコです…よろしっ…!?」

 

自己紹介をしようとしたクロコの顔のすぐ真横を銃弾が通り過ぎ、背後の黒板を穿つ。

気が付けばクロコは3人に取り囲まれていて、先頭に立つレンゲはクロコの顔に銃口を向けたまま問い詰めた。

 

「…これは何の試験だ?おい、お前憑かれてるぞ。ここは特異現象を学ぶ場だ。特異現象に憑かれてるヤツが来る場所じゃねえ」

「…えっ?」

 

3人から向けられる警戒心と殺気にクロコは恐怖で身を固めるが、それを止めるでも訳でも無くホシノが横から口を挟んだ。

 

「キヴォトス内での怪死者、行方不明者は年平均1万人を超える。その殆どが人の肉体から抜け出した激情の具現…特異現象によるものなんだよ。中にはアウトローによる悪質なものもある。特異現象に対抗できるのは…それを構成するものと同じ神秘。ここは特異現象を鎮める為に神秘を学ぶ、S.C.H.A.L.E、特異現象捜査部だよ」

 

(…事前に言って欲しかった)

(((今教えたのか…)))

 

 

恨みがましくホシノをジト目で見つめるクロコの様子に、大体の責任がホシノにある事を悟った3人は同じくホシノを睨む。

そんな一同からの冷たい視線に内心クロコへ軽く謝罪するホシノだったが、クロコの背後から立ち上る神秘の気配が膨れ上がったのを感じて身を引いた。

 

「君達も下がった方が良いよ〜?」

「あ?…クソッ!」

「ストライキ!」

「まずいな…」

 

「っ!先生やめて!」

 

 

 

 

”クロコを…虐めるな”

 

 

 

クロコの背後から伸びた腕が、3人へと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい思い出。

初等部の頃、私1人しか生徒がいなかったアビドスの学校で…ただ1人教鞭を執ってくれた先生は黒く煤けたボロボロの1枚のカードをくれた。

 

『ん…良いの?』

”うん、良いよ”

『…本当に?』

”良いってば。多分まだ使えると思うんだけど…いつかクロコが大きくなったら、本当に必要な時に使うんだよ”

 

その時はそれがどんなものかは分からなくて、でも大切な先生がくれたものということもあって子供心にそれは宝物のように思えた。

先生は両手でカードを持つ私の手を大きな両手で優しく包み込んだ。

 

『先生は…ずっと私の先生でいてくれる…?』

”…うん。私は、いつまでもずっと、クロコの味方だよ”

『…約束だよ!』

 

 

 

そんな日常も、ある日突然崩れ去った。

キヴォトスの外から来たと言う先生はキヴォトスの住人とは違って街中を飛び交う弾丸に一発撃たれただけで致命傷に成程にか弱かったのだ。

 

共に課外学習と銘打ちアビドス自治区内を2人で散歩していた時…突如襲撃してきたオートマタ達の弾丸から私を庇い───

 

 

 

『せん…せい…?』

 

穴の空いた先生のお腹からはとめどなく血が溢れ、幼かった私はただそれを呆然と見つめることしか出来なかった。

オートマタは今度こそ私に狙いを定めて銃を向けてきたが…

 

”クロ…コ…”

 

倒れ伏す先生の身体がピクリと跳ねる…そんな幻覚。

いや、今思えばそれは幻覚などではなく…

 

”ずっと…クロコの…味方だからね…”

 

地面を濡らす血から伸びた腕はクロコの足を掴み、やがてその全貌を表したそれ…先生の特異体は、オートマタを鎧袖一触にして完膚無きまでに破壊してしまった。

 

”クロ…コ…”

 

『あ…あぁ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

『約束だよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てなわけで、彼女の事がとっても大切な”先生”に憑かれた、砂狼クロコちゃんだよ〜!皆仲良くね〜」

 

「「「…」」」

 

あの後”先生”に襲われた3人は所々を痛め痣を作りながらもなんとか事なきを得て、ホシノの止めも入り落ち着いたところで改めてクロコの紹介をされる。

勿論3人とも釈然としないまま、クロコは内心で何度も謝り倒していた。

 

「クロコちゃんに攻撃すると特異現象が発動したりしなかったり…なんにせよ先生に怒られないように皆気を付けてね〜」

「…早く言えよ…!」

「さて、この子達も反抗期だから代わりにおじさんが説明するね?」

 

ごもっともな事を呟くレンゲを無視してクロコに向き直ったホシノは、指を立てて3人の紹介を始めた。

 

「遺物使い、不破レンゲちゃん。特異現象を鎮められる特別な武器を使うよ」

「クソッタレ…」

 

「言霊使い、安守ミノリちゃん。語彙が革命と労働用語しかないから会話頑張ってね〜」

「…デモ」

 

「ペロロちゃん!」

「ペロロだ。よろしく頼む」

 

(1番欲しい人の説明が無かった…)

 

雑に済まされた説明に結局なにも分からなかったクロコだが、ホシノは構わず話を続けて教壇に立つ。

 

「これで1年も4人目だね!」

(3人と1…匹?)

「午後の実習は2人1組のペアでやってもらうよ〜。ミノリちゃんとペロロちゃんのペアと、クロコちゃんとレンゲちゃんのペアね」

 

「気張るぞ」

「デモ」

 

「ケッ!」

(ケッて言った!)

 

ミノリとペロロはともかく、レンゲと厚い壁を感じたクロコはその後の移動中、少しでも距離を縮めるために話しかけることにした。

 

「その…よろしく、お願いします…」

「…お前、いじめられてたろ?」

「え?…!」

「図星かよ。分かるぞ、私でも気に入らないからな。善人ですっつうセルフプロデュースが顔に出てるんだよ。気持ち悪い」

「っ!」

「なんで守られてんのに被害者面してんだよ。ずっと受け身で生きてたんだろ?」

「違…私は…」

「なんの目的もなくやって行けるほど…特異現象捜査部は甘くないぞ」

 

威圧するようなレンゲの問答にクロコは立ち止まり、肩を震わせる。

見かねたペロロはそんなクロコの肩にフワフワとした腕…羽を置くと、レンゲを咎めた。

 

「それくらいにしろ、レンゲ」

「プロレタリア!」

「…わーったよ、うるせぇな…!」

「…悪いな、クロコ。あいつは少々他人を理解した気になるところがある」

「いや…本当の、事だから…」

 

 

 

 

レンゲと共にホシノの引率の元連れてこられたのは、D.U.市内にある小学校。

何故ここに来たのかと頭に疑問符を浮かべるクロコだったが、先導していたホシノが足を止めるとその実態を説明した。

 

「ここはね…校内で児童が失踪する小学校だよ」

「失踪…!?」

「場所が場所だし、多分自然発生した特異現象によるものだろうね」

「子供が特異現象に攫われたって…こと?」

「うん、今のところ被害は2人だね」

「大勢の思い出になるような場所はな、特異現象の吹き溜まりになりやすいんだよ。学校、病院、何度も思い出されてその度に強い感情の受け皿になる。それが積み重なると今回みたいに特異現象が発生するんだ」

 

自分が知らないだけで、常日頃通うような場所にそのようなものが発生した可能性があったことを知りクロコは戦慄する。

いつ、自分がその被害者になってもおかしくなかったのだと。

 

「今回は行方不明の子供の救出が任務。死んでたら回収ね」

「し、死んでたらって…」

「さて…ちょっと待っててね」

 

校舎の正面玄関前まで行くと、一旦潜入を止めたホシノは何かをブツブツと唱え…校舎の直上から半透明の幕のようなものがドーム状に校舎を覆った。

 

「何…空が…?」

「これは君達を外から見えなくして、そして特異現象を炙り出す結界だよ。内側からは簡単に解けるからね。それじゃあ後は頑張って…くれぐれも、死なないように」

「えっ…?ホシノ先輩!?」

「転校生、よそ見すんな」

「!?」

 

ホシノは玄関から反対方向…結界の外へ向かって歩くと、クロコ達の方を振り向き意地悪な笑みでそう忠告だけして行ってしまった。

残されたクロコは状況を掴みきれずホシノを呼び止めようとするが、隣で銃の調整を始めたレンゲに呼びかけられ振り向くと、そこには3体の修道服を来たガスマスクの不気味な女…特異体が佇んでいた。

 

「な、何あれ…」

 

『───』

『───』

『───』

「ひっ…」

 

言葉にならない声を上げた特異はどこからともなく銃を手元に出現させると、一斉にクロコとレンゲに向けて発砲してくる。

咄嗟に近くの石碑に身を隠すクロコだったが、レンゲは隠れる素振りを見せず弾幕の中未だ特異体に向かい合っている。

 

「れ、レンゲさんも早く…!」

「喚くな、うるさい」

「あっ…」

 

クロコが身を隠した事で特異体の矛先はレンゲへと集中し3人分の弾幕が全てレンゲへと迫るが…レンゲは機敏な動きでそれを回避すると、一気に先頭の特異体へと詰め寄りガスマスクに銃を押し付けた。

 

「覚えとけ…特異現象ってのは、弱いやつほどよく群れるもんだ!」

 

押し付けられたレンゲのスナイパーライフルが火を吹き、ガスマスクを貫通して一体目の特異体の頭部を破壊。

続けてレンゲに銃の照準を戻そうとする特異体を足払いで転倒させると起き上がろうとする前に再び頭を撃ちガスマスクごと頭部を破壊。

残る一体もレンゲを背中から撃とうとするが、その前にレンゲは自分の肩腰にノールックで特異体の頭を撃ち抜き撃破する。

 

「まあ、人と同じようなもんだけどな」

 

「す…凄い…あんな一瞬で…」

「ほら!早く行くぞ!」

「えっ、どこに…」

「中に決まってんだろ」

「えぇ…」

 

 

 

 

(結界が降りてるのに特異体の数が少ない…いや、いるのに襲ってこない?もしかして、こいつがいるから───)

「ん!ん!あそこでなんか動いた…!」

「…」

 

コツン、コツン、と結界に覆われたことで夜のように暗い校舎に靴音が響く。

レンゲの後ろを歩くクロコは至る所に見える小さな特異体に怯え、レンゲは思考中に騒ぎ立てるクロコを鬱陶しく思い眉をヒクヒクとさせていた。

 

「レンゲ先輩は怖くないの…?何か出そうだよ…もう出てるけど…」

「おい!うるせぇなぁ!」

「ご、ごめんなさい…」

「…お前、何級だ?」

「…え?何級って…」

「特異現象捜査部に所属したのなら4から1までの階級が割り振られるんだよ」

「でも…私はS.C.H.A.L.Eに来たばかりだし…そんなの無いんじゃ…」

「だぁー!もういい!学生証を見せろ!クソバカピンクに貰ったろ!」

「クソバカピンク…ホシノ先輩のこと…?」

 

会話するのもまどろっこしくなったレンゲはクロコから学生証を半ば強引に取り上げた。

 

(まあ前歴無しならどうせ4級だろうけどな…って、特級!?特級って…1級の更に上だろ!?こんなの冗談でしか聞かない───)

「レンゲさん!後ろ!」

「っ!チッ!」

 

学生証の表記に驚きを隠せなかったレンゲだったが、クロコの叫びに振り返ると、そこには芋虫のような巨大な特異体が大口を開き…校舎を破壊しながら2人に襲いかかってきた。

一旦距離を取ろうとしたのも束の間、予想以上の特異体の速さと破壊力によって衝撃で2人揃って上空に吹き飛ばされてしまう。

 

 

「うわぁぁぁ!?」

「クッソ…無駄にデカイ図体しやがって!」

 

吹き飛ばされた後重力に従って落ちるも、スカートを抑えて叫ぶクロコとは違い冷静さを保つレンゲは自分達が落下する場所に位置を変え待ち受ける特異体に銃を向ける。

ギリギリまで引き付けて狙おうとしたレンゲだったが…

 

「はっ!?」

 

特異体が開いた口から吹き出した突風で銃を持つ腕がブレて弾があらぬ方向に飛び、その上狙いを戻そうとするも高度が足りず銃身が特異体の歯にひっかかり弾かれ、レンゲの手から離れてしまう。

そしてレンゲとクロコは特異体の体内に飲み込まれ…

 

 

『ゴチ…ソウ…サマ…』

 

 

 

 

 

「クソッ!クソッ!銃を落とした!出せゴラァ!」

「んっ…ここは…?」

「あの特異体の腹の中だ、こんぐらいで気絶してんじゃねぇ!」

 

肉感的な壁のようなものを何度も蹴って叫ぶレンゲの怒号に、クロコは目を覚ます。

周囲を見渡せば生々しい質感の壁が一面に広がっていて、地面もブヨブヨとして気持ち悪い感触が広がる。

クロコが起きた事に気が付いたレンゲは八つ当たり気味に壁を殴りつけるも効果はなく、ようやく状況を理解したクロコは顔を青ざめさせた。

 

「ってことは…食べられたの…!?」

「そうだよ!テメェ特異現象に守られてんじゃねえのかよ!」

「せ、先生はいつ出てくるか分からないから…!それより、どうするの…!?」

「くっ、時間が経てば結界が上がれば助けてくれるが…恥だ!クソが!」

 

 

 

「助けて!」

 

「「!」」

 

と、空間の隅の方から聞こえた声で2人は初等部らしき子供…と、その子が解放する頭から血を流した子供の存在に気が付いた。

意識がある方の子供は泣き腫らし、血を流して気絶してる方の子供は顔を真っ青にして今にも死にかけているように見える。

 

「お願い…この子、死んじゃう!」

 

(この子達…ホシノ先輩が言ってた行方不明の…!)

「良かった…生きてたんだ…」

「…良くねぇよ。ちゃんと見ろ」

「え…?」

「意識がない方は言わずもがな、起きてる方も特異現象に当てられてる。2人とも直ぐに治療しなきゃいつ死ぬか分からないぞ」

「そんな…どうすれば…!」

「どうにもならないんだよ!今は助けを待つしか…皆がお前みたいに、特異現象に耐性がある訳じゃ、ないんだよ…!」

「れ…レンゲ先輩…?」

 

言いながらふらふらと足元が覚束無いレンゲに違和感を覚えたクロコだったが…次の瞬間レンゲはその場に倒れ込んでしまった。

慌てて駆け寄ったクロコは、レンゲの足の切り傷…特異体に飲み込まれる時に歯にかすった際出来たもよ…そこから侵食するように広がる痣のようなものを見つける。

 

「何…これ…」

 

「お姉ちゃん…死んじゃうの…?」

「あ…」

「助けてよ…お姉ちゃん…ねえ…!」

 

「私、には…無理だよ…」

 

「クロコ!!」

「っ!」

 

子供からの助けに戸惑うクロコの胸ぐらを、辛うじて起き上がったレンゲが掴み上げた。

無事を喜ぶ間もなくレンゲはクロコを前後に揺すると、顔を真ん前に近付けて怒りをぶつける。

 

「お前何しに来たんだよ!特異現象捜査部に!」

「…」

「何がしたいんだ!何が欲しいんだ!何を叶えたいんだ!」

 

「わた、しは…もう、誰も傷付けたくなくて…閉じこもって、消えようとして…でも、1人は寂しいよって言われて…言い返せなかった…」

 

レンゲの言葉が胸の奥底に響き、クロコは積もり積もった感情…思いの吐露を始めた。

 

「私は…人と関わりたい!誰かに必要にされて…生きてて良いって…自信が欲しい…!」

「…じゃあ、鎮めろ」

「ん…」

「特異現象を鎮めて、鎮めて、鎮めまくれ!自信も他人も、そのあとから着いてくるんだよ!S.C.H.A.L.Eは…そういう場所なんだよ!」

 

 

力を振り絞って言い切ったレンゲは、それで体力が尽きたのか力無く崩れ落ちる。

しかし…その叱責とも激励とも取れる言葉は…確かにクロコに硬い決意をさせた。

濁っていた瞳に、光を灯したクロコは制服の懐から黒く煤けた1枚のカードを取り出す。

 

「…先生」

 

 

 

 

”何かな、クロコ”

 

 

 

 

「…力を貸して」

 

 

 

 

 

 

『────!?』

 

 

クロコがカードを掲げたその瞬間…顕現した仮面を着けた巨大な体躯の特異体が、クロコ達を飲み込んだ特異体を内側から引き裂いた。

特異体…”先生”は反撃を行おうとする特異体をねじ伏せ、肉を剥ぎ取るように引きちぎって圧倒的な暴力で蹂躙する。

 

その様子を結界の外側から感じ取っていたホシノは、愉快そうに笑っていた。

 

「うへ〜…凄まじいね。これが特級過責特異体…”プレナパテス”の全貌かぁ…あっはは、怖い怖い」

 

 

 

”先生”が特異体に夢中になっている間に、レンゲと子供2人を担いでクロコは結界の外に向かう。

 

(早く…ホシノ先輩に見せないと…まだ、倒れるな…まだ…!)

 

内2人は子供とはいえ3人分の重量を支えきれず倒れ込みそうになるクロコだったが、身体の底から力を振り絞って踏みとどまり、1歩ずつ着実に足を進める。

 

(ここで変わるって…決めたんだから…!)

 

 

 

 

”クロコ、頑張って”

 

 

 

 

「うん…頑張る…!」

 

 

 

 

校舎を覆っていた結界が解ける。

校門の前で待っていたホシノは、レンゲと子供2人を確かに外へ連れ出したのを最後に気絶したクロコに優しく微笑みかけた。

 

「…おかえり。頑張ったね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問題ないってさ〜。レンゲちゃんも子供達も」

「そう…良かった…」

 

無事病院に搬送され、念の為検査を受け異常なく済んだクロコはレンゲの病室前の椅子でホシノからの報告を聞き安堵の息を漏らす。

しかし浮かない表情に疑問を持ったホシノはクロコの横に腰掛けた。

 

「どうしたの〜?スッキリしてなさそうだけど」

「…初めて…自分から先生を呼んだ…」

「そっか、1歩前身だね」

「…」

「クロコちゃん?」

「もしかしたら…先生は私に憑いてるんじゃなくて…私を導いてくれてるんじゃないかなって…」

 

クロコは手の中のボロボロのカードに視線を落とす。

そんなクロコの様子に普段のようなおどけた態度からは考えられないほど真剣な表情を見せたホシノは、真面目なトーンでそれに答える。

 

「これは持論だけどさ…責任というもの程強い”使命”は無いよ」

「…」

 

クロコはカードを優しく壊さないように…その上で力強くギュッと握りしめた。

 

「…ホシノ先輩。私は…S.C.H.A.L.Eで、特異現象捜査部で…先生を、責任から解放する」

「…」

 

そんな、心の底からのクロコの決意を聞き、ホシノは口元を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦生徒会の本拠地、サンクトゥムタワーにて。

ホシノは複数の役員に囲まれ今回のことの次第を咎められていた。

 

「特級過責特異体、”プレナパテス”の422秒の完全顕現…このような事態を防ぐ為に砂狼クロコを貴女に任せた筈ですよ。申し開きの余地があるとは思わないでください、小鳥遊ホシノ!」

「まあ〜?元から言い訳なんてするつもりはなかったしね〜」

「何をふざけているんですか!もしプレナパテスが暴走を続ければ、街1つ消えてもおかしくないのですよ!」

「そうなったら命懸けで止めるよ、全く…あのさぁ、私達があの特異体に言えることはただ1つ…()()()()()

「…」

 

ホシノの反論に気勢を削がれた役員達に、ホシノは何か文句を言われる前に押し通すことにした。

 

「なんで神秘もない外の人間の大人があんなにも強大な特異体になったのか…理解できないものはコントロール出来ない。ま、トライアンドエラーってね。暫くは放っておいてよ」

 

「…砂狼クロコの秘匿死刑は保留だと言うことを忘れないでください」

 

「そうなったら…私がクロコちゃんに付くことも忘れないようにね」

 

 

 

 

 

 

「あーあ、野暮な役員さん達だなぁ…ああならないようにおじさんも気を付けないとね〜」

 

S.C.H.A.L.E本部に戻ってきたホシノは遠方に見えるサンクトゥムタワーを見やり愚痴を零す。

そんな時、窓の外に見える運動場でレンゲ達と共に走り込みをして汗をかくクロコの姿が見えた。

 

「…何人も、若者から青春を取り上げるなんて許されてないんだからね」

 

 

 

 

 

レンゲ達と一頻り運動した後、ホシノに呼び出されたクロコはS.C.H.A.L.E内にある倉庫のような場所に連れてこられていた。

倉庫の中には様々な銃や爆弾等の武器が置かれており、その数の多さと多様さに思わずクロコも「お〜…」と簡単の声を上げる。

 

「プレナパテス…君の先生ほどの大きな特異現象を鎮めるのはほぼ不可能。だけど、解放するとなると話は別だよ。何千何万もの神秘の結び目を読んで、1つずつ解く…憑かれてるクロコちゃん本人にしか出来ないやり方だよ」

「それは…どうすれば良いの?」

「これを使いなよ」

「えっ?」

 

大量に置かれている銃の中から適当な1つを選んだホシノは、それを無造作にクロコに投げて渡す。

慌ててクロコはその銃…白い塗装に水色の差し色が入ったアサルトライフルをキャッチする。

 

「これは…?」

「特異現象は物に根付く時が1番安定するからね〜。クロコちゃんはあの時あの大人のカードを通して繋がった。パイプは出来てるんだから、先生の神秘を貰い受けてその銃に込めて支配する。繰り返して量を増やして…いずれは全てを手中に収める。そうすれば晴れて自由の身だよ。クロコちゃんも、先生も」

「銃に神秘を込める…」

「何より!」

「うわっ…」

 

立てた指をクロコの唇の前まで持ってきたホシノは、眩しい程に明るい笑顔で言い放つ。

 

「クロコちゃんまだ貧弱だから…徹底的に扱くよ!」

「…ん!」

 

 

 

そんなわけで翌日クロコが運動場で対峙するのは、特訓相手として呼び出されたレンゲ。

離れた場所からはミノリとペロロが見守っている。

 

互いに見つめ合い…先に動いたのはレンゲ。

正確な射撃でクロコの頭を狙うが、クロコも負けじとそれを躱すと前のめりの姿勢で間合いを詰め、レンゲのお腹を狙って連射する。

 

「ほう?」

「避けっ…!?」

 

しかしレンゲは真上に飛んでそれを回避すると、クロコの足元に射撃、それを避けてクロコが体勢を崩したところにスナイパーライフルの長い銃身を振り下ろし、頭を叩く。

 

「痛っ…!」

「ほらよ、もう終わりか?」

「っ…もう一度お願い!」

「…ふっ、かかってこい!」

 

 

 

「中々筋が良いじゃないか」

「労働」

「…それにしても、クロコが特異現象捜査部に来てもう3ヶ月も経つのだな。最初に来た時と比べれば格段に運動能力が向上している」

「性格もだいぶ明るくなったよね〜」

「…音もなく忍び寄るのはやめてくれないか。ホシノ先輩」

「ストライキ」

 

そんなクロコのぶつかり稽古を見守るペロロとミノリは隣に前触れもなく現れたホシノに文句を言うが、いつもの事ながらそれを無視したホシノは2人の特訓の様子を見てニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 

「レンゲちゃんも楽しそうだね〜…前まではツンツンしてたのにね〜…さて、クロコちゃーん!ちょっと良いかな〜!」

 

「あぁ?」

「ん…」

 

 

「まず先に…ミノリちゃん。君が適任の特異現象が現れたそうだから鎮めに行ってもらうよ」

「デモ」

「指名…?」

「ミノリは1年で唯一2級の資格を持ってるんだ。だから単独で任務に赴くことが出来る」

「そうなんだ…凄い…」

「お前は特級だろ…」

 

「で、クロコちゃんにも行ってもらうよ。ミノリちゃんのサポートでさ」

「サポートって…」

「まあどっちかと言うと見学だけどね〜。特異現象捜査部の中でも秘儀は多種多様、生徒によって色んな特異現象の鎮め方があるんだ。ミノリの言霊は良い例だね」

「言霊…?」

「文字通り、言葉に力が篭るんだよ。特異現象を解放するなら…まずは神秘のなんたるかを知らないとね」

 

 

 

 

 

という訳でミノリと共に任務に行くことになったクロコは、ホシノに見送られて目的地へと向かう。

 

「ごめんね〜、クロコちゃん。おじさん今回は引率出来なくてさ〜」

「あ、いや…その、むしろいつもはありがとう…」

「うへへ…まあ今回は本来ミノリちゃんだけで足りる仕事だから、クロコちゃんが気を付けることは1個だけ…先生は出さないようにね」

「…うん…ん?」

 

ホシノに出立の挨拶と忠告を受けていたクロコの肩に、話が終わったのを見計らったミノリがポンと手を置いた。

 

「デモ〜!」

「え、あ、うん…ごめんなさい…」

「?」

(安守ミノリ…まだよく分からなくて怖い…)

 

 

 

 

 

「到着しました。ここが例の特異現象が出現した商店街です。一時期ブラックマーケットの1部として使われていましたが、現在は完全に閉鎖されていて、連邦生徒会が取り潰しを行おうと調査員を派遣したのですが…その際に低級の特異体の群れを発見。安守ミノリさんにはそれを鎮めて…って、ミノリさんは?」

「あ、あれ…?」

 

移動の為の車を運転してくれた監督オペレーターのアヤネから今回の任務の報告を受けていたクロコだが、いつの間にか姿を消していたミノリを探して周囲を見渡す。

と、少し離れた場所にあるコンビニからビニール袋を片手にしたミノリが出てきた。

 

「な、何を買ったの…?」

「デモ」

「…のど薬?」

「…要約するとお金をかけた建物に特異体が住み着いていると後々面倒になるので、早めに鎮めてくださいという事です。結界を降ろしますので、内部に入ったら残りは皆さんで…ご武運を祈ります」

 

 

 

商店街に入ったクロコとミノリは、アヤネによって商店街を覆う結界が降ろされた事を確認して奥へと進んでいく。

まだ2回目の任務でぎこちないクロコだが、ミノリはずんずんと早足で先に進んで行くのでクロコも慌ててそれを追いかける。

 

 

「…!」

 

その時、物陰から大量の小さな魚の形をした特異体が空中を泳いで姿を表した。

軽く4桁にも届くであろう群れにクロコは萎縮してしまうが、ミノリは特に動じることも無く群れに近付いていく。

 

「…闘争」

「ミノリ…?そんなに近付いたら危な───」

 

 

 

『首を切れ』

 

 

「なっ…!」

 

クロコの心配は他所に、マフラーを外して口元を晒したミノリが発した一言。

それによって魚のような特異体達は全てまとめて頭部が切断され、ボトボトと地面に落ちて消滅していく。

全て片付いたことを確認すると、ミノリはマフラーを巻き直して来た道を戻ろうとした。

 

「え、帰るの…?ああ、もう終わったんだ…」

「…休暇」

(凄い声枯れてる…リスクも大きいのかな…)

 

次に発したミノリの声がかすれていた事からなんとなくそこまで便利な力ではないと悟ったクロコだが、あまりに呆気ない終わりだと拍子抜けしつつミノリの後を追うが…

 

ミノリが結界の前で立ち止まったのを見て首を傾げる。

 

「…どうしたの?」

「プロレタリア」

「…あ、結界が上がらない?…これじゃ出られない───」

「───労働!」

「はっ!?何!?」

 

ミノリの注意に振り向いたクロコは、目の前で浮遊する特異体に気が付く。

その特異体は、今までクロコが見てきたものとは明らかに気配が異なり、強力な神秘を持っているように見えた。

 

象のような頭部と猿のような身体を持つその特異体は…腕を上げると、空からクロコへ向かって光の柱を落とす。

 

「っ!」

 

突然の意識外からの攻撃にクロコは反応出来ず…ミノリがクロコを突き飛ばした事で攻撃範囲から外れた。

 

 

『捻れろ!』

 

 

特異体に向かって言霊を放ったミノリだが…それが決定打になることはなく、特異体の片腕が潰れただけで終わる。

そしてその瞬間にミノリも悟ってしまった。

自分よりも…この特異体の方が格上なのだと。

 

「ゲホッゴホッ…!」

「ミノリ…!」

 

格上に対して使う言霊は跳ね返りが大きい。

吐血し地に膝を着くミノリに向かって再び特異体は光の柱を落として攻撃するが、直撃する前にクロコが担ぎ上げて範囲から逃れ、商店街の路地に逃げ込む。

その際、ミノリが持っていたビニール袋が落ちるが、それを気にする暇もなく全力で逃走した。

 

 

 

「何あれ…!ミノリ、大丈夫!?」

「デモ」

「低級って言ってたのに…あんなのがいるなんて聞いてない…私達より小さいぐらいの大きさでも、小学校のデカブツより怖かった…」

 

一旦身を隠した2人、クロコを庇った事で光の柱に巻き込まれたミノリの手の手当をするが、依然としてあの特異体の存在感は強く一帯を覆い尽くしている。

結界も未だ上がらず、隠れていても見つかるのは時間の問題…逃げ場はどこにもない。

 

「どうしよう…今回は先生の力に頼れないのに…そうだ、アヤネさんに連絡を取らないと…!」

 

端末を取り出して通話しようとするクロコだったが、いつまで経っても繋がることはなく虚しくコール音だけが響き、あまり音を立てる訳にもいかず仕方なく断念する。

 

「なんで繋がらないの…?」

「プロレタリア」

「…結界のせい?じゃああの特異体を倒さないと出られないってこと?そんな…」

「…革命」

「えっ…?」

 

現状を打破する方法に悩まされていたクロコだったが、ミノリは1人立ち上がると先程の特異体がいる方へと向かおうとした。

咄嗟に手を引いて止めるクロコだったが、ミノリはクロコの手を振り払う。

 

「ミノリ…1人でやるつもりなの?」

「デモ…ゴホッゴホッ…」

「あっ…」

 

咳をしながら、どう見ても万全じゃないのに戦いに行こうとするミノリの後ろ姿にクロコは激しく胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

また自分は1人では何も出来ないのか、と。

 

 

 

「っ…ミノリ、待って!」

「…?」

「大丈夫、私も行く。2人で…頑張ろう」

「…」

 

 

 

 

 

 

 

コツ、コツ、と靴音を立ててクロコは特異体の後方から姿を現した。

それに気が付いた特異体は振り返り…クロコの背後に途方もなく強大な神秘の姿を幻視する。

 

 

 

”頑張れ、クロコ”

 

 

 

「うん…ありがとう」

 

怒りか怯えか、直ぐにあれを排除しなければならないと本能が働いた特異体は商店街に響くような唸り声を上げるとクロコへ強烈な敵意と殺気をぶつけた。

暴風のような威圧感に一瞬クロコは萎縮するが、深呼吸をして平静を取り戻すと銃を構え集中する。

 

 

(目を離すな…足を止めるな…落ち着いて、銃に神秘を込めろ)

 

 

特異体が腕を上げると、クロコへ向かって何本もの光の柱が落ちてくる。

それを跳び退き、転がり、駆け回って避けながら特異体と距離を詰め、狙いやすい距離まで近付く。

 

(ミノリは…優しいんだ。無闇に人に言霊をかけないように、語彙を絞って話してる。あれがセーフなのはちょっとよく分からないけど…それにさっきも私を助けてくれた。今回の任務に来た時も…緊張してた私を気遣ってくれたんだ)

 

今のクロコでも十分狙える射程に入り…特異体が落とす光の柱を躱しながらカウンターの銃弾を叩き込む。

 

(…浅い、体表が硬くて弾の通りが悪いんだ…!)

 

有効打を与えられず、特異体からの反撃が来る。

空から落ちてきた光の柱がクロコを飲み込み、決して軽くは無いダメージがクロコを襲った。

 

たった一撃喰らっただけで全身がボロボロになったクロコだが、それでも瞳に灯る戦意は消えていなかった。

 

(私はまだこの特異体に勝てない…それでも───)

「───ミノリ!」

 

痛む身体に鞭を打ち特異体の側まで駆け寄ると、そこに落ちていたビニール袋を拾ってミノリが息を潜める方へ放り投げた。

投げられたビニール袋からはスプレータイプののど薬が落ちて…姿を現したミノリがそれをキャッチして口内に吹きかける。

 

ミノリに警戒が移った特異体はそっちに光の柱を落とすが、バク転混じりにそれらを避けたミノリは普段は絶対に出さないような声量で叫んだ。

 

 

 

 

『潰れろぉ!』

 

 

 

 

ミノリの言霊を受け、特異体は不可視の圧力をかけられたように一瞬でぺしゃんこになった。

 

「…凄い」

 

「労働!」

「あっ、私は大丈夫…それよりミノリは…?」

「…デモ!」

「…うん、おつかれ」

 

満面の笑顔で答えるミノリにクロコは表情を綻ばせると、互いの無事を祝ってハイタッチを交わしたのだった。

 

 

 

「私は先生を解放したらきっと普通に戻るけど…そしたら、S.C.H.A.L.Eにも留まれなくなるのかな」

「ストライキ?」

「…そうだね。アヤネさんみたいに皆のお手伝いとかならできるかな…あ!そういえば結界どうしよう…」

 

 

 

 

「あーあ、残念。噂の特級過責特異体”プレナパテス”の力を見てみたかったけど…同じ特級、早く挨拶したいな〜」

 

結界を出ようと四苦八苦するクロコ達を、商店街の建物の上から見下ろす女性は身体に巻き付けた蛇のような人面の特異体が口から出したもの…クロコの学生証を受け取ると、それをじっと眺める。

 

「…これも返してあげないと、ね」

 

 

最悪のアウトローは、爛々と目を輝かせて妖しく嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.C.H.A.L.Eの近くにある花壇に水やりをするミノリを窓越しに眺めながら、ペロロはミノリの事をクロコに話していた。

 

「ミノリは生まれた時から言霊が使えていたらしくてな、昔はそれなりに苦労したらしい。傷付けたくない相手を傷付けてしまったり…な。それ故に入学当初からクロコの事を気にかけていたんだぞ?」

「そうだったんだ…痛っ!?」

「おい何ボサっとしてんだクロコ!朝練行くぞ!」

 

ミノリを見てぼんやりとするクロコの後ろからそっと近付いたレンゲが、クロコの頭を銃身で叩く。

朝から賑やかだと笑うペロロを咎めたレンゲは運動場へ向かおうとして…用事があったクロコが呼び止める。

 

「その、レンゲ。銃に神秘を込めるのがまだ上手く出来なくて教えて欲しいんだけど───」

「知らねぇ。神秘のことは私に聞くな」

「…え?」

 

クロコが切り出した途端、分かりやすく冷めた顔をしまレンゲはさっさと行ってしまい、気に障ることでもしてしまったのかと不安になりつつ、クロコも後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クロコとミノリが閉じ込められたという商店街には何人もの特異現象捜査部の生徒や監督オペレーター…そしてホシノが調査に訪れていた。

監督オペレーターの1人であるイチカは、ホシノに調査の結果を報告する。

 

「商店街をくまなく探ってみたところ、3種類の痕跡が確認されたっす。これ以上はもう何も見つからないとアヤネさんが言ってたっす」

「そっか。ありがとうね」

「はいっす!」

 

イチカにお礼を言った後、ホシノはKEEPOUTのテープをくぐって商店街の中に入る。

調査に来ていた生徒や監督オペレーターは一度全員外に出ていて、今はホシノしかこの商店街の中にはいない。

ホシノは周囲を見渡しながら奥へと進み、寂れた景観、クロコとミノリが特異体と交戦した時の破壊痕…そして、建物の上を見上げて目を細めた。

 

 

 

一度S.C.H.A.L.Eに戻ったホシノは、当時の様子をアヤネから聞くことにした。

 

「申し訳ありません!どうやらあの時私が降ろした結界の上に、何者かが二重で結界を降ろしていたようで…今回の件は私の不覚です。なんなりと処分を…」

「いや、いいよ。相手が悪過ぎる」

「…と、言いますと…犯人に心当たりがあるんですか?」

「まあね。4人存在する特級の区分を与えられた生徒。カイザーコーポレーションを単身で壊滅させ、100を超える大人を殺害して特異現象捜査部を追放された最悪のアウトロー…────

 

 

 

 

 

 

────何やってるんですか、ユメ先輩…」

 

 

 

 

 

 

 




配役
乙骨…クロコ
里香ちゃん…プレナパテス
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