ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ29話までの範囲でお送りします。


玉折

 

────1年後 20XX年8月

 

ホシノとセナは中等部3年に、ユメは高等部1年に上がったが、それでも3人の関係は続いていた。

…辛うじて、だが。

 

「いいですよ!」

 

S.C.H.A.L.Eに隣接する運動場で、ホシノは元気な声で合図を出すと、それに合わせて呼ばれていたユメとセナはホシノの頬を指先で突っついた。

すると、ゆっくりとつついたユメの指はぷにぷにとホシノの頬を押すが、勢いよく突き刺す勢いでつつこうとしたセナの指は固いものにぶつかったようにコツンと音を立て、軽く突き指したのか指を抑えてセナはホシノを睨んだ。

 

「お、行けましたね」

「行けましたねじゃないですよ…何してくれてるんですか…」

「…それは秘儀の対象の自動選択?」

「はい…まあ正確には秘儀の対象は私自身ですけど。今までマニュアルで発動していたのをオートマにしたんです。神秘の強弱だけじゃなく、質量、速度、形状から物体の危険度を選別して、皮膚に触れた瞬間にその部分に対して自動で秘儀が発動するようにしたんです」

 

その道の者が聞けば卒倒するような高難度なことを平然と言ってのけるホシノ。

勿論そこに至るまでに少なくない努力と練習を要したが、それでも確かに形にして実現出来たのはホシノの天性のセンスがあってのものだろう。

 

「毒物とかだとまだちょった難しいですけどね。身体を蝕まれていることに自分で気付けないと秘儀が間に合わないかもしれません。ですがこれなら最小限のリソースで『ウジャトの目』を発動し続けられます」

「発動し続けるって…そんなことしてたら脳が焼き切れますよ?」

「そこは自己補完の範疇で神秘を恐怖に反転させ続けます。これで何時でも新鮮な脳をお届けですね〜」

「ほう?」

「…流石ホシノちゃん、凄いね!」

 

セナはそう言ってのけるホシノに素直に感嘆の声を漏らし…何処かやつれたようなユメは、ぎこちなく笑って賞賛する。

そんないつもと違う様子にホシノは一瞬疑問に思うも、あまり気にせず手元でくるくるとペンを弄った。

 

「前からやっていた掌印の省略はもう完璧ですし、『明け』と『宵』、それぞれの複数同時発動もぼちぼち…あとの課題は神秘解放と自分以外を秘儀の対象にすることぐらいですかね。セナ、今度実験用のラットを貸してくれませんか?」

「実験動物も有限なんです。あまり粗末にしないでくださいよ…ところで、ユメ先輩少し痩せました?栄養不足なら見過ごせないので調子が悪いようでしたら相談してください」

「う、うん!ごめんね、心配かけちゃって。でも私は大丈夫!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノちゃんは最強になった。

 

任務も全部1人でこなしてる。

セナちゃんは元々危険な任務に出ない。

必然的に、私も1人になることが増えた。

 

 

 

───その夏は忙しかった。

 

昨年頻発した災害の影響もあったのだろう、ウジのように特異体が沸いた。

 

鎮める、取り込む、その繰り返し…鎮めて、取り込んで…皆は知らない特異体の味。

吐瀉物を処理した雑巾を丸飲みしているような───誰の為に?

 

…鎮めて、取り込む。

 

あの日から…自分に言い聞かせている。

私が見たのは何も珍しくは無い、周知の醜悪。

知った上で、それでも信じようと思ってきた筈だった。

 

 

いつもと変わらない任務を1人でこなし、移動の為の電車に揺られ、鎮めた特異体を取り込み、帰ってきた時もまた1人。

寮にあるシャワーを1人で浴びて…降り頻る雨のような水音が、あの時のことを想起させる。

 

 

ユカリちゃんの遺体を抱えたホシノちゃんに喝采を浴びせる歪んだ大人達の姿。

 

────パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 

 

ぶれちゃ駄目、S.C.H.A.L.Eの…特異現象捜査部の生徒として、責任を果たさなくちゃいけない。

 

 

全部…全部…

 

「大人が悪い…」

 

 

 

 

 

 

 

ある日の休み、機械のように任務に赴き続けていた為に休日をどう過ごすのかも忘れ、ホシノちゃんは任務で、セナちゃんは医療の勉強だと都合が合わずにいた私は、ぼーっとしてS.C.H.A.L.Eの廊下を歩いていた。

そんな時、向かいから歩いてくる後輩の姿があった、

 

「あ、ユメ先輩」

「…ノアちゃん」

「お疲れ様です」

 

ばったり出会したノアちゃんはいつもと変わりなく私に明るく接してくれた。

それが今の私にもほんの少し嬉しくて、近くにあった自販機で何かを奢ろうと、遠慮しつつも緑茶を頼んでくれて、つい笑みを零す。

その辺の休憩室のベンチに座って話相手になってもらうと、どうやら明日はいつも仲良くしているユウカちゃんと任務に行くとの事だった。

 

「結構遠出になるんですよね」

「そっか、じゃあお土産でも頼んじゃおうかな」

「分かりました、甘いものとしょっぱいものはどちらがお好みですか?」

「ホシノちゃんが食べるかもしれないから、甘いものでお願いしようかな」

「はい、ではそうしますね!」

 

手を叩いて了解の意を示すノアちゃん。

そんな太陽のように眩しい姿が健気で、嬉しさよりも心配が逸ってしまう。

 

「…ねえ、ノアちゃん。特異現象捜査部、続けられそう?辛いと思わない?」

「はい…?そうですね、私はあまり複雑な事は敢えて考えないようにしているのですが…自分に出来ることを精一杯するのは気持ちが良いですよ」

「…そっか、そうだよね…うん?」

 

ノアちゃんの満面の笑顔に頭を焼かれるような感覚を覚えていたその時…休憩室に入室してくる少女が1人。

その少女は、翼を星や月形のアクセサリーで飾った桃色の髪が特徴的だった。

彼女は上着を肩にかけると、開口一番よく分からない質問をしてきた。

 

「君がユメちゃん?どんな女の子が好みかな☆」

 

 

「…どちら様かな?」

「私は理系で数学が得意な、ちょった抜けてる青髪の子が好きですね」

「へぇ〜」

「ノアちゃん?」

「大丈夫ですよ、ユメ先輩。悪い人じゃありません。こう見えても私人を見る目には自信があるので」

「…私の隣に座っておいて、か」

「はい?」

「ううん、なんでもないよ」

 

こんな自分がノアちゃんの隣に居ることが段々と罪深く思えてきて、つい本音が漏れる。

幸い聞き間違いとして流すことが出来たが…桃色髪の少女はその様子を見て何が面白かったのか腹を抱えて笑いだした。

 

「あははっ!」

「…?なんでしょう?」

「君〜、今のはその子の皮肉だよ」

「よく分かりませんが…あなたはユメ先輩に用事があるそうなので、私はここらで失礼しますね」

 

空気を読んで、或いは面倒事を察したのかそそくさと退室するノアを見送ると、少女は代わりに遠慮の欠片もなく私の隣に腰掛けてきた。

 

「あの子後輩?素直で可愛いね」

「もっと人を疑うべきだと思うけどね…」

「…で、ユメちゃんは私の質問に答えてくれないの?」

「まずはあなたに答えて欲しいかな…どちら様?」

「うん?えっと────

 

 

 

 

────”特級生徒 聖園ミカ”…って言えば分かるかな?」

 

「…そう、あなたがあの…」

「え〜!?どの!?どの!?私ってどんな風に噂されてるの?」

 

身に纏う貫禄と威圧感の割に、年相応に無邪気にはしゃぐ少女…改めて聖園ミカさんに少し面食らったけど、あっちが遠慮してこないのならこっちも遠慮せずに素直に答えた。

 

「トリニティの特級な上ティーパーティーも兼任してる癖に無責任で任務も全く受けずぷらぷらしてるろくでなしって噂かな」

「私S.C.H.A.L.Eってきらーい」

 

自分で聞いた癖にやはり子供のように拗ねてベンチの背もたれに寄りかかるミカさん。

その奔放さ故に対応に困るが、すっと起き上がって真顔になったミカさんは何事も無かったかのように話を続けた。

 

「冗談だよ。S.C.H.A.L.Eと方針が合わないのは本当だけどね。皆がやってる事は対症療法だけど…私は原因療法がしたいんだ」

「原因療法…?」

「うん、特異体を狩るんじゃなくて、特異体が生まれない世界にしたいなって」

「あっ…」

 

そんな触れ込みを聞いて…雷に撃たれたような気持ちになる。

そんな私の様子を悟ったのか、ミカさんはどこからか取り出したレンズの入ってない伊達眼鏡をかけるとクイッと上げた。

 

「じゃあじゃあ、ユメちゃんにはちょっと授業をしてあげよっか☆初めに聞くけど、特異体って何かな?」

「…人から流出した神秘が澱みになって積み重なって、激情によって形を得たもの…だよね?」

「概ねその認識で合ってるね。じゃあキヴォトスから特異体を無くそうとするとなると、このキヴォトスから神秘を完全に抹消するか、全ての人が神秘をコントロール出来るようになるの2択ってところかな?前者は結構いい線まで行けると思ってるんだ。モデルケースもいたし」

「モデルケース…?」

「君もよく知ってる人だよ…”狐坂ワカモ”」

「!」

 

あの日、私の…そしてホシノちゃんの運命を大きく捻じ曲げるきっかけとなったあの大人の名前に息を飲む。

出来ることならば、二度とその名前を聞きたくないほどに憎悪していた名前だ。

 

「天与宣誓で神秘が一般人並になる人は何度か見かけたけど、完全にゼロだったのはキヴォトス中探しても彼女1人だけだったんだ。彼女の面白い点はそれだけじゃない、狐坂ワカモは神秘がゼロにも関わらず五感で特異現象を認識出来た。神秘を完全に捨て去ることで肉体は一線を画して、逆に特異現象への耐性を得ていた。まさに超越者って言えばいいのかな、彼女に負けたことは恥ずかしいことじゃないよ。研究してみたかったけど振られちゃってね。惜しい人を亡くしたよ」

 

心の底からあの人を悼んでいるミカさんに、複雑な感情を抱いてしまう。

確かに狐坂ワカモはわたしたちにとっては怨敵とも言える相手だったが、その存在としての価値を理解できない訳では無い。

もし彼女が生きていたことで今のようなミカさんの研究が進展するきっかけになったのなら…そう考えてしまった自分を嫌悪する。

 

「まあ天与宣誓はサンプルも少ないし、今の私の本命は後者の方かな。キヴォトスの全ての住人に神秘をコントロールさせる。知ってる?ある程度神秘をコントロール出来る人からは特異体は生まれないんだよ。本人が死後特異現象に転じる場合を除いて、だけど」

「…!」

「けどこれにも問題があって、キヴォトスには色んな住人がいるのは知ってるよね?私達みたいな外の世界で一般的に言う”人型”をした、そしてヘイローを持つ『生徒』。それとは別に、ロボットの姿をしていたり動物に近い体格を持つ『人』。けどこの内『子供であること』の条件を満たしてない人が神秘をコントロールすることはかなり難しいんだ。子供のころに扱い方を会得していた場合は別としてね。なんでか分かる?」

「…精神性、もしくは感受性とか…」

「そうそう!話が早いね。神秘は人の激情によって増幅して、そして操られる。大人になるとその感情がすり減って、20代以下の子供に比べて神秘をコントロールすることが難しくなるんだ。例えば子供なら、一般人並の神秘を持ってない、特異現象も認識出来ないような才能のない子供でも相応に訓練したら特異体を生み出してしまわないように神秘をコントロールすることができる」

 

興奮したように語るミカさんは、最早無邪気な子供というより狂気のマッドサイエンティストにさえ見えてくる。

それでも、その話は的を得ていて…だからこそ、私の胸に燻る思いが、本音だと思いたくないそれが吐き出されてしまったのかもしれない。

 

「大雑把に言うと、まだ子供なら将来特異体を生まないように訓練させられる。そうして全ての子供を訓練させることが出来たら、理論上数年、数十年先には特異現象がほとんど存在しないキヴォトスの完成だよ!」

 

「…じゃあ────もう将来性のない大人なんて全部殺しちゃえばいいんじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

「ユメちゃん、それはアリだよ」

 

 

「…え?」

 

どうせ咎められるだろうと、否定されるだろうと、そのつもりで言った言葉をミカさんは肯定してきた。

この時それを否定して、怒ってくれれば私はきっと諦められた。

自分を殺して、最後まで本心を隠して前を向き続けられたかもしれない。

なのに…

 

「なんならそれが1番楽かも。もう神秘を操れる見込みのない大人が生き続けてもその人が死ぬまでは一生特異体を生み出し続けるだけだもの」

「いや…ちが…」

「大人を間引き続けて子供達に適応してもらう…要は進化を促すっていえば良いのかな?鳥が翼を得たみたいに、恐怖や危機感を使って…でも私はそこまでイカれてるつもりはないからなぁ…ユメちゃんは大人は嫌い?」

「…私、は…」

 

 

 

────パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 

 

 

「…分からない。これまで私は、子供は大人に支えられて、導かれて生きてるんだって思ってた。でも最近、私の中で大人の価値が揺らいで来てるんだ。大人だからこその偉大さ、大人だからこその醜さ…その分別と受容が出来ないの。大人を尊敬する私、大人を嫌悪する私…大人が築いた社会基盤を守り続けるマラソンゲーム、その果てのビジョンが曖昧で、もう何が本音なのかも分からない」

 

ポツポツと、外では雨が降り始めた。

その雨音はそれだけであの醜い大人達の拍手を思い出して…より私の感情が捻れて歪んでいるのが分かる。

 

「…どっちも本音じゃないと思うよ。きっとまだその段階じゃない。どっちが本音かは君が決めることなんだから」

 

そうアドバイスをくれたミカさんは、雨宿りの為に暫く私との時間を共にして…小一時間程で雨が止み、S.C.H.A.L.Eを出て行った。

せっかくだからと外までお見送りをさせられ、去り際にミカさんと少しだけ話した。

 

「ごめんね、時間取らせちゃって。本当はホシノちゃんとも話がしたかったけど、間が悪かったみたい。これからは特級同士3人で仲良くしようね☆」

「ホシノちゃんには私から伝えておくね」

「…あっ、そうだ最後に。巫女のことは気にしなくて良いよ。あの時もう1人巫女がいたのか、既に新しい巫女が生まれていたのか…なんにせよクズノハ様は安定してるから」

「…だよね」

 

それを伝えてミカさんはS.C.H.A.L.Eを後にした。

それを伝えられた私は…最早感情がぐちゃぐちゃになった。

ミカさんは、本当に心配しなくていいと好意で言ってくれたんだと思う。

でも…だとしたら…ユカリちゃんはなんのために死んだんだろうって、あの時間全てが否定されたような思いになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことの無い2級の特異体の討伐任務のはずだったのに…クソッ!クソッ!」

 

数日後、ノアちゃんと一緒に任務に行っていたユウカちゃんが、ノアちゃんの遺体と共に大怪我を負ってS.C.H.A.L.Eに戻ってきた。

ユウカちゃんは普段の冷静な様子からは考えられないほどに荒れていて、遺体安置所にあった椅子を壁に投げつけて八つ当たりしていた。

一周まわって冷静になったのか、ユウカちゃんは乱暴に椅子に腰掛けて天井を仰いだ。

 

「産土神信仰…あれは土地神だった。1級案件よ」

「…今はとにかく休んで、ユウカちゃん。任務はホシノちゃんが引き継いだから」

「…もう、全部あの人で良くない?」

 

ユウカちゃんの言葉には答えず、下半身のないノアちゃんの遺体に布をかける。

 

責任を取るべき大人の代わりに、力を持つ子供が社会を守り続けるマラソンゲーム…その果てにあるのが、仲間の死体の山だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

とある任務でキヴォトス随一の大企業、カイザーグループが運営するとある工場を訪れた時のこと。

工場周辺で起こる不可解な現象の調査と解決をしに向かったのだが…

 

「…これは、何?」

「何と言われましても…この2人が一連の事件の原因なのでしょう?工場周辺でいつも何かをしているのかと思えば厄介事を…」

「いや、違うよ」

 

そもそも何故工場にあるのかも分からない懲罰房のような場所に閉じ込められた、赤い髪と小さな角が生えた白い髪のまだ初等部低学年と思われる2人の少女を見てしまった。

この工場で起きているという異変と彼女達の関連性を否定するが、案内をしてくれていた工場長は聞く耳を持ってくれない。

 

「こいつらは頭がおかしいんだ!前から噂になっていた!気味の悪い力で工場の運営を妨害している!」

「異変の原因はもう私が取り除いたから…」

「この辺りはこの工場のお陰で栄えているというのに、それを邪魔する疫病神が!貴様ら我が工場の職員にまで怪我をさせてそうだな!?」

 

「それは…あっちが…」

「黙れ化け物!貴様らは…!」

 

何か否定しようとした少女達を、工場長は頭ごなしに怒鳴りつける。

その容赦も子供だからという甘さもない醜いまでの憎悪のこもった怒声に、少女達は涙目を浮かべて蹲った。

 

「…君達、もう大丈夫だよ」

「「…えっ?」」

「はあ?何を話して…」

 

 

 

大人を尊敬する私、大人を嫌悪する私。

そうだ…どちらを本音にするのかを決めるのは、私なんだ。

 

 

 

 

「工場長さんも、その他の職員の皆さんも、1度外でお話しよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は…?」

 

任務から戻りS.C.H.A.L.Eに戻ってきたホシノに、ヒマリが連邦生徒会からの通達を伝えた。

その内容は…ユメがカイザーグループに所属するとある工場の職員数百余名を殺害したこと。

また、ユメ自身の両親を殺害したこと。

連邦生徒会より直々に指名手配が行われ、処刑対象とすること。

今回の件に対するユメの動機は不明だということ。

 

「何度も言わせないでください。ユメが工場の職員を皆殺しに…」

「聞こえてますよ!だから、は?って言ったんです!」

「ユメの自宅は既にもぬけの殻でした。残された神秘と痕跡から両親を手にかけたのもユメで間違いなく…」

「そんなわけ…!」

「私も分からないんですよ!ホシノ!」

「っ…!」

 

珍しく感情的なヒマリに、ホシノはそれ以上問い詰めることも出来ず歯噛みすることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

D.U.の某所。

カフェの屋外テラスでコーヒーを飲みながら医学書を読み漁っていた時、不意に向かいの席に腰掛ける人物がいた。

 

「や、相変わらず面白くなさそうなの読んでるね〜」

 

飾り気のない黒いスウェット姿で現れたユメに、セナは特に表情を変えることも無く視線を医学書に戻す。

 

「犯罪者じゃないですか。何しに来たんですか?」

「運試しってところかな〜」

「ふ〜ん、一応聞きますが冤罪だったりします?」

「ないね〜、残念ながら」

「そうですか。重ねて一応聞きますが…何故です?」

「子供だけの世界を作ろうと思うんだ」

「理解出来ませんね」

「してもらおうとなんて思ってないよ」

「そうですか…あ、ホシノですか?ユメ先輩いましたよ。はい、この前私が行きつけだと勧めたカフェです」

 

ユメの目の前だというのに堂々とチクリ始めるセナの肝の太さに、思わずユメも苦笑した。

そしてこの場に留まり続けるのはセナにも迷惑がかかると判断したのか、何を注文するでもなく席を立つ。

 

 

 

そうして人混みの中を歩いていたユメの背後から、目敏くその気配と神秘を追ってきたホシノが声を掛けた。

 

「説明してください、ユメ先輩」

「セナちゃんから聞いたよね?それ以上でもそれ以下でもないよ」

「だから子供以外殺すってことですか?…親も」

「親だけ特別って訳には行かないでしょ?あの人達は私達みたいに神秘を操れないし…もう将来性がないのは他の大人と同じだからね。それにもう私の家族はあの人達じゃないんだ」

「そんな事は聞いてません。意味の無い殺しはしないんじゃなかったんですか?」

「意味はあるよ、意義もね。大義ですらあるかな」

 

「あるわけないじゃないですか!」

 

ホシノが声を張り上げる。

周囲を行き交う人々は何事かとチラッと視線を向けてくるが、キヴォトスで喧嘩など日常茶飯事、野次馬する程面白いものでも無さそうだと無視して2人を気にかける者はいない。

 

「大人を殺して、子供だけの世界を作る!?無理に決まってるじゃないですか!出来ないことをせこせこやろうとするなんて、そこまであなたが無謀な人だったとは思いませんでしたよ!」

「…ホシノちゃんなら出来るでしょ?」

「…は?」

「自分に出来ることを人には出来ないって言い聞かせちゃうんだ。ホシノちゃんはさ、小鳥遊ホシノだから最強なの?最強だから小鳥遊ホシノなの?」

「何が、言いたいんですか…」

 

「私が君になれたら、この馬鹿げた思想も地に足が着くと思わない?もう、生き方は決めたよ。あとは自分に出来ることを精一杯やるよ。なんせ私は、ホシノちゃんの”先輩”だから」

「…」

「殺したければ殺しなよ。それにはきっと意味があるよ」

 

背を向けて人混みに向かって歩き出すユメの後ろ姿にショットガンを構えるホシノだったが───遂にはその引き金を引くことが出来ず、もう見えなくなったユメの姿をホシノは呆然と探し続けた。

 

 

 

 

 

 

その後S.C.H.A.L.Eに戻りヒマリの自室に押しかけたホシノは、厚かましく部屋のソファに横になって愚痴を零していた。

 

「ねえ、ヒマリさん。私って強いですよね?」

「生意気にもそうですね」

「でも…私だけが強くても駄目みたいですよ。私が救えるのは、他人に救われる準備がある人だけみたいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからどれだけの時間が経ったのか、それとも思うほど時間が経っていないのか。

 

ユメは仲介屋のニヤ…そしてあの工場で保護した2人の少女と共に盤星教の拠点の1つを訪れていた。

 

「…盤星教はもう解体されたって聞いたんだけどね」

「別の団体でも根っこは同じ、表向きは居抜きみたいなしてますがね。嫌ですか?」

「ううん、特異体とお金が集められればなんでもいいよ」

 

「ユメっち…」

「ふふっ、よく見ててね…ちゃんと揃ってるよね?」

「各支部長に代表役員、会長にその他太客お揃いですよ」

 

甘えるように頭を擦り付けてくる少女の頭を撫でたユメは、ニヤに確認を取ると施設の奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

「皆〜、お待たせ〜!じゃあ手短に話すけど、今この瞬間からこの団体は私のものだよ!名前も改めるから、以降皆は私に従ってね!」

 

 

────反対多数。

 

 

「え〜?困ったな〜…そうだ!園田さん前に来て貰えないかな?そう、そこのあなた!」

 

 

達磨のような特異体に押し潰された大人の血飛沫が飛び散り、顔にかかった返り血を拭ったユメは冷たく脅す。

 

 

 

「さて改めて…私に従いなよ、大人共が」

 

(大人は嫌い…それが、私が選んだ本音)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学校から下校する白く長い髪の少女は、後ろから近づいてきた不審者…ホシノの方を振り向いた。

 

「…誰?」

「君、空崎ヒナちゃんだよね〜?」

「…何その顔?」

「いや、ここまで似ないこともあるんだなって。種族からして違くない?人体って不思議だよね〜…あっ、待って。それから一旦手を離そっか」

 

顔を合わせるなり微妙な表情を浮かべているホシノに少女…ヒナは防犯ブザーに手をかける。

それを慌てて止めたホシノは警戒を解いてもらおうと話題を帰ることにした。

 

「ところで君のお母さんはさあ、魑魅一座っていうわっるーい組織の出なんだけど、おじさんが引くレベルの人でなしでさ〜、組織を出てって君を作ったってわけ。君見える側だろうし持ってる側なんでしょ?実力主義のゲヘナや血統主義のトリニティの支部はなんにせよ才能ある君を欲しがるだろうね。それに、魑魅一座も君を取り返そうとするかもしれない。中でも雑に金払いの良いゲヘナに君のお母さんは転入させる取り引きを結んでたらしいけど…まあともかく、そのお母さんなんだけどおじさんが───」

「別にあいつがどこで何をしていようと関係ないわよ。何年も会ってないし顔も覚えてない。お父さんだって随分前から帰ってない、今はもう残った遺産で1人だけで暮らしてる」

「確かにキヴォトスはなんでもありだけど、君みたいな小さな子供が1人だけでやっていけてるってだいぶおませさんだね〜。まあいいや、お母さんのこと気になったら何時でも聞いてよ。そこそこ面白いと思うよ」

「それで…結局何の用なのよ?」

「そうだね〜…単刀直入に言うと、S.C.H.A.L.Eに来ない?衣食住、その他生活に必要なものは保証するよ。ちょっと荒事に付き合ってもらうけどね。腕っ節に自信はあるかな?」

「…遺産を切り詰めて暮らすのにも限界はあるし、別に良いわよ」

「決まりだね。後はおじさん達に任せな〜」

「んん…」

 

ホシノが頭を撫でると、ヒナはムスッとした顔でされるがままにされる。

幼いながらに毛量の多いヒナのふわふわの髪の感触を十分に堪能したホシノは、ヒナの横を抜けて道の先へと進んで行く。

そして後ろから着いてくるヒナの方を振り返ると、哀愁漂う表情で言った。

 

 

 

「強くなりなよ。おじさんに置いていかれないぐらい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩も寝るんですね!」

「当たり前でしょ。何言ってんのあんた」

「ちょっとホシノ先輩、早く起きなさい」

 

微睡みから覚め、ぼんやりと開いた視線の先にはアリスとヒナ、そしてカズサが騒がしくしていた。

いつかの思い出から叩き起されて…しかしそれが不快には感じず、むしろ新しい絆の繋がりを実感して心底嬉しくさえ思えてくる。

 

「あ!起きました!」

「っていうかその椅子高いやつでしょ。良いなぁ」

「そっちが呼び付けてきたのに居眠りなんていい度胸ね」

 

 

 

「…うへ〜、気持ち良さそうに寝てるおじさんを起こすなんて、罪深い後輩達だね〜」

 

 

 

 

 

懐玉・玉折編────完




配役
九十九…ミカ

ホシノとミカの会話の部分は結構こじつけ強めなのであしからず
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