ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ17話までの範囲でお送りします
戦闘シーン難しい…


百鬼夜行支部交流会─団体戦 参─

 

『レンゲ?あんなの遺物に頼らないと何も出来ない雑魚。万年4級、なんでここで活動出来るんだろうね』

 

団体戦の開始前、百鬼夜行支部チームのミーティング場での休憩中にレンゲの事をよく知るというキキョウはそう語った。

故に、ヒフミはレンゲの相手を出来れば怪我も負担も少ないのではないかと、そう思っていた。

そして実際相手取ってみて…それが間違った認識だったと思い知らされる。

 

 

 

(キキョウちゃんのバカ!話が違うじゃないですか〜!)

 

 

現在、ヒフミはレンゲの怒涛の攻めに防戦一方となっていた。

レンゲが扱う遺物であるスナイパーライフルはレンゲ自身が手を加えてさらに改造が施されており、着弾時に発火して炎が広がる性質を持っている。

レンゲ自身の射撃術と相まって、下手に受ければ余計なダメージを負いかねず、躱しても足元に着弾すれば広がる熱波で地味に体力を持っていかれる執拗な削り性能に既にヒフミは満身創痍一歩手前だ。

 

(このままじゃ…いや、あの武器なら敢えて近付けば私の武器の方が!)

 

相手がスナイパーライフルならわざわざ距離を取って相手をする必要が無いと判断したヒフミは多少の被弾覚悟で無理矢理レンゲと距離を詰めようとするが───

 

「甘い!」

「あがっ…!?」

 

逆に詰め返してきたレンゲはヒフミの腹に銃床を叩き込み、それでもなんとか向けようとしてきたアサルトライフルの銃身を掴むと、それを持つヒフミの腕ごと引っ張って後方に放り投げる。

 

(これ…相手がアウトローだったらもう2回は死んでます…!あれで4級…?2級の特異体になら充分勝てる筈ですよね!?)

「もう終わりかぁ!?」

「うぅ…も、もう少し頑張ります!」

「よし!かかってこい!」

 

砂まみれになりながらもレンゲに喝を入れられ、ヒフミ半ばヤケクソで再び挑みかかる。

しかしやはりレンゲのずば抜けた運動能力によりヒフミの銃撃は中々当たらず、廃墟の壁や電柱を足場に使った立体的で変幻自在なレンゲの射撃に次々と傷が増えていく。

最早勝負の結果は分かりきっていた。

 

「う、うぅ…せめて、一泡ぐらい…!」

「その意気だ!もっと頑張れ!」

「そう言うならもう少し加減してくださぁい!」

 

スーパーボールのようにあっちこっちを跳び回り、ヒフミが照準を合わせようとする頃には既に狙いを振り切って別の位置に移動するレンゲ。

ならばとヒフミは狭い路地裏に駆け込み、自らの得意に相手を引き込むことにした。

 

 

「シン・陰流…簡易領域!」

 

 

ヒフミを中心に半径12.3mの円が広がる。

これの発動中ヒフミは両脚の裏を地面に触れさせ続ける必要があるが、有効範囲に入った相手を脊髄反射による速射で確実に撃ち抜くことが出来る妙技。

それを最大限に有効活用する為のこの狭い路地。

路地の外からは吊り看板や壁から突き出た配線が上手いこと遮蔽物になり狙いにくく、レンゲがヒフミを追撃するならば入ってくるしかない。

その上足元には瓦礫も散乱していて足場が悪いときた。

 

(これで仕留められるとは思えませんが…確実に体勢を崩せば武器の相性の差で私が攻め手に回れる。それに一発で武器を落とさせられればもしかしたら…)

(…面白ぇ。カウンター狙いか?となると狙いはアタシの武器か。この距離にも関わらず私に銃口を向けてこないってことは余程早撃ちに自身があるのか?)

 

そしてレンゲは堂々と路地に踏み入る。

その先で銃を構えるヒフミがどのような対応をするのか、そして自分はどうやってそれを打ち破るのか。

闘志を燃やし、足を1歩、2歩と踏み出し───3歩目で簡易領域の縁を踏む。

 

 

(今!)

 

 

その瞬間、わざと狙いを外していた照準が瞬き一つの間にレンゲへと合わせられ、回避する間もなく乱射される。

その狙いは正確にスナイパーライフルを持つレンゲの腕を撃ち抜こうとして────ヒフミが射撃したのとほぼ同時にレンゲは足元の瓦礫を蹴り上げ、射線に割り込んだ瓦礫が迫る銃弾を受け止めた。

 

「嘘っ!?」

「視線がその早撃ちの有効範囲を見過ぎだ。入る前からどこまで近付いたら撃たれるか分かったぞ?」

「そんな…まずっ…!」

 

確実に決まったと思った射撃を防がれヒフミが同様した隙に、レンゲは一蹴りでヒフミに跳びかからんとする。

しかし、防がれたとはいえ簡易領域による正確無比な射撃能力は健在。

レンゲがこちらに到達する前に撃ち落とそうと更に引き金を引く。

しかし───

 

 

(えっ、避けっ…)

「だから…一々視線が分かり易過ぎるんだよ!」

「ま、待ってくだ…ふぐぅ!?」

 

空中で身を捻り回転しながら弾丸が掠めるギリギリで射撃を回避したレンゲはそのままヒフミに掴みかかり、馬乗りになって押し倒す。

銃を持つ腕を押さえ付け、まだフリーな方の手がポカポカと叩いてくるのも意に介さず、銃口をヒフミの額に押し付けた。

 

「そ、それ酷くないですかっ…!」

「安心しろ、今回は火傷にならない弱めの弾使ってるからな」

「そういう問題じゃないと思いますが!?」

 

ヒフミの抗議も虚しくレンゲは引き金を引き、タァーン!と良い音がなって弾丸がヒフミの額を撃ち抜く。

熱と衝撃のダブルパンチでヒフミが目を回し、当分は動けないだろうと判断するとレンゲはヒフミの銃を奪ってその場を離れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、とても面白い子じゃないですか。早く2級に上げてあげれば良いのに、どうしてあの子は未だに4級なんですか?」

 

交流会の様子を見守る観戦部屋で、審判の1人として呼ばれた監督官の女性…シュンがホシノに質問をする。

聞かれたホシノは椅子の背もたれに顎を乗せ、お茶を飲みながら面倒臭そうに答えた。

 

「おじさんもそう思うけどね〜。あの子もそうだし…元々あの子達連邦生徒会に信用されてないんだ。だから昇級を提案しても連中が蹴っ飛ばしてくるんだよね〜」

「あらまあ、よく出来た子を素直に褒められないなんて、理解出来ないしがらみですね」

「相変わらず君は子供好きなんだね。それより…さっきからよくアリスちゃん周りの映像が切れるけど、大丈夫そう?」

「動物は気まぐれですし、資格を共有するのも楽じゃありませんからね」

「ふ〜ん…?ぶっちゃけて聞くけど…シュンさんってどっち側?」

「ふふ…私は可愛い子供の味方ですよ?」

 

駆け引きも何も無いホシノからの直球の質問に、シュンは動揺一つ見せずにこやかな表情のまま答える。

質問の答えになっていないと内心吐き捨てるホシノだったが、良くも悪くも彼女の事を信頼しているからこそそれ以上問い詰めることはなく、生徒達を映すモニターへと視線を戻す。

 

「はぁ…ままならないものだね、リオ部長?」

「…」

「その辺にしてあげなさい、ホシノ。下水道…失礼、リオは日頃から貴女の相手をするのに疲れているのですから。それについては私も言いたい文句がたくさんありますよ?」

「げっ、勘弁してよヒマリ部長。おじさんにお説教は腰に来るよ〜?」

(…まあリオ部長が何を考えているのかはともかく、もうそう簡単にどうこうされるアリスちゃんじゃないけどね)

 

「…あ、動きましたね。S.C.H.A.L.Eチームです」

 

生徒達を映すモニターとは別のモニターがアラームを鳴らし、それを確認したカホが報告とメモをする。

 

今回の舞台となっている廃墟街には両チームが標的にしている2級の特異体以外にも3級以下の弱い特異体が複数放たれており、標的となる2級の特異体が制限時間までに倒されなかった場合はこの弱い特異体を倒した数が多いチームの勝利となる。

それらの特異体にはリオが作成した特殊な発信機が取り付けられており、それを倒したチームを自動で判別してくれるという優れものだ。

 

ちなみに判別は事前に記録した生徒達の神秘を読み取って行っている為、神秘が弱いレンゲのいるS.C.H.A.L.Eチームの事を考慮し判定外の特異体の消失が起こった場合はS.C.H.A.L.Eチームの加点となる。

 

 

「…それにしても、どこもかしこも生徒同士でバチバチやってて特異体追ってる子全然いないね?皆ゲームに興味無さすぎじゃない?」

「なんで仲良く出来ないのか…」

「きっとカホちゃんに似たんだね〜」

「私はあなただけです!」

「ちなみに鎮めたのはペロロですね…聞いてます?」

 

観戦部屋の方もまた良くも悪くも賑やかで、リオはこの先の事を憂いて嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、なんかめっちゃビーム飛んできて肝冷やしたかと思えば今度は追いかけっこ…いい加減降りて来なよ」

「さっきから何度も降りてるでしょ、そんなに捕まえたいなら撃ち落としてみればいいじゃない!」

「めんど…」

 

メカペロロのハイパースパイラル熱戦にギリギリ巻き込まれずに済んでいたカズサは、箒にのって飛び回り逃げ続けるフウカを追って地を駆けていた。

幸い箒の飛行速度はそこまで速くはなくカズサでも全力で走ればなんとか食らいつけているが、これではキリが無いと判断し一度足を止め狙撃を試みようとする。

 

しかし、その瞬間に向きを反転したフウカは箒の尾を勢いよく振り回し、それによって生じる神秘の風がカズサを煽った。

 

「チッ…!」

(下手したら身体が浮く…!砂利とか混ざると肌も痛いし…神秘身体に流すの止めると肉抉られるなこれ…!)

 

突風とそれに混ざる砂利に目も開けられず耐え凌ぐことしか出来ないカズサだったが、風が止んだのに合わせて直ぐに狙いを定めようと銃を構える。

 

「…はっ!」

 

が、目を開いた時には上空にフウカの姿はなく、視線を巡らせると廃墟に屋上に着地しているのが見えた。

 

(…箒がない!?まさか…!)

 

そしてフウカが箒を持っていない事に気が付いて咄嗟に振り向くが、反応するには遅く背後から独りでに動く箒が高速でカズサへと突っ込み、顎の横を柄の先端が撃ち抜いて頭が揺れる。

目眩に頭を教えるカズサだが、頭を振って意識を取り直し、再び向かってきた箒を蹴り上げて跳ね返す。

真上に飛び上がった箒は空中でピタリと止まると、廃墟の屋上にいるフウカの元へと戻っていった。

 

「あんた達は揃いも揃って人の顔に容赦ないね?」

「特異現象捜査部で活動してて顔を気にするっていうのもどうかと思うわよ?」

「はぁ?」

「別にそんなことどうでもいいし…あなたの事もどうでもいい。でもキキョウを馬鹿にしたのは許せない」

「あいつの苦労なんかこっちこそ知ったことじゃないんだけど。それを上から偉そうに何様のつもり?」

「…魑魅一座って知ってるでしょ?百鬼夜行の指定アウトロー集団」

「魑魅一座…」

「完璧を求められて、結果求めるものが得られなかったら蔑まれて人間としてすら扱われない。そんな地獄から抜け出して今もこうして頑張ってるあの子を、あんたになんか絶対に笑わせない」

「なるほど…よく分かったよ。あんたが…面倒臭い奴だってことがね」

「…後悔しても遅いからね?」

 

これ以上は何を話しても無駄だと悟り、フウカは箒を操って突風を起こす。

それを横に飛んで風の範囲から逃れたカズサは走りながら無造作に銃を乱射し、辺り一帯の廃墟の壁に弾丸がめり込む。

ろくに狙いもしてこないその奇妙な攻撃を疑問に思うも、当たらないように射線から逃げながら箒を駆るフウカは遙か上空まで上がると、降下の勢いを利用した高速の滑空で一瞬の内にカズサの背後まで周り、背負っていたサブマシンガンを取り出してカズサの背中を撃ち抜く。

 

「…!」

「いったいじゃない…」

 

完璧に決まった筈のそれを、しかしカズサは口元を歪めるだけで耐えると直ぐに振り向いてフウカを撃ち落とそうと銃を乱射してくる。

フウカがどれだけ速度を上げても、それに喰らいついて何度も反撃を仕掛けてくる。

 

(この反応速度とタフさ…1年なのに戦い慣れてる…!?)

「こっちは昔ヤンチャしてたからね…こんぐらいで倒れるほどヤワじゃないって、こと!」

「あっ…ぶなっ!」

 

カズサは銃をリロードして馬鹿の一つ覚えのようにまたそれを乱射するが、速度を上げすぎてバテてきているのはフウカも同様。

そろそろ神秘の節約をしなければいけない段階に入り、速度でカズサの銃撃を躱す事が困難になってきていた。

そしてそれ以上に、フウカ…そして百鬼夜行支部チームがS.C.H.A.L.Eチームに攻めきれない決定的な理由。

 

(ミノリは…どこにいるの…!?私が補足するのが役目なのに…!)

 

それは、声さえ届けばどこからでも不可避の奇襲を行えるミノリの存在があるからだった。

 

 

 

 

 

 

 

『安守の言霊は確かに強力だが…なんてことは無い。要は言葉に乗った神秘が干渉を行ってくるだけだ。ならばこちらも耳から脳にかけて神秘で守れば容易く防げる。所詮対特異体に特化した秘儀、来ると分かっていればそこまで怖いものじゃないさ。キキッ!』

 

 

 

 

 

 

(マコトはああ言ってたけど、逆に来るか来ないかで永遠に気を散らされるじゃないこれ!ただでさえ頭の内側守るのなんて神経すり減らすのに、それを戦いながらなんて無理があるに決まってるわよ!)

 

「どうしたのさ、説教はもう終わり!?」

「うっ…ぐ、まだよ!キキョウが求められてたのは完璧なんて生易しいものじゃない!魑魅一座なんていう上下社会を作るブラック企業も顔真っ青の劣悪な環境で、長年連邦生徒会やS.C.H.A.L.Eからの追跡から逃れ続けられるだけの厄介なアウトローの巣窟で!強さだけが正義と掲げてるっていうあの魔窟で!神秘も秘儀も認められなかったキキョウが、どれだけあの場所で苦しんだのかを!」

「あんただって他人でしょ、何でそんなにあいつの事分かった気になってんの」

「一緒にいたから!あの子が高等部入学してから、先輩として傍で見守ったから!1年のあなたには分からないわよ、先輩として後輩がどれだけ可愛いかなんて!」

「クッ…ソ…本当に、面倒…!」

 

最早この後に残す神秘の事も考えず、突風の攻撃を続ける。

風と砂利から身を守る為に常に全身に神秘を巡らせる続けなければいけないカズサは、これ以上は自分の神秘が底を突いてしまうだろう事をじわじわと感じ取っていた。

 

「強くなきゃ人としてすら扱われない、私達が当たり前みたいに過ごしてる日常を手に入れることにあの子がどれだけの努力を積み重ねたのか!何も知らないあなたには一生分からない!」

「うるっ…さい!不幸なら何をしても許されるの?自分は蔑まれたからって、誰かを蔑んで侮辱して良いの!?逆に恵まれた人間が後ろ指さされたら満足する?そうやってレイサは

…!」

 

かつて、毎日のように自分に絡んできた馬鹿の姿を思い出す。

確かにどうしようも無い馬鹿だったが…それでもあんな仕打ちが許されていい筈がない。

フウカが擁護するキキョウという生徒は…カズサが何より嫌悪するトリニティの連中と同じなのだと、そう思うとどこまでも怒りが湧き上がる。

 

「どんな生い立ちだろうと私はあいつが気に食わない。同じ境遇でも私はレンゲ先輩のことを尊敬してる。あんたらだって下に見てる相手のこと考えたことあんの?完璧も理不尽も答える義理がどこにあるっての!」

 

(…!何…?散らばってた弾丸が…!)

 

フウカの突風が止んだ一瞬の隙に、カズサは辺りに大量にばらまいていた弾丸、それに込められた神秘を起動する。

それによって地面に落ちているものや廃墟の壁にめり込んでいた潰れた弾丸は独りでに壁から抜け出し浮遊すると、それらが一斉にフウカの方へと向きを変える。

 

(芻霊秘術…『木天蓼』)

「っ!やばっ…」

 

マタタビに群がる猫の如く…弾丸がフウカへと殺到する。

慌てて箒の速度を上げるフウカだが、これまでの散々な神秘の使用でもう十分な出力は出せず、その上これまでばら撒き続けてきた無数の弾丸その全て…それらが築く包囲網の密度はフウカの箒の操縦技術で躱し切れる域を越えていた。

当然避け切れるはずも無く…フウカは無数の弾丸をその身に浴びる。

 

 

(…まだ落ちない…!)

「そんな、簡単に…落ちるほどヤワじゃないのはこっちもよ…!」

 

それでも、フウカはまだ墜落しなかった。

一方的に攻撃出来るだけの高度はもう意地出来なくなり、箒の速度も格段に落ちている。

今撃たれれば回避は出来ないだろう。

だがそれは…撃てる弾が残っていたらの話。

 

「もう、撃ち切ったんでしょう!さっきの追撃も、1回しか出来ないんでしょう!」

「目敏い…伊達に3年じゃないか」

 

カズサが秘儀により弾丸を操作出来るのは、撃った後の1度だけ。

1度秘儀を発動すれば弾丸に込められた神秘が尽きもう操作出来なくなってしまう。

それに気付いたフウカは、同時に自らの限界も察し仲間と合流しようとここを離脱しようとする。

カズサからの追い討ちはもう来ないと判断して…

 

「逃がすかぁ!」

「はぁっ!?」

 

しかしカズサは追ってきた。

廃墟の壁を駆け上がり、グレていた時代に身に付いたフィジカルに任せて屋上を跳び回り、そして可能な限り近付いて跳躍する。

伸びる手は────箒の藁を掠め、カズサは地上へと落下した。

 

「高度が落ちたって…それじゃ届きなんかしないわよ!」

「いいや、届いたよ」

「!」

 

「これで…終わり!『共振』!」

 

カズサは…手の中に握る藁に集中する。

それがまずいことだとフウカは本能で察するが、それでも今更引き返すことも妨害することも叶わない。

そしてカズサは手の中の藁を固く握り締め───それに合わせてフウカが乗る箒が跳ね上がり、制御を失って地上に堕ちる。

 

カズサの『芻霊秘術』、その真髄。

神秘の繋がりを辿ることで対象に干渉を行う『共振』

辿る神秘は他人のものにも適用され、自らの神秘を辿るのに比べ操作性は落ちるが、瞬間的な衝撃を与えたり神秘そのものにダメージを与え、相手の神秘を削ることも出来る。

墜落を阻止できないまませめて受身は取ろうと姿勢を制御するフウカだが…その前に地上を走ってきたカズサが追い付き、銃身を振りかぶった。

 

「えっ!?あんたまさか…!」

「蔑まれたとか地獄だったとか、そんなのどうでも良い!そんなのそっちだけで勝手にやってなさいよ!上から説教垂れたいなら…まずはあんた達がアリスをちゃんと見ろ!私はアリスを仲間だと思ってる!あんたが大切だっていう仲間より、それ以上に!」

「やめっ…ぎゃ!?」

 

カズサにより銃のストックで頭を殴られ、横に吹っ飛んだフウカは転がって廃墟の壁にぶつかって止まる。

しかしまだ意識までは奪えていない。

確実に落とそうとカズサはもう一度銃身を振りかぶって────彼方から飛来した弾丸がカズサの頭を撃ち抜き、その視界が暗転する。

 

「…?キキョウ…?」

 

目の前で倒れるカズサに驚くフウカだったが、それを行った者の正体に思い当たり弾丸が飛んできた方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射程ギリギリ、当たってよかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもしキキョウ?さっきメカペロロのビームの音聞こえたわよね?』

「うん。『ハイパースパイラル熱戦』だっけ…あれを撃ってまだ戻って来ないなら多分負けたんだろうね。ペロロが追いついてくる前にそこを離れて、皆のサポートに回って。貴女がいないと皆が困る」

『う、うん…その、キキョウ。私…』

「いいよ、フウカ。分かってる」

 

フウカに指示を出して電話を切ったキキョウは、自分が構える廃ビルの屋上…その隣の廃ビルの屋上のペントハウスにもたれかかって通話が終わるのを待っていたレンゲを見やった。

 

「良いのか?アタシは2対1でも構わないぞ?」

「楽しみ方っていうのは色々あるもの。皆であんたを袋叩きにするより…私1人で叩き潰した方が楽しいから」

「面と向かったらレンゲって呼べよキキョウ。昔みたいにな」

 

 

 

 

 

『アリス、どう思う?レンゲ先輩のこと』

『レンゲ先輩、ですか?喧嘩は凄い強そうに見えます』

『だよね。でもレンゲ先輩4級なんだって』

『え!?何故ですか!?』

『レンゲはアウトローの組織で生まれ育ったんだ。厳しい訓練や拷問紛いの躾を強制されて…なんとか抜け出したらしいが、経歴が経歴だけに連邦生徒会がレンゲを信用しなくてな。重要な任務を任せたくなくてずっと昇級を拒否し続けているらしい』

『そうなんですか…?』

『けど、交流会で少しでも活躍して名前を上げたらきっと連邦生徒会もそんな妨害は出来なくなると思うんだよね。だから、そのためにまずは交流会に勝とうって話』

『…はい!アリス、レンゲ先輩の為にも頑張ります!』

 

『おい聞こえてんぞ。好き勝手言いやがって…ったく』

 

 

 

 

 

 

 

(…余計なこと考えやがって。本当に生意気な連中だよ)

 

 

団体戦開始前の移動中にカズサ達が話していた事を思い出し、余計なお世話だと思いながらもレンゲは口角を上げた。

 

「…何笑ってるの?こっちに集中して」

「ああ…言われなくても今はお前に釘付けだよ!」

 

キキョウの射撃、それを射線を読んで避けたレンゲは屋上から跳ぶと、キキョウがいる方のビルの中に飛び込む。

 

(下の階に…いや、馬鹿正直にペントハウスからは出てこない。となると壁を駆け上ってくるか…)

 

レンゲの襲撃に備え屋上の真ん中に移動したキキョウはどこから出てきてもいいように耳をピンと立てて意識を研ぎ澄ませる。

ヒフミのような超反応は出来ないが、それでも狙撃という技術においては百鬼夜行支部で随一だと自負し、次はもう外す気は無いと注意を巡らし────足元、その下から音が響く。

 

「下…!」

「遅せぇよ!」

 

床が崩壊し、下階に落ちたキキョウの横腹にレンゲの蹴りが炸裂した。

銃身を割り込ませて直撃を避けたキキョウだったが、落下中に蹴られたため衝撃を逃がせず真横に蹴り飛ばされ、壁に身体が衝突する。

 

(…分かってた。レンゲには勝てないって…)

 

 

 

 

 

 

『おい出来損ない共!貴様らはどれだけ役立たずなんだ!片や神秘も弱く特異現象も見えない!片やまるで使い物にならない秘儀!貴様らがここに身を置いていることそれ自体が反吐が出る!誰が行き場のない貴様らを拾ってやったと思っているんだ!』

『…誰もこんな所に留まりたいだなんて頼んでねぇよ!』

『レンゲ…!』

『生意気な口を、聞くな!』

 

 

あいつらがレンゲを殴る、蹴る。

何度も痛め付け、棒で叩き、髪を引っ張り、銃弾を撃ち込む。

 

 

 

『…どうしたんだキキョウ、そんな顔して』

『なんであんたは一々あいつらに歯向かうの?甚振られるって分かってるのに、なんで?』

『なんでって言われてもな…だってあんな奴らに大人しく従ってたら、まるでアタシがあいつらに屈したみたいで嫌だろ?』

『そんなの…そんなボロボロになってまで守りたいの!?』

『ああ、守りたいね。だってアタシは負けたくないからな』

『なんで…』

『言ったろ?守りたいからだよ』

『あっ…』

 

レンゲが、私を抱き寄せる。

爬虫類のようなレンゲの尾が私の身体に優しく巻き付き、安心させるように腰をトン、トン、と叩いてくる。

 

『アタシが負けたら誰がお前を守るんだよ。だからさ、アタシは負けないから、な?』

『レンゲ…』

『ずっと一緒にいてやる。ほら、もう安心だろ?』

 

 

 

 

 

(昔から、不安なんてないみたいに未来へずかずか突き進むあんたが大嫌いだった)

 

 

 

 

 

 

『あら?見慣れない子ですね。私はこれから百鬼夜行の方と大事な会談があるのですが…』

『…特異現象捜査部、っていうのがあるんだろ?アタシを…そこに推薦してくれないか?』

『…何故それを?』

『魑魅一座の情報をやる。だから、頼む』

『…良いでしょう。訳ありな様ですが…決して楽な道ではありません。貴女がどのような地獄で生きていたのだとしても…貴女が行きたいと言う場所もまた地獄です』

『望むところだ。アタシは…もっと強くなって…』

 

 

 

 

 

 

『嘘吐き』

 

 

 

 

 

 

 

(大っ嫌い)

 

迫ってくるレンゲを撃つ───躱される。

 

 

 

(大っ嫌い)

 

殴り飛ばされて、窓の外に落ちた私を追って飛び出してくるレンゲを撃つ────躱される。

 

 

 

(大っ嫌い)

 

落ちながら撃ってくるのを避け、レンゲが着地した瞬間を撃つ───躱される。

 

 

 

 

(カズサを撃った時から一度もリロードを挟んでない。5発撃った、もう次はねぇ)

 

キキョウの扱うスナイパーライフルはレンゲが扱うものと同型。

故に装弾数も同じであり、キキョウが撃った回数を数えていたレンゲはリロードの隙を狙って決めにかかる。

キキョウにレンゲほどの格闘能力はなく、次近付ければそれで決着となるだろう。

 

 

 

 

(…あんたなんか…大っ嫌い!)

 

「っ!」

 

全て撃ち切った筈のキキョウのスナイパーライフルから、弾丸が放たれた。

 

(だから…初恋も秘儀も、あんたに教えたことは無い)

 

 

───構築秘術。

神秘を原子へと変換し、物質をゼロから生み出す。

そうして生み出した物質は神秘解放により具現化されるものと異なり、秘儀終了後も消失することは無い。

その分神秘の消耗が激しく、キキョウの神秘では1日に弾丸を1発分作るのがやっと。

それは、普段から銃弾が飛び交いそれを平気で耐えるような者が殆どのこのキヴォトスでは何の役にも立ちはしない。

 

 

作ったのが、普通の弾丸なら。

 

 

 

(私がよく知る武器だからこそ装弾数を見誤った…いや、問題ない、受け切れる。あれが全力だとしてもキキョウが1発の弾に込められる神秘なんてたかが知れてる。このまま突破して───あれは、私の…?)

 

レンゲの凄まじい動体視力と思考判断力が発射から自らに届くまでの刹那の間に思考を回すが、その弾丸の違和感に気付いた事で思考が途切れる。

キキョウが放った弾…それは、レンゲが遺物である銃を通して放つ特殊弾と同じものだった。

 

(あいつ…)

 

スローモーションのように映る景色の中、レンゲの目に迫る弾丸の奥で鼻血を垂らし薄ら笑いを浮かべるキキョウの姿が映る。

間違いなく本来以上の負担を受けてまで強引に作成したのだろう。

例えここでレンゲに勝ったとしても、この後キキョウはもう戦えない。

 

(それでも…私の、勝ち)

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「…ぇ?」

 

着弾すれば炎を上げるその弾丸を、あろう事かレンゲは手で掴み取った。

レンゲの手の中で弾丸が反応し爆発するように炎と熱発が上がり、手の隙間から炎が吹き出す。

 

「っ…はぁ、確かにあまり人に向けて撃つもんじゃねえな。今度からは優しくしてやるとするか」

「…うぅ…うあぁぁぁ!!」

 

がむしゃらに、キキョウは今度こそ撃ち切ったスナイパーライフルの銃身を鈍器として殴り掛かるが、レンゲはそれをあっさりと避けると足をかけて逆に転ばせる。

 

(レンゲの…才能…私には無い才能…メカペロロと同じ、ある意味逆の天与宣誓…本来得るはずだった秘儀や神秘の才能を失う代わりに手に入る、人間離れした身体能力…フィジカルギフテッド)

 

起き上がろうとするキキョウの後頭部に、レンゲが銃を突きつける。

 

「決着って事で、いいな?」

「なんで…私を置いて行ったの…?」

「あ?言わなくても分かるだろ?何のためにあの時…」

「私は、戦いたくなんて無かった!」

「…キキョウ…お前…」

 

初めて見せるような、心の底からのキキョウの慟哭にレンゲは言葉を言い淀む。

 

「あんたのせい、あんたが頑張るから私も頑張るしか無かった…!努力も痛いのも怖いのももううんざり!あそこで生きることの何がいけなかったの…?適当に雑用こなして、一々歯向かわないで頭を下げながら生きてたら不自由でも暮らしていけた!なんで…一緒に落ちぶれてくれなかったの…」

 

「…あのままじゃ、お前を守れないと思った。アタシがアタシを許せなくなるって、そう思った。ごめんな」

 

 

 

(…分かってる。あの後、あんたが特異現象捜査部に通報したから、捜査が入って私が助かったんだって…でも…だけど…)

 

仲間の元へ向かいに行ったレンゲの背に手を伸ばし、しかし掴むことが出来ず、段々と離れていく。

涙がいつまでも溢れ出て、頬を伝って地面を濡らす。

 

 

 

 

 

『絶対置いてかないでよ?』

『当たり前だ』

 

 

 

 

 

「嘘吐き…大っ嫌い…」

 

 

 

 

 

 

百鬼夜行支部交流会 団体戦

杏山カズサ、桐生キキョウ───棄権




配役
冥冥…シュン
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