ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ34話までの範囲でお送りします


昏乱

 

「…っ!?うわーん!なんかキモいのがくっついて来ました!」

 

ホシノがいるであろう駅に向かったと思われるムツキを追ってアリス達が徒歩で線路の上を進んでいた途中。

突如大声を上げたアリスにシュンとココナが振り向いた。

 

「どうしましたか?」

「いえ、それが耳に…!」

 

『聞こえるか?天童アリス』

 

アリスの耳にくっついたそれ…焦点の合わない目とだらしなか垂れた舌が描かれた小さな装置から声が響く。

 

『時間がない────あっ』

 

その装置から声が発された瞬間アリスはそれを掴み取って地面に投げつけ、カツーン!といい音が地下線路内に反響した。

そして地面に転がった装置を踏み潰そうとアリスが足を上げると、装置から聞こえる声がそれを必死に止める。

 

『待て待て味方だ!百鬼夜行支部のメカペロロだ!』

「メカペロロさん…?」

 

小さな装置…メカペロロの制止によりアリスが足を止めるのを確認すると、安堵した声で改めてメカペロロは告げた。

 

『1度で聞き分けろ───小鳥遊ホシノが封印された』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみ、小鳥遊ホシノ。新しい世界でまた会おう」

 

神名結晶に全身が飲み込まれかけているホシノに背を向けるユメ…の身体を操っている謎の女。

首元まで神名結晶の光に取り込まれ一切の抵抗が出来ない状況にあったホシノだったが…完全に飲み込まれる直前にその後ろ姿を呼び止めた。

 

「私はね。あなたはさっさと起きてくださいよ。いつまで良いようにされてるんですか…ユメ先輩」

「ん…?ぐっ…!?」

 

ホシノの不可解な言葉に振り向いた女は…次の瞬間女の意志を無視して動いたかのようにその右手が自身の首を掴み締め上げた。

余程強い力で締められてるのか、女は口の端から唾液を垂らし、手と首の間に無事な左手の指を挟み込むことで落とされるのに抵抗している。

 

「ぐ、ふ…ふふふっ、あははは!凄いなあ、初めてだよこんなの!」

 

 

「う、んん…あれ、ユメ?」

「ムツキ、見てよこれ!」

 

ホシノの神秘解放による『アイ・オブ・ホルス』の領域の影響下に晒されその後遺症によって動きを止めていたムツキ達が、時間の経過によって身体の自由を取り戻し始めていた。

最初に正気に戻ったムツキに、首を絞められながらも女は楽しそうに声をかける。

 

「君はヘイローは肉体の先にあるって言ってたけど、やっぱり肉体はヘイローであって、ヘイローもまた肉体なんだよ。じゃないとこの状態にも脳を入れ替えた後に肉体の記憶が流れてくるのにも説明がつかないでしょ?」

「ユメってばなんか雰囲気変わった?…まあいっか。で、それって一貫してなきゃ駄目なことなの?私とユメの秘儀じゃ世界が違うんじゃない?」

「秘儀は世界、か。いいね、素敵だよ」

 

段々と首を絞める力が弱まってきたのか、逆にその右手を掴んで首から離させる。

右手はまだ自身の首を掴もうと震えているが、もう女による支配に抗えるだけの余力は無いようだ。

 

そんな様子を顔だけ光から出ている状態で眺めていたホシノは、面倒そうに談義を始めているユメ達を呼んだ。

 

「ねえ、ここから飲み込まれていかないんだけど。おじさん今多分たてがみが光るライオンみたいな状況になってると思うんだよね。締めが手動ならさっさとしてくれないかな?」

「おっと、ごめんね。こっちももうちょっと眺めていたいけど、万が一があっても困るし…閉門」

 

ユメの言葉を合図で神名結晶から溢れる光は遂に完全にホシノの全身を包み込み、その光を結晶の内側に吸収する。

質量を無視してその小さな結晶の中に人を封じた神名結晶をユメが拾い上げると、ムツキは興味深そうにそれを間近で観察した。

 

「これ、もう使えないの?」

「そうだね。定員1名、解放するか中の人が自死でもしない限りは使用不可だよ」

「なんだ、つまんないの…あ、皆起こさないと。アルちゃんは…私の秘儀で治せる範囲かな」

 

「はやく治してあげると良いよ。あのままだと失血死しちゃうだろうから。ま、何はともあれ───小鳥遊ホシノ、封印完了っと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホシノちゃんが封印された…?にわかには信じ難いですが…何を根拠にそれを?」

 

メカペロロだと名乗る小さな装置の話に、シュンは当然の疑問を呈した。

小鳥遊ホシノを知る者ほど、それがどれだけ眉唾ものだと疑ってかかるのは仕方の無いことだろう。

それを理解した上でメカペロロは断言した。

 

『悪いが何も無い。あえて言うならば私がここに居ることだ。私は既に10月19日にムツキというアウトローに殺されている。今の私は生前の私が残した保険に過ぎない。高度な保険だ』

「ムツキが…」

 

話に出てきた名前にまたもやアリスは表情を曇らせる。

またあいつは人の命を奪ったのか、と。

 

『この保険の発動条件は小鳥遊ホシノが封印された後に限定せざるを得なかった。その上不発のリスクを低減するためにもリソースを最小限にしなければならず、この傀儡も3体までしか忍ばせられていない』

「ですが…何故それをアリスに?」

『天童アリスが最もS.C.H.A.L.Eの中で内通者の可能性が低いと判断したからだ。それに春原シュン、この状況ではお前もシロだとな』

「おや、それは何故でしょう?」

『索敵に長けるお前をこんな場所で遊ばせる必要が無いからな。天童アリスに関してはそもそも数ヶ月前まで特異現象に接点すらなかった』

 

メカペロロの推察になるほど、と頷くシュン。

 

「ですが、体よく協力を拒もうとしているからかもしれませんよ?それに待機命令が出ていたとはいえ直ぐにセミナー本部駅に向かおうとしていたアリスちゃんを止めていたのは私ですし」

「もう、シュン姉さんってば意地悪なんですから」

 

『…ならば何故お前を始末する為に特異体がここへ向かっている?』

「!」

「あら…1、2…2人でしょうか。アリスちゃん、貴女が先程戦った特異体とあちらから来る特異体、どちらの方が強いと思いますか?」

「た、多分さっきの特異体より強いと思います」

 

アリス達が進んでいた線路の奥から近付いてくる気配に一同が臨戦態勢を取る。

まだ距離は離れているが、シュンはアリスが戦ったという特異体は人語を扱えていたという話からその特異体の力が準1級相当だと仮定。

それより上となると…そんな連中が揃って異変を起こしている事に不気味さを抱く。

 

(今の今までどこに潜んでいたのか…)

「近付いてきている特異体は無視して進みましょう。まずはホシノちゃんの安否確認が先です」

『駄目だ。もうミレニアムの状況は大きく変わっている。相手の結界術は数段上手、今セミナー本部駅周辺には4つの結界が降りている』

 

メカペロロの話によると、セミナー本部駅を覆う4つの結界。

1つ目が一般人を閉じ込める結界。

2つ目が小鳥遊ホシノを閉じ込める結界。

3つ目が特異現象捜査部の者を入れない結界。

そして4つ目が1つ目同様一般人を閉じ込める結界だと言う。

 

アリス達が進んでいる線路の先は3つ目の結界で塞がれており通ることが出来ず、最初に発見された結界に突入する準備をして付近で待機していた者達もそれに巻き込まれて閉じ込められている。

また結界の内側ではその電波を遮断する性質により端末による連絡も行えない状況。

事態は、既に手のひらの上にあった。

 

『頼む、私の指示を聞いてくれ。この保険もそう長くは持たない。頼む…』

「…シュンさん」

「…分かりました。言ってみてください」

『よし、アリスは地上に戻りセミナー本部駅に向かってくれ。小鳥遊ホシノが封印されたことを現地に来ている特異現象捜査部の者に通達、小鳥遊ホシノの奪還をこちらの共通目的に据えろ。春原シュンはアリスが抜ける隙を作ってくれ。特異体を撃退後はここを抑え、臨機応変な対応を頼みたい』

「はい!」

「分かりました」

「あの!私は!?」

『好きにしろ』

「ではシュン姉さんと!」

 

迷わずシュンに抱きつくココナにアリスはジトっとした目で睨むが、諦めてため息を吐くとレールガンを構えて線路の先から姿を現した特異体へと向ける。

 

薄暗い地下線路の先からやってきたのは、複数の武装を搭載した4足の多脚戦車のような特異体。

見た目はどう見てもロボットのようだが、その内側からは強力な神秘が溢れている。

 

「あ、あれも特異体なんですか!?」

「神名特異体に区分されるものですね。その区分の特徴としてはあのように機械的な外見と武装を持っていることです。それでは…好きに動いていいですよ、私が合わせますから」

「…はい!」

 

アラートのようなけたたましい音を鳴り響かせる特異体に、アリスはレールガンをチャージし、シュンはココナから持たせていた銃を受け取り、銃を渡したココナは少し後ろに下がって2人を応援する。

特異体もまた小型のミサイルポッドとガトリング砲を展開すると、アリス達へと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノを完全に封印した後。

偽ユメ達はホシノの神秘解放により身体の自由を奪われていたアルとモモイを起こし、アルは戦闘中に失った左腕をムツキの秘儀によって再生させて貰っていた。

 

ミチミチと不快感を煽る音と共に切断面の肉が蠢き、元の腕の形を形成していく。

 

「う、ぐっ…これ、治す時もしっかり痛いわね…」

「無理矢理身体の形を変えてるからね〜、辛かったら言ってよ?私もこういうのはあまり慣れてないから」

 

「…なんだ、終わったんだ」

「やあモモイちゃん、そっちも終わったらこの後の話を────なっ!?」

 

ムツキ達を呼び今後の計画についての話を進めようとした偽ユメだったが…その時、持っていたホシノを封印する神名結晶が突如として質量を増し、持っておくことが出来ずに地面に落ちる。

地面に落ちた神名結晶はその質量故にタイルで舗装されたホームの地面に大きなヒビと共にめり込み、その場から一切動かせなくなってしまう。

 

その異常な現象を引き起こしたのが他でもなく神名結晶の内側に封じられた小鳥遊ホシノだと気付いた一同は、その事実に驚嘆する。

 

「小鳥遊ホシノ…本当に規格外だね…!」

 

 

 

 

 

神名結晶内、周囲が紫色の宝石のようなもので覆われた狭い空間で、身体を縮こまらせながらホシノはボヤく。

 

「物理的な時間は流れてないっぽいね…マズったなぁ、色々とやばいよね〜…でも、まあ何とかなるか」

 

封印に押し込められ、暗く狭い孤独な空間…そんな中でも、ホシノは冷静に事態の対処に当たっているだろう後輩達の事を想う。

 

 

 

「期待してるよ、皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────21:22分、セミナー本部駅

 

待機場所を覆うほどに広大な範囲で降ろされた結界に閉じ込められた特異現象捜査部の者達は、各々で状況把握に当たっていた。

 

駅に閉じ込められた分を差し引いても低い結界内の人口密度。

改造され建物内に待機していたのであろう生徒達が今になって一般人を襲い始めたこと。

後手に回り過ぎた以上、待機する訳にはいかず突入を決めたこと。

 

ユウカ、セリカ、ヒナのチームは一足先にミレニアム本部駅を目指して移動を開始していた。

 

「恥じるのは止めないけど、仕方のなかった事だと割り切りなさい。ただ気がかりなのは…」

「同…」

「同時に降りた特異現象捜査部の者を入れない結界ね。ホシノ先輩が現着してからそこそこ時間が経ってるのに、何故このタイミングなのかしら」

 

ユウカへの応答で先輩としての威厳を見せつけようとしたセリカだったが、それを遮ってヒナが答えてしまった為大人しく話を譲る。

ヒナの答えにユウカは頷くと、空を見上げて結界を確認した。

 

「中で何かあったのか、それとも戦略上このタイミングである必要があったのか…どちらにせよ、確実に言えるのは無策で来るような相手じゃ無いってことよ。私は結界を降ろしてる敵を、貴女達2人は一般人を見つけ次第保護しなさい」

 

 

そしてユウカ達が一般人を閉じ込めている結界に突入したのと同刻に、ナギサ、カズサ、レンゲのチームとフブキ、ペロロのチームも突入を開始する。

 

 

 

一方その頃、アヤネは結界の外で各所への連絡を行っていた。

 

「はい、状況を確認次第イチカさんはもう一度結界の外に。中で電波が絶たれる以上、誰かが外にいないと行けませんから」

 

 

 

「ふんふんふ〜ん…にはっ!」

 

そしてそんなアヤネを見つけ、近付いてくる人影。

それに気付かずアヤネは連絡を続ける。

 

「あなたにはその役をお願いします。今から監督オペレーターだけでなんとしてでも連絡網を確立します。非番の方も動員して───」

 

 

 

「───えいっ!」

 

「…え…?」

 

連絡していたアヤネの背後から、可愛げのある声と共に銃弾がアヤネのお腹を貫通した。

それに気付いた途端熱を持った痛みに襲われ蹲るアヤネに、不意打ちを行った少女はさらに3発銃弾を撃ち込むと、自分の背後で控えていた存在に目を向ける。

 

「にははっ、やっぱり私には弱いものいじめが向いてますね!これでいいんですよね?」

 

「…ああ、あなたはこのまま結界の外で連絡を行っている者を狩り続けてくれ」

 

少女に指示を行った人物…司祭のような装束に不気味な仮面のようなものを被った奇怪な者。

その司祭姿の者から役割を与えられた少女は意気揚々とスキップしながら狩りの対象を探して回る。

 

その後ろ姿見て、司祭姿の者は仮面の内でほくそ笑んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これどうなってるの〜?』

『小鳥遊ホシノの封印は完了してるけど…神名結晶が小鳥遊ホシノという情報を解析しきれてないんだろうね。もう暫くは動かせそうにないや』

『そっか〜…あ』

 

何かに気が付いたムツキは咄嗟に近くに落ちていた誰かの銃を拾うと自分達を見ていた監視カメラを破壊する。

映像が途切れる直前、同じようにそれに気付いた偽ユメは舌打ちをしていた。

 

 

 

あの後真っ先にアリスがレールガンを放ち、特異体が怯んだ所にシュンが攻撃を差し込んだ事で隙が生じた間に一気にその場を離脱したアリスは、来た道を戻って地上まで駆け上がり、そしてセミナー本部駅を目指して全速力で駆けていた。

 

そこに、監視カメラを通して偽ユメ達の様子を探っていたメカペロロが報告を入れる。

 

『朗報だ、アリス』

「なんでしょうか?」

『奴ら、封印した小鳥遊ホシノを地下5階から動かせて居ないらしい』

「それは、何故ですか?」

『小鳥遊ホシノだからだ』

「なるほど!」

 

何の根拠もない断定に、疑うことも無くアリスは納得する。

移動中その後もメカペロロからの指示が入り、セミナー本部駅に通じる4つの線路から人を向かわせて包囲網を作るという話になった。

が、結界の影響で端末による連絡が行えずそれを他の者にどう伝えるか頭を悩ませていたが…突入前、シュンから今回の作戦に当たっている者達の話を思い出したアリスは、4つの結界の最も外側…2枚目の一般人を閉じ込めている結界に突入すると、周囲の建物を見回して適当なビルに目をつけた。

 

そこに向かおうとしたアリスだったが…少し進むと、街の至る所にいる改造された生徒が結界内の生き残りの生徒へ手当り次第に襲いかかっているのを目撃した。

 

次の瞬間には考えるまでもなくアリスの身体は動き出し、今にも生徒を手にかけようとしている改造生徒をレールガンで撃ち抜き、その他の改造生徒も順次殲滅していく。

中でも一際巨大な改造生徒の身体を駆け上ったアリスはその頭のてっぺんまで行くと真下…改造生徒の脳天に向かってレールガンを放って仕留めるのと同時に、その反動でぶっ飛んだ勢いを利用して目をつけていたビルの上に着地する。

 

一帯を見渡せる高所、位置的にも満遍なく()()であろう絶妙な立地。

アリスは息を大きく吸って腹筋に力を込めると───

 

 

 

 

「───ユウカぁぁ!ユウカはいますかぁぁ!」

 

 

 

 

 

大声での伝達という酷くアナログな連絡方法。

それは確かに離れた場所で行動していたユウカ達の耳にも届いていたが…同時にユウカは肩を震わせて額に青筋を浮かべていた。

 

「あれは、アリス…?」

「先輩を…先輩を付けなさいよアリスちゃん…!」

 

 

 

 

「ホシノ先輩が、封印されましたぁ〜!」

 

 

 

「封印…!?」

「…予定変更、アリスちゃんと合流するわ。それが本当なら、キヴォトスは終わりよ」

「「!」」

 

いつもより険しいユウカの表情に、そしてアリスから齎された事実がどれだけの影響を与えうるか理解できるが故に、ヒナとセリカは息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてセミナー本部駅地下5階、未だ神名結晶に封印したホシノを動かせずにいた偽ユメ達も彼女達が押しかけてくるであろう事を察していた。

 

「いや〜、バレちゃったら仕方ないね。その内特異現象捜査部の連中が総力を上げてここに来るよ。私はここに残るけど、皆はどうする?」

 

ユメからの問に、これまで口数の少なかったモモイが真っ先に口を開いた。

 

「私は妹とユズの仇を…天童アリスと杏山カズサを殺してくる」

「カズサとやらは知らないけど天童アリスは駄目よ。Keyにするんだから」

「関係ないでしょ」

「はぁ!?」

「も〜、アルちゃんもモモイちゃんも落ち着いて!」

 

天童アリスの扱いに揉めるアルとモモイを、割って入ったムツキが仲裁する。

双方から睨まれたムツキは顎に手を当てて考える素振りを見せると、あっけらかんと言った。

 

「…やっぱり私も天童アリスは殺したいかな〜」

「なっ、ムツキ!?」

「小鳥遊ホシノの実物を見た感じさ、小鳥遊ホシノを封印した今私達と特異現象捜査部の奴らの戦力はイーブン。Keyが復活したらほぼ勝ち確ってことでしょ?」

「まあ…そうでしょうね」

「じゃあさ、今の戦力でも勝てる時は勝てるってことじゃん。天童アリス殺しちゃお?Keyなんかいなくたって大丈夫、私達なら勝てるよ」

「…本気なの?」

「本気って書いて大マジだよ」

「…」

 

飄々と言うムツキにアルは考え込む。

アル達の目的は、秩序に囚われず生きたいように生きることが出来るキヴォトス。

ルールを守るという理性を打ち壊し、人が本能のままに”自由”に生きることができる世界。

それを実現出来るのならば、例え自分達が全滅しても良いとすら考えている。

例え100年後に真に自由な世界が実現したとして、そこに立っているのは自分達でなくても良いと。

 

「…Keyは私達の味方じゃないわ。復活することで私達が負うリスクの方が大きいのかもしれない。でもKeyが復活すれば、必ず秩序は崩壊する。私達はあいつらとは違って、死すら恐れずに裏表のない道を進む。それがアウトローの真髄ってものじゃないかしら?」

「アルちゃん…」

 

自分の理想を語るアルに、ムツキはしんみりと視線を落とし…そして吹き出して笑った。

 

「ぷっ、違うでしょ〜?」

「えぇ!?」

「軸がぶれたとしても一貫性がなかったとしても、欲求のままに行動するのが私達アウトローでしょ?もっと楽しもうよ、アルちゃんも。あ、違うって言ったのはアウトローの在り方であって、復活案自体はアリだと思ってるよ。アルちゃんと争う気なんてないし。だからさ…ゲームしようよ」

「ゲームですって?」

「うん!私が先に天童アリスとエンカウントしたらあいつを殺す。アルちゃんが先なら機器部品(モジュール)を差し出してKeyに力を戻せばいい」

 

「…私が先なら私が殺しても良いよね?」

「ちょっ、待ちなさいよ!?」

「お、モモイちゃんもやる?勿論良いよ〜」

 

トントン拍子に勝手に話を進めるムツキ達を止めようとするアルだったが、それを無視してムツキは偽ユメにも参加するかどうかを聞く。

 

「あ、私はいいよ。神名結晶を見てなきゃだしね。私にとってKeyは神名結晶が失敗した時の代替案に過ぎないし。好きにしなよ」

「あんたまで何を…!大体天童アリスも含めて特異現象捜査部の奴らは小鳥遊ホシノを助けにここに来るんでしょう!?だったらここで待てば良いじゃない!ゲームにならない───」

 

 

「用意ドーン!」

「フンッ」

「あっ!待ちなさ〜い!?」

 

先に地上に向かって行ったムツキとモモイ。

Keyを復活させたいアルは仕方なく、2人を追って上へと登った。

 

1人残された偽ユメはその様子を見て苦笑し…未だホシノの神秘解放に巻き込まれて立ったまま意識を失っている生徒達の合間から姿を現した2人の少女…キララとエリカの方を見やった。

 

「あの子達の方が君達より利口だね」

「…返して。私達はアンタに協力してあげたんだから」

「約束通りユメっちの身体を返して。これ以上、ユメっちの身体を…」

「弄ばないで」

 

「…返すわけないじゃん。君達の頭までからっぽにしたつもりはないんだけどね〜。次大人と約束する時は契約であることを明確にするんだね」

 

射殺すようなキララとエリカの視線も涼しい顔で受け流し、逆に煽り返す偽ユメ。

2人は自分達ではどうにも出来ないことを理解しているからこそ殺意を宥め、今は矛を収めて人混みの奥に姿を消す。

 

去り際に、恨み言を吐き捨てて。

 

「後悔させてやる…!」

 

 

 

「後悔、ね〜…さて、どんな味だったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウ〜カ〜!太もも先輩〜!体重100kg〜!」

 

ユウカ達と連絡を取る為にビルの上で叫び続けるアリス。

しかし段々と面白くなってきたのか呼び方がふざけ始めた頃…アリスの声を辿って背後まで来ていたヒナが、アリスの頭を叩いた。

 

「なにやってんのよ」

「痛っ!?ヒナ!?ユウカ!?誰ですか!?」

「黒見セリカよ…一応アンタの先輩だからね!」

「取り敢えずアリスちゃん、事が終わったらちょっと話があるわよ」

「ひぃ!?」

 

むしろ何故調子に乗ったのかとヒナとユウカは呆れるが、状況が状況なので説教は後回しに、アリスにくっついていたメカペロロを通してことのあらましを説明する。

 

「ユメ先輩が…!?」

『正確にはその裏にいる何者かだ。今のミレニアムはまさに伏魔殿、特級とそいつらが連れてきた特異体、ユメの息がかかったアウトロー、そして改造された生徒と一般人があちこちにいて混沌と化している』

「確かにそれなら地下鉄の隣駅から攻めた方が手っ取り早いわね。でもその為にはまず結界を解かなきゃ、でしょ?」

『その通り、緊急事態だからマルチタスクで頼む』

「四の五のは言ってられないって事ね…1級の資格を持つ生徒でしか通らない要請があるわ。私は1度外に出てアヤネちゃんとそれを全部済ませてくるから、3人はその間に特異現象捜査部の生徒を入れない結界を何とかして欲しいわ。セリカちゃん」

「…!な、何よ?」

「フブキちゃんやナギサもこの結界内にいるはずよ。合流出来たら状況を説明して協力を仰いで。さっきのアリスちゃんの大声で伝わってるかもしれないけど…それから、2人を頼んだわ」

「…ええ!まっかせなさい!」

 

ユウカに頼られた事が嬉しく、セリカは元気に答えて尻尾を揺らす。

セリカを信じてユウカがビルを降り結界の外に向かったのを見送ると、セリカはアリスとヒナの方を振り向いて指を二本立てた。

 

「良いかしら!あんた達!先輩の私が授業してあげるわ!題して『小鳥遊ホシノがいなくなった時に困る2つのこと』!1つはホシノ先輩のワガママで庇護されてるワケありな生徒が連邦生徒会から守られなくなること。主にアリスが当てはまるわね」

「うわーん!つまりアリスは死刑になるということですね!」

「なんでちょっと余裕あるのよ。とにかく!そんな連中が一斉に消されるかもしれないの!そして2つ目がパワーバランスの崩壊、小鳥遊ホシノがいるというだけで大人しくしてたアウトローや特異体が一斉に動き出すわ。1つ目で内輪揉めしてる時に2つ目の奴らと戦争でも起これば、まず間違いなく負けるわよ」

「負けたら…どうなりますか?」

「秩序やルールなんて何も無い、弱肉強食の地獄になるでしょうね。さあ、止めに行くわよ後輩達!ユウカ先輩が戻る前に結界をぶっ壊すわ!」

 

「ええ」

「はい…!ホシノ先輩を助けましょう!」

 

特異現象捜査部の生徒が、アウトローが、特異体が…ミレニアムに集う様々な者達の思惑が交差する。

 

 

 

これはまだキヴォトスを揺るがす大騒動…その序章に過ぎないのだ。

 

 

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