爆破によって派手に壁が壊され外の様子がよく見えるホテルの一室。
そこでその部屋の設備を使ってお湯を沸かし、ティーバッグのお茶を入れたユメは保護した件の少女…勘解由小路ユカリと、その付き人らしい雀の使用人がスヤスヤとソファの上で眠っているのを微笑ましく見守ると、優雅にお茶に口を付け…部屋の端で先程から喚き散らしているアウトローを見やる。
「ごめん!マジでごめんて!」
「ん〜?」
ユメが操る複数の顔が連なったような特異体に絡みつかれ、そのおぞましい顔で詰め寄られている指定アウトロー集団『ジャブジャブヘルメット団』の一員であるそのアウトローは情けなく許しを懇願していた。
「この件から手を引くから!アウトローも辞める!田舎に帰って米でもなんでも作るから!」
「…うん?」
「聞こえてるだろ!」
大袈裟に耳に手を当てて聞こえないフリをするユメにアウトローも下手に出るのを忘れてツッコミを入れてしまう。
それが気に障る訳でも無くお茶を飲み干したユメは、端末を取り出して弄り始める。
「アウトローに農家は務まらないよね〜?」
「聞こえてんじゃねーか!クソッ、中坊如きが調子に乗りやがって!だがここにはラブ様も来てるんだ!ジャブジャブヘルメット団の最高戦力だぞ!お前もそいつらも終わ…」
「ねえそのラブってこの人?」
アウトローの話を遮ってユメが端末を見せると…そこにはホシノによって脚に縄をかけられ木の枝に逆さ吊りにされた赤毛の少女姿があった。
少女はスカートを抑えて顔を赤くし、一緒に写っているホシノは良い笑顔でピースしている。
「…この人ですね…」
「そっか〜」
───ジャブジャブヘルメット団、最高戦力河駒風ラブ離脱…その後組織瓦解。
「さあ張った張った!遠慮せんと張ってこい!」
百鬼夜行にある遊戯場、チョボイチで盛り上がる博徒の中に狐面がよく目立つ女性…ワカモの姿があった。
彼女を見かけた折れた片角が特徴的な女性…裏社会ではその道の仕事の斡旋や仲介をすることで名の知れた天地ニヤは、中々の額を張って賭けに興じているワカモの後ろまで行くと、その背中をトンと叩く。
「どこに行ったのかと探しましたよ。何してるんです?」
「あら、何と言われても、銭を増やしているだけですが」
「貴女が勝ってるの見たことありませんけどね。仕事はどうしたんですか」
「煩いですね、人を無職のように言わないでくださいまし」
「いや無職ですよね?仲介役としてクライアントに仕事ぶりを報告しなければいけないので」
「相手はあの小鳥遊ホシノ、のこのこ出ていったところで何も出来はしません。まずはお馬鹿さん達を使って削るのですよ。そちらこそこんな場所に来ていないで仕事をしては如何です?」
「現在進行形でしてますが?手付金全額使って何してるんですか」
「ですから言ったでしょう、削りですと。心配しなくても全額帰ってきますよ。この賭けのように」
参加者が賭ける額と出目を決め、親が賽を振る。
カラン、コロン、と景気の良い音が鳴り現れた賽の出目は…五。
「…どこに賭けました?」
「…ピン」
「貴女に楽して稼ぐのは向いてませんよ。頼みますよ、”生徒殺し”」
「フンッ」
「…あ、そうだ」
大損しこれ以上続けられるだけの持ち金も無いのか乱暴に席を外すワカモ。
呆れて首を回すニヤだったが…思い出したようにそれを呼び止める。
「ヒナさんは元気ですか?」
「ヒナ…って、誰のことでしょうか?」
ジャブジャブヘルメット団を退けたホシノとユメは爆破された部屋で合流し、今回の護衛対象である勘解由小路ユカリの様子を見ていた。
先程ユメが確認した時は異常は見られなかったが、やはり素人目で見るよりは専門家に見せた方が確実な事に変わりは無い。
「私達もセナみたいに”恐怖”が使えれば良かったんですけどね」
「無理だよ〜、セナちゃん何言ってるかさっぱりだもん」
以前やり方を聞いた時、『ひゅーってやってひょいですよ。分かりませんか?センスが無いようですね諦めてください』と辛辣に吐き捨てられたのを思い出しホシノは肩を竦める。
「ん…」
「あ、起きましたよ」
と、そんな話の途中にユメがお姫様抱っこで運んでいたユカリが目を覚ます。
直後ユメと目が合ったユカリはポカンとして───
「不届き者ですの〜!!」
「うへぇ!?」
咄嗟の張り手がユメの頬を叩く。
怯んだ隙にユメの腕の中から脱出すると、ユカリは近くに立てかけてあった本人のものらしきスナイパーライフルを手に取ると、それをユメとホシノへと向けた。
「身共は邪悪なあうとろ〜になど屈しはしませんわ!このえり〜とである勘解由小路ユカリを殺したくばまずは先にそちらが地を舐めることですの!」
───中等部1年 勘解由小路ユカリ
「ユカリさん落ち着いてください、私達はあなたを襲った連中とは違いますよ」
「嘘ですの!嘘つきの顔ですの!なんでずっと目を細めてるんですの!?そっちも何か尖った短刀のような雰囲気が出てますの!」
「ユメ先輩」
「おっけ〜」
「な、なんですの!?いやぁ〜!?」
気にしている所を突かれたユメとホシノは大人気なくそれぞれで分担してユカリの手足を掴み上げると、逆方向にねじって制裁を加える。
身体を捻られ悲鳴を上げるユカリだったが、そこに角の生えた単眼の小型特異体に乗った雀の使用人…ユカリの付き人が現れた。
「お嬢様!?お、お止めください!」
「く、黒井!」
付き人…黒井に仲裁され、渋々2人はユカリを雑に離して床に落とす。
ゴツンと頭を床に打って悶絶するユカリだったが、今度は黒井が乗っている特異体の方に興味が移ったようだった。
「黒井、それは?」
「そちらの細目の方の秘儀ですよ。お嬢様、彼女達は味方です」
「その言い方やめてくれないかな〜…」
細目のことを擦られて傷付くユメだったが、気を取り直して小さな金魚のような特異体を出現させて秘儀の実演をしてみせた。
「『特異操術』…文字通り取り込んだ特異体を操れるんだ」
「にしても、思ってたよりアグレッシブですね…同化の事でおセンチになってるのかと思って気構えてたのが馬鹿みたいですよ」
「失敬ですの!よろしいでしょうか、クズノハ様は身共で身共はクズノハ様ですの!貴女方のように同化と死を混同するものは多いですが、それは大きな間違いですの!同化によって身共はクズノハ様になりますが、クズノハ様もまた身共になるのですの!身共の意思、心、魂は同化後も生き続けて…」
「あ、ホシノちゃん待ち受け何に変えたの?」
「サカバンバスビス」
「聞いてますの!?」
熱心に語る話をスルーして謎の魚の待ち受けの話をし出すユメとホシノにユカリがキレて頭をベシベシと叩く。
非力なそれに頭を上下にするだけでされるがままの2人だったが、鬱陶しくなって意地悪に笑った。
「あの喋り方ですと学校でも浮いてそうですの〜」
「快く送り出せるのですねの」
「真似するにしても雑過ぎますの!?…って、学校!黒井、今何時ですの!」
「まだ昼前ですが、やはり学校は…」
「関係ありませんの!行くと言ったら行きます!」
「え!?」
時間を確認したユカリは身支度を済ませ黒井と部屋の外に出て行ってしまう。
慌ててホシノとユメもそれを追い、途中バスを使って百鬼夜行連合学園自治区までいくと、ユカリは1人校舎に入って行く。
残された黒井含めた3人は、校舎の近くで警戒をすることにした。
待っている間ヒマリに通話を繋いで抗議するホシノだったが…
「やっぱり1度百鬼夜行の支部に行った方が安全じゃないですか?」
『そうしたいのはやまやまですが、クズノハ様から勘解由小路ユカリの指示には極力従うようにとの命令です』
「はあ…ゆとり極まれりですね」
「そう言わないの、ああは言っても同化したらクズノハ様として”黄昏”でキヴォトスの大結界の基になるんでしょ?友達とか家族とか、大切な人とはもう会えなくなるの。だからそれまでは好きにさせよ?それが私達の今回の仕事なんだから」
ヒマリとの通話を切り苛立つホシノをユメが窘めていると、気まずそうに黒井が手を挙げ、ユカリの事について話しだした。
「…ユカリ様に家族はおりません。幼い頃事故で無くし…以来私がお世話してまいりました。ですからせめてご友人とは少しでも…」
「…それじゃ、あなたが家族なんだね!」
「…はい!」
自分で話して気分を暗くしていた黒井だったが、ユメの励ましによりぱあっと表情を明るくさせる。
苛立っていたホシノもその健気な様子を見て小さく笑うと、ユメの側に立って耳打ちをして小声で話しかける。
「ユメ先輩、監視に出してる特異体は?」
「あ〜、シュンさんみたいに視覚まで共有出来たら良かったんだけどね〜。まあそれでも異常があれば直ぐに───」
言いかけたユメは口を閉じるとあっちこっちに視線を巡らせると、校舎の方へ駆け出した。
「ユメ先輩?」
「ホシノちゃん、急いでユカリちゃんのところに行くよ。2体鎮められちゃった」
「…本当に子守りなんて嫌なものですね」
面倒がりながらも、軽くストレッチをしたホシノは気配を鋭いものに変えてユメの後を追う。
「黒井さん、ユカリさんは今どこに!?」
「この時間帯ですと、教室かお寺に!」
「お寺!?っていうかなんで分からないんですか!」
「都合で変わることがあるらしいです!」
「じゃあホシノちゃんはお寺に、黒井さんは教室に、私は正体不明の2人を探しに行くよ!」
「分かりました!はあ、移動の度に連絡するように言ったのに…だから目の届く場所で護衛させてと言ったんですよ…!」
「お嬢様が申し訳ありません…」
校舎に入った3人は今はルールを気にせず、廊下を走ってそれぞれの担当場所を探しに向かうのだった。
その頃、ネットに存在する裏社会のアウトロー御用達の闇サイトでとある記事が立ち上げられていた。
────賞金首 勘解由小路ユカリ
生死問わず、賞金は3000万クレジット
期限 残り47時間40分52秒
百鬼夜行連合学園自治区のどこかにある食堂で、ワカモは置かれていたテレビで放送されている落語の寄せを見つつ、端末を首と肩で挟み通話しながらおいなりさんを食べていた。
「あら、あの方々は支部には行かなかったのですか?運が良いですね、これで賞金に釣られるのがお馬鹿さんからまともなお馬鹿さんになります」
『良いんですか?』
「何がでしょう?」
『賞金は盤星教から貴女に払われる手付金3000万クレジット。巫女が他の者に暗殺されれば手付金はパア、最悪成功報酬も無くなりますよ?貴女に依頼せずとも初めから、となりますから』
通話相手のニヤは闇サイトに載せられた勘解由小路ユカリの暗殺依頼の記事を見ながらワカモに忠告する。
しかし、当のワカモは気にした様子もなく端でおいなりさんを摘んでズラした狐面の下に覗く口元に放り込む。
「はむっ…もきゅ、もきゅ…ん、成功する筈がないでしょう。あちらには小鳥遊ホシノがいるのですよ?」
『今の貴女の声ですか?随分可愛い気のある咀嚼音ですね』
「煩い。ともかく、あの『ウジャトの目』を持つというだけでその実力は他と一線を画すというのに、キヴォトス最高に位置付けられる程の神秘を持っているのですよ?あの者が近くにいる限り、巫女はまず殺せません」
『貴女も、ですか?』
「さあ…どうでしょう?」
ニヤからの質問を濁したワカモは残りのおいなりさんを全て食べ…狐面を戻して席を立った。
「取り敢えずお馬鹿さん達には賞金のかかる残り47時間、小鳥遊ホシノの周りの生徒と本人の神経を削っていただきます…あら」
「あぁ!?なんだお前!」
店を後にしようとしたワカモだったが、途中店に寄っていたスケバンとぶつかり、彼女が持っていたラーメンが落ちる。
その事にキレたスケバンはワカモにガンをつけるが…
「なんか言ったらどうなん───」
「…」
「───ひっ…」
狐面の奥から感じる無言の圧力に小さく悲鳴を漏らし、スケバンはその場にへたりこんだ。
少しの間彼女を見下ろし続けたワカモだったが、落ちたラーメンの残骸を跨いで店を出るとニヤとの通話に戻る。
『どうかしましたか?』
「なんでも。当然巫女は殺せませんから連中はタダ働きですよ」
『まあ時間制限を設けたのが幸いしましたね。アウトローの集まりがスムーズのようで』
「それだけじゃありませんが」
『ん?』
「いえ、こちらの話です。ぼちぼちわたくしも向かいますので、3000万はしっかり戻しておいてください」
『匿名掲示板じゃないんですよ?、掲載料や手数料が…』
「あら電波が悪いですわ〜」
『ちょ───』
都合の悪い話になりそうだとワカモは通話をブツ切りすると、人混みの多い歓楽街へと姿を消した。
監視用にばらまいていた特異体を鎮めた犯人を探し校舎の廊下を駆け回るユメは、その犯人の正体について腑に落ちない事があり頭を悩ませていた。
(ジャブジャブヘルメット団の残党…もしくは盤星教の差し金かな?だとしたらかなり面倒な事になるなぁ〜…)
「…っと」
「おや、その格好は」
廊下を曲がった先にいた人物…赤い肌に白いドレスを纏った豊満な女を見てユメは脚を止める。
女は札のようなものを2枚燃やすと、トカゲのような2体の式神を生み出した。
(特異現象捜査部の制服を見て多対一を想定…自分の前後を式神で挟むと。手慣れてるね)
それなりに経験を積んでいる相手だと悟ったユメは足元から赤い髪のようなものを生やした小さな特異体を2体出現させながら慎重に距離を詰めていく。
そのユメの秘儀を見て、相手の女も同様に思考を巡らせる。
(媒介も無しに…神秘も本人のものとは異なっている。もしやとは思いますが…)
「『特異操術』ですね?」
「お、せいかーい!流石大人、物知りだね〜!」
「大人だからと楽なものではありませんよ?金が必要になるのはいつの時代も同様ですから」
(秘儀の格はあちらが上…ですが本人の思考は式神使いのそれ。おまけに若い。貴女の思考など手に取るように分かりますよ)
特異体を前に出して少し後退るユメの足元に注目し、女は内心ほくそ笑む。
式神であろうと特異体であろうと、前衛を用意するような秘儀を用いる者は近接戦闘が不得手になりがち。
そして同時に式神を使う女が近付いてくるとは考えないだろうと分析する。
そんな女の思考の最中、
「…何か考えてるみたいだけど、意味ないよ?」
「っ!」
ユメは背後から巨大な芋虫のような特異体を出現させ、一気に女へ喰らいつかせる。
初手に小さな2体の特異体をユメが呼び出していた事で手札を見誤った女は流石に面食らい…廊下を巨大な芋虫の特異体の身体が埋めつくしてしまう。
それを見届けたユメは振り返ってもう1人の襲撃者を探そうとして───外を経由して窓を突き破り再び建物の中に戻ってきた女がナイフを手にユメへと襲いかかった。
(殺った!)
女が持つナイフがユメの首元に迫り───女は過去に共に過した犬の姿を…走馬灯を原始する。
「太助…はっ!?」
「はい残念」
ユメは女のナイフを持つ手を手刀で叩きナイフを取り落とさせ、続いて裏拳で女の顔を殴り飛ばしてノックアウトさせる。
軽快に吹っ飛んだ女は壁に背を打ってずり落ち、恨みがましくユメを睨んだ。
「誘い、ましたね…!」
「まあね〜。貴女近付きたくてウズウズしてたでしょ?勝ち方が決まってる人は勝ち筋を作るとすーぐ乗ってくるんだから…それより聞きたいんだけど、貴女はヘルメット団の人?それとも盤星教関係?」
黒井と別れたホシノは敷地内にある小さな山の階段を駆け上り、その先にあったお寺の引き戸を開けると…ユカリを含めた和装の生徒達が座禅を組んでいる途中だった。
「ユカリさん!」
「なっ…!?どう、して…!」
突然入ってきたホシノにユカリは困惑する…が、その他の生徒達にはホシノの容姿が受けたのか、一斉に取り囲んで尋問を始めた。
「キャ〜!可愛い〜!」
「ちっちゃ〜い!何この子ユカリちゃんの妹さんか何か?」
「ねえ抱っこさせて〜!」
「いやっ、ちょっ…ユカリさんに用事があるんで通して貰えると…」
「皆さん静粛に!はしたないですよ!」
騒ぐ生徒達を監督官らしき少女が諌め、ホシノに群がる彼女達を離させるとユカリを連れてホシノの前に立った。
「ユカリさんの身内の方ですか?勝手に入られては困りますよ」
「緊急だったので…申し訳ありません」
「まあそれほどに急いでるのでしたら…あ、ちょっと撫でさせて貰っていいですか?」
「うへっ!?」
「何言ってるんですの!?」
「先輩それはないでしょ!」
「抜け駆け〜!」
「うるさい!こんな小さくて可愛い子撫でたくなるに決まってるでしょ!」
「賑やかな学校ですねもう!行きますよ!」
「ちょっ、ちょっと!?」
居心地悪く感じたホシノはユカリの手を引いて寺の外に連れ出して走らせる。
事態が飲み込めていないユカリは当然困惑するが、アウトローが襲来した旨を告げると緊張に表情を硬くした。
そんなユカリの様子を見てホシノはため息を吐くと、体格差をものともせずユカリを肩に担ぎ上げると近くの建物の屋根に飛び乗り、地上に降りることなく建物の上を飛び跳ねながら進んだ。
「わわっ、浮いてますの!?」
「舌噛まないようにしてくださいね。このまま百鬼夜行にある特異現象捜査部の支部に向かいます。友達が巻き込まれるのは嫌ですよね?」
「そ、それは…」
そうしてユカリを送り届けようとするホシノの姿を、頭に紙袋を被ったアウトローが望遠鏡で眺めていた。
「ヒヒッ、あれが3000万か。一緒にいるのは同業者か…もしくはボディーガードか。美味しいなぁ、たかがガキ殺すだけで3000万。今夜は鰻でも食うか」
「───盤星教の方ですか?ヘルメット団の方はもっと変な格好をしていると聞きます」
「…素人か?殺るなら黙って殺りゃいいものを」
そのアウトローを見つけた黒井はモップを持って駆け出し…振り下ろしたモップの柄は容易く受け止められる。
アウトローはニヤリと笑い柄を掴んで固定して
逃げられなくさせようとするが…黒井は巧みな操作でモップをぐるんと回すと、受け止められている方とは反対側の方をアウトローの股下から恥骨へかち上げて強烈な打撃を与えた。
「きょっ…!」
「お嬢様から何も奪わないでください!殺しますよ!」
痛みに悶絶するアウトロー、そこへ更に駆けつけたユメが放った腕が絡み合う特異体がのしかかって押さえ付ける。
「なんだ、黒井さんも強いんだね〜。ユカリちゃんは?」
「先程ホシノ様と共に学校を出ました」
「じゃあ私達も行こっか。どうやらちょっと面倒なことになってるみたいだし…うん?」
「ヒヒッ…やっぱりさっきのが3000万だな…?」
特異体に押さえ付けられていたアウトロー…その身体が突如として崩れ、泥のようなものだけが残った。
「これは…式神ですか!?」
「いや、式神とはちょっと違うね。え〜と、もしもしホシノちゃん?」
ホシノへ通話を繋いだユメは、先程のアウトローから聞いた話…つまり、ユカリに3000万の懸賞金がかけられているという情報を話す。
その頃ユカリを担いでいたホシノは、複数の紙袋を被ったアウトローと会敵していた。
『アウトロー御用達の闇サイトで期限付き、明後日の午前11時までだってさ』
「なるほど…」
「ホ、ホシノさん…!同じ背格好の変な人が2、3、4人もいます!式神ですの!?」
「やれやれですよ。特異現象捜査部は年中人不足だっていうのに。転校するならウチをオススメしますよ」
「ヒヒッ、私みたいな既に手を染めた落ちこぼれ早々連中が受け入れてくれる訳ねぇだろ。そのガキ渡してくれりゃそれでいい」
「あ、5人目!また増えましたの!?」
「…ユカリさん、ここを動かないで、じっとしててくださいね」
泥のようなものが集まって遂には5人まで増えたアウトロー。
観察して今ホシノは軽く屈伸をしてユカリに念押し、アウトローが懐から取り出した銃を向けてきた瞬間───目にも止まらぬ速さでその全ての背後を移動して周り、ユカリの方へと殴り飛ばした。
「な、何故こちらに…!?」
ほぼ同時に吹っ飛んでくるアウトロー達にユカリは身体を丸くして受けようとするが、衝突する直前に戻ってきたホシノはユカリの制服の袖を引いて少し移動させると、結果的に5人のアウトローは一塊になって空中で衝突する。
一斉に地面に落ちるが、直ぐに起き上がったアウトローが咄嗟にユカリを狙って銃を撃ち…間に割り込んだホシノに当たって弾丸が弾かれた。
「はぁ!?なんで効かないんだ!?」
「不変、言わば圧倒的な垂直抗力みたいなものですよ」
「何を…!」
「勉強は大事だという話、です!」
次々と起き上がってくる紙袋を被ったアウトローを薙ぎ倒し、既にホシノはあのアウトローの秘儀を看破していた。
「最大5体まで分身できる秘儀、どれが本体かは自由に選択できるといったところですか?危うくなったら安全な身体に本体を移せると…良い秘儀を持ってるというのに、使い手がこうも弱いと宝の持ち腐れですね」
「クッソォ!ふざけるなぁぁ!!」
「ついでに分身を破壊されると暫く増やせないようですね」
自棄になったアウトローは分身と揃ってホシノを撃ちまくるが、その全てが一切の効果が無く何事もないかのようにホシノは前進し、手近の分身を粉砕する。
どんな抵抗をしてもアウトローはユカリを狙えず、ホシノには傷1つさえ付かない。
「ありえない、ありえない、ありえない…!」
「私の秘儀は極めて強力な再生の力、如何なる力で押されようと同時に肉体の変形を戻して結果変化しないのと同じになり、どれだけ強力な力で傷付けられようと、瞬時に元通りに修復して傷付いていないのと同じになる。擬似的な不変を実現させることができるんですよ。ですが、この秘儀を全身に適応させると生きるのに必要な機関まで阻害しかねないので、その辺りの調整にかなり気を割かれるのが難点ですかね。要はめっちゃ疲れるんです」
アウトロー相手に秘儀を詳しく開示するホシノ。
それが持つ意味を知っているからこそ、アウトローももう敵いそうにないと振り返って逃亡しようとするが…今ホシノが話したのは、秘儀を『順転』させた場合の話だった。
再びユカリを担ぎ上げたホシノは…一瞬でアウトローの進路の先に回り込み、ショットガンを向ける。
「じゃあ問題。この秘儀に恐怖を適応させて反転するとどうなるのか…再生を反転させることで生じるのは、即ち破壊の力。純粋な破壊力という暴威────反転『宵』」
「クソッ…!」
ホシノのショットガンに強烈な神秘が収束し─────身構えていたアウトローは一切の衝撃が来ないことに疑問を覚え、閉じていた目を開ける。
「…ん?」
「…失敗!」
「ぐはぁ!?」
秘儀の反転に失敗したホシノは銃身でアウトローの頭を殴りつけて気絶させた。
「う〜ん、できると思ったんですけどね〜」
(何がしたかったんですの、この人…ん?)
最後がグダグダになったホシノに呆れた視線を向けるユカリだったが、端末の着信音に気付き確認すると身を見開いて硬直する。
「うん?ユカリさんどうしたんですか?」
「く、黒井が…どうしましょう…黒井が…!」
ユカリが見せた端末には、何者かに拐われ縛り上げられた黒井の姿があった。
配役
黒井…ユカリの使用人
仲介人…ニヤ
襲撃者その1…ベアトリーチェの扱いはこんなんでいい
襲撃者その2…モブ。ファウストじゃありません