作者の技量の問題により小沢さんのくだりが書けず泣く泣く全カットすることになりました。
楽しみにしていた方がいたら申し訳ありません。
「カズサ!この後一緒にゲームセンターに行きませんか?」
「お、良いね。付き合うよ」
「あんたら元気ね…私は帰るわ。また遅くまでほっつき歩いて寮長さんを困らせないようにしなさいよ」
今日も仲良く3人でお出かけしていたアリスとヒナとカズサ。
一通り街を周り、日用品を買い揃えたヒナはアヤネに寮まで送り返してもらい、残ったアリスとカズサは近所のゲームセンターへと向かう。
格ゲーやフィッシングゲームに興じ、小一時間遊ぶと今度は適当なカフェに寄ってダラダラと時間を潰し、雑談に花を咲かせる。
特異現象捜査部に入ってから何かと忙しく重い任務が続いたアリス達にとって、久しぶりにゆっくりと過ごせる時間だった。
「それでですね。カズサにも1度『テイルズ・クロニクル・サガ』、通称『TSC』をプレイしてみて欲しいんです」
「噂は聞いたことはあるね…良い噂じゃないけど。あれって結局どんなゲームなの?」
「よくぞ聞いてくれました!何度も挑戦を繰り返して攻略する古き良きレトロRPGです!ゲームをクリアする頃には人間性を失うこと間違いなしですよ!」
「間違いなしですよ!じゃないから。なんでそんな無差別テロ兵器が世に解き放たれてんのさ」
「シナリオも斬新で、少しネタバレになりますが母親がヒロインで前世の妻で、その妻の元に子供の頃に別れたきりの腹違いの友人がタイムリープしてきた場面は涙無しには見れませんよ!」
「ごめん純粋に理解できないんだけど。あとその涙絶対に感動とかのそういうあれじゃないよね?」
「作品のテーマはズバリ愛です!」
「…あ、そうだ。アリスにもトリニティで有名なスイーツ食べさせてあげたいんだけどさ」
『TSC』を熱弁するアリスにドン引きするカズサは、このまま話を続けさせられて今度実際にプレイさせられるようなものならろくな事にならないと判断し、強引に話題を逸らしたのだった。
「特級は、生徒の格付けの中でも斜めに外れた位置付けよ。1級こそがS.C.H.A.L.Eを、特異現象捜査部を牽引していく存在だと私は考えているわ」
特異現象捜査部、百鬼夜行支部。
会議室にて、リオはアオイとシュンにそう語っていた。
「危険・機密・給料。準一級以下とは比べ物にならないわ。それを踏まえて今なんて言ったのかしら?」
「不破レンゲ、ペロロ」
「空崎ヒナ、杏山カズサ、そして私のシスターである天童アリス…」
「以上5名を春原シュン…」
「扇喜アオイの名のもとに…1級資格に推薦するわ」
リオへの当該生徒の1級資格の推薦を申し出たアオイとシュンは、寮に備え付けてある卓球で打ち合いながら任務についての話をしていた。
特異現象捜査部の生徒に割り振られる等級の昇級において、1級に上がる時には特別な条件が課せられる。
2名以上の1級資格を持つ生徒から推挙された生徒は現役の1級または1級相当の生徒と共に幾度か任務をこなし、そこで適正ありと判断されれば準1級へと昇級、続いて単独での1級任務を受けさせられる。
その任務の結果によって正式に1級資格を取れるか否かが決まるのだ。
「シスターは絶対に推薦を受けるわ!Keyが協力的でない以上、
「意味も何も、それが全てなんでしょう?アオイちゃん」
ピンポン玉が激しく交差し、軽快な音が部屋に響き渡る。
ラリーは続き、やがてアオイが…シュンが…点を取って、取られ、試合は白熱する。
「青い未来…つまり天童アリスと扇喜アオイが共に任務へと立ち向かう青い未来が存在しているということよ」
「しかし…」
「皆まで言わなくていいわ。同行する1級資格の生徒が私とは限らないと言いたいのでしょう?だけどこれは確信よ。もげたリンゴが地に落ちるが如く、私達も引かれ合う…そう、運命ってやつよ!」
語尾を強めたのに合わせて放った渾身のサーブは…軽く打ち返され、アオイの横を通り過ぎて行った。
「ですから、被推薦者が同行するのは推薦者以外の生徒とですよ」
「…アリスちゃんを推薦したのは私達ですから、彼女に同行する生徒は私達以外です。ではお先に上がりますね」
試合は11対5でシュンに軍配が上がり、突きつけられた現実にアオイは死んだ魚のような目で床に落ちたピンポン玉を見つめた。
雨降る日のD.U.で、アリス達は訪ねてきた百鬼夜行支部の監督官であるカホに呼び出され人気のない駐車場でとある話を受けていた。
「小鳥遊ホシノから内通者についての話は聞いてますね?」
「はい」
「恐らくアウトローと通じているのはリオ部長やヒマリ部長より上…連邦生徒会の上層部でしょう。こちらは私ではどうにもなりません」
駐車場に木霊する雨音が、不穏な空気を醸し出す。
話すカホの表情は暗く、話している自分でも信じたくないという感情がアリス達の目からも明らかだった。
「…もう1人、その上層部に情報を流している者がいます。それが今回の目標。まだ容疑の段階ですので確保次第尋問します」
「で、百鬼夜行支部の誰ですか?」
「ちょっ、カズサ…」
「私達S.C.H.A.L.Eの方に頼んでくるって事はそういうことでしょ」
「それで、その目標ってのは誰なのかしら」
「…内通者は────」
「メカペロロ様〜?あ、いました!」
百鬼夜行支部、ノートの束を抱えたヒフミはメカペロロに用があり探していると、教室の椅子に無言で座っているメカペロロを見つけた。
モデル同様、口からはだらしなく機械の舌が垂れており、普段は焦点の定まっていない瞳孔の光は朧気に揺れ動いている。
「ノートの提出は今日までなので…メカペロロ様?」
「…すまない、ヒフミ。少し寝る。ノートは机から勝手に取ってくれ」
「寝るって…まだ夕方ですよ?もう…本当に寝てますね…メカペロロ様は普段本体はどこで寝ているんでしょう…?」
瞳孔の光が消え、僅かに内部から聞こえていた駆動音が停止する。
ツンツンと突っついても反応が無い事を面白くなく思ったのか、ヒフミは近くの椅子を寄せて座り、メカペロロに寄り添って肩(?)に寄りかかった。
カホに連れられ、とある施設の地下に来たアリス達。
施設内には幾つものケーブルやパイプが壁や天井を這っていて、見るからに秘密研究所といった雰囲気だ。
「あの子が怪しいという訳ではありません。他の誰も怪しくないからこその、あくまで消去法です。メカペロロの秘儀は『傀儡秘術』、傀儡の操作範囲は天与宣誓の影響でキヴォトス全土にまで及びます。登録していない傀儡があれば、内通者としての仕事はいくらでもこなせるでしょう」
「そうでしょうか?あんな気持ち悪いのが動き回っていれば目立つと思いますが…」
「傀儡が蚊や蝿のようのサイズならばその限りではありません…ここです」
施設の地下の奥まで案内され、辿り着いたのは頑丈そうな扉。
蛍光灯の赤い光がまるで立ち入ることへの警告をしているようで…それでも、一行は覚悟を決めてその部屋に踏み込んで───
「…あれ?」
「…やられましたね」
その部屋には誰もおらず、なんの機材もないもぬけの殻。
カホ達が訪ねてくる事を察知して知らぬ間に抜け出したとすればそれは即ち、
「確定、ですね…残念ながら」
「来たか。遅かったな、忘れられたかと思ったぞ」
カホ達が踏み込んでいた施設から遠く離れた場所にある秘密基地。
そこで全身を包帯でぐるぐる巻きにし、無数のケーブルが繋がった浴槽のようなものに半身を沈めるメカペロロ…その本体である白州アズサは、施設を訪ねてきたムツキとユメを睨んだ。
「そんなヘマはしないよ〜、契約の恐ろしさは君が身を持って知ってるでしょ?」
「相変わらずここカビ臭くてきら〜い。ねえ、どうせ敵なんだしさっさと殺しちゃおうよ」
「まだ駄目だよ、ムツキちゃん。私達に協力して情報を提供する。その対価としてムツキちゃんが『ム為転変』で身体を治す、そういう契約を彼女としてるんだから。殺すのは治した後だよ。彼女にはミレニアムでも働いて欲しかったんだけど、仕方ないね」
「百鬼夜行支部の生徒には手を出さない、先に契約を破ったのはそちらだろう」
「やったのはカヨコちゃんだよ?八つ当たりはやめて欲しいな〜」
「アウトローなんぞと議論するつもりは無い。さっさと治せ、下衆め」
目の前でこの後の殺害予告をするユメ。
しかしアズサは怒るでもなくムツキを急かした。
やれやれと肩を竦めたムツキはアズサに近づき、アズサの頭にポンと手を置いた。
「どうしよっかな〜、勢い余って芋虫にしちゃうかも」
「ムツキちゃん、他者間との契約は自分自身に結ぶものと訳が違うよ。どんなペナルティーを被ることになるか分からないからね」
「はいはい、ちゃんと治しますよ〜っと…感謝してよね、下衆以下ちゃん」
ムツキの手を起点として『ム為転変』が発動し…アズサのヘイローが揺らいだ後、アズサの身体に巻かれた包帯が解け、その下からは綺麗な裸体が顕になる。
こうしてめでたくアズサは天与宣誓による苦痛から解放され…そしてそれが開戦の合図となる。
「…」
「可愛くないなぁ、もっと喜びなよ」
「それは事が済んだ後にする」
「ま、それもそうだね…じゃ、始めよっか」
「ああ、そうだな」
「うん!?」
アズサが浴槽に付けられたレバーを引くと、ムツキが立つ側の浴槽の側面が開き、そこから出現したキャノン砲が火を吹いてムツキを部屋の奥まで吹き飛ばす。
当然その程度が効くはずがなく崩れた壁の瓦礫の中から起き上がってくるが、その間にアズサは部屋の後ろに隠していた大量のペロロロボをムツキへとけしかけた。
「手伝おっか?」
「やめて。私のおもちゃだから」
ユメからの協力を断ったムツキは服の袖から流動する肉塊を溢れさせると、巨大なハンマーのように肥大化させたそれを薙ぎ払い迫るメカペロロをまとめてガラクタに変える。
それを数度繰り返すだけでけしかけられたメカペロロは全滅したが…その短時間の間に気付けばアズサは姿を消していた。
「はぁ…逃げたのかな?まああいつは私達殺す必要はないしね。つまんな〜い!私今は狩りじゃなくて勝負がしたいのにっ…!?」
突如、施設が下から突き破られるように崩壊する。
衝撃に打ち上げられたムツキは肉塊を操りグライダーを作って滑空し近くにあった湖にあるダムの上に着地する。
そしてそれを追うようにして…湖の底から超巨大なメカペロロが姿を現した。
───絶対装甲傀儡戦略決戦兵器究極メカペロロジラ
「あっはは!良いじゃん!こんなものコソコソ作ってるなんて、引きこもりは伊達じゃないってわけだ!」
メカペロロジラは目にあたる部分のライトを点灯させ、強烈な照明にもなるそれをムツキへと向ける。
眩しそうに目元を覆うムツキだったが、その視線はメカペロロジラ…その内部にいるであろうアズサを見据えていた。
(中にいるんでしょ?触れられたくないもんね。操縦席は頭かな?)
メカペロロジラ内部、操縦席からムツキと対峙するアズサは、周囲に結界が降ろされていることに気付いて舌打ちをする。
「チッ、ユメだな…私を閉じ込めるだけじゃない。小鳥遊ホシノのようには行かないか」
現在、アズサの勝利条件は小鳥遊ホシノにあった。
どんな手段であれ、アズサがホシノと連絡を取りユメ達が企てるミレニアムでの計画を伝え、そして保護してもらう。
しかし結界が降ろされた事で電波が遮断され、ホシノと連絡を取るにはユメが結界を維持できなくなる程のダメージを与えなければいけない。
(だが、ユメに集中するにはムツキが危険過ぎる。まずはあいつを仕留めなければ)
アズサはチラリと離れた場所から静観を決め込んでいるユメの方を見やると、ユメは「お気になさらず」と手を振っていた。
(依然劣勢…だが勝算はある。全部見てきたんだ…私を縛った年月、それで得た神秘。出し惜しみはしない)
操縦席内にあるモニターに映し出された16年5ヶ月6日という数字。
それはアズサが地道に貯め続けてきた莫大な神秘。
それを用いてこのメカペロロジラを動かせている訳だが…それはエネルギーとして放出し攻撃に用いることも出来る。
「チャージ1年分…!『白熱眼光』!」
メカペロロジラの片目が光り、そこから放たれた極太の光線はムツキが立つ大きなダムの一部を跡形もなく消滅させる。
通常のメカペロロが放つそれとは文字通り桁違いの威力を誇るそれだが…大振りな攻撃だった分、ムツキは楽しむ余裕すら見せてそれを回避していた。
「くふふ、私の神秘が尽きるまでそんなこと続ける気?まずはそこから引きずり出してあげるよ!」
よしんば、直撃したとしてもメカペロロジラの攻撃ではムツキにダメージを与えることは出来ないだろう。
それをアズサは理解していない訳では無い。
メカペロロジラの巨大な羽をムツキへと振り下ろし、直撃を避けたものの生じた風圧に煽られたムツキはダムから落下し…先程の移動が気に入ったのか、袖から溢れさせた肉塊をグライダーのようにして滑空する。
「チャージ2年!『二重白熱眼光』!」
今度はメカペロロジラの両目が光り、薙ぎ払われた光線が滑空するムツキを追尾する。
避け切れなくなったのかムツキはモロに光線に巻き込まれて湖に墜落し…直ぐに飛び出てくると、肉塊で巨大な腕を作ってメカペロロジラを殴りつけ、その衝撃にメカペロロジラがよろめく。
「くっ…もたもたしてると装甲を破られるのも時間の問題だな…」
(だが…私の攻撃が効かないと過信しているお前は、攻めの姿勢を崩さないだろう。そこに…
メカペロロジラの装甲に触手のような肉塊を引っ掛けワイヤーアクションでもしているかのように飛び回るムツキにアズサは狙いを定めると、筒のようなものを操縦席の横の穴に突き刺した。
「チャンスは4回…一気に片をつける!」
遊具で遊ぶ子供のようにメカペロロジラの周囲を飛び回っていたムツキだったが、メカペロロジラの装甲の一部が開き、そこから機銃のようなものが突き出ていることに気付く。
「撃て!」
次の瞬間───機銃から打ち出された筒のようなものがムツキの肩を貫いた。
「おっと、意味ないって。今まで何見てきたのさ…あれ?」
肩に突き刺さった筒を引き抜こうとしたムツキだったが…筒が刺さった部分からムツキの肉体が膨れ上がり、左腕が破裂して消し飛んだ。
予想外のダメージに困惑するムツキだったが、その隙を見逃すはずも無くメカペロロジラの羽がムツキをはたいて吹き飛ばす。
湖付近の森に突入し、何本もの木を巻き込んでへし折りながら吹き飛んだムツキは肉塊を操り地面に突き刺してようやく止まるが、あの図体でどうやってそこまで身軽に動けるのか、勢い良く跳躍してきたメカペロロジラがムツキを踏み潰そうと降ってくる。
なんとか下敷きになるのを避けたムツキだったがメカペロロジラの着地の衝撃でまたも吹き飛ばされ…その勢いを利用して肉塊でグライダーを作り、メカペロロジラの周囲を旋回するように滑空する。
「またそれか、芸がないな」
(…消し飛ばした左腕が再生している…いや、ヘイローの形をこねくり回して再生したように見せかけてるだけか。これみよがしにしているのが良い証拠だ。大丈夫、私の手は───)
「───効いてるね。面白い」
離れた場所からメカペロロジラとムツキの戦いを眺めていたユメは素直に感心していた。
(やるね、あの子。一時的だろうけど特級クラスの神秘出力、そしてヘイローへの直接的なダメージ。ムツキ対策もしっかりしてきたわけだ)
「場合によっては今この場で…」
「チャージ4年分、行け!『ペロロミニオンミサイル』!」
メカペロロジラから供給された大量の神秘が籠った4体のメカペロロが背中のブースターで加速しながらムツキを追尾する。
ご丁寧に赤、青、緑、黄色と4色に分けられたメカペロロは光の尾を引いてグライダーで逃げるムツキを追ってその速度を上げていく。
「チッ!鬱陶しいなぁ!」
(どの攻撃がヘイローに作用するのか…はっきりさせないと下手に受けれない)
グライダーによる滑空ではこれ以上の加速もままならず、ムツキは追尾するメカペロロミサイルの直撃を受ける。
しかしその直前にムツキが操る巨大な肉塊の爪によりメカペロロジラの装甲の一部を剥がされ内部のケーブルまで切り裂かれるが…千載一遇のチャンスに、アズサは再び操縦席横の穴に筒を突き刺す。
(勝てる…!会うんだ、皆に!会うんだ!)
そしてメカペロロジラの機銃を展開して地上に墜落したムツキを狙おうする。
が…
「はあ…面倒くさ───
───神秘解放『トリック・オア・トリック』」
ムツキは袖から溢れさせた肉塊で腕を作ると、それによって頭上で掌印を結ぶ。
そして解放される神秘…展開される領域。
結界はメカペロロジラの巨体さえ覆い尽くし、その内側に閉じ込めた。
そして領域内に入ったのであれば、どれだけ頑丈な装甲に守られていようと関係ない。
領域の内側にいる限りムツキの秘儀から逃れる術はなく…
「はい、おしまい」
ズドン、とメカペロロジラは倒れ込んだ。
「直接触れなくても領域内なら関係ない。それは分かってたことでしょ?ハロウィンまでざっと10日、私が神秘をケチって神秘を解放しないと思ってた?10日も休めば全快するよ。作戦に夢と希望を詰め込まれてもさあ、気の毒過ぎて表情に困るんだけど」
既に死んでいるだろうと思っているアズサを煽るように吐き捨てたムツキは倒れるメカペロロジラに背を向ける。
領域内では、ムツキの秘儀から逃れる術は無い…本来ならば。
(これには、あの秘儀が封じられている。私にはこれしか秘儀を成立させられなかった。凶悪なアウトローから生徒達を守る為にかつての連邦生徒会長が考案した…領域から身を守る為の弱者の領域)
「は?」
勝利を確信していたムツキの腹を、メカペロロジラの機銃から放たれた筒が貫く。
「シン陰流…『簡易領域』」
それは、アズサが再現したヒフミの技。
正確には修めれば誰でも使用可能な神秘を用いた技術だが、その使用にも才能が関わる。
故にアズサはヒフミの技を観察し…遺物に落とし込むことで消耗品として実用する事に成功していたのだ。
「がっ…!」
「終わりだ」
筒の中に仕込まれていた爆弾が簡易領域の発動と共に起爆して…ムツキの全身が弾け飛ぶ。
それによりムツキが展開していた領域も消滅して、すっかり日が傾いた宵の空が顕になった。
「…勝った」
「簡易領域ねえ…」
(領域はあらゆる秘儀を中和する。領域内ならあの小鳥遊ホシノにすら有効打を与えられる。簡易とはいえ内側から領域を発生させられたらムツキでも秘儀に関係なくダメージを負う…よく考えたね)
「は、はは…高みの見物は終わりだな、ユメ!」
(嬉しい誤算だ。ムツキの領域を凌ぐのに1本、トドメを刺すのに1本、最初に1本使ったとはいえまだ1本分余ってる。それに神秘も残り9年分残してユメと戦える!)
当初の想定よりずっと少ない消耗でムツキを仕留められた事に歓喜したアズサは、続いて外部との連絡を妨害する結界を解除させる為に次はユメへと狙いを定めた。
ここを乗り越えれば、勝利は目の前なのだ。
(勝てる…皆に、ヒフミに…会える!)
アズサがユメへと神秘の放出をしようとチャージして…
「あっははは!」
「何っ…!?」
メカペロロジラの操縦席の装甲を突き破って、真っ裸のムツキが狂喜の笑みを浮かべながら突入してきた。
(馬鹿な、仕留め損なった…!?いや、まだだ!領域はまだ残ってる!チャンスを逃したからといって…諦める理由にはならない!)
身体に絡みつく肉塊を操ってアズサに襲いかかるムツキ。
簡易領域を発生させる筒を手に、直接ぶち込もうと迎え撃つアズサ。
「うあぁぁぁぁ!!」
「くっふふふふ!!」
無邪気な悪意と一途な執念がぶつかり合って────
「あのですね、メカペロロ様。今度お見舞いに行っても良いですか?交流会、野球した後から皆との距離が縮まった気がするんです」
夕焼けの茜色の日が差す校舎。
ずっとメカペロロに肩を寄せていたヒフミは、穏やかな声でそう聞いた。
メカペロロからの反応は…無い。
寝ているのだろうと、それでもヒフミは話を続ける。
「特異現象捜査部という場所に身を置いているからですかね?皆とはどこか一線を引いていたんです。仲良くなり過ぎるといなくなった時に辛いから、って。ですが、私は今の皆との関係が好きです。ほら、メカペロロ様はピッチングマシンが代理で野球に参加出来なかったじゃないですか」
ヒフミがはにかむように笑う。
メカペロロからの反応は…無い。
それが少し気に障ったのか、ヒフミは拗ねたように頬を膨らませてメカペロロを指でつつく。
「…私は、いつかメカペロロ様とも仲良くなりたいです。ですから…いつか会いに行きますね」
湖に沈むメカペロロジラ。
その装甲に空いた穴から流れる血が、降り注ぐ茜色の日の光と共に湖を赤く染め上げる。
アズサを油断させる為に自分自身の身体を破裂させたことで服が弾け飛び真っ裸になっていたムツキは、身体に絡みつかせていた肉塊を手元に集めると代わりにユメから借りたタオルを身体に巻く。
「少し危なかったね〜」
「秘儀が発動するタイミングに合わせて自分で弾けたんだよ?領域を解除したのも油断させる為、ぜーんぶ計算通りだし、危なかったなんてことは無いってば。それにしてもあれも簡易領域?本番前にいいもの見れたよ」
「そうだね。嘱託式の結界の調整も終わったし、神秘ごと誰かに託しても問題ないよ」
ユメはアズサを逃がさないために降ろしていた結界を解除し…結界を降ろすために使っていた杭のようなものを回収すると、ムツキと共に宵の空の下に消えて行ったのだった。
────20XX年、10月31日 19時丁度。
ミレニアム自治区、ミレニアムセミナー本部駅を中心に半径およそ400mの結界が降ろされる。
街中は奇抜で個性的な仮装をしてはしゃぐ生徒達で溢れかえり、またその分トラブルも多発して至る所で銃撃戦が巻き起こる。
キヴォトスではそれも一興、人の喧嘩も祭りの花。
見物してそれを楽しむものさえいる。
特にミレニアムで行われるハロウィンは他の自治区と比べても賑やかで、主に技術系の生徒がそれを仮装に活かして技術のお披露目をすることもあり、それが目当てで他の自治区からやってくる者も少なくない。
中にはその余りの盛り上がりと同時に付属する治安の悪さを嫌って来年はハロウィンをミレニアムで過ごすことを断念する者もいたが…そんななんだかんだの平和の中、突如としてそれが終焉を迎える。
神秘に適性があったのだろう1部の者は空から降りて一帯を覆うその幕に気が付いていた。
だが、それを止める手段を持ちうるはずも無く…結界はこの区画を完全に分断した。
そして…それによってミレニアムはこの瞬間から地獄絵図と化すことになる。
結界の縁では、通行していた生徒が不可視の結界にぶつかって事故を起こす。
駅の近くにいた生徒達は、突然発生した不可解な力によって次々と地下へと吸い込まれるように消えていく。
それから約1時間後、異常を察知したS.C.H.A.L.Eは特異現象捜査部から複数のチームを派遣し、事態の収束に当たらせていた。
そのチームの内の1つ…アヤネが補助を行う、ユウカ、セリカ、ヒナのチーム。
「検証を行ったところ、一般人のみが閉じ込められる結界のようです。一般人は侵入のみ。特異現象捜査部の者は監督オペレーター含め出入りが可能です」
「電波は?」
「絶たれています。連絡は結界の外で行うか、私達監督オペレーターの足を使ってください」
「随分面倒なことになったわね…」
アヤネの説明を受けて頭を抱えるユウカ。
その後ろで、セリカはヒナの肩をトントンと叩いた。
「ねえねえ、ヒナ。結界の効力の足し引きに使われる条件は基本神秘にまつわるものだけなのよ。ざっくり言うと人と遺物と特異体ね。だから電波妨害とかは結界が降りたことによる副次的効果で、結界そのものには電波の要否は含めないのよ」
「知ってるわ」
「えぇ…」
「セリカちゃん、彼女は優秀よ。先輩風吹かせるのも程々にね」
「どういうことよ!?」
「それでアヤネちゃん…ホシノは?」
「人がいない?セミナー本部駅前に?ミレニアムのハロウィンだよ?そんなこと有り得るの?」
「そこで何かがあったみたいっすね。皆散り散りに結界の縁まで逃げてこう訴えていたそうっす。『小鳥遊ホシノを連れてこい』って」
同刻、別チーム。
イチカが補助を行う、カズサ、レンゲ、そして…ティーカップを持って上品に紅茶を啜る、白い翼が特徴的な女性。
「一般人があれを知っている筈がありません。言わされているだけでしょうね」
───特異現象捜査部、トリニティ支部部長兼ティーパーティーホスト 桐藤ナギサ
「…なんでこいつがいるんだよ」
「今回は騒動の大きさが大きさだけに色んな所に応援を出したっすからね。たまたま近くを通りがかってたナギサさんが駆けつけてくれたっす」
「よろしくお願いします。それにしても、随分大きくなりましたね、レンゲさん」
「チッ…」
外面は優雅で清楚なお嬢様然としたナギサの態度に、レンゲは気に食わなそうに舌打ちをする。
何か因縁でもあるのか、だとしてもこんな時ぐらいは仲良くして欲しいと胃を痛めるイチカだったが、そこはナギサが気を遣った話を進めた。
「結界は壊せないのですか?」
「それは難航してるっす。なんせ結界事態は私達を両側から拒絶してないっすから、私達から行う干渉はすり抜けちゃうっす。力技ではどうにもならないっすね、あれは。結界を下ろしてるアウトローを探してとっちめた方が早そうっす」
「じゃあアタシ達はその手伝いだな」
「あ、いえ!皆さんはまだここで待機っす!」
「ん?」
別チーム、ペロロを引率するのはメッシュの入った青い髪をツインテールにした小柄な少女。
「高度な結界術に小鳥遊ホシノを指名したこと…十中八九交流会を襲撃したのと同じ連中だろうね。上は被害を最小限に抑える為に小鳥遊ホシノ単独でのミレニアムの平定を決定したってわけ」
───特異現象捜査部、監督官 合歓垣フブキ
フブキの話に、明らかに納得行かない様子でペロロは難色を示した。
「私達とトリニティの部長さん、それにシュンさんかな。皆結界の外で待機だよ。小鳥遊ホシノのこぼれ球を拾うだけのお仕事。結界に入っちゃうと連絡も取れないしね」
「被害を最小限に、とは特異現象捜査部の生徒の話だろう?一般人の被害はお構い無しか」
「私に突っかからないでよ。去年の百物語の時と違ってもう事は起こっちゃってるんだから。私もこれが最善だと思うよ。それにさっき中見てきた感じアウトローや特異体が一般人を殺し回ってる訳でもないし。でも私はもう中に入るのは御免かな」
「…何故だ?」
「地下発電所の方かな?多分そこに特級区分のアウトローがごろごろいるね」
結界から出られない生徒達はパニックになっており、それが伝搬して至る所で喧嘩や言い争いが起きていた。
そんな時に結界の中へ足を踏み入れる者が1人…
「うへ〜、これまた大騒動だね」
────20:31 小鳥遊ホシノ 現着
配役
直毘人…ナギサ
日下部…フブキ