ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ21話までの範囲でお送りします
最近戦闘シーン続きで疲れてたところに野球回がスーッと効く…


青春甲子園

 

D.U.の何処かにある仄暗い地下水路。

そこを歩くピンクの髪をツインテールにした少女は白々しく呟いた。

 

「あーあ、私結局なんにもしてないですし、怒られちゃいますかね?それに比べて…あなたは働き過ぎじゃないですか?」

 

「…」

 

少女の後ろをフラフラとした足取りで歩いていた…全身をズタボロにしてヘイローにもヒビが入っているカヨコは、歩く余力さえ無くなったのか糸が切れたのかのように倒れ込む。

そんなカヨコの前にしゃがんだ少女はその背中をツンツンと銃口でつついた。

 

「可哀想ですねぇ?なんなら楽にしてあげましょうか?」

 

憎ったらしい笑みを浮かべた少女は引き金に指をかけ───少女の肩に腕が置かれた。

 

「お疲れ様〜」

「!」

 

気配も悟らせず少女と肩を組んだムツキはボロボロのカヨコの様子を確認し…次に少女へ底冷えするような軽薄な笑顔を向ける。

 

「甘い汁啜りに来ただけの癖に勝手なことしないでくれないかな。あんまり調子に乗ってるとあんたのヘイロー壊しちゃうよ?」

「い、いやだなぁ、優しさですよ〜!分からないですかね、この機微ってやつ…ところで、例のものは?」

 

言葉にし難いムツキからの冷たい殺気に怯えた少女は露骨に話を変えると、呆れながらもムツキは大きなスクールバッグから()()を取り出した。

 

 

「特級遺物、『Keyの機器部品(モジュール)』…S.C.H.A.L.Eが保有する内の6個。バッチリ回収してきたよ〜」

「さ、流石ですねー…」

「まあそんなに大したことじゃないよ。ユメのお陰だね」

 

 

 

 

今回の襲撃前、ムツキ達が拠点としているとあるビルの中にある一室、その奥に広がる木の代わりに刃が生えた荒野のような空間でアル、ムツキ、カヨコ、ハルカ、そしてユメは焚き火を囲んで計画についての話をしていた。

 

『S.C.H.A.L.E本部の地下には、クズノハの結界術によって拡張された広大な空間が存在してるんだ。それは外部からは如何なる技術を用いても探知出来ない。極めつけにその空間の内部にある無限に続くような通路と千にも及ぶ扉の1つにKeyの機器部品(モジュール)を含む特級遺物が収められている。それも日々入れ替わるっていう面倒な仕様なんだよね。でも、逆に言えばS.C.H.A.L.Eの連中も当たりの扉を上手く把握できてないし、それを知るのはせいぜいクズノハぐらい』

『クズノハって誰よ?』

『不死の秘儀を持った大預言者だよ』

『不死!?小鳥遊ホシノとどっちが強いの!?』

『まあまあ、アルちゃん落ち着きなって。不死とは言っても不老って訳じゃないよ?ただの木みたいなもの、クズノハは結界以外で現に干渉することは無いから本当に気にしなくて大丈夫』

『本当なんでしょうね…ムツキに何かあったらただじゃおかないんだから』

『も〜、アルちゃんってば心配性だな〜』

『せっかく人が心配してるのに…』

『話続けるよ?この前S.C.H.A.L.Eに回収させたKeyの機器部品(モジュール)にはムツキちゃんの神秘を込めた御札を張っておいたの。上手く隠蔽したからそう簡単には剥がされないだろうし、自分の神秘だったら辿るのも簡単だろうしね』

『だから私が回収に行くって事だね。門番とかはいないの?』

『基本クズノハの側近が2人いるけど、雑魚だから適当にあしらえば良いよ。それよりもムツキちゃんには結界が降りる前にS.C.H.A.L.Eで待機してる生徒を出来るだけ静かに間引いて欲しいな。カヨコちゃんの負担をちょっとでも減らさないとだから』

『…どうして小鳥遊ホシノを結界の内側に閉じ込めないの?』

『いや〜、本命のムツキちゃんから意識を逸らして貰いたいからね〜。それにある程度全力を出してもらわないと結界のテストにもならないし、生徒達を閉じ込めるのが手っ取り早いよ』

『そう…じゃあKeyの器以外は殺してもいい?』

『良くないことはないんだけど、それはオススメしないかな。Keyの動きが想定からズレちゃうし…もしかしたら生徒の中にKeyにとっての地雷がいるのかもしれないね。それを踏んじゃったら最悪今回の作戦が台無しになっちゃう』

『それだったら先にKeyの器だけ攫っちゃえば良いじゃない!どの道使う駒なんでしょ!』

『私先生じゃないんだからあんまり説明させられるのもな〜…天童アリス…Key自体も私達にとってもS.C.H.A.L.Eにとっても爆弾だからね。刺激するタイミングは混乱が必要な時に限るよ。ユメ先生にもう質問は無いかな〜?』

 

おどけるように言うユメにアル達は首を横に振ると、『ならよし』と手を叩いたユメはその場を立ち上がって外へ続く扉の方へ向かった。

 

『10月31日ミレニアム自治区。小鳥遊ホシノを封印する為に利用できるものは出来るだけ温存するよ。あっ、そういえば今回の襲撃には何人かフリーのアウトローを雇うけど…』

『フリーのアウトローって?』

『逆にフリーじゃないアウトローってなんなのよ』

『だから話聞いてって…その子達は別に捨て駒にしても良いけど、嘱託式の結界のテストを任せた子とは仲良くしてね』

 

そう言い残したユメは部屋から出ていき、残ったアル達は焚き火で焼いていた焼き鳥をもそもそと食べる。

 

『…仲良くだってさ。アルちゃん』

『ふ、ふんっ…私は今回は行かないから良いわよ』

『そんなこと言って、私とカヨコちゃんが心配なのバレバレだよ〜?』

『う、うるさいわね!』

 

 

 

 

「ん?こっちのは?」

「あー、それ?何か面白そうだったから貰ってきちゃったんだ〜」

「勝手なことをしてるのはどっちですか…」

「良いでしょ別に。ほら君は早く行っちゃって、私はカヨコっちを連れ帰らないと行けないんだから」

「そうですか…じゃあ今回は私はこれで失礼しま〜す!」

 

ムツキがバッグから1つ取り出したKeyの機器部品(モジュール)、それとは別にバッグの中に見えた何かの装置のような物に少女は興味を持つが、しっしっとムツキが手を振った為これ以上藪蛇をつつく前に少女は水路の奥に姿を消した。

 

それを見送るでもなくムツキは倒れるカヨコに肩を貸し、秘儀で壊れかけのカヨコのヘイローを修復する。

 

「ほらカヨコちゃん、帰るよ。応急処置はしたけど暫く安静にしてね」

「ムツキ…殺意にブレーキをかけるのってストレスが溜まるものだね…」

「…あっはは、それをアルちゃんと私達で壊そうって話でしょ?カヨコちゃんもアウトローが板に付いてきたね〜」

 

 

少女に向けていたものとは打って変わって、親愛の微笑みを見せたムツキは時折カヨコを気にかけながら拠点までを歩いて帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.C.H.A.L.E本部の中にある会議室に集まった今回の交流会で監督を務めていたホシノを初めとした5人。

そんな彼女達を前になぜ自分が報告をしなければならないのかと胃を痛めながらも、アヤネは今回の被害をまとめた資料の内容を伝えていく。

 

「…人的被害についてですが、当時S.C.H.A.L.Eにいた2級の生徒が3名、準1級が1名、監督オペレーターが5名、忌庫番が2名となります。セナさんからの報告待ちですが、以前ユウカさんが遭遇したアウトローの仕業でほぼ間違いないかと」

「…」

 

ユウカからそのアウトローの詳細を聞いていたホシノはその報告に眉間に皺を寄せる。

重苦しい雰囲気が流れる会議室だが、気を立てるばかりでは話は進まないとカホが手を挙げた。

 

「今回の件は生徒達や他の支部とも共有した方が…?」

「いえ、伝えるとしても上と各支部の部長で止めた方が良いでしょう」

「癪だけど同感よ。特級遺物の流出なんていう確信を広めてしまえば特異現象捜査部そのものが揺らぎかねないわ。それより、捕らえたアウトローは何か吐いたの?」

「それが…口が堅いという訳では無いのですが中々要領を得ず、襲撃に関しても『取引の上依頼されたに過ぎない』との事です」

「アヤネちゃん詳細は?」

「は、はい!応答を一言一句まとめたメモによると───」

 

 

 

 

『キヴォトス最強の神秘と言われるその力、芸術へと昇華させれば如何程のものになるのかと期待したが…あの娘と正体も分からぬ法衣の者には捨てられたようだ』

 

 

 

話に出てきた2人の人物が引っかかり、シュンが首を傾げる。

 

「娘と法衣の…さて、誰でしょうかね?」

「う〜ん…おじさんには心当たりが無いや。適当言ってる可能性はあるかな?自白に強い秘儀を持つ生徒か、そういった遺物とか無かったっけ?」

「それよりも、何故部外者がクズノハ様の結界を越えられたのですか?」

「それは…あのアウトローのせいじゃないかな?アオイちゃん達から聞いた話だとあのアウトロー、神秘の性質が独特でクズノハ様の結界の波長?に引っかからずにすり抜けちゃった可能際があるんだってさ。そんな奇跡的な偶然が本当にあるのかも怪しいものだけど…」

(…大体、何の目的でKeyの機器部品(モジュール)を…?アリスちゃんが取り込んでポテンシャルを強化されるのを恐れたのか、それとも自分達で取り込むなりするつもりなのか…でも、な〜んかしっくり来ないんだよな〜…)

 

その後も話し合いは続いたが結局例のアウトロー達や奪われた遺物の奪還に対して有用な意見は出ず、ひとまず会議はお開きになることになった。

 

「ともかく、今回は守れた生徒達の無事を喜びましょう。殺された者については…後程速やかに葬儀を執り行います」

「とはいえ交流会は中止ですね。今回のような事件があっては…」

「ちょっと!それはおじさん達が決めることじゃないでしょ?」

「「「「?」」」」

 

様々な騒動が重なりやむを得ず交流会の中止を提言したヒマリだったが、ホシノがそれに待ったをかけ、何事かとその他の全員が頭に疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あんたいつの間にあのゴリラと仲良くなったの?」

「アオイのことですか?いえ、仲良くなったというわけでは…記憶はありますがあの時はちょっとハイになってたと言いますか…」

「なにあんた酔ってたの?」

 

S.C.H.A.L.E本部の一角にある病室で、ベッドの主であるヒナを挟んでアリスとカズサはお見舞いのプリンを3人で食べながら駄弁っていた。

交流会での怪我以外は無いカズサはともかく、ヒナも既に包帯や湿布が取られかなり回復している。

 

「ですが、ヒナも元気になって良かったです!」

「それは良いんだけど…なんでプリン?」

「お見舞いと言ったらプリンでしょ。キヴォトスじゃ常識でしょ?」

「もっと果物とか持ってきなさいよ」

「文句言うなし」

「しかし、あの噛みつかれていたやつももう治ったんですか?」

「ああ、あれ食らった時には私も神秘をかなり消耗してたから吸われるのも最低限で済んだらしいわ。運び込まれた時にはセナさんでも治し切れる程度だったんだって」

「へぇ〜、そういうこともあるんですね」

 

呑気にプリンを口に運びながら言うアリスをヒナはじっと見つめる。

やがてその視線に気が付いたのかアリスは気恥ずかしくなり顔を背けた。

 

「…なんですか?」

「貴女、あのアウトローと戦ったのよね…本当に、強くなったわね」

「…」

「古聖堂の事件の時、貴女は私達はどっちも正しくてどっちも間違ってるみたいなこと言ってたわよね」

「そうでしたっけ?」

「また面倒臭そうなこと考えて…答えの無い問題だってあるでしょ?考えすぎたらスイーツも楽しめなくなるよ」

「…そうね、答えなんか無いわ。後は自分が納得できるかどうかで…我を通さずに納得なんて出来ないわ。弱かったら我は通せない…」

 

暗い表情で俯いていたヒナだったが、1人ブツブツと何かを繰り返し飲み込むように呟くと、ふと顔を上げて決意に籠った眼差しがアリスを真っ直ぐに見つめる。

 

「アリス、私は強くなるわ。貴女なんか直ぐに追い越すわよ」

「…ヒナは相変わらずですね」

「ちょっと、私抜きで話進めないでよ」

 

「それでこそシスターの友達ね」

 

「「「…」」」

 

 

青く初々しい話をしていた最中、突如会話に混ざってきた闖入者…アオイに3人はスン…と真顔になる。

そして中でもアリスはあの襲撃の時にごく自然に行っていたアオイとのやり取りを思い出して顔を赤くすると、病室の窓を破って外に飛び出した。

 

「シスター!?どこ行くの!?」

「感謝はしてますけど勘弁してください!あの時のアリスは正気じゃありませんでした!」

「何を言ってるの!シスターは中等部の頃からあんな感じだったわ!」

「うわーん!存在しない記憶を捏造してます!」

 

外で追いかけっこを始めるアリスとアオイを眺めながら、ヒナとカズサは純粋に笑ってアリスを応援した。

 

 

 

 

 

 

(こんにちは、役立たずヒフミです!自分で役立たずとは言いながらもそこまででは無いんじゃないかなと、あとペロロ様は気持ち悪くなんかないと思いつつ、皆が特級のアウトローと戦っている間にずっと爆睡していたと聞いて肩身が狭いです。あと私の銃どこいったんでしょうかね?レンゲさんに持っていかれて以降手元に帰ってこなくて辛いです。まあ色々あって中止と思われた交流会ですが…1日休日を挟んで私は今…野球をしています)

 

 

 

 

 

時は少し前に遡る。

 

「それで、死人も出てるわけだけどどうする?交流会、続ける?」

「どうと言われましても…」

 

S.C.H.A.L.Eチームと百鬼夜行支部チームを集めたホシノは、皆にそう聞いた。

当然直接の関わりは無いとはいえ身近な場所で人が死んだという事実はアリス達にとっては重く、そんな空気では無かったのだが…

 

「勿論続けるに決まってるでしょう!」

「あ、アオイ!?」

 

「ふ〜ん?その心は?」

「1つ、故人を偲ぶのは縁がある者の特権。私達が立ち入る問題じゃないわ。2つ、死人が出たというのなら尚更私達に求められるのは強くなることよ。同じ悲劇を繰り返さないためにも、ね。後天的な強さというものは結果の積み重ね、敗北を噛み締めて勝利を味わう…私達はそうやって成長するの。結果は結果としてあることが1番重要なのよ」

 

「アオイ先輩ってしっかりしてるんですね」

「しっかりイカれてるの間違い」

 

せっかくヒフミが関心するも直ぐにキキョウがアオイの株を下げにかかる。

 

「そして3つ目は学生時代の不完全燃焼というものは死ぬまで尾を引くからよ」

「幾つだ貴様」

 

マコトにツッコまれても気にしていないアオイは一旦捨て置いて、それぞれの生徒にどうしたいのかをホシノは聞いて回るがアオイのお陰もあり概ね「続けたい」という結論で落ち着いた。

 

「それで、個人戦の組み合わせはどうするんだ?くじ引きでもするか?」

「あ、今年は個人戦はやらないよ〜?」

「え?」

 

例年は1日目が団体戦、2日目が個人戦と決まっているという話だったが、唐突にそれを否定されて一同は困惑する。

そんな皆の困惑を他所にホシノは背後にに隠していた木箱を取り出すと、それをアリスへと放った。

慌ててキャッチしたアリスはホシノに促されて箱を開けると、その中にある紙に書かれた文字を見てより一層困惑を強める。

 

 

 

 

「…野球?」

「ちょっと待ってちょうだい!」

「何故勝手に話が進んでいるんですか!?」

「うわぁ!?リオ部長とヒマリ部長!?」

「ホシノ!逃げましたね…!リオ、あっちから追いなさい!」

「あの問題児は本当にいつまで経っても…!」

 

アリスの左右から顔を出したリオとヒマリは紙に書かれたそれを確認すると、ダッシュで外に逃げたホシノを追いかけ回す。

その後こってりとお説教されたらしいが、なんやかんやで結局交流会2日目は野球をすることで決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わざわざミレニアムにまで来て球場を貸し切り始まる野球、プレーは進んで現在1回表。

 

先攻、百鬼夜行支部チームのバッターは最近モモフレンズグッズの為に行列の前方に並ぶ他の生徒を蹴散らして強引に先頭に躍り出たというヒフミ。

審判はホシノだ。

 

ちなみにS.C.H.A.L.Eチームのピッチャーはレンゲ、キャッチャーはペロロが担当している。

 

 

レンゲが投げた玉は…ヒフミが見事に当てて打ち上がる。

既に一塁に出塁していたフウカはそれを見て走り出すが、ベンチからカホの怒号が飛んだ。

 

「愛清!まだ走るなー!」

「えぇ!?」

 

ゆるゆるとした軌道で落ちるフライをミノリがキャッチし、ボールは一塁カズサに繋がりゲッツーとなる。

 

「阿慈谷、愛清、アウトー!」

「え、なんでよ!?」

「ルールが分からないなら言ってくださいよ!」

「し、知ってるわよ!打ったら走るんでしょ!」

 

野球経験2リットルのフウカはベンチに連行され、その後のキキョウも三振でアウトとなり攻守交替。

続いて1回裏最初のバッターは初めて伝説のクソゲー、『TSC』をプレイした際あまりの意味不明さにゲームクリア時点で死を願ったという天童アリス。

 

対して百鬼夜行支部チームのピッチャーは…メカペロロ(ピッチングマシンボディ)だった。

 

「ちょっと待てやこら!」

「カズサがキレた!乱闘だ!」

 

 

 

などという一悶着はあったもののそのまま試合は続行する。

 

 

 

「おい、天童アリス。貴様特級区分に認定された例のアウトローを退けたらしいな」

「はい?」

 

ブン!ブン!と勢いよく素振りしていたアリスに、百鬼夜行支部チームのキャッチャーである最近ネットショッピングでまんまと不良品を掴まされたらしいマコトが声をかけた。

 

「退けたと言っても…アオイやホシノ先輩のお陰で…アリスはまだまだ勇者には程遠いです!」

「…ならば貴様は何故勇者とやらを目指すんだ?」

「何故、ですか…きっかけは成り行きと言えば良いのでしょうか?漠然とした憧れはそれ以前にもありましたが、友人の言葉が背中を押してくれたんです。そこに、色々な出来事が積み重なって…そして、1人でも多くの人を救いたいんです」

「…」

 

 

 

 

『イブキが幸せになれないのなら、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)などに身を置く価値は無い!』

『マコトお姉ちゃん…イブキが悪い子だから、もうあそこにいれないの…?』

『…イブキは悪い子じゃない。絶対に、私が守るから…一緒に行こう。イブキが独り立ち出来るその時まで』

『…嫌!マコトお姉ちゃんは…ずっとイブキのそばにいるのー!』

『そ、そんなわがまま…はぁ、叶えたくなってしまうじゃないか。そんなの…』

 

 

 

 

 

「そうか…それは良い理由だなへぶぁ!?」

「マコト先輩〜!?始まってるのに余所見するから〜!」

 

物思いに耽るマコトはピッチャーが投げたのに気が付かず顔面に豪速球を受けて鼻血を出してぶっ飛んで行った。

 

「ナイスピッチングー」

「ナイッピー」

「ナイッピー」

 

「マコトは凄く嫌われているのですね!」

「貴様もぶっ飛ばすぞ…」

 

チームメイトからのあんまりな掛け声に加えアリスの追撃を受けてマコトは恨み言を吐くも、試合は何事も無かったかのように続行。

アリスは勿論、スイーツの食べ過ぎで体重を気にしてきているカズサ、ウェーブキャットの人形を見ると無性に殴りたくなるというペロロの強打が続き満塁。

そして満を持して登場するのは粉っぽいプロテインが許せないという4番レンゲ。

 

スタジアムには一陣の風が吹き…メカペロロ(ピッチングマシンボディ)から放たれたボールをレンゲが振ったバットが芯で捉え、大きく飛んだボールはホームランの軌道に入る

 

「ハッ、満塁ホームランで4点だな」

「キキキッ、それはどうかな?」

「は?…あぁ!ズルいぞ!」

 

絶対に取れないコースのボールを…箒に乗って飛び上がったフウカがキャッチし、結果レンゲはアウトとなった。

今回の野球は両チームとも人数不足のため、外野1人のみ秘儀の使用が許可されているのだ。

 

その後はカズサ、ミノリが続けてアウトとなり結局0対0で2回へ、その後色々あって回は進み…9回表、点数は7対4でS.C.H.A.L.Eチームがリード。

現在ワンアウト満塁でホームランを打たなければ後がない場面、バッターはアリスと共に全中制覇をしているアオイ(なおアリスは否認)。

 

「…シスター!今回のピッチャーは貴女がやりなさい!」

「アオイ…レンゲ、良いですか?」

「別に良いけどよ…」

 

何故か良い雰囲気を出してピッチャーは交代、親友()でありライバル()である2人の対決。

アリスはそれこそカヨコとの戦いで放ったあの力の込め方の感覚を思い出し…全力で投擲する。

ソニックブームすら発生してそうな豪速球にアオイはぴったりとバットを振るが、あまりのボールの重さに一瞬バットの振りとボールがせめぎ合った。

 

 

「ぐ、ぐぐ…私は…負けないわよ!!」

 

 

しかし一瞬の拮抗を制したのはアオイ。

芯で捉えたボールは高く打ち上がりホームランの軌道へと入る。

S.C.H.A.L.Eチームにはあれを取れるような秘儀を持つ者が居ないため出塁している百鬼夜行支部の面々は形式上仕方なくも余裕を持って小走りに次の塁へと駆けた。

一方S.C.H.A.L.Eチーム側の守備は9回裏でどうにかしようと気合いを入れ直していたが…ただ1人、アリスだけは空高くのボールを追って駆け出していた。

 

「アリス?何してんの!?」

「アリス言いました!やるからには勝ちたいと!」

 

ボールが観客席へと落ちる直前────空高く飛び上がったアリスは見事にボールをキャッチしてみせた。

 

 

「なっ…!?」

「…ふっ、流石はシスターね」

 

あの高さのボールに追従する執念と空中でのキャッチを成し遂げる脚力に驚愕する一同だが、まだ地上に落ち切らないアリスはこの回で決着を着けようと…アリスがボールをキャッチしたことに気付かず走り続けているマコトに狙いを定めた。

 

 

「キキキッ!これでさよならホームランだ!次の回を完璧に守り抜いて私達の勝利を───」

「羽沼ぁーー!塁に戻りなさい!」

「え───」

 

 

 

「光よ──────!」

 

 

ベンチからのカホの制止も虚しく、普段アリスが放つレールガンの如き威力と速度で投げられたボールは…マコトへと直撃し、スタジアムの壁まで吹っ飛ばしてマコトの頭が壁に突き刺さる。

落ちたボールを拾ったヒナはマコトまで近付き余裕でタッチアウトを取り、交流会2日目…野球対決はS.C.H.A.L.Eの勝利で幕を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

「まだアリスが嫌いですか?」

 

そんな一連の試合を観客席から眺めていたヒマリとリオ。

仲間達に胴上げされているアリスをじっと眺めるリオに、ヒマリは意地の悪い声色で言った。

 

「…好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないわ。特異現象捜査部の規定に基づけば天童アリスの存在は許されない…あの子が生きてること自体が小鳥遊ホシノの我儘なの。個の為に集団の規則を歪める訳には行かない。何より、天童アリスが生きてることでその他大勢が死ぬことはあってはならないの」

「…ですが、彼女のお陰で確かに救われた命もあります。現に今回アオイと協力してあのアウトローを退けたのですから。生徒に限った話ではありませんが…彼女達はこれから多くの後悔を積み重ねるでしょう。『ああすればよかった』『こう言えばよかった』『こう言って欲しかった』…アリスについての判断が正しかったのかは、私でも正直分かりません。それでも…今はまだ、見守っていませんか?」

「私は…」

「後悔なんて、その後に幾らでもすればいいでしょう」

 

 

 

「やあやあ2人共〜!こんな陽の当たる場所にいたら干からびちゃうよ〜?ただでさえ今日は特に動いてない私でも暑いんだからさ」

 

「「…」」

 

シームレスに2人をからかいながら目の前を通り過ぎて行ったホシノにヒマリは肩を竦め、リオは嘆息する。

 

 

「ヒマリ…貴女はまず小鳥遊ホシノをどうにかしなさい」

「んん…」

 

 

 

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