ユカリの端末に拐われた彼女の付き人…黒井の写真が届いた後、ホシノとユカリは1度ユメと合流して今後の動きを相談していた。
「ごめんなさい、万が一に備えて先行してユカリちゃんを保護しようと黒井さんを置いて来ちゃった私のミスだよ」
「いえ、ユメ先輩の判断が間違っていたなんて思いませんよ。誤っていたとすれば敵側の黒井さんの価値についての認識です」
「この後は黒井さんを人質にユカリちゃんと交換しろとか、ユカリさんを殺さなければ黒井さんを殺すとか要求してくるよね?」
「でしょうね。ですが交渉の主導権はユカリさんがいるこちらにあります。取り引きの場さえ設けられれば私達でどうにでもなるでしょうし、ユカリさんは1度支部に預けて適当に影武者を用意しましょう」
「ま、待ってください!」
方針を決め、まずはユカリを百鬼夜行にある特異現象捜査部の支部に連れて行こうとした2人だったが、話を聞いていたユカリが待ったをかけた。
「取引には身共も、行きます!まだ貴女達の事は信用していませんの!」
「はい?まだあなたはそんなことを言って…」
「助けられたとしても!身共がクズノハ様と同化するまでに黒井が帰って来なかったら…まだ…お別れも言えてませんのに…!」
「…」
「ホシノちゃん」
ユカリの必死の嘆願に、ホシノは先程黒井と話したユカリの家族についてのことを思い出す。
言わばユカリにとっては黒井は家族のようなもので、本当に大切な人なのだろう。
ユメもお願いするように声を掛けると、ホシノは嘆息して頭を搔いた。
「…そのうち誘拐犯から連絡が来ます。もし向こうの頭が予想を上回ってユカリさんを連れていった方が黒井さんの生存率が下がるようであれば、やはりあなたは置いていきますよ」
「分かりました、それでも構いませんわ!」
「逆に言えば途中で帰りたいと言い出しても無視しますからね。覚悟してください」
「も〜、そんなこと言ってホシノちゃんならしっかり守ってあげる癖に〜」
「うるさいですよユメ先輩…」
緊張を緩めるためか茶化してくるユメに顔を赤くしつつ、3人は黒井救出の為に誘拐犯からの連絡を待ったのだった。
────護衛、2日目
「海ですわ〜!」
「海だ〜!」
キヴォトスの中心地から離れた位置にある、四方を海に囲まれた巨大観光地、『ロスト・パラダイス・リゾート』
そこで黒井を救出したホシノ達は水着に着替え、ビーチを楽しんでいた。
「まさか盤星教信者…一般人に捕まるとは、情けないです…」
「不意打ちなら仕方ありませんよ、私達の責任です」
黒井さんはラッシュガードに袴っぽい格好で、ホシノはフリルをあしらった白い水着に大きなクジラの浮き輪を担いで浅瀬ではしゃぐユメとユカリを見守りながら、誘拐当時の事を思い返す。
「不意打ち…だったんでしょうか?イマイチ襲われた時の記憶があやふやなのですが…あ、それよりもヘリで来たんですか?襲撃などはありませんでしたか?」
「離着陸の際は私が入念に周囲を確認しましたし、飛行中もユメ先輩がヘリの外を特異体に張らせていたので。下手に船を使うよりずっと安全でしたよ。空から見る海の景色も良かったですし」
「た、楽しめたのなら何よりで…?」
「それより私はここを指定してきたことが気になりますね。」
「それは、時間稼ぎではないでしょうか?ユカリ様を殺められなくても同化には間に合わないように…」
「それなら交通インフラの整っていない地方を選ぶと思いますけど…どちらにせよこちらはS.C.H.A.L.Eにヘリを手配して貰えるので関係ないですが」
話ながらホシノは事前に作ってきた『旅のしおり』…という名のこれからの予定表に目を落とす。
今朝9時にロスト・パラダイス・リゾートに到着した一同は11時には黒井を救出し、12時で誘拐犯である盤星教信者への尋問を終えていた。
現在13時、こうして海水浴を楽しんで息抜きをしているが、明日の11時にユカリへとかけられている懸賞金の期限が切れ、その後にユカリとクズノハの同化が行われる予定になっている。
「もしやそれを見越して発着場を占拠するつもりでは…」
「そうなっても良いように今回は応援を呼んでいますので、ヘリと発着場の防衛は彼女達に任せてます」
ロスト・パラダイス・リゾートにあるヘリや航空機の発着場で、2人の少女が警戒を行っていた。
「はぁ…どう考えても中等部に任せるような仕事じゃないわよね?高等部の先輩方は何してるのよ」
───特異現象捜査部、中等部1年 早瀬ユウカ
「そう言わず頑張りましょう、ユウカちゃん。ホシノ先輩達に良いところを見せれる機会ですしね」
───特異現象捜査部、中等部1年 生塩ノア
ホシノとユメ、セナの後輩である2人は今回応援として呼ばれていたのだ。
「それに私達と歳も変わらないような子の為に先輩達が身を粉にして頑張っているんですし、私達も期待に応えましょう」
「台風でも来たら頑張り損なのにね…」
そんな2人にヘリの方の警戒を任せ、歳の割に発育が良いユメとユカリは水着でスタイルの良さを存分に発揮していて、豊かなものが揺れる度にホシノが視線をチラチラとやっている。
ユメはそれに気付いて遠目に反応を楽しみつつ、ユカリと水を掛け合ったりナマコを捕まえて遊んでいた。
「見てユカリちゃん、ナマコだよ!」
「わあ!初めて見ましたの!あっ!なんか吐き出しましたの!気持ち悪いですわ!」
「…しかし良いんでしょうか、観光なんて」
「ユメ先輩が言い出したことですし…いやユメ先輩わざと揺らすのやめて…ゴホンッ、あの人なりにユカリさんのことを考えているのでしょう。ですがそろそろ…」
楽しそうに遊ぶ2人を見守っていたホシノは時間を確認すると、クジラの浮き輪を頭の上に担いでユメとユカリの元へ向かう。
「ユメ先輩!もう時間ですよ!」
「え〜…?もうそんな時間か〜…」
「…そう…ですの…」
「…」
帰還を告げられしゅんとするユカリ。
その様子を見たユメは少し考えると首を振った。
「…いえ、ユメ先輩。やはり戻るのは明日にしましょう」
「…!」
ユメが観光を延長する旨を告げると今度はぱあっと表情を明るくするユカリ。
それを微笑ましく見るユメの手を引き、ホシノはユカリに少し待つように言うとユメを岩陰に連れ込んだ。
「良いの?ホシノちゃん」
「まあはい…天気も安定してますし、幾らでも人の出入りがある向こうよりは閉鎖的なここの方がアウトローの数も少ないでしょう。それに飛行中にユカリさんにかけられた賞金の期限が切れた方が都合が良い」
「…ホシノちゃん、昨日から秘儀を解いてないよね?睡眠も…今夜も寝るつもりないでしょ?本当に支部に戻らなくて大丈夫?」
「…寝ずの番には慣れてます。ユメ先輩と桃鉄99年やった時の方がしんどかったですよ…それに、ユメ先輩もいますし」
「…ふふっ、もうホシノちゃんったら」
ロスト・パラダイス・リゾートでの滞在延長を決め、2人はユカリと黒井と共に島内のレジャー施設や観光名所を巡る計画を立てることになり…その頃滞在延長につき発着場の警護も延長して欲しいと連絡されキレるユウカをノアが諌めていたのはまた別のお話。
その後、ユカリはユメと共に海の家の名物料理を食べたり、ホシノとカヌー体験をしたり、黒井と共に島内にある大規模花畑を散歩したり…クジラを展覧している大きな水族館を見て回ったり。
クズノハとの同化までに残された最後の時間をめいいっぱいに楽しんだ。
そうして過ごした時間は確かにユカリにとって忘れられない思い出となり────
────護衛 3日目、15:00。
百鬼夜行連合学園自治区に存在する大雪原。
その最果てにある”黄昏”に続く鳥居を通過して複数の社やオブジェ、奇妙な建造物のある空間へと入った。
「はぁ…はぁ…寒いですの…」
「お疲れ様、もうクズノハ様の結界に入ったから安全だよ〜」
降雪はなく空は明るいが、それでも膝下まで雪が積もり気温の低い空間に吐いた息が白く染まる。
セーラー服の上から羽織りを纏っているユカリだったが、それでも防寒しきれず移動の疲労もあって息が上がっていた。
共に来た黒井も同様…だがホシノとユメは普段の活動で体力が付いているのもあり、軽く上着を羽織っているだけでまだ余裕が見て取れる。
「ともかく、これでもう安心ですの!」
「ですね…あ、ユカリ様。お寒いようでしたら私の上着をどうぞ」
「ホシノちゃんも本当にお疲れ〜」
「…はぁ、もう二度とお守りなんてごめんですよ」
最後に周囲を確認し、異常が無いことを確認したホシノはふう、と白い息を吐いて3日間発動しっぱなしだった秘儀を解除して────
「────は?」
背後から、ホシノの胸を刃が貫いた。
完全に油断…いや、奇襲を受けるはずが無いと安心しきっていたユメはその事実に驚愕し、下手人を睨む。
(ありえない…ここはクズノハ様の結界の中なのに…!)
胸を貫かれているホシノも背後を振り返り襲撃者…狐面で顔を隠した和装の女を視認すると、微かに声を震えさせながらも堂々と質問をした。
「えっと…あなた、どこかであったことあります?」
「気にしなくても構いませんよ、わたくしも殿方以外の顔を覚えるのは苦手ですので」
いつかの記憶。
ワカモはキヴォトスに生まれ落ちたと騒がれた、最高の神秘を持つという少女を面白半分で見物に行ったことがあった。
ほんの興味本位、どのような面をしているのか、その資質は如何程か…親に連れられ雪道を歩くホシノを和傘片手に後ろから眺めていたワカモだったが…
『…』
『!』
後にも先にも、背後に立つ自分を気取った者はホシノだけだった。
今でも、自分を見つめるあの赤と青の目をワカモは忘れてはいない。
その直感と勘の鋭さの前では、どんな奇襲も通じることは無いだろう。
だからこそ、ワカモは削った。
幾人ものアウトローをけしかけ、常に秘儀に神経を割くことを強要し、寝る事も惜しませて…ホシノが持ちうるあらゆる感覚を鈍らせた。
そして今、完璧に奇襲がハマり凶刃がホシノを貫いたのだ。
ホシノはワカモに反撃しようと持っていたショットガンを後方に向け…それと同時にユメが巨大な芋虫のような特異体を出し、ホシノのショットガンによって吹っ飛んだワカモをユメの特異体が飲み込む。
「ホシノちゃん!」
「大丈夫です!秘儀は間に合いませんでしたが、内臓は避けましたし神秘で身体を強化してどこにも引かせませんでした。それにこの傷も私の秘儀で直ぐに治ります!」
ユメの心配を払い除け、悶え苦しみだす芋虫の特異体をじっと見て警戒し続けるホシノ。
ユメも共に戦おうと盾に変形する鞄に手をかけるが、それをホシノが制した。
「ユメ先輩はユカリさんを優先してください!あいつの相手は私がします!ユメ先輩達はクズノハ様の所へ行ってください!」
「でも…いや、油断しないでね!」
「誰に言ってるんですか」
一瞬悩んだユメだったが、ホシノを信じてユカリと黒井を連れ黄昏の奥地へと進んでいく。
その背中を笑って見送ったホシノは悶える特異体へと視線を戻し…特異体の腹をかっ捌いて、大剣を担ぎ蛇のように長い身体を持つ人面の特異体を身体に巻き付けたワカモが姿を現した。
(さっき私を刺したものと違う…あの特異体もどこから沸いた?得体がしれない…面倒ですね)
「あら、巫女がいませんね。出来れば貴女は先程ので仕留めたかったのですが…流石と言うべきでしょうか?それともわたくしがなまったのでしょうか」
「ユカリさんの懸賞金は取り下げられましたよ間抜け」
「わたくしが取り下げたのですよ痩せ我慢さん。貴女のような隙が無い者には緩急を付けて偽の目標を作ってさしあげるのですよ。盤星教の方々がロスト・パラダイス・リゾートに行った時は笑いましたが。周りの生徒が1人も死ななかったのは最悪ですね。ともあれ、懸賞金の時間制限が無ければ貴女は秘儀を解かなかったでしょうに」
「そうですか、ご丁寧に答え合わせありがとうございます!」
ワカモの話が終わると、その間に銃に溜めていた神秘の籠った弾丸をぶっ放してワカモを狙う。
ホシノの膨大な神秘により圧倒的な破壊力にまで威力を高められた弾丸は…空を切ってその先にある建物を破壊する。
気付けば、ワカモは離れた場所にある別の建物の屋根にまで移動していた。
(速い…だけではないですね。何かおかしいとは思ってましたが…こいつ、神秘が全く無い。天与宣誓のフィジカルギフテッド!)
ワカモは大剣を身体に巻き付けている特異体の口の中に捩じ込むと、代わりに一部が欠けた元々が三又だったかのような短剣に持ち替えていた。
「…」
「…」
緊張が高まり、無言の静寂が続く。
一陣の風が吹いて───先にワカモが動いた。
足場にしていた屋根を踏み砕く程の力で踏み込むと、雷神の如き速度でホシノの周囲を駆け回り、付近の建物やオブジェを立体的に利用して変幻自在の高速機動を見せる。
速度でホシノを翻弄して死角に回り込んで刃を振るおうとし…動きを呼んだホシノはワカモの移動先にショットガンの狙いを置き、ワカモが射線に入った瞬間に引き金を引いて再度吹っ飛ばす。
吹き飛んだ先で積もっていた粉雪が派手に舞い上がり、一時的に視界が不明瞭になる。
少し間を置いて舞い上がる雪の中から飛び出してきたワカモは同じようにホシノの周囲を駆け回り始めた。
(私の秘儀を知っているあいつが無策で挑んできているとは思えない)
確かにホシノはワカモから奇襲を受け胸を貫かれたが、それは油断で秘儀を解いてしまったからの話。
最早油断も侮りも捨てた今のホシノが秘儀を解除することは決してなく、『ウジャトの目』が機能し続ける限り擬似的な不変が働き、決してホシノを傷付けることは叶わなくなる。
それを理解した上で未だ挑んできているということは即ち…
「その遺物が虎の子ってわけですか!残念ですがもう寄らせませんよ!」
(神秘が無いから気配も読めない…勘だよりになる、ということはないですが。あいつが巻き付けている特異体の神秘を追えば…それにしても───速過ぎる!)
移動する度に風圧が抜け、風切り音が鳴って地面の雪が舞い上がってより視界を悪くする。
このまま相手取るのは面倒だと判断したホシノはショットガンにありったけの神秘を篭めると、周囲に向けて滅茶苦茶に撃ちまくった。
その圧倒的な破壊力により辺りの雪は根こそぎ吹き飛び、周囲にあった建物やオブジェも残さず消し飛んで更地になる。
見晴らしの良くなった一帯の中心で攻撃の範囲外にあった森の中に逃げ込んだのかと警戒するホシノだったが…その時、森の奥から夥しい量の小型の特異体がホシノ目掛けて飛来した。
(4級以下の極めて弱い特異体の群れ…あいつが巻き付けてた特異体の中にでも飼ってた?あれらの神秘がチャフみたいになって本人を追えない…死角にもなってしまいますし、もう一度全部消し飛ばして───いや…)
再びショットガンに神秘を篭めようとしたホシノだったが、ある考えが脳を過ぎりそれを止める。
今、ホシノはワカモを完全に見失ってしまっており、その位置を把握出来ていない。
そして、ワカモがここに襲撃に来た本来の目的から考えるに、その狙いは…
「…ユカリさん!」
特異体の群れに紛れてユカリ達を追われたのかと、焦って3人が向かった方へ行こうとしたホシノ。
だが…それすらもフェイクで、ワカモはホシノの背後に迫っていた。
それに気が付いたホシノは振り向いて咄嗟に反撃しようとするも、ワカモが刃を振るう方が早い。
(手ぶらのわたくしでさえ気取る勘の良さ。この遺物から滲み出る異質な神秘を、貴女が見落とす筈がありません。ですが…ようやく秘儀頼りの防御に回りましたね?)
「!」
振るわれた凶刃…特級遺物『天逆鉾』
その特性は、『あらゆる秘儀の強制解除』
「がっ…!」
「フン…」
故に、ホシノが秘儀で実現している不変が破られ…天逆鉾がホシノの喉元を貫いた。
しかしそれでもホシノはまだ身体を動かして神秘が篭もり切らないショットガンを撃つも、軽々と避けられてワカモが新たに取り出した短刀によって胸を切り裂かれる。
さらに容赦なく追撃は続き、脚を、肩を、そして額を短刀で貫いて────地に倒れ伏したホシノを、ワカモは見下ろす。
「ふぅ…少し勘が戻りましたでしょうか」
放った特異体に群がられるホシノを背に…ワカモはユカリ達を追って黄昏の奥へと進んだ。
ユメの先導によって黄昏の奥地にある一際巨大な建造物に入ったユカリ達だったが、その途中で黒井が足を止める。
「黒井…?」
「申し訳ありません、私はここまででございます。ユカリ様…どうか、どうか…」
「…!」
この先に着いていくことが出来ない…或いはその瞬間を見たくないと立ち止まる黒井に、ユカリは涙を流して抱き着いた。
「黒井…大好きです。これからも、ずっと…!」
「…私も…私も大好きです…!」
「…」
泣きじゃくる2人を、ユメは2人の気が済むまで待った。
その後覚悟を決めたユカリを連れ建造物の最深部に辿り着くと、そこには円状に幾つもの建物に囲まれた巨大な柱のようなものが聳え立っていた。
柱には巨大な荒縄が巻かれており、一目見るだけでも神聖で神秘的な雰囲気を醸し出している。
「ここが…」
「うん、クズノハ様のお膝元…キヴォトス主要結界の基底、”黄昏宮本殿”。そこの階段を降りたら、奥にある門をくぐってあの柱の根元にまで行くんだよ。そこはS.C.H.A.L.Eや支部を覆ってる結界とは別の結界の内側、招かれた人しか入れない。同化までクズノハ様が守ってくれる」
「…」
ユメから説明を受け、俯くユカリ。
それでも自らの役目を果たそうと階段を降りようとして…ユカリの手をユメが引いて止めた。
「それか、今から引き返して黒井さんと一緒に帰るか」
「…え?」
「監督官の人から今回の任務を聞かされた時、あの人は同化を抹消って言ってたんだよね。あれはそれだけ罪の意識を持てってことだと思うんだ。あの人は本当に回りくどい言い方が好きなんだから困っちゃうよね〜」
「何、を…」
「実は君と会う前に、ホシノちゃんとは話し合いを済ませてたんだ」
「!」
『巫女が同化を拒んだ時?その時は…まあ同化は無しでしょうね』
『ふふっ、本当に良いの?クズノハ様と戦うことになっちゃうかもしれないよ?』
『なんですかユメ先輩、ビビってるんですか?私達ならなんとかなりますよ』
「私達は最強なんだ。ユカリちゃんがどんな選択をしても、私達はユカリちゃんの未来を保証するよ」
「…」
ユメからの提案を受けて黙りこくったユカリは、ポツポツとその胸の内を明かし始めた。
「身共は、生まれた時から特別で皆とは違うと言われ続けてきました。身共にとっては特別が普通で、危ないことはなるべく避けてこの日の為に生きて…お母様とお父様が亡くなった時の事は覚えていません。もう、悲しくも寂しくもない。だから、同化で皆と離れ離れになっても大丈夫、そう思っていました。どんなに辛くとも、いつか寂しくも悲しくもなくなると…」
段々と、その声が震える。
話にすすり泣きが混じり、そして俯いていた顔を上げたユカリの目には、大粒の涙が滴っていた。
「ですが…それでも、もっと皆といたいです!もっと皆と色んな所へ行って、色んなものを見て、もっと…!」
「帰ろっか、ユカリちゃん」
「…はい!」
ユメが差し伸べた手に、ユカリは涙を拭ってその手を取ろうとして──────
──────サクッ
「…ぇ?」
どこからともなく飛んできた凶刃…天逆鉾が、ユカリの頭部に突き刺さる。
それは確かに彼女の脳を貫いて即死させ、ユカリは崩れ落ちるように倒れた。
何が起きたのか、一体どこからあの刃が飛んできたのか…様々な思考が濁流となってユメの頭の中を荒れ狂い、1周回って何も考えられなくなりただ呆然とユカリだったものを見つめる。
「ユカリ…ちゃん…?」
そこに、軽い調子の声が響いた。
「はい、ご苦労様。もう帰ってよろしいですよ」
「…なんで…あなたがここにいるの…?」
「はい?」
少し離れた場所の壁によりかかっていたワカモは背を向けてその場を去ろうとするが、ユメが呼び止めたことで足を止める。
振り向いたワカモは首を傾げたが、合点が行ったようにポンと手を叩いた。
「なんでとはそういう意味でしたか────
────小鳥遊ホシノはわたくしが殺しました」
「そう…死んで」
生涯これ以上に無いほどに静かに怒り狂ったユメは、竜のような特異体を出してワカモへと襲いかからせた。
配役
灰原…ノア