ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ18話までの範囲でお送りします
ずっとカホの口調間違えてた…カホファンに呪われてしまう…
最近どうにも文章が単調になりがちになってきている気がして文才ある人凄いなと思う今日この頃です


賢者

 

駆ける、駆ける。

縦横無尽に軌道を変えしつこく追跡してくる弾丸にヒナは辟易としてきていた。

 

「ククク…キャーハッハッハ!逃げられるものなら逃げてみろ!空崎ヒナ!」

「うざったいわね…」

 

正確に背後から追ってくる弾丸の性質を利用して上手いこと障害物にぶつけさせそれらを止めるヒナだったが、廃墟の屋上からマコトが再び発砲し弾を追加する。

先程からずっとこの調子、反撃に移ることも出来ず、一度退こうとしても今度はマコトの方から追ってくる。

執拗なまでにヒナに執着したような様子に違和感を覚えるも、まずはあれをどうにかしなければ始まらないとため息を吐いたヒナは走っている状態から靴底を地面に擦って急ブレーキをかけると、上着を脱いで翻し、迫る弾丸を絡め取った。

 

(…確かに特異現象捜査部の生徒に支給される制服は多少神秘の乗った弾丸を貫かせない程度には強度が高い。着てる上から撃たれたら衝撃が伝わって痛いが…盾として使えばそうでも無いだろうな。なるほど、よく考えている)

「だが、随分ストイックじゃないか!余程痛いのが嫌いか?キキッ」

 

「…」

(弾に少量の血が混ざってる。やっぱりあの追尾はマコトの秘儀ね)

 

マコトからの煽りは意に介さず、地面に落ちた弾を拾ってその正体を見破ったヒナは掌印を結ぶと、蝦蟇と鵺を掛け合わせた式神、『不知井底』を2体呼び出す。

片方は近くの廃墟の壁に張り付き、もう片方はヒナの側へ。

 

マコトからの追撃に備えたわけだが、何故か屋上から飛び降りてきたマコトはわざとなのか、無防備にリロードしながらヒナに近付いてくる。

 

「知っているぞ。もう一種類呼び出せるのだろう?このマコト様を前にして出し惜しみをするとはいい度胸だ!早く本気で来なければどうなっても知らんぞ?」

「…あんたこそ、そろそろ弾の数が心許なくなってきたんじゃない?貧血で倒れても知らないわよ」

 

マコトの指摘については既に玉犬を別に呼び出していてこの場にいないだけなのだが…それを教えてやる義理も理由もないヒナは質問の答えを濁し、逆に相手の弱みを誘う。

代々ゲヘナ学園の万魔殿の議長を務めてきた家系、特異現象捜査部に入るにしても何故百鬼夜行支部に移ったのかはヒナも知らないが、良くも悪くもネームバリューがあるマコトの家系の秘儀は有名な話だった。

 

(『赤血秘術』…自分の血とそれが付着したものを操る。血統に拘る万魔殿らしい秘儀ね)

 

「心配はいらないさ。これは事前に用意したものだからな。このマコト様は勝つ為に準備を怠らないのだ」

 

対して、マコトもまたヒナの秘儀の分析をしていた。

ヒナの『厄ネタ』は特異現象捜査部では有名な話であり、それに伴って同様に秘儀についての話も広まっているのだ。

 

(『十種影法術』…十種の式神を操るという影を媒介にした秘儀。その全容が割れている訳では無いが…正面から踏み潰してやろう)

「行くぞ!」

「…!」

 

マコトは今まで使っていた銃をその辺に放り捨て、前傾姿勢で踏み込むと───地面を割るほどの蹴りでヒナに迫り、拳が突き出される。

ギリギリで反応しマシンガンの銃身を盾にしたヒナだったが、想像を遥かに上回る威力に踏ん張りが効かず後ろに下がってしまう。

 

(こいつ…こんな力あったかしら…?)

「いい反応だな…そうでなくてはつまらない!せいぜい気を抜くなよ!」

「チッ…!」

 

明らかに運動能力が格段に上昇しているマコトの掌底をヒナも体術で捌こうとするが、力でも速度でも圧倒され、神秘による防御が追い付かなくなり始める。

繰り出される上段蹴りを腕で受け止めるが、衝撃が骨にまで響いて腕が痺れる。

アッパーカットを上半身を引いて避けるが、腕が鼻先を掠め鼻血が出る。

 

(これっ…このまま続けるとまずいわね…!)

 

「その程度か!?キキッ、驚いただろう!血液を操るというのは何も形状や運動に限った話では無い!体温、脈拍、赤血球量まで自由自在だ!これこそが、このマコト様の素晴らしき秘儀の力…『赤鱗躍動』!」

「つまるところドーピングってことでしょ」

「そんな俗な言い方はやめろ、由緒正しき相伝の秘儀だぞ?」

「使う奴が低俗じゃわけないわね」

「…っ、貴様…!」

 

少しヒナが煽れば分かりやすく怒りを露わにして攻め手を激しくするマコト。

ガードしてもその上から削られ、反撃もままならないヒナはそれでも冷静に対処を続け、攻略の糸口を探す。

 

(出し惜しみをするとはいい度胸…ね。ミノリ先輩を1人にする事になるけど…そこは先輩を信じましょうか。けど、そのためにはまずは一度こいつを引き離さないと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銃〜…持ってく必要ありましたかね〜…」

 

レンゲにノックアウトされた後、割と直ぐに意識を取り戻したヒフミは丸腰のまま怯え怯え廃墟街を歩く。

3級以下の特異体ならば最悪逃げることは出来るが、今回の標的となっている2級の特異体と遭遇すればヒフミ1人ではその限りでは無いのだ。

 

(レンゲさんどこかに行ってしまいましたし…ちょっとしか気絶来てなかったのに移動早すぎませんかあの人…まあどうせ私なんて銃がなければろくに戦力にならないので放置して正解なんでしょうけど…ペロロ様って言われるほど気持ち悪いでしょうか?)

 

内心愚痴を零しながら何とか仲間と合流しようと高い廃墟の上にでも登ろうとしたヒフミだったが、その時ポケットに入れていた携帯の端末が鳴る。

 

「はい。役立たずヒフミです」

 

卑下しながら電話に出たヒフミだったが…

 

 

 

『休眠を取れ』

 

 

「あっ…」

 

 

電話越しに囁かれた『言霊』

完全に油断してそれをまともに聞いてしまったヒフミは、その場に倒れ寝息を立て始めた。

 

 

 

百鬼夜行支部交流会 団体戦

阿慈谷ヒフミ───棄権

 

 

 

 

『すぴー…』

 

「…」

 

言霊でヒフミを無力化したミノリは、一緒に行動して特異体を鎮めるのを協力してくれているヒナの玉犬の頭を撫でた。

 

 

 

そんな様子を見ていた観戦部屋のカホはやれやれと肩を竦めて立ち上がると、それをホシノが呼び止める。

 

「行っちゃうの〜?」

「特異体が放たれている場所に寝させておく訳にはいきません。不破に気絶させられた時はともかく、安守の言霊で寝させられたのなら当分は起きれない筈です。それにそちらも杏山を回収した方がいいのではないですか?」

「あの子は直ぐに起きるだろうし大丈夫でしょ。まああそこまでボロボロにされたなら呼び戻すしかないけどね〜」

 

「…」

「どう来ましたか、リオ。考え込んで」

「…なんでもないわ」

 

そんなやり取りを聞きながら、リオは交流会前でのマコトに頼んでいた仕込みを思い出していた。

 

 

 

 

『これは?』

『エリアに放つ準1級の特異体よ』

 

神秘で保護された鎖で封じられた蛇のような特異体。

それを前に、マコトは興味深そうに観察する。

 

『放つのは2級の特異体ではなかったか?』

『それじゃ心許ないわ。ただでさえウチはまとまりがないっていうのに』

『キキッ、違いないな』

 

同調したマコトにお前が言うか、とでも言いたそうな表情を浮かべるリオだったが、懐から小瓶と笛を取り出すとそれをマコトに手渡した。

 

『これはこの特異体を調教するのに使った匂いと笛よ。場合によっては上手く使って天童アリスを殺しなさい』

『ん?使う前に鎮められたら意味はなくないか?特にアオイとかはな』

『笛を鳴らすまでは大人しくするように躾てあるから問題ないわ。貴女も他の皆をこれに近付けないようにそれとなく誘導しなさいよ?』

 

 

 

 

 

(マコトの事だから、それとなく匂いを天童アリスに付けているはず。あの子の血に混ぜれば良いだけだからやりやすいでしょうね。アオイと戦っているなら、決着が着いた頃にはきっともう戦えない。そのタイミングで準1級の特異体に襲われれば助からないでしょう)

「…そうね。ヒフミが心配だわ。早く行ってあげなさい」

「…」

 

怪訝にリオを見つめるホシノとヒマリだったが────その時、事態は思わぬ方向に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

特異体の探索中、不意に想定していたよりも明らかに等級の高い特異体の気配を察知したミノリは『言霊』で対抗しようとマフラーに手をかける。

建物の陰から蛇のような特異体の頭が姿を現し───頭だけがぼとりと落ちて、消滅していく。

 

「…ストライキ」

 

 

 

 

「…はぁ、やっと見つけた」

 

次に建物の陰から姿を現したのは、白と黒の髪が特徴的なダウナーな雰囲気の少女。

それを見た瞬間にミノリはマフラーで覆っていた口元を出し、少女の圧倒的な威圧感にも臆せず臨戦態勢を取る。

 

「デモ、労働、闘争」

「うん…?まあいいか。どうせ逃がさないし」

 

 

 

 

同時刻、交流会の会場から離れた高層ビルの屋上で、悪意が生徒達を見下ろす。

悪戯っ子のような白髪の少女と…2つの頭部を持つ奇怪なスーツの男。

 

「さて、ボチボチ私達も仕事始めよっか」

「小鳥遊ホシノ…キヴォトス最強の神秘。果たしてその激情を複製出来ればどれだけの芸術となるだろうか。きっと素晴らしいものが完成するに違いない」

「も〜、君の話はよく分かんないや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故貴様らはイブキを疎むんだ?』

『爛れた側妻の捨て子だからに決まっているだろう』

 

『では何故貴様らは私を贔屓する?』

『お前があれを可愛がろうが、相伝の秘儀を持つことはそれ以上の価値を意味する。お前の身の振り方次第ではあれの扱いを考えてやろう』

 

 

 

(…そんなものに興味は無い。私が私の行くべき道を行けないならば、そこでイブキは笑ってくれることは無い。ならば私は…)

 

 

「キレが悪くなってるわよ!考え事とは余裕ね!」

「余計なお世話だ!」

 

懐古に耽った一瞬を突いてヒナがマコトに殴り掛かる。

それをマコトは掴んで止めると、腕を引っ張りヒナを引き寄せ、空いてる方の手で逆に顔面を殴り返す。

 

「…ふんっ!」

「何ぃ!?」

 

しかし、殴られても後退するどころか力強く踏みとどまったヒナはマコトの脛を蹴り、マコトが痛みに怯んで1歩2歩と下がったところを今度こそ顔を殴り飛ばした。

両足が地面から浮くマコトだったが、獣のように両手両足で着地すると離された距離を一瞬で詰めヒナの腰に掴みかかる。

 

「このっ…離しなさいよ…!」

「離すか!歯を食いしばれ!」

「馬鹿…うわぁ!?」

 

腰を掴んだままマコトはヒナを持ち上げ、再び地面が割れる程の踏み込みで飛び上がり、廃ビルの高層階の外壁に突っ込む。

それだけの勢いで、コンクリートに背中から無理矢理突っ込まされたヒナはその衝撃で肺の空気を一気に吐き出してしまい、急激な息苦しさに襲われる。

何とか身を捩って振り払うが、流石にヒナでもダメージが無視出来ない域にまで追い詰められてきていた。

 

「キキッ…流石に頑丈だな。近接戦でこのマコト様相手にそこまで耐えれるのは誇っていい事だぞ。私は嬉しい」

「うるさいわね…ちょくちょく仲間意識出してくんのなんなのよ」

「シンパシー…ってやつか?まあいい。私は天童アリスを殺すつもりだ」

「…それはリオ部長の指示かしら?」

「いいや、この私の判断だ。それが正しいことだと私は信じている」

(私は…イブキの為に、なんだってしてやる。例えこの手を血に染めようとも)

「貴様にも理解出来るんじゃないか?貴様と私は同類だと思っているが」

「それは絶対にない。急に怖いこと言わないでよ」

「何がだ!?」

「同じなんかじゃ、絶対にない」

 

否定を受けたことで大袈裟に驚くマコトだったが、ヒナは改めてそれを否定する。

そしてマコトは…ヒナの瞳に宿る確かな光に気が付いた。

 

「そういう話を私に振らないで。確かに私だって生まれから色々あったらしいけど…私は自分のやってる事が正しいだなんて思ってない。いや…それが正しいかなんてどうだっていいのよ。私はただ自分の良心を信じてる。私の良心に従って人を助ける。それを否定するって言うのなら…やり合うしかないわよね?」

「なっ…!」

 

窓から飛び込んできた『不知井底』が背後からマコトへ向かって体当たりする。

 

(式神…!まだ残っていたか!)

 

まずはそれを片付けようと振り向いて蹴りを放つマコトだったが…蹴りが直撃する直前、不知井底は溶けるように影に沈み、結果空振ることとなる。

 

蹴り終わった姿勢からは直ぐに体勢は戻せない。

その状態では、マコトはずっと警戒していたヒナの掌印を妨害出来ない。

 

「この子は神秘の消費が激しいから単体でしか呼べないのよ…最近調伏したばかりで慣れなくてね」

「貴様っ…!」

 

「『満象』」

 

掌印に応じ、ヒナの影から現れたのは桃色の体色を持つ巨大な象の式神。

何か行動を起こされる前にマコトは先手を取ろうとするが…それより早く、満象はその長い鼻をポンプのように膨らませると、明らかにその体躯に収まるとは思えない量の放水を行いマコトをビルの外へと押し流した。

 

(クソッ、濡れるのはまずい…!)

 

「『鵺』」

 

空中で身動きが取れず、そして満象の放水によって全身をびしょ濡れにするマコトに、ヒナは満象を戻すと代わりに鵺を呼び出し、待ってましたと言わんばかりに勢いよく影から飛び出た鵺は放電を纏ってマコトへと突撃する。

 

「がっ…!?」

 

鵺の翼がマコトの腹を打ち据え、全身に電流が駆け巡る。

 

 

 

 

『マコトお姉ちゃん…イブキは、悪い子なの…?』

 

 

 

「…ぐあぁ!まだだぁ!」

 

白目を剥き身体を痙攣させそのまま為す術なく落ちていく…と思われたが、地上に落ちる前に意識を取り戻したマコトは懐から血液パックを取り出すと、それを追撃しようと旋回してきている鵺へと投げつける。

 

「あれは…!鵺、下がりなさい!」

「遅い!『赤縛』!」

 

ヒナの呼びかけで鵺は投げつけられた血液パックから逃れようとするが───マコトの秘儀により操作された血液がパックを突き破って鵺へと絡み付き、翼を封じて地へ落とす。

 

「私は…負ける訳にはいかんのだぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────轟音。

 

「「!?」」

 

遠方で次々と廃墟が崩壊し、積乱雲のような土煙が立ち上る。

そして土煙の中から…廃墟の屋根を伝って無数の影のようなもので形作られた怪物が2人に襲いかかろうとする。

 

「なんだあれは!」

「…ミノリ先輩?」

 

お互いに戦闘を中断し秘儀を解除して怪物に応戦しようとしていると、ヒナは怪物から同じく屋根伝いに逃げ回っているミノリを発見した。

ミノリもまたヒナとマコトに気が付いたようで、普段はマフラーに隠れて見えない、今は顕になっている口を動かす。

 

 

『退勤しろ』

 

「「!」」

 

ミノリの言霊を受け、ヒナとマコトは有無を言わさずその場を離れることを余儀なくされる。

ミノリもそれに続いて逃げる足を早めるが、怪物達は執拗に3人を追跡し、牙を向かんと廃墟を踏み潰していく。

 

 

 

 

それとほぼ同時に、カホが棄権者の回収に向かおうと準備を終えたその時、観戦部屋のモニターがけたたましいアラームを鳴らす。

 

「何…?特異体が全て倒されたのですか…?」

「妙ですね。私の烏達が何も見ていません」

「…判定は全部S.C.H.A.L.Eチームのもの。私の自慢の後輩が全部鎮めちゃった…って言いたいところだけど…」

「S.C.H.A.L.Eチームの加点は未登録の神秘によるものも含めます。これは…襲撃でしょうね」

「それは…!外部から侵入者だとでも!?クズノハ様の結界が機能してないのですか!?」

「…落ち着きなさい、カホ。外部であろうと内部であろうと不足の事態には代わりないわ」

「ですが、リオ部長…!」

 

(…あの準1級の特異体が鎮められたとなると、かなりの手練であることは間違いない。アオイはまだ天童アリスと交戦中…となると、一体誰が…?)

 

「落ち着いてください。このままでは生徒達の身が危険に晒される可能性があります。リオも、今ばかりは手を貸してくださいよ?」

「…分かったわ」

 

想定外の非常事態に慌ただしくなる一同だったが、ヒマリが咳払いをして一喝し、冷静に状況を分析して順番に指示を出していく。

結果として、ヒマリはクズノハの保護を、ホシノとリオは生徒達の保護を、シュンは秘儀を用いたエリア内の索敵と皆への報告を担当することに決まる。

 

「…あの、私は…?」

「カホちゃんは弱いからお留守番って言われてるんでしょ?」

「ふざけないでください!これでも準1級です、私も生徒の保護に向かいます!」

「敵が何処から現れるかも分かりません。行くなら気を付けてくださいよ?」

 

「…」

「ほらリオ部長も早く〜」

「ええ…」

 

 

 

 

 

廃墟街での騒乱を遠目に眺める2つの頭部を持つ奇怪なスーツ姿の男は、地面に杭のようなものを打ち込んでいた。

 

「ふむ、随分派手にやっているな。だがしかし、秘儀で生み出す産物は後には残らぬのが残念だ。芸術として残すこともできやしない。消えゆく儚さもまた芸術と言えばそうかもしれんがな」

 

打ち込んだ杭に足をかけ、体重をかけてより深く差し込んだ男はブツブツと何かを呟くと、それに反応して杭が神秘を発し、上空から半透明の膜が廃墟街を覆うように降りる。

その様子は、各地に散らばっていた生徒達も目視で確認していた。

 

 

 

「結界…?何故今…」

「これは…きな臭くなってきたわね。場所を変えるわよ、アリス」

 

 

 

 

 

「結界が降りる…!ホシノ!あなただけでも先に行ってください!」

「無理だよ」

「はぁ!?」

(視覚的にはまだ作られてる途中に見えても既に結界の効果は発揮されてる。今あれは透明なガラスに色を塗っているみたいなもの…上手いね)

「でもまあ、降りたところで破っちゃえば良い話だよ」

 

結界の側までやってきたホシノとカホとリオ。

おそらく中と外を分断するであろうそれを破ろうとホシノは結界に手を伸ばす、が…

 

 

「うへぇ!?」

「な、ホシノ!?なんであなたが弾かれるんですか!?…私は入れるのに…」

「これは…」

 

結界へ伸ばしたホシノの手が弾かれる。

決して尊敬してるとは言えず、むしろ非常にホシノを苦手とするカホだったが…その実力だけは信じていたからこそ目の前で起きたその事実が信じられなかった。

恐る恐る伸ばしてみたカホの手は結界からはまるで抵抗を受けずに透過したことも更に混乱を加速させる。

そんな不可解な状況においても冷静に思考を巡らせるホシノは、この結界の性質に当たりをつけていた。

 

「…なるほどね。リオ部長とカホちゃんは先に行っててよ」

「あなたは!?」

「これは、”小鳥遊ホシノの侵入を拒む代わりにそれ以外が全て出入り可能な結界”だよ。それなら足し引きの辻褄も合うってもんだね」

「それは…確かに…ですが特定の個人のみに作用する結界を作れるなんて…」

「うん。余程腕の立つ相手がいる。その上多分こっちの情報もある程度把握されてるだろうね〜…ほら早く行って。何が目的かは知らないけど、1人でも死なせたら私達の負けだよ」

「…行くわよ、カホ」

「うぅ〜…は、はい!」

 

ホシノに急かされ、先に結界に侵入したリオに呼ばれカホも慌てて結界の中へ入る。

結界の内側は濃密な神秘の気配で満たされており、同時に廃墟街の中心部の方からは強大な威圧感が結界の端までを包み込んでいた。

 

(このプレッシャー、そして神秘の濃さ…まさか特級クラスの何者かが…)

 

「ふむ?小鳥遊ホシノがいないようだが…生憎貴殿らは招いていない。早急に立ち去りたまえ」

「…何者ですか!」

 

結界内に確実に潜んでいる強大な何者かに戦々恐々としていたカホだったが、正面から歩いてくるその相手に咄嗟にリオを庇うように前に出る。

相手…2つの頭部を持つ奇怪なスーツ姿の男は、カホからの質問に胸手を当てると紳士然とした態度で名乗り出した。

 

「失礼、招かれざる客とて私の芸術の閲覧者には違いない。私は芸術を追求する者…どうか敬意を込めて『マエストロ』と呼んでくれ」

「マエストロ…?」

 

(…アウトローね。この濃密な神秘の気配の主では無さそうだけれど、それなりに出来る相手には違い無さそうだわ)

 

「しかし、小鳥遊ホシノがいないとなると話が変わってくるな。あの小娘に嵌められたか…?」

「カホ、先に行きなさい。生徒の保護を優先、極力戦わないで」

「リオ部長!?ですが…!」

「いいから、早く行きなさい」

「…分かりました。どうかご無事で…!」

 

リオに促され脇道を抜けようとするカホだが、それを妨害しようとマエストロも手のひらを向け───カホとの間に割り込むようにどこからともなく降ってきた巨大なロボットがそれを阻んだ。

 

「!これ、は…」

「芸術を探求する者と言っていたわね。それならば…私のこの最高傑作で相手をしてあげるわ」

「…これは…芸術への冒涜だ!なんだこの壊滅的なセンスは!?」

「なっ…」

 

が、現れたロボット…人の上半身だけのマネキンのような胴体に四本のアーム、そして顔は無駄にデフォルメされた何とも言えない造形。

誰がどう見てもダサいそのロボットに思わずツッコミを入れたマエストロだったが、それは存外リオを傷付けた。

 

「わ、私のアバンギャルド君のどこが壊滅的なセンスだって言うのよ…!」

「アバンギャルド君!?外観だけでなく名前までふざけているとは…貴殿だけは許せん!ここで葬ってくれる!」

「くっ…見た目は関係ないわ!理解されないのならそれでいい、行きなさい!アバンギャルド君!」

 

状況の割に始まったファンシーな戦い。

それとは別に、廃墟街の方でもヒナとミノリ、そしてマコトは強大な敵と対峙していた。

 

 

 

複数の巨大な影のようなもので形作られた怪物を従えるダウナーな雰囲気の少女を前に、マコトは警戒を、ヒナとミノリはその姿にホシノから受けた注意を思い出していた。

 

「何故ここにアウトローが…結界も誰のものだ!」

「…あのアウトロー。前にホシノ先輩が見たっていう奴ね」

「デモ」

「何か知っているのか!?」

「ええ、この前ホシノ先輩を襲ったアウトローの仲間らしいわ。似顔絵書いてきて下手な絵だと思ったけど…実際に見てみたら意外と分かるものね」

「プロレタリア」

「そうね、まずはホシノ先輩に報告しましょう」

「ちょっと待て、貴様はこいつが何を言っているのか分かるのか…?」

「そんな事はどうでもいいでしょ?」

 

圧倒的な相手を前に緊張するマコトに対して、ヒナは前に特級特異体やアリスの身体の制御を奪ったKeyと対峙した経験から、ミノリは1年の頃の経験から、それぞれあの少女の前でも冷静に行動を開始する。

ミノリがヒナの前に出て守るようにし、その間にヒナは端末を取り出してホシノへと連絡を───

 

 

 

「させないけど?」

「っ!」

 

誰の目でも捉えることの出来ない速度で移動した少女はヒナが持っていた端末を掠め取り、握り潰した。

 

 

『働くな』

 

「む…」

 

あまりにも一瞬の出来事に事態が飲み込めずにいた一同だったが、真っ先に反応して言霊を使いミノリが少女の動きを止めると、ヒナとマコトもそれに続いて少女へ攻撃を仕掛ける。

 

(赤血秘術…『苅祓』!)

 

マコトは自らの腕の動脈を爪の先で切ると、そこから溢れた血を操り斬撃の形にして少女へと飛ばす。

が、それは少女に付き従っていた怪物が少女を庇う事で防がれ、その怪物自体にもダメージはまったく通っていなかった。

 

「『鵺』」

 

ヒナも影から鵺を呼び出し、上空を旋回させた後滑空の勢いを利用して放電を纏わせ少女へと突撃させるが、それもやはり別の怪物が庇って少女には届かない。

 

(あの怪物一体一体が硬いし強いわね…見える範囲で五体…廃墟街に散らばってるのは全部で三十は超えるかしら?それ全部ここに居るのと同じ強さだったらお手上げね…)

 

 

 

「…無駄な抵抗はやめなよ」

「「「!」」」

 

その時、少女からの威圧感が膨れ上がる。

これまではなんとか耐えれていたヒナとミノリもその圧倒的な重圧…脳に直接注ぎ込まれるような()()に過呼吸を起こし、思考することすらままならなくなる。

 

(何…これ…こいつ…やばい…!)

 

「私はカヨコ…”鬼方カヨコ”。今からここにいる連中を皆殺しにする」

「…なん、で、そんなこと…を」

「煩いから」

「…は?」

「あんた達が煩いから。私はただ静かに生きたいだけ。なのにあんた達は場所も何も考えずに暴れて…やれ開発だの、やれ闘争だの、どこでも喧嘩、どこでも銃撃戦…煩いったらありゃしない。だから私はアウトローとしてあんた達を殲滅する。別に煩くするつもりのない人もいるにはいるんだろうけど…選別するのも面倒だし、必要性も感じない。私は私の自由を手に入れる。本を読んで、CDを漁って、気に食わない相手は蹴散らして、仲間とだけつるんで…そんな私だけの自由を」

 

「…なるほど、如何にも…独善的な、アウトローらしい思考ね…」

(頭が上手く、回らない…言葉を喋るのすら、上手くできない…!)

「…空崎ヒナ…ミノリを、下がらせろ…!」

 

「もう私は生き方を決めた。騒がしいなら騒がしいで、せめて身内だけで。訳の分からない他人が煩いのはもう我慢出来ない」

 

「早く、しろぉ!」

 

少女…カヨコから暴風のように吹き荒れる恐怖がより強く、強く。

誰も動けず、誰も抵抗出来ず、一方的な恐怖に晒される。

そんな無防備なヒナ達に、カヨコは控えさせていた怪物達への”待て”を解除して───それらが一斉にヒナ達へと牙を剥く。

 

 

「私の安寧を守る為にも…死んだら賢者になれるんだって。頭冷やして産まれ直して」

 




配役
組屋…マエストロ
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