ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ22話までの範囲でお送りします


起首雷同

 

「おい聞いてんのか!?だから開きっぱなしなんだよ!オートロックのドアが!何回も言わすな!先週も言ったよな!?何のために高い管理費払ってると思ってんだ?」

 

ゲヘナにあるとあるマンションで、女性が電話先に怒鳴り声を上げていた。

内容は確かにキレてもしょうがないものなのだが…それが何を要因として起こっているのかを察知出来なかった事が、彼女の不幸だったのだろう。

 

「クソッ!今日中だ、今すぐ点検紙に来い!聞いてんのかって、殺すぞ────」

 

 

言葉を言い切らない内に不良は背後から伸びてきた腕によって物陰に引きずり込まれ、叫び声すら誰かに届くことも無く姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんどうもっす!今回皆さんの補助を務める仲正イチカっすよー」

「よろしくお願いします!」

 

 

 

任務に駆り出されたアリス、ヒナ、カズサは黒髪と黒い翼に糸目が特徴的な監督オペレーター、イチカが操縦する車で目的地に向かう最中、任務の詳細の説明を受けていた。

 

「6月に金田さん柄8月に島田さんが、そして9月に大和さんが。3人とも同じ状況で死んでるそうっすよ。自宅マンションのエントランスで特異体による刺殺。しかも全員死亡の数週間前から同じ苦情を管理会社にチクってるとか。『オートロックの自動ドアが開きっぱなしだ』だそうっす」

 

イチカからの説明に後部座席で配られた資料に目を通す3人は、その節々にある明らかに不自然な点にきな臭さを感じていた。

 

「日付はバラバラなのね…本当に同じ特異体にやられたの?」

「自動ドアの方は特異体のせいなのでしょうか?そもそもセンサーとかに引っかかるんですか?確かカメラには移りませんでしたよね?」

 

「どうやらセンサーじゃなくてドアオペレーターの方が特異体によって馬鹿になったみたいっすね」

「オペレーター、ですか?」

「そうっす。それで、同じ特異体の仕業かどうかっていうのに関しては痕跡だけだと断定出来なかったっす。そんで3人の共通点の方を洗ってみたところ、なんと3人とも同じ中学に3年間在籍していたらしいっすよ」

「ふ〜ん…もしかして…」

「何か分かったのですか?」

 

そこまで聞いて何か思い当たったのか、カズサは顎に手を当てながらアリスからの問に少しドヤ顔で答える。

 

「私が思うに、昔その3人が同じ特異現象に襲われて、時が経ってそれが3人の身に降り掛かってる、とか?」

「そうっすね。今のところそれが濃厚だと思われるっす」

「おお!カズサ凄いです!」

「ふふん、まあね〜」

「貴女も調子に乗らないの」

 

はしゃぐ3人をバックミラー越しに微笑ましく見守りながら、急ごうと車の速度を上げる。

 

「それで今からその中学とか3人の被害者の共通の知人に話を聞きに行くっすよ。君達にも色々と探って欲しいっす」

「はい!今日は聞き込みクエストですね!」

「にしてもゲヘナか…良い感じのスイーツショップとか探してみようかな」

「…」

 

アリスは任務にやる気を出し、カズサはそれ以外にも興味を向ける中、ヒナだけはバツが悪そうに黙りこくり、任務に関する話以外はしなかった。

 

 

それから暫く車を走らせて目的地である被害者3人の知人の自宅に着いた一行だったが…

 

「ここが、その知人の家ですか?」

「その筈っすけど…遅かったっぽいっすね…」

 

その家では葬儀が行われており、慌ただしく関係者が出入りしていた。

仕方なくイチカは各所に連絡を取って状況を聞いて周り、その間アリス達は車の中で待機する。

小一時間程待っていると、イチカが頭を抱えて車に戻ってきた。

 

「いや〜…参ったっす。やっぱり他3人と同じ死に方をしてるっぽいっすね」

「じゃあ例の特異現象の仕業ですか」

「そっすね。ただ実家暮らしの彼女の家はオートロックじゃないんすけど、玄関の前で殺されてたみたいっす。それに以前から1人で帰宅した際『鍵は開いてるのにドアが開かない』と家族の方に言ってたとか。ご両親に伺っても他の3人との関係はよく知らないって。はぁ…唯一の手掛かりが…」

 

 

結局その知人の近辺は完全に手詰まりとなり、次は彼女達が通っていたという中学校に向かうことに。

解決の為の手掛かりが1つ消し飛んだ事に落胆するイチカをアリスが慰めながら目的地に辿り着き、アリス達は敷地内に足を踏み入れた。

 

「アポは取ってあるんである程度は好きに見回っていいっすよ。勿論教員や生徒に迷惑をかけない範囲で」

「分かりました!」

「お、分かりやすい不良がいるじゃん。ぶん殴って更生させない?」

「話聞いてたっすかカズサさん」

「貴女最近どんどんはっちゃけて来てない?」

 

非常階段の下にたむろしていた2人の不良に絡みに行こうとするカズサを止めていた一同だったが、その喧騒が耳に入ったのか何者だと不良達はアリス達の方を睨んで…そして何か恐ろしいものを見てしまったかのように硬直した。

不良達の異変に気が付いたアリスは話を聞きに近付こうとするが…

 

「「お、お疲れ様です!」」

「え…?」

「え、何…私この辺来たの初めてだよね?」

「なんでカズサはちょっと心当たりありそうなんですか?」

「…」

 

アリス達が近付くと不良は揃って綺麗に腰を90°に曲げてお辞儀をした。

勿論初対面のアリス達は困惑する…が、そうではないヒナは汗をタラタラと流して顔を背けその場を離れようとする。

が、不良達の目線がヒナの方を向いて逃げるに逃げられなくなってしまった。

 

「…え?ヒナ…知り合いなんですか?」

「「卒業ぶりです!ヒナさん!」」

「…え〜、ヒナマジで?」

「どういうことですか、ヒナ」

「ここ…通ってた中学校…」

「…えぇ!?」

「ちょっと話聞かせなよ」

「嫌よ!?離して…!」

「昔何があったんですかヒナ!」

 

露骨に食いついたカズサはヒナの両脇に腕を通してガッツリホールドし、アリスも興味津々にヒナに詰め寄る。

収集がつかなくなってきたとため息を吐くイチカは先に校務の人に話を聞きに行ってしまった。

 

「ねえアンタら、こいつに何されたのよ?」

「は、はい?ヒナさんは初等部の時代この中学だけでなくゲヘナ中で暴れる不良やスケバンを根こそぎボコって一時期ゲヘナの治安を大きく改善したんですよ」

「え!?」

「…そうね…ボコったわ」

 

「なんでさっきから素っ気ないのよ!こっち見なって!」

「ヒナ!詳しく聞かせてください!まさか無双ゲーみたいな感じで暴れ回ってたんですか!?」

「本当になんでこういう時だけそんなテンション高いのよ貴女達は!」

 

やいのやいのとアリス達が騒ぎ立てていると、校務員の人を連れて戻ってきたイチカに軽くお説教されて一応事なきを得る。

その後ロボットの校務員の人に例の被害者達について聞くことになったのだが…校務員の人はヒナと面識があるらしく、顔を確認するなり懐かしむように声をかけた。

 

「君は…空崎さんだよね?」

「ども…」

「うっわ覚えられてるじゃん…」

「この人は学校長いんですか?」

「ええ、武田さんは正規の方だった筈よ」

「じゃあ後は任せたっすよ〜」

「それ職務放棄…」

 

校務員の武田さんへの聞き込みをアリス達に任せたイチカはまた忙しなく別の場所へ連絡を取りに行った。

そその後ろ姿をジト目で見送ったヒナだったが、仕方なく自分達だけで聞き込みをする事に。

 

「金田、島田、大和、それに森下か…亡くなったことにも驚きだが、彼女達が卒業してもう10年近くも経つのか。昨日のことのように覚えているよ…空崎さん程ではないが問題児だったね。それで、何が聞きたいんだい?」

「変な噂、黒い噂、後は悪い大人との付き合いに関する話で何かあればお願いします」

「やーい問題児〜」

「ヒナが問題児だったとは驚きですね!」

「…あと罰当たりな話とかも」

 

後ろで野次を入れるカズサとアリスを無視しながら聞き込みを続けた結果、どうやらこの中学校の付近にあるという橋で彼女達がバンジージャンプをして度胸試しをしていたという出来事があったらしい。

件の橋は有名な心霊スポットとして知られ、自殺の名所でもあるのだとか。

当時はその遊びが流行り、その時学校を無断欠席した彼女達4人はその日は家に帰らなかったらしく、翌日その橋の下で倒れているのが見つかったが、本人達は何も覚えていないの一点張りで結局事件は有耶無耶になったそうな。

 

 

一通り聞き込みが終わった後車に戻ったアリス達はイチカと合流し、今後の動きを話し合うことに。

 

「やはり当たりでしょうか?」

「その橋なら私も行ったことがあるわ」

「バンジーしに?」

「ふんっ」

「痛っ!」

 

茶化すカズサを叩いたヒナは自分の端末を操作すると特異現象捜査部に所属する生徒に入部時に送られる案内メールを開いた。

 

「ここにも書いてるでしょ?心霊スポットとかは学校と同じ、人の色々な激情が集まりやすいから特異現象捜査部の生徒が定期的に巡回することになってるの」

「そうだったんですか…」

「でも私が行った時は何も無かったわ。確かに知名度はあるけどそれだけ、本当に普通の橋だった」

「でも、行ってみるしかないんでしょ?」

「その通りっす!さあ気合いを入れて行くっすよ〜!」

 

車の運転席に乗ったイチカに続いてアリス達も後部座席に乗り込もうとした…その時、アリス達を武田さんが追ってきた。

どうやらヒナに用事があるらしい。

 

「えっと、何ですか?」

「悪いね、呼び止めてしまって…気になることがあったんだ。学校にいた時には色々お世話になったんだが────天雨さんは元気かな?」

「…ええ」

「そうか、今度あの子の同級生にも顔を見せるように伝えてあげてくれ。彼女達も最近会えないと寂しそうにしていたんだ」

「分かりました。今日は付き合ってくれてありがとうございます」

 

 

 

 

「それで、今の話に出た天雨って誰?」

「聞いてくると思ったわ」

 

それを聞いて満足した武田さんは学校の方へ戻って行ったが、当然今の話が気になったアリスとカズサはヒナに詰め寄る。

こうなることを察していたのか詰め寄る前から面倒臭そうにしていたヒナは既に死んだ目だ。

 

「私が中等部の時によく懐いてた後輩よ」

「へ〜、舎弟ってこと?」

「いい加減貴女それ擦り続けるようなら私にも考えがあるわよ?」

「ともかく、ヒナはアリス達に自分のことを話さないことが多過ぎます!アリス、もっとヒナの事を知りたいです!」

「そうだそうだ〜!」

「別に良いじゃない…」

 

「あの〜…そろそろ向かいたいんで車に乗っていただけると助かるっす…」

 

終始賑やかに進むアリス達の任務。

イチカに催促され車に乗り込んだ3人の調査は、このあと思いもよらない展開を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるマンションの一室で、ムツキはユメに()()についての相談をしていた。

 

「ほ〜…よりによってこれ持ってきたんだ」

「返してきた方が良いかな〜?」

「まさか、せっかくだからこれも良い感じに利用するよ」

「でも、これって結局なんなの?」

 

テーブルの上に置かれた装置…PCのような、データを保存する装置のように見えるそれ。

ユメはそれの上にポンと手を置くと、ニタリとした笑みを浮かべてその説明を始める。

 

「これはあの伝説のクソゲー…『テイルズ・サガ・クロニクル』、通称『TSC』そのアルファ版のデータだよ」

「壊してよそんなの」

「あっはは、ムツキちゃんもやったことあるんだ〜!でもこれはこれで使い道はあるし、それに壊したくても壊せないんだよね。世に放たれた『TSC』への人々の負の感情の全てがこれに集積されて、これ自体が特級遺物と化してるんだ。ここまで強い神秘を持っちゃうと内部に絡み合う難解な神秘を解いていかない限り基本破壊は不可能だね」

「ふ〜ん…で、これが何に使えるっていうの?」

「それはね…実はこれ、特級遺物に変異した時に元の所有者から連邦生徒会が奪取して強引に封印したんだよね。その元の所有者はずっと返却を求めて色んなところで暴れてるんだけど…」

「それってまさか…?」

「そのまさかだよ。『TSC』の開発者────指定アウトロー集団、『ゲーム開発部』との取引に使うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたっす。ヒノム火山近郊、渓谷にかかる大橋。特異体が確認でき次第結界を降ろすっすよー」

 

例の心霊スポットである橋に到着した一行。

とっくに日も暮れた深夜、イチカは一旦端から離れアリスはコンビニで買ったビニール紐を片手に、ヒナとカズサと共に橋の周辺の調査を開始したのだが…

 

調査を開始してから早30分。

特異体の”と”の字も見つからず、一切の異変を確認できないままイチカを呼び戻し、一旦近くのコンビニに寄っておにぎりで小腹を満たすことに。

 

「痕跡の気配も感じられなかったわ」

「そっすか…となると、外れだったんすかねー…また振り出しっすよ」

「ですが、時間をかけるのはマズくないですか?」

「え、なんで?」

「だって有名な心霊スポットなんですよね…?特異現象に目をつけられてる人がまだいるかもしれません。今のところは死亡率100%ですし…これ以上人を死なせたくはありません!」

「…そうだね」

 

とはいえ現状一切の手掛かりがない以上これ以上調査を続けても解決出来る見込みはなく、悪戯に時間を浪費することになってしまう。

どうしたものかと一同は「う〜ん」と頭を悩ませていたが…イチカは何かを思いついたのか珍しく目を開いた。

 

「ピコーンっす!流行ってたのはバンジージャンプっすよね?飛び降りるって行為が鍵になってたんじゃないっすか?」

「ピコーンって言いました今!?」

「言った言った、めっちゃ可愛い…!」

「いやそんなに萌えられても…」

「それはもうアリスで試したわよ」

「って、試したんすか!?え、もしかして調査の時持ってたあのビニール紐で飛んだんっすか!?」

 

目の届かない所でとんでもなく危険な行為に及んでいたらしいアリス達に顔を青ざめさせ頭を抱えるイチカだったが…そこに、偶々通り掛かった1人の少女がアリス達を…というよりヒナを見て足を止めた。

 

「あっ…ヒナ、委員長…?」

「…あら、チナツじゃない。久しぶりね」

「む!またヒナの知り合いですか!?」

「中学の時に所属してた風紀委員会の後輩よ」

「私が言えた話ではありませんが、こんな時間に何を?」

「ちょっとそこの橋を調べに来たのよ」

「あの橋を…ということは、まさかあの噂は本当に…」

「…チナツ?どうしたのよ?」

 

そこまで話を聞いたチナツという少女の顔からサーッと血の気が引いていき、心配そうにヒナが肩を揺するも明らかに正気には見えない。

何とか数分かけて落ち着かせると、何があったのかを事細かに話し始めた。

 

どうやら件のの4人が亡くなったこと、それにあの橋が関係しているという噂が広がっているらしく、そしてチナツは以前その橋に行ったことがあるようだった。

 

「最近家で何か異常が起きたりはしてないっすか?家族の中で自分だけ感じる違和感とか…」

「…それが、実家がゲヘナの郊外の薬局なんですが、私が帰る時だけ店の自動ドアが開いてるんです。両親には偶然だと言われましたが…絶対にあそこには何かがいるんです!」

「落ち着いて、答えて欲しいっす。その異常が起きたのは、いつっすか?」

「…丁度、1週間前から1日起きで…」

 

(被害者4人は異常発覚から亡くなるまでまで2週間は空いてたわね。その法則通りならまだ少し余裕がある…それまでに鎮めれば…)

 

「それって、当時1人で行ったの?他に同行した人はいなかった?」

「あの、やっぱり何か関係が…!」

「自動ドアとは、っすね。ですが、例の人達が亡くなった事には関係ないっすよ。私の課題のレポートを空崎さん達に手伝って貰ってるんすよね〜。題して『心霊スポットにおける電磁波と電化製品への影響』!ってね。いや〜、ゲロだるいっす」

「…そ、そうだね!」

 

余計な不安を与えない為に間に割って入ったイチカに、カズサも察して合わせる。

それわ聞いたチナツは安堵の息を漏らすが、まだ聞きたいことがある故にイチカは軽い調子でチナツへと詰め寄った。

 

「色んな人に話を聞きたいっすから…一緒に行った人を是非教えて欲しいっすね!」

「あ、はい…」

(…嘘をついたからには、絶対に助けるっすよ)

 

「えっとですね…あの時一緒に行ったのはお世話になっている先輩2人と…そうです、天雨さんとも行きましたよ」

「っ!?」

 

チナツがそれを言った時、ヒナがコヒュッと喉が詰まったような声を上げた。

そこで出た名前はアリスとカズサにも丁度つい最近聞いた覚えがあるもので…

 

(天雨って…!)

(ヒナの…!)

 

「…そう、ありがとう。今度アコにも聞いてみるわ」

「…じゃあ私はチナツさんを家まで送り届けるんで、皆さんはレポートの続きをお願いするっす」

「やっぱり何かあるんですか…?」

「こんな素敵なお嬢さんに夜道を1人で歩かせる訳にはいかないっすからね。お姉さんがエスコートするっすよ〜」

「えぇ…」

 

 

 

 

「ヒナ…」

 

イチカがチナツを送った後、アリスは明らかに無理して平静を装っていたヒナに声をかける。

現に、ヒナは冷や汗を流し表情は動揺の様相を見せており、アリスが声をかけても上手く言葉を返せない。

やっと口を開いたかと思えば、それも「大丈夫…」とどう見ても大丈夫とは思えないものだった。

 

「…ごめんなさい、少し外すわ」

 

ヒナはアリス達に背を向けると、1人どこかへと行ってしまった。

アリスとカズサは顔を見合わせるが、追う気にはなれず呆然とヒナの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『事情は分かりました。天雨さんの護衛ですね。ですが、手が空いている生徒が2級の方しかいません』

「2級…」

 

人目につかない路地に入ったヒナは、S.C.H.A.L.Eで保護されている大切な後輩…天雨アコが今回の特異現象の標的になるかもしれないことをアヤネに伝えていた。

万が一特異現象がアコを襲っても守ってあげられるように、と思っての依頼だったが、聞く限り回せる人手はかなり心もとないらしい。

 

『標的にされた方の数がこちらの想定より遥かに多い場合特異現象の等級を見直す必要もありますね。恐らくアリスさんの成長も見込んだ上で割り振りた任務、そこからさらに危険度が上がるとなると2級の方では手に余るかと。そちらも危険ですので、個人的には撤退をおすすめします』

「そう…とにかく、アコの事は頼んだわ」

 

通話を切ると、ヒナは壁にもたれかかって薄暗い空を見上げる。

時刻は丑三つ時を回り、吹き抜ける冷たい風にヒナは身体を震わせた。

 

(…どうする?私だけでも戻る…?いや、もう3人でも危険な任務。2人だけに任せる訳には…来週にはホシノ先輩も帰ってくるから、その時に改めて…いや、違う。問題はタイムリミット。特異体が襲って来るんじゃなくてマーキングした人の内側から秘儀が発動するタイプなら外で守り続けても意味が無い。今すぐ、鎮めるしかない…!)

 

 

 

 

 

 

「ヒナ!大丈夫でしたか?」

「なんか困ってることあるなら私らにも言いなよ?」

 

「ええ…問題ないわ」

 

戻ってきたヒナに駆け寄るアリスとカズサだったが、ヒナは素っ気なく返すと「それよりも…」と続けた。

 

「今回の任務は危険度がつり上げられたわ。任務は他の生徒が引き継ぐから、貴女達は帰りなさい」

「え?あなた達はって、なんですか?ヒナは?」

「私はあれよ…武田さんに挨拶に行きたいから…要件が済んだら私も直ぐに戻るわ。ほら早く行きなさい」

「ちょっ、待ってよ!」

 

アリスとカズサを半ば強引に車に押し込んだヒナは、直ぐに大橋へと向かいイチカのオペレートの元渓谷の底へ降りる。

イチカがチナツから聞き出した情報…その中に、当時この橋に肝試しに来た時のルートの話もあったらしく、それを頼りにヒナは特異体を探っていた。

 

『おそらく今回の特異体は特定の時間帯に特定のルートを辿らないと自分の元に近付けないような結界を展開してる可能性があるっす』

「だからこそ手順通りに進む、ね」

(秘儀を付与した領域を延々と展開し続けることは不可能。となるとこの特異体が広げているのは古聖堂の時のような未完成の領域。今回は結界を降ろす手間が省けて逆に助かるわね)

 

 

「本当に、ヒナは自分の話をしなさ過ぎです!」

「ほんとほんと、嘘もバレバレだっつーの」

「…え!?なんでここに…!?」

 

1人思考に耽っていたつもりだったヒナだが、そこにいつの間にか追いかけてきていたアリスとカズサが姿を表した。

何故…と思うも、電話の向こうのイチカがケラケラと笑っていた為チクられた事を悟る。

 

「ここに来るまで気付かないって、あんた本当にテンパってたんだね」

「何でも話して欲しいとは言いませんが…それでも!せめて頼ってください!ヒナは、立派なパーティメンバーなんですから!」

「…アコは寝たきりなのよ。ここに潜む特異体は被害に遭う本人の目の前だけに現れる。その本人が異変を自己申告出来ない以上、いつ特異現象が降りかかるかも分からない。だから、今すぐ鎮めたいの。でも、任務の危険度がつり上がったのは本当で───」

「分かりました!では一緒に行きましょう!」

「ったく、初めからそう言いなよ」

「ふふっ、悪かったわね」

 

『いいっすか、皆さん。その先の沢を越えたら目的地に着くと思うっす。川や境界を跨ぐことは神秘的に大きな意味を持つっすからね』

 

イチカの指示に従い渓谷を降り、探索し…そして遂に見つけた例の沢。

その前に立った3人は覚悟を決めて深呼吸を終えると、一斉に沢へと侵入して────結界を越えた感覚と共に、洞窟のような異空間へと放り込まれる。

 

視線の先には不思議な結晶や無数の穴が点在し、その1つから今回の特異現象を巻き起こしていると思われる特異体が顔を出した。

 

「出ましたね!」

「鎮め甲斐がありそうな特異体だね」

「ええ…絶対に許さないわ」

 

アリス達の侵入に気付いた特異体は3人に強烈な殺気を向けるが、今更それに怯むはずも無く、各々が臨戦態勢を取って特異体と向き合った。

直ぐに開戦の火蓋が切られると誰もが思っていた…その時だった。

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?なんでもう人いるの…?」

「「「!」」」

 

アリス達の背後…この空間の縁から姿を現したのは、猫耳と尻尾の飾りを着けた緑の差し色が可愛げのある少女。

少女はアリス達を見るなり困惑したような様子を見せたが…アリス達も特異体も構わずに銃を乱射し、一同はそれを回避する。

 

「な、何するんですか!」

「アリス、気を付けて!そいつ多分強い!」

「ここに来た新手…?生徒じゃないの?」

「ヒナ!あれは別件ですよね!」

「ええ…おそらくアウトローよ!」

 

「分かりました…ヒナとカズサはそちらの特異体に集中してください!アリスは…あの子を制圧します!」

 

「…はぁ、こっちも私達の青春と自由がかかってるんだから…容赦しないよ」

 

 




配役
津美紀…アコ
津美紀の友達のモブ…チナツ
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